秋真っ只中、紅葉(もみじ)が色付き始める時期。
今年も文化祭が近付いてきている。
陵桜学園の生徒は、その準備に向けて日々作業を行っていた。
今年も文化祭が近付いてきている。
陵桜学園の生徒は、その準備に向けて日々作業を行っていた。
開催までもう数日というところ。
作業を終えたいつもの四人組は、楽しく喋りながら帰路に着いていた。
作業を終えたいつもの四人組は、楽しく喋りながら帰路に着いていた。
「結局今日も遅くなっちゃったねー」
「今日はちゃんとビデオ録画できてるかな…昨日は臨時ニュースに割り込まれちゃったし」
「あんたは本当にそればっかりだな…もう少し準備にも力入れろよ」
「まあまあ、今の時期は仕方が無いですよ」
「今日はちゃんとビデオ録画できてるかな…昨日は臨時ニュースに割り込まれちゃったし」
「あんたは本当にそればっかりだな…もう少し準備にも力入れろよ」
「まあまあ、今の時期は仕方が無いですよ」
文化祭の話題も出てはいるが、やはり普段と変わらない内容で盛り上がる四人。
ある意味では、仲が良いからこそのマイペースさとも言えるだろうか。
ある意味では、仲が良いからこそのマイペースさとも言えるだろうか。
「これが終わったら、後はテストばっかりで今年度も終わるのねー
来年は受験生になるわけだし、大変になるわね」
「あぅ…お姉ちゃん、今はその話題は無しにしようよー」
「そうだよかがみ、今は文化祭の準備に集中しないと!」
「さっきまでビデオ録画がどうこう言ってた奴に言われたくないわ!」
「ふふ、まあそれが泉さんらしいといえばらしいですね」
「な、何かみゆきさんの言葉が…」
来年は受験生になるわけだし、大変になるわね」
「あぅ…お姉ちゃん、今はその話題は無しにしようよー」
「そうだよかがみ、今は文化祭の準備に集中しないと!」
「さっきまでビデオ録画がどうこう言ってた奴に言われたくないわ!」
「ふふ、まあそれが泉さんらしいといえばらしいですね」
「な、何かみゆきさんの言葉が…」
いつもと同じ、和やかな雰囲気。
だが、それは『ある一言』によって破られることになった。
だが、それは『ある一言』によって破られることになった。
「そういえば、こなたのおじさんってまた来るつもりなの?」
「多分ねー…今回はカメラはやめてねって言っておいたんだけど」
「…去年、カメラ持ってきてたんだ…」
「多分ねー…今回はカメラはやめてねって言っておいたんだけど」
「…去年、カメラ持ってきてたんだ…」
苦笑する三人。
そうじろうと面識の無いみゆきだけ、何の事だろうという顔で聞いていた。
そうじろうと面識の無いみゆきだけ、何の事だろうという顔で聞いていた。
「親が来るなんて、高校に入ってからは無いしねー」
「そうですねぇ…」
「中学の授業参観が最後だったよね、親が来るのって」
「そうですね、小学校の頃は妙に張り切って手を上げたりしましたねー」
「へえ、みゆきって昔はそういう面もあったのねー」
「あ、いえ、その…」
「そうですねぇ…」
「中学の授業参観が最後だったよね、親が来るのって」
「そうですね、小学校の頃は妙に張り切って手を上げたりしましたねー」
「へえ、みゆきって昔はそういう面もあったのねー」
「あ、いえ、その…」
普段おっとりしていても、やはりその胸の内には熱い物を秘めているようだ。
その点を指摘され、顔を赤くするみゆき。
その表情を見て、くすりと笑うかがみとつかさ。
そして、赤くなったみゆきをからかうこなた…
その点を指摘され、顔を赤くするみゆき。
その表情を見て、くすりと笑うかがみとつかさ。
そして、赤くなったみゆきをからかうこなた…
が、いない。
「あれ?こなたは?」
わずかな間で、急にこなたが姿を消した。
道路の向かい側にはいない。
ならば、後ろか…と振り向く三人。
…そこには道の端で立ち止まり、うつむいているこなたがいた。
道路の向かい側にはいない。
ならば、後ろか…と振り向く三人。
…そこには道の端で立ち止まり、うつむいているこなたがいた。
