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風邪の功名

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だれでも歓迎! 編集
 澄みきった青空に一筋の飛行機雲。空気は冷たく乾燥気味。
 でも、お日様の光に暖かさを感じて、なぜかほっとする。
 こんな天気の日には、散歩でもしてのんびりしてたら、最高に気持ちがいいだろうな。
 私の今の状況は、ベッドに横たわり、布団をしっかりと被り、頭には氷枕という完全装備。
 そう、風邪を引いて熱が出てるんですよ。
 最悪なのは、今日に限っておとうさんは取材で一日外出。ゆーちゃんは、みなみちゃんの家にお泊り。
 熱があるのに気付いたときには、お父さんは既に出かけていた。
 取りあえず薬は飲んだし、寝ておこう。
 あ、バイト先に休むって電話入れとかなきゃ。


 熱い。髪が額に張り付いて気持ちが悪い。
 再び目が覚めたときには、日が沈み始めていた。時計の針は五時を過ぎていることを示している。
 この場にお父さんがいないとこを見ると、まだ帰ってきてないのかな。
 いたら、起きた瞬間に「大丈夫かこなた」とか言いながら抱きついてくるはずだもんね。

「ピンポーン」
 お父さんもゆーちゃんも鍵は持ってるから、どうせ宅配便か勧誘かでしょ。
 誰もいませんよー、なんて心の中で言っておこう。
「――ピンポーン」
 しつこいなあ。だから、誰もいないってば。
 チャイムが鳴り止んだと思ったら、今度は枕元で携帯が動き出した。
 またマナーモードにしっぱなしだったよ。
 携帯を開くと、かがみからの着信を知らせていた。
 しまった。かがみからの着信は、特別お気に入りの曲にしてたのに。

「もしもし~、どうしたのかがみ~」
『あんたのバイト先行ったら、風邪で休みだって聞いたから』
「お~、さすが私の嫁。わざわざバイト先に会いに行ったうえに、お見舞いに来てくれるとは」
『そんなことより声が変よ。かなり体調悪いんじゃないの?』
 かがみが突っ込みをいれずに言うくらいだから、よほど体調が悪そうな声をしてるんだろうな。
 実際、寝る前より体調が悪い気がするんだよね。
「ん~、熱があって動くのもだるい」
『じゃあ動けないわけじゃないのね。だったら玄関開けてくれない。今、家の前にいるのよ』
 さっきのチャイムはかがみだったのか。わざわざ心配して来てくれたんだ。
「わかった~。すぐ開けるよ~」

 何とか起き出して玄関を開けると、かがみが寒そうにしながら立っていた。
 すぐに上がってもらい、私の部屋へ移動する。
 本当はあったいお茶でも出してあげたいんだけど、玄関まで出て行っただけで脚がふらつくから無理。
 部屋に戻るなり、私は布団に潜り込もうとする。
「こなた、おじさんやゆたかちゃんは?」
「お父さんは取材。ゆーちゃんはみなみちゃんの家に泊まりに行ってる」
 開いたままにしてあった携帯を閉じようとして、ふとディスプレイを見ると不在着信が一件。
「ありゃ、お父さんから電話が入ってた。ごめんちょっと掛けるね」
 かがみは置いてあった氷枕を触ると、それを手に取り確認している。
「じゃあ、これに氷いれてくるわね」
 お父さんに電話をしている間に、かがみは氷枕を手に部屋から出て行った。

 お父さんとの電話が終わって、布団に潜り込むとかがみが戻ってきた。
 たったそれだけのことなのに、なんかほっとした。
「こなた、はいこれ。おじさんはなんだって?」
 氷枕を受け取りながら、お父さんが今日は帰れないと言ったのを伝えるべきか考える。
 言えばかがみは泊まっていってくれるんじゃないかな。
 それを期待する私と、迷惑だから言わないほうが良いと思う私が、心の中で殴りあう。
 その間、どうしてもかがみを気にして、ちらちらと見てしまう。
「はっきり言いなさいよ。私は迷惑だなんて言わないから」
 かがみの一言で、心の争いに決着が付いた。レバ剣を持っていたのは、甘い期待をする私だったようだ。
「う、あの、お父さんが今日は帰れないって。私の声を聞いて心配してくれたんだけどね……
 かがみが来てくれてるからって、泊まっていってくれるから大丈夫って言っちゃった」
 お父さんにはそんなこと言ってない。一人だと心細いから、かがみにいてほしいから思わず嘘をついた。
 ごめんね、かがみ。
 かがみは一つため息をつくと、「やっぱりね」とつぶやいたみたい。
「なにが?」
「なんでもないわよっ。ちょっと家に戻って着替え取ってくるわね。ついでに買い物もしてくるわ。
 晩御飯はインスタントで我慢してよね」
 かがみは料理が苦手だからね。つかさなら美味しい料理を作ってくれるんだろうけど、
かがみがいてくれることのほうが何倍も嬉しいよ。
 でも、そんな気持ちを悟られないようにしないとね。
「えー、かがみが作ってくれないの」
 ちょっとした冗談。いつものようにツンデレを見せてくれたまえ。
「仕方ないでしょ。どこに何が在るか分からないし、なべを爆発させたら大変だし」
 かがみから意外な返しがきたもんだから、思わず笑っちゃったよ。
「ぷっ。もうかがみってばー。ごめんね、気ぃ使わせちゃって」
 本当にかがみは優しいよね。だから私は――



