~~拾苦の巻 「ストーム・アンド・アージ・オブ・ニンジャ(前編)」~~
――化学ニンジャ隊の本拠地、機岩城。
その作戦室では日夜、情報担当の忍たちが情報の収集と伝達に勤めている。
通信量と情報の蓄積量は膨大なものだが、脳に機器をインプラントした下忍たちが、死んだ魚のような目で高速処理していく。
壁を埋め尽くすモニターには外部で活動する忍たちの待機地点が表示されており、離れた地にも最寄りの忍を即派遣できる体制を整えてあるのだ。
通信量と情報の蓄積量は膨大なものだが、脳に機器をインプラントした下忍たちが、死んだ魚のような目で高速処理していく。
壁を埋め尽くすモニターには外部で活動する忍たちの待機地点が表示されており、離れた地にも最寄りの忍を即派遣できる体制を整えてあるのだ。
各忍の活動する現場には、小型ロボットを抜かり無く忍ばせてあり、進捗状況を常時把握している。
その一方で、休暇中の忍はトレースから除外されており、そのプライバシーが侵害されることはない。
その一方で、休暇中の忍はトレースから除外されており、そのプライバシーが侵害されることはない。
「また随分と忍たちが出払ったものだ」
作戦室の中央に立つ二人の忍。周りの下忍たちとはまるで別格の忍オーラを放っている。
一人は“四天王”ゲイデス・アーチンボルン・左子。白衣と和服を合わせて纏う耽美で優雅な忍だ。
彼はしめやかな忍者であるに留まらず、優れた科学力、分析力で化学ニンジャ隊の戦力拡充にも貢献している。
一人は“四天王”ゲイデス・アーチンボルン・左子。白衣と和服を合わせて纏う耽美で優雅な忍だ。
彼はしめやかな忍者であるに留まらず、優れた科学力、分析力で化学ニンジャ隊の戦力拡充にも貢献している。
「化学ニンジャ隊は今が書き入れ時ネッ!
あの基地襲撃は大きな花火。衆目が集まっている今こそ、火の車みたく回り続けるのが肝心ネッ!」
あの基地襲撃は大きな花火。衆目が集まっている今こそ、火の車みたく回り続けるのが肝心ネッ!」
もう一人はこちらも“四天王”のジャガー・ムーン。タコのような触腕をいくつも持つ海底のタコめいた忍である。
彼の言うとおり、今の化学ニンジャ隊は極めて高い忍の稼働率を誇り、数多くの凶悪な作戦を同時進行している。
高まった注目度が冷めぬうちに立て続けに成果をあげて、日本のブラッククロス系組織の筆頭にならんと意気込んでいるのだ。
そのため各種報道のトップニュースは頻繁にテロや暗殺が飾ることとなっている。
彼の言うとおり、今の化学ニンジャ隊は極めて高い忍の稼働率を誇り、数多くの凶悪な作戦を同時進行している。
高まった注目度が冷めぬうちに立て続けに成果をあげて、日本のブラッククロス系組織の筆頭にならんと意気込んでいるのだ。
そのため各種報道のトップニュースは頻繁にテロや暗殺が飾ることとなっている。
「それには目下の問題をいくつか解決しなければならない」
作戦室に新たな忍が入ってきた。機械将軍の側近、軍師セッサイだ。
組織の作戦立案に深く関わる彼こそ、この作戦室の主と言っても過言ではない。
セッサイは手にした軍配を振りつつ話を続ける。
組織の作戦立案に深く関わる彼こそ、この作戦室の主と言っても過言ではない。
セッサイは手にした軍配を振りつつ話を続ける。
「まずやはり、あの“黒装束の男”を殺さねばならない。
情報は集まりつつあるから、遠からず奴の潜伏先は見つかるだろう」
「そしてもう一つは、四天王の欠員だな?」
「ゲイデス殿の申す通り。
あの男にはすでに四天王が三人も倒されている。由々しき事態だ」
情報は集まりつつあるから、遠からず奴の潜伏先は見つかるだろう」
「そしてもう一つは、四天王の欠員だな?」
「ゲイデス殿の申す通り。
あの男にはすでに四天王が三人も倒されている。由々しき事態だ」
これまでに、“シルバー四天王”のデッド・イーグル、“四天王”のダブル・トマホーク、“暫定四天王”のBUZZ=僧が倒されている。
ダブル・トマホークを倒したのはスペインのファントム・オーガだが、そこまで彼らは知らない。
ダブル・トマホークを倒したのはスペインのファントム・オーガだが、そこまで彼らは知らない。