「…こなた?何急に止まってるのよー、置いていくわよー」
少し大声でかがみが呼ぶ。
しかし、こなたはその呼びかけにも応じない。
しかし、こなたはその呼びかけにも応じない。
「おかしいね、こなちゃんどうしたんだろう?」
「ちょっと行ってくるわ、待ってて」
「ちょっと行ってくるわ、待ってて」
かがみがこなたの所へ駆け出そうとした、その時だった。
「……ぅ……ぁ……ぁ……ぅ……」
こなたが妙な呻き声を出し始めた。
普段の様子からは想像も付かない、苦しそうな、痛そうな呻き声。
それだけでも、これがどれだけ異常な事態かがわかる。
この声を聞いた三人は、すぐにこなたの下へと走った。
普段の様子からは想像も付かない、苦しそうな、痛そうな呻き声。
それだけでも、これがどれだけ異常な事態かがわかる。
この声を聞いた三人は、すぐにこなたの下へと走った。
「ちょっとこなた、大丈夫?」
「どうしたの、こなちゃん?」
「泉さん…?」
「どうしたの、こなちゃん?」
「泉さん…?」
みゆきがこなたの顔を覗き込んだところ、その表情は半分青ざめていた。
…しかも、その目には涙が溜まっていた。
…しかも、その目には涙が溜まっていた。
「い、泉さん!?どうしたんですか!?」
焦りながらこなたの体を揺すり、呼び続けるみゆき。
だが、やはり呼びかけには反応しない。
その直後だった。
だが、やはり呼びかけには反応しない。
その直後だった。
「ぁ……ぅ……ぁぁああううあ…」
「ちょっと、こな…!?」
「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「ちょっと、こな…!?」
「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
泣き出すと同時にこなたの足が崩れ、前のめりに倒れこむ。
すぐにかがみが支えたが、こなたが泣き止む様子は無い。
すぐにかがみが支えたが、こなたが泣き止む様子は無い。
「こ、こなた!?ちょっと、どうしたのよ!?」
「ぁあああぁあぁぁぅぅぅぅ…ぅううぁぁぁあああああ…」
「ぁあああぁあぁぁぅぅぅぅ…ぅううぁぁぁあああああ…」
◆
どの位の時間が経っただろうか。
こなたはようやく落ち着きを取り戻し、赤い目をこすりながら立っていた。
こなたはようやく落ち着きを取り戻し、赤い目をこすりながら立っていた。
「泉さん…大丈夫ですか?」
「うん、もう平気…皆ごめんね、いきなり変な感じになっちゃって」
「うん、もう平気…皆ごめんね、いきなり変な感じになっちゃって」
いつもと違い、深々と頭を下げるこなた。
その様子を見た三人は、戸惑いを隠しきれない。
その様子を見た三人は、戸惑いを隠しきれない。
「い、いや…別にそれはかまわないわよ。
それより、一体どうしたのよ…」
「何か、私達が変なことを言っちゃったかな…?」
それより、一体どうしたのよ…」
「何か、私達が変なことを言っちゃったかな…?」
おろおろしながら、かがみとつかさが声をかける。
その言葉に、こなたが少し気まずそうに答えた。
その言葉に、こなたが少し気まずそうに答えた。
「い、いやー、特に何にも。
気にしない気にしない、あははは…」
気にしない気にしない、あははは…」
「…あんた、もしかして何か昔の嫌な事を思い出したりした?」
「えっ…!?」
「えっ…!?」
実は、これは探りを入れるための適当な質問だった。
しかし、この問いに対してこなたは動揺を見せた。
…どうやら、核心を突いてしまったらしい。
とはいえ、結果としてそうなってしまった事は仕方が無い。
そう考えて、かがみは言葉を続ける事にした。
しかし、この問いに対してこなたは動揺を見せた。
…どうやら、核心を突いてしまったらしい。
とはいえ、結果としてそうなってしまった事は仕方が無い。
そう考えて、かがみは言葉を続ける事にした。
「その…えと…」
「…話しちゃいなよ。
秘密は絶対守るし、こなたの心の支えになってあげられるかもしれないからさ。
…あ、いや、無理に…とは言わないけど」
「……」
