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みゆきさんに頭をなでて貰おうの会

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「結成しました」
「しました」
「……」
 ええと。

 あ、失礼しました。
 こんにちわ、高良みゆきです。
 夏を間近に控えたある日のお昼休み。学校の教室でいつものように私、泉さん、かがみさん、
 つかささんの四人で昼食を取っているときのことでした。
 「ちりめんじゃこの中に小さなタコが混じりこむ原因およびその確率」についての話が一段落した辺りで、
 泉さんが「そういえば、」と呟いて、そしてその不可思議な文節を口にしたのです。
「あの……申しわけありません泉さん、もう一度仰っていただけますか?」
「だから、『みゆきさんに頭をなでて貰おうの会』だよ」
「……」
 ええと。
「結成しました」
「しました」
 ちなみに「しました」を繰り返したのはつかささんです。お二人ともにこにこと笑ってらっしゃいます。
 かがみさんはため息をついていました。
 ええと。
 「みゆきさん」というのは私のことでいいのですよね?
 少なくともこのクラスには同じ名前の方はいませんし。
 「頭をなでる」というのは……頭をなでることですよね? ……他に表現のしようがありません。
 「会」というのは、ある一定の目的を持った人たちの集まり……ということでいいと思われます。
 はい。
 とりあえず、一つ一つの意味はわかりました。
 これを合成すると……私に頭をなでて貰うことを目的とする集まり、それを結成した、と。
 なるほど。
 さっぱり分かりません。
「みゆき、みゆき」
 かがみさんが、手招きなのか、落ち着かせようとしているのか、どちらともつかない仕草をしながら
 私の名前を呼びました。そして低い声で仰います。
「そんな真剣に悩まなくていいから。無視しときなさい」
「はぁ……あ、いえ。そういうわけにも」
 仮にも名指しをされたのですから。
 お二人の方へ向き直ると、つかささんが「うん」とうなずいて口を開きました。
「昨日テレビで見たんだけどね、『女性100人に聞きました』っていうがやっててね、その中で『思わず
相手を抱きしめたくなるとき』っていうがあったの」
「で、その一位が『頭をなでられたとき』だったんだって」
 後半を泉さんが引き継ぎます。
 なるほど、不思議な統計もあるものなのですね。興味深いです。
「二位以降はなんだったのですか?」
「え? えーっと……『かわいい寝顔を見せられたとき』とか、『甘えられたとき』とかだったかな?」
「ちなみに『相手』ってのは彼氏のことらしいよ。――まぁソレは置いといて」
 そうでした。
「すみません、話を逸らしてしまいましたね。――それで?」
「それで、なるよねーって言ったら……」
 と、言いかけたつかささんが、言葉に詰まってしまいました。どうしたのでしょう。
「つかさはそう言うんだけど、私はわかんないなーって。彼氏なんていないし」
 再び泉さんが引き継ぎます。
 なるほど。……とうなずいてしまうのも失礼かも知れませんが、その通りですね。
「まーつかさもそれはおんなじなんだけど、お母さんとかお姉さんがいるから。なでられると
抱きつきたくなるんだって」
 あ……
 そうでした。泉さんは一人っ子で、そしてお母さまを亡くしているのでした。
「いやいや、そんな顔しないでよ」
「あ、いえ……」
「だから……あー、まいーや。――とにかく、そこでみゆきさんの出番なわけだよ」
「……はい?」
 なんでしょう?
 今、話が大幅に飛んだような気がするのですが。
「いやさ、別に失礼な意味じゃないんだけど、私の身近でもっとも強力な母性を発してるのは
みゆきさんなわけなのですヨ。だからなでてもらったらわかるかなー、と」
「はぁ……」
 なんとなく分かってきました。
 いつもと違ってかがみさんが積極的に止めにこなかったのも、そういうことだったのですね。
「ちなみに、おじさんだとダメなんだってさ」
「向こうから勝手にぺったぺた引っ付いてくるからねぇ。レア度が足りんよレア度が」
「あの、事情は分かりましたが、それがなぜ……会、と?」
「私もゆきちゃんになでてもらいたいから~」
 つかささんが嬉しそうに仰いました。
 分かるような、分からないような。
 そこにかがみさんが口を挟みます。
「バスの中でそんなこと言い出したこなたにね、つかさが『ずるい、私も』って。で、同盟結んだってわけ」
「解説ご苦労」
「あんたらの言葉が足りなさ過ぎるんだ」
「だってかがみの仕事盗ったらかわいそうじゃん」
「そんな職についた憶えはねぇ」
 いつものようにコンビネーションを発揮する泉さんとかがみさんはさておいて、なるほど。
 どうにか経緯と主旨は理解できました。
「それで……私は、何をすればいいのでしょう?」
「なでてやったら?」
 やはりそうなるのでしょうか。
 泉さんとつかささんは期待に満ちた目で私を見つめています。
「分かりました。ですが、少しお待ちください。食べてしまいますから」
 食事中に髪に触れるのは、あまり衛生的とは言えませんからね。


