何を以てスタンド攻撃を受けているか、それを定義するのは非常に難しい問題だ。
なぜならスタンドという概念上での戦いはいかに互いの能力を明かさないかが大きな要素を占めている。そういう理由で『既に襲われていた』『気づいたらスタンド攻撃を受けていた』という状況になることも少なくはない。

では幾度なくスタンド使いによる襲撃を退けてきた男はこの問題に対してなんと答えるだろうか。男、J・P・ポルナレフはなんと答えるだろうか。
ポルナレフの場合、答えは『勘』だった。
目に見える危険、耳から入ってくる危険。そんなものは信頼できない。視覚、聴覚を操るスタンド使いがいることも想定できるのだから。
『殺気』『第六感』『嗅覚』エトセトラ………それらを研ぎ澄ませ『何かおかしい』と感じることこそスタンド使い同士の戦いにおいて重要なことだった。
そして今ポルナレフはその匂いを嗅ぎとった。
何か来る、そう感じとった。

十数年苦楽を共にした相棒、シルバー・チャリオッツを傍らに呼び出すとどこから襲われても反応できるよう背中合わせの形をとり神経を研ぎ澄ませる。
最初に異変として感じとったのは振動だった。そして同時に音をとらえる。リズムよく、一定の間隔をあけ、ダンッ、ダンッ、と力強く何かを叩くような音。
そして次第にその音は大きく、速くなっていく。ポルナレフは集中力を高め音源を探る。敵は、襲撃者はどこからやってくるのか。既にスタンド能力に陥ってしまっているのか。
迫り来る存在の圧迫感(プレッシャー)は圧倒的だった。ただ近づいてくるだけじゃない。そんな確信がポルナレフの中にあった。
そしてポルナレフは気づく。音が一段と大きくなった時、一段と近づいた時、その音の正体と迫り来る存在の位置が―――

「上かッ!シルバー・チャリオッツッ!」

瞬間ポルナレフは影に覆われる。太陽光を遮ったのはニメートルを超える大男。ポルナレフが耳にしていたのは豹がジャングルを飛び回るように男が住宅街の屋根を駆け巡っていた音だった。

「クソ、浅いかッ!もう一度だ、シルバー・チャリオッツッ!」

全てを呑み込むような殺気を隠そうともしない男への攻撃に躊躇いはなかった。
空中で体をひねり、僅かに表面を掠めるだけに終わった初撃。本来なら当たるはずだった一撃がその程度に終わったのはひとえに男の異常といえる身体能力。
それはポルナレフに隙を見せたら殺られる、そう思わせるに値するほどだった。
超スピードで屋根を飛び回りいきなりの一撃。にも関わらず男は地面に激突することなく、ヒラリと地面に降り立つ。
男は進行方向にポルナレフいることに気づいていた。しかしだから何なのだ。わざわざ避ける理由は見当たらなかった。

「FUM………」

思ったより鋭い一撃だったなと男、エシディシは軽くひっかき傷のついた左肩に手をやり傷口を観察する。目の前には依然戦闘体制のポルナレフがいる。しかし興味はもはや自分の体に移っている。
相手の攻撃が斬撃であることも関係してか、少し開いたかりそめの皮膚。そこから入り込んでくる僅かな太陽光が自分の体を焼き焦がしていくように感じる。
やはり相性がいいといってもスタンドを自由自在に扱うには時間が必要なようだ。

「となると………」

とエシディシは呟く。そして目線をポルナレフへ向ける。
いい構えだ。隙がなく長年の鍛練が感じられる。戦士という言葉が相応しい。面構えも悪くない。
左手を顎にあてじっくり見定めるとエシディシは考える。

俺は必ずや全ての頂点に立たなければならん。だがここでこの男と戦って負けるはずはないにせよ苦戦とダメージは必須ッ!
当然逃走なんぞという腰抜けのような選択もできん。となると………

いくら待っても目の前の男は動かなかった。それでもポルナレフは踏み込まない。自ら間合いを詰めようとしない。
隙がなかった。ただ突っ立てるように見えて目の前の男は余裕はあるにせよ慢心や油断は一切してなかったから。

二人の視線がかち合う。少しの間二人はそうして見つめあい、そしてポルナレフが見つめる中、男はニヤリと笑った。
膝に軽く力を入れフワリと飛び上がる。それだけで二階建ての家の屋根に到達する。超人的な筋力だ。ポルナレフは目の前の光景に思わず唖然とする。