「…話しちゃいなよ。
秘密は絶対守るし、こなたの心の支えになってあげられるかもしれないからさ。
…あ、いや、無理に…とは言わないけど」
「……」
しばらく黙りこむこなた。
十数秒の沈黙が続いた後、彼女は顔を上げて三人を見つめた。
十数秒の沈黙が続いた後、彼女は顔を上げて三人を見つめた。
「うん…そうだね、皆になら話せるかな。
というより…聞いてもらいたいかも。
そんな気分…」
「わかったわ…
ここじゃ何だし、そこにある公園に行きましょ」
「そうですね、ここで立ちながら聞くというのは厳しいですし」
というより…聞いてもらいたいかも。
そんな気分…」
「わかったわ…
ここじゃ何だし、そこにある公園に行きましょ」
「そうですね、ここで立ちながら聞くというのは厳しいですし」
そのまま近くにあった公園へと移動する四人。
手ごろなベンチを探して、そこに皆で座った。
手ごろなベンチを探して、そこに皆で座った。
こなたの顔からは、いつもの軽い雰囲気が消えていた。
その様子に多少戸惑う三人。
そんな中、こなたがゆっくりと喋りだした。
その様子に多少戸惑う三人。
そんな中、こなたがゆっくりと喋りだした。
「さっき、授業参観の話題が出たじゃない?
あれで、ちょっと急に思い出しちゃった事があってね…
あの事と感情は、克服できていたつもりだったんだけど…」
「授業参観…え!?
じゃあ、私の出した話題のせいで…?」
あれで、ちょっと急に思い出しちゃった事があってね…
あの事と感情は、克服できていたつもりだったんだけど…」
「授業参観…え!?
じゃあ、私の出した話題のせいで…?」
半分パニックになったつかさ。
それを慌ててこなたが取り繕う。
それを慌ててこなたが取り繕う。
「い、いやいや、偶然思い出しちゃっただけだからつかさは関係ないよ。
何だろうね、その…バックラッシュとかいうやつだと思う」
「それを言うならフラッシュバックでしょ。
…っていうか、そんなフラッシュバックが起こるほどきつい経験があったの?」
「う…ん、個人的にきつかった事なんだ。
小さい頃からの積み重ねが爆発しちゃったというか…」
何だろうね、その…バックラッシュとかいうやつだと思う」
「それを言うならフラッシュバックでしょ。
…っていうか、そんなフラッシュバックが起こるほどきつい経験があったの?」
「う…ん、個人的にきつかった事なんだ。
小さい頃からの積み重ねが爆発しちゃったというか…」
遠くを見つめるこなた。
そして、静かに『過去にあった事』を話し始めた…
そして、静かに『過去にあった事』を話し始めた…
◆
十三年前、こなたが幼稚園に通っていた頃。
こなたは、他の皆を見て不思議に思う事があった。
こなたは、他の皆を見て不思議に思う事があった。
それを最初に感じたのは、迎えの時間の時。
幼稚園の一日の課程が終わり、親が迎えに来てくれる。
そこに来るのは、皆殆どが母親だった。
幼稚園の一日の課程が終わり、親が迎えに来てくれる。
そこに来るのは、皆殆どが母親だった。
クラスメイトの皆は迎えに来た母親に思い切り甘え、幼稚園であった事を報告し、話に花を咲かせる。
そして母子共に良い笑顔をしながら、母親と一緒に帰っていった。
一方、こなたは…
そして母子共に良い笑顔をしながら、母親と一緒に帰っていった。
一方、こなたは…
「こなた、遅れてごめんなー
ちょっと編集部の方へ行ってたから…」
ちょっと編集部の方へ行ってたから…」
こなたの送り迎えをするのは、父親であるそうじろうしかいなかった。
最初、こなたは親がそうじろうだけ…という事を当たり前に思っていた。
物心付いた時からそれが『普通』だったので、そう思うのが当然であろう。
しかし、幼稚園に入ってからはある事を疑問に思い始めていた。
最初、こなたは親がそうじろうだけ…という事を当たり前に思っていた。
物心付いた時からそれが『普通』だったので、そう思うのが当然であろう。
しかし、幼稚園に入ってからはある事を疑問に思い始めていた。
何故皆は女の人が迎えに来るんだろう?
