「なんだか、神秘的な場所だな」
「当たり前よ。ここは『大蝦蟇の池』。
守り神である大蝦蟇様が棲み付くと言われてる、れっきとした聖域だもの」
物珍しそうに周りを見渡す吉良の感想に、パチュリーは自宅の蔵書で見た知識を披露する。
知識とは溜め込んでばかりだと単なる自己満足。自身の足で赴き、見て、体験し、実生活での応用を為せて初めて意義が生まれる。
耳学問など以ての外。こうしてパチュリーは、たとえ相手が外界の殺人鬼であろうとも、幻想郷の観光地をガイドすることに躊躇いはない。
無論、あの寺子屋教師ほどにはうるさくない程度に、だが。
「……綺麗な水だね。大蝦蟇サマとやらはどうにも胡散臭いが、守り神が棲むと言われても納得してしまいそうだ」
「その池の水は『神水』。神事の際には欠かせない物らしいわ。私の目から見ても確かな魔力が宿っているお墨付きよ」
いかにも西洋かぶれ然とした見た目のパチュリーだが、その本領はどちらかと言えば東洋の魔術師に当たる。
こういった日本特有のまつりごと、神性こそが彼女の操る五大元素の真髄そのものだ。
「ふむ……どれ、ここはひとつ」
無表情で腰を下ろしたまま吉良は呟き、決して大きく音を出し過ぎないよう極めて丁寧にパン、パン、と拍手を打つ。
そして両手を下げ、分度器で測ったかのようにピタリ90度頭を下げ、静かに立ち上がりもう一度軽く45度頭を下げる。
過程を幾らか排除しての見事な二拍手一拝であった。これに多少なり驚いたのは傍で見ていたパチュリー、ぬえの両方。
この男が信心深そうには見えないところから、その行為は単なる願掛けであろうとは思うがしかし。
これではまるで彼が『普通の男』に見えるではないか。
「……何というか、意外ね」
「『こんな風習に沿う様な男には見えなかった』……そう言いたげな顔だな?」
「そう言いたげですもの。少なくとも私が持つ殺人鬼のイメージじゃあないわね」
歯に衣など着せる気のないパチュリーの言葉選びは吉良を幾分か不満気な表情にさせたが、それにも慣れたのか。
やれやれといった顔で吉良は頭を振り、若干ダルそうに反論を述べることで魔女への仕返しとした。
「……君たちが仗助共からどこまで私の下劣な情報を聞いたかは知らないが、少なくとも今まで私は立派に人間をやってきた。
有名な美術家の作品を見て心動かされることもあるし、美しい景色に癒される常識的な価値観くらいある」
彼のしかめ面は言外に「少しは普通の人間らしく扱え」と言った様なものであり。
今まで当たり前のように『吉良は恐るべき異能者』と認識していたパチュリーは、自らが抱く語弊に気付く。
この男にも人生はあり、過去はある。
普通の人間とは明らかに異なる性を持ちながらも、普通に生きようとしていた男。
平穏を望み、安寧を願い、常に己の理想の平和に手を伸ばしてきた。
因果者にして、果報者にも類されるのだろう。
彼は快楽の為に殺人を犯したことなど一度として無いのだから。
殺人とは、彼が生きる為の性質そのものに根を張った、抗うことの出来ない『呪い』でしかないのだから。
正直、人生の殆どを文字空間で胡坐掻いてきたパチュリーや、暴を誇示して我を通す吸血鬼のレミリアなんかよりよっぽど人間らしいというか、『普通』だった。
『殺人鬼』というどうしようもない部分を除外さえすれば、吉良は意外と人間味溢れる存在かもしれない。
基本的に他人に関心が無いパチュリーは、ここに来てようやく『人間』の多様さを知覚した。
吉良の闇である部分はあくまで彼の一側面でしかなく、その裏側に光を当てれば今まで見えなかった実体も浮き出てくる。
だが、だからといってパチュリーが吉良に対する評価を上方修正するのかといえば……
「―――アンタねえ……涼しい顔で言ってるけど、自分が何やったか忘れたわけじゃないでしょうね……!?」
我慢し切れないといった風に口を挟んだのはぬえだ。
正論でしかない。ぬえの言ったことは何もおかしくはなく、現に吉良はつい先程ひとりを殺したばかりなのだ。
そんな男がまるで被害者面のように「普通扱いしろ」とは、ちゃんちゃらおかしい。
「……どうやらぬえ君はあくまで私を快楽殺人者に仕立て上げたいみたいだが」
「いや、実際河童を殺してるでしょアンタ! そんなキレた奴が横に居れば誰だって糾弾したくもなるわよ!」
「言ったように、アレは仕方なしに始末しただけだ。にとり君が康一君を殺したことも事実だし、下手すれば私が彼女にやられていたかもしれなかったのだからね」
確か正当防衛、だと吐いたか、この男はあの時。
吉良の建て付ける反論も分からないでもない。にとりに危険思考の疑いがあったのはパチュリーこそが最もよく知っていたのだから。
事実はどうあれパチュリーは、にとりが死んだことで最悪吉良に命を救われた可能性すらある。
にとり手製の『爆弾』なんてとんでもない物が後から出てきた時、確かに身震いがした。ゾッとしたのだ。
事はもっと重く見るべきであった。藁の砦から組まれ続けた要塞は、どこまで過程を経ても所詮は薄っぺらい藁でしかなかった事実を。
故にパチュリーはこれから先、もっと周りを見ることに専念しなければならなくなった。
異変打破を志す巨大な集団も一皮剥けば、脆く細長い柱によってのみ支えられていることを自覚しなければ。
誠に不本意だし性でもないが、事実上この集団のリーダー核を担っているのは自分なのだ。
誰が言い出したことでもないし、他にも夢美や慧音といった知者は確かに居る。(夢美にリーダーはまず不適応だが)
言わば代わりの利く役職とも言えるが、それでも己にしか出来ない領域というものはある。
周りを見る、ということは人間関係を纏める、ということだ。
傍若無人な友人(科学バカではなく吸血鬼の方)とは違い、カリスマなど一寸すら無いもやしの自分にどこまでやれるか。
パチュリーは己の内に澱む不安を臆面に出さないよう、いがむぬえの前面を遮った。
「はいはい喧嘩はやめなさいな御二人さん」
「パチュリーさん。一言言わせて貰うと『喧嘩』とは同レベルの、それも極めて程度の低い者同士が行う内容の無いいがみ合いであって、少なくとも私の方は……」
「それに吉影。貴方だって事実、私たちを爆弾と称し人質にした行為を忘れてないでしょうね?」
「……そのことは『水に流す』取り決めだったハズだが?」
「水には流せても、過去までは流せないということよ。私はただ厳然たる事実に釘を刺しただけ。貴方と敵対してもメリットは無いしね」
平気な顔のようでいて、実の所パチュリーの内心は冷や汗ものだ。
吉良の能力は異変解決の『鍵』にも成り得る。その彼をここで失うわけにはいかない。
となると体面上でもパチュリーは、吉良を守るように動いていかなければならないということだ。
その吉良に喧嘩を吹っ掛けるような真似を続けるぬえの方が余程危なっかしい。
とはいえ彼女の言い分も理解できるし、パチュリーとて通常ならこんな汚れ役は御免だった。
一時的にでも『人の上に立つ』ことの困難さが身に沁みて分かる。これではレミリアを馬鹿に出来ない。
「……まあいい。ところで『水に流す』といえば、さっきからパチュリーさんは身体を濡らしていないようだが?」
背後でぬえの険しい視線を受け止めながらパチュリーは、吉良のちょっとした疑問に答えることで内なる焦燥を霧散することに決めた。
指摘通り、パチュリーの身体は少しも濡れてなどいない。この雨の中なのに、だ。
少し前からポツポツと音を立てて降り注がれてきた雨水は、少しずつ勢いを増してこの大地に吸い込まれていく。
この大蝦蟇の池の周りには雨を凌ぐには困らない分の木々が茂っており、多少は傘の役目を担ってくれる。
しかしそれでも吉良やぬえの頭髪や肩には、冷たい染みが絶えず点を作る程には雨水が注がれており、一方でパチュリーの身体にはまるで染みの痕がない。
「魔法よ、まほー。これくらい余裕よ、よゆー」
心なしか鼻高々に言ってのけるパチュリー。
その周囲数センチをよく見れば、確かに雨が弾かれているように見える。言うならば透明ドームが如く。
「五行説で言うところの相剋を応用した簡単な魔法よ。反性質の相手を打ち滅ぼして行く陰の関係……それが相剋。
これはその『土剋水』ね。土は水を濁すことが大自然の摂理。私が行ってるのは『土』属性の魔法。
雨という『水』属性に相反する『土』属性の魔法を纏うことで、雨粒を弾いてるのよ」
「……『土』は『水』に強い、というワケか。便利だが、わざわざ魔法など使うまでもないな」
相手だけ傘要らずなことを妬むことなく、吉良は少し首を見回して辺りを観察し始めた。
