バールの少女・番外編 その1
「うおおおおおおおおおおおッッ、こっち来んなあああああああああああああッッ!!」
おっと、初っ端から絶叫で始めてすまねえ。
俺の名は、「行方 不明」と書き、「なめかた あけず」と呼ぶ。
こんな名を付けた俺の親はさぞッッかし根性腐ってるんだろうが、
名付け主の父親の名は、「跡絶」と書いて、読みはまんまの「とだえる」だ。
これはもう、俺への当て付けとしか思えねえ。そんなに己の名が嫌なら改名手続きすりゃ良いだろうがよ、ッたく……。
……ああ、悪い悪い。なんで俺が絶叫を上げてるかってーと、だ。
俺の名は、「行方 不明」と書き、「なめかた あけず」と呼ぶ。
こんな名を付けた俺の親はさぞッッかし根性腐ってるんだろうが、
名付け主の父親の名は、「跡絶」と書いて、読みはまんまの「とだえる」だ。
これはもう、俺への当て付けとしか思えねえ。そんなに己の名が嫌なら改名手続きすりゃ良いだろうがよ、ッたく……。
……ああ、悪い悪い。なんで俺が絶叫を上げてるかってーと、だ。
「こっちに来ンじゃねえええええええええええええええええええええッッ!!」
早い話が、スパニッシュフライの大群に追われてるワケよ、俺。
どうして、こんな事になったのか?
そこの所もひっくるめて俺の身の上話を始めたいんだが、いいか? ちっとばっか長くなるがな。
そこの所もひっくるめて俺の身の上話を始めたいんだが、いいか? ちっとばっか長くなるがな。
OK! じゃ、サクッと進めちまおうか。
俺の名は、行方不明。って、さっきも言ったっけ?
大学卒業して2年目に突入する、ってったら大体の歳が分かるか。
俺は所謂、「フリー」の「能力者」だ。
契約した都市伝説ってのは、業界用語で言うところの『現象型 遠隔発動/形態変化系 都市伝説』ってヤツ。
「ケムトレイル」って言った方が伝わるかな?
契約を結んだのは大学入りたての頃だ。当時は何が何だかよく分からなかったが、
「人に化ける猫」のおっちゃんと出会った事が幸いして、
都市伝説についてや契約、能力の扱い方、エトセトラ、プラスアルファを一通りレクチャーしてもらった。
そこからは、俺独自の能力研究に勤しんだんだが、まあ、時間はたっぷりあったから己のチカラを熟知するには十分だった。
その時、俺は思ったね。もう、超能力者かと。正義のヒーローかと。
ぶっちゃけこの能力使えば、可愛い女の子とチョメチョメしたり極悪漢を一撃でブッ倒したり夜な夜な悪の組織と死闘を演じたり出来るワケだろ?
俺はもう、燃えに燃えたね。その時は。
大学に居た間は、実家のある辺湖市で活動していた。
「猫」のおっちゃんや地元の都市伝説や俺みたいな「契約者」のたむろしてるグループに飛び込んでみたり、
自発的に夜間パトロールとかやってみたり。
ところがさ、事件らしい事件が起きないワケよ。全くと言っていいほど。
しかも、俺の入ったグループの連中ってのが、争いは御免とばかりの超穏健集団でドンパチは他所でやれと言いやがる。
もうね、馬鹿かと。阿呆かと。
都市伝説と契約した以上、能力をフルに使わねえと意味が無いだろがって話よ。
んで「猫」のおっちゃん曰く「隣町には血の気の多い都市伝説どもが跋扈してるから其処へ行ったらどうだ」との事なので
大学卒業を機に実家を飛び出し、隣町、つまり「学校町」に移り住んだ。今から一年半程前の話だ。
俺の名は、行方不明。って、さっきも言ったっけ?
大学卒業して2年目に突入する、ってったら大体の歳が分かるか。
俺は所謂、「フリー」の「能力者」だ。
契約した都市伝説ってのは、業界用語で言うところの『現象型 遠隔発動/形態変化系 都市伝説』ってヤツ。
「ケムトレイル」って言った方が伝わるかな?
