★ ★ ★
『当たり前だが、『気づかれないこと』だ。
姿を見せないこと、足音を聞かれないこと、殺意を悟られないこと。
つっても、こんなことはただの学生であるお前にできるはずもない。だからひとつだけアドバイスをするなら――
相手の意識の虚をつけ』
(意識の虚……背後!)
千帆は、
プロシュートの教えを反芻する。
そして自分なりに導いた結論――『稼いだ3分で
吉良吉影を見つけ、背後から撃ち抜く』を実行すべく、路地裏を駆ける。
(援軍は期待できない……!
今回のループも、玉美さんが錠前をシーザーさんに取り付ける(意識的か、自動的かは関係なく)。
ナランチャさんは
カーズを見て戦意を喪失していたから、単独では動けない。おそらく今宥められている最中だろう。
玉美さんと犬は――何かできるとは思えない)
思考を止めないまま、息を殺して潜む。
民家の壁を背に、石ころのように存在感を消し、無機物と化したかのように。
さながら密偵。さながら特殊部隊――と言うには千帆の専門外が過ぎる。
もっと広範な分野の小説を読んでおくべきだったと、千帆は歯噛みする。
(歩行音……二人分!)
鋭敏にした千帆の聴覚が、
吉良吉影を捉える。
民家と民家の隙間から覗くと、ループ前通り、後ろを行く吉良の同行者が確認できた。
同行者の存在は、イレギュラーな行動を抑制する。
実際に、変にこそこそ隠れたりしない真っ直ぐな歩みを踏み鳴らしており、暗殺を狙う千帆にとっては好都合。
(7歩、通り過ぎた……! 今なら、背後をとれる!)
過去のプロシュートの教えでは、素人で10mは、まず当たらないとのことだった。
確実性を採るなら5~6mの至近距離、そこで振り返る隙も与えず、鉛弾をお見舞いする。
イメージするのは最善のプラン。すべてうまくいく未来。
千帆は民家の隙間から路地に飛び出す。
足は肩幅、腕を伸ばす。わずかに前傾、目線は前。
顔を向けた先、吉良吉影の背中を見た瞬間――青ざめた。
(なに、あの機械……! ループ前には、あんなもの背負っていなかったのにッ!)
吉良吉影が背負うは、紫外線照射装置。
デイパックを手荷物にしてまで、わざわざ背負っていた。
(しかも、『バイクを手押ししている』! もしあれで逃げられたら、どうしようもない!)
ループ前の吉良は、戦闘の意思がないことをアピールするため、荷物を全て降ろして千帆たちの前に姿を現した。
そしてループ後。吉良は千帆同様、ループ前と全く同じ行動をしたわけではない。
『バイツァ・ダスト』の弱点は、能力発動中は本体が無防備になること。
そのリスクをカバーするために、背面の防弾チョッキ代わりに紫外線照射装置を背負ったというわけだ。
千帆が銃を持っているのは『バイツァ・ダスト』が目覚める前から分かりきっている。
背後からの不意打ちに備えての場当たり的な策、意外にも有効だった。
対し千帆は、プロシュートのレクチャーが一度あったきりの素人。
発砲経験はあるが、単独で拳銃を打ったことがない。
二射目が許されない状況下、狭い的を正確に狙い撃つ緊張、恐怖、重圧。
そんなものに屈してはならないと、目を閉じ深呼吸、師の教えを思い出す。
――そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする?
――今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実に仕留められるはずだ……ッ!
――でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。
――そう思った時、お前はどうする?
その教えは、悪い状況を引き寄せた。
――……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。
――そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな。
(わたしに『次』なんてない……! もう、いつ玉美さんが爆発してもおかしくない!
チャンスは……これ一度きり!)
