季節には、色がある。
春はピンク。桜の色。
「幸福」と「夢」の色。
春はピンク。桜の色。
「幸福」と「夢」の色。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私の心に色があるのなら、きっとそれは淡いピンクだと思う。
丁度、窓の外に舞う花弁のような、甘くて淡い桜色。
散り逝く桜を眺めていると、時が経つのを忘れるようで。
「─つかさー?早く起きな、遅れるよ」
その声に振り向くと、ドアを開けたお姉ちゃんと目が合った。…いけない、ほんとに忘れてた。
その声に振り向くと、ドアを開けたお姉ちゃんと目が合った。…いけない、ほんとに忘れてた。
「なんだ、起きてたんじゃない」
そう言って呆れた顔をするお姉ちゃん。あ、お化粧ちょっと変えたんだね、チークがほんのり桜の色だね。お姉ちゃんにはそういう薄
化粧が一番だよ、とっても似合って──
そう言って呆れた顔をするお姉ちゃん。あ、お化粧ちょっと変えたんだね、チークがほんのり桜の色だね。お姉ちゃんにはそういう薄
化粧が一番だよ、とっても似合って──
「…つかさ?どうしたのよ、ぼーっとして」
はっ、いけない。まだ完全に目が覚めてないのかな。えーっと、今何時──
「はうぅ、もうこんな時間!?遅れちゃうよ」
「何度も呼んだのよ?さっさと準備しちゃいな」
「何度も呼んだのよ?さっさと準備しちゃいな」
呼んだのに気付かなかったのは、桜に見とれてたせいだよ。ぼーっとしちゃったのは、お姉ちゃんに見とれちゃったせいなんだから。
─ The 1st season:Pink Spring ─
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私は、お姉ちゃんが好き。
もう今年で18歳になるのに、とか笑わないでね。
もう今年で18歳になるのに、とか笑わないでね。
小さい頃からいつもお姉ちゃんにべったりだったから、まだ姉離れできてないんだろうなぁ、って自覚はしてる。
だけど、好きなものはしょうがない。笑顔も、怒った顔も、たまに見せる寂しそうな横顔も、全部好き。
少し前のクラス発表で、また今年もお姉ちゃんだけ同じクラスになれなかったのは、結構ショックだったなぁ…
「おっはよー」
「おーっす」
「おーっす」
いつものバス停で、お姉ちゃんとふたりで待ってると、いつもの青い髪の子がやってくる。
「おはよう、こなちゃん」
挨拶を返しながら、私は最近、あるものを抑え込むのが日課になってしまった。
それは、ちょっとした苛立ち。
それは、ちょっとした苛立ち。
「また邪魔されちゃった」
そんなことをちょっとでも考えちゃう自分が、嫌い。
だってこなちゃんは親友だもん。親友に、そんな酷いこと感じちゃうなんて、私は嫌な人間だよね。
だってこなちゃんは親友だもん。親友に、そんな酷いこと感じちゃうなんて、私は嫌な人間だよね。
「ごめん、こなちゃん」って心の中で謝りながらバスに乗るのも、最近の日課。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私は、お昼休みが好き。
こなちゃんやゆきちゃん、それにお姉ちゃんと一緒に食べるご飯は、なんだかとってもおいしいから。
だけど、今日は──
「ごめん、今日は日下部達と食べるわ」
お姉ちゃんはそう言うと、隣のクラスに戻っちゃった。
なんだかお姉ちゃんを取られちゃったみたいで…。あんまり、いい気がしない。
なんだかお姉ちゃんを取られちゃったみたいで…。あんまり、いい気がしない。
「つかさー、なんだか寂しそうだネ」
そう言うこなちゃんだって、なんだかいつもより寂しそう。
そう言うこなちゃんだって、なんだかいつもより寂しそう。
「かがみさんがいないと、いつもより静かですね」
そう言うゆきちゃんも、どことなく寂しそう。
そう言うゆきちゃんも、どことなく寂しそう。
「やっぱりツッコミは必要だよね、このメンバーじゃボケても垂れ流しに──あ、」
こなちゃんの目が、私の顔で止まる。どうしたの?
こなちゃんの目が、私の顔で止まる。どうしたの?
「つかさ、ほっぺにご飯粒ついてるよ」
「え、ほんと?」
箸を置いて、ほっぺを拭こうとしたけど、その前にこなちゃんが指で掬って食べちゃった。
「え、ほんと?」
箸を置いて、ほっぺを拭こうとしたけど、その前にこなちゃんが指で掬って食べちゃった。
「ありがと、こなちゃん」
「いやいやぁ。こんなときかがみんなら顔真っ赤にするんだろうけど、つかさは素直な子だネ」
「いやいやぁ。こんなときかがみんなら顔真っ赤にするんだろうけど、つかさは素直な子だネ」
こなちゃんはそう言って、ネコ口で笑う。
そんな幸せそうなこなちゃんを見てると、こっちまで幸せな気分になってくるから不思議。お姉ちゃんがいなくて寂しかったのに。
そんな幸せそうなこなちゃんを見てると、こっちまで幸せな気分になってくるから不思議。お姉ちゃんがいなくて寂しかったのに。
そんなこなちゃんにもう一度、
「ありがと、こなちゃん」
って言ったら、ちょっと不思議な顔してた。
「ありがと、こなちゃん」
って言ったら、ちょっと不思議な顔してた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「………。」
…なんか言ってよ、日下部、峰岸。
ふたりとも箸を空中で停止させて、口はあんぐり、目は点。おまけに汗を一筋。
なんという完璧な絶句っぷり。惚れ惚れするわ。
ふたりとも箸を空中で停止させて、口はあんぐり、目は点。おまけに汗を一筋。
なんという完璧な絶句っぷり。惚れ惚れするわ。
「…あのさ、柊」
やっとこさ石化から開放された日下部が口を開いた。
やっとこさ石化から開放された日下部が口を開いた。
「なによ?」
「…エイプリルフールは、とっくに過ぎてんだぜ?」
「そんなのわかってるわよ。私のカレンダーが正しければ、2週間ほど前ね」
「…エイプリルフールは、とっくに過ぎてんだぜ?」
「そんなのわかってるわよ。私のカレンダーが正しければ、2週間ほど前ね」
そりゃ、私が非常識なこと言ってるのはわかってるけど。
でもこんな話題、別に珍しいものじゃないんじゃない?