池の畔を探し、あっさりと目当ての物を発見する。その手に握られている物は二本の大きな植物の葉である。
「古来より人間はそこにある物で満足し、工夫を重ねてきたのだよ。
ハスの葉の表面は非常に細かい球状の細胞が覆っており、この凹凸が水を弾く超撥水性の役目を持っているらしい。
ジブリ映画のトトロも持っていたサトイモの葉もコレと同じ物さ。わざわざ土の魔法とやらを習得するまでもないということだ」
「トトロ……? 外界の妖怪だったかしら、確か」
小さめの頭を乗せた首をちょこんと傾げるパチュリーを無視し、吉良は二本の内の一本のハスをぬえに手渡した。
その手つきと仕草は至極体面的なものではあったが、幼稚な感情でこれ以上身体を冷やすのも馬鹿馬鹿しいと思い、ぬえは渋々と葉を受け取る。
同時に毒気が抜かれたように彼女は口を閉ざし、一方的な吹っ掛けが再び発動することはなかった。
自然が生んだ傘によってようやく雨水から身を守る手段を手に入れた吉良は、そのままついでとばかりにパチュリーへと会話を促した。
先までのお喋りとは違って、今度は重要な話題である。
「―――時にパチュリーさん。魔法といえばだが……」
「ええ分かっているわ。休憩がてら、ここらで『検証その2』を始めようかしら」
目尻を下げて本題へと話題を振る吉良の横をスッと通り過ぎ、パチュリーは池の前までトコトコと歩く。
「さて、いいかしら吉影? 私たちはついさっき、この会場の『端』まで行って結界を見てきたわね」
「透明の見えない障壁で四方を囲む憎たらしい結界だったな。そして私の『キラークイーン』の能力も通じる気配はなかった、と」
十数分前、パチュリーら一行は既に会場端の結界まで足を運んでいた。無論、吉良の能力による実験検証の為だ。
まず『キラークイーンで結界は破壊できるか?』という検証だが、結果はパチュリーも予測を立てたとおり、『不可能』だった。
以前にも夢美との協力で結界へ弾幕攻撃を仕掛けてみたものの、その時も彼奴めは無傷。結界はその大仰な名前を地に堕とすことなく役柄を完璧に全うした。
弾幕で駄目ならスタンドは?という僅かな可能性も、惨敗。哀れキラークイーンは障壁に触れただけで大きく弾かれ、爆弾化叶うことなく検証は失敗を以って徒労に終わった。
当然と言えば当然の話である。この策が成功しようものなら今まで自分たちがウンウン頭を捻って導き出してきた考察とは何だったんだという話になる。
故にこれはパチュリーの中では予定調和。本番なのは今から行う検証その2の方だ。
「確か……『魔力』もといそれに準ずるエネルギーを私の能力で爆弾化できるか、といった実験だったな」
「ええ。これが不可能なら脳内爆弾の解除実験方策を根本から考え直す必要があるわ。踏ん張り時よ」
吉良へ無駄にプレッシャーを掛けながらパチュリーは池の前に腰を下ろすと、その白く細い手で水を掬ってみせた。
その行為に如何なる意味があるのか。吉良はいちいち焦れったく勿体ぶるパチュリーに説明を要求する。
「魔力の実験にその池の水が必要なのか?」
「というわけでもないけど、ここの水は特別魔力に満ち溢れてるからね。その神秘を少しだけ借りさせて頂くわ。
吉影、そもそも魔力って何なのかわかる?」
普通の人生を目指してきた吉良にとって、本家本元の魔法使いから直に魔法講座を教授するなどとは思ってもいなかった。
今まで散々魔法魔力だのの言葉が飛び交ってきたが、こうして改めて訊かれても本職ではない吉良が答えるには少々厳しい質問である。
「よね。いいわ、パチュリーレッスンよ。まず、この世界の魔力は大きく分けて二種類あるの。
生物が生まれながらに秘める小さな魔力……有る人無い人いるんだけど、これを『小源(オド)』と言って、魔法使いはコイツを魔術回路で魔力に変換して魔法を使うの」
わざとらしくコホンと咳払いをして説明する彼女の姿はどこか誇らしげだ。
対照的に吉良はイマイチ実感に来ないのか、「そんな薀蓄はどうだっていいからさっさと実験とやらを開始しろ」とでも言いたげな視線を投げ続けている。
「でも個人の小源には限界がある。だからこの大気中に満ちているもう一つの魔力『大源(マナ)』を取り込んで大きな魔法を使ったりするのよ。こっちは無尽蔵だし実質タダよ」
「なるほどな。しかしパチュリーさん。そんな薀蓄は正直どうだっていいからさっさと実験とやらを開始して欲しいのだが」
気を良くしている所に吉良の遠慮の無い一撃で殴られ、一気にむくれたパチュリーは頬を膨らませ、また吐く。
どうにも人間というものは過程を省きたがるクセがある。
楽を求め、近道をし、ズルをしたがるのが人間たちの特性であり、それは時に長所ともなるのだが。
(そもそも魔法が生み出された経緯自体、人間たちが楽をしたいが為、ズル目的な事実だってあるわけだけども、ねぇ)
何の効能も生み出さない思案を早々に投げ捨て、パチュリーは説明の続行を決意する。
こんな先生役は寺子屋の牛女に任せるとして、今はただ必要な事柄だけを説明すればいいのだ。
「……そうね。ところで吉影。さっき言ってた『実験には絶好の隔離空間』だけど……」
「……あぁ、まあ確かに私はその場所を提供できる、が……。今からそこで実験を行うのか?」
「正直何が起こるか分からないしね。あまり目立ちたくもないし、念の為ってやつよ」
少し前のことである。
パチュリーはこれから行う実験(主に康一の頭部の解剖)を行う場所について頭を悩ませていた。
なにせ埋葬したばかりの康一の身体を掘り出し、あまつさえ頭部を切断して実験台にしようというのだ。
この壮絶な解体現場を仗助に目撃された日には彼がどれだけ爆発するかわからない。少なくとも事は穏便に運ばないだろう。
メンバー全員の集合地として設定したジョースター邸にて取っ掛かりの実験を始めるには間違いないが、あまり仗助には見られたくない。
となれば念には念を入れて万全な環境を用意したい……といったぼやきをパチュリーが呟いた時であった。
「―――あ~~、その……パチュリーさん。その悩みならば私が解決できる手段を持っているかもしれない、が……」
意外や意外。助け舟は思わぬ方向から流れてきた。
吉良がそんな都合の良い場を提供してくれるということである。
尤も、彼の表情はいかにも気乗りしないといった風で、恐らく己の隠し持つ情報を公開することに若干の躊躇いがある、といったとこだろうが。
「―――で、その『亀』が実験場になってくれる……と」
「広さも悪くなく、実験場としてはおあつらえ向けな物件だと思うがね」
こうして彼の手にはエニグマの紙から飛び出た亀が握られることになる。
ハッキリ言って眉唾物の情報だが、これもスタンドとやらのブッ飛んだ恩恵なのだろう。
となれば次に「どうして今までそんな有益な情報を黙っていたのか」と問い質したくもなるが、そもそもこの男は他人に正体を隠して生きてきた人間だ。
極力、手の内は晒さない性分なのだろう。それが今回こうした形で協力を得ることも出来た。彼なりの譲歩が窺える。
「あまり時間も無いわ。早速亀の中に入らせて頂戴」
「背中の『鍵』に触れれば一瞬で中に入れる。やってみてくれ」
言われるがままに亀の『鍵』に腕を伸ばすパチュリー。
瞬間、視界が変貌した。気付けばそこはホテルの一室を思わせる、ちょっとした休憩場だ。
常時にはこの部屋で本に埋もれていたい衝動すら駆られ、思わず頬が綻んだ。
良い気分も束の間、パチュリーの後に続いて吉良も部屋に入ってくる。
これからここで実験をするのだから当然なのだが、部屋の中でコイツと一緒というのは如何にも息が詰まりそうで早くもここから出たくなってきた。
「……ってあれ? ぬえ~~~~? 貴方は入ってこないの~~~~?」
天井に向かって声を張り上げ、そこに居るはずのぬえに救援を求める。吉良と二人っきりはちょっと勘弁して欲しい。
上部に設置されたままの『鍵』の外。半透明で映る外の風景にぬえの下顎が大きく現れた。
どうやら自分らは本当に亀の中に入っているらしく、外のぬえが巨人に見える。気分は打ち出の小槌の魔法を浴びた一寸法師だ。
「私は……いいや。亀が変なとこ移動しないよう見張ってるから、実験なら二人でやりなよ」
素っ気無く返事する彼女の表情は暗い、というより無表情に近い。
さっきからずっとこの調子だし、喋る時は喋るのだがどうも何を考えているのか掴めない。
とはいえ見張り役も無いよりはいい。心に引っ掛かるものを感じながらパチュリーはぬえの気持ちを汲み、このまま実験を行うことにした。
「さっ。じゃあとっとと始めるわよ吉影」
「魔力を爆弾化できるか?だったな。……未だにピンと来ないのだが」