二律背反による迷い、怯え。
過去の教えに反するには十分な、切迫した状況。
ここしかない、これ以外ない。やるしかない、やるならやらねば。
だというのに千帆は、『目を閉じた』。
再び視界を取り戻した時には、もう遅い。
眼前に迫った吉良吉影が、拳銃の銃身を握りしめ。
拳銃を掴んだ千帆の右腕を捩じるように、上に掲げた。
「あ……がっ!」
右手の拳銃を離すまいと必死になったのが千帆の過ち。
関節を極められたかのように、肩が、肘が、手首が軋む。
吉良吉影は背後の存在に気づいていた。
銃を構えながら目を閉じる――『隙だらけな背後の存在』に。
道の傍らにバイクを駐車する余裕があるほどに、隙だらけな。
(『バイツァ・ダスト』は宿主に危害が及ぶと自動的に防衛するが、私が触れているのは主に拳銃。
これだと、危害の判定にならないらしいな。
そしてわたしを直接殺しに来た……ということは、同行者が最低二人は死んでいるだろう。全滅だとありがたいが……。
ともあれ頃合いだ。このまま爆死を見届けたところで『バイツァ・ダスト』を解除する!)
吉良吉影は勝ち誇り、ニヤつきを隠そうともしない。
増援が来たところで、『バイツァ・ダスト』の宿主を突き付ければ、たちまち無敵の盾を備えた最強の矛になる。
殺人鬼の正体に迫る行為は、死期を早めるだけなのだ。
(しかし、なかなかどうして……この子、いい『手』をしているじゃあないか)
拳銃の銃身を握る吉良吉影の指、軟体生物のように徐々にグリップ部へと移行し、やがて千帆の手の甲に触れる。
普段の吉良なら、ここで目を泳がせ、得物を前に舌なめずりしていたことだろう。
しかし、同行者の宮本に悟られてはならない。
あくまで『暗殺未遂の女子高生を取り押さえた被害者』として振る舞う。
当の宮本は待機。
(吉良吉影……なぜ『恐怖しない』んだ?
相手が撃てるわけないとタカをくくっているのはわかるが、それにしたって……。
拳銃を掴むという危険を冒して、そこから拘束しようとしないなんて、いくら何でも落ち着きすぎた。女子高生相手だぞ?)
人間観察に長ける宮本輝乃輔の関心は、吉良に向けられていた。
とはいえ宮本は探偵ではないので、不自然というレイヤーを脱した見解が得られなかった。
そして取り押さえられた少女は間違いなく恐怖しているが、わざわざ吉良に能力のヒントを与えるような真似を、宮本はしない。
千帆を紙化するメリットが、宮本にないのだ。
(様子見と行くか)
やがて宮本は、女子高生に首ったけの吉良を警戒してか、紙となって姿を消す。
どうして、などと気に留める存在はいなかった。
ここには狩るものと狩られるものだけ。
(どうしよう! 時間が……もう時間がない!)
慌てた千帆が、引き金に力を籠める。
天を向いたままの銃口、放たれた弾丸は標的を捉えることなく。
空砲のような痛烈な音が鼓膜を突いただけだった。
「やめたまえ。『人が寄ってきてしまう』じゃあないか、お嬢さん」
「う……うぁ、あ……!」
吉良は台詞に反し、下卑た笑みを浮かべる。
拘束されるがままの千帆は、悔し涙を流しながら、顔をくしゃくしゃに歪ませていた。
人が寄れば、それだけ『バイツァ・ダスト』の危険にさらされる対象が多くなる。
シーザー達も、吉良のもとに駆け付けやすくなること請け合いだ。
双葉千帆は、焦りから、愚かな行為に走った。
誰か気づいてくれれば、誰かが助けてくれれば、という甘え。
溺れ、藁を掴み、周囲を巻き込むという考えに至れない。
いつから千帆は変わってしまったのだろう?
有名漫画家、
岸辺露伴に出会って、同じように自分も天才だと錯覚した?
覚悟を決めた少年、
川尻早人に出会って、同じように自分も強い殺意で動けると誤解した?
ギャング組織の一員、プロシュートに出会って、同じように自分もターゲットの暗殺ができると思い込んだ?
