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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 不良教師と骨と模型-18

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
  運命が、音を立てて近づいてくる
  それは、決して逃れられぬ運命

  運命が、やかましく近づいてくる
  まるで、世界中の皿を一斉に落としたような音を立てて
  その運命は、彼の前に現れる
  その残酷な運命から彼は逃げない




                     Red Cape









 ----ガチャンっ!!と
 食器が割れた音が鳴り響いた

「っと、大丈夫ですか?」

 深夜・レストラン噂の産物
 一日の営業はそろそろ終わる時間で、後は後片付けのみ
 …その最中、厨房に鳴り響いた、少々心臓に悪い音
 それは、この店でアルバイトをしている青年が、片付けるべき食器を落として、割ってしまった音だった
 珍しい、と同僚である二宮尊徳像は思う
 この青年、店長への態度など若干の問題は持っているが、仕事に関してはほぼ完璧なのだ
 こんなミスをするなんて、珍しい

「あー、派手に割れちゃってますね。怪我とかしてないですか?」
「…………」
「…新入り君?」

 …様子が、おかしい
 彼自身、割ってしまった食器のカケラを拾おうと、しゃがみこんでそれらに手を伸ばしていたのだが
 ……その指先が、カタカタと震えていた
 指先だけじゃない
 その体全体が…何かに怯えているように、震えていた

「……にい、さん?」

 震える唇から、紡がれた言葉
 その声は、普段の彼からは想像もつかないほどに、何かに怯え、恐怖しているようだった





 ----同日・同時刻 学校町 北区 とある公園内

「………」

 北区の公園と言うものは、普段から人気がない
 まぁ、元々、北区は山に面しており、自然や田んぼが多い地域だ
 一応公園はあるものの、普段から利用者は少ない
 深夜となれば、当然だ

 だからこそ、彼はここを選んだのだ
 ここなら、誰も巻き込まずにすむ、とそう考えて

「………」

 白衣の下の懐にしまいこんでいるそれに触れる
 …うまく、いくだろうか?
 考えて、首を振る
 不安など、抱いている場合ではない
 自分は、それに立ち向かうと決めたのだから
 …自分で、終わりにすると、そう決めたのだから
 自分で全てを終わらせる為にも、不安など抱いていてはいけない
 相手が何者であろうと、それに打ち勝たなければならないのだ

「…さぁ、さっと来いよ、化け物」

 首筋に感じた感覚に、寒気を感じながら
 彼は、虚空を睨み付けた

「60年の因縁………俺が決着をつけてやる」

 ひゅう、と風が吹き抜ける
 しぃん、と静まり返った公園内に……突如、やかましい音が響き渡った

 ガランガシャンガチャンガラガラガラガラガガッチャンガシャガシャガチャガチャガチャガチャ……!!

 それは、まるで世界中の皿を、金物を、一斉に落としたような音
 耳を塞がなければ頭が割れてしまいそうな音が響く中、彼は虚空を睨みつける
 やかましい音が空間を支配し……それは、姿を現した

 二頭の漆黒の首なし馬が引く戦車
 それに乗るは、漆黒の鎧を纏った己の首を抱えた首なし騎士
 彼の前に突如現れたそれは、首を抱えているのとは逆の手に巨大な剣を持ち……ぶぅんっ、と
 それを、問答無用で、彼の首に向かって、横なぎに薙ぎ払ってきた

「っ!」

 咄嗟に、後ろに跳んで避ける
 ぱらぱらと、切っ先に掠った髪が数本、宙を舞った
 首なし騎士は、体勢を立て直す事もなく、剣を再び彼に向かって振るう

 かちゃり
 彼が懐から取り出したのは、何らかの液体が入った試験官数本
 それを、無造作に首なし騎士に向かって放り投げた
 首なし騎士は、そんな物を恐れる様子もなく、馬を操り彼に接近し

