「ところで、こなた。黒井先生が同じゲームをしている人だってわかったのはいつごろ?」
連休中も先生とはネトゲで会うことになると話した後、軽くツッコミを入れたかがみが聞いてきた。
「先生とパーティーを組んだのはここに入る前。だけど、クラメンに黒井先生がいるって知ったのは入ってからだよ」
多少はしょる形にはなったけど、事の成り行きを説明する。
受験のためにそれまで通っていた道場をやめた時に、少しでも他人と会話をしようということで始めたのがネトゲだったということ。
街中をうろちょろしている時に意気投合してパーティーを組んだこと。
そしてお互いがリアルでどんな人間なのかを知ったのは入学式の夜だったこと。
その時あわててにげる形で落ちてしまったことなどを話す。
街中をうろちょろしている時に意気投合してパーティーを組んだこと。
そしてお互いがリアルでどんな人間なのかを知ったのは入学式の夜だったこと。
その時あわててにげる形で落ちてしまったことなどを話す。
「あんた、いくらなんでもそれは失礼だろ」
間髪を入れず、かがみのツッコミがくる。
この、間のよさが心地いい。
今までのクラスメートは、どうしてもワンテンポあいてしまってたんだよね。
やはり相性がいいんだなあ。
そう思うとつい、ニヤついてしまう。
ただ、今笑うのは場違い極まりないので、できるだけとぼけた表情を作って答える。
この、間のよさが心地いい。
今までのクラスメートは、どうしてもワンテンポあいてしまってたんだよね。
やはり相性がいいんだなあ。
そう思うとつい、ニヤついてしまう。
ただ、今笑うのは場違い極まりないので、できるだけとぼけた表情を作って答える。
「ん。だから次の日先生に呼び出されたんだよね。生徒指導室に」
「あ、そういえば入学式の翌日に呼び出された生徒がいたって聞いたことがあったけど、それってこなちゃんだったんだあ」
やっと話についてこられるようになったのか、つかさが話す。
この辺がつかさとかがみの違い。
ラノベをよく読むかがみには周辺情報としてオタク系のネタが入ってきやすく、私のふるネタにも何とかついてこれてる。
だけどつかさは、テレビで見たり雑誌に載っている以上の情報を持っていないので、どうしてもついてこれないようだ。
でも家庭的な話題になると状況が逆転するから面白い。
ラノベをよく読むかがみには周辺情報としてオタク系のネタが入ってきやすく、私のふるネタにも何とかついてこれてる。
だけどつかさは、テレビで見たり雑誌に載っている以上の情報を持っていないので、どうしてもついてこれないようだ。
でも家庭的な話題になると状況が逆転するから面白い。
「私のクラスでも話題になったな。入学式の日に先生に殴られて、次の日に呼び出されたバカがいるって」
「うおっ。何気にひどいんじゃありませんか、かがみさん」
自業自得でしょとかがみはにやにやしている。
その一方でつかさが首を傾げてきょとんとしている。
なんだか飼い主か母犬を一所懸命に見つめる子犬っぽくて可愛い。
その一方でつかさが首を傾げてきょとんとしている。
なんだか飼い主か母犬を一所懸命に見つめる子犬っぽくて可愛い。
「どしたの?」
いつまでもながめてるわけにはいかないので、つかさに聞いてみる。
だけどつかさは私の質問が理解できなかったのか、じっと私のことを見つめていたので改めて聞きなおした。
だけどつかさは私の質問が理解できなかったのか、じっと私のことを見つめていたので改めて聞きなおした。
「つかさ、さっきから変な顔してるけど、どうしたのかなと思って」
「えっとね。こなちゃんと黒井先生、どうやって仲直りしたのかなあって思ってたの」
「そうね。その後も友達づきあいつづけていられるってのも凄いことよね。
なんだかんだ言っても先生と生徒だし、その辺で距離を置くことになっちゃうのが普通だと思うんだけど」
なんだかんだ言っても先生と生徒だし、その辺で距離を置くことになっちゃうのが普通だと思うんだけど」
かがみも『言われてみれば』という顔で聞いてきた。
まあ、黙ってても意味がないし、話すことにしますか。
どっちみち私が話さなければ、黒井先生に聞きに行くだろうし。
まあ、黙ってても意味がないし、話すことにしますか。
どっちみち私が話さなければ、黒井先生に聞きに行くだろうし。
入学式の翌日で、私が逃げ出した先生とのチャットのあった翌日でもある日。
私の頭に、まるで見えない重石が乗っかっているかのようだった。
どうしても夕べの失態が私の頭から離れてくれないのだ。
しかも、クラスに同じ中学から来た人もいないため、私は暗い一日を終えようとしていた。