「俺はこれから南下しながら目についた参加者を全て殺して回る」

視線はすでに南に向いている。軽く体を伸ばしながらエシディシは独り言かのようにポツリと話す。

「止めれるものなら止めてみろ、人間…いや、戦士よ」

そうしてポルナレフの返事も聞かずに再び屋根から屋根へと走り出した。段々と遠ざかっていく男の背中を見つめポルナレフは緊張をとき脱力した。
その口から思わず言葉が漏れる。

「アイツは…アレは一体何なんだ………?」

答えてくれる人は誰もいなかった。ただポルナレフの『勘』は叫んでいた。
目の前にいた『モノ』は紛れもないモンスターであることを。




【E-4とE-5の境目/1日目 午後】
【J・P・ポルナレフ】
[スタンド]:『シルバー・チャリオッツ』
[時間軸]:3部終了後
[状態]:右手負傷(軽症)、鼻にダメージ(中)
[装備]:無し
[道具]:不明支給品0~2(戦闘や人探しには役に立たない)、携帯電話
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いに乗ってない奴を守り、自分の正義を貫く
0.なんだったんだ、あいつ…
1.仲間を集める
2.死んだはずの仲間達に疑問
3.J・ガイルを殺す
[備考]
※この先何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※アヴドゥル、トニオの遺体は埋葬されました。








焦燥を心の中に納め、クールな表情を保つ。言葉にすればわけないんですがこれがなかなか難しい。
まぁそうはいってもギャングにとってこれは死活問題。ビビったり少しでも隙を見せようもんなら問答無用で鉄パイプやら鉛玉をぶちこまれる世界にいれば多少は慣れますよ。特に自分のスタンドは身を守ることに関しては一切無力ですからね。

特別懲罰房へ向かう途中、私は思いきってティムに提案してみた。
アナスイと合流してから特別懲罰房へ向かってはどうだろうか。これといって待ち人がいないならば戦力を分散するのは賢い選択肢とは思えない、と。

しかしこれは逆効果だった。なにせよ聞いた直後に行動しなかったのが手痛いミス。
ティムからしたら唐突に思えたのでしょう。何故このタイミングで、と不思議に思われても仕方ない。ティムからアナスイの居場所を聞いた直後にいうならまだしも私の中でじっくり吟味してしまったのが間違いだった。
まるで何かを企んでるような、実際それに近いことは間違いないのですが、印象を与えてしまったようだ。
ティムは先の宣言通り私を信頼することなく加えて間の悪い私のこの提案に何かを嗅きとったのでしょう。
私に向かって俺はアナスイを信じたい、と事実上の拒否を示したうえに、それ以来やけにペースを遅くしたように感じます。

やれやれ…提案を却下された以上私としてはさっさと特別懲罰房につきなんとか抜け出しいち早くアナスイと合流したいところなのですが…流石現役保安官ですね。
今さらグダグダと愚痴を述べても仕方がないのですがやはり後悔はある。
ティムにアナスイとの合流をすぐに提案すればよかったのでしょうか。ティムとヴェルサスと別れてでもアナスイを追うべきだったんでしょうか。
この際結果論でしか語ることはできませんね…。前を行くティムの背中を眺めると思わずため息が出た。
いっそのこと素直に打ち明けたほうがいいだろうか?いやいや、信頼は崩れるは易し、築くは難し。尤も既に信頼なんてないに等しいんですが…いやはやこれは本当に困った。

「どうしましょうか…ヴェルサス」

私はなんともなしに傍らにいる相棒に聞いてみた。勿論事情は話してない。だが一人でグチグチ考えるよりは誰かとの会話の中でヒントが掴めるかもしれない。そう思って口にしてみたまでだった。

「………?…ヴェルサス?」

だからこれは予想外。少し後ろを歩いていたはずのヴェルサスがどこにもいない。周りを見渡すも影一つ見つからない。
いつの間にかはぐれてしまったのか、とにかくこれは一大事だ。もしかしたら自覚もなくスタンド攻撃に陥れられたのかもしれない。

「ティムッ!」

私の声が切羽詰まっていたのもあったのだろう。ティムはすぐに振り返り私の顔を見てから、足早にこちらに向かってくる。
事態は思ったより深刻なのかもしれない。そもそもヴェルサスが消えた理由が皆目つかない。スタンド攻撃から逃げたのか?どこかに連れ込まれたのか?それとも…もう始末されてしまったのか?
とにかくティムに話してみなければ。そう考えた時だった。