 爆音が、辺りに響き渡った

 爆風で辺りの埃が舞い上がり、視界が悪くなる
 彼が、首なし騎士の姿を確認しようと目を凝らすと……土埃を切り裂くように飛び出てきた剣
 横に飛んでそれを避ける

「…ニトログリセリン程度の爆発じゃあ、目くらましにもならんか」

 予測できていた事ではあるが、こうもあっさりと現実を突きつけられることになろうとは
 首なし騎士の表情は窺えないが、恐らくはこちらを嘲笑っている事だろう

(……攻撃のリーチが違いすぎる、か)

 首なし騎士が振るう剣は、2mはあろうかと言う巨大なものだ
 白衣の下の、それに触れる
 …攻撃の間合いが、圧倒的に違いすぎる
 何とか懐に飛び込むか、背後でも取らない限り、己に勝ち目はない

「…化け物が」

 忌々しく、首なし騎士を睨みつけた
 首なしの二頭の馬が、勝ち誇るかのように蹄を鳴らし、接近してくる
 戦車による機動力が、あまりにも厄介だ
 せめて、これだけでもどうにかなれば…
 踵を返し、隙が見付かるまで相手から距離をとろうとする
 馬が引く戦車と人間の脚力では、どう考えてもすぐに接近される
 ならば、考えろ
 どうすれば、相手の隙をつけるか…

 彼が、思考を巡らせようとした、その時
 突然、首なしの馬の片割れが、苦しげに暴れ出した

「………?」

 一方が暴れ出した事により、戦車の制御が効かなくなる
 どこからか、攻撃でも受けているかのように、首なし馬は痛みによって暴れているようだった

 目を凝らす
 馬に、何か撃ち込まれて…

 あれは………水の、弾丸?

「先生っ!!」
「-----っ!?」

 かけられた声に、彼は己の耳を疑う
 …馬鹿な
 何故、こいつがここにいる!?

 声の方向を見ると、そこには公園に設置されているトイレがあって
 その前に…教え子と、その教え子と契約している都市伝説、トイレの花子さんの姿があった

「お前たち、どうして…っ」
「先生、早くこっちに……ッ花子さん!」
「うん!」

 ごぼっ!!と
 トイレから引っ張り出されてきた、激流
 それが、彼に襲い掛かろうとしていた首なし騎士に直撃する
 激しい水の激流に、首なし騎士は押されているようだった
 彼の首を切り落とす事が、叶わないでいる

「…っお前たち、何故ここにいる!?」

 急いで教え子たちに駆け寄り、そう怒鳴る
 そうだ、何故、こんな時間にこんな場所に……よりによって、自分が戦いの場に選んだ場所に来た!?
 巻き込みたくなどなかったから、誰にも話す事なく、この日を迎えたと言うのに!?

「いいから!ほら、早く!」
「っ!」

 腕をとられ、引っ張られる
 たいした力もないはずだと言うのに、火事場の馬鹿力だとでも言うのか
 それとも、彼が油断していたせいか、あっさりと引っ張られる
 そのまま、トイレの中の個室まで引っ張り込まれて…

 再び個室から出ると、景色が一片していた
 彼が勤めている高校の……グラウンド傍に設置されているトイレから、出た場所だ

「み、逃げられたの!」
「あぁ、ありがとうな、花子さん…先生、大丈夫か?」

 花子さんの頭を撫でつつ、こちらにそう言って来た教え子
 …その教え子の頭を、彼は小さく小突いた

「った!?何すんだよ?」
「答えろ。何故、あそこに来た」

 何故だ?
 巻き込むつもりなど、なかったというのに
 何故、そちらから首を突っ込んできた?
 彼の問いかけに、教え子は憮然とした表情で答える

「…最近、あんた様子がおかしかっただろ」
「………?」
「一杯、考え込んでたの」

 花子さんが、教え子の言葉に続けてくる
 彼の様子が、このところずっとおかしかった、と
 首をさすっている事が多かった、と
 骨格標本と人体模型も、様子がおかしいと心配していた、と…

「…この間、あんた、あの公園にいたよな?何か考え込んでたみたいだったし、声はかけなかったけど………あれは、あそこを下見していたんだな?」
「……見られていたのか」