何で皆の所にはお母さんという人がいるんだろう?
うちには何故お母さんという人がいないんだろう?
何で皆の所にはお母さんという人がいるんだろう?
うちには何故お母さんという人がいないんだろう?
ある日、こなたはそれらの疑問を迎えに来たそうじろうに聞いてみた。
「おとうさん、なんでうちにはおかあさんがいないの?」
「え…?」
「え…?」
一瞬、そうじろうの表情が固まった。
いずれ来るだろうと思った、この質問。
しかし、これほど早く来るとは思っていなかった。
そうじろうはしばらく考えたが、結局定番ともいえる答えしか返せなかった。
いずれ来るだろうと思った、この質問。
しかし、これほど早く来るとは思っていなかった。
そうじろうはしばらく考えたが、結局定番ともいえる答えしか返せなかった。
「…お母さんはな、今はお空の向こうにいるんだ。
会うことは出来ないけど…こなたをいつも見てくれているんだよ」
「おかあさん、『今は』お空にいるの?」
「…ああ…」
会うことは出来ないけど…こなたをいつも見てくれているんだよ」
「おかあさん、『今は』お空にいるの?」
「…ああ…」
『今は』という言葉が、そうじろうの胸に突き刺さる。
そうじろうは、なるべくこなたに『母親が死んだ』という事実を認識させないようにしていた。
それは同時に『来るべき日』を遅らせようと、無意識に考えていたのかもしれない。
だが、この質問が来たということは…その日が確実に近付いている証拠だった。
そうじろうは、なるべくこなたに『母親が死んだ』という事実を認識させないようにしていた。
それは同時に『来るべき日』を遅らせようと、無意識に考えていたのかもしれない。
だが、この質問が来たということは…その日が確実に近付いている証拠だった。
その時、こなたが空を見上げて、急に声を発した。
「おかあさーん、みてるー?
おうちでまってるから、はやくきてねー!」
おうちでまってるから、はやくきてねー!」
空に向かって、手を振りながら見えない母へと叫ぶこなた。
自分にもお母さんがいる。
そして、いつか自分もお母さんに会うことができる。
そう信じたこなたの表情は、希望に満ちた明るい笑顔だった。
自分にもお母さんがいる。
そして、いつか自分もお母さんに会うことができる。
そう信じたこなたの表情は、希望に満ちた明るい笑顔だった。
そんな表情のこなたを見て、そうじろうは胸がきつく締められる思いだった。
真実を伝える事が怖かった。
その為に、自分の娘に嘘をついてしまった。
そんな事をしても、いずれは全てがわかる時が来る。
無駄な嘘だとわかっているのに、自分の心を守る為だけに嘘をついたのだ。
それをはっきりと認識しているからこそ、そうじろうはたまらなく辛かった。
真実を伝える事が怖かった。
その為に、自分の娘に嘘をついてしまった。
そんな事をしても、いずれは全てがわかる時が来る。
無駄な嘘だとわかっているのに、自分の心を守る為だけに嘘をついたのだ。
それをはっきりと認識しているからこそ、そうじろうはたまらなく辛かった。
◆
その二年後、こなたは幼稚園を卒園した。
それと同時に、そうじろうはこなたに全てを話した。
母親はもうこの世にいない事。
逝去したのは、こなたがまだ非常に小さかった時だということ。
…そして、母親は二度とここには戻ってこれないという事。
それと同時に、そうじろうはこなたに全てを話した。
母親はもうこの世にいない事。
逝去したのは、こなたがまだ非常に小さかった時だということ。
…そして、母親は二度とここには戻ってこれないという事。
その話の全てを、こなたは黙って聞いていた。
その時の彼女の心には、様々な感情が渦巻いていた。
