今とここで表す現在地点がさえないとある雑誌社の
これまたさえない一室ってことになる場所でこれまたさえない面さげて
キーボードをカタカタうち鳴らしているのは英語の国で生まれた
さえない俺ことナイトフィーバー金曜日。
パパとママが初めて会った場所なのよと俺の名前を口ずさむときに
母親がよく言ってたがありゃ嘘だろと俺は子供ながらに思っていたもんだった。
百歩譲ってもナイトフィーバーはいいとするがしかし金曜日はないだろうと
問い詰めたい小一時間は問い詰めたい。
偽名じゃなくて本名でしかも七代前からフライデイという
ファミリー・ネームだっていうんだから驚きで、
よく友達にはサタデー・ナイト・フィーバーに引っ掛けて
「フライディイトフィーバ」なんて名前の順番をひっくり返されて呼ばれるもんだから
たまったもんじゃないが、それもしょうがないなと思い
毎週金曜日に発行されるレスリング・アンド・ボクシングの専門雑誌、
『週刊BAKI’N』でしがない専門コーナーを書き続けている。
だが最近は俺のコーナーも人気が伸び悩んでページを割かれそうな気配がある。
もっと危機感を持てよフライディなんて最近は友達に言われてばかりだが、
俺に言わせれば危機感なんてもんは危険になってから持つようじゃ手遅れだし
危険になってないときにもってても無駄なだけだと思う。
ようするに、もうどうしようもない場面になってからようやく危険だなと
つぶやく程度がちょうどいいのだ。
ちなみにこの事は、病気で死ぬ前の日まで呑気に自由気ままに生き続けていた
俺のプシーキャットから教わった。
かわいい猫だった。少しデブだったけど。
まあそれはそれでいいとして、いやほんとは良くはないんだが、
それでも俺は元気に生きていられてるので気にしないでおいて、
編集長のデスクに足を運ぶ。
彼の名前はマッスル編集長だ。
もちろん偽名で、そのあだ名はあまりにも筋肉を愛し筋肉に情熱を捧げ続けているから
つけられたもので本当の名前はちゃんと別にある。
だけど誰も本名で呼ばないので、
もう別にマッスル編集長でいいんじゃないかなと俺は思うし彼もそう思っているみたいだ。
デスクに置かれたネーム・プレートも名刺も、全部マッスル名義になっている。
もう十年以上も前からだ。
「ああフライディ来たのか」
マッスル編集長はダンベル片手ににこやかな笑みを浮かべて腰を上げる。
彼は食事をするときと寝るとき以外はダンベルを手放すことはないんじゃないかなと
思うくらいいつもダンベルを握っている。
暇さえあればジムに通っているというその体は素晴らしい仕上がり具合で、
下手なプロ・レスラーよりも筋肉がすごいから驚きだ。
「ま、そこに腰でもかけるといい。・・・・ああ、飲み物はミネラル・ウォーターでいいかな?
いらない?水分補給は重要だぞフライディ。まあいいさ、記事の話をしようか」
「マッスル編集長、話というのはなんでしょうか?
もし俺からペンを取り上げるというのなら、
今日から軽く掃除を済ませてヘロゥ・ワークに通うお仕事を始めなければならないのですが」
「HAHAHA、君のジョークは辛辣だな。
いや、違うんだ、君にはね、少し取材をしてもらいたくてだね」
取材?この俺が?ずいぶんと、いや本当にずいぶんな事を言い出してきたもんだ。
俺は内心クエスチョン・マークを乱立させているが、
マッスル編集長はそれにもお構いなしに話しかけてくる。
もっともこのマッスル編集長が人の意見をまともにきくのは稀というか
筋肉関連の話題意外はことごとくスルーされてしまうのだから困りものだ。
「・・・・思えば、最近のファイターには筋肉が足りない。そうは思わないかねフライディ」
HEYファッキン・マッチョ、あんたの話は唐突すぎるぜ。
ついに筋肉が筋肉病でもこじらせて筋肉が脳みそにまで行きわたっちまったか?