 …我ながら、馬鹿な事だ
 見られてはいけない相手に、あっさりと目撃されていたとは

「あの首なし騎士さん、誰なの?」

 花子さんが、そう言って首を傾げてきた
 答えようとした、その瞬間

 ----首筋に感じた、殺気

「伏せろっ!」
「っ!?」
「みーっ!?」

 ぶぅんっ!!と
 咄嗟に身をかがめた彼らの頭上を、巨大な鉄の塊が通り過ぎる
 何時の間にか、彼の背後に…再び、あの首なし騎士が姿を現していた

「…んなっ!?」
「み!?お、追いつかれたの!?」

 慌てた様子の教え子たち
 ……まずい
 このままでは、この2人も危ない

「お前たち、さっさと逃げろ」
「っ、何言って…」
「あの化け物の目的は俺の首だ。お前たちは関係ない」

 教え子たちを庇うように立ち、彼は首なし騎士を睨み付けた
 教え子や花子さんの攻撃によるダメージは、とっくに回復しているようだった
 そんなダメージなど最初からなかったかのように、騎士は軽々と巨大な剣を振りかざす

「ほら、とっとと逃げろ。まだそこにトイレがあるから、花子さんの能力で飛べば…」
「---っ何言ってんだっ!」

 がしり
 しっかりと腕を捕まれ、引かれる

「知り合いを見殺しにできるかよ!……花子さん!」
「う、うんっ!」
「おい、こらお前たち…!」

 振り下ろされる剣
 彼は、背後に引きずり込まれて、トイレに引っ張り込まれ…
 彼らが、その個室トイレから姿を消した、直後
 グラウンド脇に設置されたトイレは、その個室ごと真っ二つに切り裂かれた


「っ」

 どさり
 恐らく、今度は校舎内のトイレに転移したのだろう
 個室トイレから、外へとなだれ出る

『あ…っだ、大丈夫ですか!?』
『怪我ありまへんかー?』
「……お前たちまで」

 そこで待ち構えていた骨格標本と人体模型の姿に、軽く頭痛を覚えた
 こいつらまで、関わろうと言うのか
 全て、自分一人で決着をつけようとしていたというのに
 何故、どいつもこいつも、関わってくるのか

「…先生、あれは何なんだ?」

 改めて、教え子に問われた
 …答えるしか、ないのだろう
 ため息をついて…彼は、あの首なし騎士の名前を口に出す

「…あれは、デュラハンだ」
『でゅらはん、ですか?』
「デュラハン、って…ゲームにも出る、あの首なし騎士か?指指した相手を数年後に殺しに来るって言う…」
「あぁ、それだな」

 デュラハン
 様々な伝承が伝えられ、時代事にその伝承も変化していっているが…
 今日、少なくとも日本でもっとも知られているのは、首なしの馬が引く馬車、もしくは戦車にのった、己の首を傍らに抱えた鎧の騎士の姿であり…それは、家や人を指差し、その対象を数年後に殺しに来ると言う、死神的存在だろう
 あのデュラハンは、間違いなくそんな存在である
 まぁ、少々特殊な奴ではあるようだが…

『どないして、旦那がそないなもんに狙われとるんや!?』
「…訳ありでな」

 ただ、そうとだけ答える
 時間が、ない

「…いいか、よく聞け、お前等。あれの目的は俺の首だが、邪魔するようだったら、関係のないお前達にも容赦なく攻撃してくる。死にたくなかったら、俺を見捨ててとっとと逃げろ。あれは、俺が何とかする」
『で、ですが…』
「……初めから、そうするつもりだったんだ。お前たちは関わるな」

 ガラガラガラガシャシャンンガチャンガラガラガッチャン
 また、あのやかましい音が響き渡る

「あれの厄介な所は、一度狙った相手は、たとえどこにいようとも察知して追跡してくる事だ。たとえ、扉に鍵をかけていようとも、その鍵は役に立たない。たとえ、四方八方壁に囲まれた場所に居ても、すぐ傍に転移してくる……俺に逃げ場なんぞない」
「だったら、なおさら一人じゃ危ないだろ!」