吉良の疑心は尤もで、パチュリー自身もかなり不安であった。
まずスタンドなる概念がどこまで万物の物理現象に干渉できるか見当もつかないし、ここにも主催者の制限が施されていたら実験はいきなり終了である。
魔法使いの歴史とは、探求と挑戦の歴史だ。
不可能を可能にする、と口に出せば胡散臭い文句にしかならないが、魔法というものは本来そういった難問を解く為に工夫を重ねてきた手段。
出来ないならば別の方法を探せばいい。それがどんな遠回りだとしても、積み上げた歴史と知識は嘘をつかない。絶対に。
パチュリーは己の種族に誇りを持っている。
先祖代々受け継いできた血と智を嘘にしない為に。
この歴史を絶やさない為に。
『動かない大図書館』と比喩された魔法使いは、遠い光明へ向けて今、動くのだ。
果ての果て。真理の闇に覆われた僅かな灯火に、歩を進めるのだ。
有象無象の仲間達と共に、落とし穴だらけの道程を経て。
「やってみなければわからないわよ。吉影、スタンドを出して」
「…………」
途端に吉良の表情が曇る。命令されるような口調に不満があるのか、秘中のスタンドを自ら見せ開かすことに抵抗があるのか。
だがここで子供のように駄々をこねるほど彼も馬鹿ではない。この工程が必要な儀式だということは重々承知している。
「―――『キラークイーン』」
低く、狂気の腹底から這い出たような呟きが吉良の喉から発せられる。
現れたそのビジュアルや、シリアルキラーの切り札に相応しき禍々しさを宿した瞳の人型ヴィジョン。
パチュリーがそのスタンドを目撃するのは康一死亡時に続き二度目となるが、痛切に思う。
―――コイツとは、絶対に敵対したくない……と。
現在の幻想郷ではまず見られない、殺すことのみを手段に添えた圧倒的な暴の匂い。
仮に吉良が敵に回ったとして、勝てる自信が無いわけでもない。腐っても自分は大魔法を操る超級の魔法使いなのだ。
それでも、この男の、このスタンドに潜む殺意を向けられるのは絶対に御免被る。
それくらい厄介な男なのだ。
吉良吉影という人間は。
「……出したぞパチュリーさん。それで今から………………パチュリーさん?」
「…………あ、いえ。何でも、ないわ」
不覚。紅魔の動かない大図書館と(主に雑用メイドたちに)呼ばれたこの私が、たかが人間に恐怖を抱き、硬直するなんて。
額に浮き出た汗を軽く拭い、気持ちを整える。敵ならともかく、協力関係である男に何を警戒する必要がある。
吉良は話の分かる人間だ。彼に利する環境を与えている今、よほどの事でもない限り自分らに牙を向けたりはしないハズだ。
「失礼。それじゃあ今から魔力を見せるわね」
そう言ってパチュリーは人差し指を空に向けた。
透明なスケッチブックに筆を走らせるように彼女がツツーと指を軽快に滑らせると、どこから現れたのか水の球がその周囲を飛び回った。
「この水球は大蝦蟇の池で借りてきたさっきの神水。これには多くの『大源(マナ)』が含まれていると最初に説明したわね」
「マナ……つまり魔力か。その水っ玉を風船爆弾にすることが出来れば実験成功ということか?」
「んーちょっと違うわね。水は水。マナとは所詮、この水液体に付属した不可視の要素に過ぎないもの。
これを爆弾にしたところで、それは魔力の爆弾化とは言えないわ。言うとおり、ただの風船爆弾でしかないわね」
無重力にプカプカ浮かぶコーラの如く、パチュリーの指先には直径10センチほどの小さな水球が舞う。
ならばどうする?という抗議を言外に含んだ吉良の表情は、次のパチュリーの質問によって塗り替えられた。
「時に吉影? 貴方の能力って不定形物質にも作用するの?」
言われて吉良は少し考え込み、過去を振り返りながら逡巡する。
川尻家の庭に発生した『猫草』は空気を操るスタンド使いだった。その能力を応用し、空気爆弾として使用することを練っていたのも遠い出来事ではない。
兼ねてより自主的に実験は行っていた。
例えば、キラークイーンは『空気』すら爆弾にすることも可能だ。
ある程度密度を固めたものではないと流石に不可能だが、空気が可能なら目の前に浮かぶ『水』だって爆弾には出来るだろう。
「…………物にもよるだろうが、不可能ではない。そこの水球程度なら恐らく容易なハズだ」
「それは良かった。さっきも言ったけど、この水には魔力が込められている。
水だけじゃない。その辺に漂う空気や私達の踏みしめるこの土地、木々なんかにも本来魔力が存在するの。
それがマナね。魔法使いはこれらを吸収して魔術回路に組み込み、魔法を発動する者達なんだけど……」
「その肝心な魔力は目に見えない。……少なくとも私の目には」
「そういうこと。ちなみに私の目からも見えないわよ魔力なんて。肌で感じ取るものだしね」
するとなると当初の『見えない物、触れない物は爆弾には出来ない』という問題が壁となる。
猫草の空気弾の場合、相当質量を膨らませてゴム鞠のような弾力性ある気体に昇華できていたから触れることが可能になった。
しかし魔力というヤツはそうもいかないのではないだろうか。これを膨らませる、というのなら話は変わってくるが……
とまで考え付いたところでようやく吉良は、パチュリーのやろうとする事が理解できた。
「……水の中に宿る魔力のみを膨らませ、キラークイーンで直接触れられる水準まで質量を上げる?」
「ピンポン。流石に頭の回転が速いわね」
「茶化さないでくれパチュリーさん。そういうことが可能なら、百聞は一見に何とやらだ。取りあえずやってみせてくれないか?」
言われるが否やパチュリーは颯爽と水球に指を伸ばし、そのままブツブツと何事かを口ずさみ始める。
恐らく呪文の類だろうと吉良はその光景を興味深そうに眺めていると、彼女の柔らかそうな唇が宣言を唱え終えたと同時に事象が発生した。
空中で静止したままの水球内から「ポヨン」というコミカルな擬音と共に小さな膿のような物が分離したのだ。
「そのちっこい青色の微生物みたいな物が魔力なのか?」
「そ。水の中に眠るマナの質量を可視領域にまで高めて分離させたの。
魔力にも色はあるんだけど、この程度のマナ量なら薄い青色に見えるハズよ」
パチュリーはひと仕事終えたように前髪を軽く整え、こっちは用ナシとばかりに残った水球を地面に突き落として破裂させた。
フワフワ浮かぶ魔力をツンツンと突つきながら弄ぶその様は、まさに幻想の魔女と言うに相応しい。
さて、ここからの仕事はスタンド使いである吉良の領域。傍に並び立つキラークイーンを眼前に動かし、その腕をゆっくりと振り上げる。
「これを……爆弾化させればひとまず実験は成功、という認識で良いんだな?」
「ひとまずはね。私にさえ触れられるんだし、多分大丈夫だとは思うけど」
この肉体に掛けられた忌々しい呪いの根源が魔力の類だとして、その容量が常識を逸脱した大きさだとはどうにも思えない。
そこまで巨大な圧力を持つ魔力ならパチュリーや他の賢者達にも一発で見抜かれてしまう。それは主催者の本意ではない筈だ。
しかし以前夢美とスタンドを使って体内をくまなく検査した時にはそのような魔力の基になる呪印や方陣など一片も見付からなかった。
我々に施された爆弾や制限の呪い、そのスイッチとなる起源はあくまで小さな魔力を源にして体内に仕掛けられている。パチュリーはそう当たりをつけていた。
ならばその程度の魔力、発生源さえ見つけられればこちらから対策を仕掛けることも可能だ。
これはその第一歩。
吉良の能力が魔力でさえ爆破出来るのだとすれば、体内を伝う呪いの魔術回路そのものを完全に無効化できる可能性はある。
魔法とスタンドに如何なる関係性があるかは知ったことではないが、主催者太田がスタンドの管轄外だとしたらそこに隙が存在する。
無論、もう一方の主催者荒木がここに手を加えていたら対策はより困難と化すだろうが。
「……キラークイーン。ソイツを『爆弾』にしろ」
白き殺人鬼の腕が、青い魔力の塊を透過する。
……一見、何も変わっていない様に見える。パチュリーは吉良を横目でひと睨みすると、吉良は右手で丁度スイッチを押す構えを作った。
躊躇無く、スイッチに向けて親指を振り落とす。
カチリ、という擬音が二人の耳を突き抜けた。
ボンッ
魔法薬の調合に失敗した時とよく似た小さな炸裂音が、部屋の中に木霊する。
パチュリーが予想したよりも遥かに小ぢんまりした爆発が彼女の瞳に刻まれた。
「成功ね」
「……随分とあっさりした実験だったな」
吉良の呟く通り、参加者の運命を握る一大実験の先駆けにしては、思ったよりも小さな祝砲音で幕は閉じられた。