「今の選手はどうにも肌に合わなくてなぁ、肉厚的なボディよりもシャープなラインが主流になっている。
いわゆるIKE-MEN選手というやつだな。
甘いマスクに引き締まったボディ、パワーよりもスピードが主体で、
高価で高性能なマシンに乗って血と汗の代わりにオイルをまき散らす戦いがトレンドになっている。
・・・・嘆かわしいことだ。いやもちろん生身で戦うファイターもいるのはわかるんだがね、
それでも絶対数というものはこうして手元のデータを見ることで判明してしまうものだよ」
「・・・・それが、俺に一体何の関係が?
まさか俺に現地体験レポートとしてビリー・キャンプをさせようとでも?」
「いや今のはただの愚痴さ。本題はここからだ。
最近ちょっと面白い噂が街で流れていてね、
どうも暗黒街周辺で三人組のアマチュアレスラーが活躍しているそうだ。
それも超重量級、ベリー・ベリー・ヘビーなマッスルフ・ァイターだという噂だ。
身の丈二メートル、体重は二百キログラムを下回らないとかどうとかって話だから驚きものだな。
闇プロレスではその名を知らぬものがいない、戦士ヘルニートーや猛獣ファンタズムレオ、
パワー・ザ・キッドに帝王ピエール・ファランクスでさえ倒したとかどうとか。
どうだね、興味は沸かんかね?少なくとも私は沸いた。読者の一部も期待している。
筋肉だよ、きみ、筋肉!我々と同じ筋肉至上主義者のマチョズム思考の人間が、
パワーを右手になりふり構わず強豪たちを相手に立ち回っているというんだ。
まさに恐悦至極、血沸き肉躍るというものだ。素晴らしい、いや実に実にすばらしいことだ!」
ファッキンなこのマッスル編集長の都合のいい改ざんのせいで
どうも俺も筋肉至上主義者にされた感があるが果たして俺はいつの間にマチョズム転向したのか
ちょいとばかり問い詰めてやりたいがやったところで無駄だろうと知っているからやらない。
オウフライディー時間は有効にだ。ターイム・イズ・マネー。
みなさん、お金は大切にしましょう。
違った、時間単位の給料がいい仕事をしましょう。
そんなわけで俺は時給を上げるために腐心するというかむしろむしれるだけむしるために
軽く渋る態度を見せてみせるが、もちろんこれは軽くであって、本気で嫌がってるそぶりは見せない。
そんなことをしたらすぐさまそのベンチプレスが振り切れそうな剛腕によって
窓の外の向かいのビルの屋上の貯水場の上のほうまで投げ飛ばされるに違いないからだ。
などとわざわざ『の』を多く使用して苛立たせる方法を使ってマッスル編集長に交渉をしてみる。
「担当紙面、ふえませんか?」
あ、間違えた。いや間違ってはないんだが真っ先に口にしてしまったのは俺のミス。
もうちょっと別のおねだりからするべきだったのだが、
いやまあ別にいいか結局は同じことを頼むんだしこの脳みそ筋肉に遠回しな駆け引きは無意味に違いない。
ところがこれが最悪の要求だとは俺も思ってもいなかったのだ。
「いいとも、むしろ調査の結果次第では巻頭カラーで特盛十六ページをくれてやろう」
「!!」
これまたさえない一室ってことになる場所でこれまたさえない面さげて
キーボードをカタカタうち鳴らしているのは英語の国で生まれた
さえない俺ことナイトフィーバー金曜日。
パパとママが初めて会った場所なのよと俺の名前を口ずさむときに
母親がよく言ってたがありゃ嘘だろと俺は子供ながらに思っていたもんだった。
百歩譲ってもナイトフィーバーはいいとするがしかし金曜日はないだろうと
問い詰めたい小一時間は問い詰めたい。
偽名じゃなくて本名でしかも七代前からフライデイという
ファミリー・ネームだっていうんだから驚きで、
よく友達にはサタデー・ナイト・フィーバーに引っ掛けて
