「うぅ……ぜんぜんわからないよー……」
「……私も……」
「弱音を吐かないの。今日の目標までもう少しなんだから、頑張りなさい」
「……はーい……」
「……私も……」
「弱音を吐かないの。今日の目標までもう少しなんだから、頑張りなさい」
「……はーい……」
Orange days
冬休みが終わり、センター試験まで残り2週間を切った1月中旬の日曜日、こなた、かがみ、
つかさの三人は、泉家に集まって、勉強会を開いていた。本当はみゆきも一緒に参加する予定
だったが、急な用事ができたらしく、不参加ということになった。
つかさの三人は、泉家に集まって、勉強会を開いていた。本当はみゆきも一緒に参加する予定
だったが、急な用事ができたらしく、不参加ということになった。
だんだん寒さの増してきた冬空は、厚い雲に覆われていた。
「……そういえば、今日は雪が降るかも、って天気予報で言ってたっけ……かがみ達は傘とか
持ってきた?」
窓の外のどんよりとした空を眺めていたこなたは視線を移動させて、机の向かい側にいる
かがみに尋ねた。ちなみに今こなたの部屋にいるのは、こなたとかがみの二人だけ。つかさは
こなたとともに今日の勉強目標を達成した後、こなたに言われてお菓子を二階のリビングまで
取りに行っている。つまり、今は休憩中である。
「一応、折りたたみ傘は持ってきたけど。ちゃんと天気予報も見てきたし、朝から降って
来そうな空だったしね」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
こなたはかがみの返事を聞いて、また窓の外へと視線を戻した。
「……そういえば、今日は雪が降るかも、って天気予報で言ってたっけ……かがみ達は傘とか
持ってきた?」
窓の外のどんよりとした空を眺めていたこなたは視線を移動させて、机の向かい側にいる
かがみに尋ねた。ちなみに今こなたの部屋にいるのは、こなたとかがみの二人だけ。つかさは
こなたとともに今日の勉強目標を達成した後、こなたに言われてお菓子を二階のリビングまで
取りに行っている。つまり、今は休憩中である。
「一応、折りたたみ傘は持ってきたけど。ちゃんと天気予報も見てきたし、朝から降って
来そうな空だったしね」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
こなたはかがみの返事を聞いて、また窓の外へと視線を戻した。
それを見たかがみは、今日何度目かの違和感を覚えていた。
(何だろう……今日のこなた、いつもと少し違う気がする……)
初めは、それは今日が勉強会だからだとかがみは思っていた。実際、かがみもこなたや
つかさが勉強以外の事をしないように監視してたから、あまり喋らなかったのかもしれない。
でも、勉強を開始してから2時間が経った頃。昼飯を食べるために休憩時間を作ったのだが、
つかさがこなたの家のキッチンを借りてご飯を作っている間、こなたはまるで堰を切った様に
喋りだしたのだ。だんまりだった勉強中とは雲泥の差で、いつもよりもハイテンションなその
喋り口は、逆にかがみが覚えた違和感を増幅させた。
(何だろう……今日のこなた、いつもと少し違う気がする……)
初めは、それは今日が勉強会だからだとかがみは思っていた。実際、かがみもこなたや
つかさが勉強以外の事をしないように監視してたから、あまり喋らなかったのかもしれない。
でも、勉強を開始してから2時間が経った頃。昼飯を食べるために休憩時間を作ったのだが、
つかさがこなたの家のキッチンを借りてご飯を作っている間、こなたはまるで堰を切った様に
喋りだしたのだ。だんまりだった勉強中とは雲泥の差で、いつもよりもハイテンションなその
喋り口は、逆にかがみが覚えた違和感を増幅させた。
それは昼飯を食べている時でも変わらずで、かがみやつかさが振った話題に「そうなんだー!」
とやたらオーバーリアクションだったり、「そう言えばさー」とどうでもいい話を、いつも
以上に大袈裟に話したりと、かがみにとっては違和感を覚えるような事ばかりだった。
