ドクター 12 「ドクターとメアリー出会い編」
ベッドで鼾をかいて寝ている中年男性
その傍らに寄り添っていた女性は、男を目覚めさせないようにそっと身を起こした
ファッションモデルと言っても通用するような美麗なプロポーションの身体には、あちこちに情事の跡が残されていた
女はシャワールームに入ると、その痕跡を消すように丁寧に身を清めていく
鏡に映る自らの身体を見るその目は、蔑みと嘲りの色がありありと浮かんでいた
そして、シャワーから出た彼女は身支度を整えると、鏡に向かい化粧道具の入ったポーチから口紅を取り出し
その口紅で流麗な筆記体でメッセージを書き上げる
その傍らに寄り添っていた女性は、男を目覚めさせないようにそっと身を起こした
ファッションモデルと言っても通用するような美麗なプロポーションの身体には、あちこちに情事の跡が残されていた
女はシャワールームに入ると、その痕跡を消すように丁寧に身を清めていく
鏡に映る自らの身体を見るその目は、蔑みと嘲りの色がありありと浮かんでいた
そして、シャワーから出た彼女は身支度を整えると、鏡に向かい化粧道具の入ったポーチから口紅を取り出し
その口紅で流麗な筆記体でメッセージを書き上げる
『エイズの世界へようこそ!』
その文字を書き上げた瞬間
「お、うごっ!? が、はっ!」
ベッドに眠っていた男が、突然苦悶の声を上げる
声にならない音と共に血反吐を撒き散らしのた打ち回る男を尻目に、女――『エイズ・メアリー』は部屋を後にした
「お、うごっ!? が、はっ!」
ベッドに眠っていた男が、突然苦悶の声を上げる
声にならない音と共に血反吐を撒き散らしのた打ち回る男を尻目に、女――『エイズ・メアリー』は部屋を後にした
*
「ターゲットは仕留めたわ」
『そうか。では次のターゲットだ』
携帯電話の向こうにいるのは、何処にでもいる典型的な『メン・イン・ブラック』の一人
自我というものもろくに存在せず、ただ上から決められた事を忠実に守り言葉だけを伝える存在だ
こんな連中にいいように使われるのは真っ平だったが、奴らは本当に『何処にでもいる』のだ
自分は身体を媒介にして強力な病を運び交わった対象を※す以外は、ただの人間と大差ない
超人的な身体能も無く、人と接触するタイプが故に霊的な隠密能力もなく、人間でないが故に戸籍や人権も無い
処分されないためにもただ飼い犬として生き、飼い主が不要とした人間を殺すためだけの日々
「そう……これでもう何人目かしら」
『ターゲットの情報はメールで送る。確認したらすぐ破棄するように』
相槌すら打たない相手に、メアリーは盛大に溜息を吐いて天を仰ぐ
「了解したわ」
話すに値しない相手に時間を浪費しても仕方ない
それだけを告げて電話を切ると、すぐにメールの着信を知らせるメロディが鳴った
ホテルの名前と住所、そしてターゲットの顔写真だけという単純極まりない情報だが、彼女にはそれだけで充分だった
「女……まあ私に回ってくるわけだし、女好きのレズビアンといったところなんでしょうけど」
片手を上げてタクシーを止めると、その住所とホテルの名前を運転手に告げ
一件しか入ってないメールボックスの中身をすぐに空にしてしまった
『そうか。では次のターゲットだ』
携帯電話の向こうにいるのは、何処にでもいる典型的な『メン・イン・ブラック』の一人
自我というものもろくに存在せず、ただ上から決められた事を忠実に守り言葉だけを伝える存在だ
こんな連中にいいように使われるのは真っ平だったが、奴らは本当に『何処にでもいる』のだ
自分は身体を媒介にして強力な病を運び交わった対象を※す以外は、ただの人間と大差ない
超人的な身体能も無く、人と接触するタイプが故に霊的な隠密能力もなく、人間でないが故に戸籍や人権も無い
処分されないためにもただ飼い犬として生き、飼い主が不要とした人間を殺すためだけの日々
「そう……これでもう何人目かしら」
『ターゲットの情報はメールで送る。確認したらすぐ破棄するように』
相槌すら打たない相手に、メアリーは盛大に溜息を吐いて天を仰ぐ
