分厚い鋼の鎧越しでも、
アーク溶接が奏でるジリジリとした音が鳴り響く。
それはエネルギー・ブレードがかき鳴らす切断音だが、
音色に対して帰ってくる手応えは、硬い。
猫が、豹が、ライオンが、獲物へと飛び掛かるように、
空中から襲撃したヘレム・A/アサシンの一撃は、
盤鱗の胸部装甲で受け止められていた。
否、受け止めたというよりは、
むしろ吸い込まれるようにあたってしまったといったほうが正しい。
「チィッ仕損じた、援護頼むよ!」
『手術刀』のエネルギ配分を止め、
憎々しげにその『球体』を蹴りつけながら、
反動を利用し勢いよく飛び退く。
盤鱗、そのヒトデ型のMSマンは、
ぐるりと両手両足、そして頭を後ろに丸め、
みるみると、見事なまでに丸まっていた。
水上においては盤石の足場、
地上においては硬い球体遮蔽物、
歩く姿はユーモラス。
火力密度にかけるジェリス・ヘレムにとって、
苦手極まりない相手。
ただし忍耐力も撤退の意志もない二人の女性パイロットは、
逃げることも大きく下がることもなく執拗に相手へと襲い掛かった。
大きく踏み込み、渾身の横薙ぎ。
ただし見え見えの攻撃は敵の腕に弾かれ、
カウンタを胴体上部に受け・・・・
ヘレム・Aは物理法則を無視して、
その場でくるりと半回転しつつ回し蹴りをたたき込んだ。
「テラ・ドライバー・システムを応用したら、
こんなこともできるのよん。覚えておきな、新人さん」
いわゆる回転カウンタを教示すると同時に、
再びくるりと宙に浮いたまま反転し今度は『猫の爪』を突き立てる。
今度も丸まりうまく回避しようとした盤鱗だが、
そうそう何度も防がれ続ける灰かぶり猫でもなく、
腕と頭の隙間へと刃を押し込み、缶切りのようにぐりぐりと動かし、
「後は頼んだよ」
あっさりと手を放し、盤鱗を蹴飛ばし軽く転がす。
と、その瞬間を狙い澄ましたかのように、
ヘレム・R/レンジャーまだ相手にが刺さったままの『猫の爪』を狙撃する。
とある日本人、天才的スナイパに比べれば名も実力も劣るものの、
彼、ブラス自身も傭兵の内ではそれなりに名の知れた人物だ。
もっとも、名が売れているのは兵士としてではなく、むしろ・・・・
「ヘレム・Rよりヘレム・Pへ。
周囲巡回のもと、敵機接近の際には射撃迎撃の用意を。
わたしは味方各機のサポータ、君は私のディフェンサ、できるな?」
「はい、了解です」
「・・・・解っているとは思うが、躊躇えば死ぬのは君の方だ。
容赦とか、良心などという何の道徳にもならないものが残っているなら、
今すぐ引き返したまえ。引き止めはしない。むしろ邪魔になる」
「いえ・・・・大丈夫です。撃てます、いえ、撃ちます。
武器の整備をするのも、銃を撃つのも、同じようなものじゃないですか」
「・・・・よし、では我々は前身を開始する・・・・ヘレム・B、どうぞ」
「こちらヘレム・B、コナン隊長だ、了解した、後衛の前進を許可する。
ではヘレム・リーダーより各機へ。これより追記指示を送る。
全機密集形態へ鈍足移行。前衛、ゴゥ・バック。
戦闘ラインを覆轢く引下げ、こちらも遮蔽地帯へ後退する。
ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・バック。これだけ言ったんだ、下がれよ?」
「うるさいな隊長・・・・しつこいったらありゃあしない」
「だなぁ・・・・ったく、了解」
例え盤鱗自体の防御性能がヘレム・W/ウォーリアを凌駕しようと、
単機のみの計算、それも重防御態勢時におけるそれのみであり、
機動力自体は皆無といっても過言ではない。
つまり、後退さえされてしまえば手出しができず、
ダンゴ虫は遠距離から狙い撃ちにされるしかないボーナスと化す。
対してジェリス・ヘレムは遮蔽物地帯に引き下がることで同党の防御力を得、
次いでその場で武装の補充を行うことさえできる。
留まれば留まるほど、防御態勢で居続ければ続けるほど、
どんどん不利な状態へとつながる。
補給も援軍も期待できないアムステラの突出部隊としては、
そのまま防御を固めて地獄の消耗戦に移行するか、
あるいは防御を解除して突撃する決死の乱戦に挑むか、
あるいは後方へ退避し、そのまま戦線を離脱するか・・・・
その何れかの道しか残されていない。
言ってみれば、この時点で詰んでいた。
あるいはASEAN連合空軍の誘導につられた時点で、
あるいは宇宙からの降下が発見・迎撃された時点で、
いやそもそも、そんな計画を考案した時点で、
彼らは失敗していたのかもしれない。
もちろんそんなことが前もって予測できたわけでもなく、
彼らが悪かったわけでもなく、
むしろ悪かったのは運のほうなのだが、
いずれにしろ、チェック・メイトは秒読み寸前だ。
だが、もしこういった場面を覆すことができる人間がいるとすれば、
きっとそれは英雄か、主人公のようにその場の流れを引き付ける人物か、
それ以上に空気を読めない文字通りのバカくらいだろう。
「さて、どう出る?」
そして、見事なまでにフラグを立てた隊長のセリフとともに、
これでもかという高笑いが、哄笑が、愚かしいまでの笑い声が、
あたり一面へと鳴り響いたのだった。