とやたらオーバーリアクションだったり、「そう言えばさー」とどうでもいい話を、いつも
以上に大袈裟に話したりと、かがみにとっては違和感を覚えるような事ばかりだった。
(まるで、無理矢理明るく振舞ってるみたいだったな……)
そして勉強を再開するとまた黙ってしまって、今日の分が終わった今は昼飯の時とは違って、
会話はしてくるけどローテンションさは保ち続けていて、その落差がまたかがみにこなたへの
不審感を与えていた。
そして勉強を再開するとまた黙ってしまって、今日の分が終わった今は昼飯の時とは違って、
会話はしてくるけどローテンションさは保ち続けていて、その落差がまたかがみにこなたへの
不審感を与えていた。
「おまたせー、お菓子持ってきたよー」
かがみがしばらくその事について考えていると、つかさが二階から戻ってきた。
つかさはこなたの異変に気づいていないのだろうか、とかがみは思った。つかさ自身も何度も
弱音を吐きつつも一生懸命に勉強していたから、勉強中にこなたが静かだった事には気づいて
ないかもしれないけど、つかさは昼飯の時のこなたの異常なテンションにも気づいてなかった
みたいだった。
かがみがしばらくその事について考えていると、つかさが二階から戻ってきた。
つかさはこなたの異変に気づいていないのだろうか、とかがみは思った。つかさ自身も何度も
弱音を吐きつつも一生懸命に勉強していたから、勉強中にこなたが静かだった事には気づいて
ないかもしれないけど、つかさは昼飯の時のこなたの異常なテンションにも気づいてなかった
みたいだった。
「おー、つかさ、ありがとー……って、これまた大量だねー」
「えへへ、どれにしようか迷っちゃって、結局全部持ってきちゃった……」
視線を空からつかさに移したこなたの質問に、つかさは苦笑いで答えた。
「つかさらしいねー。じゃあ私はポテチで……かがみはポッキーでいい?」
「えっ? あ、うん、そうするわ」
さっきの違和感について考えていたかがみは、こなたの問いに少し反応が遅れてしまった。
「んん? どしたの? かがみん。あっ、もしかしてダイエット中だった?」
「なっ! そ、そういうわけじゃあ……」
「そんなに気にしなくてもいいのにー。かがみは十分に痩せてると思うけど。ねぇ? つかさ」
「ふえっ!? え、えっと……うん、そうだね?」
「……はぁ……無理にフォローしなくてもいいわよ、つかさ」
いつも通り、に見えるこのやりとり。こなたが糸目でおちゃらけ、かがみが顔を赤くして反論、
つかさは困った様に二人についていく。お菓子関係で体重の話になるのもすでにこなたの
かがみいじりの常套手段になっている。だが……
「えへへ、どれにしようか迷っちゃって、結局全部持ってきちゃった……」
視線を空からつかさに移したこなたの質問に、つかさは苦笑いで答えた。
「つかさらしいねー。じゃあ私はポテチで……かがみはポッキーでいい?」
「えっ? あ、うん、そうするわ」
さっきの違和感について考えていたかがみは、こなたの問いに少し反応が遅れてしまった。
「んん? どしたの? かがみん。あっ、もしかしてダイエット中だった?」
「なっ! そ、そういうわけじゃあ……」
「そんなに気にしなくてもいいのにー。かがみは十分に痩せてると思うけど。ねぇ? つかさ」
「ふえっ!? え、えっと……うん、そうだね?」
「……はぁ……無理にフォローしなくてもいいわよ、つかさ」
いつも通り、に見えるこのやりとり。こなたが糸目でおちゃらけ、かがみが顔を赤くして反論、
つかさは困った様に二人についていく。お菓子関係で体重の話になるのもすでにこなたの
かがみいじりの常套手段になっている。だが……
(…………)
かがみの頭には、まだ引っかかるものが残っていた。つかさが戻ってくる前と戻ってきた後、
それぞれでまたテンションが少し違うのである。会話はするけどややテンションが低い前者、
いつものテンションに戻った後者。昼飯の時と比べれば差は微妙だが、かがみのこなたへの
不審感をさらに募らせるのには十分だった。
かがみの頭には、まだ引っかかるものが残っていた。つかさが戻ってくる前と戻ってきた後、
