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連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-16a

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宴会の風景~コアラの少年と姫君


 もきゅもきゅとお菓子を頬張る男の子を、視線でもって愛でること数分。
 そのあまりの可愛らしさになんかもうお腹いっぱいという感じである。
 自分ももぐもぐと"G"とか"呂布"だとか言われてるものてんぷらをかじりつつ、これもお食べー、とビスケットを差し出して、男の子の餌付けに勤しんでいると、

「あ、こんなところにいたんですか!」

という声が。
 顔をあげると、そこには二十歳くらいのお姉さんがいた。
 背はこっちと同じくらいで、髪は茶色。
 茶色は茶色でも染めてる感じのとは違って、なんというか……自然な感じがする。
 そんな綺麗な茶髪や、その雪みたいに白い肌から、

(んー、外人さん…でもないか。ハーフとかクォーターとか、そんな感じの人かな?)

などと考えていると、そのお姉さんは男の子にお説教をし始めた。
 勝手にどこかに行っちゃダメだとか言われてるところからすると、どうやらこの男の子、お姉さんが目を離したその隙を突いてこちらに来たようだ。
 と同時に、このお姉さんと男の子の関係についても考える。
 お母さんにしては若すぎるし、血が繋がっているようにも思えない。
 きっと仲のいい近所のお姉さんとかそんな感じなんだろうなー、とあたりをつける。
 餌付けをしてた手前、男の子が説教されてるのをただ見てるだけというのも心が痛むので、助け船を出すことにした。

「すいません、そんなに怒らないであげてください。こっちが引き止めちゃってたようなものなので……」

 すいません、と頭を下げる。
 するとお姉さんは慌てたように、

「あ、いえ! 怒っていたわけじゃないんですけど……心配で、つい」

と言ってくれた。
 うん、いいお姉さんだなあこの人。
 お説教の中止は達成できたようなので、次は男の子の方に向き直る。

「君も、お姉さんにあんまり心配かけちゃいけないよ? どっかに行くときはちゃんと言うこと。……わかった子は手を挙げてー!」

 そう言うと、

「うー、わかったー!」

と、男の子は元気よく挙手をしてくれた。
 うーん、この聞き分けのよさといい、ノリのよさといい……この子ホントいい子だなあ。
 そんなことを思って男の子の頭を撫でていると、

「あの………あなたは?」

怪訝そうなお姉さんの声。
 …そっか。自己紹介とかなにもしてなかったか。
 こいつは不覚、と反省しつつ、

「あ、すいません……こっちはしがない高校生です。えっと、お近づきの印に、梅酒とシュークリームでもどうですか?」

自己紹介がてら、料理を勧めてみた。
 ……なんか大事なとこ抜けた気がするけど気にしない!
 紙コップに梅酒を注ぎ、シュークリームといっしょに差し出す。

「あ、これはどうも、ご丁寧に……」

 受け取ってもらい、「どうぞ遠慮なくいっちゃってください」と促すと、そのままシュークリームを一口。
 もぐもぐゴクリ、と口が動いて、そしてその感想は―――。

「―――あ、美味しい」

 ………うん。この瞬間がたまらんよね、料理する人にとっては。

「そういってもらえるとなによりです。…えーと、あなたは?」

 完全無欠にいい人にしか見えないので、お姉さんのことも訊いてみることにした。
 …………こっちがこの街に来て、約一ヶ月。
 ただでさえあまり月日が経ってないのに、元々あまりしゃべるのが得意でないのも相まって、知り合いが非常に少ないのだ。
 さらに都市伝説関連の知り合いとなると、壊滅的といってもいい。
 現在知り合い二名。秋祭りで出会った《エンジェルさん》のお兄さんと、昨夜会った黒服Hさんのみである。
 しかも黒服Hさんの電話番号は訊くの忘れてたというアホっぷり。
 とまあそういうことで、一人でも多く知り合いを作り、その連絡先を訊いておきたいのだ。情報も欲しいし。

