マヨヒガ

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『稗田阿求』



「だから、言っただろう、阿求?  俺は勝ちに行くんだってよ」


私のところに戻ってくるなり、ジャイロさんは奇妙な前歯を見せながら、ニョホホと笑ってきました。
全く……人がどれだけ心配をしていたかも知らずに、暢気なものです。
まぁ、遠く離れた私の目にも、空と大地を焼き尽くさんばかりの光の球が見て取れたので、
ジャイロさんの勝利は疑っていませんでした。とはいえ、その余りの眩さに、
ひょっとしてジャイロさんは命を代償に、それを成し遂げたのでは、と
妙な不安や考えが頭をチラついていたことも確かです。


「おいおい、何だよ、阿求、そのツラはよ~。もっと笑顔で英雄の凱旋を祝ってくれても、いいんじゃねーか?」


どうやら私の気苦労が、知らず知らずの内に顔に出ていたようです。
ジャイロさんは、それが大層気に入らなかったらしく、私の額を指先でツンツンと突いてきました。
そして途端に私の顔は蒼ざめます。ジャイロさんの人差し指と中指が消えて無くなっていたのです。
反対の手はどうかと見てみれば、指どころか、手自体が無くなっています。


「ジャイロさん、その怪我……」

「ああ? 安心しろ。掠り傷みたいなもんだ。寧ろ、この程度で済んでラッキーってやつだ。あのノトーリアス・B・I・G相手によ」

「ですが、その手じゃ、もう回転なんか……」

「うるせぇ。オレは『納得』してんだ。だから、これでいいんだよ」


勝利への余韻もどこへやら、ジャイロさんの顔には不機嫌さが表れてきました。
余程、私の言葉が煩わしかったと見えます。随分と判り易い方ですね。
ですが、それでも私は口を開くことにしました。私にあるのは、やっぱり言葉だけなのですから。


「あの、こんなことを言ったら、ジャイロさんは怒るかもしれません」

「ああん? 何だよ、言ってみろよ」

「早苗さんの足は、スタンドによって、神子さんのと交換することができました。
だとしたら、ジャイロさんの手も、同じように交換することができるんじゃないでしょうか?」

「てめぇ……何を言っているか、判ってんのか?」

「神子さんのに抵抗かあるようでしたら、私のでも構いません。
ジャイロさんは言いました。『男』は『勝利』に飢えていなければならない、と。
だったら、飢えて下さい。渇望して下さい。その『勝利』を得る為の手段を……!!
それが煮え湯だろうが、辛酸だろうが、私は言葉にします。そしてジャイロさんが、それに耐えられるように絶対に支えてみせます!!」


ジャイロさんの目は据わり、私を睨みつけてきました。その視線だけで、ジャイロさんの怒りが伝わってきます。
早苗さんの時は、命を救う為に致し方ない部分もありましたし、ジャイロさんも『納得』できたのでしょう。
ですが、今回は命とは無関係に、私達の勝手な都合で、神子さんの身体を道具のように扱おうという話なのです。
彼女と親しくあったジャイロさんには、受け入れ難いものがあって当然です。
だけど、敢えて私は提案しました。だって、それこそが戦うことのできない私が、ここにいる意義なのですから。


不意に、ジャイロさんの手が、私の目の前にやって来ました。
殴られる! そう思った私は思わず目を瞑ってしまいました。
そして次の瞬間、バチンッと私の額に小さなものが当たります。
予想していたのと随分と違う衝撃です。不思議に思った私は目を開けて確認してみました。
すると、未だ目の前にあったジャイロさんの手が、私にバチンッと再びデコピンをしてくるではないですか。


「あ、あの、痛いです、ジャイロさん」

「当たり前だ。痛くしてんだから」

「ジャイロさんが怒るのも無理からぬ……」

「……怒ってねーよ」

「えっ? え、あの? じゃあ、何で?」

「呆れてんだよ、お前の馬鹿さ加減によぉ」

「ムッ、馬鹿とは何ですか! 私は私なりに精一杯考えて、勇気を出して……!」

「その見当違いも含めて馬鹿なんだよ。大体なぁ、サイズを考えてみろよ。
早苗と神子は問題なかったかもしれないが、オレとじゃ全然違うだろうが。
そんな簡単なことにも気がつかねーから、馬鹿だって言ってんだよ」

「ううっ、でも、でも……」

「だから、問題ねーっつってんだよ。この手でも鉄球は投げられるんだよ」


ズーンと私の肩に重さが降りかかりました。全く意味のない解決策を思い浮かべては悩んでいた自分が本当に嫌になります。
私がジャイロさんに怒られるかも、嫌われるかも、と思いながらも、必死に振り絞って出した勇気と言葉は一体何だったのでしょう。
本当に馬鹿みたいです。ああ、穴があったら入りたい。


「――――って、おい! 聞いてんのか、阿求!」

「え? えっと、何でしょう、ジャイロさん?」

「お前よぉ、ホントその人の話を聞かない姿勢、どーにかした方がいいぜ」


ジャイロさんが、可哀相なものを見るような目で私を見つめてきました。
どうやら内省に励む余り、またしても外界との連絡を閉ざしていたようです。
私は「すいません」と謝り、言葉を続けます。