それぞれでまたテンションが少し違うのである。会話はするけどややテンションが低い前者、
いつものテンションに戻った後者。昼飯の時と比べれば差は微妙だが、かがみのこなたへの
不審感をさらに募らせるのには十分だった。
「……ねぇ、こな……」
「あ、見て見てー、窓の外!」
そのたまりにたまった不審感に耐えられなくなり、かがみがこなたにそのことについて
聞こうとすると、つかさが突然窓の外を指さしてこう叫んだ。
「えっ?……うわー……」
「……すごっ……」
こなたとかがみはそれに従って窓の外を見て、二人ともそれぞれの言葉で感嘆した。
窓の外では、しんしんと、雪が地面に向かって降り注いでいた。
「あ、見て見てー、窓の外!」
そのたまりにたまった不審感に耐えられなくなり、かがみがこなたにそのことについて
聞こうとすると、つかさが突然窓の外を指さしてこう叫んだ。
「えっ?……うわー……」
「……すごっ……」
こなたとかがみはそれに従って窓の外を見て、二人ともそれぞれの言葉で感嘆した。
窓の外では、しんしんと、雪が地面に向かって降り注いでいた。
「……きれいだねー……」
どんよりとした薄暗い雲から降りてくるその雪は、吹雪とまではいかないものの、しばらく
降り続ければ確実に積もるだろうというくらいの勢いであった。それがロマンチックだった
のか、つかさは目をうっとりさせて感嘆した。
「ホントだねー……でも、帰る時大変じゃない? かがみ達、折りたたみ傘しか持ってないん
だよね?」
「え、ええ、そうだけど……」
「……でもこのくらいなら、傘は差さないで歩きたいなー」
こなたの心配はもっともだ、とかがみは思ったが、夢見る乙女モードのつかさはそんな事は
気にしてないようだった。
どんよりとした薄暗い雲から降りてくるその雪は、吹雪とまではいかないものの、しばらく
降り続ければ確実に積もるだろうというくらいの勢いであった。それがロマンチックだった
のか、つかさは目をうっとりさせて感嘆した。
「ホントだねー……でも、帰る時大変じゃない? かがみ達、折りたたみ傘しか持ってないん
だよね?」
「え、ええ、そうだけど……」
「……でもこのくらいなら、傘は差さないで歩きたいなー」
こなたの心配はもっともだ、とかがみは思ったが、夢見る乙女モードのつかさはそんな事は
気にしてないようだった。
はぁ、まったくこの子は……と溜息をついたかがみは、なんとなく、こなたの方を向いてみた。
「…………」
こなたは窓の外の降り続ける雪を、ただボーっと見つめているようだった。
かがみはさっき聞き損ねた違和感について、今度こそ聞こうとこなたに声を掛けた。
「……ねぇ、こな……!」
そしてその時、かがみは自分の感じていた事が気のせいではないとわかる、こなたの確実な
異変を見た。
「…………」
こなたは窓の外の降り続ける雪を、ただボーっと見つめているようだった。
かがみはさっき聞き損ねた違和感について、今度こそ聞こうとこなたに声を掛けた。
「……ねぇ、こな……!」
そしてその時、かがみは自分の感じていた事が気のせいではないとわかる、こなたの確実な
異変を見た。
「……こなた?」
「ん? ……どうしたの? かがみん」
「……いや、どうしたの? って聞きたいのはこっちの方よ!」
どうやらこなたは自分の身に起こっている事に気づいてないらしい。かがみの声に反応した
つかさも、こなたを見て少し驚いているようだった。
不思議そうに聞き返すこなたに、かがみは今起こっている事を述べる。
「こなた……どうして、泣いてるの?」
「ん? ……どうしたの? かがみん」
「……いや、どうしたの? って聞きたいのはこっちの方よ!」
どうやらこなたは自分の身に起こっている事に気づいてないらしい。かがみの声に反応した
つかさも、こなたを見て少し驚いているようだった。
不思議そうに聞き返すこなたに、かがみは今起こっている事を述べる。
「こなた……どうして、泣いてるの?」
「……えっ……?」
かがみの言葉を、こなたは最初、全く理解することができなかった。
泣いてる? 私が?