パカァン、とやけに小気味いい音とともに私の目の前でマンホールが空高く吹き飛ぶ。ティムがもしあと一歩でも踏み込んでいたらマンホールごと吹き飛ばされていただろう。
鼻先を掠めたマンホールがティムのカウボーイハットを弾き飛ばす。見とれるように二人の目線が二つを追う。
青空をバックに鉄のマンホールがクルクル回転し、帽子は風に乗りフワフワと浮かびあがる。私は馬鹿見たいに暢気に、ああ綺麗だな、なんて思ったのを今でも覚えてる。
視界の先の太陽の中に影を感じた。何かがマンホールの穴からものすごいスピードで飛び上がったようだ。なんだろうか、動物にしては大きすぎる。
マンホールと帽子が最高地点に到達し、そこから引力にしたがって落ちてくる。入れ替わりにそれは、その男はグングン上昇していく。
ニメートルを超す大男だった。鼻にピアスをつけ太古の民族衣装のような格好に肩当てをつけている。不思議と野蛮な印象はなく王のような、何かの上に立つような高貴さを醸し出していた。
そしてその右手に『右腕』を握っている。『右腕』………?

視界の端でグラリと倒れ込むティムが見えた。現実感がわかない。あまりに唐突に出来事が起きている。それでも私は自分が何をすべきかはわかった。
その後のことはあまり覚えていない。ただ私は逃げた。後ろでドサリと何かが倒れる音を耳にしながらも私は振り返らずに逃げた。
卑怯だとか臆病だとか正義感だとかそんなものを考えてる余裕はなかった。ただ生き物としての本能が逃げることだけをひっきりなしにかき鳴らしていた。
そんな中で私がわかったことはただ一つ。

『ヤツ』は『人』ではないってことだけだった。









フワリフワリと落ちてきたカウボーイハットを捕まえる。
すぐ側ではマンホールが騒音とも言えるような音をたてながら暴れまわっていた。

「………フン」

プイッと興味をなくしたように目の前の『モノ』からエシディシは目線をそらした。つまらん、そう一言付け加えると手の中の帽子をもてあそぶ。
既にエシディシからしたらティムは人ではなくなっていた。反撃するわけでもなく、意思を見せつけるように睨むこともなく、イモムシのように地べたに這いつくばっている。そんなティムはもはや『死体』と同等。

太陽光を完全に、100%克服したわけではないと悟ったエシディシは、それならば、と地下に潜った。
骨格をバラバラに捻り、地下から参加者たちを狙うように方針を切り替えた。ついでに骨格をねしまげながらスタンドを操る練習もできるし、常にスタンドを出現させなくてよいのも好都合だった。

荒木の手解きか、はたまた柱の男の体質なのか、イエロー・テンバランスを操作しはじめてからエシディシは少しずつ疲労がたまっていくのを感じた。
本来柱の男はそれこそ人間離れした強靭な体力をもった人種だ。だというのに疲労がたまっていくというのもおかしな話。ならばその理由は一つ。
『柱の男』がスタンドを操るのに『この場』では大量の体力を必要とする。
エシディシはそう考えた。
そういうわけで地下に潜ったエシディシ。だがその最中でも獲物を狙うことは忘れない。地下配管からの温度差で地上にいるティムたちを捕捉、そして今に至る。

横たわる男の胸を踏みつける。呻き声にも関わらず体重をどんどんかけていく。足の裏の下でポキッと音が何回かした。どうやら肋骨が何本か折れたようだ。だがエシディシはさらに体重をかけていく。

「…下らない。時間の無駄だな」

唐突に振り替えるとティムの体の上から足を退ける。痛みと屈辱を与えてもティムは何の変化も見せなかった。そのことにエシディシは若干ながらも落胆した。
エシディシはこんなものが見たかった訳ではない。即死させようと思えば簡単にできた。だがあえてしなかった。

エシディシはプッチの言葉を思い出していた。
『スタンドは精神力』…ならばこのイエローテンバランスを自分の精神に馴染ませねばならない。
しかしどうやって?

「貧弱な人間はどうやって生き延びてきたのか?どうやってその数を増やし栄えてきたのか?」

地下から伺った時熱源は3つ。その内一つは追跡しはじめて間もなく逃げ出した。
二つのうち一つはたった今、右腕をもぎ取り肋骨を何本かおった。もう助かりはしないだろう。
部は悪いが最後の一人に賭けてみよう。

「スタンドとは何だ?それは人間の進化の過程で生まれた新たな力なのか?」

そこまで考えてエシディシは無意識の内に笑っていた。
屋根から屋根へ飛び回り、いるはずのもう一人を探しだそうと縦横無尽に駆け回る。

「スタンドは精神力。ならば精神力とは?それはすなわち『生きたい』という意志ッ!死にたくない、そう思った時の力は凄まじい!
そう!ジョセフ・ジョースターがかの大陸で我々一族のひとりを倒したように!ディオ・ブランドーが僅かながらもスタンドを出したように!」