その時の彼女の心には、様々な感情が渦巻いていた。
いつかは会えると思っていた母親が、実は既に帰らぬ人となっていた。
理解ができなかった。
父親が何を言っていたのか、はっきりと飲み込めなかった。
しかし、一つだけわかった事は『母親と会うことは絶対に不可能』という事…
こなたの中に、言葉では言い表せない様々な感情が渦巻いていた。
父親が何を言っていたのか、はっきりと飲み込めなかった。
しかし、一つだけわかった事は『母親と会うことは絶対に不可能』という事…
こなたの中に、言葉では言い表せない様々な感情が渦巻いていた。
これは悲しみなのだろうか、絶望というものなのか。
今までそれを隠していた、父親への小さな怒りなのだろうか。
もしかしたら、どれでもないのかもしれない。
今までそれを隠していた、父親への小さな怒りなのだろうか。
もしかしたら、どれでもないのかもしれない。
全てを話し終わったそうじろうに、こなたは一言だけ返した。
「わかったよ。
…ぜんぶおしえてくれてありがとう、おとうさん」
…ぜんぶおしえてくれてありがとう、おとうさん」
こなたはゆっくりとその場を立ち、居間から離れていく。
寝室へ入った後、そのまま自分の布団の上に突っ伏した。
…そして、こなたは泣いた。
寝室へ入った後、そのまま自分の布団の上に突っ伏した。
…そして、こなたは泣いた。
こなた自身も薄々感付いていたのだった。
『自分には親が一人しかいない、他の皆の環境とは違う』という事を。
…ただ、認めたくなかったのだ。
『自分には親が一人しかいない、他の皆の環境とは違う』という事を。
…ただ、認めたくなかったのだ。
だから、今の今までそうじろうが言っていた言葉を信じていたのだった。
『今は』別の場所にいるだけだ、という事を。
いつか戻ってきて、母という存在に会うことができるんだと。
だが、その淡く儚い希望は、皮肉にもその言葉をこなたに伝えたそうじろう本人によって打ち砕かれた。
今までそうじろうがどうしても伝えられなかった『真実』という言葉によって。
『今は』別の場所にいるだけだ、という事を。
いつか戻ってきて、母という存在に会うことができるんだと。
だが、その淡く儚い希望は、皮肉にもその言葉をこなたに伝えたそうじろう本人によって打ち砕かれた。
今までそうじろうがどうしても伝えられなかった『真実』という言葉によって。
数十分後、こなたは泣き疲れて眠っていた。
小学校への入学が、間近に迫っていた。
小学校への入学が、間近に迫っていた。
◆
春になり、こなたは小学校に入学した。
幼稚園とは違う、全く新しい環境。
こなたは持ち前の明るさで、すぐにクラスに馴染んだ。
父親の影響で読んでいた本の話題が一番役に立ったのも、多分この時だろう。
幼稚園とは違う、全く新しい環境。
こなたは持ち前の明るさで、すぐにクラスに馴染んだ。
父親の影響で読んでいた本の話題が一番役に立ったのも、多分この時だろう。
そして、ある日…
「さて、来週は授業参観ですよ。
皆、お父さんお母さんにプリントを渡しておいてねー」
皆、お父さんお母さんにプリントを渡しておいてねー」
授業参観の日が近付いて来た。
こなたは家に帰った後、そうじろうに案内のプリントを渡す。
この時、こなたは授業参観をとても楽しみにしていた。
そうじろう自身も、特に大きな心配はしてはいなかった。
だが当日の『ある出来事』が、後々一つの火種を作ってしまうことになる。
こなたは家に帰った後、そうじろうに案内のプリントを渡す。
この時、こなたは授業参観をとても楽しみにしていた。
そうじろう自身も、特に大きな心配はしてはいなかった。
だが当日の『ある出来事』が、後々一つの火種を作ってしまうことになる。