契約を結んだのは大学入りたての頃だ。当時は何が何だかよく分からなかったが、
「人に化ける猫」のおっちゃんと出会った事が幸いして、
都市伝説についてや契約、能力の扱い方、エトセトラ、プラスアルファを一通りレクチャーしてもらった。
そこからは、俺独自の能力研究に勤しんだんだが、まあ、時間はたっぷりあったから己のチカラを熟知するには十分だった。
その時、俺は思ったね。もう、超能力者かと。正義のヒーローかと。
ぶっちゃけこの能力使えば、可愛い女の子とチョメチョメしたり極悪漢を一撃でブッ倒したり夜な夜な悪の組織と死闘を演じたり出来るワケだろ?
俺はもう、燃えに燃えたね。その時は。
大学に居た間は、実家のある辺湖市で活動していた。
「猫」のおっちゃんや地元の都市伝説や俺みたいな「契約者」のたむろしてるグループに飛び込んでみたり、
自発的に夜間パトロールとかやってみたり。
ところがさ、事件らしい事件が起きないワケよ。全くと言っていいほど。
しかも、俺の入ったグループの連中ってのが、争いは御免とばかりの超穏健集団でドンパチは他所でやれと言いやがる。
もうね、馬鹿かと。阿呆かと。
都市伝説と契約した以上、能力をフルに使わねえと意味が無いだろがって話よ。
んで「猫」のおっちゃん曰く「隣町には血の気の多い都市伝説どもが跋扈してるから其処へ行ったらどうだ」との事なので
大学卒業を機に実家を飛び出し、隣町、つまり「学校町」に移り住んだ。今から一年半程前の話だ。
「学校町」に来てからはバイト掛け持ちしつつ、一年くらいは情報収集に徹したね。
この間は暴れまわったりはしていない。いや、情報収集はマジで重要。
色々分かって来た事だが、まず「学校町」は都市伝説の個体数が辺湖の比じゃない。
さらには、色々な勢力がひしめき合って、かなり混沌とした状態になっている。無秩序ってヤツだろうか。
しかも、半端無く強い「契約者」どもが幅を利かせてるようで、こんな状況の中にノコノコ踊り出たなら即刻消されちまう。
だが、俺は思ったね。影でコソコソしてんのも中々悪くない、と。
これだけ強い連中がワンサカ居る中で、気付かれない様に過ごすスリル。
都市伝説が蔓延る夜の闇に紛れて、探究心をくすぐるソウル。
まさにゾクゾク来るじゃねえかと。
俺が具体的に動き出したのは、今年の五月辺りからだ。その頃から《夢の国》とかいう都市伝説が俺の耳にも入り始めていた。
そして、話は飛んで秋祭りの前。
近々、《夢の国》が派手に暴れるという情報を掴み、強大な都市伝説相手に闘うか逃げるか考えあぐねていた時だ。
この間は暴れまわったりはしていない。いや、情報収集はマジで重要。
色々分かって来た事だが、まず「学校町」は都市伝説の個体数が辺湖の比じゃない。
さらには、色々な勢力がひしめき合って、かなり混沌とした状態になっている。無秩序ってヤツだろうか。
しかも、半端無く強い「契約者」どもが幅を利かせてるようで、こんな状況の中にノコノコ踊り出たなら即刻消されちまう。
だが、俺は思ったね。影でコソコソしてんのも中々悪くない、と。
これだけ強い連中がワンサカ居る中で、気付かれない様に過ごすスリル。
都市伝説が蔓延る夜の闇に紛れて、探究心をくすぐるソウル。
まさにゾクゾク来るじゃねえかと。
俺が具体的に動き出したのは、今年の五月辺りからだ。その頃から《夢の国》とかいう都市伝説が俺の耳にも入り始めていた。
そして、話は飛んで秋祭りの前。
近々、《夢の国》が派手に暴れるという情報を掴み、強大な都市伝説相手に闘うか逃げるか考えあぐねていた時だ。
念願の、「スパニッシュフライ」が、しかも、大群で出現した。
「スパニッシュフライ」は前々から狙っていた都市伝説だ。
コイツは使い道によっちゃ、女の子とチョメチョメどころか大金にも化けるシロモノだ。
みすみす見逃す手は無い。
粘り強い探索の末、遂に、西区の廃工場地帯で、スパニッシュフライの大群と相見えた俺は、
早速生け捕りにするべく、ケムトレイルを吹き飛ばしたワケだ。スパニッシュフライの大群に向かって。
コイツは使い道によっちゃ、女の子とチョメチョメどころか大金にも化けるシロモノだ。
みすみす見逃す手は無い。
粘り強い探索の末、遂に、西区の廃工場地帯で、スパニッシュフライの大群と相見えた俺は、
早速生け捕りにするべく、ケムトレイルを吹き飛ばしたワケだ。スパニッシュフライの大群に向かって。
ところが、だ。
スパニッシュフライは、当初俺が予想していたように、昏睡状態に陥って地面に落ちる【のではなく】、
何というか、【興奮した】というべきか、【凶暴化した】というべきか……。
何というか、【興奮した】というべきか、【凶暴化した】というべきか……。
兎に角、【活性化して襲いかかって来た】ってワケだ。そして、話は先の絶叫に繋がるってこった。
「クソッ、何だか色々マズい気がするぜ!」
全力疾走する俺の後ろからは、沢山の不気味な羽音が迫って来る。
やろうと思えば全身を「雲化」した状態になれば、追いつかれても無問題なのだが、
ケムトレイルの影響で更に活性化しそうだし、何よりあの大群に突っ込まれるのはたとえ「雲化」した状態でも御免だ。
追いつかれたら、ヤバい。俺の本能が、そう警告を発している。
廃工場が立ち並ぶ中を右に折れ、建物の中に入り、階を上がっては、外へ飛び下り、左に折れて。
――何て奴らだ! まだ追ってきやがる!!