エシディシは期待していたのだ。追いつめられた人間が進化をするところをこの目で見たかったのだ。
慢心でも余裕でもなく、エシディシは今の自分を倒すのに並大抵のものではかなわないと見ていた。実際そうだろう。

波紋がなければ触れることもかなわない肉体。波紋を込めた一撃も今はスタンドの鎧に阻まれる。
超人的な体力。圧倒的な暴力。絶望的ともいえる回復力。
贔屓目に見ても冷静に見てもエシディシはまさに究極の生命体一歩手前。そんな自分を追いつめるような、進化させるような存在はこの世に居ないように思えた。

だから人間を追いつめる。スタンドの本来の持ち主、人間を追いつめ進化させる。その過程で自らの進化のヒントをつかむ。
エシディシの目的はまさにそれだった。
先ほどのポルナレフとの遭遇にしてもそう。ポルナレフに対しての宣言は『進化』の可能性を見極めるためだ。
圧倒的な力の差を見せつけられて尻尾を巻いて逃げるというなら『そこまで』の男。さっきの宣言は一種の試金石であり、また同時に『立ち向かってこい』というエシディシの挑発であった。


そうこうするうちに獲物を見つけた。元々脚力が違いすぎる。平面での追跡で人間が逃げ切れる道理はなかった。
獲物は民家と民家の間、ちょうど逃げ道もない路地で追い詰められた。両側にはコンクリートブロックの塀、道の幅はおよそニメートル程度。横道もなく前に進むか背中を見せて逃げるかの二つのみ。そして柱の男を前に逃走も闘争も無意味。

地響きを響かせエシディシは獲物の、男の目の前に着陸した。今から始まるのは戦いでもなく狩りでもない。
実験だ。それもとびっきり過激なやつだ。






これは…

「困ったことになりましたね…」

私の目の前には先程の怪物が陣取りこちらを養豚所にいる豚かのような目で眺めている。
自棄になって特攻するのも手の一つ、逃げ切れるはずがないとわかっていても少数点の可能性に賭けて走り出すのも手の一つ。だが私はどちらもしなかった。大男と私の間に流れる沈黙。お互い動くことなく膠着状態が続く。

「…何故逃げたさない?」

ほら、来た。思った通り。
こいつは殺そうと思えば私が瞬きする間もなく私を殺せる。素直に私の目の前に降り立つことなく奇襲の一撃。それだけで私はあの世へ一直線に向かえるでしょう。
だけどしなかった。奇襲もせずにわざわざ私の目の前に降り立った。
つまり私を『ただ』殺すだけでなく、『何か』目的を果たした後殺すつもりなのでしょう。
そう考えれば辻褄があう。

「逃げたって無駄でしょう。実際ティムが襲われてからずっと全力疾走した俺に貴方はたちまち追いついた」
「何故スタンドを出さない?何故抵抗しない?」
「俺のスタンドは戦闘に向いてないんですよ。それに抵抗するにも武器がない」

肩をすくめ私は返事をする。どことなく会話が噛み合わない気がしますが、まぁどうでもいいことです。私が死ぬ、その結果は変わらないんですから。

「ああ、あと付け加えさせて貰うと情報を聞き出そうってならやめたほうがいいですよ。どんな拷問でも吐かない自信はあるし、なによりどれだけ貴方が速かろうが私が舌を噛みきるほうが早い」
「………」

自分の命を人質とする。なんて馬鹿げてるんだ、笑えないジョークですよ、本当に。
私は死ぬのは怖くない。ギャングなんだからいつかは死ぬ。しかもとびっきりの痛みを伴って、必要以上の苦しみの中で死ぬ。そう覚悟してましたから。
それに実際一回死んでますしね。そう思うと何だか面白くて笑えてきた。

「気でもふれたか…お前は死ぬのが怖くないのか?」
「もうとっくに私の命は売却済みでしてね。それにギャングに『ブッ殺す』なんて脅しは通用しませんよ。気づいたら『ブッ殺されていた』なんて世界なんですから」

唯一の心残りは…ヴェルサスのことですかね。彼には恩がある。だけど『それ以上のもの』もある『かもしれない』。
それがわからないのが、ハッキリしないまま死ぬのが惜しい。
何故彼がいなかったのか。何故彼は見当たらなかったのか。私には心当たりがあった。

…死ぬのが怖くない、とはまた違うんでしょうね、この感覚は。でも確かにそうだ。私はまだ死にたくないらしい。
張り付けていた笑顔を消し去ると私は視線を真っ直ぐ男と合わせる。考え込むような表情の男はそれに気づき私をじっくり見つめてくる。少しの沈黙の後私は口を開いた
目の前の敵に、自分を殺す相手に意志を託すというのも不思議な気分ですが…仕方ない。