「……かがみ、何を……」
何を言ってるの? と言い切る事がこなたにはできなかった。
何気なく触れた頬に、一筋の水が流れている事に気づいたから。
かがみの言葉を、こなたは最初、全く理解することができなかった。
泣いてる? 私が?
「……かがみ、何を……」
何を言ってるの? と言い切る事がこなたにはできなかった。
何気なく触れた頬に、一筋の水が流れている事に気づいたから。
「あ、あれ? おかしいな……」
こなたは慌ててその水を腕で拭った。しかし拭っても拭っても、その水――涙を止めることが
できない。
「……こなた」
「あ、あはは……ご、ごめん、ちょっと、待ってね……」
「……こなた!」
猶も止まらない涙。少し震えて、ぐずるようになってきた声。そんなこなたの様子を見て、
かがみは思わず声を上げた。
こなたは慌ててその水を腕で拭った。しかし拭っても拭っても、その水――涙を止めることが
できない。
「……こなた」
「あ、あはは……ご、ごめん、ちょっと、待ってね……」
「……こなた!」
猶も止まらない涙。少し震えて、ぐずるようになってきた声。そんなこなたの様子を見て、
かがみは思わず声を上げた。
「どうしたのよ、今日のこなた、何か変よ!?」
そう言って、かがみは今日ずっと感じていたこなたの言動の不審さを述べた。
勉強中、ずっと静かだった事。
休憩中には、打って変わってハイテンションだった事。
それが空元気のように感じた事。
こなたはまだ止まらない涙をそのままにして、かがみの言葉を聞いていた。
そう言って、かがみは今日ずっと感じていたこなたの言動の不審さを述べた。
勉強中、ずっと静かだった事。
休憩中には、打って変わってハイテンションだった事。
それが空元気のように感じた事。
こなたはまだ止まらない涙をそのままにして、かがみの言葉を聞いていた。
「……やっぱり、かがみには、ぐすっ、敵わないなー……」
かがみが言いたい事をすべて言い終わった後、こなたはぐずりながらそう呟いた。
「……こなた、いったい何があったの? あんたがそこまで泣くなんて……」
「……ぐすっ……ん、実は、ね……」
かがみの質問に、こなたは一度、流れる涙を拭って答え始めた。
かがみが言いたい事をすべて言い終わった後、こなたはぐずりながらそう呟いた。
「……こなた、いったい何があったの? あんたがそこまで泣くなんて……」
「……ぐすっ……ん、実は、ね……」
かがみの質問に、こなたは一度、流れる涙を拭って答え始めた。
「私、ね、中学まで、あまり友達らしい友達が、ぐすっ、いなかったんだ。言いたくはない
けど、ほら、私、こんななりだし、そのころから、オタクだったし、ね。だから友達といえば、
いつか言った、将来魔法使いになりたい、って言ってた子しか、いなかったんだ。だから、私、
高校に入って、かがみやつかさ、みゆきさんと、友達になれて、本当に、嬉しかった。3年間、
わいわい騒いで、喋って、遊べる友達に会えて、さ」
ややつかえながら、こなたは話を続ける。拭った涙は、やはりまた流れ始めてしまう。
けど、ほら、私、こんななりだし、そのころから、オタクだったし、ね。だから友達といえば、
いつか言った、将来魔法使いになりたい、って言ってた子しか、いなかったんだ。だから、私、
高校に入って、かがみやつかさ、みゆきさんと、友達になれて、本当に、嬉しかった。3年間、
わいわい騒いで、喋って、遊べる友達に会えて、さ」
ややつかえながら、こなたは話を続ける。拭った涙は、やはりまた流れ始めてしまう。
「……でもね、3年生になって、卒業が近づいてきたら、ぐすっ、もうすぐかがみ達とお別れ