次の曲がり角を折れた所で、絶句した。マズい、行き止まりだ!
「どうする、どうする俺!!」
羽音はこちらの状況にお構いなく迫って来る。逃げ道は、何処かに逃げ道は――あ。
俺の今まさに踏んでいるのは、下水渠への格子蓋じゃないか。 こ れ だ。
顔を上げれば、曲がり角から姿を現したスパニッシュフライの大群がこっちに突っ込んで来る。
俺は、「全身を雲化」して、一気に【沈み込んだ】!!
全力疾走する俺の後ろからは、沢山の不気味な羽音が迫って来る。
やろうと思えば全身を「雲化」した状態になれば、追いつかれても無問題なのだが、
ケムトレイルの影響で更に活性化しそうだし、何よりあの大群に突っ込まれるのはたとえ「雲化」した状態でも御免だ。
追いつかれたら、ヤバい。俺の本能が、そう警告を発している。
廃工場が立ち並ぶ中を右に折れ、建物の中に入り、階を上がっては、外へ飛び下り、左に折れて。
――何て奴らだ! まだ追ってきやがる!!
次の曲がり角を折れた所で、絶句した。マズい、行き止まりだ!
「どうする、どうする俺!!」
羽音はこちらの状況にお構いなく迫って来る。逃げ道は、何処かに逃げ道は――あ。
俺の今まさに踏んでいるのは、下水渠への格子蓋じゃないか。 こ れ だ。
顔を上げれば、曲がり角から姿を現したスパニッシュフライの大群がこっちに突っ込んで来る。
俺は、「全身を雲化」して、一気に【沈み込んだ】!!
「……間に、会ったか!?」
どうやら、セーフらしい。下水渠の下部へ侵入した俺は、数メートル上にある格子蓋を挟んで唸りを上げている羽虫の大群を睨みつけた。
いや待て。奴ら、格子蓋の間から入り込んで来やがった!?
「うおッ、マズッ!!」
俺は「雲化」した状態のまま、下水の流れる方向へと疾走を再開した。
どうやら、セーフらしい。下水渠の下部へ侵入した俺は、数メートル上にある格子蓋を挟んで唸りを上げている羽虫の大群を睨みつけた。
いや待て。奴ら、格子蓋の間から入り込んで来やがった!?
「うおッ、マズッ!!」
俺は「雲化」した状態のまま、下水の流れる方向へと疾走を再開した。
*
「グブッ、ゴホッゴホ」
スパニッシュフライから逃れるために疾走していたが、何時の間にか下水の激流に身体毎持っていかれていた。
下水に流され、どの位の時間が経過しただろうか。唐突に、暗闇から光溢れる世界へと投げ出される。
大きな音と共に、着水。
「ゴホッ、んだよ、此処は。川か何かか?」
両側がコンクリートの壁で、その間を俺は流されてゆく。見上げれば、眩しいまでの青が拡がっている。
出し抜けに視界が暗くなった。橋が架かっている所まで流され、その影に入ったのだ。
「ハア、災難だったな」
壁へと捕まって、排水用だか知らんが小さな塩ビ製のパイプの覗いている穴に器用に手足を突っ込み、壁を登る。
ッたく、スパニッシュフライを生け捕る筈が、その大群に追いかけられるは、ズブ濡れになるは、何やら妙な臭いはするはで、今日は厄日か?