これではやりがいも無ければ実感も無い。果たしてこれは本当に喜ばしい結果なのだろうか。
「当たり前でしょ。これはあくまでこの先進める実験の前提を確かめる為のもの。実験の実験なんだから。
とにかくこれで分かったわね。貴方のキラークイーンは『魔力すらも爆弾に出来る』ってことが」
涼しい表情でパチュリーは内心、胸を撫で下ろす。
実験の成功は勿論ありがたい結果なのだが、それ以上に彼女は腹に抱えていたもうひとつの懸念の解消に安堵したのだ。
吉良のキラークイーン『第1の爆弾』とやらは、同時に複数の対象を爆弾に変えることは出来ないらしい。
となれば今ここで彼が魔力の爆弾化、加えて爆破を行ったということは、彼は『誰も爆弾に変えてはいなかった』ということになる。
にとりを人質にし、実際に爆殺した男のことだ。彼があれ以来、誰かを再びこっそり『人質』にしてはいない、という確証なんか無かった。
パチュリー自身、吉良の素振りには最大限警戒していたが、自分が気付かぬ内に爆弾にされている可能性もゼロではなかった。
もし爆弾にされていようものならこの先、この男に対して都合の悪い意見は問答無用で全て封殺されることであっただろう。
その懸念も木っ端のように消滅した。吉良も自身が置かれた立場の重要性は理解出来ているということだ。
(これでひとまずは準備完了ね。……まだまだ乗り越える関門は残っているけど)
今回は実験対象がただの『マナ』だったからこうも上手く行っただけに過ぎない。
次なる実験は死体であるとはいえ『人間』だ。まず、本当に体内に仕掛けが施されているかが分からない。
よしんばその源流に辿り着き、更なる実験の成功を収めたとしても、最後の難関は『生きた人間』を対象とする行いだ。
これは実験などでは収まらない。失敗がそのまま『死』に繋がる危ない橋渡りだ。
だからこそこうやって何度も実験を重ねていく。石橋は叩き過ぎて困ることは無いというもの。
「―――となれば次はどうする? さっさとジョースター邸とやらに足を運ぶのか?」
吉良の催促に少し考え込むパチュリー。下唇に人差し指を添えた可愛げのある思考姿は、多くの男性を虜にしてやまない光景だろう。
その彼女の考える脳内では、爆弾は解除すればいいものではない、という視野の広い考察が繰り広げられていた。
最終的な目標は主催打倒。最悪でもこの会場から脱出出来なければ意味が無いというものだ。
ならばこの段階で爆弾解除のみに行動を割いているだけでは根本的な解決には繋がらない。リーダーとは希望の道を常に見据えてなければ務まらない役職なのだから。
(魔力……う~ん魔力、なのよねぇ、問題は…………)
吉良の能力を利用した実験に関する工程は現段階で全て終了した。
凡そが上々の結果。これまではパチュリーの予想通りと言っても良かった。
そして今まではあまり深く考えてこなかった疑問が、来なくてもいいのにのそのそと湧き上がり、我が物顔で脳内を占領し始める。
つまりは『魔力』そのものだ。
これだけの参加者の数に一度に呪いを施し、制限を掛け、幻想郷にもよく似た不可解な会場を創り上げ、参加者たちを散らした。
余程膨大な魔術の行使が予想されるが、ハッキリ言ってここまで来ると次元が二層三層も違ってくる。
ならばこれもスタンドによる桁違いの恩恵か、とも思うが、それは更にあり得ない。
魔術の一切を使わずにここまで巨大な御膳立てを用意できるものか?
無理だ。パチュリーはスタンドには詳しくないが、どの世界の常識においてもそんな神業を一朝一夕で行えるわけが無い。そう決め付けた。
(じゃあ、やっぱり魔力……かしら。いやでも、それにしたって…………)
空いている椅子に腰掛け、肘を突いて思考に耽け込む。その様子を吉良は焦れったい目で睨んでいるが構いやしない。
そもそもおかしいのが魔力なのだ。
先ほど吉良に説明したように、より強大な魔法を使用する場合、通常なら人は大地に眠る『大源(マナ)』を借りる。
あの主催者が教科書通りマナを利用してこのゲームを創っているのならば、そのマナはどこから引き出している?
―――考えるまでもなく、今自分達が立っているこの場所。血が染み付いた母なる大地からだ。
ワーハクタクの妖怪・
上白沢慧音が満月でもないのに妖怪化していることからも明らかに見える。
今までは脳内爆弾について頭を悩ませていた故に大して重く見ていなかったが、こうして頭に余裕が出来てしまうとその異常は顕著に浮き出る。
現在の会場は満月の夜……ともすればそれ以上に魔力濃度が圧倒的に高い。
だからこそパチュリー達はこうして会場を隈なく歩き回り、魔力の密集地を発見する作業にも精を出しているのだが……。
(……どうも会場のどこかに魔力が密集している、って感じじゃないのよね。寧ろ……)
会場全域。土地全体に魔力が漲っている感じだ。
ここまで広範囲に魔力が漂うとなると、当初予定していた“魔力の密集地に赴き、その力を際限なく薄める作戦”に影が曇ってくる。
パチュリーもこれで立派な魔法使い。こうまで土地に密着した魔力が発生していれば、それを判別することは容易い。
この擬似的な会場は間違いなく、土台となった土地の持つマナを基にして創られている。
例えば仙人たちが手軽に創るようなインスタント異界『仙界』には、基になる土台は皆無に等しい。
創りあげる本人達の霊力や技術に依存する部分が多いので、恐らく仙界ではここまで大規模な空間は創れないのではないだろうか。
それも含めて豊郷耳神子に会ったら意見を聞いておきたいが、パチュリーの予想だとこの会場には歴とした土台がある筈だ。
幻想郷の中にも無い、圧倒的な魔力が秘められた基盤。
(一体……『どこ』なの、ここは……?)
いくら難しい顔して考えていても、ヒントの少ない現状では詮無いことだ。
無駄なことを考えるほど無駄な時間も無い。パチュリーは脳内で進めていた考察に栞を挟み終え、予ねて書き綴っていたメモにペンを走らせる。
パチュリーメモへの記録はこまめに行うべきだ。自分の身にいつ何が起こるか分からない。
突発的な敵襲によって殺されるかもしれないし、度重なる疲労により精神的に参ってしまうことも想定しておくべきだろう。
知恵の鏡も曇りかねない……危惧するべきはそういう事態だ。
霊夢や紫、知恵を貸してくれる賢者達は他にもいる。ならば今は自分にしかやれない事柄を進めておくべきだ。
パチュリーはもう一度己の立つべきポイントを客観的に俯瞰する。
まずはジョースター邸。状況が穏便に進んでいれば、そこでもう一段階足を進めることが出来る。
「―――出発しましょうか、吉影。目的地まで後は一直線…………」
現在までの考察・疑問点を記録し終え、威勢よく立ち上がったパチュリーは。
まず、最初に。
「――――――グ、は…………!?」
衝突してしまう。
ゲーム開始からおよそ『二度目』となる、身を焦がすような『得体の知れない何か』に。
一度目は
広瀬康一爆死の瞬間だった。
「吉、影……? どうしたの、その血――――――」
今回も、あの時と同じ。
目の前の『理解に及ばない光景』は、幻想の魔女の困惑を誘うには充分すぎた。
所詮、本の世界で生きてきた彼女だ。此の世で不意に起きる事故……『謎』に対する咄嗟の措置、それへの経験値が不足していた。
仲間であること以上に、吉良はこの先、実験の鍵に成り得る『護衛対象』とも言って差し支えない人物。
その男の口から大量の『カミソリ』が、血と共に吐き出されている光景を見て。
こともあろうに呆然と立ちすくみ、次への緊急行動を遅らせている。
醜態以外の何物でもない。
パチュリー・ノーレッジという確かな才女は、眼前の予期せぬ事態にただただ醜態を晒すのみだった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
端的に言って私は、焦ってたんだと思う。
何をかって? 決まってるでしょ。
吉良吉影を。あの腐った殺人鬼を始末することを、よ。
殺しへの倫理なんてそもそも気にしちゃいない。
だって私は妖怪だから。
強いて言えば、妖怪が人間に手をかける理由なんて、原初を辿ればそれこそが私達の本能だからだ。
身に染み付いた本能に反するなんて、そうそう簡単なことじゃない。
妖怪が気に入らない人間を殺して、何の不都合がある?
あの康一とかいう人間もそうだった。私からすれば本当に取るに足らない人間共。
だからソイツの死を利用し、吉良の生命という導火線まで誘爆しようと色々画策したってのに。
全部。
「全部…………メチャクチャじゃない……!」
レールが外れだしたのはどこからだっけ?