なんだって思い始めてね。ひくっ……そしたら、なんだか急に寂しくなってきちゃって……」
なんだって思い始めてね。ひくっ……そしたら、なんだか急に寂しくなってきちゃって……」
「……そう、だったの……」
「今の涙は、ぐすっ、雪を見たせいで、寂しさに耐え切れなくなったから……だと思う」
そう締めたこなたの話を聞き、かがみはそれ以上言葉を発することができなかった。
つまりこなたは、初めて経験する「別れ」によって、苦しんでいるのだ。
小、中と、親しい友との別れを経験しているかがみにとっては、今回の高校での「別れ」は
それほど苦しいものではないのかもしれない。でもこなたにとっては、初めての友との「別れ」
である。その寂しさ、哀しさは、今のかがみでは、推し量ることはできないだろう。
「今の涙は、ぐすっ、雪を見たせいで、寂しさに耐え切れなくなったから……だと思う」
そう締めたこなたの話を聞き、かがみはそれ以上言葉を発することができなかった。
つまりこなたは、初めて経験する「別れ」によって、苦しんでいるのだ。
小、中と、親しい友との別れを経験しているかがみにとっては、今回の高校での「別れ」は
それほど苦しいものではないのかもしれない。でもこなたにとっては、初めての友との「別れ」
である。その寂しさ、哀しさは、今のかがみでは、推し量ることはできないだろう。
「ううっ……ぐすっ……」
雪の降り続ける空から窓を挟んで内側、こなたの部屋の中には沈黙が流れ、聞こえる音は、
こなたの嗚咽のみだった。
雪の降り続ける空から窓を挟んで内側、こなたの部屋の中には沈黙が流れ、聞こえる音は、
こなたの嗚咽のみだった。
そんな押し潰されそうな沈黙を破ったのは――
「……こなちゃんも、私と同じだったんだね」
「……えっ……?」
「……えっ……?」
今まで黙っていた、つかさだった。
「つかさ!? あんた、何を言って……」
「……私も、辛かったんだよ? お姉ちゃんやこなちゃん達と、お別れする事」
「…………!」
突然話に入り込んできたつかさに憤りを感じたかがみだったが、つかさの言葉を聞き、その
表情――いつもの微笑みなのに、少し悲しい、寂しい感情が入っている様な――を見て、
この前の誕生日のことを思い出した。
去年の夏、誕生日会をした後につかさがかがみに吐露した、双子の姉との初めての別れの
寂しさ、苦しさ。それはこなたが経験する初めての「別れ」と同じくらいのはずだ。その事を
思い出したかがみは、思わず息を呑んでしまった。
「……私も、辛かったんだよ? お姉ちゃんやこなちゃん達と、お別れする事」
「…………!」
突然話に入り込んできたつかさに憤りを感じたかがみだったが、つかさの言葉を聞き、その
表情――いつもの微笑みなのに、少し悲しい、寂しい感情が入っている様な――を見て、
この前の誕生日のことを思い出した。
去年の夏、誕生日会をした後につかさがかがみに吐露した、双子の姉との初めての別れの
寂しさ、苦しさ。それはこなたが経験する初めての「別れ」と同じくらいのはずだ。その事を
思い出したかがみは、思わず息を呑んでしまった。
「今日のこなちゃん、いつもと何か違うなぁ、ちょっと変だなぁ、っていうのは最初から
気づいてたよ。でもこなちゃん、その事に触れてほしくないみたいだったから、ずっと
気づいてないふりをしてたんだけど……そっか、私と同じだったんだ」
確認する様に、微笑みながら呟くつかさ。つかさもこなたの異変に気づいていた。その事実に
さらに驚いたかがみは、ただ呆けてつかさを見る事しかできなくなっていた。
気づいてたよ。でもこなちゃん、その事に触れてほしくないみたいだったから、ずっと