「欠員と言うけど……ある意味欠けることで、四天王は本来の四人組に戻ると思うネ……」
ジャガー・ムーンが口を挟むと、セッサイは視線だけ送り、だが答えようとはしなかった。
「幸いにも、オクトロンは早めに修復が叶いそうだ。
バスター・アーセナルも遠からず戦線復帰するだろう」
バスター・アーセナルも遠からず戦線復帰するだろう」
その二人は黒装束の男・楔によって打撃を受けたものたちだ。
オクトロンの名が出たことに、ジャガー・ムーンは眉をしかめる。
彼とジャガー・ムーンは“タコ”という同じモチーフを持ち、如何わしさまで共有して見られることが不服なのだ。
オクトロンの名が出たことに、ジャガー・ムーンは眉をしかめる。
彼とジャガー・ムーンは“タコ”という同じモチーフを持ち、如何わしさまで共有して見られることが不服なのだ。
それを察したゲイデスは苦笑した。
「問題の後者はともかく、前者にはどう対応するのだ?
四天王クラスの忍でなければ、あの黒装束に対抗するのは難しいと見えるが」
「奴の行動範囲や傾向について情報を集めている。遠からず居場所を割り出せるはずだ」
「そうだといいがね、軍師殿」
四天王クラスの忍でなければ、あの黒装束に対抗するのは難しいと見えるが」
「奴の行動範囲や傾向について情報を集めている。遠からず居場所を割り出せるはずだ」
「そうだといいがね、軍師殿」
そこで会話は途切れ、それぞれが役目に戻る。
作戦室に留まる四天王もいる。それはここではなく、もっと隔離された特別室。
薄暗い部屋で各種機器、配線の山に囲まれているのは“暫定四天王”のスパイダー・クイーン。
作戦室に留まる四天王もいる。それはここではなく、もっと隔離された特別室。
薄暗い部屋で各種機器、配線の山に囲まれているのは“暫定四天王”のスパイダー・クイーン。
電子戦の女王たる彼女は荒事を他者に任せ、ひたすら情報収集・発信、作戦の下準備に追われている。
日本防衛軍への襲撃を始め、多くの作戦を成功に導く彼女のハッキング技術は組織の生命線と言える。
日本防衛軍への襲撃を始め、多くの作戦を成功に導く彼女のハッキング技術は組織の生命線と言える。
だが彼女は最近複雑な感情を抱えている。
どこからか組織の情報が漏れている。そうとしか思えない事象がいくつも確認できた。
そもそも何故あの黒装束の男は、幾度と無く化学ニンジャ隊の行く手に先回りできるのか。
この点に関して機械将軍には、密かに調査を提案すること度々だが、将軍は目下の作戦進行に忙しく、積極的に取り上げてはくれない。
どこからか組織の情報が漏れている。そうとしか思えない事象がいくつも確認できた。
そもそも何故あの黒装束の男は、幾度と無く化学ニンジャ隊の行く手に先回りできるのか。
この点に関して機械将軍には、密かに調査を提案すること度々だが、将軍は目下の作戦進行に忙しく、積極的に取り上げてはくれない。
であれば、自分で組織内部に内偵を入れる以外にない。
だが電子戦に信頼を置かれている彼女でさえ、組織内のこととなると簡単には探れない。
組織の全貌を物理的にも電子的にも掌握しているのは、他ならぬ将軍だけなのだ。
だが電子戦に信頼を置かれている彼女でさえ、組織内のこととなると簡単には探れない。
組織の全貌を物理的にも電子的にも掌握しているのは、他ならぬ将軍だけなのだ。
あの統領……機械将軍とは何者なのか。
何時からいるのか、何処から来たのか、化学ニンジャたちにも一切わからない。
己のことはなんら語らないまま、自分たちサイボーグの忍たちを生み出し、使役する。
スパイダー・クイーンなどは、役割上も将軍との距離が近くてもいいはずだ。
しかし将軍が側に近づけるのは側近のランスとセッサイのみである。
その身のメンテナンスなども他人には触れさせず、自分でこなしてしまう。
何時からいるのか、何処から来たのか、化学ニンジャたちにも一切わからない。
己のことはなんら語らないまま、自分たちサイボーグの忍たちを生み出し、使役する。
スパイダー・クイーンなどは、役割上も将軍との距離が近くてもいいはずだ。
しかし将軍が側に近づけるのは側近のランスとセッサイのみである。