「それでは、失礼して……」
 間もなくお弁当の残りも食べ終わり、まずは利き手の方である左側に座っていたつかささんの頭に
 手を伸ばしました。
「うんっ」
 つかささんは顔をほころばせてうなずきます。
 髪を乱さぬよう、結わえられたリボンも崩さぬよう気をつけて、なるべく優しくなでさせていただきました。
 さらさらの髪の毛が手に心地よいです。ほんのりと漂うさわやかな香りは、シャンプーでしょうか。
「いかがですか、つかささん?」
「うん……気持ちいいよ、ゆきちゃん……」
 頬をやや紅潮させ、言葉どおり気持ち良さそうに目を細めるつかささん。
 少し恥ずかしさもありますが、私の方も心が温かくなりますね。
「これは……和む光景だね」
「まぁ、ね」
「和み萌えだね。いや、萌え和む、かな?」
「知るか」
「あと、こう……クるモノがあるね」
「来ないわよ何も」
 泉さんとかがみさんのそんな会話を聞きながら、適当なところで手を離します。
「はい、おしまいです」
「あ……うん。ありがとう、ゆきちゃん」
 つかささんがにっこりと笑います。
 ああ、どうしてこの人は、こんなにも純粋に笑えるのでしょう。
「どういたしまして」
「――で、どう? つかさ」
「うん。気持ちよかったよ」
 泉さんの興味深げな問いかけに、つかささんは笑顔のままで答えました。
 が、問うた泉さんの方は、困ったように苦笑い。
「いや……抱きつきたくなったかどうか、なんだけど」
「あ」
 あ。
 ……そういえば、それを検証するため、でしたね。なでることに神経を使うあまり、忘れていました。
 お恥ずかしい。
「えっと……ゆきちゃん、いい?」
 恐らくは私と同様、頬を桜色に染めて、つかささんが上目遣いに言ってきます。
「こ、ここでですか?」
「いいわけないでしょ。教室のど真ん中でなにをやらかすつもりよ、あんたは」
 さすがに戸惑ったところ、かがみさんが止めに入ってくださいました。
「はう……ご、ごめんなさい」
「いえ。お気になさらず」
 つかささんには申しわけありませんが……あと私自身も少しだけ残念に思いますが。
 とりあえず、また次の機会にということで。