そう……あの闘牛頭の仗助が、にとりの爆弾を復元させた辺りからだった。
いつの間にか逸れてしまった軌道は、私の運命を背負ってあらぬ方向に進んで行ってしまっている。
時間が経ち、魔女の考察が進めば進むほど、吉良が持つ能力の重要性が如実に浮き出てくる気がしてならない。
つまりこれは『風船』のようなものだ。
私がこうやって『機』を待つ間にも、吉良という風船はどんどんと膨れ上がっていく。
気付けば取り返しがつかない所まで空気は送られ続け、最大限度まで膨れた風船を針で刺したなら―――待つのは大爆発。
風船というよりも『爆弾』ね。火薬が少ない内に爆発させておくべきなのよ、こういう時って。
「今ならまだ、被害は少ない……かもね」
これ以上魔女が吉良の有用性を上げない内に、動いてしまおうか。
何だってパチュリーの奴はあんな人間の同行を許可したのか。正直彼女の気が知れない。意味が分からない。神経を疑う。
だから私が。
今ここで。
喰ってしまえ。
暗殺にはうってつけのスタンド『メタリカ』で。
蛇のように這いずって、静かに息の根を止めよう。
理想はパチュリーにも気付かれないように、陰からそっと。
吉良の能力の代わりなんて他にも居る。魔女自身が言っていたことじゃない。
もしバレても、何とか誤魔化せる。
(この正体不明の大妖怪、
封獣ぬえ様が殺してやるよ…………下等な人間め)
端的に言って、この時の私は…………やっぱり焦ってたんだと思う。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
血。カミソリ。ダメージ。
―――攻撃。
様々な視覚情報を経てようやく導き出した結論は、全てにおいて一手先を許す結末に至る。
目の前の吉良が喉元を押さえて苦しむ姿を見てパチュリーは、これがスタンドによる現象なのではと予測したが。
「―――吉影っ! それは…………!?」
言葉や行動が、思考に追いついていない。
もしこれがスタンド攻撃の類だとしたら、それを『行っている者』が近くにいる筈だ。
緊急するべき行動は、その相手をいち早く発見する。或いは吉良と共に安全な場まで逃走することである筈だ。
分かっていても、パチュリーはそんなマニュアル通りの行動にすら移せずにいる。
イチ、ニの、サンで決闘開始の合図を放つスペルカードルールとは異彩を放つ、真の殺し合い。
きっかけも攻撃の正体も対処法も、何もかもが命名決闘法とはまるで違うのだ。
極論、避けて弾を撃つのみに終始するだけと言っていい幻想郷の決闘を教科書にした所で、今回のようなスタンド戦では大して役に立たない。
悪魔の館が誇る大魔法使いをしても。
幾千の魔術を究めた知の賢者をしても。
正体不明の殺意に対しては、対策を練る糸口すらも見付けられない。
「―――こんなふざけた災厄、原因は……決まっている、だろう…………ガハァッ!」
ボトボト。ドバドバと。
口内から溢れんばかりのカミソリの刃。僅か三センチばかりの鉄の諸刃が、何枚も何枚も。
まるで馬鹿げた手品のように、吉良の喉を切り裂きながら突如として現れたのだ。
「……スタンド攻撃、だ……! それ以外に考えられない……ハァー…ハァー……!」
自身を襲った理屈抜きの災厄。吉良はスタンド戦の百戦錬磨と言うほどではないが、今までの経験上、この現象の原因がスタンドによるものだとすぐに直感した。
見当をつけた上で、これから取るべき行動は自ずと選択が絞られてくる。
「これがスタンド攻撃なら『敵』は亀の外に居る……! クソがッ! あの小娘は何をやっている!?」
「敵……そうだ、ぬえはどうしたの!?」
吉良の言葉から数瞬遅れ、パチュリーも天井を見上げる。
見張り役を自分から引き受けた彼女だ。事が起こるまでどうして何一つ声を発さなかった? 敵襲を知らせなかった?
まず考え付いた推測が、ぬえも同時に攻撃を受けている可能性。最悪、殺されているかもしれない。
その推測を確かめる為にも、パチュリーと吉良が起こした行動は殆ど同時だった。
天井に腕を伸ばし、二人とも一瞬で亀の外に飛び出す。
「ぬえ……!? どこなの! 返事をしなさい!!」
「…………っ」
たかが数分ぶりに感じた外の空気が、いやに熱く肌を刺激してくる。
夢美やにとり、康一、慧音たち集団に遭遇した時のようなぬるい空気などではない。
今回のはパチュリーにもハッキリと感じ取れるほどに殺気に満ちた敵襲。完全に自分達が的に掛けられたエンカウントだ。
屋外に出たパチュリーはまず、ぬえを探す。
辺りは以前と全く変わらない光景。通常の大蝦蟇の池だ。
一見すれば襲われているとは分からない状況。しかし吉良の口元に染まる赤い染みが、なにより事態の深刻さを物語っている。
「吉影! そのカミソリはどうしたの!? いつ入れられた!?」
「知るわけがない……! 私は敵スタンドの影など一瞬たりとも見てはいない……!」
それなのに離れた場所から閉じた人間の口へと大量のカミソリを入れ込む技術。
この『謎』を解明しなければ対抗策など編み出せない。
ならばいっそ逃走を選ぶべきかもしれないが、ぬえの姿が見当たらないことが気になる。
(ぬえを……置いて逃げる……!?)
彼女が死亡している可能性があるのなら、あらゆる倫理を脱ぎ去っていち早く逃げる手段もアリだろう。
周囲360度どこを見渡しても、ぬえも敵の影すらも見えない。雨風だけが、木々の葉を揺らすのみだ。
パチュリーはすぐに魔法の箒に跨り、逃走の態勢をとる。
「―――逃げるわよ、吉……」
極力、戦闘の回避を皆に促してきたのは自分だ。
何よりも生きて情報を持ち帰ることこそが重要。故にパチュリーは決心をつけた。
ぬえの生存を確認しないまま、吉良を連れてこの場から撤退。それが最も合理的な選択に思えた。
しかしダメージを受けた吉良を箒に同乗させようと彼を振り返った瞬間、パチュリーは目撃することになる。
「―――吉影ッ! ハサミ!!」
吉良の喉内部にくっきりと大きく浮き出た刃物が、血管ごと両断する勢いでその両刃を開いている光景を。
「うぉぉおおおおおおッ!!!」
さっきのカミソリとはわけが違う、全長七インチはあろうかとも見えるハサミが吉良の喉に埋め込まれている。
パチュリーは数秒、吉良から視線を外していたが、一体どういう理屈でカミソリやハサミを人の喉に気付かれずに入れ込むというのか。
そしてこの敵が吉良ばかりを狙う理由は? 複数の相手には同時攻撃できない?
思考するばかりで、対策が講じられない。少なくとも今ここで吉良を失うわけにはいかないのだ。
(ど、どうする!? 吉影がマズイ! 今すぐに敵を見つけないと……いや、いっそ私だけでも―――)
目の前の理不尽に何の抵抗も出来ずにいる。
なにしろ敵は身内の内部から攻撃しているのだ。こんな攻撃にどう対処すればいいのか、パチュリーの知識には備わっていなかった。
グギギと鈍い音を軋ませながら。
今にも喉をかっ切りそうな構えのハサミが、誰が触るでもなくひとりでに開き……そして次の瞬間―――
「この、
吉良吉影を……舐める、なよ…………! 『キラークイーン』ッ!」
再び現れたキラークイーンが、躊躇無く吉良の喉に指先を突っ込み―――閉じられる寸前のハサミを、一瞬で爆破した。
勿論、爆発の影響で自分までもが吹き飛んでは意味が無い。
爆破は最小限。消滅レベルの粉砕にて、喉を襲うハサミは煙の如く霧散した。吉良にとっては容易い曲芸だ。
「がはッ!! ハァ……ハァ……! く、そが……!」
「大丈夫!? 吉影!」
窮地を脱した吉良のその芸当にパチュリーはひとまず息を吐く。
体内であろうとも内部を損傷させずに最小限の爆破を行ったその技術は皮肉にも、これからの脳内爆弾解除への安全性を高める裏付けともなったが、これで危機が去ったわけではない。
体力が大きく奪われたのか、ここで吉良が完全に膝を突いてしまう。
「あ、足に力が……入らん……!」
身体中の関節を支える糸が一斉にプツリと切れたように。
吉良の体が崩れたのだ。それほどのダメージを刻まれたわけでもないのに。
「箒に乗って吉影! 貴方を連れてここから離脱する!」
傍で見ていればこの攻撃、体内から刃物を突き刺してくるまでに若干のラグを必要としているらしい。
ならば今ここを除いて逃走の好機は無い。パチュリーは動くこともままならない吉良に駆け寄り手を引こうとする。
「逃げて……そして、どうするんだパチュリーさん……?」
今は自分の命の方を優先して、と。
喉まで出かかったその言葉を、パチュリーは飲み込む。
つまらない問答などで好機をふいにしている場合ではないから……という理由“ではなく”。
「この私が、誰かも分からない正体不明の殺意に怯え、背後を気にしながら、あまつさえ何も抵抗せずに一目散に逃げろ……というのか。
この、
吉良吉影が……! この
吉良吉影がッ!!」
怨讐の炎をドス黒く燃やす殺人鬼の顔が、魔女である自分すらも強張らせるほどに醜く歪んでいたからだ。
「離れていろ…………パチュリーさん」
頼りにも思えるその男のたった一言が。
パチュリーに未来の不安を、予期させずにはいられなかった。
―――この殺人鬼を懐に招き入れた自分の判断は、本当に正しいものだったのか、と。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
思うに、スタンドなる概念とは『やろうと思わずしては不可能』だと、ぬえは気付く。
逆に言うなら、やろうと思えば結構理不尽な現象だって起こせる。
この能力を手に入れ、行える範囲で様々な検証を行ってきたが、やはりメタリカの力は光明だ。
メタリカは鉄分を磁力のように操る能力であり、地中に眠る鉄分を再構成し、刃物に変えることが出来たりする。
だがこの力、どうやら地中の鉄分のみを操作するに非ず。
考えてみれば人体にだって鉄分は存在する。だったら離れた相手の体内の鉄分すらも刃物に変化させることも可能なはず。
心中では“流石に無茶苦茶ではないか”と不安もあったが、仗助や吉良の能力だって充分無茶な部類に入る。
だったらやってみるべきだ……と、半ば実験台のように亀の中の吉良向けてイメージを行使した。
(……見た目にはグロテスクなものがあるけど、やっぱりやってみるものね)
亀から飛び出てきた吉良は、確かな損傷を被っているようだった。
二人とも当然のようにぬえの姿を探しているが、現在の彼女は勿論透明化を施しての攻撃だ。抜かりなどあろう筈もない。
正体不明の妖怪が、その小柄な体躯までをも見えないヴェールで覆い隠す。
一体誰が彼女の正体を見破れるというのだろう。ぬえは大妖怪らしく驕りの笑みを浮かべたくなる。
だが、駄目だ。
友人であり、大妖怪でもあるマミゾウすらも呆気なく死んでいる。
これを教訓として慎重に事を運ばねば、彼女の魂はいよいよ無念な残滓として露に消えてしまう。
(油断なんてしないわよ……人間め。そのまま何が起こったのかも理解出来ないまま……苦しんで逝きなさい)
相手より10メートルは離れた木陰の下で、覗き見るようにぬえは慎重にスタンド操作に集中する。
この能力は透明のまま攻撃するにはかなりの器用さを必要としており、本体であるぬえの精神も次第に疲弊していくというのは軽く見られない短所だ。
長期戦だと不利になる。このまま一気にケリをつけようと吉良の喉にハサミを生み出してやったが……
(キラークイーン……! あれが厄介ね……)
問答無用で対象を木っ端に散らすあの能力は、噂にも聞く紅魔館に幽閉されているという、かの吸血鬼にも似た危険なものだ。
或いは、とも思ったが、やはり体内で作ったハサミだろうが何だろうが、吉良は片っ端から消滅することも可能だろう。
しかしそれすらも織り込み済みだ。
鉄分を刃物に変えて攻撃する、というのはどういうことか?