狂人、
セッコを言いくるめて、自分より強い存在を手懐けられると過信した?
人類を超越した存在、
ワムウやバオーを眼前にして生き残ったから――
――自分は小説の主人公か何かだと勘違いした?
何も成し遂げていないくせに。
(とんだ思い上がりだった……! 私は、『土俵にすら立てていなかった』ッ!)
決意も覚悟も、何の関係もなく、状況は動く。
来るべき終わりに向かって。
玉美のタイムリミットに向かって。
「――その子からさあ、」
吉良吉影の胸元から、透き通るような刃先が飛び出した。
「きたない手をはなせよ」
★ ★ ★
結論から言うと、
蓮見琢馬は一時間ごとのループに気付いていた。
いや――『蓮見琢馬も認識できなかったが、自身のスタンドにそう記されていた』のだ。
蓮見琢馬の『本』には、本人が本人の範囲内で体感したことが、意識、知覚に関係なく記される。
自身が胎児のころの記憶も含まれるほどだ。
正確に言えば、1999年7月15日にも同様のループ体験をしているのだが、当人には実感がない。
蓮見琢馬はスタンドを獲得して以降、意識しなければ『本』を読み返すことはなかったため、この事実を認識することはなかった。
閑話休題。
(――記されているのか?)
きっかけは些細なものだった。
琢馬自身が望んていることは何か。
決着か逃げか。千帆との再度の対話か、カーズに従うといった思考停止か。
その回答を『本』に委ねた。
強く思ったのなら、そう記されているだろう。
一時の気の迷いなら、それもそう記されているだろう。
何のことはない。いつもなら心境風景は簡略的なもので、『読んで初めて思い出す』程度。
書いていないだろうな、という期待が九分九厘。なんてことない気まぐれ。
(今の時刻は23時を過ぎたところ)
基本支給品の時計、その時刻を頼りにページをめくる。
(待てよ。そもそも、最新の記録なのに何で探る必要がある?)
疑問の答えはすぐに出た。
『時計を確認する。今の時刻は23時を過ぎたところ。』という書き出しのページが、4回にわたって近在していたのだ。
『なぜ一時間前の事が繰り返し記されているのか』という疑問も、ご丁寧に3回繰り返されていた。
(何かが……思いもよらない何かが起きている)
殺し合いが始まった直後以来二度目の、『本』の記載内容の異常事態。
琢馬は平静を保つ表情の裏に、奇妙な現象への恐怖を押し込める。
直近2回、つまり『3回目の23時過ぎ』と『2回目の23時過ぎ』の内容を軽く洗う。
借金取りの爆死、泣き叫ぶ千帆。2回分、各イベントに至るまでのタイミングがほとんど一致――到底、理解が追い付かない。
(だが俺は――確かに『体験している』)
理解が追い付かなくても、目が文字を追いかけるたび、その光景がありありと浮かぶのだ。
そして、借金取りの爆死の起点に、どうやら双葉千帆が関係しているとも解釈できた。
本の記述ではその後、琢馬は借金取りの爆発に恐れをなして離脱していた模様で。
会話内容も小声だったためか文字起こしされておらず、詳細なやり取りは読み取れなかった。
意を決し、今度こそはと注意深く観察すると、千帆が単独行動を開始したではないか。
琢馬は『本』を閉じ、移動を始めた。
この怪奇の中心が、千帆にあるのなら。
この回帰の中心が、千帆の行く先にあるのなら。
(それはきっと、排除しなければならない。おれ自身のためにも)
はたから見れば、ある種の逃避なのかもしれない。
罪と向き合えないから、千帆と再会する別の理由を求めたのかもしれない。
千帆に非情になり切れないから、降りかかった問題を代わりに払拭できれば気が晴れるのかもしれない。
琢馬本人に、理由を考える余裕はなかった。
そこから、千帆の腕をひねり上げるサラリーマンの姿を目撃し。
背後から、『アヌビス神』を突き刺した。