「ただいまー。こなた大丈夫?」
「げほっげほっ。すまないねぇ、私がこんな体じゃなけりゃ」
「そんな冗談言ってる場合か。どれどれ」
 かがみの手が伸びてきて、私のおでこに当てられる。
 ひんやりして気持ちいいし、なんだか落ち着く。けど、ちょっと恥ずかしいな。
「ところで、なんでただいまって言ったの?」
「いや、それはその~、ほら、ここを出てから戻ってきたからつい……」
 なんか、随分あわててるけどどうしてだろ。
 考えてたら、かがみの手がおでこから離された。
「しっかり熱があるわね。それよりこなた、すごい汗かいてるわね。ちょっとタオル借りるわよ」
 そう言ってかがみは部屋を小走りで出て行っちゃった。

 わざわざタオルを持ってきてくれるなんて、気が利くねかがみは。
 あれ?タオルを「持ってくる」じゃなくて「借りる」って言った?
 部屋に戻ってきたかがみは、洗面器とタオルを二枚持っている。
「かがみ、何してるの?」
「あんたの体を拭いてあげるの」
 はい?なんですと?いや、えっ?
「ちょ、かがみ。自分でするから。やっ、ほんとに」
 声は出るけど、体に力が入らない。
 寝巻きの釦を外そうとするかがみの手を止めようとしたけど、簡単に押さえ込まれた。

「ほら、暴れない。私が帰ってきたときだって起きれないくらいなんだから。
 それに、このままだと気持ち悪いでしょ」
 釦を全部外されて、前から抱きかかえるように上半身を起こされて、上着を取り除かれる。
 昼起きたときに、胸が締め付けられて苦しかったから、ブラは外してた。
 要するに、上半身は既に裸。
 かがみは、私をもう一度寝かせると今度はズボンを脱がせようとしてる。
 エロゲではよくあるシチュだけど、自分がされると恥ずかしすぎませんか、これ。

 結局、一枚を残して全て剥ぎ取られた私は、胸の前で腕を組みベッドに寝ている。いや、寝かされている。
 自分で拭くからと言って立ち上がろうとしたら、かがみに押さえ込まれて怒られたんだよ。
 そのかがみは今、お湯でタオルを湿らせている。
「寝巻きが汗でぐちゃぐちゃじゃない。よくこれで平気だったわね」
「いや、平気じゃなかったんだけど。着替えるのもきついというか、面倒くさいと言うか」
 湿らせたタオルと乾いたタオルを持って、かがみが近づいてくる。
 すごく恥ずかしくて、心臓の鼓動が耳元でなっているような気がする。
「なんかかがみ、すっごく慣れてない?」
「小さい頃、姉妹が熱出したときによくやってたし、やられてたからね。
 それよりほら、手をどけないと拭けないわよ」
 私が素直に手を両脇に下ろすと、体を拭き始めるかがみ。
 湿ったタオルで一度拭き、乾いたタオルで残った水分を拭き取る。
 顔から首、肩から腕と丁寧にしっかりと拭いてくれる。わずかに暖かく、なんだか落ち着く気持ちよさ。
 そして、前から抱きかかえられるような格好で、背中を拭いてくれる。
 かがみに寄りかかるように少しだけ体重を掛けて、頭を肩に乗せるといい匂いがする。
「かがみ、いい匂いがするね」
 熱のせいかな、言葉が素直に出てくる。
「な、何言ってるのよ。汗かいてるんだしそんなわけ無いでしょっ」
「ん~、でもかがみのいい匂いがする」
 かがみの傍で、いつまでもこうしていたいな。
 でも、背中を拭き終わるとベッドに寝かされた。当然のことなんだけど、残念だな。
 そして、かがみが体を拭き始めると、さっきまでとは違う気持ちよさが体を襲ってきた。
 腋から胸にかけて、さっきまでとは違い力を入れすぎず優しく拭いてくれる。
 くすぐったいような、しびれるような感じ。
 胸の頂がそれに反応し、自己主張を始めるのが分かる。
 そして、そこにタオルが触れた瞬間思わず声が漏れた。
「んっ…」
「どうしたの。痛かった?」
「いや。大丈夫だよ」
 できるだけ平静を装いながら返事をしたつもりだけど、気付かれちゃったかな。
 再び、かがみが私の体を拭き始めると、また、さっきと同じ感覚が体を支配する。
 駄目だよ、かがみはそんなつもりで体を拭いてくれてるわけじゃない。
 かがみが拭く手を休め、タオルをお湯で湿らせようとして立ち上がる。
「ちょっと、お湯変えてくるわね」
 かがみはこっちを向かずに部屋から出て行ったけど、ちょっとだけ見えた横顔は赤く染まってた気がする。
 その間に何とか落ち着こうと思ったけど、頭に浮かんでくるのはエロゲならこの後どうなるか、なんてこと。
 そして、登場人物を自分に置き換えてる。当然、相手はかがみに――