辺りを見回せば、どうやら「学校町」の端、南区と隣町の境目まで流されたようだ。
「うええ、西区から南区まで流されて来たのかよ……」
一旦アパートに戻って、風呂に入ろう。いや、スーパー銭湯に行こう。このまま戻りたくない。
「ちっきしょお、覚えてろ淫乱黒焦げスパニッシュめ……」
えっぎし、とクシャミを一つ。このままじゃ風邪ひいちまうな、と俺はその場を立ち去ろうとして――。
スパニッシュフライから逃れるために疾走していたが、何時の間にか下水の激流に身体毎持っていかれていた。
下水に流され、どの位の時間が経過しただろうか。唐突に、暗闇から光溢れる世界へと投げ出される。
大きな音と共に、着水。
「ゴホッ、んだよ、此処は。川か何かか?」
両側がコンクリートの壁で、その間を俺は流されてゆく。見上げれば、眩しいまでの青が拡がっている。
出し抜けに視界が暗くなった。橋が架かっている所まで流され、その影に入ったのだ。
「ハア、災難だったな」
壁へと捕まって、排水用だか知らんが小さな塩ビ製のパイプの覗いている穴に器用に手足を突っ込み、壁を登る。
ッたく、スパニッシュフライを生け捕る筈が、その大群に追いかけられるは、ズブ濡れになるは、何やら妙な臭いはするはで、今日は厄日か?
辺りを見回せば、どうやら「学校町」の端、南区と隣町の境目まで流されたようだ。
「うええ、西区から南区まで流されて来たのかよ……」
一旦アパートに戻って、風呂に入ろう。いや、スーパー銭湯に行こう。このまま戻りたくない。
「ちっきしょお、覚えてろ淫乱黒焦げスパニッシュめ……」
えっぎし、とクシャミを一つ。このままじゃ風邪ひいちまうな、と俺はその場を立ち去ろうとして――。
車のハザードをすぐ背後で聞いた。
え、と振り返ってみれば、眼前に青いトラックが迫っている。
何、ひょっとして俺、マズくない?
何、ひょっとして俺、マズくない?
直後、物凄い衝撃が俺を襲う。そして、俺の意識は闇の中へ、や、闇の、な、か……へ……。
*
「うあっちゃあ、アレ大丈夫かなあ?」
駄菓子屋の前に突っ立っている黒服Iは、車道の向こうにある橋を眺めている。
救急車とパトカーが数台、橋の上に止まっている。
見ている内に車中へ担架が収納され、間もなくサイレンを響かせながら走りだした。
後に残ったのは、青いトラックとその運転手らしき男性、その男性に事情聴取をおこなっている警察官数名だ。
バイクや自転車が転がっていないのを見るに、歩行者を轢いてしまったらしい。
「うーん、無事でありますよーに」
走り去る救急車に向かって、咄嗟に合掌のポーズを取る。
駄菓子屋の前に突っ立っている黒服Iは、車道の向こうにある橋を眺めている。
救急車とパトカーが数台、橋の上に止まっている。
見ている内に車中へ担架が収納され、間もなくサイレンを響かせながら走りだした。
後に残ったのは、青いトラックとその運転手らしき男性、その男性に事情聴取をおこなっている警察官数名だ。
バイクや自転車が転がっていないのを見るに、歩行者を轢いてしまったらしい。
「うーん、無事でありますよーに」
走り去る救急車に向かって、咄嗟に合掌のポーズを取る。
南区の"巡廻"を終えた黒服Iは、遅い昼食兼お八つを買うべく、行きつけの駄菓子屋へと向かっていたのだが
交通事故の現場に遭遇したために、心持ち複雑な気分だ。
駄菓子屋に入ると、早速店主のお婆さんが話しかけてくる。何処か興奮しているようだ。
「アンタ、今しがた其処で交通事故があったんだよ」
「ええ、救急車が走り去るトコ見ましたよ。無事だといいですね」
「ああ、あれはアタシが呼んだのさ。ヒヒ」
この駄菓子屋は狭い。六畳程度の店内に駄菓子やら雑貨やらが所狭しと並んでいる。
黒服は棚からクリームパンを一つ取り、出入り口側の壁に備え付けられた冷蔵庫から冷えた瓶入りコーヒー牛乳を取りだす。
クリームパンとコーヒー牛乳は、この駄菓子屋で彼がよく買う組み合わせだ。
「死んだんならニュースでやるだろ、ニュースで」