「了解したわ」
話すに値しない相手に時間を浪費しても仕方ない
それだけを告げて電話を切ると、すぐにメールの着信を知らせるメロディが鳴った
ホテルの名前と住所、そしてターゲットの顔写真だけという単純極まりない情報だが、彼女にはそれだけで充分だった
「女……まあ私に回ってくるわけだし、女好きのレズビアンといったところなんでしょうけど」
片手を上げてタクシーを止めると、その住所とホテルの名前を運転手に告げ
一件しか入ってないメールボックスの中身をすぐに空にしてしまった
*
「さて、リトルグレイの一件だが。連中はある機関と交流を持っていてな。チンピラをぶちのめしたら超巨大マフィアの下っ端だったでござるといった感じなわけだ」
「どう考えてもその組織ってアメリカ絡みだと思うんですが、その敵の懐に飛び込むような真似をしなきゃいけないんですか」
南米のとあるホテルの一室
欧州から飛行機を乗り継ぎこの地を訪れたドクターとバイト青年
「南米には私が所属する『第三帝国』の支部が一つあってな。話をつけてもらうにはここが一番というわけだ」
「電話とかで伝えちゃダメなんですか」
「ジャングルの奥地のなんとかという遺跡に基地を作っていてね。携帯電話でなく連絡人を通して無線でないと繋がらんのだよ」
「それが彼女か」
その言葉に、ドイツの軍服を着た一人の少女がびしりと敬礼をする
「はっ! 南米支部との連絡役、都市伝説『エニグマ暗号機』の契約者であります!」
「それもう解読されたろ」
あっさりとしたバイト青年のツッコミに、軍服少女は小さな胸を逸らしてふふんと威張る
「だからこそであります! 解読不可能の暗号機などまさに都市伝説であり、そのイメージを有するに値する暗号機! 故に小官の暗号は同じ能力を持つ妹のみが解読可能というわけであります!」
「どう考えてもその組織ってアメリカ絡みだと思うんですが、その敵の懐に飛び込むような真似をしなきゃいけないんですか」
南米のとあるホテルの一室
欧州から飛行機を乗り継ぎこの地を訪れたドクターとバイト青年
「南米には私が所属する『第三帝国』の支部が一つあってな。話をつけてもらうにはここが一番というわけだ」
「電話とかで伝えちゃダメなんですか」
「ジャングルの奥地のなんとかという遺跡に基地を作っていてね。携帯電話でなく連絡人を通して無線でないと繋がらんのだよ」
「それが彼女か」
その言葉に、ドイツの軍服を着た一人の少女がびしりと敬礼をする
「はっ! 南米支部との連絡役、都市伝説『エニグマ暗号機』の契約者であります!」
「それもう解読されたろ」
あっさりとしたバイト青年のツッコミに、軍服少女は小さな胸を逸らしてふふんと威張る
「だからこそであります! 解読不可能の暗号機などまさに都市伝説であり、そのイメージを有するに値する暗号機! 故に小官の暗号は同じ能力を持つ妹のみが解読可能というわけであります!」
*
「詭弁だなぁ……つーか別に暗号でなくても無線連絡ぐらいできないんですか。というか彼女に電話すれば良かったんじゃ」
「可能ではあるが、向こうに傍受されると手札を晒す事になる」
「というわけで小官にお任せあれ! 契約により『エニグマ暗号機』は無線の役目も果たすのであります! 傍受は不可能でありますよ!」
そう言うと軍服少女は目を閉じ両手の人差し指をこめかみに当て、うーんうーんと唸り出す
「……ドクター、大丈夫なんですかこの子?」
「まあ能力使用時の見た目は色々可哀想だが実に優秀な子だぞ」
ドクターはそれまで座っていたベッドから立ち上がると、ドアへと向かって歩き出す
「何処へ行くんですか?」
「散歩だよ、散歩。総統閣下に話を通して事が決まるまでは多少時間が掛かるだろうしな。君はその子を頼む」
「頼むって……何で俺が」
「君はボクに雇われた身だろう? 電話番ならぬ無線番ぐらいはこなしたまえ」
言葉に詰まるバイト青年を置いて、ドクターは悠々と部屋から出て行った
「可能ではあるが、向こうに傍受されると手札を晒す事になる」