「それで何の話でしたっけ、ジャイロさん?」

「幽々子のばーさんを探しに行くって話だよ」

「私も行きます!!」


私は声を荒げて、宣言しました。
幽々子さんを見失ってしまった過失は、私にあります。
確かにあの邪仙と宇佐見蓮子さんの襲撃を受けて、場は混沌としていました。
幽々子さんばかりに注意を向けるわけにもいかなかった状況です。
だけど、だからこそ、私がしっかりと幽々子さんの介護を……じゃなかった。
介護という言い方は少し語弊がありますね。これもジャイロさんが「ばーさん」だなんて言うせいです。
とにかく、皆が戦闘している間は、それが出来ない私が幽々子さんを見張っていなくてはならなかったのです。
故に幽々子さんが徘徊してしまった責任は私にあり、彼女を連れ戻す責務が私にあるのです。


バチンッ、とまたもやジャイロさんにデコピンをされました。
その出鼻の挫かれ方に、痛みと情けなさが相まって、私の目から涙が出てきます。


「も~、何をするんですか~、ジャイロさん~~!」

「阿求、色々と気負うのはいいがよ、それで周りが見えなくなって、どうする?
『覚悟』っつーのは、道を切り拓く精神のことだ。そこを履き違えてちゃ、進むべき『道』が無くなっちまうぜ」

「……何を言っているんですか、ジャイロさん?」

「早苗と花京院を、どうするって言っているんだよ」


そこで、はたと私は気がつきました。
幽々子さんへの対処を苦心するばかりで、彼らの今後を度外視していたのです。
早苗さんと花京院さんは共に気絶しており、誰かが傍にいて、介抱してあげることは必須。
二人が寝ているところに、誰かが襲撃してきたとあっては、笑い話で済む筈もありません。
しかし、この場に残る候補は、何も私だけではないということを、ジャイロさんも忘れているのではないのしょうか。


「なら、お前がポルナレフを説得してみな」


私の質問に、ジャイロさんは残った親指でポルナレフさんを指差して答えました。
ジャイロさんの指の先を見ると、ポルナレフさんが決意に満ちた表情と言葉を送ってきます。


「阿求ちゃんには悪いが、オレは譲るつもりはねーぜ。幽々子さんは、オレが連れ戻す!」


台詞の端々に頑なな意志が感じ取れます。
ポルナレフさんも私と同じく、幽々子さんを助けたい一心なのでしょう。
ポルナレフさんに居場所を与え、彼の剣に『生命』をも与えた幽々子さんの言葉は私も覚えています。
人を護る。幽々子さんによって、そう定められた剣が、ここで動かない道理もありません。
そして、その助ける相手が幽々子さん当人ともなれば、そこにある想いは一入(ひとしお)の筈。
とはいえ、私も他人に譲れるほど、自らの責を軽く感じている訳でもありません。
馬を操るジャイロさんが外せない以上、残る選択肢は私がポルナレフさんかの二つ。
私は幽々子さんの前哨戦に、ポルナレフさんの説得にかかります。


「では、聞きますが、ポルナレフさん、幽々子さんに一体どんな言葉を投げかけるつもりなのですか?」
ポルナレフさんは、もう既に掛けるべき言葉を掛けた後なのではないのですか?」

「……幽々子さんを連れ戻してから、君が話をするということも出来る」

「それは力づくで女性を言いなりにすると解釈していいんですね?」

「おいおい、阿求ちゃん、その言い方は誤解が過ぎるぜ。あくまで紳士的にだ。
幽々子さんを傷つけるつもりは、露ほどもオレにはない」

「言葉も力も使わない。それではポルナレフさんは、一体何をしに行くのですか?
まさか幽々子さんが勝手に貴方の意を汲んでくれると考えているわけはありませんよね?」

「それは阿求ちゃんも同じだぜ。幽々子さんは自失状態にあった。
そんな中で、生半可は言葉など、届くわけがない!!」
                                                            「……えっと、あの~」
「私の言葉、それに覚悟は、生半可ものではありません!!」
                                         「もしもーし」
「覚悟を問うなら、オレだって負けるつもりはない!!」


舌鋒鋭く突き合わせていた私達ですが、
そこに突然と早苗さんが、口を挟んできました。


「あの! ケンカはやめてください! 私、起きてます!!」


私は驚いて、早苗さんに向き直ります。


「いたんですか、早苗さん」

「いや、いましたよ! 今、私と花京院君をどうするか話し合っていたんじゃないですか?」

「そうだったんですか」

「いや、そうですよ!」


と、早苗さんは頬を膨らませながら、私を睨んできました。
病み上がりなのに、随分と元気な様です。というか、意外にかわいい反応をしますね、早苗さんは。
相手が小鈴であったのならば、それを幾らかからかったりして楽しむことも出来ますが、
流石に今の早苗さん相手には、ましてやこういった状況で、それをするのは不謹慎と言えるでしょう。
私は謝罪と感謝の意を込め、早苗さんに軽く頭を下げてから、再びジャイロさんに顔を向けました。


「というわけです、ジャイロさん」

「……どういうわけだよ」

「私とポルナレフさんが、貴方と一緒に幽々子さんを探しに行くということです」

「早苗と花京院は怪我人だぜ? それをそのまま放っておくのか?」

「質問に質問で返して悪いですが、私が残って何をするのですか?
私に出来ることなど、精々が誰かが来たら二人に隠れるように指示するくらいですよ。
それだって、早苗さんが気がついた今、私の唯一の役どころは失われたも同然です。
もしかして、ジャイロさんは私が盾となって、二人を守り抜けと言っているんですか?
こんなこと言っては情けないですが、私の身体じゃ、敵の攻撃だって碌に防げませんよ。
そこに何か意味があるんですか? そしてそれは疲労しているポルナレフさんにも、同様に言うことが出来るのではないですか?」


私がそう言うと、ジャイロさんは手首の失った手で器用に帽子を取り、残った手で頭を掻き毟り始めました。
私の意見を受けざるを得ない。そういった不愉快さが、ありありと見受けられます。
しかし、私と一緒行くのは、そこまで嫌がられることなのでしょうか。
結構ショックなのですが……。