その身のメンテナンスなども他人には触れさせず、自分でこなしてしまう。
……将軍への忠誠心に揺るぎはない。ただもう少し、四天王の格を重んじてもらいたいだけだ。
スパイダー・クイーンは自分に言い聞かせたが、もやもやとした感情が募るのはどうしようもない。
スパイダー・クイーンは自分に言い聞かせたが、もやもやとした感情が募るのはどうしようもない。
作業をする手が、止まっていた。
意識を集中しなおしてモニターを見ると、外部の諜報員から連絡が入っていたところだ。
意識を集中しなおしてモニターを見ると、外部の諜報員から連絡が入っていたところだ。
「本部へ連絡、テレビの報道をご覧いただけますか。由々しき事態になっています」
これを聞いたスパイダー・クイーンは、秘密結社としては奇妙だがテレビのニュース番組にチャンネルを回した。
するとそこには……。
するとそこには……。
『夜の学校で爆発騒ぎ。化学ニンジャ隊テロ、今度は弱き人々を狙った凶悪な犯行!』
「バカな……」
これまで化学ニンジャ隊は、表立っては軍事施設や社会悪とされる企業・政治家を標的にしてきた。
その裏で、優れた科学者の拉致、邪魔者の排除など外法な作戦も実行してきた。
だが今テレビで流れているのは、破壊された小学校の校舎と、化学ニンジャ隊の名で出された犯行声明だ。
その裏で、優れた科学者の拉致、邪魔者の排除など外法な作戦も実行してきた。
だが今テレビで流れているのは、破壊された小学校の校舎と、化学ニンジャ隊の名で出された犯行声明だ。
◆◆◆◆◆
この事件の真相は果たしていかなるものか。
それが語られるのは二日後のとある場所においてだった。
それが語られるのは二日後のとある場所においてだった。
……都会から離れた山里。月が朧気に照らす中、古びた和風建築の屋敷がひっそりと佇む。
周囲に村などはなく、その一軒があるのみだが、敷地は広く塀に囲まれ、堂々たる門構えをしている。
十台以上の車両が停まれる駐車場には、一般車両の他に黒塗りの街宣車、装甲車などが停められている。
街宣車には『政権打倒』『日本維新』『亜夢主寺』といった書が書き込まれ、威圧的な雰囲気を醸していた。
周囲に村などはなく、その一軒があるのみだが、敷地は広く塀に囲まれ、堂々たる門構えをしている。
十台以上の車両が停まれる駐車場には、一般車両の他に黒塗りの街宣車、装甲車などが停められている。
街宣車には『政権打倒』『日本維新』『亜夢主寺』といった書が書き込まれ、威圧的な雰囲気を醸していた。
奥まった座敷に、怪しげな男たちが座布団を敷いて座っている。十数人はいるだろう。
それらが一様に、陸戦服に黒い覆面、日の丸の鉢巻を身につけて一体感をアピール。
床に日本刀を置き談合する姿は侍を意識したものか。
それらが一様に、陸戦服に黒い覆面、日の丸の鉢巻を身につけて一体感をアピール。
床に日本刀を置き談合する姿は侍を意識したものか。
「作戦は上手くいったようだな」
「うむ、夜中を選んだから人的被害も皆無だ」
「破壊された学校には申し訳ないが、我ら『黒十字団』の大義のためだ」
「うむ、夜中を選んだから人的被害も皆無だ」
「破壊された学校には申し訳ないが、我ら『黒十字団』の大義のためだ」
――『黒十字団』。それはブラッククロスの日本支部を自称する過激派団体だ。
この屋敷は彼らの秘密のアジトであり、今宵集ったのは各地の拠点を仕切る幹部たちである。
この屋敷は彼らの秘密のアジトであり、今宵集ったのは各地の拠点を仕切る幹部たちである。
彼らはブラッククロス本部と同様に秩序の破壊、混沌の招来を目的とし、特に日本の現体制の打破を目的としている。
その点に関しては化学ニンジャ隊と類似して見えるが、彼ら黒十字団はやや異なる見解を持っていた。
その点に関しては化学ニンジャ隊と類似して見えるが、彼ら黒十字団はやや異なる見解を持っていた。
「昨今、幅を利かせ始めている化学ニンジャ隊。
奴らの名を以って行ったこの非革命的破壊活動により、奴らの声望は地に堕ちるであろう」
「我らこそがアムステラ神聖帝国を迎え、日本を革新する旗手となるべし!