でもこんな話題、別に珍しいものじゃないんじゃない?
ホラ、現に今、教室の隅の女子グループも同じ話題で騒いでるとこだし。
何組のあの子は誰々が好きだー、とかさ。
何組のあの子は誰々が好きだー、とかさ。
ただ、私の場合は、相手が相手なだけで。
「…で、結局ふたりはどう思う?」
ほっとくといつまでも黙ってそうなふたりに、私は回答を促した。
相談した本人が仕切ってるのもアレな気がするけど。
相談した本人が仕切ってるのもアレな気がするけど。
「私は、気持ちだけは伝えるべきだと思うけど」
先に峰岸から来たか。貴重な彼氏持ちの意見を聞かせてもらおう。
「例え告白しても、あの子なら柊ちゃんのことちゃんと受け止めてくれそうだと思うな。成功するかは別にしても」
私もそう思う。あいつなら茶化すことはあっても、蔑むことはないんじゃないか。
…私の告白は、そういうことだ。下手を打てば嫌われる。罵られる。今まで築いてきた関係が、跡形もなく崩れ去る。
…私の告白は、そういうことだ。下手を打てば嫌われる。罵られる。今まで築いてきた関係が、跡形もなく崩れ去る。
なぜなら相手は、
同性、だから。
こんなアブノーマルな相談に、固まることはあっても、決して嫌悪しないふたりに大感謝だ。
半ば口を滑らしてしまった形での相談で、最初はヒヤっとしたのだけれど。
「それにしても意外だな──」
「なによ、やっぱり変だと思う?」
「いや、そうじゃなくてさー…。そーか柊ぃ、あのちびっ子にねー」
「なによ、やっぱり変だと思う?」
「いや、そうじゃなくてさー…。そーか柊ぃ、あのちびっ子にねー」
そう。
私は、こなたが好き。
私は、こなたが好き。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕飯の買い物があるから先に帰る、というつかさと駅で別れ、私はこなたと一緒に電車に揺られている。
「帰りにゲマズ寄ってくけど、つかさとかがみも来るー?」という誘いに、気付くと二つ返事でOKしていた。
教室を出るとき、視線に気付いてふと振り返ると、日下部と峰岸が揃ってガッツポーズを送ってきた。…やめてくれ、ちょっと顔が赤
くなる。
教室を出るとき、視線に気付いてふと振り返ると、日下部と峰岸が揃ってガッツポーズを送ってきた。…やめてくれ、ちょっと顔が赤
くなる。
デートコースとしてはロマンの破片も無いけど、こなたと一緒ならどこでもいっか。
…いやいや待て待て、まだ告白なんかしてないしこなたにとっちゃデートでもなんでもない訳で…。なんだかひとりで舞い上がっちゃ
ってる。落ち着け自分…。
ってる。落ち着け自分…。
こなたは目に付いたものを適当に、私は新刊のラノベを一冊買ってから、私はこなたを公園へ誘った。
散り桜を見よう、という口上で。
告白なんか…その時は、考えてなかったんだけど。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
かがみは私の隣に座ってる。
私はかがみの隣に座ってる。
私はかがみの隣に座ってる。
それを少し離れたところから見ている感覚。
──それくらいに、現実感がない。
──それくらいに、現実感がない。
かがみは今、なんて言ったの?
「好き」
たった二文字の言葉。それだけ。
あれ?うん、私も好きだよ、かがみのこと。
え?わかってるよ、かがみが私のこと、好きだなんてこと。
え?わかってるよ、かがみが私のこと、好きだなんてこと。
違うよ、わかってないよ。
違うんだよ。
違うんだよ。
「ひとりの女の子として、好き」
わかってる。私の「好き」とかがみの「好き」は違うって、わかってるよ。
だけどかがみはわかってない。わかってないから言わなきゃいけない。
「──…。」
言わなきゃいけないのに。
言わなきゃいけないのに。
言わなきゃいけないのに。
言わなきゃ、かがみを傷つけるのに。
あれ?でもこれ、言っちゃってもいいのかな。
言ってもかがみ、傷付くよね。
言わなくてもかがみ、傷付くよね?
言わなくてもかがみ、傷付くよね?
どうすればいいの。
どうすればいいの。
どうすればいいの。
私も、かがみのこと、好きだよ。
でも、かがみ以上に──
でも、かがみ以上に──
私は、つかさが好き。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「こなた──」
河川敷の公園のベンチにひとり腰掛けて、桜色の舞う空を見ていた。
川沿いに桜の木が並び、それぞれが思い思いに花弁を散らす風景は、どうしようもなく淡く、可憐で、儚くて…
立ち去った「親友」の背中を追えなかったのは、多分──
この、あまりに切ない、桜の所為。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
─ Next season:Summer ─