『アヌビス神』の特性は『透過』。切るものと切らないものを、持ち主が自由に選択できる。
紫外線照射装置という防壁をすり抜け、吉良吉影の臓腑を貫いた。
双葉千帆という蝶が起こした羽ばたきは、蓮見琢馬を呼び寄せたのだ。
「な……何ィィィィィッ!」
吉良の意識の虚を突く一撃。
琢馬の幸運と吉良の不運はもう一つあり――『アヌビス神』の切っ先は千帆に当たることがなかった。
『バイツァ・ダスト』の自動防衛機能によって、千帆の顔前で小型の『キラークイーン』が真剣白刃取りしたのだ。
吉良を壁とした琢馬にも、泣きじゃくる千帆にも、この事実は認識できなかったようだが。
『バイツァ・ダスト』は無敵の能力だが、その無敵さが、吉良にとって仇となる。
そして吉良にとって恐ろしいのは、刺されたことそのものより、剣が引き抜かれた後。
ひとたび刃が抜かれれば、穿孔から血が溢れることだろう。
「まずいッ……『バイツァ・ダスト』! 解除だッ!」
危機的状況を脱するために、吉良吉影が下した結論――乱入者の排除。
双葉千帆から吉良吉影に向かって、拡大していく『キラークイーン』の像。
視覚的存在感だけでなく、パワーそのものが、双葉千帆から吉良吉影へ。
「この……このクソカスがああああああ!」
吉良吉影、『キラークイーン』を自身の背に向き合うよう発現、『アヌビス神』の刀身を右フックで叩き折らせる。
素早く右回転して振り向き、スタンドの像を自身に重ね。
回転の勢いを殺さないまま、渾身の左ボディブロー。
蓮見琢馬の腹部を、力強く貫いた。
★
熱い。
焼けるような痛み。
火鉢で胴をかき回されるような痛み。
目に刺さらんばかりに光が走る。
腕が痺れとともに、躍動しなくなる。
脳内麻薬が作用して痛みが快感に――ということもなかった。
処理しきれない膨大な刺激で頭が焼き切れそうになり、意識を失いかける。
幽霊のような腕が突き刺さり、体が宙を浮いていると気付くのに、そう時間はかからなかった。
ジクジクと流れ出るのが、血液か臓器か、という判別すらつかない。
やがて、幽霊のような腕が引き抜かれた。
「――『本』の内容は……そんなところか」
どさり、と、2人が同時に倒れる音が響いた。
蓮見琢馬の『本』を利用してのカウンターは、とっさの判断だった。
『アヌビス神』で吉良吉影の暗殺を狙ったのは、千帆を素手で取り押さえていたことから、正面切って戦うスタンドを持っていないと判断したため。
剛腕での反撃は全くの計算外だったものの、『アヌビス神』破砕の時点で握りを緩めて『本』を装備、自動筆記を利用し反撃。
殴られた際に本を手放してしまったが、ページを見せるのは間に合った。
華麗なる呪詛返し、ここに成功、というわけだ。
「か……はッ!」
何が起こったのかわからない、という表情で、吉良はうずくまる。
『本』の読者は痛みという事象の回顧のみ与えられ、実際に体に抜け穴ができるわけではない。
臓腑は撒かれていないが、交通事故など比にならない『記録』。
胸の刺し傷を踏まえると、そう長くは持たないはずだ。
長くは持たない――仰向けになるがままの、蓮見琢馬も例外ではない。
「ナランチャ! 千帆はどこに行った!?」
「わからねえ! わからねえが……さっき近くで複数あった呼吸が、一斉に弱まった!」
「銃声はあっちの方から聞こえたぜ!」
そう遠くない位置から、声がした。
千帆の同行者だろう、とは、意識が薄れゆく琢馬でも考えが回った。
(千帆のことを問いただされると面倒になるので、千帆の方から去ってくれるとありがたい。
今の会話、ナランチャという男が言うには、おれも千帆を襲った奴も、もう持ちそうもないようだから。
腹の傷は『干からびた腕』が治してくれることを期待するしか――
――待て、『呼吸が、一斉に』?)