そして授業参観当日。
この学校では三時間目と四時間目、二コマに渡っての参観が行われる。
三時間目の授業自体は、特に何も起こらずに進んだのだが…
それは、四時間目前の休み時間に雑談をしている時に起きた。
この学校では三時間目と四時間目、二コマに渡っての参観が行われる。
三時間目の授業自体は、特に何も起こらずに進んだのだが…
それは、四時間目前の休み時間に雑談をしている時に起きた。
机を挟んで、クラスメイトと話すこなた。
内容は、先程の参観授業についてだった。
内容は、先程の参観授業についてだった。
「うーん、何だか緊張したよー
こなたちゃんはどうだった?」
「私はいつも通りだったかなー
そんなんじゃ、次の授業かちかちになっちゃうんじゃない?」
「うー、でも見られていると緊張するし…」
こなたちゃんはどうだった?」
「私はいつも通りだったかなー
そんなんじゃ、次の授業かちかちになっちゃうんじゃない?」
「うー、でも見られていると緊張するし…」
もじもじするクラスメイト。
しかし、こなたはいつもの調子で話し続ける。
しかし、こなたはいつもの調子で話し続ける。
「まあ、うちはお父さんがあんな感じだから気楽なのかも。
どうもさっきから、私以外も見ているみたいだし…」
「あはは…そういえばこなたちゃんの家、お父さんしか来ていないんだね。
お母さんはお仕事とかで来られないの?」
どうもさっきから、私以外も見ているみたいだし…」
「あはは…そういえばこなたちゃんの家、お父さんしか来ていないんだね。
お母さんはお仕事とかで来られないの?」
やはりその疑問が来たか。
そう思いながら、こなたは返事をする。
そう思いながら、こなたは返事をする。
「あ、うちはお母さんいないんだ。
私が赤ちゃんの頃に死んじゃったんだって」
「え、そうなんだ!?
うーん、こなたちゃん…ちょっと『可哀想』だね」
「…え?」
私が赤ちゃんの頃に死んじゃったんだって」
「え、そうなんだ!?
うーん、こなたちゃん…ちょっと『可哀想』だね」
「…え?」
私は可哀想なの?
何で?
そんな考えが、こなたの頭の中を一瞬駆け巡る。
次の瞬間、こなたはクラスメートに聞き返していた。
何で?
そんな考えが、こなたの頭の中を一瞬駆け巡る。
次の瞬間、こなたはクラスメートに聞き返していた。
「私、何で可哀想なの?」
「え、だってお母さんいないんでしょ?
お父さんしかいないんじゃ、寂しいじゃない。
ご飯も、お母さんがいないんじゃ作れないでしょ?」
「え、だってお母さんいないんでしょ?
お父さんしかいないんじゃ、寂しいじゃない。
ご飯も、お母さんがいないんじゃ作れないでしょ?」
まだ『食事は母がつくるもの』等の思い込みがある、幼年期らしい答えだった。
だが、この言葉はこなたの心に突き刺さった。
家では父親が食事を作り、基本的には二人だけの生活だ。
たまに従姉妹のゆい、そして叔母さんであるゆきが遊びに来るが、一緒に暮らしている訳ではない。
だが、この言葉はこなたの心に突き刺さった。
家では父親が食事を作り、基本的には二人だけの生活だ。
たまに従姉妹のゆい、そして叔母さんであるゆきが遊びに来るが、一緒に暮らしている訳ではない。
母がいないという事。
それは、やはり周りから見れば特殊なのだろうか。
自分の環境は『普通じゃない』のだろうか…
ネガティブな思考がこなたを包み始める。
ここで、こなたは他人に対して初めて『無理』をした。
それは、やはり周りから見れば特殊なのだろうか。
自分の環境は『普通じゃない』のだろうか…
ネガティブな思考がこなたを包み始める。
ここで、こなたは他人に対して初めて『無理』をした。
「…いやー、特に寂しくはないよ?