「メリーさんでしたか? 彼女のことは、私と花京院君に任せて下さい」


ジャイロさんの態度を何かの逡巡と取ったのか、早苗さんが変なことを申し入れてきました。
別にジャイロさんはメリーを憂って、こんな態度を取った訳じゃないと思いますが、
早苗さんはそれに気づかないくらい気が逸っているということなのでしょうか。
私は彼女を落ち着かせようと、口を開きますが、それよりも早くジャイロさんが言葉を発しました。


「阿求とポルナレフには、もう話したが……いや、阿求は聞いてなかったかもしれないが、作戦は変更だ。
さっきまでとは違って、今の俺たちは怪我をして、疲労も重なっている。はっきり言って、ひどい有様だ。
そんな中で下手にバラけて、二兎を一気に追う真似はマズイ。それこそ足元をすくわれかねねー」

「それではどうするんですか?」と、早苗さんが首を傾げて質問します。

「まず最初に幽々子を探す。そしてその後、全員でメリーのところへ行く。
どういうわけか、青娥のババアはメリーをさらっていった。
殺すなら、その場でも出来たはずだ。それなのにしなかったということは、何かしら利用価値があるってことだ。
つまり、死ぬ危険はない。勿論、あのクソババアのことだから、楽観は出来ないっつーのは判っている。
だが、そう切羽詰ったものでもないってのも確かだ。それとは逆に、幽々子は先が見えねえ。
これから何をしでかすか、何をされるか、さっぱり見当もつかない。そういうのは、俺の経験上、かなりヤバイ。
だから、幽々子を探してから、メリーを探しに行く。遠回りにように思えるが、これが二人を助ける一番の近道だ。
早苗と花京院は、ここで俺らが幽々子を連れて戻ってくるのを待っていろ! すぐにあのばーさんを捕まえてくる!」


ジャイロさんの台詞に一々棘を感じるのは、私の気のせいでしょうか。
まぁ、確かにそのいずれもが初耳のことなんですけれど……。
とはいえ、私だってジャイロさんと同じように考えていたんですから、何も問題はありません。


「あの、言いたいことは判りました。ですが、幽々子さんを探しに行くといっても、場所は判るのですか?」


おずおずと早苗さんが疑問を口にしました。
自信たっぷりに発言するジャイロさんを否定するような物言いに、幾らかの気後れを感じたのやもしれません。
ですが、ジャイロさんは別に気を損ねることなく、ニョホホと笑ってみせます。


「そこで、こいつの出番ってわけだ」


と、ジャイロさんはペンデュラムを取り出しました。
しかし、やはりそれにだって疑問は付いて回ります。


「それも探せる距離に限界があるのでは?」


早苗さんに続いて、私が訊ねますが、
どうやらそれはジャイロさんの予想の範囲内だったらしく、すぐさま答えが返ってきました。


「確かに説明書には半径二百メートルっつうチンケな数字が書いてあった。
だが、説明書には、こうも書いてあったぜ。その精度も伝えるイメージ次第ってな。
早苗も起きたっつーなら、丁度いい。手を貸せ。いや、この場合は頭か?
とにかく四人も揃って幽々子のイメージをペンデュラムに伝えれば、二百メートル以上の距離は余裕の筈だ」


私を始め、誰もその文句を否定する言葉など思い浮かびません。
皆が視線を合わせ、頷き合い、そしてペンデュラムに手を重ね、必死に幽々子さんのイメージを送ります。
果たして、ペンデュラムは動いてくれるのか。程なくして、ツツッと微かな音を立て、藍色の水晶体が、方向を示しました。
私達の試みは無事に成功です。そしてジャイロさんが手早く地図を取り出し、ペンデュラムの先に何があるのかを確認します。


「永遠亭だ!!」


ジャイロさんの言葉と同時に、私とポルナレフさんは出かける準備に取り掛かります。
しかし、そこに「待ってください!!」と早苗さんの大きな声が届けられました。


「あの、私の足のこと……皆さんのおかげなんですよね? 今もこうして立って、歩けるのは。
ありがとうございます。私にはまだやらなければいけないことがあるんです。
それを続けられるようになって、感謝の言葉も絶えません。本当にありがとうございました」

「別に俺たちは大したことはしてねー。早苗を助けたのは、花京院だ。ソイツが起きたら、今の感謝の礼を伝えてやりな」


ジャイロさんは馬に飛び乗りながら、キザっぽく言い放ちました。
その言葉は謙遜からなのか、はたまた照れ隠しなのか。どちらにしても、ジャイロさんの姿は中々に様になっています。
しかし、早苗さんはそれに見惚れるわけでもなく、逆に苦渋に満ちた表情を作り出し、そこから疑問を吐き出しました。


「花京院君が、ですか?」


その異様とも思える早苗さんの反応に、私は訊ねます。


「どうかしましたか、早苗さん?」

「あ、いえ……私の最後の記憶に残っているのは、花京院君が瀕死の私を思いっきり叩いてくるものなんですよね」


その答えに、私を始め、皆が押し黙ってしまいました。
いえ、勿論、その時の花京院さんの行動を色々言い繕うことが出来るのですが、
それに対して、「他にやり方があったのでは」と反論が思い浮かんできてしまうのも、また事実なんですよね。
さて、この場合は、どんな言葉を投げかけるのが適切なのでしょうか。
私が思案が巡らしていると、ジャイロさんがこれまたキザっぽく言い放ちます。