気づいてないふりをしてたんだけど……そっか、私と同じだったんだ」
確認する様に、微笑みながら呟くつかさ。つかさもこなたの異変に気づいていた。その事実に
さらに驚いたかがみは、ただ呆けてつかさを見る事しかできなくなっていた。
と、
「………さ」
つかさと入れ替わるように黙っていたこなたが、俯きながら言葉を発した。その口調は、少し
震えているようだった。
「じゃあ何で、つかさはそんな風に笑ってられるのさ!」
「えっ……?」
次の瞬間、こなたは俯けていた顔をつかさに向かって思い切り振り上げ、怒りのこもった声を
上げた。その目には、まだ大粒の涙が溜まっていた。
いきなりの事で、つかさとかがみは驚いたような声を上げた。
「………さ」
つかさと入れ替わるように黙っていたこなたが、俯きながら言葉を発した。その口調は、少し
震えているようだった。
「じゃあ何で、つかさはそんな風に笑ってられるのさ!」
「えっ……?」
次の瞬間、こなたは俯けていた顔をつかさに向かって思い切り振り上げ、怒りのこもった声を
上げた。その目には、まだ大粒の涙が溜まっていた。
いきなりの事で、つかさとかがみは驚いたような声を上げた。
「つかさには、私の気持ちがわかるんでしょ!? 私と同じなんでしょ!? だったら何で笑って
られるの!? 悲しくないの!? 苦しくないの!? ねぇ、どうして!」
こなたは自分の気持ちを吐き出す様につかさに向かって叫び続けた。
溜め込み切れなくなった感情をすべて外に出す。つかさもこなたと同じなら、いつか耐え切れ
なくなってしまうはず。
なのに今、つかさは笑っている。その理不尽さに、こなたは憤りを感じていた。
られるの!? 悲しくないの!? 苦しくないの!? ねぇ、どうして!」
こなたは自分の気持ちを吐き出す様につかさに向かって叫び続けた。
溜め込み切れなくなった感情をすべて外に出す。つかさもこなたと同じなら、いつか耐え切れ
なくなってしまうはず。
なのに今、つかさは笑っている。その理不尽さに、こなたは憤りを感じていた。
「…………」
こなたの剣幕に目を丸くしていたつかさだったが、しばらくして目をつぶり、人差し指を唇に
当てて、うーん、と唸りながら考え事を始めた。何秒か考え込んだ後、あっ、と何か思い
ついた様に目を開け、こなたに顔を向けて、そして微笑んで――
こなたの剣幕に目を丸くしていたつかさだったが、しばらくして目をつぶり、人差し指を唇に
当てて、うーん、と唸りながら考え事を始めた。何秒か考え込んだ後、あっ、と何か思い
ついた様に目を開け、こなたに顔を向けて、そして微笑んで――
「……変わっていくから大切な物、変わらないから大切な物。どちらも同じくらい大切……
なんてね」
「……えっ……?」
つかさの答えに、今度はこなたが目を丸くする番だった。意外な答えだったという事も
あったが、そのセリフに、聞き覚えがあったからだ。
どうしてそのアニメを知っているのか、どうして今、そのセリフが出てくるのか。
こなたの頭の中にあるそのような疑問を、つかさはまるでわかっているかの様に話を続けた。
なんてね」
「……えっ……?」
つかさの答えに、今度はこなたが目を丸くする番だった。意外な答えだったという事も
あったが、そのセリフに、聞き覚えがあったからだ。
どうしてそのアニメを知っているのか、どうして今、そのセリフが出てくるのか。
こなたの頭の中にあるそのような疑問を、つかさはまるでわかっているかの様に話を続けた。
「えへへ……実は去年の私とお姉ちゃんの誕生日会の後、一度耐え切れなくなって、お姉ちゃんに
吐き出しちゃった時があったの。でもその後、こなちゃんと一緒に見たこのアニメの事を