アーク溶接が奏でるジリジリとした音が鳴り響く。
それはエネルギー・ブレードがかき鳴らす切断音だが、
音色に対して帰ってくる手応えは、硬い。
猫が、豹が、ライオンが、獲物へと飛び掛かるように、
空中から襲撃したヘレム・A/アサシンの一撃は、
盤鱗の胸部装甲で受け止められていた。
否、受け止めたというよりは、
むしろ吸い込まれるようにあたってしまったといったほうが正しい。
「チィッ仕損じた、援護頼むよ!」
『手術刀』のエネルギ配分を止め、
憎々しげにその『球体』を蹴りつけながら、
反動を利用し勢いよく飛び退く。
盤鱗、そのヒトデ型のMSマンは、
ぐるりと両手両足、そして頭を後ろに丸め、
みるみると、見事なまでに丸まっていた。
水上においては盤石の足場、
地上においては硬い球体遮蔽物、
歩く姿はユーモラス。
火力密度にかけるジェリス・ヘレムにとって、
苦手極まりない相手。
ただし忍耐力も撤退の意志もない二人の女性パイロットは、
逃げることも大きく下がることもなく執拗に相手へと襲い掛かった。
大きく踏み込み、渾身の横薙ぎ。
ただし見え見えの攻撃は敵の腕に弾かれ、
カウンタを胴体上部に受け・・・・
ヘレム・Aは物理法則を無視して、
その場でくるりと半回転しつつ回し蹴りをたたき込んだ。
「テラ・ドライバー・システムを応用したら、
こんなこともできるのよん。覚えておきな、新人さん」
いわゆる回転カウンタを教示すると同時に、
再びくるりと宙に浮いたまま反転し今度は『猫の爪』を突き立てる。
今度も丸まりうまく回避しようとした盤鱗だが、
そうそう何度も防がれ続ける灰かぶり猫でもなく、
腕と頭の隙間へと刃を押し込み、缶切りのようにぐりぐりと動かし、
「後は頼んだよ」
あっさりと手を放し、盤鱗を蹴飛ばし軽く転がす。
と、その瞬間を狙い澄ましたかのように、
ヘレム・R/レンジャーまだ相手にが刺さったままの『猫の爪』を狙撃する。
とある日本人、天才的スナイパに比べれば名も実力も劣るものの、
彼、ブラス自身も傭兵の内ではそれなりに名の知れた人物だ。
もっとも、名が売れているのは兵士としてではなく、むしろ・・・・
「ヘレム・Rよりヘレム・Pへ。
周囲巡回のもと、敵機接近の際には射撃迎撃の用意を。
わたしは味方各機のサポータ、君は私のディフェンサ、できるな?」
「はい、了解です」
「・・・・解っているとは思うが、躊躇えば死ぬのは君の方だ。
容赦とか、良心などという何の道徳にもならないものが残っているなら、
今すぐ引き返したまえ。引き止めはしない。むしろ邪魔になる」
「いえ・・・・大丈夫です。撃てます、いえ、撃ちます。
武器の整備をするのも、銃を撃つのも、同じようなものじゃないですか」
「・・・・よし、では我々は前身を開始する・・・・ヘレム・B、どうぞ」
「こちらヘレム・B、コナン隊長だ、了解した、後衛の前進を許可する。
ではヘレム・リーダーより各機へ。これより追記指示を送る。
全機密集形態へ鈍足移行。前衛、ゴゥ・バック。
戦闘ラインを覆轢く引下げ、こちらも遮蔽地帯へ後退する。
ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・ゴゥ・バック。これだけ言ったんだ、下がれよ?」
「うるさいな隊長・・・・しつこいったらありゃあしない」
「だなぁ・・・・ったく、了解」
例え盤鱗自体の防御性能がヘレム・W/ウォーリアを凌駕しようと、
単機のみの計算、それも重防御態勢時におけるそれのみであり、
機動力自体は皆無といっても過言ではない。
つまり、後退さえされてしまえば手出しができず、
ダンゴ虫は遠距離から狙い撃ちにされるしかないボーナスと化す。
対してジェリス・ヘレムは遮蔽物地帯に引き下がることで同党の防御力を得、
次いでその場で武装の補充を行うことさえできる。
留まれば留まるほど、防御態勢で居続ければ続けるほど、
どんどん不利な状態へとつながる。
補給も援軍も期待できないアムステラの突出部隊としては、
そのまま防御を固めて地獄の消耗戦に移行するか、
あるいは防御を解除して突撃する決死の乱戦に挑むか、
あるいは後方へ退避し、そのまま戦線を離脱するか・・・・
その何れかの道しか残されていない。
言ってみれば、この時点で詰んでいた。
あるいはASEAN連合空軍の誘導につられた時点で、
あるいは宇宙からの降下が発見・迎撃された時点で、
いやそもそも、そんな計画を考案した時点で、
彼らは失敗していたのかもしれない。
もちろんそんなことが前もって予測できたわけでもなく、
彼らが悪かったわけでもなく、
むしろ悪かったのは運のほうなのだが、
いずれにしろ、チェック・メイトは秒読み寸前だ。
だが、もしこういった場面を覆すことができる人間がいるとすれば、
きっとそれは英雄か、主人公のようにその場の流れを引き付ける人物か、
それ以上に空気を読めない文字通りのバカくらいだろう。
「さて、どう出る?」
そして、見事なまでにフラグを立てた隊長のセリフとともに、
これでもかという高笑いが、哄笑が、愚かしいまでの笑い声が、
あたり一面へと鳴り響いたのだった。