こいつが私を見逃してくれることはないでしょう。それになにより―――

「俺を殺す貴方に頼みたいことがある」

裏切者には死の鉄槌を。
もしもお前が裏切者ならば…許しはしない、ドナテロ・ヴェルサス
それが俺達ギャングの掟だ。






親指、OK、異常なし。ちぎれてもないしちゃんと曲がる。人指し指、くっついてる。痛みなし、つっぱりなし、普通に動く。中指、くすり指、小指…よし、大丈夫だ。
だが力が入らない。加えて呼吸がしにくい。息をするたび肺を締め付けられるような痛みに襲われる。当然だろうな…アバラを何本が持ってかれたからな…。それに何より―――

「…血が足りない」

言うことを聞かない体に鞭うって右腕に近づき『くっつけた』だけでもはや限界だった。さすがに道路の真ん中で寝転がってるわけにもいかないしな…ここまでか。
固い地面の上で寝るのには慣れてる。ただ何回経験してもこの『縫合』には慣れやしない。死ぬギリギリまで動けなかった今回なんて特例中の特例だ。二度と経験したくない。
ならばその元凶、荒れ狂うバイソンならぬ、台風のようなあの大男をお縄頂戴したいところだが………

「…無理だな、今の俺じゃ」

ティムは悪を許さない強い正義感の持ち主だ。だがだからと言って自分の実力をろくに考えない馬鹿ではないし、自分の状態を無視して感情で動くほど子供でもなかった。
小綺麗な民家のガレージに背を預け、乱れる呼吸を整えるように息を長く吐く。額には異常とも言えるほどの大量の汗。足元には道路中央から体を引きずった際にできた赤いライン。いつも被った自慢のカウボーイハットは胸の上。

「そういうわけでお前に依頼したい」
「…俺は見返りがなければ動かない」
「情報は渡した。ただ俺はそれをお前一人のものにしなければそれで満足だ。この俺をこのザマにした怪物とはお前も戦いたくはないはずだ」
「違いない」
「特別懲罰房へ向かってるんだろう…ついででいいさ。俺も遅れて行く」

顔をあげるのも疲れるのか、ティムは必死に引きずり込まれるような眠気と戦いながら言葉を吐く。
視線の先には見知った『脚』。いつも自分の先を駆けていく少し気に入らないライバルの脚だ。
何も言わない。ティムの荒れた呼吸だけが聞こえる。そうしてしばらくした後、ティムの視線の先から足が消えていった。それはあっという間だった。背中が見えたと思ったらいつの間にか見えなくなっていた。
だがティムにはどちらでもいいことだった。クルリと背中を向けた時点で、目の前の男が仕事をやってのけてくれるとわかった時点でティムは眠りに落ちていたのだから。
ティムはサンドマンをよく知らない。だが利益のためなら動く、そして約束は破らないだろうという不思議な信頼があった。
そんなティムの上を一羽の影が通り過ぎて行った。




【G-4とG-5の境界線 /1日目 午後】
マウンテン・ティム
[時間軸]:SBR9巻、ブラックモアに銃を突き付けられた瞬間
[状態]:左肩と腹部に巨大な裂傷痕(完治)。左足に切り傷(小、処置済み)、服に血の染み。全身ずぶ濡れ。右足が裸足。
    肋骨骨折、右肩切断(スタンドにより縫合)、極度の貧血、体力消耗(大)、気絶中
[装備]:物干しロープ、トランシーバー(スイッチOFF)、アナスイの右足(膝から下)
[道具]:支給品一式×2、オレっちのコート、ラング・ラングラーの不明支給品(0~3)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
0.気絶中
1.特別懲罰房へ向かう
2.特別懲罰房を拠点にしたい(そこでアナスイを待つ)
3.もしアナスイが再び殺人鬼になるようなら止める。生死を問わず
[備考]
第二回放送の内容はティッツァーノから聞きました。
※アナスイ、ティッツァーノと情報交換しました。アナスイの仲間の能力、容姿を把握しました。
 (空条徐倫エルメェス・コステロ、F.F、ウェザー・リポート、エンポリオ・アルニーニョ
  ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ、ジョルノ、チョコラータ
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。