そして帰りのHRが終わるころ、私は夕べ逃げ出した相手、黒井先生に呼ばれる。
私の頭に、まるで見えない重石が乗っかっているかのようだった。
どうしても夕べの失態が私の頭から離れてくれないのだ。
しかも、クラスに同じ中学から来た人もいないため、私は暗い一日を終えようとしていた。
そして帰りのHRが終わるころ、私は夕べ逃げ出した相手、黒井先生に呼ばれる。
「泉、掃除はええからちょっと」
クラスのみんなの注目を浴びる中、私は先生の後をついていく。
自意識過剰かもしれないけど、みんなの視線が痛い。
まあ、戻ってきた時に手に持ってたものを見て笑われたけどね。
自意識過剰かもしれないけど、みんなの視線が痛い。
まあ、戻ってきた時に手に持ってたものを見て笑われたけどね。
みんなが掃除をしている中を、ひとり先生の後をついていく自分が情けなくなってくる。
夕べのことを思い出し、たぶん、叱られるんだろうなあと考えて足が重くなっていく。
だんだんと気持ちが暗くなっていくうちに、目的地にたどり着く。
『生徒指導室』に。
夕べのことを思い出し、たぶん、叱られるんだろうなあと考えて足が重くなっていく。
だんだんと気持ちが暗くなっていくうちに、目的地にたどり着く。
『生徒指導室』に。
「そこ、座り」
言われるがままにパイプ椅子に座る。
寒々とした殺風景な部屋の様子に益々落ち込んでいると、先生がどうしたのかと聞いてくる。
不思議そうな顔の先生に、私を叱るためにここに連れてきたのではないかと尋ねてみた。
ところが先生は、私の言った意味がわからないような顔をしばらくしたあと、大きな声で笑い出す。
今度は私の方が、その笑い声の意味を理解できずに、きょとんとした顔をする番だった。
寒々とした殺風景な部屋の様子に益々落ち込んでいると、先生がどうしたのかと聞いてくる。
不思議そうな顔の先生に、私を叱るためにここに連れてきたのではないかと尋ねてみた。
ところが先生は、私の言った意味がわからないような顔をしばらくしたあと、大きな声で笑い出す。
今度は私の方が、その笑い声の意味を理解できずに、きょとんとした顔をする番だった。
「ちゃうちゃう。泉にちょっと渡したいもんがあっただけや。
……ああ、『叱られる』って夕べのことか?」
……ああ、『叱られる』って夕べのことか?」
私が「え、ええ」と暗い声で答えると、先生はくすくす笑う。
「そやった、そやった。忘れるとこやった」
先生の表情がふいに硬くなり、靴音を響かせて私のそばへ。
その次の行動が私の頭に浮かんで、硬く目を閉じて身構える。
次の瞬間、コツンと頭に何かがあたる感触がする。
でも殴られたわけじゃない。
その次の行動が私の頭に浮かんで、硬く目を閉じて身構える。
次の瞬間、コツンと頭に何かがあたる感触がする。
でも殴られたわけじゃない。
どうしたんだろうと思っていると、先生が何かを必死でこらえているような声が。
目を空けると、そこには先生のニコニコ顔があった。
口元に手を当てて涙目になっているとこを見ると、どうやら笑うのをこらえているみたいだった。
目を空けると、そこには先生のニコニコ顔があった。
口元に手を当てて涙目になっているとこを見ると、どうやら笑うのをこらえているみたいだった。
「ええか、泉。いくら、あっちゃとこっちゃで共通の知り合いやっちゅうても、けじめは必要やで。
へたすると『贔屓や』って言われかねんしな。
それに反省しとるんやろ? せやったら、今さら叱っても意味ないやないか」
へたすると『贔屓や』って言われかねんしな。
それに反省しとるんやろ? せやったら、今さら叱っても意味ないやないか」
こほんと咳払いをしたあと、先生は笑顔で言う。
それまであった、頭の上に重石が乗っかっているような感覚が、すうっと消えていった。
たぶんそれが顔にも出ていたんだろう、先生にからかわれてしまった。
それまであった、頭の上に重石が乗っかっているような感覚が、すうっと消えていった。
たぶんそれが顔にも出ていたんだろう、先生にからかわれてしまった。
「現金なやっちゃなあ。
せやけど、次も同じことしたら、わかっとるやろな」
せやけど、次も同じことしたら、わかっとるやろな」
先生はすうっと出席簿を持った手を上げた。
本気ではないとわかってはいるものの、私は思わず頭を抱える。
本気ではないとわかってはいるものの、私は思わず頭を抱える。
「あうう。わかりました。ところで先生、私に『渡したいもの』ってなんなんですか?」
「せやせや、忘れるところやった。ほら、泉。これやこれ。前にチャットで言うとったやろ? 『懸賞にはずれて悔しかった』って」