「フライディイトフィーバ」なんて名前の順番をひっくり返されて呼ばれるもんだから
たまったもんじゃないが、それもしょうがないなと思い
毎週金曜日に発行されるレスリング・アンド・ボクシングの専門雑誌、
『週刊BAKI’N』でしがない専門コーナーを書き続けている。
だが最近は俺のコーナーも人気が伸び悩んでページを割かれそうな気配がある。
もっと危機感を持てよフライディなんて最近は友達に言われてばかりだが、
俺に言わせれば危機感なんてもんは危険になってから持つようじゃ手遅れだし
危険になってないときにもってても無駄なだけだと思う。
ようするに、もうどうしようもない場面になってからようやく危険だなと
つぶやく程度がちょうどいいのだ。
ちなみにこの事は、病気で死ぬ前の日まで呑気に自由気ままに生き続けていた
俺のプシーキャットから教わった。
かわいい猫だった。少しデブだったけど。
まあそれはそれでいいとして、いやほんとは良くはないんだが、
それでも俺は元気に生きていられてるので気にしないでおいて、
編集長のデスクに足を運ぶ。
彼の名前はマッスル編集長だ。
もちろん偽名で、そのあだ名はあまりにも筋肉を愛し筋肉に情熱を捧げ続けているから
つけられたもので本当の名前はちゃんと別にある。
だけど誰も本名で呼ばないので、
もう別にマッスル編集長でいいんじゃないかなと俺は思うし彼もそう思っているみたいだ。
デスクに置かれたネーム・プレートも名刺も、全部マッスル名義になっている。
もう十年以上も前からだ。
「ああフライディ来たのか」
マッスル編集長はダンベル片手ににこやかな笑みを浮かべて腰を上げる。
彼は食事をするときと寝るとき以外はダンベルを手放すことはないんじゃないかなと
思うくらいいつもダンベルを握っている。
暇さえあればジムに通っているというその体は素晴らしい仕上がり具合で、
下手なプロ・レスラーよりも筋肉がすごいから驚きだ。
「ま、そこに腰でもかけるといい。・・・・ああ、飲み物はミネラル・ウォーターでいいかな?
いらない?水分補給は重要だぞフライディ。まあいいさ、記事の話をしようか」
「マッスル編集長、話というのはなんでしょうか?
もし俺からペンを取り上げるというのなら、
今日から軽く掃除を済ませてヘロゥ・ワークに通うお仕事を始めなければならないのですが」
「HAHAHA、君のジョークは辛辣だな。
いや、違うんだ、君にはね、少し取材をしてもらいたくてだね」
取材?この俺が?ずいぶんと、いや本当にずいぶんな事を言い出してきたもんだ。
俺は内心クエスチョン・マークを乱立させているが、
マッスル編集長はそれにもお構いなしに話しかけてくる。
もっともこのマッスル編集長が人の意見をまともにきくのは稀というか
筋肉関連の話題意外はことごとくスルーされてしまうのだから困りものだ。
「・・・・思えば、最近のファイターには筋肉が足りない。そうは思わないかねフライディ」
HEYファッキン・マッチョ、あんたの話は唐突すぎるぜ。
ついに筋肉が筋肉病でもこじらせて筋肉が脳みそにまで行きわたっちまったか?
「今の選手はどうにも肌に合わなくてなぁ、肉厚的なボディよりもシャープなラインが主流になっている。
いわゆるIKE-MEN選手というやつだな。
甘いマスクに引き締まったボディ、パワーよりもスピードが主体で、
高価で高性能なマシンに乗って血と汗の代わりにオイルをまき散らす戦いがトレンドになっている。
・・・・嘆かわしいことだ。いやもちろん生身で戦うファイターもいるのはわかるんだがね、
それでも絶対数というものはこうして手元のデータを見ることで判明してしまうものだよ」
「・・・・それが、俺に一体何の関係が?