化学ニンジャ隊に限らず、他のブラッククロス系組織も日本から追い出してしまうべし!」
奴らの名を以って行ったこの非革命的破壊活動により、奴らの声望は地に堕ちるであろう」
「我らこそがアムステラ神聖帝国を迎え、日本を革新する旗手となるべし!
化学ニンジャ隊に限らず、他のブラッククロス系組織も日本から追い出してしまうべし!」
黒十字団は、日本国内の過激派組織に並々ならぬ対抗心を燃やしているのだ。それも歪んだ方向に。
己の大義と実力で地位を勝ち取るのではなく、相手の足を引っ張り、罪をなすりつけて蹴落とす。
彼らが標榜する革命的思想とは似つかぬセコイ所業だが、彼らの中では大義の名のもとに正当化されているため問題ないのだ!
己の大義と実力で地位を勝ち取るのではなく、相手の足を引っ張り、罪をなすりつけて蹴落とす。
彼らが標榜する革命的思想とは似つかぬセコイ所業だが、彼らの中では大義の名のもとに正当化されているため問題ないのだ!
「……しかし本当に良かったのだろうか。近頃の我らは失敗が続き、大義の成就が停滞している。
化学ニンジャ隊を蹴落とすより先に、奴らの力を利用する手を考えるべきだったのではないか?」
化学ニンジャ隊を蹴落とすより先に、奴らの力を利用する手を考えるべきだったのではないか?」
幹部の一人が疑問を呈した。すると彼に向け、他の面々の鋭い眼光が突き刺さる。
「貴様……最高会議の決定を経て実行された作戦を批判するのか!?」
「批判ではない、あれは必要な義挙だったと思っている。しかし我らの勢力の衰えも考えれば……」
「我ら黒十字団が衰えているだと!? 同志たちの懸命なる働きに対する冒涜だ!」
「貴様、反革命的だぞ!」
「教育的指導を要求します!」
「異議なし!」
「批判ではない、あれは必要な義挙だったと思っている。しかし我らの勢力の衰えも考えれば……」
「我ら黒十字団が衰えているだと!? 同志たちの懸命なる働きに対する冒涜だ!」
「貴様、反革命的だぞ!」
「教育的指導を要求します!」
「異議なし!」
弁明しようとした幹部にその暇も与えず、屈強なる警備兵たちが彼を庭先に連れ出す。
すると手際よく磔台が用意され、その幹部は無惨にも磔の晒し者にされてしまったではないか!!!
すると手際よく磔台が用意され、その幹部は無惨にも磔の晒し者にされてしまったではないか!!!
「好きでこんなことをするのではない……君が革命の原点に立ち返ることを願って、泣く泣く制裁を加えるのだ……」
座についたまま、他の幹部たちは目に涙を浮かべた。
だが泣くばかりではない。彼らは議論のためここに集ったのだ。
だが泣くばかりではない。彼らは議論のためここに集ったのだ。
「化学ニンジャ隊への措置は良いとして、我ら黒十字団も大掛かりな作戦を果たすべきだろう」
「異議なし。我らの力と大義を世に示すのだ」
「では何か意見のあるもの」
「では自分が!」
「異議なし。我らの力と大義を世に示すのだ」
「では何か意見のあるもの」
「では自分が!」
勢い良く立ち上がった男が直立姿勢から発言する。
「化学ニンジャ隊は日本防衛軍の基地を破壊した。
連中を意識するわけではないが、アムステラ神聖帝国を支援する観点からも、軍事施設や政治機構への攻撃が、今求められると考える。
よって自分は、九州方面に大規模展開中のアムステラ軍に加わり、聖戦の一翼を担うことを提案する」
「ふむ、いい考えだ」
「私も悪くないと思うが、今いちセンセーショナルさに欠けるのではないか?