「ま、その事も含めて花京院と話してみな」


丸投げです。ジャイロさんは一組の男女の時間を作ってあげるキューピッドのような装いで話しますが、
有り体に言って、今の発言は問題の丸投げに他なりません。とはいえ、ここで一から十まで説明するのは如何にも面倒ですし、
これ以上瑣末なことで、幽々子さん探索の時間を取られる訳にもいきません。そしてポルナレフさんも、私と同じ判断をしたようです。
早苗さんとの会話を急いで切り上げると、私の身体をいきなり抱っこして、ジャイロさんの馬に乗せました。
続けざまに、ポルナレフさんも颯爽と馬に乗り、勢い良く掛け声をかけます。


「よし、オーケーだ!! 行くぞ!! ジャイロ!!」

「あー、やっぱこういう流れになるようなあ」


ジャイロさんは馬を進めるわけでもなく、突然と愚痴り始めました。
その覇気のない様子に、ポルナレフさんは眉尻を上げて文句を放ちます。


「おい、ジャイロ!! 確かに三人乗りはキツイが、そいういうのは後にしてくれ!! 今は幽々子さんを探すのが先決だ!!」

「チッ、わーってるよ。まあ、阿求みてーなガキなら、嫉妬もしないだろ」


その言い回しで、何故あれ程ジャイロさんが私を連れて行くのを渋っていたのか、ようやく理解しました。
私が今、座っている席は、恋人専用だったというわけなのですね。
確かに恋人の居場所を、他の女性に占領させてしまうようでは、私の目から見ても格好いい男とは言えません。
しかし、場合が場合ですし、何よりも既に神子さんや私が乗った後のことです。その文句は、今更のことでしょう。
というか、一々私に喧嘩を売ってくるジャイロさんの姿勢は何なのでしょうか。私は子供ではありません!


そんな私の心の声が無事に届いたのかは知りませんが、ジャイロさんは表情を引き締めると、馬を前へ進めていきました。
三人乗り、竹林の中という悪条件にも関わらず、ジャイロさんの馬は私に強い風を感じさせて走ります。
この分なら、そう遠くない内に幽々子さんに追いつくのでは。私がそう思った矢先、突然と馬の足は止まりました。


「おい、どうした、ジャイロ!? また迷ったのか!? それとも馬がへばったか!?」


ポルナレフさんの声に微動だにせず、ジャイロさんはペンデュラムを見つめています。
何の道標もない竹林を迷わずに進めたのは、ひとえにそのペンデュラムのおかげです。
道を見失うと馬を止め、私達三人で再びペンデュラムに手をかざし、その行き先を示してもらう。
そうして幽々子さんとの距離を詰めていき、つい先程ジャイロさん一人でもペンデュラムが反応するまでになりました。
いよいよ合流は間近。その段になって、ジャイロさんは何故か先へを進むのを止めたのです。


「おい!! ジャイロ!!!!」


ポルナレフさんの怒鳴り声が私の耳をつんざくような勢いで入ってきました。
彼の焦りが形となって見えるかのようです。そしてそれに呼応するかのようにジャイロさんも大きな声で叫び返します。


「動かねえんだよ!!」

「ああ!!?」

「ペンデュラムの動きが止まっちまったって言ったんだよ!!」

「てめえ、ちゃんと幽々子さんの可憐なイメージを伝えたんだろうなあ!!?」


ポルナレフさんは馬を飛び降りると、ジャイロさんのペンデュラムをひったくりました。
ですが、ポルナレフさんがそれを手にしても、僅かに動く気配も見せません。


「きょ、距離が離れすぎちまったんだ……そ、そうだろう? おい、ジャイロ、阿求ちゃん、手を貸してくれ!」


ポルナレフさんはそう言うと、私とジャイロさんの手が届く距離にペンデュラムを持ってきました。
勿論、私とジャイロさんは必死になって幽々子さんの姿形を頭の中に作り出し、それをペンデュラムへ伝えます。
一分、二分と時間が経ち、私達の手や顔には汗が滲んできました。しかし、幾ら努力と時間を重ねようと、その結果は変わらずじまい。
ついにはポルナレフさんの失意に染まった顔を、変化させることはできませんでした。


「あの、ポルナレフさん、幽々子さんはもう……」


私が口を開くやいなや、ポルナレフさんは私の胸倉を掴んできました。


「言うなッッ!! その先は言うんじゃねえ!!」


その勢いと力強さに、私の首は絞められ、思わず咳き込んでしまいます。
ポルナレフさんは慌てて私から手を離し、謝ってきてくれましたが、
それでその場に立ち込めた悲愴な空気が綺麗に払拭されたわけでもありません。
寧ろ、ポルナレフさんの感情の乱れこそが、幽々子さんに訪れた暗い未来を、より強く皆に彷彿させるものでした。
ポルナレフさんも、それに気がついたのでしょうか、私の耳に聞こえるほど強く歯軋りすると、
次の瞬間、彼は口を大きく開けて吼えました。


「違う!! そんな訳ねええッッ!! 幽々子さんは生きているッッ!!!」


そう言うなり、ポルナレフさんは先程までペンデュラムが指し示していた方向へ駆け出していきました。
ここで身勝手な奴と罵れたら、どれだけ楽になるでしょうか。
ですが、哀しいことに、私はそこまで彼と自分を切り離して、考えることはできませんでした。
ポルナレフさんの中で吹き荒れる悲痛な思いは、私の中にだって当然あるのです。
しかしだからといって、そんな感情の奔流に呑まれ、目的を見失ってしまうのは、私の役どころではありません。