まさか俺に現地体験レポートとしてビリー・キャンプをさせようとでも?」
「いや今のはただの愚痴さ。本題はここからだ。
最近ちょっと面白い噂が街で流れていてね、
どうも暗黒街周辺で三人組のアマチュアレスラーが活躍しているそうだ。
それも超重量級、ベリー・ベリー・ヘビーなマッスルフ・ァイターだという噂だ。
身の丈二メートル、体重は二百キログラムを下回らないとかどうとかって話だから驚きものだな。
闇プロレスではその名を知らぬものがいない、戦士ヘルニートーや猛獣ファンタズムレオ、
パワー・ザ・キッドに帝王ピエール・ファランクスでさえ倒したとかどうとか。
どうだね、興味は沸かんかね?少なくとも私は沸いた。読者の一部も期待している。
筋肉だよ、きみ、筋肉!我々と同じ筋肉至上主義者のマチョズム思考の人間が、
パワーを右手になりふり構わず強豪たちを相手に立ち回っているというんだ。
まさに恐悦至極、血沸き肉躍るというものだ。素晴らしい、いや実に実にすばらしいことだ!」
ファッキンなこのマッスル編集長の都合のいい改ざんのせいで
どうも俺も筋肉至上主義者にされた感があるが果たして俺はいつの間にマチョズム転向したのか
ちょいとばかり問い詰めてやりたいがやったところで無駄だろうと知っているからやらない。
オウフライディー時間は有効にだ。ターイム・イズ・マネー。
みなさん、お金は大切にしましょう。
違った、時間単位の給料がいい仕事をしましょう。
そんなわけで俺は時給を上げるために腐心するというかむしろむしれるだけむしるために
軽く渋る態度を見せてみせるが、もちろんこれは軽くであって、本気で嫌がってるそぶりは見せない。
そんなことをしたらすぐさまそのベンチプレスが振り切れそうな剛腕によって
窓の外の向かいのビルの屋上の貯水場の上のほうまで投げ飛ばされるに違いないからだ。
などとわざわざ『の』を多く使用して苛立たせる方法を使ってマッスル編集長に交渉をしてみる。
「担当紙面、ふえませんか?」
あ、間違えた。いや間違ってはないんだが真っ先に口にしてしまったのは俺のミス。
もうちょっと別のおねだりからするべきだったのだが、
いやまあ別にいいか結局は同じことを頼むんだしこの脳みそ筋肉に遠回しな駆け引きは無意味に違いない。
ところがこれが最悪の要求だとは俺も思ってもいなかったのだ。
「いいとも、むしろ調査の結果次第では巻頭カラーで特盛十六ページをくれてやろう」
「!!」
こうして俺はまんまとエサにつられた野良犬のように保健所へと収容されてしまうのだ。
いやまあ保健所なんてのはただの比喩で、本当のところは結構アレな場所なんだが。
ともかく俺の胸中はページが増えたことと巻頭掲載なんていう半年ぶりの
しかも十六ページという大判ふるまいに喚起していたわけなんだが
いやいや今思い返すとここで退職していたほうがマシだったなんて考えるそぶりもなかった。
はぁ、まあそんなわけで俺はちょっと危険が危ないゴッサムシティの隣、
暗黒街ゴッツ・サムイシティへと向かうことになったのだ。
ははは、笑えよ、俺。ははは・・・・。
いやまあ保健所なんてのはただの比喩で、本当のところは結構アレな場所なんだが。
ともかく俺の胸中はページが増えたことと巻頭掲載なんていう半年ぶりの
しかも十六ページという大判ふるまいに喚起していたわけなんだが
いやいや今思い返すとここで退職していたほうがマシだったなんて考えるそぶりもなかった。
はぁ、まあそんなわけで俺はちょっと危険が危ないゴッサムシティの隣、
暗黒街ゴッツ・サムイシティへと向かうことになったのだ。
ははは、笑えよ、俺。ははは・・・・。