第十一章 日本における環境思想の系譜(P.228-239)
2011.6.15 亀山研4年ゼミ 輪読
海上知明『環境思想 歴史と体系』NTT出版,2005
発表者:菊地明暢
海上知明『環境思想 歴史と体系』NTT出版,2005
発表者:菊地明暢
※(補足)は発表者による。
1 自然と経済
○「日本文化の伝統とは、その同化力とともに神道と仏教も含んでいる」
=アニミズム的世界観と内面回帰の哲学
=アニミズム的世界観と内面回帰の哲学
○天武天皇(在位673-686)
- 『古事記』(712)、『日本書紀』(720)の編纂を始め、天皇の「万世一系」支配を正当化
↑中国の革命思想への警戒から
- 仏教の影響から、肉食禁止令を出す(→家畜利用を縮小→疫病発生減、里山利用、人糞堆肥化)
→山林がアニミズムの信仰対象、肥料採集地、保水地としての役割を担うようになる
+ | 補足:日本における神話 |
2 仏教の隆盛
○聖職者における内面回帰
- 日本仏教は「悟り」のテクニック:真言が導入されていた点で特徴的
→鎌倉仏教:日蓮「南無妙法蓮華経」、法然・親鸞・一遍「南無阿弥陀仏」
- 鎌倉仏教の中でも禅宗は心の内面に入ることを直接の目的としていた
→臨済宗の公案、曹洞宗の座禅
+ | 補足:親鸞について |
3 鎖国―エコシステムの完成
○江戸幕府体制
- 「いかに長く日本を支配していられるか」⇒技術・経済・交通の発達を抑止
→国内でエネルギーが循環する閉鎖社会へ(リサイクル社会)
○徳川綱吉(在職1680-1709)
- 動物解放:「生類憐みの令」←仏教や儒教的「徳」
→人間がないがしろにされたわけではない(弱者保護:捨て子禁制」「道中病人処置」)
4 熊沢蕃山と安藤昌益
○熊沢蕃山(1619-1691)
- 「儒教エコロジー」=「天人合一」と「仁政」
「天人合一」:
「人間は天地によって生み出されたものであるが、他の生物と異なり天地の創造を助ける存在でもある。したがって、私利私欲にとらわれることなく、創造に協力しなければならない」
「人間は天地によって生み出されたものであるが、他の生物と異なり天地の創造を助ける存在でもある。したがって、私利私欲にとらわれることなく、創造に協力しなければならない」
「仁政」:
人間社会の乱れ=自然に則していないため
→「山川は天下の源也」治山治水
「自然の声を聞く」というよりも「その土地の自然を知る者の声を聞く」
人間社会の乱れ=自然に則していないため
→「山川は天下の源也」治山治水
「自然の声を聞く」というよりも「その土地の自然を知る者の声を聞く」
○安藤昌益(?-1762)
- 「自然ノ世ニハ治モ無ク乱モ無ク唯平常ナリ」(『自然真営道』)
「直耕」:
直接に田畑を耕し生活するという意味に加え、自然の営み・摂理を指す(「自然直耕」、自(ひと)り然(す)る)
直接に田畑を耕し生活するという意味に加え、自然の営み・摂理を指す(「自然直耕」、自(ひと)り然(す)る)
- 仏教・儒教など宗教を含む過去の思想
↑自然や社会の捉え方において「二別」(上下、尊卑、差別)を持ち込み、「不耕貪食」の徒が支配する社会を正当化してきた
- 「互性」(互いに区別されながらも対等に互いの性質を受け入れた相互協力の関係)からすべてをみること、すべての人間の多様性と平等性(「万万人にして一人」)を主張(『環境思想キーワード』)
- 理想=自然の摂理に従い万人が直耕する社会
5 明治以降の状態
○南方熊楠(1867-1941)
- 若いころ大英博物館に勤務、西欧「エコロギー」を学び、民俗学や生物学にも明るい
→文化的・自然保護的視点から神社合祀に反対
(地域の協同生活の場の解体、神社の廃止に伴う森林伐採)
↑南方にとって、これらは全体的な環境破壊として捉えられ、批判された(『環境思想キーワード』)
(地域の協同生活の場の解体、神社の廃止に伴う森林伐採)
↑南方にとって、これらは全体的な環境破壊として捉えられ、批判された(『環境思想キーワード』)
○今西錦司(1902-1992)
- 生態学者。京都帝国大学農学部で昆虫学を学ぶ
- ダーウィン進化論を批判
↑適応の単位を種とみなす=突然変異は種全体に起こる
↑種全体での棲み分けにより秩序をもって進化が起こる=生存闘争の否定
↑種全体での棲み分けにより秩序をもって進化が起こる=生存闘争の否定
- 生物と環境を一体のものと捉え、環境は生物自身の「身体の延長」であり、逆に生物の身体は「環境の延長」で、もともとひとつのものが分化したとする
→この上で生物の環境への主体的な関わりを強調=「環境の主体化」(『環境思想キーワード』)
- 近年人間では身体外の進化=分化の進化が加速
→文明の画一化・均一化(多様性・複雑性の否定)による滅亡の危険があるとする
+ | 補足:近現代の代表的な環境思想家 |
○感想
「系譜」といいながら各時代の目立つ思想を散文的に取り上げるのみで、系統立てて纏められているわけではなく、おまけ程度の内容で筆者のやる気のなさが感じられた。とはいえ取り上げられた個々の思想家について自分で調べたことでかなり勉強になった。親鸞が熱かった。
○参考文献
尾関周二・亀山純生・武田一博編著『環境思想キーワード』青木書店、2005
岩崎允胤『日本思想史序説』新日本出版社、1991
古田武彦『親鸞 人と思想8』清水書院、1970
E.ハーバート.ノーマン『忘れられた思想家―安藤昌益のこと―』岩波新書、1950
亀山純生『環境倫理と風土―日本的自然観の現代化の視座』大月書店、2005