言葉で支える。





それが戦うことのできない私の決めた覚悟なのですから。





「ジャイロさん」と、私は俯いていた顔を上げて、声をかけました。

「判っている」と、ジャイロさんは力強く応えます。「だが、話をするにしても、まずはあの馬鹿を取っ捕まえてからだ」


ジャイロさんは、ポルナレフさんが投げ捨てたペンデュラムを拾い上げると、再び馬に跨り、手綱を引きました。
ポルナレフさんの走った道は、彼の当て所のない激情を示すかのように竹が斬りきざまれ、実に判りやすく私達に教えてくれています。
そうして馬を進めて、しばらく経つと、周りを見渡せるような開けた場所へと辿り着きました。
ジャイロさんの脇から前を覗けば、私の家にも引けを取らない何とも立派な屋敷が佇んでいます。


「しっかし、相変わらず野暮ったい家だな、これ」


そんな台詞を放つジャイロさんの背中を、私は思わず殴りつけました。
この人は本当に私を煽るのが好きですね。もっとデリカシーというものを持てないのでしょうか。
とはいえ、私が先に述べた感想は、実際に口に出したわけではないので、
ジャイロさんにとっては、今の私の行動は疑問だらけでしょう。
当然、彼は私に文句を放ちます。


「いってーな。いきなり何すんだよ、阿求?」

「そんな小言や感想は後です。それよりもポルナレフさんと幽々子さんです。ここが永遠亭ですよ、ジャイロさん」


ジャイロさんの非難をさらりと受け流し、私は馬を下ります。
当初の目的地に着いたことを知ったジャイロさんも、不満だらけの顔を治すと、その視線を永遠亭に向けました。
すると、それを待っていたかのように、幽々子さんの名前を連呼するポルナレフさんの叫び声が、聞こえてくるではないですか。
探し人の一人を見つけたジャイロさんは馬を下りて、急いで永遠亭の門をくぐりぬけ、私も遅れずに後に続きます。


永遠亭はひどい有様でした。戸や障子は跡形もなく吹っ飛び、壁は穴だらけ。
そして幾つもの柱が折れ、それが支えていた屋根が今にも落ちてきそうな気配を見せています。
まるで嵐が通り過ぎていったかのような破壊の痕。その惨状は、ここであった激しい戦闘を如実に描写しています。
そして肝心のポルナレフさんは、夥しい血痕がある縁側で跪き、今にも泣きそうな声で、言葉を搾り出していました。


「クソ、クソッッ! 俺は……俺はまた守れなかったというのかぁッッ!!」


そこにある血は既に乾いており、まだ別れて間もない幽々子さんの死を明確に告げるものではありません。
しかし、幻想郷にある能力やスタンドの能力を使えば、死亡時刻をずらすことぐらいは、容易なはずです。
ましてや、単に血を早く乾かす程度なら、何の力もない私でも幾通りもの方法が思い浮かびます。
戦闘の痕、大量出血の痕、そして先程まで幽々子さんの所在を示していたペンデュラムを鑑みるに
幽々子さんの生存を楽観できる要因は多くないと言っていいでしょう。
ですが、縁側の板をブチ破る勢いで殴りつけたポルナレフさんは、
決然と目を開いて、口も張り裂けそうなほど大きく開きました。


「いや!! 幽々子さんは生きているッ!! そうに決まっているッ!!」

「おい、ポルナレフ、何を根拠に言っている?」


鬼も逃げ出してしまいそうなポルナレフさんの気迫を前に、ジャイロさんは努めて冷静に訊ねました。


「決まっている!! 幽々子さんの死体がねえからだッッ!!」

「生きているっつーなら、何故ペンデュラムが反応しねえ?」

「ヘッ、どうせ壊れちまったんだろ! ジャイロ、てめーの扱い方がワリィんだよ!」

「壊れているだぁ? じゃあ、これを見ろ。今、ペンデュラムはお前の方を向いているよな? 動いているよな?
すぐに否定できるような、つまんねー答えなんか、すんじゃねーよ。…………ポルナレフ、冷静になれ」

「冷静だぁ!? 俺は十分に冷静だね!! そいつが壊れてなきゃ、単に幽々子さんが探索範囲から離れたってことだろうが!!」

「俺は冷静になれっつったよな? 馬より速く動ける人間がどこにいる?」

「ケッ、てめーの駄馬より速い人間なんざ、幾らでもいるぜ!!」

「…………喧嘩売ってんのか、ポルナレフ?」


静かですが、重く、威圧的な声が、ジャイロさんから放たれました。
聞けば、ジャイロさんと、その馬であるヴァルキリーは、過酷なレースを共にしてきたといいます。
そんな大切な相棒を馬鹿にされては、ジャイロさんも我慢できるはずがないでしょう。
ですが、そのジャイロさんの怒りを目の当たりしても、ポルナレフさんは僅かに気後れする様子も見せません。
それどころか、更なる怒りでもって、ポルナレフさんはジャイロさんに応えました。


「ほー、プッツンくるのかい? だがなぁ!! 喧嘩を売ってきてんのは、てめーだろ、ジャイロォッ!! 
何故、幽々子さんが生きていることを諦める!!? 何故、幽々子さんを死んだ者として扱う!!?
まだ俺達は幽々子さんの死を何ンンにも確認してねええだろうがあ!!!」


その言葉にジャイロさんは口を閉じました。幽々子さんの死は、単なる状況証拠から推察したものに過ぎません。
つまり、幽々子さんの死を確実視できる材料は、どこにもないのです。ですが、彼女が死んだという公算は高く、
そして何より私達にはメリーという助けるべき人がいます。ここで下手に時間を費やしてしまっては、
私達は幽々子さんどころか、メリーさえも失うという最悪の結果に辿り着きかねません。