実働戦力として地道に戦果を上げるより、大衆を揺り動かす運動こそが効果的だと考えるが如何に?」
連中を意識するわけではないが、アムステラ神聖帝国を支援する観点からも、軍事施設や政治機構への攻撃が、今求められると考える。
よって自分は、九州方面に大規模展開中のアムステラ軍に加わり、聖戦の一翼を担うことを提案する」
「ふむ、いい考えだ」
「私も悪くないと思うが、今いちセンセーショナルさに欠けるのではないか?
実働戦力として地道に戦果を上げるより、大衆を揺り動かす運動こそが効果的だと考えるが如何に?」
反論した男に、周囲の冷たい視線が一斉に突き刺さった。
「貴様なんだ、今の“センセーショナル”という発言は?」
「センセーショナル、つまり大衆の関心を引くような」
「意味を問うているのではない! 何故わざわざ英語なぞ使うのだ!?」
「えっ!?」
「日本男児なら堂々と漢字で表現せよ!」
「廃退的な西洋文化に染まりおって!」
「センセーショナル、つまり大衆の関心を引くような」
「意味を問うているのではない! 何故わざわざ英語なぞ使うのだ!?」
「えっ!?」
「日本男児なら堂々と漢字で表現せよ!」
「廃退的な西洋文化に染まりおって!」
たった一つの単語をきっかけに場は険悪な空気となった。
「教育的指導を要求します!」
「異議なし!」
「異議なし!」
弁明しようとした幹部にその暇も与えず、屈強なる警備兵たちが彼を庭先に連れ出す。
すると手際よく磔台が用意され、その幹部は無惨にも磔の晒し者にされてしまったではないか!!!
すると手際よく磔台が用意され、その幹部は無惨にも磔の晒し者にされてしまったではないか!!!
「好きでこんなことをするのではない……君が革命の原点に立ち返ることを願って、泣く泣く制裁を加えるのだ……」
座についたまま、他の幹部たちは目に涙を浮かべた。
だが彼らは建設的かつ革命的な議論のために集ったのだ。涙してばかりはいられない。
だが彼らは建設的かつ革命的な議論のために集ったのだ。涙してばかりはいられない。
「では次は小官が提案します」
ここまでの議論を見守っていた幹部が立ち上がった。
「我ら黒十字団、強大で困難な任務を成し遂げることで、その名を世に知らしめるべし。
その点に関しては皆も同じ志と思うが、その目的を如何にするかである。
小官は、今まで誰も成し得なかった壮挙を以って、回答としたく思う」
その点に関しては皆も同じ志と思うが、その目的を如何にするかである。
小官は、今まで誰も成し得なかった壮挙を以って、回答としたく思う」
その演説めいた提案は、身振り手振りも交えて大仰だったが、同時に自信も見え隠れする。
「即ち、天皇の暗殺!」
「国賊!!!!」
「国賊!!!!」
ダァーンッ!!!!