その体内に存在する鉄分を一気に対外へ放出するということだ。
『鉄』というのは、血液の中で呼吸により取り入れた酸素をつかまえ、体の隅々まで運ぶ役目を持った重要な成分だ。
鉄分を体内から大量に奪われた者は息こそ荒くとも、酸素が体内に全く取り入れられてないことを意味する。
簡単に言えば、血がおぞましい黄色になって死ぬ。死ぬ前にその体は『死人』へと変貌するのだ。
(つまり吉良……どう転んでもアンタはもう既に、私の能力に堕ちているのよ!)
ろくに動けなくなった吉良に、攻撃の手段はもう無い。
触れた物を爆弾にする能力……恐ろしい能力だが、こうして一定の距離を保てば恐るるに足らず。噛み付かれると分かっている虎にわざわざ近づくアホは居ない。
相手の鉄分を奪い、その鉄分すらも武器として扱えるメタリカには隙が無かった。本来、鉄分を奪うという結果は副次的なものに過ぎない。
千の手を武器に変えるスタンドというものは、まだまだ未知数だ。
既にぬえは手に入れたばかりの能力を早くも使いこなせる域にまで昇華させ始めている。
弾幕ごっことは趣からして異である能力。この殺し合いの舞台においてはその名前通り、まさに隣に立たせるべき力であると理解した。
そしてぬえは思い出す。
今自分が相手取る人間もまた、千の手を武器に変えるスタンド使いであることを。
あらゆる不当不平の状況の中にこそ勝機を見出す、貪欲な獣たちであることを。
「シアーハートアタック」
それは、とても追い込まれている人間が放つ言葉の重みではなかった。
吉良が間際に放った単語の意味は、為す術がなくジリ貧からの悪足掻きか。
(―――違う)
あの人間の表情は、絶望の淵に立たされた仔兎の怯えるソレとは全く違う。
妖怪と人間では、本来なら人間の方が“喰われる側”である筈だ。
今や過去となったその図式を捨て去り、ぬえに慢心は無かった。本気で敵を殺りに行ったのだ。
(―――“アレ”は、そんな表情じゃあない……!)
故に彼女は慎重だった。
近づけばスタンドパワーは上昇し、もっと楽に吉良を始末できたのかもしれない。
それでも目の前に落ちたチャンスには安易に飛び掛らず、冷静に勝機を見出していた。
ぬえは間違っていない。スタンド戦における“ほぼ正解”の道を選択出来ていた。
だったら吉良が浮かべるべき表情は、苦悶や絶望の類でなければおかしい筈なのに。
あの顔ではまるで―――まるで何か“切り札”でも隠し持っている人間の歪んだ笑みではないか。
『ソコに居ヤガルナァ~~ テメー』
“シアーハートアタック”と呟かれたその名が『コイツ』を指すというのなら。
間違いなく『コイツ』は、吉良の切り札であるのだろう。
(なん、で…………)
何故、というのなら、どう考えたってありえないからだ。
キラークイーンの左手から発射されたように見えたこの『小型の骸骨戦車』が。
ギャルギャルギャルと尖ったキャタピラ音を響かせながら走るこの小さな殺意の塊が。
誰にも正体を破られていない筈のぬえ目掛けて―――
(―――どうして私ン所に一直線に突っ込んでくるのよこの骸骨はァ~~~ッ!?!?)
『コッチヲ見ロォ~~~!』
ぬえにとっての誤算は二つ。
あのホテルで仗助たちの口から語られたキラークイーンの能力を説明する場に、ぬえが居合わせなかったこと。
殆どのメンバーにはシアーハートアタックの事も含め、吉良の能力は知られている。
ただぬえと、ついでに言えば夢美だけが吉良の切り札を知らずに現状まで至る。これは致命的な不運だ。
そしてもう一つの誤算は、至極単純であるものだった。
『正体不明』なのは何もぬえだけではない。
吉良吉影という男も、これまでの人生でその正体を覆い隠してきた。
自分の正体が見破られる事こそを恐れてきたぬえにとっては。
他人の正体を見破る経験については、圧倒的に不足していた。
要はスタンド戦というものは、先に『相手の正体を見破る』ことが戦いの鍵にもなる、とまで言っていい。
情報や機転、運など。様々な要素を構成して、初めて勝機を見出す事が出来る頭脳戦。
姿を隠し、多少のダメージを与えたところで、この殺人鬼を制圧する事など甘い考えに過ぎなかった。
一つの町を混沌に陥れた最凶の殺人鬼……それなりの『カード』は揃えているということだ。
(やば……! あの凶悪爆弾魔から発射されたんだ……絶対ロクなもんじゃないッ!!)
警鐘を鳴らし続ける頭を強引に振り、ぬえは次なる行動を考える。
スピードはそう速くないが、何か嫌な予感がする。とにかくアレに触れるのは悪手だ。
こちらの武器は無限大に生めることが利点だ。地面の鉄分を再構成し、幾多ものナイフを作り出して小型戦車に向けて放つ。
(……! か、『硬い』……ッ!)
が、駄目!