その疑問と同時に、琢馬の薄らとした瞳が見開かれた。
首をぎりぎりと、油の切れたゼンマイのように回し、視線を地平に合わせる。
「わ、わた……し、兄さん、と、話を……」
琢馬の視界に入ったのは、腹を抱えて地に伏す双葉千帆。
(馬鹿な……『本』が……視界に、入っていた、のか……!?)
吉良吉影は至近距離ゆえ問題なかったったが、千帆は能力射程2メートルを満たしても、環境条件――明るさが足りないはずだった。
本来なら、夜闇で『本』は見えても、書かれている内容の認識ができなければ『感情移入』は不発に終わる。
だが、吉良が倒れ、背負っていた紫外線照射装置の誤作動で、『本』は十分な明かりに照らされた。
地に落ちた『本』と、吉良吉影の拘束を逃れた双葉千帆が照らされた。
1ページに収まる程度の『本』の情報――覗き込んだ者の結末は平等。
(とっさのことで……閉じられ、なかった!)
『本』を閉じるなり『禁止区域』に指定するなり、冷静な琢馬であればできていただろう。
だが、過去を論じたところで無駄。
『時を戻す』異能は、この場から失われたのだから。
他ならぬ琢馬自身が、その手で絶やしたのだ。
「クソッ! お前のせいだぞ玉美! お前がシーザーに『錠前』なんてつけるから、追いつくのに遅れたんだ!」
「勝手に罪悪感を感じたせいだろ! だいたい、ナランチャだってカーズがどうとか、ウジウジしてたじゃねえか!」
迫る声の主たちが、治療に役立つ道具を持っている――なんて、都合のいいことはないだろう。
双葉千帆は、じきに死ぬ。揺るがない確定事項。琢馬自身が与えた結末。
「フ、フフ……」
何も思い通りにならなかった――という域にすら、到達していない。
何も、望まなかった。何かを、思い通りにしたいと思えなかった。
父への復讐は、自分の意思が介在することないまま果たされ。
DIOに、カーズにと、強者と呼べる存在に鞍替えして。
誰かに道を委ねただけの存在だった。流されるままあちらこちらへと向きを変える、風見鶏でしかなかった。
蓮見琢馬は、自分自身の進むべき未来など、何一つ描けなかった。
本に綴れるほどの人生を歩まず、他人に『死』という結末を押し付けるばかりで。
「ハハッ……」
もう、笑うしかない。
鉄面皮に似合わない、発声だけの記号だとしても、こうするのが『それっぽい』と琢馬には思えた。
仰向けの琢馬は顔を空に向け、千帆に目線を合わせることなく、言葉を紡いでいく。
「……『父に復讐することだけをかんがえて生きてきた』」
まるでト書きのような――『何度も読んだ小説のキャラクターのセリフを暗唱』しているかのような感覚に、琢馬は駆られた。
用意された脚本、見え透いた棒読み。
役者でない琢馬、学芸会にも劣る、熱無き言葉を紡ぎ続ける。
「『お前を孕ませて、膨れた腹を見せつけてやりたかった。それで、復讐は完結するはずだったのに』」
何も自分の思い通りにならないくらいなら。
最期まで、疫病神に徹してみようじゃあないか。
罪の向き合い方は分からなくても、罪にふさわしい罰だけは、この場で受けようじゃあないか。
千帆を殺した罰を抱えて、哀れな復讐者として散ろうじゃあないか。
復讐なしでは空っぽだった人生として、幕を閉じよう。
「『計画は失敗したが、あの男の娘が死ぬ――そう思うと、心の底から晴れやかな気分だよ』」
――ズン
「……え?」
蓮見琢馬の胴に、大きな、大きな錠前が顕現した。
まるで、空いた腹わたを埋めるような位置で。
(なんだ、これ……? 錠、前……? やたら、重くて……)
埋めるといっても見せかけで、錠前が実態を持たない霊体のようなものだと、琢馬は気づいている。
そして、その正体にも。
「ああ……きっ、と、これ――『罪悪、感』……」
そうして蓮見琢馬は、重みのショックで押し潰されるように――眠りについた。
その様につられるように、双葉千帆もまた、遅れて瞳を閉じ――
★
「な、何が起きたんだ……? おい、説明しろよ、玉美!」
「わ、わからねえ……。わからねえけどよ……」
ナランチャの怒号に対し、玉美は弱弱しく答える。
頼りない口調は怒号による委縮からではなく、眼前した現象によって引き起こされていた。
「おれの錠前は『罪悪感』……『罪の意識』に比例して大きくなる。
だ、だけど……見たことねえし、試そうとしたこともねえが! 錠前をつけた相手が死んじまったら……!