「うー! このおねーちゃん、お姫さまー!」
「ん、そっかそっか、お姫様か。―――改めまして、初めまして。これからよろしくお願いします、お姫様のお姉さん」

 なぜか答えてくれた男の子に、のっかるようにして挨拶する。

「え、あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」

 そう返してくれたお姉さんだけれど、納得いかないような表情で「……何故に、お姫様? ていうか、なんでそれで通じるんですか…」と呟いている。
 ………なんか申し訳ないなあ、これ。
 一応言い訳しておくと、こっちは基本人の名前を覚えるのが苦手なので、適当にその人のイメージで呼ぶことにしているのだ。
 例えばこの男の子だと、抱えてるお菓子の箱からコアラくんとかそんな感じで、それがお姉さんの場合だとお姫様っぽいからまたそんな感じで。
 《エンジェルさん》のお兄さんは……エンジェルさんのインパクトが強かったからで、Hさんだけそのままなのは………初対面があれだったからなあ。
 いくらなんでも、面と向かって"毛玉さん"と呼ぶのは失礼だろう。
 そんなことを考えながら、むー、と唸っているお姉さんに連絡先の交換を申し込んでみる。
 男の子の「うー。この人、おねーちゃんとぼくには不吉じゃないー」というアシストもあって、快く了承してくれた。
 のだが、その男の子の「不吉じゃない」という言葉が気になる。

「ねえ。さっきの"不吉じゃない"って、どういうこと?」

 そう訊く。
 すると男の子は突然別人のような口調に変わり、

「………そうだね。お姉さんみたいなお兄さんは、敵には容赦しないみたいだけど。僕達の敵にはならないみたいだからね―――」

―――きひひっ、と。
 幼い口を歪め、そう、奇妙に笑った。

(…………なるほど。当然といえば当然だけど、ただの子供じゃあないわけだ)

 自分の右手を、男の子の頭に乗せる。
 撫でるわけでもなく、その小さな頭を、手で覆うように。
 今能力を使えば、目の前の可愛らしい頭は一瞬で弾け飛ぶだろう。
 非難どころか、即座に攻撃されてもしかたない、その行動。
 けれど―――思わずそうしてしまうほど、この男の子には、興味を引かれたのだ。
 こっちのそんな行動に、男の子は―――

「……うー?」

―――そう、首をかしげるだけだった。

「……いまいちよくわかんないね、君。…まあ、面白いけど」

 いきなりごめんね、と謝って、男の子から手を離す。
 お姉さんは、こっちの行動がどういうことだったのか、よくわかってないみたいだった。
 ………もしわかられてたら、知り合いになったばかりで速攻嫌われかねなかったから、けっこう安心してたりする。
 ほっと胸を撫で下ろすと、遠くから、

『―――ちゃーん、どこー?』

という呼び声が聞こえてきた。

「うー、パパー?」

 男の子が反応する。
 どうやら、この子の父親が呼んでいるようだ。

「呼んでるみたいだね。またね、バイバーイ!」
「うー、ばいばーい!」

 にこやかに手を振り、男の子が声に駆け寄っていった。

「あ、じゃあ私も行きますね。さようなら」
「あ、ちょっと待って!」
 男の子についていこうとしたお姉さんを呼び止める。

「? なんですか?」
「いや、ちょっとした注意を。これからしばらくの間、夜はあんまり出歩かない方がいいです…危ないのがうろついてますから」

 …………せっかく知り合えたのだ、絶対に死んで欲しくない。
 今ここにいるということは《夢の国》と戦ったということで、"お姫様"ということで、それを護る"騎士"もいるんだろうけれど………一対一では、絶対にあの食人鬼には勝てない。
 そんなこっちの心境を知ってか知らずか、

「……わかりました、気を付けます。それじゃあ、さようなら」
「はい、なにかあったら電話ください。さようなら!」

微笑みながらそう言って、お姉さんは男の子を追いかけていった。
 その後ろ姿を見送りながら、

「…他の人たちにも注意しといた方がいいかなー」

と、独り言。

「―――まあ、まずは知り合うことからか、な?」

 もっとたくさんの人と知り合うため、こっちは宴会のただ中へと身を投じるのだった。






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