 手に、花子さんの能力で作った銃を持ったまま、教え子は叫んだ
 強情にも、逃げようとしない

「…知り合いが都市伝説に殺されそうになってるのに見捨てるなんざ、俺は御免だぞ」
「み!逃げないの!絶対絶対、助けるの!!」

 教え子にくっ付き、花子さんもそう言う
 そして、人体模型も骨格標本も、譲ろうとしない

『私達は、あなたと契約したんです。護るのは当然ですよ』
『あんさんに死なれる訳には行きまへんなぁ』

 ……まったく、こいつらは
 盛大に、ため息をつく
 こちらの都合などお構いなし、と言うことか

「…そうか、わかった。じゃあ、死ぬ覚悟をしておけ。あれは手加減なんぞしてくれないからな」

 さて、ならば、まずする事は

「…花子さん、どの階でもいい、一旦引くぞ!こんな狭い場所じゃ戦えん!」
「うん!!」

 個室トイレの扉が開き、そこに皆で一斉に飛び込む
 背後で、デュラハンがトイレに侵入し、壁が派手に破壊された音が聞こえてきたが…聞かないふりをしておいた
 なぁに、体育館が派手に壊れていても何とかなったのだ
 今回も、何とかなる
 そう他人事のように考え、彼らは後者の別の階へと移動した


 そして
 今、廊下を全力で疾走している
 ガラガラガチャガチャガチャガチャガシャンガラガラガラガラガラチャシャン
 それは、やかましい音を立てながら、どこまでも彼らを追跡し続ける

「っの!!」

 教え子が、水の弾丸を撃ちだすが…トイレから離れているから、威力が落ちているのだろう
 たいしたダメージは与えられていない
 人体模型と骨格標本も、内臓やら骨やらを飛ばして応戦するが、こちらも大してダメージはない
 花子さんの水撃も、決定打にならず

 …つまりは、逃げ続けるしかない状況だ

「先生!あれ、抱えている首だけでも潰せばどうにかなるとか、そんなもんじゃないのか!?」
「そうだったら、楽なんだがな」

 だがそう簡単には行かないだろう
 そもそも、首はがっちりと懐に抱えられていて、そこだけ狙い撃ちは難しい

『せやったら、あれに狙われて死なずにすむ方法はないんでっか?』
「来た相手を返り討ちにする事だな」

 つまり、それをやろうとしているのだが
 どうにも、絶望的な状況から脱出できないだけの事だ
 少しも、事態はこちらにとって良い方向に動いてくれない

「………」

 白衣の下のそれに触れる
 いっそ、一か八か、投げつけるか?
 ……いや、駄目だ
 これをかわされたら、それこそ、デュラハンを倒す手段がなくなる
 確実に、攻撃しなければ……己が生き残れる道は、ない

「……やばくなったら、とっとと逃げていいんだからな」
「現在進行形でヤバイってかほぼアウトだよ!!……逃げる選択肢なんぞあるか!」

 よし、久々にいいツッコミだ
 まだ、そうやって突っ込みできるなら、余裕があるだろう
 問題はない
 とにかく、背後から迫ってくる首なし野郎の隙をつければいいのだが、こちらの一斉攻撃にも、一切怯んでくれない
 隙なんぞ、作ってくれないのだ

 体育館に転がり込む
 静まり返った体育館
 授業か何かで使われて、そのままになっていたのだろうか
 壁に備え付けの巨大な鏡が露になったままだ

「…追い込まれたか」

 鏡を背に、迫ってくるそれを睨みつける
 ばぎゃんっ!!と、デュラハンは体育館入り口を派手に破壊して、体育館に入り込んできた
 …こいつは、入り口が狭かったら戦車から降りて単体でやってくるくらいの気遣いはないのか
 とまれ、追い込まれた事に変わりはない
 せめて、自分がさっさと首を切られれば教え子たちは助かるが、自分も死ぬつもりはない