タンッ、とポルナレフさんは音を立てて縁側を飛び降りました。
どうやら彼はジャイロさんに見切りをつけたらしく、何も言わずにそのまま背中を見せて、門のほうへ歩いていきました。
ポルナレフさんの意図を察したジャイロさんは、慌てて食って掛かります。


「おい、ポルナレフ!! どこへ行く気だ!!?」

「幽々子さんを探しに行く!! 今もこうしている間にも、幽々子さんは俺の助けを待っているかもしれねーんだ!!」

「それじゃあ、メリーはどうする!? アイツは敵に捕まっているんだぞ!! 放っておくっつーのか!!?」

「…………彼女の事は、お前らに任せる。ここからは別行動だ。ま、花京院と早苗ちゃんには、よろしく言っといてくれや」

「こいつはミイラ取りがミイラになるな」

「ああ!? どういう意味だ、それはよ!?」

「お前一人じゃ、何もできねーっつってんだ!! おめーだけで幽々子を探せるのか!? 一人で勝手な真似してんじゃねーぞ!!」

「ジャイロ、てめー、どの口がほざきやがる!!」


「全くです」と私は心の中でポルナレフさんの台詞に頷きました。
ジャイロさんは、一人でノトーリアス・B・I・Gに向かった時のことを、もう忘れてしまったのでしょうか。
とはいえ、あの時のジャイロさんは敵を倒す算段がついていたみたいですから、ここで不平を言うのは間違いでしょう。
そしてそれとは反対に、今のポルナレフさんは何の計画もなく、自分の気持ちだけで幽々子さんを探そうというのですから、
理がジャイロさんにあるというのは、当たり前のことです。尤も、それでポルナレフさんが『納得』するということもないのでしょうが。


結局の所、私がすべきなのは『妥協』という『指針』をポルナレフさんに押し付けることです。
あの時、ジャイロさんに話したように。勿論、それで『納得』足りえないであろうことは、百も承知です。
しかし、いつだって『納得』できる結果が得られるほど、この殺し合いは優しいものではありません。
私達は、その厳しさをどこかで受け入れなければならないのです。そうでなければ、きっと『納得』は破滅へと身体を押しやってしまうことでしょう。
違う。そうであってはならない。『指針』は終わりではなく、前に進む『道』を示すべきなのです。




だから、ここで私が、言葉にします。



私達が置かれた『現実』を、私達が取る『選択』を、私達が進む『妥協』という道』を。



幽々子さんのことは諦めて、メリーを皆で探しに行きましょう、と。





だけど、私の口から、そんな言葉が出ることはありませんでした。
私がポルナレフさんに話しかけようとした正にその瞬間、私の脳裏に過ぎってしまったのです。
まだポルナレフさんと戦っている時、私が幽々子さんとメリーを背にして、その場を去ってしまったことが。
ここで幽々子さんを諦めるのは、あの時と同じことではないのだろうか。
そう思った瞬間、私の中で『感情』が吹き荒れ、『理性』を侵食し始めました。




幽々子さんは、きっと生きているから、彼女を皆で探しに行きましょう、と。





だって






だって、当たり前じゃないですか!!!






私だって、幽々子さんには生きていて欲しいですから!!!!





元々、私のせいで幽々子さんを見失ったんです!!!





その責任を軽々と放棄できるはずもありません!!!





でも





それでも、私がしなければいけないことは、幽々子さん見捨てることなんです!!!





どこにいるかも判らず、最早生きているかさえも判らない幽々子さんより、今も確実に生きているメリーを優先する。
どこにも非のない考え方です。きっと、この考えには幽々子さん本人も同意してくださることでしょう。
そうして、私達は荒木・太田打倒への道程を進むべきなのです。
それが正解だとも、私の『理性』が告げています。


ですが、私の『感情』は、幽々子さんの捜索をこのまま続けることこそが、正解だと叫びます。
彼女を無事に探し出して、メリーも助け出せば、ハッピーエンド。何の文句もない綺麗な終わり方です。
そこには、幽々子さんを見捨てることへの罪悪感もありません。皆が笑顔なのです。
そしてその光景を見れる可能性は、決してゼロではないのです。それを手にできる可能性があるんです。




だから、私は決して幽々子さんを諦めてはいけないんです!!!





私の前に新たに現れた二つの選択肢――『理性』と『感情』
神子さんは、どちらを選ぶのが正解と言ったでしょうか。それとも、どちらもが正解と言ったのでしょうか。




判らない。



判りません。



この場合は、どちらが正解なのでしょうか。




私は言葉で皆を支えるのが、私の役目だと思っていました。そしてそれが私の立ち向かうことだとも。
だけど、私の足は前に進みもせず、それどころか、立ち上がって前を向くことすらできずにいる。
本当に滑稽です。本当にお笑い種です。





今の私には自分を支える言葉すら思いつかない。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『東風谷早苗』


ザッ、ザッ、と私と花京院君は力強く大地を踏みつけ、竹林の中を進んでいます。
勿論、戦いの疲労で身体を重く感じていますが、それで気持ちが折れるはずもありません。
私達が向かう永遠亭には、きっと仲間の皆さんが待っているのですから。
そんな風に気を強めていた中、突如として花京院君が私に声をかけてきました。


「あの、東風谷さん、少しいいですか?」

「どうしましたか? ひょっとして疲れてしまいましたか?」


私は後ろを振り向き、花京院君に訊ねました。
つい先程まで彼は気絶していたのです。身体の調子も、まだ良くないことでしょう。
そんな中で整地されていない道を強行軍で行くとあっては、花京院君にかかる負担は相当のはずです。
しかし、彼は別にそんな素振りは見せず、寧ろこちらを心配する様子で、一つの質問を投げかけてきました。