「おまたせ。さて、さっさと拭いちゃいますか」
 かがみは何事もなかったように、体を拭いてくれている。
 途中までだった胸からお腹へとタオルを滑らす。
 タオル越しだけど、かがみの手を感じて気分が高揚する。
 目をきつく閉じて、声が出そうになるのを我慢しながら拭き終わるのを待つ。
 上半身が終わったら、お湯をもうちょっとぬるめにして、とか頼んで部屋から一回出てもらおう。

 ようやく上半身が終り、声を掛けようとしたときには、かがみは脚を拭き始めてた。
「あんっ。んんっ…… ちょっ、かがみ」
 突然私が声を出したもんだから、かがみは驚いて私の顔を見ようとする。
 その視線が途中で止まった。その先にあるのは、私のショーツ。
 見られた……
 そこには、大きなしみができている。
 さっきまでは小さなしみだったはず。
 でも、足を拭くときに私の一番敏感な場所にタオルがわずかに触れた。
 たったそれだけだったけど、かがみへの気持ちを溢れさせるには十分な刺激だった。
 そして、罪悪感、羞恥心、それよりも強く恐怖を感じた。

 嫌われる――

 そんな、絶望的な考えが頭を支配する。
 言葉を捜すけど、何も言っても言い訳にしかならない。
 目の前にある現実を否定することなんかできやしない。
 結局何もできずに、手で顔を覆いかがみの言葉を待つ。
 私に待っているのは闇の世界だと思った。

「こなた、感じちゃったんだ。どこが一番気持ちよかったの?」
 聞こえてきた言葉は、まったく予想していなかった言葉だった。
 かがみの真意は分からない。
 熱のある私を一人にできないと思うから?
 それとも、私が傷つかないように気を使ってくれているから?
 どちらにしても、今はかがみの優しさに甘えよう。
 だから、いつもと同じようにからかうような感じで言葉を紡ぐ。
「う~ん、胸かなぁ。でも、かがみに触られてるって思ったら全部気持ちよかったよ~」
 一瞬の間をおいてかがみは話す。そのわずかな時間も、今は永遠のように感じる。
「私だからか。じゃあ、また今度触ってあげるわよ」
 明らかにいつものかがみじゃない。
 冗談に付き合ってくれている感じなんだけど、なんだか雰囲気が変だ。
 やっぱり、嫌われたんだろうな。
 目に熱いものがこみ上げてくるのを、必死に耐えながら私は話しかける。
「え~、今日じゃないの~」
 表情もいつもと同じようにできてると思う。でも、かがみの目を見ることだけはできなかった。
 そこには、嫌悪、拒絶、そういった私を闇に落とすものが見えてしまいそうだったから。
 それに、見てしまうと涙をこらえきれなくなりそうだから。
「何言ってるのよ。こなたの体調がこれ以上悪くなったらどうするのよ」
 そう言って、かがみは体を拭き続けてくれた。