 ……弟を一人残して、死ねる訳もない
 ………一か八か、やるしかないか?
 そう考え、白衣の下に隠していたそれに手をかけた
 その直後

「っ!?」
「うわっ!?」

 ぐい!!と
 背後に、強烈な力で引きずり込まれる
 花子さんも、人体模型と骨格標本も、同じように背後に引っ張られて

 彼らが鏡に吸い込まれた直後、デュラハンの剣は振り下ろされ…体育館の床に、ざっくりと食い込んだのだった


「なぁにやってんのさ、馬鹿兄貴!」
「っちょ、どうしてお前がここにいるんだ!?」

 ………
 何故だ
 何故、どんどん関わる人数が増えている
 軽く眩暈を感じつつ、彼は立ち上がった
 真っ白で、あちらこちらに鏡が浮かぶ空間
 …教え子の妹が契約している鏡婆の異空間か

「大丈夫だったかい?」

 ほっほっほ、とその鏡婆が笑っている
 体育館の巨大な姿見から、全員を一度に引きずり込んだのか
 引きずりこむ能力に関しては、やはりたいしたものだ

「…あ、デュラハンさん、いっちゃうよ」

 花子さんが、鏡の一つを指差す
 そこに映るのは、辺りを見回すデュラハンの姿
 ガラガラと、戦車ごとその場を離れていっている

「……流石に、異空間となると察知に時間がかかるのか」

 だが、それでも時間の問題だ
 その内ここも察知されて、あいつは転移してくるだろう
 それまでに、何とかデュラハンの隙を突く方法を考えなければ
 鏡から飛び出して攻撃……いや、鏡から出た瞬間、すぐに察知されて対応される
 確実な手段ではない
 もっと、もっと、確実な手段を…
 教え子が、妹と何やら言い合っているのを無視しつつ彼が考え込んでいると

『……あぁああ!?』
『っだ、旦那!!』
「どうし………っ!?」

 己の契約している都市伝説二体の悲鳴に、彼は2人が指差す鏡に視線をやって
 …己の目を、疑った

「な………っ何故だ!?」

 鏡に、一瞬映った影
 それは、誰よりもこの件に巻き込みたくなかった、双子の弟の姿だった



 人気のない校舎内を、青年は一人走る
 兄は、まだ家に帰っていなかった
 予想できる事は、兄が勤めている学校に、人に害なす都市伝説が現れて、それと戦っている事だったが

「……兄さん」

 嫌な予感がした
 何か、そう言う事件があった時は、兄はいつだって自分に連絡してくれた
 帰りは遅くなるが問題ない、と
 …今日に限って、その連絡はなかった

「………」

 首筋が寒くて、さする
 わからない、わからない、けれど…兄が、とんでもない事に巻き込まれているような気がして
 恐ろしくて恐ろしくて、溜まらない
 何か、一つでも間違ったら、兄がこの世から居なくなってしまうような
 そんな恐怖が、青年に襲い掛かる

 嫌だ
 それだけは、絶対に、絶対に、嫌だ
 兄を失いたくなどない
 この世で唯一の肉親、たった一人の家族
 それを失って、独りぼっちになるのは嫌だ

 一度、兄は自分から離れて、一人で生活をはじめた事があった
 その間、自分はずっと一人で………気が狂いそうだった
 生まれてから、ずっとずっと、二人で一緒だった
 双子の兄と、片時も離れた事はなかったから
 離れていたのは、短い間ではあったけれど
 その短い時間が、ただただ、苦痛でならなかった

 あの時間が、永遠に訪れる、など
 考えたくも無かった

「…それにしても…寒いな…」

 さっきから、ずっと首筋が寒い
 いったい、どうしたんだろう
 どうして、首筋ばかり……

「……え?」

 かすかに、耳に飛び込んできた音
 ガラガラガシャガシャ、やかましい音

「……何……?」

 思わず、立ち止まる
 自分の前方に広がる廊下をじっと見つめる
 ガラガラガラガラガラガチャガチャガシャンガチャガラガラガチャン
 その音は、青年の前方から響いてきていて…

「-----っ!?」

 首なしの、二頭の馬が
 それが引く戦車に乗った、首を抱えた騎士の姿
 それは、巨大な剣を振り上げてきている
 咄嗟に、護身用に持ってきていたコーラのペットボトルの蓋をあける
 勢いよく噴出したコーラは、首なし騎士に容赦なく襲い掛かった