思い出してね」
つかさは相変わらず微笑んだままで、こなたは呆気にとられた顔をしている。
吐き出しちゃった時があったの。でもその後、こなちゃんと一緒に見たこのアニメの事を
思い出してね」
つかさは相変わらず微笑んだままで、こなたは呆気にとられた顔をしている。
「……確かに学校は離れ離れになっちゃうかもしれないけど、人はいつか別れなきゃいけない
から。それに、もう二度と会えなくなるわけじゃないでしょ? だから……」
一度言葉を切り、つかさはこなたにもう一度、今度ははっきりとした笑顔を向けて――
から。それに、もう二度と会えなくなるわけじゃないでしょ? だから……」
一度言葉を切り、つかさはこなたにもう一度、今度ははっきりとした笑顔を向けて――
「……だから、もっと今を大切にしよう? いつかまたみんなで集った時に、あの頃も楽しかった
って、語り合えるくらいに」
ねっ? と言って、つかさはこなたに笑いかける。
こなたの目に、もう涙はなくなっていた。こなたの胸の中は今、喜びで満ち溢れていた。
言う言葉が見つからない。こなたは俯いて黙りこくってしまう。
「……こなちゃん?」
つかさが心配そうにこなたの顔を覗き込もうとする。
って、語り合えるくらいに」
ねっ? と言って、つかさはこなたに笑いかける。
こなたの目に、もう涙はなくなっていた。こなたの胸の中は今、喜びで満ち溢れていた。
言う言葉が見つからない。こなたは俯いて黙りこくってしまう。
「……こなちゃん?」
つかさが心配そうにこなたの顔を覗き込もうとする。
(……そっか、そうなんだ)
「……つかさ」
こなたは顔を上げて、つかさと目を合わせた。
「ありがとう。後、八つ当たりみたいなことして、ごめん」
「こなちゃん……ううん、いいよ、気にしてないから」
つかさの返事を聞くと、こなたは寂しそうな表情から、いつもの、いたずらめいた笑顔を作って、
「……でも、恥ずかしいセリフ、禁止ー!」
「え、えぇー!」
ビシッ、とこなたに指差されて、つかさはしどろもどろになってしまう。
こなたは顔を上げて、つかさと目を合わせた。
「ありがとう。後、八つ当たりみたいなことして、ごめん」
「こなちゃん……ううん、いいよ、気にしてないから」
つかさの返事を聞くと、こなたは寂しそうな表情から、いつもの、いたずらめいた笑顔を作って、
「……でも、恥ずかしいセリフ、禁止ー!」
「え、えぇー!」
ビシッ、とこなたに指差されて、つかさはしどろもどろになってしまう。
「だいたい、つかさに慰められるなんて……ううっ、末代までの恥だね、こりゃ」
「ひ、ひどいよ、こなちゃん!」
「ハハハ……って、そういえばもうこんな時間だけど、つかさ達、帰らなくてもいいの?」
こなたに言われて、つかさは時計と窓の外を見た。時計の針はもう5時前になっていて、窓の
外は暗闇に染められようとしていた。
「あ、ホントだー。お姉ちゃん、そろそろ帰ろうか?」
それを見たつかさはかがみにそう尋ね、
「えっ、あ、う、うん、そうね。そろそろ帰りましょう」
それまでこなたとつかさの会話についていけなくなっていたかがみも、つかさの質問に答えて
立ち上がった。
「ひ、ひどいよ、こなちゃん!」
「ハハハ……って、そういえばもうこんな時間だけど、つかさ達、帰らなくてもいいの?」
こなたに言われて、つかさは時計と窓の外を見た。時計の針はもう5時前になっていて、窓の
外は暗闇に染められようとしていた。
「あ、ホントだー。お姉ちゃん、そろそろ帰ろうか?」
それを見たつかさはかがみにそう尋ね、
「えっ、あ、う、うん、そうね。そろそろ帰りましょう」
それまでこなたとつかさの会話についていけなくなっていたかがみも、つかさの質問に答えて