「よぉっし、次は私だね。――つかさ、チェンジっ」
「あ、うん」
 泉さんが意気揚々と立ち上がり、つかささんと席を入れ替わると、
 目を閉じて心持ちこちらに頭を差し出してきました。
「ささ、どーぞどーぞ」
「はい」
「優しくしてね?」
「ええ、もちろんです」
 頭の天辺あたりから飛び出した一房の癖毛をどう扱うかに少々迷いましたが、
 ひとまずはつかささんのリボンと同様、形を崩さぬよう気をつけることにしました。
 つかささんが、毛の一本一本が細く柔らかな感触だったのに対し、
 泉さんの髪はしなやかで芯の強い印象です。
「うぉ……? こ、これは思った以上に……」
 呻くような泉さんの言葉。表情の方も赤くした頬を若干引きつらせ、
 恥ずかしがっているような苦しんでいるような、どちらにしてもあまり良くはなさそうな様子です。
「大丈夫ですか?」
 ですが、そう思って手を離したとたん、
「あっ」
「え?」
「あ……」
 捕まえられました。
 驚きましたが、私の左手を両手で捕まえた泉さんの方が、もっと驚いた顔をしています。
「いや、あの――ごめんみゆきさん。でももう少し続けて?」
 申しわけなさそうに、しかし手は離そうとせずに、泉さんは仰います。
「……分かりました」
 続行します。
 そこに、なんとなく退屈そうにしていたかがみさんが口を開きました。
「……今、なんかすっごい必死な顔してたわよ、こなた」
 少し意地の悪そうな、ニヤニヤという擬態語が似合いそうな声と顔。
 かがみさんが泉さんに向かってこのように優位を示そうとする場面は今までに何度となくありましたが、
 そのたびに泉さんに逆にやり返されてしまうのが常でした。
 しかし今回は様子が違うようです。
「し、してないよ。そんな顔なんて……」
「してたわよ。ね、つかさ?」
「え、えーっと……」
「うぐぅ……」
 完全に泉さんが押されています。
 珍しい光景ですね……やはり私が頭をなでていることが原因なのでしょうか。
「で、どうなの感想は?」
「抱きつきたくなった?」
「んん……とりあえず、お父さんとはぜんぜん違う……かな」
 かがみさんと、そしてつかさんに尋ねられて、答える泉さんの顔は、ひとことで言えば「恥ずかしそう」
 でしょうか。羞恥に耐えるように眉を寄せ、身体も小刻みに揺すっています。
「抱きつきたくは……なってる。ってゆーか、無性に何かにしがみつきたい感じ。くすぐったいってゆーか、
こっ恥ずかしいってゆーか。……良い意味でもにょるってゆーのかな」
「落ち着かないの? 私はゆきちゃんになでられたら、こう……ふわぁって安心できたんだけど」
「安心……うん。安心は、あるよ。あるんだけど……安心は安心なんだけど、安心しすぎて逆に不安に
なってる感じなのかな? よくわかんない」
「おーおー、饒舌になっちゃって」
 引き続き意地悪そうに言いながらも、かがみさんは微笑みを優しい形に変えています。
 明らかにもっと見たがっている様子ですが、当の泉さんの具合がやはりあまりよくはなさそうですし、
 そろそろ止めた方がいいのでしょうね……と、思おうとした、そのとき。

「……お母さんって、こんな感じなのかな」

 一瞬。
 ほんの一瞬、手が止まってしまいました。そして離せなくなってしまいました。
「……いえ。きっと、及ばないと思います」
「そうなんだ……」
 深い、深い息を吐いて、しみじみと仰る泉さん。
「コレより上なんだ……想像つかないや」
「……」
「……」
 やや気まずそうに目を逸らすかがみさんに、つかささんが微笑みかけます。
 私はというと、手を離す気はすっかりなくなってしまいました。
 少なくとも、もう少しの間だけは。


 やがて予鈴が鳴り、昼休み終了の五分前が告げられます。
「あちゃ、もう終わりかぁ。かがみの番がまだなのに」
「なんでだよ」
 泉さんの残念そうな声に、かがみさんがすげなく言い放ちます。
「なんでって、かがみこそなに言ってんのさ。つかさ、私と終わったんだから、次は当然かがみの番でしょ」
「だから、私は入らないっていったでしょ」
「そうなんですか?」
 思わず口を挟んでしまいました。
 入らない、といのは、文脈的からいって「なでてもらう会に」ということなのでしょう。
 朝の通学バスにて交わされたという会話の中でそのように宣言したものと推察されます。
 てっきりかがみさんも加わっているものと、私も思っていたのですが……
「ちょ、みゆきまで? 私がこんなことに参加するわけがないでしょ」
「はぁ……」
 曖昧に頷きながらも――なるほど。確かに。
 「みんなで誰かに甘えよう」といった主旨の集まりに参加するというのは、
 考えてみれば確かにかがみさんらしくはありませんね。
「――っと、別にみゆきがイヤだってわけじゃないのよ?」
「あ、いえ。分かってますから」
 一転して気まずそうな顔になったかがみさんに、慌てて胸の前で手を振ります。
 分かっている、という言い方も傲慢かも知れませんが、要はなでられるという行為そのものが
 恥ずかしいということですよね。
 正直、残念に思う気持ちもあるのですけど。
「だったらなでてもらっとこうよ。まだ少し時間あるんだし」
「しつこいわねぇ……。ってゆーか、まさか照れ隠しなのかそれは?」
「うーん、それもないとは言わないけどね。どっちかって言ったら、ここはかがみが最後にみゆきさんに
なでられて、ついでに私とつかさにもなでられて、「やめんかー!」みたいな感じにならないと落ち着かない
ってゆーかオチがつかないってゆーか、ね?」
「ね? じゃねぇよ。なんにしても、お生憎さま。時間切れよ」
 空になったお弁当箱を手に、かがみさんが立ち上がります。
「ええ~? つまんなぁ~い」
「お姉ちゃんのも見てみたいのに……」
「ふふん。そう毎回まいかい私がアンタのおもちゃになると思ったら大間違いよ」
 不満そうな泉さんとつかささんを軽くあしらいつつ、教室の出入り口へと向かって歩き出し、
 私の横を通り過ぎる際に、お弁当箱を持つ手を左から右へと入れ替えました。
 そうして空いた左手で――