 首なしの馬が、主を庇うように後ろ足で立ち上がる
 じゅうっ!!とコーラの直撃を受けて、それは激しく暴れ出した
 青年は容赦なくコーラを放ち、二頭の首なし馬を溶かしていく

「なんで…どうして、デュラハンが日本の、それもこんな場所……に……」

 …デュラハン?
 指差した相手に「憑」き、どこまでも追いかけて殺す存在
 殺し方は様々あるようだが、一番伝えられているのは…首を、切り落とす事…

「…まさ、か」

 ……がちゃん!!
 馬が溶かされ、使い物にならなくなった戦車から、デュラハンは飛び降りた
 剣を手に、ゆっくりと青年に近づいてくる

「まさか、お前……っ」

 目の前にいる存在は、今日、始めて会った都市伝説のはずだ
 しかし…何故だろう
 青年は、確信していた

「……あぁ、そうだったんだ…お前だったんだね」

 ごぽり
 ペットボトルから、コーラが溢れ出す

「お前が!!!僕等の父さんと母さんを、殺したんだなっ!!!」

 ごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽっ
 溢れ出すコーラは、容赦なく首なし騎士に襲い掛かる
 あっと言うまにコーラに飲み込まれた相手を、青年は厳しく睨みつけた

 首を切り落とされて死んでいた、両親の死体
 大切な家族を殺した、憎むべき相手
 ずっとずっと探していた存在が、目の前に現れたのだと、青年は確信していた
 それは直感的なものであったが、間違いない、と青年は確信していたのだ

 ……事実
 間違いなく…このデュラハンは、この青年の両親を殺した張本人であった
 よって、青年が恨みをぶつけるのは当然の事だろう

 ただ一つ、青年にとって不運だったのは
 相手が悪かったという事
 ただ、それだけだ

「……っな!?」

 ばしゃり!!
 デュラハンは、溶かされる事なく、コーラから脱出してきた
 その体が、うっすらと透けている

「霊体化できるのかっ!?」

 がしゃがしゃと、その鈍重そうな見た目に反したスピードで、デュラハンは青年に接近する
 …霊体化した姿のまま、こちらを切り裂くのは不可能のはず
 だったら、こちらに攻撃しようと、実体化した瞬間に…!

 ごぽり
 コーラで目の前に壁を作る
 それで、青年はデュラハンの攻撃を防ごうとした
 しかし

「-----っ!?」

 ざくり
 右肩に、剣が突き刺さる

「う、ぁ…………!?」

 だんっ!!と
 そのまま、床に縫い付けられた
 その拍子に、持っていたコーラのペットボトルは青年の手から離れる
 …ずぷりっ
 剣が抜かれ、血が溢れ出る
 痛みによって集中が途絶え、コーラはその攻撃性を失った

 デュラハンは、無慈悲に青年を見下ろす
 先ほど、青年の体から抜いた剣
 切っ先から、青年の血がぽたり、落ちる

 無慈悲に剣が振り上げられる
 攻撃しようと、意識を集中しようとするが……痛みで、それは叶わない
 剣を振り上げるデュラハンの姿に…幼い頃、恐怖した映画に登場した首なし騎士を思い出す

 あの日、泣いている自分を兄は慰めてくれた
 首なし騎士に恐怖する必要などないのだと、そんな者、自分が追い払ってやると、そう言ってくれた
 だから…あの時、自分は首なし騎士に対する恐怖など、捨てたはずだった
 しかし…その恐怖が、蘇ろうとしている

「………………て」

 …駄目だ
 その言葉を、口にしてはいけない
 自分は、兄を護らなければならないのだ
 兄に護られる存在ではいけないのだ
 泣いてばかりで、兄に護られてばかりだった、あの頃の自分ではないのだから
 だから、この言葉を口にしてはいけない