幹部たちの数名が即座に銃を抜き、提案者を射殺した。
幹部たちの数名が即座に銃を抜き、提案者を射殺した。
「愚か者めが! 今日の日本の堕落に陛下は関係ない。
周囲の堕落した政治屋や腐った官吏が諸悪の根源なのだ! それを履き違えおって!」
周囲の堕落した政治屋や腐った官吏が諸悪の根源なのだ! それを履き違えおって!」
幹部の死体は片付けもされず、そのまま議論は再開された。
「天皇陛下に刃を向けるなど言語道断たる逆賊的にして反国体思想の極み。
むしろ我らが倒すべきはその君側の奸である。
よって私は現内閣総理大臣の暗殺をここに提案する」
むしろ我らが倒すべきはその君側の奸である。
よって私は現内閣総理大臣の暗殺をここに提案する」
新たな発言に、再び幹部連中は殺気立った。
「馬鹿者、貴様は何もわかっていない! そんなことが可能だと思っているのか!?」
この幹部が激怒したのも無理はない。
一国の首相ほどともなれば、側に忍者を置いて身辺を警護させているからだ。
一般社会ならいざしらず、裏社会では常識である。
いくら黒十字団が武装組織だと言っても、忍者相手に戦えるものではない。
一国の首相ほどともなれば、側に忍者を置いて身辺を警護させているからだ。
一般社会ならいざしらず、裏社会では常識である。
いくら黒十字団が武装組織だと言っても、忍者相手に戦えるものではない。
「そんなことも知らぬとは……教育!」
「待ってもらいたい! 私は何も、無知故にこんなことを言っているのではない!」
「待ってもらいたい! 私は何も、無知故にこんなことを言っているのではない!」
その幹部は部屋の隅を歩いて障子戸の前に至ると、戸に手をかけた。
「そう、首相と大臣どもの周りには常に忍者が潜んでいる。
……ならば我々も忍者を用いればいいのだ」
……ならば我々も忍者を用いればいいのだ」
障子戸が開かれると、そこには数名の男が待機していた。
皆、軍服風の装束に身を包み、後部に広がった形のヘルメットを被り、口元はマスクで隠されている。
その出で立ちを見て、黒十字団の幹部たちは――
皆、軍服風の装束に身を包み、後部に広がった形のヘルメットを被り、口元はマスクで隠されている。
その出で立ちを見て、黒十字団の幹部たちは――
(*1))
一目で確信した。
「お初にお目にかかる。私はリーダーのアウグスト。
ここにいるものは皆、ドイツの『ジャーマン忍術』の使い手だ。
今はフリーランスだがね」
「『ジャーマン忍術』だと……!?」
ここにいるものは皆、ドイツの『ジャーマン忍術』の使い手だ。
今はフリーランスだがね」
「『ジャーマン忍術』だと……!?」
黒十字団は色めき立った。だがジャーマン忍者がいかなる集団か、別に知っているわけではない。
彼ら黒十字団は実際、時代に取り残された跳ねっ返りが、借り物の大義に寄り集まって出来たという、過激なだけの組織である。
当然、世界情勢の裏で行われた『ワールド・ニンジャ・ウォー』や、そこで活躍した世界各地の忍者たちついて、知識はゼロだ。
彼ら黒十字団は実際、時代に取り残された跳ねっ返りが、借り物の大義に寄り集まって出来たという、過激なだけの組織である。
当然、世界情勢の裏で行われた『ワールド・ニンジャ・ウォー』や、そこで活躍した世界各地の忍者たちついて、知識はゼロだ。
……ここでドイツの忍者界について軽く補足しておこう。
ドイツで最も歴史が長く、巨大な勢力を誇っていたのはゲルマン忍者だった。
その実力も折り紙つきで、二度に渡るワールド・ニンジャ・ウォーでは連合国のスパイたちを相手に激闘を繰り広げた。
しかし、第二次世界大戦におけるドイツの敗北と、その後訪れた分断の時代にもまれ、ゲルマン忍者は勢力の縮小を余儀なくされた。
ドイツで最も歴史が長く、巨大な勢力を誇っていたのはゲルマン忍者だった。
その実力も折り紙つきで、二度に渡るワールド・ニンジャ・ウォーでは連合国のスパイたちを相手に激闘を繰り広げた。
しかし、第二次世界大戦におけるドイツの敗北と、その後訪れた分断の時代にもまれ、ゲルマン忍者は勢力の縮小を余儀なくされた。
そして、ドイツの裏社会は大きく変わった。
ジャーマン忍者をはじめ幾つもの亜流集団が生まれ、古流の忍者たちを圧迫した。