「というわけで小官にお任せあれ! 契約により『エニグマ暗号機』は無線の役目も果たすのであります! 傍受は不可能でありますよ!」
そう言うと軍服少女は目を閉じ両手の人差し指をこめかみに当て、うーんうーんと唸り出す
「……ドクター、大丈夫なんですかこの子?」
「まあ能力使用時の見た目は色々可哀想だが実に優秀な子だぞ」
ドクターはそれまで座っていたベッドから立ち上がると、ドアへと向かって歩き出す
「何処へ行くんですか?」
「散歩だよ、散歩。総統閣下に話を通して事が決まるまでは多少時間が掛かるだろうしな。君はその子を頼む」
「頼むって……何で俺が」
「君はボクに雇われた身だろう? 電話番ならぬ無線番ぐらいはこなしたまえ」
言葉に詰まるバイト青年を置いて、ドクターは悠々と部屋から出て行った
*
メアリーはターゲットが宿泊しているというホテルの手前でタクシーを降り、目的地まで歩きながらどう接触を図ったものかと思案する
自分に回ってくる仕事のターゲットは基本的にろくでもない女好きばかりで、知り合ったその日のうちにベッドに連れ込むような輩ばかりだ
「ホテルのレストランかバーか……接触を図れるポイントを確認しなきゃ。とりあえずはラウンジで様子を見るのが妥当かしらね」
ホテルの入り口が見えたところで、突然背後で車のクラクションが鳴らされる
何があったのかとちらりと視線を向けると、そこにはなにやら頭の悪そうなアピールをしているチンピラ数人を搭載した珍走車が停まっていた
汚いスラングまみれの言葉を脳内で翻訳にかける気にもなれない
無視してホテルに入ってしまえば、あの風体では追っては来れないだろうと考え足を早める
が、それに気付いたチンピラの一人が、車を降りてメアリーの肩を掴んできた
本人は愛想笑いを浮かべているのだろうが、例えた対象に失礼過ぎて例えようが無い顔だ
手を振り払ってホテルへ駆け込もうとするが、それよりも早く腕を掴まれてしまう
普段ならわざと誘いに乗って皆*しにしているところだが、今は忌々しいMIBに与えられた任務中で、余計な時間を食っているわけにはいかない
護身用にとポーチに忍ばせていた小型の拳銃に手を伸ばしかけた、その時
「待ちたまえ、彼女は嫌がっているようだが?」
ホテルの入り口から、飄々とした足取りでこちらに向かってくる白衣の女、ドクター
その顔は、間違いなくメアリーの任務の対象であり
――何、こいつ
小心者で自己中心的、強気にへつらい弱きを詰るといったタイプの多いメアリーの任務対象が、こういった状況で接触してくるのは珍しい事だった
余りにも自信満々な態度に気圧されたチンピラだったが、ドクターの顔と身体を嘗め回すように見ていた一人がニヤニヤと笑いながら近付――こうとして、ブレーキ音と共に宙を舞った
残るチンピラが驚いてそちらを見るとバンパーをへこませたロールス・ロイスが、まるで獣が喉を鳴らして威嚇するかのように静かにエンジン音を鳴らして停車していた
路上にボロ雑巾のようになって転がる仲間を慌てて車に積んでアクセル全開で逃げ出すチンピラ達
それ以上の速度で追いかけるロールス・ロイスが視界からあっという間に消えていく
「大丈夫だったかね?」
突然の乱入車に呆気に取られていたメアリーは、ドクターの声で我に返る
「あ、その、あ、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるメアリーに、ドクターは微笑を浮かべ歩み寄る
「夜道の一人歩きは危険だろう、目的地があるならタクシーを使うといい。宿を取るなら丁度そこにホテルがある」
そう言ってドクターは、ポケットから紙幣を取り出すとメアリーの手に握らせる
ああ、助けて恩を売って更に金で――メアリーはそう考え、都合良く身体を預けるチャンスが出来たと内心ほくそえんだのだが
「可愛い娘のいる飲み屋でも探そうと思っていたが、都合よく貢げる可愛い娘に出会えたものだ。安全のために有効活用したまえ」
そう言って片手を上げ、さっさと踵を返しホテルに戻ろうとするドクター