防御に関しては随一の鉄壁を誇るシアーハートアタックに、ナイフ如きの刃が通じるわけもなく。
『死ネ!』
目と鼻の先に迫る死神に対抗する策は浮かばない。
本体である吉良を先に抹消すれば、とも考えたが、最早そんな時間は残されていなかった。
「――――――あ」
思わず声が漏れてしまったが、そんなことはどうでもいい。
確かにぬえはこの瞬間、確実なる『死』の到来を視てしまった。
目の前を走ってくる骸骨は、きっと死神。
自分にとっての死神は、あの歪なる人間だったのだ、と。
そう思い、数秒後に訪れる死を畏れ、瞼を固く閉じた。
故に、シアーハートアタックが身を凍らせた自分の真横を素通りしていく事には気付けなかった。
「あー? 其処ぉ 底にぃ 誰か いるのかい???」
直後、代わりに鼓膜を叩いた気色の悪い『声』と『爆発音』だけが、ぬえの脳裏に恐怖の象徴として確かに刻まれた。
―――背後で拡散した死の爆風が、強張るぬえの全身を包んで吹き飛ばす。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「…………手応えは?」
「わからん。シアーハートアタックは熱源を追う自動操縦だ。爆破があったとなれば『敵』はそこに居た、ということになるが」
木々をも吹き飛ばした爆発の余韻に耳を押さえながらパチュリーは、隣で蹲る吉良に訊いた。
生ある者を纏めて死の爆発に巻き込むシアーハートアタックは確かに『何者か』に反応し、爆音を轟かせたのだ。
相手が透明であろうと正体不明であろうと、シアーハートアタックは狙った標的を必ず仕留める。
まともに受ければ致命傷。せめて爆ぜた相手の正体くらいは確認しておきたいが……
「……煙幕が晴れるぞ」
「私が確認してくる。貴方はそこに居て」
依然、体力を失ったままの吉良を庇うように前へ出るパチュリー。
まことに不本意だが、彼が狙われる事はなるべく阻止したいのが本音であり、現状その盾役は自身のみだ。
箒に乗ったまま音も無く滑空し、晴れゆく煙幕の向こうにいる敵の影を探す。
ガサリ
僅かに揺れた草葉の音が、『敵』の生存を伝える。
ならば追撃。
パチュリーは己の得意とする魔法詠唱の準備を整えながら。
見た。
「――― び っ くり したァ~~~。なに 今の爆発は? 貴方がやったのね??」
『敵』の姿を。
大した損傷も無く、ゆったり揺らめくようにこちらへと歩を進めてくる女の姿を。
『彼女』のことは、知っている。
「―――貴方、永遠亭の……姫君―――」
―――違う。
髪の色がパチュリーの知る月姫と同じ物だったので思わず間違えたが。
よくよく見れば、違う。
あの永遠亭の
蓬莱山輝夜が放つ、煌くような瞳とは。
全然……違う。
目の前の『彼女』は。
パチュリーが知る以前までの『彼女』とは、雰囲気からして……
異端。
「いえ、貴方は…………竹林の蓬莱人、『
藤原妹紅』―――」
『目は口ほどに物を言う』……情のこもった目つきは言葉と同等に、相手の気持ちが伝わることの意だが。
パチュリーは目の前を歩いてくる妹紅“らしき”人物の瞳を覗いて、一瞬にて悟った。
―――怪物。
『アレ』はもはや人間でも蓬莱人でもない。
何も……何の未来も映していない虚無の瞳。アレではまだ地獄の死神の方が愛嬌を灯している。
狂気に満ちた不尽の焔が、まるで己の身ごと焦がしているかのように、
黒く、どこまでも黒く燃え盛る炎を右手に宿し、
歪んだ微笑を携え、
こっちへと、
ゆっくり、
足を、
進
「―――水符『プリンセスウンディネ』ッ!!!」
機を制したのはパチュリーだった。
火水木金土の五大元素に加えて日月の属性魔法を操るパチュリーは、相手の弱点を突くことに長けている。
詠唱が終わるや否や、大量に現れた水泡が密度の高い弾幕となって妹紅を襲った。
「わっ」
迫り来る水害に対して空気が抜けるような声を漏らし、流石に妹紅は抵抗の術を唱えた。
右手に燻る黒焔を撃ち出し相殺を試みるも、水と炎では圧倒的に分が悪い。
妹紅が炎の妖術を扱う事を知っていたパチュリーは、水の魔法で圧倒することを一瞬早く行っていた。
彼女の言葉を聞くよりも。
彼女の動きを眺めるよりも。
何よりも妹紅の瞳が、雄弁に悟らせたのだ。
「この女は危険だ」という絶対的な危険信号を、パチュリーの脳髄へと、一瞬で。
「逃げるわよォーーーーーーッ!!!!」
下手人の正体は知れた。
謎のカミソリやハサミのスタンド攻撃は妹紅の得た能力か何か。恐らく夢美と同じに、DISCによる能力付加だろう。
比較的人情味があると聞く彼女に何があってあのような姿になったのか。
何故吉良を狙ったのか。
そんな疑問を全て放り投げて、逃走を選択した。
幾重にも密度を高める水泡により炎が掻き消され、蒸発と共に再び煙幕が周囲を覆う。
この環境を味方につけ、一目散に離脱を図った。
こんな大声を出したのは何時振りだろう。もしかしたら初めてかもしれない。
喘息の悪化を予期しながらパチュリーは、爆走する魔法の箒に吉良を乗せる。
「すぐにシアー何とかを回収して吉影! 早く逃げるわよ!」
「敵の正体は判明した……! ならば今ここで始末した方が後腐れにはならないだろう……!」
「判明したからこそ逃げるのよ! 次からは対策を立てることが出来るし、貴方も負傷している。今ここで無理に戦う事もない!
それにアイツは炎を自在に扱うにんげ……蓬莱人。熱を自動で追うとかいうシアーハートアタックでは相性が悪いわ……!」
シアーハートアタックによる最初の爆発は、妹紅に一切のダメージが無かった。
おそらく彼女の撃ちだした炎の弾幕をシアーハートアタックは追尾してしまい、あらぬタイミングで誘爆させられたのだろう。
更に妹紅が纏っていた『火鼠の皮衣』は炎を通さない作りの衣。一瞬だけ見たその衣装の効能もパチュリーの知識には存在する。
パチュリーだけならともかく、吉良が妹紅と対峙するには確かに食い合わせは良くない。
苦虫を噛むように苛立つ表情を作った吉良は、パチュリーの後方に相乗りしながらシアーハートアタックを手元まで回収させた。
納得はしていないものの、パチュリーの意見に渋々ながら賛同したことの表れだろう。
殺人鬼を同乗させることの嫌悪感も感じながら、すぐにパチュリーは箒を浮かせて滑走を開始した。
再び煙幕が晴れた時……妹紅の視界に揺れ動く者は、大地に降り続く大粒の雨以外に無かった。
「…………あーーーあ、逃げられちゃった。……アイツらに『蓬莱の薬』の在り処、訊こうと思ったのに」
言葉とは裏腹に、何の感慨も秘めてなさそうな顔を作り、妹紅は呟いた。
永琳から逃げてきて辿り着いたこの場所で、初めて出会った男女二人。
アイツらがここで何をしていた、とかそんな事はどうだっていい。
重要なのはアイツらが妹紅に対して攻撃してきたという事実。
こっちは何もしていないのに。
“まだ”……何もしていないというのに。
やっぱり、この世界に居る奴らは全員『敵』だ。
消し飛ばすべき、敵なんだ。
「…………籠目 籠目 籠の中の鳥は いつ いつ 出やる~~」
記憶の沼底に眠る古き童謡を何となしに口遊み、女は往く。
後ろの正面も、何もかもを燃え上がる景色に変えて。
黒き焔の翼を広げて徘徊するその様は、幾度も蘇る不死鳥の翼というよりは。
死と禍を運んで廻る、鴉の黒翼にも見えて。
あるいは「月夜烏は火に祟る」との俗信の如く、夜の鴉の鳴き声が火災の前兆をも象徴するように。
見えもしない、見てもいない『何か』に向かって。
漆黒に塗れた女は、鳴きながら歩を進め出した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【E-3 大蝦蟇の池/昼】
【
藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:発狂、記憶喪失、体力消費(小)、霊力消費(小)、左肩に銃創、黒髪黒焔、再生中、濡れている
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。殺す。化け物はみんな殺す。殺す。死にたくない。生きたい。私はあ あ あ あァ?
1:蓬莱の薬を探そう。殺してでも奪い取ろう。
2:―――ヨシカ? うーん……。
[備考]
※彼女がこれからどこに向かうかは後の書き手にお任せします。
「ぜぇ……けほっげほっ! ……はぁ、けほ! …………げほっ」
林を縫うように滑空し、木々の空間をようやく脱出したところでパチュリーと吉良は箒から下り、ひと息をついた。
とはいえ傍目には二人の状態は健康とは言い難い。
パチュリーは早速いつもの喘息症状が喉を苦しめ、吉良に至っては鉄分が奪われたおかげで立つこともままならない。
「ハァ…ハァ……! クソ! 何だあの女は……あれも幻想郷でのお友達か、パチュリーさん?」
「けほっ……! ……ハァ、そんなところ、かしら。竹林に住んでるとかいう、蓬莱人……『人間』よ」
「人間……? あれが……? ハァ……ハァ……! 私の目には……『怪物』か何かに、見えた、がね……」
吉良は先ほどの少女の身形を思い出す。
容姿などの造形自体は端正な人間のそれだったかもしれないが、表情に全く光が無かった。
歪んだ笑みを貼り付けているだけの人形。あれが人間だというなら幻想郷の『人間』というカテゴリ自体を疑わなければならない。
実際パチュリーも大いに驚いた。
妹紅の変わりようもそうだが、彼女をあそこまでの狂気に陥れたこの『バトルロワイヤル』を軽く見ていたのだ。
パチュリーにとって目下の敵となるのは主催の二人、という今までの認識を塗り直さなければならない。
初めて遭遇した『危険人物』。主催者がどうのこうの以前に、まず警戒すべき敵はゲームに乗った人物だった。
頭では分かっていたつもりだが、いざ現実に起こってみれば、己の認識のなんと甘いことか。
いや、今回は甘いで済まされる事態ではない。
「…………ぬえ」
ポツリと、一言だけ。
状況からいってぬえは妹紅にやられたのだろうと察する。
彼女がまだ生きている可能性は無いわけではないが、その可能性を捨て去ってでもパチュリーは逃走を選んだ。
何の躊躇もなく、気にする素振りさえ見せずに。
パチュリーの詰めの甘さが、一人の少女を見殺しにさせた。
そう結論してもいい不手際とも言えた。
「―――ちょっと……! ゼェ……ゼェ……、アンタたち、なに人を置き去りにして……トンズラ、こいてんのよ……っ!」
完全に不意打ちの方向から、既に故人だと断定しかけていた人物の声が届いた。
「むきゅっ!?」
「むきゅっじゃないでしょ、この人でなし!! バカ!! アホ!! 紫もやし!!!」
肩で息するぬえが、怒りながらパチュリーらに追いついてきたのだった。
「……なんだ、まだ生きていたのか」
「黙れ人間! けほっ、けほっ! こ、このぬえ様があんな人間如きに殺されるわけ、ないでしょ……ッ!」
「ぬ、ぬえ……貴方、無事だったの?」