「…………け、て」

 だと、言うのに
 デュラハンに、殺されようとしている、今
 幼い頃の、あの時感じた恐怖が蘇って

 …青年は、ほぼ無意識に、叫んだ

「-----お兄ちゃん、助けて!!!」


 びくりっ
 デュラハンの体が…大きく、震えた

「…………え」

 がしゃんっ!!と
 大きな音をたてて、剣が床に落ちる
 その巨体を震わせて…デュラハンが、苦しんでいる
 その背後に…見えた、影

「……兄さん?」
「…この、首なし野郎が…っ」

 兄が……デュラハンの背中に、何かを突き立てているのだと、青年はそう理解した
 そして、それは…デュラハンに、致命的なダメージを与えている

「俺の弟に……手ぇ出してんじゃねぇ……!!」

 兄が、何をさらに、デュラハンの背中に押し込んでいっている
 がちゃんっ!!と、デュラハンは抱えていた己の首をも、落としてしまった
 その全身から、力が抜けていっている

「…親父たちはな、お前に狙われている事を知ってたんだよ。自分らの親も、首を切られて死んでるからな」

 苦しむデュラハンに、兄は静かに語りかけている
 幾年もの恨みを込めるように、憎悪の篭った声で

「だから、親父たちは、お前の弱点を探していた。伝承を調べて、調べ尽くして…ようやく、一つ、お前の弱点を見つけた」

 …デュラハンの鎧が、ぼろぼろと崩れ出す
 その存在が、この世から消えていこうとしている

「だが、弱点がわかっても、それはすぐに用意できるもんじゃなかった……用意するのに時間がかかっちまって。家にそれが届いたのは……親父たちが、死んだ後だったんだ」

 デュラハンの鎧は、ぼろぼろと崩れて……とうとう、その姿が、消滅した
 それによって、兄がデュラハンの背中につきたてていたそれが……姿を現す

「……お前の弱点は、金だ」

 兄が持っていた、それが窓から差し込む月明かりに照らされて輝く
 それは、純金製の、小さなナイフだった
 そのちっぽけなナイフが、脅威を消し去ったのだ

 はたして、その伝承を知っている者が、どれだけいるだろうか?
 デュラハンの死の予告から逃れようと、門に鍵をかけても無駄である
 デュラハンを前にして、鍵は自然と開いてしまうから
 ………しかし
 黄金で作られた鍵は、開く事はなかった
 デュラハンは、黄金に触れる事が出来ない……黄金、金こそが、デュラハンの弱点だったのだ

「大丈夫か!?」
「ぁ……」

 兄が、青年に駆け寄ってくる
 よろり、貫かれた右肩を抑えながら、青年は起き上がる

「だい、じょうぶだよ……兄さん、怪我はない?」
「……見ればわかるだろうが」

 まったく、と兄はため息をついて
 …そっと、青年の体を抱き寄せる

「兄さん…?」
「まったく、お前は……いつまで立っても、世話のかかる」

 小さく、青年にかけられる声は震えていた

「…お前を巻き込みたくなかったから、報せなかったってのに…結局、首を突っ込んで」
「……にい、さん」
「…間に合って、良かった」

 …あぁ
 自分は、また、兄に迷惑をかけてしまったのか
 どうして、いつも兄に迷惑をかけてばかりなのだろう
 兄を救いたくて、助けたくて、護りたくて…都市伝説と、契約したのに
 結局、自分は兄に護られてばかりなのか
 青年は、ただただ、自分が情けなくて
 こちらに駆け寄ってくる誰かの足音など気にする余裕もなく…ただ静かに涙を流したのだった



「……血、ですか?」
「あぁ」

 デュラハンとの戦いから、一夜明けて
 校内のあちらこちらが破壊されていた為に若干大騒ぎになったりもしたが、授業はごく普通に行われた
 …さすがは学校町の学校、とでも言うべきだろうか

「普通、デュラハンは単体に憑くもんなんだがな…あれは、俺の家系の血に憑いてたんだよ」
「…どーいう事?」

 教え子の膝に座った花子さんが、首をかしげる

「…バンシーを知っているか?」
「泣き女ですよね?デュラハンとセットで出ることもあるって言う」
「あぁ…そのバンシーは、ケルトの古い家系に憑いている場合がある。その家に死人が出そうになると、泣いて伝えるってな」
「……まさか、ですが」
「そのまさかだ」