そうなったら、そいつは、もう……!」
少年の姿を確認すると同時に、肉体に結び付いた錠前が現れ、すぐに砂のように崩れ落ちた。
それが全て。玉美たちが視認できたことの全て。
3人が地に転がるのみで、ただならぬことが起こったと想起はできるが、確証が得られない。
少年と中年男性の外傷は明らかだが、少女――千帆には出血らしい出血が見られないのも、謎を深化させた。
シーザーが千帆に駆け寄り、脈を確認する。少年や中年も同様に。
「……」
顔を伏せ、静かに首を横に振るシーザー。
呼吸だけでなく、生命活動を停止してしまっているのだと示す挙動。
血液循環が生む波動を駆使するシーザーも、鼓動を呼び覚ますこと叶わなかった。
「ぼくは……見ていました」
曲がり角から姿を現したのは、少年、宮本輝乃輔。
蓮見琢馬の乱入直前、自身を紙化し、戦場から離脱。
ゆえに、ナランチャのレーダーにも引っかからなかったのだ。
「この少年は……女の子が襲われてたのを助けようとしたんだ。
それで、犠牲になって……」
無論、遠巻きに状況を見守っていただけではない。
蓮見琢馬が腹部を殴られた瞬間、飛び出した『遺体の右手』を回収し、紙にしまったのだ。
回収せずにはいられなかった。何か重要な意味があるという確信があった。
(こいつら3人と犬……吉良吉影よりは、信用できそうだ。
『シーザー』って言葉も聞こえたことだし、ツいてるな。
あとは拾った『腕』について、何か知っているといいんだが)
様子見からの用済み判断。
吉良吉影への用は済んだ。
不確定事項の多い同行者を携えるのは、賢い行いではない。
宮本輝乃輔は、したたかに振る舞う。
何が何でも生き残ろうと。
まだ、負けて死ぬわけにはいかない、と。
【吉良吉影 死亡】
【蓮見琢馬 死亡】
【双葉千帆 死亡】
【残り 22名】
【D-3とD-4の境界付近 / 一日目 真夜中】
【
シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(ほぼ回復済み)、焦り気味
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、
ホット・パンツの記憶DISC、矢(未開封)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.千帆……いったい何が!? 少年に話を聞かないと
1.第四放送時に会場の中央に赴き、カーズを倒す?
2.フーゴ、どこに……?とにかくフーゴに助かってほしい
3.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す
※DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
※フーゴの言う『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。
※矢は『バイツァ・ダスト』が時を戻した影響で、エニグマの紙から未開封の状態です。シーザーも中身について知りません。
※シルバー・バレットは現在位置から遠くない場所に放置しています。
【
イギー】
[スタンド]:『ザ・フール』
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する
0.いったい何があったんだ?
1.あいつ(フーゴ)、近くにいるのか!?
2.コーヒーガム(シーザー)と行動、穴だらけ(フーゴ)、フーゴの仲間と合流したい
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わないけど、DIOを倒したのでちょっと見直した
【
小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る
0.トリッシュ様をなんとかして助け出したいでござる……が、何が起きた?