「え、これ、ええ?」
戸惑うメアリーに、ドクターは首を傾げる
「ん、足りないかね?」
「い、いえ! というかお金を受け取る理由が」
「君の安全が確保される。それが理由さ」
何なんだろうこの女は
ただの偽善者なのか、ただのバカなのか、それとも理解し難い何かなのか
メアリーは理解ができずにただ戸惑うばかりだったが、どうにかターゲットである彼女に接触し関係を持たなければならない
「あの、行きずりでお金だけ貰うのも……せめてご一緒にお食事でもして、親しい間柄になりません?」
我ながら強引かつ捻りのない誘いだとは思ったのだが
「そうかい? それではそこのホテルのレストランはどうかな」
実に嬉しそうにあっさりと誘いに乗るドクター
メアリーは内心頭を抱えつつ、もう酒でも飲ませて無理矢理事に及んでしまおうと考えていた
自分に回ってくる仕事のターゲットは基本的にろくでもない女好きばかりで、知り合ったその日のうちにベッドに連れ込むような輩ばかりだ
「ホテルのレストランかバーか……接触を図れるポイントを確認しなきゃ。とりあえずはラウンジで様子を見るのが妥当かしらね」
ホテルの入り口が見えたところで、突然背後で車のクラクションが鳴らされる
何があったのかとちらりと視線を向けると、そこにはなにやら頭の悪そうなアピールをしているチンピラ数人を搭載した珍走車が停まっていた
汚いスラングまみれの言葉を脳内で翻訳にかける気にもなれない
無視してホテルに入ってしまえば、あの風体では追っては来れないだろうと考え足を早める
が、それに気付いたチンピラの一人が、車を降りてメアリーの肩を掴んできた
本人は愛想笑いを浮かべているのだろうが、例えた対象に失礼過ぎて例えようが無い顔だ
手を振り払ってホテルへ駆け込もうとするが、それよりも早く腕を掴まれてしまう
普段ならわざと誘いに乗って皆*しにしているところだが、今は忌々しいMIBに与えられた任務中で、余計な時間を食っているわけにはいかない
護身用にとポーチに忍ばせていた小型の拳銃に手を伸ばしかけた、その時
「待ちたまえ、彼女は嫌がっているようだが?」
ホテルの入り口から、飄々とした足取りでこちらに向かってくる白衣の女、ドクター
その顔は、間違いなくメアリーの任務の対象であり
――何、こいつ
小心者で自己中心的、強気にへつらい弱きを詰るといったタイプの多いメアリーの任務対象が、こういった状況で接触してくるのは珍しい事だった
余りにも自信満々な態度に気圧されたチンピラだったが、ドクターの顔と身体を嘗め回すように見ていた一人がニヤニヤと笑いながら近付――こうとして、ブレーキ音と共に宙を舞った
残るチンピラが驚いてそちらを見るとバンパーをへこませたロールス・ロイスが、まるで獣が喉を鳴らして威嚇するかのように静かにエンジン音を鳴らして停車していた
路上にボロ雑巾のようになって転がる仲間を慌てて車に積んでアクセル全開で逃げ出すチンピラ達
それ以上の速度で追いかけるロールス・ロイスが視界からあっという間に消えていく
「大丈夫だったかね?」
突然の乱入車に呆気に取られていたメアリーは、ドクターの声で我に返る
「あ、その、あ、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げるメアリーに、ドクターは微笑を浮かべ歩み寄る
「夜道の一人歩きは危険だろう、目的地があるならタクシーを使うといい。宿を取るなら丁度そこにホテルがある」
そう言ってドクターは、ポケットから紙幣を取り出すとメアリーの手に握らせる
ああ、助けて恩を売って更に金で――メアリーはそう考え、都合良く身体を預けるチャンスが出来たと内心ほくそえんだのだが
「可愛い娘のいる飲み屋でも探そうと思っていたが、都合よく貢げる可愛い娘に出会えたものだ。安全のために有効活用したまえ」
そう言って片手を上げ、さっさと踵を返しホテルに戻ろうとするドクター
「え、これ、ええ?」
戸惑うメアリーに、ドクターは首を傾げる