「……縁起でも無い事、言わないで下さいよ」
興奮した店主にげんなりしながらも、代金を渡し駄菓子屋を後にする。
「死んだら化けて出るだろおおおおなああ、『姉っ子橋の幽霊』ってなあああ」
追ってくる婆さんの声は凄く楽しそうだ。
ますますげんなりしながらも、出入り口脇のゴミ箱に剥いだ瓶の蓋を捨てる。
あの橋――正式名称『祈りの橋』、通称『姉っ子橋』の向こう側は、辺湖市「新町」である。
言わばこの橋は、「学校町」と「新町」を結ぶ点の一つだ。
黒服のルーチンは、午前は「学校町」南区の"巡廻"を、
そしてそれが終われば辺湖市「新町」の"巡廻"及び辺湖市在住の『担当者』に会う、という事になっている。
今日も今日とて、彼はあの橋を通って「新町」へと行くのである。しかし。
「……ご飯食べてからでもいいですよね」
橋の上は警察による事情聴取のために通行止めとなっている。取り調べはそう簡単には終わらないだろう。
もしかすると、遠回りをして辺湖市に行かなければならないかもしれない。
普段は歩きながら食べる黒服だが、今日は橋の方を眺めながら食事を取る事にした。
交通事故の現場に遭遇したために、心持ち複雑な気分だ。
駄菓子屋に入ると、早速店主のお婆さんが話しかけてくる。何処か興奮しているようだ。
「アンタ、今しがた其処で交通事故があったんだよ」
「ええ、救急車が走り去るトコ見ましたよ。無事だといいですね」
「ああ、あれはアタシが呼んだのさ。ヒヒ」
この駄菓子屋は狭い。六畳程度の店内に駄菓子やら雑貨やらが所狭しと並んでいる。
黒服は棚からクリームパンを一つ取り、出入り口側の壁に備え付けられた冷蔵庫から冷えた瓶入りコーヒー牛乳を取りだす。
クリームパンとコーヒー牛乳は、この駄菓子屋で彼がよく買う組み合わせだ。
「死んだんならニュースでやるだろ、ニュースで」
「……縁起でも無い事、言わないで下さいよ」
興奮した店主にげんなりしながらも、代金を渡し駄菓子屋を後にする。
「死んだら化けて出るだろおおおおなああ、『姉っ子橋の幽霊』ってなあああ」
追ってくる婆さんの声は凄く楽しそうだ。
ますますげんなりしながらも、出入り口脇のゴミ箱に剥いだ瓶の蓋を捨てる。
あの橋――正式名称『祈りの橋』、通称『姉っ子橋』の向こう側は、辺湖市「新町」である。
言わばこの橋は、「学校町」と「新町」を結ぶ点の一つだ。
黒服のルーチンは、午前は「学校町」南区の"巡廻"を、
そしてそれが終われば辺湖市「新町」の"巡廻"及び辺湖市在住の『担当者』に会う、という事になっている。
今日も今日とて、彼はあの橋を通って「新町」へと行くのである。しかし。
「……ご飯食べてからでもいいですよね」
橋の上は警察による事情聴取のために通行止めとなっている。取り調べはそう簡単には終わらないだろう。
もしかすると、遠回りをして辺湖市に行かなければならないかもしれない。
普段は歩きながら食べる黒服だが、今日は橋の方を眺めながら食事を取る事にした。
駄菓子屋の前で、コーヒー牛乳をちびちび飲みながらクリームパンにパクついていると、携帯の着信音が鳴った。
黒服の持つこの携帯。普段は電話が掛って来る事など殆ど無い。むしろ、黒服から方々に掛ける事が多い。
尤も、重要な時に限って通話中や電波の不調等で相手に繋がらない事が多いのだが。
スーツから引っ張り出し、通話相手を確認する。――上司からだ。
「あい、もしもし。"I"です」
「インソ君、今何処に居る?」
「がっこーちょーみなみくの駄菓子屋前で、ご飯食べてます」
「てコトは、今から「新町」の"巡廻"か?」
「ええ、これから廻るんですけど。……何かありました?」
何処か含みのある上司の声色に、彼はこちらから直接問うた。
「察しがいいな。つい先程"X"から連絡があってね。
どうやら《夢の国》絡みで《イルミナティ》が上層部に挑発を仕掛けてきたらしいんだ。
今は、上層部の重役が向こう側の相手をしているらしいんだが……」
「……何でまた」
《イルミナティ》とは、辺湖に「特務分室」を置いているという『結社』の一つ、らしい。