1.なんだこのナンパ野郎ッ許さんッ! が、どうにもできないのでとりあえず一緒にいる
2.ナランチャは気に食わないが、同行を許してやらんこともない
【
ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
不明支給品1~2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.この3人はもう、呼吸が止まっている……。
1.早くフーゴとジョナサンを探しに行こう
2.玉美は気に入らないけど 、まあ一緒でもいいか
【
宮本輝之輔】
[スタンド]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:左耳たぶ欠損(止血済)、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)、フーゴの紙、遺体の右手(紙化して所持)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男を倒す、自分も生き残る、両方やる
0.3人+1匹と会話し、取り入る
1.柱の男や死の結婚指輪について情報を集める、そのためにジョセフとシーザーを探す
2.1のため、紙にした少年を治療できる方法を探す
3.なるべく多くの参加者にカーズの伝言を伝える
4.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい
※思考1について本人(ジョセフ、シーザー)以外に話す気は全くありません。
従って思考1、2について自分から誰かに聞くことはできるだけしないつもりです。
シーザーについては外見がわからないため『欧州の外国人男性』を見かけたら名前までは調べると決めています。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『
新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
第三放送は聞いていました。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。
※夕方(シーザーが出て行ってからルーシーが来るまで)にDIOの館を捜索し、拡声器を入手していました。
それに伴い、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊も目撃していました。
※D-5中央付近に拡声器を設置してきました。
時限式で宮本の声で四放送時、カーズが会場中央で首輪解除を行うという内容を放送します。
いつ放送されるか、あるいは放送自体がされるかどうかは不明です。
【
パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:紙化、右腕消失、脇腹・左足負傷(波紋で止血済)、大量出血
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.……(思考不能)
※フーゴの容体は深刻です。危篤状態は脱しましたが、いつ急変してもおかしくありません。
ただし『エニグマ』の能力で紙になっている間は変化しません。
※第三放送を聞き逃しました。
※以下道具は、D-3とD-4の境界付近に放置されています。
吉良の道具:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、
川尻しのぶの右手首、
地下地図、紫外線照射装置、スロー・ダンサー(未開封)、ランダム支給品2~3(しのぶ、吉良・確認済)、波紋入りの薔薇
琢馬の道具:自動拳銃、アヌビス神(刀身(全体の8割)が折れて吉良吉影に刺さっており、グリップと残った刀身(全体の2割)が琢馬の傍らに放置されています)
千帆の道具:基本支給品、万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(5/6)、予備弾薬(18/24)、
露伴の手紙、ノート(内容は207話参照)、地下地図、応急処置セット(少量使用)、顔写真付き
参加者名簿、大量の角砂糖
【D-3とD-4の境界付近→??? / 一日目 真夜中】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小~中に回復)、疲労(なし~小に回復)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(
J・ガイル/億泰)
ランダム支給品1~5(
アクセル・RO:1~2/カーズ+由花子+億泰:0~1)
工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.トリッシュとプロシュートを連れて……?
1.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
2.ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本、ナランチャです。
まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
※死の結婚指輪がカーズ、
エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
(そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『
BLOOD PROUD』参照)
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。
カーズ本人も異変には気づいていますが、どの程度まで理解しているかも次以降の書き手さんにおまかせします。
【
トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する
0.とりあえずカーズについていくが……?
1.さっきの声……ルーシー?今聞こえないのはなぜ?
※プロシュートが暗殺チームの一員だと知って(覚えて)いるかは不明です。
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 28/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
ゾンビ馬(消費:小)、
ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、 不明支給品1~2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.とりあえずカーズについていくが……?
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.育朗とワムウの遺志は俺たち二人で"繋ぐ"
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
【備考】
進路はカーズ任せです。どの方向、あるいは誰の元に向かうかは次の書き手さんにおまかせします。
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最終更新:2026年06月05日 23:53