「ん、足りないかね?」
「い、いえ! というかお金を受け取る理由が」
「君の安全が確保される。それが理由さ」
何なんだろうこの女は
ただの偽善者なのか、ただのバカなのか、それとも理解し難い何かなのか
メアリーは理解ができずにただ戸惑うばかりだったが、どうにかターゲットである彼女に接触し関係を持たなければならない
「あの、行きずりでお金だけ貰うのも……せめてご一緒にお食事でもして、親しい間柄になりません?」
我ながら強引かつ捻りのない誘いだとは思ったのだが
「そうかい? それではそこのホテルのレストランはどうかな」
実に嬉しそうにあっさりと誘いに乗るドクター
メアリーは内心頭を抱えつつ、もう酒でも飲ませて無理矢理事に及んでしまおうと考えていた
*
「う゛~……」
赤いのか青いのかわからない顔色でベッドに倒れ込むメアリー
「大丈夫かね? 強くないのであれば無理をしてボクに付き合わなくてもよかったのだが」
――何がだ、あれだけ呑んで顔色すら変えないザルめ
ワインだけで何本開け、その摂取したアルコールと水分はどこへ消えたんだ
内心毒づきながら、回る世界と戦い続ける
「この部屋の宿泊費は支払ってある。気分が良くなるまで休んでいるといい」
「……ご迷惑をお掛けします」
「なに、女性に優しくするのはボクの趣味だ」
微笑みを浮かべそっと手を握ってくるドクターに、メアリーは内心ほくそ笑む
最悪、キスの一つ――粘膜接触ができれば、感染発動は可能なのだから
「女同士でこんな事を言うのも……けど、安心できると思うんです……キス……してもらえませんか?」
「ああ、安心してゆっくり休むといい。ボクがついていてあげるから」
そう言って優しい口付けが、頬に
「え、その……」
女好きであるというターゲットの性癖を知っていたせいで、思わず声が出る
「今はまだ友人としての親愛のキスだよ。チンピラから助けた事も旅費や宿泊費を助けた事も過ぎた事になってから改めて君を口説かせてもらうよ。その時にボクを受け入れてくれるなら……ね?」
唇に人差し指を当てられ、それからそっと頭を撫でられる
「ボクは老若も人間かどうかも問わずに食ってしまうから、受け入れるなら覚悟しておきたまえ」
「……判ってたの?」
「多分、刺客か何かだという事も含めてね。そしてボクに刺客が来るとしたら、間違いなく都市伝説絡みだ」
ドクターはメアリーの頭を撫でながら、諭すように語る
「流石に女相手の仕事はあまり無かったんだろう? あちこち不自然なところがあったし、何より『同類』のにおいがしなかった」
「同類って……」
「ん? 端的に言うなら同性愛、レズビアン、百合、タチとネコ。同性相手は流石に不慣れだったんだろう?」
あっけらかんと言い放ち、ドクターは備え付けの電話に手を伸ばす
「多分、そこも含めて君を使ったのだろう。さて……ああボクだ。一番上のフロア……そうそう、バーラウンジのすぐ下、エレベーターからすぐの部屋だ。何、来ればすぐ判るだろう」
諦めの混じった溜息を吐くメアリー
「仲間を呼んで……私を始末するのね」
「馬鹿な! そんな勿体無い事をするわけがない! ……ああいやこっちの話だ。それでは急ぎで頼むよ、何せ」
オートロックのはずの部屋のドアが、音も無くゆっくりと開く
「もう敵が来ているんだ。いやはや、バレていたなら君の言う通り普通に電話連絡でも良かったな」
ベッドを取り囲むように立つ四人の黒服
おおよそ特徴というものを感じさせない中で、一人だけ髪型の違う黒服が二人の前に立つ
「……この様で言うのも難だけど、信用されてなかったのね」
「お前は気付いていなかっただろうが、監視はいつもの事だ。野良の都市伝説などをあの方が信用するはずがないだろう。情に触れればすぐに転がって腹を見せる雌猫風情が」
科学的とはお世辞にも言えない造形の不気味な光線銃を抜くと、その銃口をまずはメアリーに向ける
「今まで合衆国の平穏の為に今まで尽くしてきた事と、この女を護衛から引き離せた事だけは評価して、苦しまないよう消し去ってやろう」