立ち上がった。
「……わざわざ見送りに来なくてもよかったのに……」
「いいのいいの。私が見送りたい気分だったんだから」
泉家の玄関前、3人は雪が降り続く寒空の下、向かい合って立っていた。コンクリートの地面には、
うっすらと、白い雪か積もってきていた。
「いいのいいの。私が見送りたい気分だったんだから」
泉家の玄関前、3人は雪が降り続く寒空の下、向かい合って立っていた。コンクリートの地面には、
うっすらと、白い雪か積もってきていた。
「それじゃあ、また明日、学校でね」
「うん、わかった」
「おやすみなさい、こなちゃん」
そう言って、つかさとかがみは後ろを向き、雪を踏み鳴らしながら駅の方へと歩き始める。
遠ざかる二人の姿、遠ざかる二人の足音。
「うん、わかった」
「おやすみなさい、こなちゃん」
そう言って、つかさとかがみは後ろを向き、雪を踏み鳴らしながら駅の方へと歩き始める。
遠ざかる二人の姿、遠ざかる二人の足音。
(あ、そういえば……)
薄闇の中に二人が消えようとした瞬間、こなたはつかさ達の方へ駆け出していた。
数メートル走って、こなたは立ち止まる。そして、
「……つかさー! かがみー!」
「ふえっ!?」
「はあっ!?」
こなたは大声で二人の名前を呼んだ。驚いたつかさとかがみが振り返ると、こなたは満面の
笑みを浮かべて、二人に向かってぶんぶんと左手を振っていた。
薄闇の中に二人が消えようとした瞬間、こなたはつかさ達の方へ駆け出していた。
数メートル走って、こなたは立ち止まる。そして、
「……つかさー! かがみー!」
「ふえっ!?」
「はあっ!?」
こなたは大声で二人の名前を呼んだ。驚いたつかさとかがみが振り返ると、こなたは満面の
笑みを浮かべて、二人に向かってぶんぶんと左手を振っていた。
「また明日ねー!」
なおも大声を上げるこなた。
「ちょっと、こなた! 声がでかすぎ……」
「え、えっと……お、大声、きんしー!」
「うなっ!?」
そのあまりの大きさにかがみが注意しようとした時、隣のつかさも、珍しく大声で、こなたに
返事をした。
なおも大声を上げるこなた。
「ちょっと、こなた! 声がでかすぎ……」
「え、えっと……お、大声、きんしー!」
「うなっ!?」
そのあまりの大きさにかがみが注意しようとした時、隣のつかさも、珍しく大声で、こなたに
返事をした。
「つかさー! ちゃんと返してくれてありがとー!」
「ど、どういたしましてー!?」
「……って、また漫画のネタかい! あと本当にうるさいから、二人とも静かにしろー!」
「ど、どういたしましてー!?」
「……って、また漫画のネタかい! あと本当にうるさいから、二人とも静かにしろー!」
こなた、つかさ、かがみ。三人で奏でる大音量のシンフォニー。
この楽しい生活を、もっと長く続けていきたい。こなたはそう、心の中で呟いた。
この楽しい生活を、もっと長く続けていきたい。こなたはそう、心の中で呟いた。
そう、いつまでも、このオレンジ色の日々を――
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- やはり、この作者さんの作品のつかさ、
最強ですね。面白いです! -- チャムチロ (2012-10-28 22:07:11) - ariaの5巻かな? アリシアさんの話しをつかさが。 -- 名無しさん (2009-01-23 05:09:21)
- すごく…暖かいです…心が -- 名無しさん (2009-01-07 22:42:11)
- 良いなぁ‥‥ -- 名無しさん (2009-01-07 17:24:38)