 体を拭き終えて、洗面器とタオルを持ってかがみは部屋を出て行った。
 その間に着替えをして、再び横になる。

「こなた、やっぱり今日は帰るわ…… 」
 部屋に戻ってきたかがみはそう言って、部屋の入口に立っている。
 それは、半ば予想していたこと。やっぱり嫌われちゃったね。
 どうせ嫌われたなら、私の気持ちをちゃんと伝えておこう。
 それが私のけじめ。これでかがみとはお仕舞い。
「ねえ、かがみ。何も言わなくてもいい、答えなくてもいいから私の話を聞いて」
 かがみの返事を待たずに話を続ける。
「私ね、出会ってからずっとかがみの事が好きだった。最初は友達としての好き。
 でもね、みんなでコンサートに行ったとき、途中で場所変わってくれたよね。
 私の前に大きな人がいて、ステージが見えなくってさ。嬉しかったよ。
 そのとき、かがみに対する気持ちが分からなくなったんだ。本当に友達の好きなのかどうかが。
 かがみは優しくて、強くて、私のことを気にしてくれて……
 ごめんね、かがみ。女同士だし嫌だよね」
 涙が溢れて、言葉が詰まる。
「かがみ、どうせ嫌われるなら気持ちを伝えたい。
 そんな私のわがままで、辛い思いさせてごめんね。
 私はかがみが大好き。でも、無理だよね。
 今日は…… 今までありがとうかがみ」
 あとは泣くしかできなかった。 
 初めての親友とこんな別れ方をするなんて思わなかった。
 そのことがとても辛かった。

 どれくらい時間がたったのだろう。五分、十分。もしかすると、ほんの数秒かもしれない。
 ただ泣くことしかできない私に、かがみの声が聞こえてきた。
「ちょっとこなたっ。何一人で終わらせてるのよ。
 私の気持ちは関係ないのかっ。いいかげんにしなさいよっ」
 寂しさに押しつぶされそうな私は、かがみの言ってることが理解できなかった。
 何とか顔を上げてかがみを見る。
 かがみも泣いている。なんで?
 そうだ、私が辛い思いをさせて、泣かしてるんだ。
「ごめん、ごめんね、かがみ―― 」
 私は俯いて、何度も同じ言葉を繰り返した。

 突然、体が温かく包まれる。
 何が起きてるのか分からなかった。
 耳元で聞こえるかがみの声で、抱きしめられてることを理解した。
「謝らないでよ、こなた。あんたはさっき私が強いって言ったけどそんなことない。
 私は。私もずっとこなたが好きだった。
 いつでも私の傍にいてほしい。いつでも笑っていてほしい。
 でも、告白して、もし嫌われて今の関係が終わるくらいなら、ずっと友達でいいと思ってた。
 自分の気持ちから、逃げてたのよ。だから、私は強くなんてない」

 ああ、かがみも同じだったんだ。
 だったら、今度は笑って伝えよう。
 お互い、辛い思いをしなくていいように。逃げなくていいように。
 抱きしめてるかがみの体を両手で押して、少しだけ離してかがみを見つめる。
「私はかがみのこと、大好きだよ」
 少し。ほんの少しの間があってかがみも答えてくれた。
「私もこなたが好き。大好きよ」
 涙を流しながら笑顔を見せるかがみ。
 私も泣きながら笑顔を見せていた。
 そして、どちらからともなく自然と近づき、初めてのキスをした。


(おわり)




(おまけ)

「ねぇかがみ。さっきの続きしない」
 さっきは、私が勝手に感じてただけだし。
 それに、私だけ裸を見られて、一方的に触られただけじゃ不公平だ。
「なっ、何よ。さっきの続きって」
 顔を真っ赤にしながら顔を背ける。やっぱりかがみは可愛いね。
「もう、分かってるくせに。また今度触ってくれるって言ったのにい」
「あっ、あれは―― 」
「私が感じてたのみて、かがみも喜んでたくせに」
「なっ、気付いてたのっ」
 やっぱりそうだったんだ。
「いや、かまかけてみただけだよ」
「…… 」
 ちょっといじめすぎちゃったかな。
「でも、それ聞けてよかったよ。かがみが流されて、好きだって言ったんじゃ無いって分かったから」
「だって、こなたの全てを知りたい。そう思うくらい好きだから。
 私の手で感じてくれたって思ったら、すごく嬉しかった」
「じゃあさ、続き――」
「それは駄目。まずは風邪を治すこと」
 むう、今日はいくらお願いしても駄目っぽいな。
「ぶぅ、かがみのいけず~」
「はいはい、もう寝ましょうね」
「わかったよ。寝るよ」
 って、かがみの布団用意して無い。
「その代わり、一緒に寝てあげるから」
 布団に入ってきたかがみに、後から抱きしめられた。
 かがみの体は柔らかくて、温かくて、とても落ち着けた。
「ありがと、かがみ」
「どういたしまして、こなた」












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  • 凄く良い作品!素晴らしい名作!!
    ただ作者さんに感謝です! -- チャムチロ (2012-09-14 12:20:25)
  • 一見ほのぼの作品に見えてその実すごくエロいと思う
    -- 名無しさん (2008-10-26 04:29:47)
  • 気持ちを伝える、ただそれだけが難しいんだね -- 名無しさん (2008-04-18 02:55:20)
  • gj -- 名無しさん (2008-04-13 09:34:14)

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