先生がカバンから取り出したのは、やたらファンシーな紙袋。
ええっと、先生って意外と乙女チックなんですね。
双子の天使がやたらとプリントされた紙袋を見て思ったけど、言うと殴られそうなので黙っていた。
でも先生は私の視線の意味に気づいたのか、自嘲気味に言った。
ええっと、先生って意外と乙女チックなんですね。
双子の天使がやたらとプリントされた紙袋を見て思ったけど、言うと殴られそうなので黙っていた。
でも先生は私の視線の意味に気づいたのか、自嘲気味に言った。
「うちには似合わん紙袋やなって思ってるやろ? まあな、うちもそう思う。
せやけど、泉が持つんならこれがいいと思ってん。
趣味が合わんかったっちゅうなら、堪忍な」
せやけど、泉が持つんならこれがいいと思ってん。
趣味が合わんかったっちゅうなら、堪忍な」
とりあえず開けてみろと、先生に言われるがままに袋を開ける。
すると、中からは以前私が懸賞で取りそこねたレアアイテムが出てきた。
これが取れなかったことがわかってしばらくは、かなり落ち込んだ記憶がある。
そういえば、そのころチャットでグチったような記憶も。
すると、中からは以前私が懸賞で取りそこねたレアアイテムが出てきた。
これが取れなかったことがわかってしばらくは、かなり落ち込んだ記憶がある。
そういえば、そのころチャットでグチったような記憶も。
こんなレアアイテムをもらっていいのかと尋ねると、元々もらい物だし自分のところに置いといても邪魔になるだけだからかまわないと笑顔で答える先生。
手をふりながらの笑顔は教師が生徒に向けるものというより、友達に向けるものと言ってよかった。
手をふりながらの笑顔は教師が生徒に向けるものというより、友達に向けるものと言ってよかった。
「これからもよろしくな、konoakona!」
それが高校に入って最初にできた友人、黒井ななこさんとのリアルでの出会い。
年上だけど、ときどき同い年かと思ってしまいそうな、私の友達。
この人とは一生ものの付き合いになる、そう思った瞬間でもあった。
年上だけど、ときどき同い年かと思ってしまいそうな、私の友達。
この人とは一生ものの付き合いになる、そう思った瞬間でもあった。
「……ということで、先生ともゲームの話で盛り上がれるようになったのだよ、かがみん、つかさ」
指を一本立てて言い終えた私の話に呆れ顔のかがみと、素直に感心するつかさ。
「仲がいいなあとは思ってたけど、そんなことがあったんだあ」
「いいのか? 先生と生徒がそんなことで仲良くなるなんて」
私は含み笑いをしながら、けじめはちゃんとつけてるからいいじゃないかと言う。
かがみは納得できてないみたいだったけど、先生も贔屓はしなかったし、私もそれは期待してなかった。
まあ、他の生徒より殴られやすかったのはそのせいかな、とは思っている。
かがみは納得できてないみたいだったけど、先生も贔屓はしなかったし、私もそれは期待してなかった。
まあ、他の生徒より殴られやすかったのはそのせいかな、とは思っている。
「長い会話が必要な時はメールやメッセでやり取りして、学校内でベタベタしているように見えないようにはしてたよ」
ネットでは友達づきあいのままだったけど、先生とは学校の中ではそれなりに距離を置くようにしてたよ。
だからみんなには、私たちが友達関係にあることは気づかれていなかったと思う。
気づかれてたら必ず、私が贔屓されてるって言う人がいたはずだしね。
だからみんなには、私たちが友達関係にあることは気づかれていなかったと思う。
気づかれてたら必ず、私が贔屓されてるって言う人がいたはずだしね。
「ひょっとして自分が私の『高校で最初にできたリアルの友人』になれなかったのがそんなに残念でしたかな? かがみさんや」
「なっ、んなわけあるか!」
ちょっとまぜっかえしてみよう、というイタズラ心が起きたので言ってみる。
予想通りにかがみは顔を真っ赤にして反論してきた。
でもかがみ、その顔じゃ説得力は皆無だよ、耳まで赤くなってるし。
となりでつかさは平気な顔をして「そうだねえ。ちょっぴり残念かな」なんて言ってる。
素直で可愛いなあ、つかさは。
予想通りにかがみは顔を真っ赤にして反論してきた。
でもかがみ、その顔じゃ説得力は皆無だよ、耳まで赤くなってるし。
となりでつかさは平気な顔をして「そうだねえ。ちょっぴり残念かな」なんて言ってる。
素直で可愛いなあ、つかさは。
「ほれほれ、かがみん。素直になりなよ、つかさみたいに」
かがみはかがみで可愛いけどね、ツンデレで。
「ちょ、こら、人の頭に触るなあっ!」