彼らと《組織》の上層部とは何らかの不和があるらしく、
《組織》の黒服が辺湖内で全くと言っていい程に活動していないのは、こういった事情に由来する、らしい。
――こうも歯切れ悪いのは、実の所、黒服Iとその上司、
「辺境」のスタッフがこういった事実を知らされたのがつい先日の事だったからだ。
黒服の持つこの携帯。普段は電話が掛って来る事など殆ど無い。むしろ、黒服から方々に掛ける事が多い。
尤も、重要な時に限って通話中や電波の不調等で相手に繋がらない事が多いのだが。
スーツから引っ張り出し、通話相手を確認する。――上司からだ。
「あい、もしもし。"I"です」
「インソ君、今何処に居る?」
「がっこーちょーみなみくの駄菓子屋前で、ご飯食べてます」
「てコトは、今から「新町」の"巡廻"か?」
「ええ、これから廻るんですけど。……何かありました?」
何処か含みのある上司の声色に、彼はこちらから直接問うた。
「察しがいいな。つい先程"X"から連絡があってね。
どうやら《夢の国》絡みで《イルミナティ》が上層部に挑発を仕掛けてきたらしいんだ。
今は、上層部の重役が向こう側の相手をしているらしいんだが……」
「……何でまた」
《イルミナティ》とは、辺湖に「特務分室」を置いているという『結社』の一つ、らしい。
彼らと《組織》の上層部とは何らかの不和があるらしく、
《組織》の黒服が辺湖内で全くと言っていい程に活動していないのは、こういった事情に由来する、らしい。
――こうも歯切れ悪いのは、実の所、黒服Iとその上司、
「辺境」のスタッフがこういった事実を知らされたのがつい先日の事だったからだ。
「んな事あたしが知るかい。兎に角、インソ君はこの件のほとぼりが冷めるまで辺湖には入らない方がいいって話だ。
こっちに戻っといで」
「事情がよく分かりませんが、分かりました」
「《夢の国》戦の前に、こんな厄介事ふっ掛けてくる辺り、奴さんらも《組織》に圧力かけて楽しんでるんだろうさ。
さて、その《夢の国》の件で結構な数の書類仕事が舞い込んできてるよ。早いトコ片づけちまお」
「りょーかいです」
んじゃそゆことで、と通話が切られた。
「……《夢の国》かあ」
携帯をしまいながら独りごちる。
こっちに戻っといで」
「事情がよく分かりませんが、分かりました」
「《夢の国》戦の前に、こんな厄介事ふっ掛けてくる辺り、奴さんらも《組織》に圧力かけて楽しんでるんだろうさ。
さて、その《夢の国》の件で結構な数の書類仕事が舞い込んできてるよ。早いトコ片づけちまお」
「りょーかいです」
んじゃそゆことで、と通話が切られた。
「……《夢の国》かあ」
携帯をしまいながら独りごちる。
過去に一度、『担当者』やその仲間達と一緒に《夢の国》を目撃した事がある。
当時は幸いにして、《夢の国》はただ歩いているだけで犠牲者を出していた訳では無かったために
直接対峙するという事態に至らずに済んだ。
しかし、今回は違う。
近い内《夢の国》と全面的に激突する事になる。
前回のようには、いかないのだ。
当時は幸いにして、《夢の国》はただ歩いているだけで犠牲者を出していた訳では無かったために
直接対峙するという事態に至らずに済んだ。
しかし、今回は違う。
近い内《夢の国》と全面的に激突する事になる。
前回のようには、いかないのだ。
「……何としてでも次郎さん達とコンタクト取らなきゃなりませんね」
《夢の国》が暴れ出した時、「学校町」のみならず辺湖も無傷で済むはずが無い。
しかし、最悪の事態を招くような事は、絶対にあってはならないのだ。
「でも今はしっかり腹ごしらえ、と」
黒服は決意新たに、気合いを入れてクリームパンにがぶりついた。
《夢の国》が暴れ出した時、「学校町」のみならず辺湖も無傷で済むはずが無い。
しかし、最悪の事態を招くような事は、絶対にあってはならないのだ。
「でも今はしっかり腹ごしらえ、と」
黒服は決意新たに、気合いを入れてクリームパンにがぶりついた。
おわる