※ティムはサンドマンにエシディシについて知りえる限りのすべてを伝えました。具体的には次の書き手さまにお任せします。







空をかける男。その背中に迫る白い姿。
白い姿が追い付きかける。だがたちまち男に引き離される。負けじとその翼を必死に羽ばたかせる。
民家を抜け、木を飛び越し、電線の上を通り抜ける。それなのに男には追い付けない。どれだけ飛んでも男の脚は止まらない。
それでも足にくくりつけられたメッセージを託すため彼は飛んだ。羽を撒き散らし必死に飛んだ。

男は翔んでいた。彼は飛んでいた。
男は託されていた。彼は託されていた。
違いは渡す相手だった。

特別懲罰房にたどり着いた男はスタンドを互いに出し、にらみ会う二人を見つけた。
戸惑いの表情を浮かべ、唇を噛み締める男。疲れきった表情を浮かべ、自棄になっている青年。
メッセンジャーは一人と一匹。先にメッセージを伝えるのは、ゴールを先に向かえるのはどっちだ?




【F-5 特別懲罰房/1日目 午後】
花京院典明
[時間軸]:ゲブ神に目を切られる直前
[状態]:精神消耗(大)、右肩に銃創(応急処置済み)、全身に切り傷、身体ダメージ(小)、脇腹に銃創
[装備]:なし
[道具]:ジョナサンのハンカチ、ジョジョロワトランプ、支給品一式。
[思考・状況] 基本行動方針:打倒荒木!
1.目の前の状況に対処
2.自分の得た情報を信頼できる人物に話すため仲間と合流したい
3.甘さを捨てるべきなのか……?
4.巻き込まれた参加者の保護
5.荒木の能力を推測する
[備考]
※ハンカチに書いてあるジョナサンの名前に気づきました。
※荒木から直接情報を得ました
「脅されて多数の人間が協力を強いられているが根幹までに関わっているのは一人(宮本輝之助)だけ」
※フーゴとフェルディナンドと情報交換しました。フーゴと彼のかつての仲間の風貌、スタンド能力をすべて把握しました。
※アヴドゥルとフェルディナンドの考察から時代を超えて参加者が集められていることも知りました(納得済み)。

ディアボロ
[時間軸]:レクイエムジョルノに殺された後
[状態]:右手に負傷(小)。肋骨二本骨折。身体疲労(中)、精神疲労(中)鼻にダメージ(中)強い決意。強い恐怖
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水は全消費)、ジャイロの鉄球
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフの遺志を継ぎ、恐怖を乗り越え荒木を倒す。
0.目の前の状況に対処
1.懲罰房に戻って早人と合流。その後はその時考える。
2.ジョルノには絶対殺されたくない。来るなら立ち向かう。
3.恐怖を自分のものとしたい。
4.自分の顔と過去の二つを知っている人物は立ち向かってくるだろうから始末する。
5.電車内の謎の攻撃、謎の男(カーズ)、早人怖いよ。だが乗り越えたい
6.駅にあるデイパックを回収したい
[備考]
音石明の本名とスタンドを知りました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
※『恐怖を自分のものとして乗り越える』ために生きるのが自分の生きる意味だと確信しました。
アレッシーとの戦闘により、『エピタフ』への信頼感が下がっています。
※キング・クリムゾンになんらかの制限がかかってます。内容は次の書き手さんにお任せします。

【サンドマン】
【スタンド】:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
【時間軸】:ジョニィの鉄球が直撃した瞬間
【状態】:健康、満腹、暗殺チーム仮入隊(メッセンジャー)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1~3(本人確認済み) 、紫外線照射装置 、音を張り付けた小石や葉っぱ、スーパーエイジャ、荒木に関するメモの複写
【思考・状況】 基本行動方針:元の世界に帰る
0.目の前の状況に対処
1.「ナチス研究所にて、脱出の為の情報を待っている」というメッセージを、脱出を目指す人物へ伝えて回る。
2.荒木の言葉の信憑性に疑問。
3.名簿にあるツェペリ、ジョースター、ブランドーの名前に僅かながら興味
4.もう一度会ったなら億泰と行動を共にする。
【備考】
※7部のレース参加者の顔は把握しています。
※億泰と情報交換をしました。
※プッチの時代を越えて参加者が集められていると考えを聞きました。
※早人がニセモノだと気づきましたがラバーソールの顔・本名は知っていません。
※リゾットと情報交換しました。が、ラバーソールとの約束については、2人だけの密約と決めたので話していません。
※F・F、ブチャラティチーム、ホル・ホース、ミューミューの容姿と能力を知りました(F・Fの能力は、リゾットが勘違いしている能力)。ホルマジオの容姿を知りました。
※盗聴の可能性に気付きました。


【備考】
※ラバーソールが送ったハトがサンドマンに追い付きました。
※ティムはサンドマンにエシディシについて知りえる限りのすべてを伝えました。具体的には次の書き手さまにお任せします。