「ふむ、ボクの事はスルーかね」
「貴様が都市伝説と契約しておらず、戦闘能力も有していないのは調査済みだ。痛い目を見ずに死にたいなら大人しくしていろ」
「勘違いしているな、君達は」
ドクターはにやりと笑い、メアリーを抱き寄せる
「ボクは未だ都市伝説とは契約していない。だからこそ、だ」
その言葉を理解したメアリーは静かに目を閉じ
その行為を理解したドクターは、交われば死しかないエイズ・メアリーに躊躇無く唇を重ねる
「んっ……ふ……」
呆然と立ち尽くす黒服達など、まるでいないかのように
ただ二人きりで愛し合う恋人同士が互いを求め合うように
絡み合う舌が惜しまれながらも解かれ、離れた唇を繋ぐように伝う唾液
都市伝説として己の存在を理解しながらも、それが死を運ぶ行為でしかなかったが故に紡ぐ事を恐れていた信頼の糸
「私の世界へ、ようこそ」
そう言ってドクターに抱き縋るメアリー
「私と契約したあなたは、ウイルス、薬物、その他あらゆるものによる身体疾患……つまり『病気に掛からない』という特性を持つ事になります」
はっと我に返った黒服は、その言葉に改めて銃の狙いを定める
「それがこの状況で、何の役に立つというのかね」
「それは私と共に存在するための契約能力。そして契約により私は私の持つ特性をコントロールできるようになったわ」
そして彼女は宣言する
高らかに、高らかに
「エイズの世界へ、ようこそ」
黒服の視界が、ぐらりと揺らぐ
息が荒くなり身体のあちこちから痛みや痒みが脳に這い上がってくる
「飛沫感染の怖れのある距離ぐらいかしら、効果範囲は?」
崩れ落ち血反吐を撒き散らす黒服達
「なるほど、契約者への特性は、契約者自身を巻き込まないためのものか」
「いざという時に契約者が私を殺せるための特性でもあるわ」
「君が世界の敵になるわけではあるまい?」
「あなたが世界の敵にならないのであれば」
「ふむ、それならば問題は無いな。時にこの感染能力はどれぐらい持続するのかね?」
「発動と持続は一瞬です、その瞬間に効果範囲内にいなければ何の問題もありません」
「だ、そうだ。入ってきても大丈夫だぞ」
その言葉に、廊下で待っていたらしいバイト青年とエニグマの少女が恐る恐るといった感じで部屋に入ってくる
「廊下に残ってた連中はもう『沈め』ました。完全にこの連中の上を敵に回しましたね」
肩を竦めるバイト青年に、ドクターも肩を竦めて首を振る
「まあ仕方ないさ、南米の総統閣下には後で詫びを入れておこう」
「それを伝えるのは小官なのでありますが」
「済まない、この埋め合わせはいずれ必ず」
ドクターに親愛を込めて抱き締められ、わたわたと暴れるエニグマの少女
「そ、総統閣下より入電であります! 日本の総統閣下が医療従事者を求めているそうなので、そちらへの転属を手配するそうであります!」
「日本?」
「強力な都市伝説が集う町があり、日本の総統閣下がそちらへの人材を求めているそうであります! 奴らの干渉も薄い特殊な地区らしくドクターの赴任には最適かと!」
「何から何まで、ありがたい限りだ。同行者が一人増えたのだが問題は無いかね?」
「あまり大規模にならなければ全く問題は無いそうであります! 転属をお受けいただけるでありますか!」
「無論だ。君達も構わないだろう?」
「まあ俺は元々日本の生まれですから」
「あなたが行くところであれば何処へでも」
部屋の死体を異次元のホルマリンプールに沈め片付けながら応えるバイト青年と、ただ微笑みドクターの傍らに寄り添うメアリー
「航空機は手配されておりますので、準備が済み次第出発できるという事であります!」
「ああ、ありがとう。総統閣下に宜しく伝えてくれ」
「了解であります! それではご武運を!」
移動用の航空機に関するメモを残すと、エニグマの少女はびしりと敬礼をして部屋を後にする
それを見送って一息ついたところで、バイト青年が呟く
「こいつら、死体が残らないんですね。プールの連中が首を傾げてましたよ」
「敵ながら、後始末が楽で良いだろう?」