 混ざったのだ、伝承が
 セットで現れる事も多い、デュラハンとバンシーの伝承
 その二つが、混ざってしまった
 指差した相手を殺すデュラハン
 そのデュラハンは、はじめに指差した相手だけではなく……その家系に「憑」いたのだ

 はじめに指差され、殺されたのは、彼の祖父だった
 傍に居た祖母も殺された
 次に狙われたのは、彼の母親
 祖父母の血を引いた、母親だった
 彼の両親はデュラハンに自分たちが狙われているのだと気づいて、弱点を調べ上げ…純金のナイフを用意した
 しかし、弱点を知ったのが遅すぎたのだ
 それを発注し、家に届いたのは…二人の葬儀が、終わった後だった

 家に届いたそれが、一体何だったのか
 彼は、はじめ理解できなかった
 何故、両親がそんな物を注文していたのか、全くわからなかった
 両親は、子供である彼らに何も伝える事がないまま、死んでしまったから

 都市伝説と契約して、彼は気付いた
 自分たちの両親を殺したのは、都市伝説であると
 調べて、たどり着いたのがデュラハンだった
 両親が残した純金のナイフ
 金が弱点で、尚且つ、首を切り落としてくる都市伝説
 たどり着いたのは、デュラハンだけだった

 だから、準備を進めてきた
 いつからか、背後に感じるようになったデュラハンの気配
 弟は、それを感じていないようだった
 血に憑いたデュラハンは、順番にターゲットを殺すつもりだったのだろう
 まずは、双子の兄である自分が狙われたのだ
 それを好都合である、と彼は考えた
 弟は、何も知らなくていい
 両親が死んで、今まで以上に己から離れることを嫌がるようになった弟
 両親が死んだ日、ずっと泣き続けていた弟
 …幼い日に、首なし騎士の恐怖に、泣き続けていた弟
 その弟に、真実を伝えたくなかった

 ……だと、言うのに
 結局、自分は巻き込んでしまったのだ
 弟だけではなく、全く関係なかったはずの、教え子たちまで

「…悪かったな、厄介な事に巻き込んで」
「何言ってんですか」

 じと、と教え子に睨まれる
 彼を睨んだまま、教え子は続けてきた

「そもそも、この高校に入学してすぐ。「1,2,3のピエロ」の件に巻き込まれた時点で、既に厄介ごとに巻き込まれまくってる」

 ……まぁ、そうとも言うが

「だから、これくらい何ともないです………先生が無事で良かった」
「そうなの。助かって良かったの!」

 にぱ、と教え子の膝の上の花子さんが笑っている
 …まったく
 この、お人好し共は

『でも、これからは、あぁいう危険なことがあったら、ちゃんと伝えてくださいよ?』
『せやでー!やっぱ、あぁ言う時は協力しあうのが一番やからな!』
「………」

 っじゅ

『うわっちゃぁ!!??』
『あぁっ!?片目にタバコをっ!?』
「言っている事は真っ当だが、踊りながら言われるとウザイ」

 おぉおおおお!!!と痛みにうめく人体模型
 その様子に、花子さんはきゃっきゃっと笑い、教え子はため息をついている

「…あ、そうだ。先生、弟さんの怪我は?」
「治った」
「早っ!?」

 …そりゃ、驚くだろう
 こっちだって、驚いている

「知り合いからもらっただか言う妙な薬を塗って、すぐに治りやがった。今日も問題なくバイトに行ってる」
「……知り合い?」
「よくは知らんがな」

 タバコを咥え直し、彼は呟いた
 …とまれ
 祖父の代から続いていた因縁は、断ち切られたのだ
 もう背後に、首筋に気配は感じない
 もう……自分たちは、誰にも命を狙われてなどいないのだ
 それを実感し……彼は、小さく
 両親が死んで以来、初めて…心から、笑ったのだった












  もう彼の背後には誰も居ない
  彼らを脅かす者は何もない


  ---- 彼らの未来に、幸あれ ----




                         Red Cape





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