うちのお父さん、とっても賑やかで楽しいし、ご飯だってばっちり作れるんだよ?
それに、親戚のゆき叔母さんやゆい姉さんもよく来るしねー」
「そっかー、それなら毎日楽しいねー」
「うん、あははは…は……」
うちのお父さん、とっても賑やかで楽しいし、ご飯だってばっちり作れるんだよ?
それに、親戚のゆき叔母さんやゆい姉さんもよく来るしねー」
「そっかー、それなら毎日楽しいねー」
「うん、あははは…は……」
顔は笑っていたが、心の中では笑っていなかった。
結局この出来事がこなたの心を駆け巡り、この日の授業はあまり耳に入らなかった。
帰りはそうじろうと一緒に下校をしたが、こなたはどこか固い表情のまま帰宅した。
結局この出来事がこなたの心を駆け巡り、この日の授業はあまり耳に入らなかった。
帰りはそうじろうと一緒に下校をしたが、こなたはどこか固い表情のまま帰宅した。
◆
家に戻った後、こなたはしばらく部屋で考え込んでいた。
母親がいなくて可哀想だと言われた事。
確かに父親から、母親にはもう会えないと言われた時は凄く悲しかった。
しかし、その悲しさ以上に日々の生活は楽しかった。
楽しくて優しい父親、よく遊びに来る従兄弟。
家の中は、いつも笑いが絶えない。
そんな環境だったからこそ、こなたは母親に会えないという悲しみから早期に抜け出すことができたのだ。
これだけ幸せな日々を過ごせているのに、自分は何故可哀想と言われてしまうのだろうか?
…散々考えたあげく、こなたは一つの結論を出した。
母親がいなくて可哀想だと言われた事。
確かに父親から、母親にはもう会えないと言われた時は凄く悲しかった。
しかし、その悲しさ以上に日々の生活は楽しかった。
楽しくて優しい父親、よく遊びに来る従兄弟。
家の中は、いつも笑いが絶えない。
そんな環境だったからこそ、こなたは母親に会えないという悲しみから早期に抜け出すことができたのだ。
これだけ幸せな日々を過ごせているのに、自分は何故可哀想と言われてしまうのだろうか?
…散々考えたあげく、こなたは一つの結論を出した。
母親がいない事は、何ら恥じることは無い。
むしろ、その事について何か言われようとも、逆にネタにしてやる位の勢いで行こうと。
半分開き直りと取られてもかまわない。
…そうとでも考えなければ、こなたは自らの心を抑える事ができなかったのだ。
むしろ、その事について何か言われようとも、逆にネタにしてやる位の勢いで行こうと。
半分開き直りと取られてもかまわない。
…そうとでも考えなければ、こなたは自らの心を抑える事ができなかったのだ。
(そうだよ、私は可哀想じゃない。
だって、こんなに毎日が楽しいんだもん…)
だって、こんなに毎日が楽しいんだもん…)
自らに言い聞かせるように、何度も決めたことを反芻する。
そして、こなたはようやく落ち着きを取り戻した。
そして、こなたはようやく落ち着きを取り戻した。
その後クラス替え等の度に、こなたは何度か両親の事について聞かれることがあった。
その度に、努めて明るく振舞いながら説明をしてきた。
何人かはその事でからかう者もいたが、こなたは軽く受け流すようにして過ごした。
その度に、努めて明るく振舞いながら説明をしてきた。
何人かはその事でからかう者もいたが、こなたは軽く受け流すようにして過ごした。
だが、自らにとって辛い思いというものは蓄積するもの。
数年後、その辛さを塞き止めていたものが決壊する日が来たのだった。
数年後、その辛さを塞き止めていたものが決壊する日が来たのだった。
フラッシュバック(2)に続く