さらに冷戦の影響で西側、東側諸国から多くの忍が流れ込み、冷戦下の激しい暗闘が続く。
やがて東西ドイツが統一された時、ゲルマン忍者はいつの間にか、時代遅れの弱小勢力に追いやられていたのだ。
ジャーマン忍者をはじめ幾つもの亜流集団が生まれ、古流の忍者たちを圧迫した。
さらに冷戦の影響で西側、東側諸国から多くの忍が流れ込み、冷戦下の激しい暗闘が続く。
やがて東西ドイツが統一された時、ゲルマン忍者はいつの間にか、時代遅れの弱小勢力に追いやられていたのだ。
結果、ドイツはジャーマン忍者たちの新世代忍者が主流となる。
ゲルマン忍者は故郷を離れ流浪の集団へと堕ち、今では確かな所在も知れなくなっている。
ゲルマン忍者は故郷を離れ流浪の集団へと堕ち、今では確かな所在も知れなくなっている。
黒十字団の幹部たちは、改めて目の前の忍者たちを見る。
(西洋の忍者カブレか……)
その点が不快であり不満だった。邸内に土足で踏み込んでいることも、許し難い。
だが同時に納得もできる。国内の忍者集団はおおかた固定のクライアントを持っていて、しがらみがある。
しかも依頼が日本の首相暗殺となれば、警護側の忍者集団と深刻な紛争になるため、引き受けるものは稀だろう。
故にフリーランスというのは使いやすい。実力が伴えば、だが。
だが同時に納得もできる。国内の忍者集団はおおかた固定のクライアントを持っていて、しがらみがある。
しかも依頼が日本の首相暗殺となれば、警護側の忍者集団と深刻な紛争になるため、引き受けるものは稀だろう。
故にフリーランスというのは使いやすい。実力が伴えば、だが。
「アウグストと言ったか。失礼だが、君たちの腕前について知りたいのだが?」
「依頼したい仕事は極めて困難なものとなる。半端な者には任せられない」
「依頼したい仕事は極めて困難なものとなる。半端な者には任せられない」
「……それはもっともなこと」
アウグストは不満の色も見せず首肯した。
振り返って部下に命じると、ジャーマン忍者の一人がメモリースティックを持って進み出る。
振り返って部下に命じると、ジャーマン忍者の一人がメモリースティックを持って進み出る。
「それは?」
「貴君らの敵対組織だという『皇国ギルド』の機密情報だ。土産に進呈しよう」
「なんだと!?」
「貴君らの敵対組織だという『皇国ギルド』の機密情報だ。土産に進呈しよう」
「なんだと!?」
『皇国ギルド』とは、フリーランスの忍者や傭兵、活動家や思想家の寄り集まった集団だ。
彼らは弱き者の味方と称し、正義の名の下にブラッククロス系や過激派の組織に攻撃を加えている。
その小面憎い敵手の情報と聞き、側にいた幹部はノートPCを開くと、メモリー内のデータを確認した。
彼らは弱き者の味方と称し、正義の名の下にブラッククロス系や過激派の組織に攻撃を加えている。
その小面憎い敵手の情報と聞き、側にいた幹部はノートPCを開くと、メモリー内のデータを確認した。
「これは凄いぞ! 奴らのメンバーリストに拠点の配置図、資金源の情報まであるぞ!」
「だがしかし確かな情報なのか?」
「疑うなら、じっくり裏を取ればいい」
「だがしかし確かな情報なのか?」
「疑うなら、じっくり裏を取ればいい」
アウグストが特に感慨もなく言う。
「貴君らの依頼は、下準備に時間がかかりそうだ。
その間に情報の裏を取って、それから正式に契約としても構わぬ」
その間に情報の裏を取って、それから正式に契約としても構わぬ」
土産を自慢するでもなく、疑われることを気にもしない。不動の自信がそうさせる。
「どうやら確かな腕の持ち主のようだな……」
「詳しく話を進めようか、アウグストとやら」
「良かろう。チャーチルだろうとスターリンだろうと、確実に殺してみせよう」
「詳しく話を進めようか、アウグストとやら」
「良かろう。チャーチルだろうとスターリンだろうと、確実に殺してみせよう」
標的はまったく違うのだが、黒十字団とジャーマン忍者たちは依頼の詳細な談義に移ろうとした。
――カラン、カラン……カラン……。
すると、どこからともなく木の打ち鳴らされる音が、連なって聞こえてくる。
すると、どこからともなく木の打ち鳴らされる音が、連なって聞こえてくる。
「鳴子トラップの音か」
腰を浮かしかけた黒十字団の幹部たちへ、アウグストが言葉を投げた。