「――お疲れさま、みゆき」

「え?」
「お?」
「あ……」
 つかささん、泉さん、私の声が重なりました。
 お二人の表情は分かりません。反射的にかがみさんを目で追ってしまいましたから。
「……」
 なんとなく。
 手が動いて、頭のてっぺんに伸びかけて、
「……」
 やはり、なんとなく。
 そのまま下ろしてしまいました。
 なんでしょう。
 ほんの一往復半ほどしか触れられていないのに、ぼんやりと温かくなっているような気がします。

「……おのれかがみめ。まんまと盗んで行きおって」

 なにやら少し物騒な言葉。
 我に帰って体勢を戻すと、泉さんが、やけに真剣な顔で私のことを見つめていました。
「みゆきさん」
「あ、はい」
「かがみはとんでもないものを盗んでいきました」
「はい?」
「あなたの心です」
「……」
 ええと。
「……『ルパン三世』、ですか?」
「ぬおっ、知ってた!?」
「え、ええ……確か『となりのトトロ』を作った先生の、初期の作品なんですよね? 少し前にテレビで
やっているのを見ましたよ」
「え? ルパンって、あの泥棒さんのやつだよね? 作者の人ってトトロの人だったの?」
「……うん。劇場版の一作だけだけどね。……むぅ、みゆきさんでも知ってるとは、さすがはパヤオと
いったところか……ぬかったわ」
 残念そうに腕を組む泉さん。
 そのまま椅子から立ち、自分の席へと戻っていきます。
「じゃ、ゆきちゃん。またあとでね」
「はい」
 つかささんもあとに続きます。
 しかし……心を盗んだ、ですか。
 あながち間違いとも言い切れませんね。
「……」
 今一度、頭に手を伸ばして。
 そしてまた、耳のあたりを触るに止めてしまいます。
 名残惜しいような、物足りないような、そんな気分です。
 そうですね。
 少し恥ずかしいですけど。帰ったら母に事情を話して、ねだってみましょうか。
 そんなことを思ったりした、お昼休みのひとときでした。

















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  • ムズムズしちまったぜ!最高! -- 名無しさん (2009-12-07 08:57:20)
  • なんてぇ渋いんだ!GJ! -- コメント職人U (2009-06-06 19:36:12)
  • 癒された……
    みゆきさんには、ほんわかした和む話がよく似合う。
    GJ! -- 名無しさん (2009-05-21 19:52:29)
  • かがみさんッ!マジあんた渋過ぎッス!

    立ち去る姿は雄弁に背中で語っていたに違いないッス!


    ・・・しかしみゆきさんは鼻血大噴射したり奇天烈な発明したりするほうが普通

    じゃないですよね、そうですよね。 -- 名無しさん (2008-12-19 21:01:13)
  • さりげなくやるところが何ともかがみらしい‥‥(^^) -- 名無しさん (2008-12-19 14:58:39)
  • 最近壊れてるところや空気なところのみゆきさんばかり見ていたので、理性的で母性溢れるみゆきさんは新鮮に感じました。GJ!!!!

    …って、原作やアニメはこういうみゆきさんがデフォなんですよね(^-^; -- にゃあ (2008-10-19 03:44:21)
  • やべえニヤケたw -- 名無しさん (2008-10-19 00:11:37)
  • 撫でてほしいw
    -- 名無しさん (2008-07-25 16:09:06)
  • かがみゆフラグが立ったということですねわかります
    かがみに甘えるみゆきさんシチュの続編に期待だ!
    -- 名無しさん (2008-07-12 14:58:14)
  • こんなみゆきさん超好きだwww -- 名無しさん (2008-07-12 06:17:48)
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