「無事なわけあるかーーー!!! 見なさいよこの『傷』っ!! アイツにやられたんだから!」
その怒りを静めることなく、ぬえは怒号と共に自分の『喉の傷』と『カミソリ』を二人に押し付けるようにして見せた。
ぬえの受けた傷と手に持つカミソリは、吉良の物と全く一致している。
「亀の見張りやってたら何処からともなくあの女が来て、いきなりこのカミソリを口に入れられたのよ。
声も上げられないし、ほんのちょっとアイツから隠れてたらアンタたちが亀から出てきて、私に気付きもせずにあっという間にスタコラサッサよ。
全く、厄日もいいところね……!」
ぬえの身に起こった瑣末は、客観的に見れば気の毒でしかないものだった。
何の為の見張りだ、という吉良の反論にはぬえも「仕方ないでしょ!こっちが殺されるところだったんだから!」と怒るだけ怒って地面に腰を下ろしただけだ。
彼女の容態は吉良ほど重くはなかったが、恐らく彼と全く同様の攻撃を受けたのだろう。
パチュリーは冷静になって初めて、敵の未知なる正体を分析し始めた。
「……ねえ吉影、気付いた? 貴方がシアーハートアタックを繰り出した時、それに向けて地面から一斉にナイフが『組み上がって』きたのを」
「……あぁ、見ていたとも。あのスタンドは物を相手の体内だとかに一瞬で移動させる類の能力ではない」
「…………!」
考察を聞いたぬえが僅かに肩を震わせたのに二人は気付かない。
「吉影。貴方の血が赤色でなく、黄色に変色している。ただカミソリやハサミを入れられただけの傷ではそうはならない」
言われて吉良は己の掌にベットリくっ付いていた黄色の血を眺め、再び口元を歪めて苛立ちの顔を作った。
そんな光景をジッと眺めながらパチュリーは、突然合点がいったように手を叩く。
「カミソリ、ナイフ、ハサミ……貴金属、そして黄色の血液……。
成る程、これは五行思想における『金』の属性攻撃……錬金術のような能力ね」
「……金? どういうことだ?」
「地面には多くの『鉄分』が含まれている。あのナイフたちは多分、その鉄分を再構成して創った物よ。
そして言うまでもなく人の体内にも鉄分はあるわ。体内にいきなり出現したカミソリはその鉄分を組み替えたのでしょう。
私も金の属性魔法くらい使えるけど、こんなエグイ応用は考えた事もなかったわね」
「じゃ、じゃあさじゃあさ、コイツの血が黄色なのもそのせいってこと?」
「血液が黄色って事は酸素が体内に行き届いてないって事。
鉄分が奪われた吉影は、傷以上に失った栄養素のせいで体力が奪われているってわけね。
ぬえはそこまでのダメージが無かったみたいだけど、念の為二人ともすぐに食事でも摂って栄養を補充しときなさい」
流石に五大元素を操るパチュリーは、能力のタネに案外早く辿り着いた。
所詮は推測でしかない理だったが、彼女の中では正解に限りなく近い推測のつもりだった。
原理さえ分かれば対処も取れる。妹紅が追ってくる様子は無さそうだが、もしまた出会っても最初のようにはいかない筈だ。
しかしそれでも、新たな不安は芽吹いてしまった。
このまま皆がジョースター邸に無事に集合出来たとして、妹紅の件を報告しないわけには流石にいかない。
そこで危惧すべきは、妹紅との交友が深かったという
上白沢慧音……我らが仲間内を束ねる知恵者のひとりだ。
彼女のお堅い頭に友人に降り懸かった悲劇を知らせれば、起こる激動はいくつか目に浮かぶ。
間違いなく、これからの懸念事項に新たな欄が加わってしまった。
しかも記入される欄はそれだけでは終わらない。
パチュリーにはまだ疑問のタネ……頭の片隅に残るモヤモヤが払拭できていないのだ。
「―――ねえ、ぬえ。……貴方、本当にちゃんと見張ってた? 本当に妹紅にいきなり襲われたの?」
大きく顔を近づけ、探るようにパチュリーはぬえに問う。
「は、はぁ!? なに言ってるのよ! 最初からそう言ってるでしょ!!」
直後にぬえが明らかに狼狽したのは、急に近寄られたことへの動揺か、それとも―――
その返答にパチュリーは「……そう」と言ったきり、話題を止めにした。
当初、パチュリーは覚悟していたのだ。
自分達がぬえを置いてあっさり逃げを選んだことに対し、彼女からの猛抗議を受けることに。
それなのに、当の彼女はその事自体にはそこまで不服そうではないように見えた。
実際ぬえはかなり不機嫌ではいるのだが、正直この程度で済んでいることにパチュリーは軽い違和感を感じている。
そしてもうひとつだ。
パチュリーには相手が嘘を吐く場合に見て取れる『負』の感情を察するという、魔法使い特有の特技がある。
この特技を以て彼女はぬえに対し、先ほど敢えて意地の悪い質問をしたのだが……
(やっぱり『分からない』……ぬえの感情の正体が掴めない)
会場で初めて会った時から今に至るまで、ずっと。
パチュリーはぬえに対し、ずっと不安があった。
パチュリーとて常に相手の嘘を測っているわけでもないが、ぬえの種族が持つ『正体不明』という特性は中々に気味が悪いモノだ。
どれほど目を細めて感情を読もうとしても、ぬえに対してだけはその真意が全く読み取れない。
それだけならまだいいのだが、ここ一連のぬえの動きには多少『引っ掛かる』ものがあるのだ。
とはいえ精々スッキリしない、といった程度に収まる感情であり、パチュリーもこれ以上不和のタネを拡げたくもない。
よってこの場は追求することもせず、まずは息を落ち着かせようと身近の木下で雨宿りをするだけだった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
皮肉にも突然現れた襲撃者のおかげで、ぬえは首の皮一枚繋がった。
あの時、自分を抹殺せしめんと迫るシアーハートアタックは、背後から迫っていたより体温の高そうな人間に釣られて行ったのだ。
直後に起こった爆風はぬえの身体を数メートル転がしただけの結果に終わり、どさくさに紛れてその場を離脱する事が出来た。
咄嗟の機転だった。
自分を置いてさっさと逃げていったパチュリーと吉良の二人には大いに腹が立ったが、おかげで『仕込み』をする時間が稼げた。
このまま何食わぬ顔で二人に合流するワケにはいかず、ぬえが案じた策はやはり『メタリカ』しかなかった。
多少の覚悟は必要だったが、自身の喉内にカミソリを発生。これで自分も妹紅に襲われたのだと説明がつく。
そして全ての罪を妹紅に被せ、逃走した二人に全力で追い付いたのだが……
(マズイ……これって結構マズイわよね……)
ぬえからすれば、今回の事態は何の実りもなく終わった災厄でしかない。
それどころか、これまで隠し持ってきたメタリカの存在が露になってきただけでなく、その能力までもが見破られてきている。
極めつけにさっきのパチュリーである。
あのあからさまな質問は、どう考えてもこっちの動向を疑ってきている証拠だ。
いっそ、これから自分からは何も動かない方がマシなんじゃないかとさえ思えてくる。
だがそれももう遅いかもしれない。事は動かしたばかりだ。
もしパチュリーがこれ以上、自分への疑惑を深めるようなら……
(ああ~~~もう! どうすりゃいいってのよ!!)
正体不明のアンノウンXは、己の貫くべき理念を未だ持てずにいる。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【E-3 川の畔/昼】
【
パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:喘息、体力消費(小)、霊力消費(小)
[装備]:
霧雨魔理沙の箒
[道具]:ティーセット、基本支給品×2(にとりの物)、考察メモ、F・Fの記憶DISC(最終版)、
広瀬康一の生首
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第三ルートでジョースター邸へ行く。
2:夢美や慧音と合流したら、仗助達にバレずに康一の頭を解剖する。
3:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
4:ぬえに対しちょっとした不信感。
5:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
6:妹紅への警戒。彼女については報告する。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けますが、ぬえに対しては効きません。
※「東方心綺楼」は
八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって
八雲紫が用意したダミーである。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
ラスボスは可能性世界の
岡崎夢美である。
※
藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:体力消費(中)、喉に裂傷、鉄分不足、濡れている、ちょっとストレス
[装備]:スタンガン
[道具]:ココジャンボ@ジョジョ第5部、ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:しばらくはパチュリーに付き合う。
2:
東方仗助とはとりあえず休戦?
3:
空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
4:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は
吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※パチュリーにはストレスを感じていません。
※
藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。
【
封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:体力消費(小)、精神疲労(中)、喉に裂傷、濡れている、吉良を殺すという断固たる決意
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:隙を見て吉良を暗殺したいが、パチュリーがいよいよ邪魔になってきた。
2:皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
[備考]
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※メスから変化させたリモコンスイッチ(偽)はにとりの爆発と共に消滅しました。
本物のリモコンスイッチは廃ホテルの近くの茂みに捨てられています。
最終更新:2021年03月25日 00:50