そう、この音は屋敷周辺に張り巡らされた、侵入者警戒用の罠が作動した音である。
そう、この音は屋敷周辺に張り巡らされた、侵入者警戒用の罠が作動した音である。
「アウグストとやら、鳴子トラップを仕掛けていたのを知っていたのか?」
「この屋敷の周辺、警備の状況は一通り把握してある」
「なんと、すでにそこまで……」
「この屋敷の周辺、警備の状況は一通り把握してある」
「なんと、すでにそこまで……」
監視モニターが起動すると、敷地の端に不審者の影が確かに映っていた。
「一人……二人か? この山里は一般人が迷いこむような所ではないぞ」
「明らかに侵入の意志があると見ていい」
「屋敷の周囲は50人からなる黒十字団の戦闘員が警護している。捕らえさせよう」
「明らかに侵入の意志があると見ていい」
「屋敷の周囲は50人からなる黒十字団の戦闘員が警護している。捕らえさせよう」
警備責任者が現場近くの者に連絡を取った。
アウグストはモニターを渋い表情をしながら見つめている。
アウグストはモニターを渋い表情をしながら見つめている。
◆◆◆◆◆
機岩城天守閣にて、機械将軍は今宵も内外の活動に忙しい。
様々な報告を聞き、指示を出し、自己のメンテナンスも怠らない。この点だけは他人には任せられない。
様々な報告を聞き、指示を出し、自己のメンテナンスも怠らない。この点だけは他人には任せられない。
「間もなく黒十字団への攻撃が始まります」
セッサイの報告に、機械将軍は興味なさそうに頷いた。
黒十字団は化学ニンジャ隊に、挑んではならない挑戦をしてしまった。
そのことを掴んだ将軍は、かねてより把握していた黒十字団秘密のアジトに、幹部たちが集まる日を狙って刺客を送りつけた。
黒十字団は化学ニンジャ隊に、挑んではならない挑戦をしてしまった。
そのことを掴んだ将軍は、かねてより把握していた黒十字団秘密のアジトに、幹部たちが集まる日を狙って刺客を送りつけた。
「今回送り込んだのは“セイザンパソウビ”と“ランス”の二組。
下忍たちのサポートも抜かり無く、確実に任務を達成するでしょう」
下忍たちのサポートも抜かり無く、確実に任務を達成するでしょう」
黒十字団に当てる戦力としては過剰と言える。だが、化学ニンジャ隊の名を騙ってテロを行った愚か者は、速やかに且つ確実に叩く必要がある。
「だがやり過ぎてはならぬ。どちらもブラッククロスとアムステラに忠誠を誓う物同士。
連中には我らの恐ろしさを教えこむだけで十分だ」
連中には我らの恐ろしさを教えこむだけで十分だ」
「しかし将軍、珍しいですな。あのランスを外の任務に当てるとは」
「ウム、あ奴が自ら志願した。腕が鈍っているところであろうし、許可した」
「四天王に欠員が出た今、たしかにあ奴の力も活用できれば言うことはありません」
「ウム、あ奴が自ら志願した。腕が鈍っているところであろうし、許可した」
「四天王に欠員が出た今、たしかにあ奴の力も活用できれば言うことはありません」
セッサイの報告は続く。
機械将軍は脳の一部をそちらに割きながら、別の脳では雑務の処理と、ランスについて考えていた。
ランスは軍師セッサイと並んで将軍の側近である。
役目はもっぱら将軍に近侍することだが、最近どうも、血の昂ぶりとも言うべきものが抑えられない様子だった。
彼はバスター・アーセナル並に身体の機械化がなされているため、生理的な異変など起こりようもないはずなのだが、将軍は彼の好きにやらせることにした。
機械将軍は脳の一部をそちらに割きながら、別の脳では雑務の処理と、ランスについて考えていた。
ランスは軍師セッサイと並んで将軍の側近である。
役目はもっぱら将軍に近侍することだが、最近どうも、血の昂ぶりとも言うべきものが抑えられない様子だった。
彼はバスター・アーセナル並に身体の機械化がなされているため、生理的な異変など起こりようもないはずなのだが、将軍は彼の好きにやらせることにした。
「ワシも肉体を捨てて久しいが、奴も思うところがあるのだろう……クックック……」
将軍はもう黒十字団のことは忘れて、組織の勤めに意識を戻した。
静かな山里の夜に嵐が訪れる。
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――続く
――続く