「……僕達…………迷っていませんか?」

「アハハ、まぁ確かに竹ばっかりの同じ光景を見ていたら、そう思いますよね。
でも、大丈夫です。それより先に進みましょう。時間が勿体無いですよ」


私は花京院君の実につまらない悩みを吹き飛ばしてやろうと笑顔で答えます。
ですが、彼の疑問は解決に至らなかったらしく、続けてこんな言葉を放ってきました。


「東風谷さん、あれを見てください。あそこの竹に傷が付いてますよね?」


はぁ、と私は頷きました。花京院君が指差す先には、確かに傷が付いた竹があります。
とはいえ、そんな傷が一つ、二つあったところで、私達の足を止める理由にはなりません。
私は徒に時間を浪費するばかりの花京院君を窘めるように、少し怒った口調で言います。


「それが何だっていうんです!? 余計なお喋りは、ここでおしまいです! さ、行きましょう!」


そう言って、私は颯爽と先へと歩き出しますが、花京院君の口から放たれた言葉が再度私の足を止めることになりました。


「その傷は、さっきこの道を通った時に僕が付けた傷です」

「そッ……それが何か?」

「東風谷さんは何か言うことがあるんじゃないでしょうか」


何の迷いもなく毅然と向けられる花京院君の瞳。
その真っ直ぐな視線に耐えかねた私は、吐露せずにはいられませんでした。


「だだだだだだって、仕方ないじゃないですかーー!! いつもは空を飛んでってるんですもんッ!!
こんな道なき道、判るわけないじゃないですかーーー!!」

「そうならそうと、何故早く言わないんですか!? こんなのは、時間のロスでしかないじゃないですか!」

「だって、だって、花京院君が期待に満ちた目で私を見るんですもん!! 何か言いづらいじゃないですか、そういうの!!」

「それは東風谷さんが、幻想郷は私にとって庭みたいなものですから任せて下さい、と言って先導したからじゃないですか!!
頼りにするのは、当たり前です!!」

「ああーーッ、そうやって人のせいにするんですか、花京院君!? そもそも皆を探しに行くって言ったのは花京院君じゃないですか!!
私は行き違いにならないように、あの場所で待っているのが良いって言ったのにーー!!」

「確かにそう言いましたが、僕はその判断を東風谷さんに強要した覚えはありません!」

「私の制止も聞かず、あんなフラフラの身体で動き出したら、一緒に行くに決まっているじゃないですか!! 
あれは強要と同じですよ、強要と!!」

「そうやって自分の責任を簡単に放り出すから、こんな事態になっているんじゃないですか! 迷子ですよ、迷子!
クソ、冗談じゃないぞ!  オンバシラの時といい、今といい、東風谷さん、君と一緒にいて、良いことに会った試しがない!
東風谷さんは疫病神か何かですか!!?」

「し、失礼な! 私は現人神です!!」

「それが何の神様か知りませんが、何のご利益もないじゃないですか!!」

「それは花京院君の信仰心が足りないからですよ!!」

「悪いことがあれば、信心が足りない。そして良いことがあれば、信心のおかげ。
一体どこのカルト宗教ですか!! 今時、霊感商法でも、もっとまともな売り文句を言いますよ!!」

「そんな犯罪者達と一緒にしないでください!!!」


怒りのあまり、私は大声を上げて、花京院君に踊りかかります。
しかしその瞬間、目の前が真っ白になって、私の身体は地面へと倒れていきました。
おそらくは失血による貧血、立ち眩みなのでしょう。そうして私の意識もが、どこかへ引っ張られそうになる中、
それを繋ぎ止めてくれる手が私の前に現れました。――――花京院君です。


彼は私が倒れそうになるのを見ると、すぐさま腕を伸ばして、身体を支えてくれたのです。
その驚きと衝撃で、私の視界は無事に色を取り戻しましたが、花京院君とて万全の体調ではありません。
案の定、私を最後まで支えることができずに、二人仲良く地面に倒れこむことになりました。
そして――――



むにゅ♪

     もみもみ♪



「キャー! エッチー!」などという台詞が漫画やアニメのシーンと共に思い浮かびましたが、
残念ながら私は最初の「キャ」だけを発するのが精一杯でした。その一音のみで、口を動かすのが億劫になる程、疲れてしまったのです。
その上、花京院君は「東風谷さん、重いので早くどいてください」と言ってくる始末。
女の子の胸を触っといて、出てくる感想がそれでは、乙女の恥じらいなど消えて無くなってしまいます。
私は花京院君のデリカシーの無さに重~く溜息を吐いてから、何とか身体に力を入れて起き上がりました。


私の信仰を犯罪とごちゃ混ぜにしたこと、私にセクハラしたこと、更には私のことを『重い』発言。
それらは怒るのに十分な理由ですが、どうにも怒れない私が、そこにはいました。
花京院君に支えられた時、私は思い出してしまったのです。あの化け物との戦いで、痛みと諦めに支配され、
投げやりにすらなった私を見捨てることなく、最後まで励まして、傍にいてくれた男性のことを。


「あの、花京院君、『続き』を教えて下さい」


私は唐突ですが、しっかりと言葉を発しました。私が意識を失う間際、私は彼に訊ねたことを今でも覚えています。
何故そんなにも私を気遣ってくれるのか、と。花京院君は、あとでそれを教えてくれると約束してくれました。
そしてその答えで、私は花京院君のことを許せそうな、もっと仲良くなれそうな、そんな気がするのです。