「ハァ…ハァ………ッ!」

何故ヴェルサスがいなかったのか。襲撃者が地下からやって来たこととヴェルサスのスタンド能力を考えると一つの仮説が浮かび上がる。ティッツァーノの考えはこうだ。
アンダー・ワールドで過去を掘り起こしたヴェルサスは襲撃者の存在を知った。地下に潜む異常性と素人目でもわかる殺気を前に恐れをなしたヴェルサスは逃走を選択した。
一緒に行動していたティッツァーノとティムは囮として使って逃げた。自分への注目をそらすため二人を利用した。

「ハァ…ハァ…もう大丈夫かァ~~~?いや、地下配管に体を捩じ込むバケモンだ。もう少し逃げたほうがいいな」

そして実際そうだった。ヴェルサスは逃げた。ティッツァーノとティムにバレないよう己の胸中に迫り来る危険を納めるとそのまま逃げ出した。
裏切った、その罪悪感はわいてこない。ヴェルサスにとってなによりも大切なのは『幸せ』になること。それで誰が死のうが誰を利用しようかはどうでも良かった。

「くそったれ、死んでたまるか…絶対生き残ってやるッ!俺は絶対死なねェぞッ!俺は幸せを掴むんだッ!」

帝王DIO。過程や方法も省みず、他人を踏みつけ、他人を踏みにじる。
受け継がれる意思。悪意の継承者。
彼の血はしっかりとヴェルサスに受け継がれていた。



【F-4とG-4の境目 北西/1日目 午後】
【ドナテロ・ヴェルサス】
[時間軸]:ウェザー・リポートのDISCを投げる直前
[状態]:疲労(中)、服がびしょぬれ
[スタンド]:アンダー・ワールド
[装備]:なし
[道具]:テイザー銃(予備カートリッジ×2)、杜王町三千分の一地図、牛タンの味噌漬け、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に死にたくない、幸せになる。
0.とりあえず逃げる
1.どんな事してでも生き残って、幸せを得る。その方針は依然変わりなくッ!
2.プッチ神父に会ったら、一泡吹かせてやりたい。
[備考]
※ティッツァーノ以外のマフィア、ブチャラティ達の事、パッショーネの事を聞きました。
ブローノ・ブチャラティ、グイード・ミスタ、レオーネ・アバッキオパンナコッタ・フーゴ
 ジョルノ・ジョバァーナ、チョコラータ) 。
※荒木の能力により『アンダー・ワールド』には次の制限がかかっています。
 ・ゲーム開始以降の記憶しか掘ることはできません。
 ・掘れるのはその場で起こった記憶だけです。離れた場所から掘り起こすことはできません。
 ・『アンダー・ワールド』でスタンドを再現することはできません。
 ・ただし、物理的に地中を掘り進むことは今まで通り出来ます。
※アンジェロ、Jガイルの容姿と『アクア・ネックレス』のスタンドビジョンを知りました。
※星型の痣を持つ相手(ジョナサン、ジョルノ、徐倫)の位置が大体わかります ただし、誰が誰かまでは判別出来ません。





腰にととかんばかりに伸びた髪の毛、上背に比べ華奢とも言える体、腕の筋肉には余分なものがついてなく一見すれば女性のようである。
何かを確かめるようにその人物は自分の手のひらを見つめる。手を握ったり開いたり、膝を曲げたり伸ばしたり、体が動くことを確かめるように腕を曲げたり伸ばしたり…。

「どうも人間の体は窮屈だな」

唐突にその人物が言葉を口にする。だがその光景はどこか奇妙だった。まるで腹話術をしているかのように、見てる人を錯覚させるようなそんな光景だった。
男は傍らに捨て置かれていたデイパッグを2つ拾うとまた一段と大きい伸びをした。鼻から息をはくと挙げていた手をゆっくりと下ろし、閉じていた目を大きく開ける。まつげの長いその瞳に沈み始めた太陽が写る。

綺麗な夕日だった。

長い間太陽を見つめていた男は頬を緩める。しばらくの間そうしていたがやがて気が済んだのか、足に力をこめると近くの民家に飛び移っていく。ゆっくりと散歩をするように、それでも身軽に男は屋根を伝って行く。
結果からいえば実験は失敗だ。結局ティッツァーノは何一つ抵抗することなく、傷一つエシディシにつけることなく死んでしまった。圧倒的暴力を前にティッツァーノは屈した。
だが『魂』は違う。『精神』は違う。ティッツァーノは折れなかった。その眼は最後まで『立ち向かうモノ』だった。

「フフフ………」

スタンドはあるのに精神が伴わないもの。精神は熟しているのにスタンドは戦いでは役に立たない。まったくもって不思議な生き物よ。
エシディシは心底思う。興味深い。人間とは何だ?なぜこうも矛盾してる?

『もし貴方がドナテロ・ヴェルサスという男を殺す時が来たなら伝えて欲しいことがある。お前は裏切者なのか、と。
…ええ、それだけでいいです。ああ、ティッツァーノより、と付け加えてくれたらベストです。後は煮るなり焼くなりして下さい。どうせ貴方は見逃してくれないんでしょ?だったらせめてこれぐらいはよろしくお願いします。
…スタンド?彼の?う~ん、それは言えませんね。ただ彼は“生き残る”ってことに関してはすごいですからね。
…ええ、精神力という意味なら彼は持ってますよ』

「ドナテロ・ヴェルサス…か」

上機嫌なのか、男は今にもスキップをしかねない様子だった。爛々と目を輝かせるその様は新しい遊びを見つけた子供のようだった。
その内本当に楽しくなってきたのか、男は笑いをこらえることなく、笑い声をこぼす。
この舞台で初めて出会った男はまるで自分を『人間』かのように扱った。王に付き添うを聖職者のように、それでいて自分の友人が侮辱された時には激昂するなど人間臭いところもあった。
その友人はまさに人間の本性の生き写しのような者だった。自分の無力さに震え、その一方で人間という種を統一することに関しては未熟ながらも才能の片鱗を見せつけていた。そして最後には『力』を得た。

「面白い…実に面白いぞ、プッチ。人間は面白いヤツばっかだ」

『最後に貴方に?そうですね………』

「ドナテロ・ヴェルサスよ………お前の相棒は実に面白い男だった。今度はお前の番だ」

『地獄で待ってるぞ、このクソ野郎』

「お前は何を見せてくれる?」

一陣の風が吹きティッツァーノの髪の毛を巻き上げる。
沈み行く太陽の光を浴び彼は笑っていた。




【G-4/1日目 午後】
【エシディシ】
[時間軸]:JC9巻、ジョセフの“糸の結界”を切断した瞬間
[状態]:ティツァーノの体、人間の強さを認めた
[装備]:『イエローテンパランス』のスタンドDISC
[道具]:支給品一式×2、『ジョースター家とそのルーツ』リスト(JOJO3部~6部コミックスの最初に載ってるあれ)
    不明支給品0~2(確認済み)、岸辺露伴のサイン、少年ジャンプ(ピンクダークの少年、巻頭カラー)、ブラックモアの傘
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに優勝し、全生物の頂点にッ!
1.南で参加者を殺して回る
2.億泰には感謝せねばなるまい。
3.常識は捨てる必要があると認識
4.ドナテロ・ヴェルサスを殺す際にメッセージを伝える。ヴェルサスの『進化』(真価)に期待
[備考]
※時代を越えて参加者が集められていると考えています。
※スタンドが誰にでも見えると言う制限に気付きました 。彼らはその制限の秘密が首輪か会場そのものにあると推測しています
※『ジョースター家とそのルーツ』リストには顔写真は載ってません。
※ダービー=F・Fと認識しました。エシディシ本人は意図的に広めようとは思っていません。
※『イエローテンパランス』の変装能力が使えるかは不明です。
※頭部を強打されればDISCが外れるかもしれません。

※この後どこに向かうかは次の書き手にお任せします。
※エシディシは原作六巻でサンタナがやったようにティツァーノの体に潜り込んでます。制限などがあるかは次の書き手さまにお任せします。
※イエローテンパランスはまだ完全にコントロールできてません。また具体的な疲労度などは後続の書き手さまにお任せします。




【ティツァーノ 死亡】
【残り 31名】






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キャラを追って読む

161:悪意の継承者(前編) エシディシ 175:助けて! 上野クリニック!
157:二兎追うものは大いに悩む ティッツァーノ GAME OVER
157:二兎追うものは大いに悩む マウンテン・ティム 172:誰かの傷ついた心が孤独な空で燃え上がる
157:二兎追うものは大いに悩む ドナテロ・ヴェルサス 184:『因縁』同士は引かれ合う
160:ハーフ・ア・サティスファクション サンドマン 172:誰かの傷ついた心が孤独な空で燃え上がる
163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) 花京院典明 172:誰かの傷ついた心が孤独な空で燃え上がる
163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) ディアボロ 172:誰かの傷ついた心が孤独な空で燃え上がる
163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) J・P・ポルナレフ 173:For no one - 誰がために?

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最終更新:2010年08月03日 13:12