「早く教えて下さい!」


沈黙を続ける花京院君に焦らされた私は幾分か語気を荒げました。
もしかしたら、それはほんの少しあった私の面映さを隠すための誤魔化しだったのかもしれません。
しかし、花京院君はというと、そんな慌てふためく私とは正反対のように、冷静に、無感動に答えます。


「……さっきから、東風谷さんは何を言っているんです?」

「だ~か~ら、『続き』ですよ!!」私は更に語気を強めます。「花京院君は、どうして私を気遣ってくれるか!!
あの時は答えが曖昧なままで終わりましたけれど、『続き』を教えてくれるって約束じゃないですか!!」

「そうは言いますが、僕にはそんな記憶ないのですが?」

「また幻覚だって言うんですか!? 花京院君が私を叩いたのが、そうであったように!?」

「あの時の東風谷さんは朦朧状態にありました。幻覚の一つや二つは見るでしょう」

「花京院君に都合の悪い事は全部幻覚ですか!? それで私が納得すると思っているんですか!?
花京院君は私をアホの子だと思っていませんかァッ!?」


しばらっくれる花京院君に業を煮やした私は、地団駄を踏んで、彼に詰め寄ります。
ですが、その瞬間、私は目眩を起こし、再び花京院君を巻き込んで地面に倒れてしまいました。
そしてそこに追い討ちをかけるように、ザーーッと大粒の雨が降り注いできます。


背中と頭に訪れる冷たい水の感触に、耳に木霊する雨の音。


何だか、途端にどうでもよくなってきました。
実際、花京院君の気持ちを知っても、別にそこまで意味があることでもないですし……。
それに、ここで無駄に押し問答を繰り広げていたら、余計に雨に濡れてしまいます。
幾ら生い茂る竹の葉が傘の役割を果たしてくれるとはいえ、それも完全にとは言えません。
疲弊した身体を雨で濡らしたとなっては、それこそ身体に障るのは確実。
早急に、この雨を凌ぐ場所が必要となってくるでしょう。
私は自らに活を入れ、どうにかその場から起き上がります。


「行きましょう、花京院君」


私は襟を正すと、遅れを取り戻すべく、また雨を避けるため、歩を進め始めました。
すると、それを見た花京院君も急いで身体を起こし、私の背中を追ってきます。


「行くって、どこにですか、東風谷さん?」

「永遠亭に、です」

「……どうやってです?」


沈黙。


「…………………行きましょう」


問題ない、とは、言えませんでした。
これから私達が、どこに向かって行こうとしているのか、さっぱり判りませんでしたから。


【不明 迷い竹林のどこか/昼】

【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:迷子、体力消費(大)、精神疲労(大)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0~1(現実のもの、本人確認済み)、基本支給品×2(本人の物とプロシュートの物)
[思考・状況]
基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:永遠亭に向かい、仲間と合流する。
2:東風谷さんに協力し、八坂神奈子を止める。
3:承太郎、ジョセフたちと合流したい。
4:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
5:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
6:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持っていません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。


【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:迷子、体力消費(大)、霊力消費(大)、精神疲労(極大)、出血過剰による貧血、重度の心的外傷
[装備]:スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして花京院君と一緒に神奈子様を止める。
1:永遠亭に向かい、仲間と合流する。
2:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。
3:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
4:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
5:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
6:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
7:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。
※痛覚に対してのトラウマを植え付けられました。フラッシュバックを起こす可能性があります。


【D-6 迷いの竹林 永遠亭/昼】

【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、生命探知機@現実、エイジャの残りカス@ジョジョ第2部、稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:幽々子を諦める or 諦めない
2:私なりの生き方を見つける。
3:メリーを追わなきゃ…!
4:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
5:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
6:手記に名前を付けたい。
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です。
※はたての新聞を読みました。


【ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、身体数箇所に切り傷、胸部へのダメージ(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 、???(※)
[思考・状況]
基本行動方針:メリーや幽々子らを護り通し、協力していく。
1:幽々子を諦めない 。
2:メリー及び幽々子の救出。
3:仲間を護る。
4:DIOやその一派は必ずブッ潰す!
5:八坂神奈子は警戒。
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。3部ラストの承太郎の記憶まで読み取りました。
※はたての新聞を読みました。
※ノトーリアス・B・I・Gが取り込んでいた支給品のいずれかを拾ったかもしれません。次の書き手の方にお任せします。


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(大)、身体の数箇所に酸による火傷、右手人差し指と中指の欠損、左手欠損
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船、ヴァルキリー@ジョジョ第7部
[道具]:太陽の花@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:幽々子を諦める。
2:メリーの救出。
3:青娥をブッ飛ばし神子の仇はとる。バックにDioか大統領?
4:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す。
5:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン、八坂神奈子は警戒。
6:あれが……の回転?
7:遺体を使うことになる、か………
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢、八坂神奈子、聖白蓮、霍青娥の情報を共有しました。
※はたての新聞を読みました。
※未完成ながら『騎兵の回転』に成功しました。


139:幻想に、想いを馳せて 投下順 141:偽装×錯綜×アンノウンX
139:幻想に、想いを馳せて 時系列順 141:偽装×錯綜×アンノウンX
109:母なる坤神よ、友と共に 花京院典明 158:恋霧中
109:母なる坤神よ、友と共に 東風谷早苗 158:恋霧中
109:母なる坤神よ、友と共に 稗田阿求 146:迷いを断て!白楼剣!
109:母なる坤神よ、友と共に ジャン・ピエール・ポルナレフ 146:迷いを断て!白楼剣!
109:母なる坤神よ、友と共に ジャイロ・ツェペリ 146:迷いを断て!白楼剣!

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最終更新:2017年04月26日 11:06