見れば、部屋に残されていたはずの血痕も見る間に黒い塵となって空気に溶けるように消えていた
「こいつらの上って一体何者なんですか。まさか本当にアメリカ政府が雇ってるわけじゃないでしょう」
「ふむ、遠からず近からず。都市伝説の雇い主は都市伝説だよ」
ドクターにしては珍しい、吐き捨てるような嫌悪混じりの声
「ロシアの『スターリン・ジョーク』と双璧を為す都市伝説。『アメリカ政府の陰謀論』とその契約者さ」
赤いのか青いのかわからない顔色でベッドに倒れ込むメアリー
「大丈夫かね? 強くないのであれば無理をしてボクに付き合わなくてもよかったのだが」
――何がだ、あれだけ呑んで顔色すら変えないザルめ
ワインだけで何本開け、その摂取したアルコールと水分はどこへ消えたんだ
内心毒づきながら、回る世界と戦い続ける
「この部屋の宿泊費は支払ってある。気分が良くなるまで休んでいるといい」
「……ご迷惑をお掛けします」
「なに、女性に優しくするのはボクの趣味だ」
微笑みを浮かべそっと手を握ってくるドクターに、メアリーは内心ほくそ笑む
最悪、キスの一つ――粘膜接触ができれば、感染発動は可能なのだから
「女同士でこんな事を言うのも……けど、安心できると思うんです……キス……してもらえませんか?」
「ああ、安心してゆっくり休むといい。ボクがついていてあげるから」
そう言って優しい口付けが、頬に
「え、その……」
女好きであるというターゲットの性癖を知っていたせいで、思わず声が出る
「今はまだ友人としての親愛のキスだよ。チンピラから助けた事も旅費や宿泊費を助けた事も過ぎた事になってから改めて君を口説かせてもらうよ。その時にボクを受け入れてくれるなら……ね?」
唇に人差し指を当てられ、それからそっと頭を撫でられる
「ボクは老若も人間かどうかも問わずに食ってしまうから、受け入れるなら覚悟しておきたまえ」
「……判ってたの?」
「多分、刺客か何かだという事も含めてね。そしてボクに刺客が来るとしたら、間違いなく都市伝説絡みだ」
ドクターはメアリーの頭を撫でながら、諭すように語る
「流石に女相手の仕事はあまり無かったんだろう? あちこち不自然なところがあったし、何より『同類』のにおいがしなかった」
「同類って……」
「ん? 端的に言うなら同性愛、レズビアン、百合、タチとネコ。同性相手は流石に不慣れだったんだろう?」
あっけらかんと言い放ち、ドクターは備え付けの電話に手を伸ばす
「多分、そこも含めて君を使ったのだろう。さて……ああボクだ。一番上のフロア……そうそう、バーラウンジのすぐ下、エレベーターからすぐの部屋だ。何、来ればすぐ判るだろう」
諦めの混じった溜息を吐くメアリー
「仲間を呼んで……私を始末するのね」
「馬鹿な! そんな勿体無い事をするわけがない! ……ああいやこっちの話だ。それでは急ぎで頼むよ、何せ」
オートロックのはずの部屋のドアが、音も無くゆっくりと開く
「もう敵が来ているんだ。いやはや、バレていたなら君の言う通り普通に電話連絡でも良かったな」
ベッドを取り囲むように立つ四人の黒服
おおよそ特徴というものを感じさせない中で、一人だけ髪型の違う黒服が二人の前に立つ
「……この様で言うのも難だけど、信用されてなかったのね」
「お前は気付いていなかっただろうが、監視はいつもの事だ。野良の都市伝説などをあの方が信用するはずがないだろう。情に触れればすぐに転がって腹を見せる雌猫風情が」
科学的とはお世辞にも言えない造形の不気味な光線銃を抜くと、その銃口をまずはメアリーに向ける
「今まで合衆国の平穏の為に今まで尽くしてきた事と、この女を護衛から引き離せた事だけは評価して、苦しまないよう消し去ってやろう」
「ふむ、ボクの事はスルーかね」
「貴様が都市伝説と契約しておらず、戦闘能力も有していないのは調査済みだ。痛い目を見ずに死にたいなら大人しくしていろ」
「勘違いしているな、君達は」
ドクターはにやりと笑い、メアリーを抱き寄せる
「ボクは未だ都市伝説とは契約していない。だからこそ、だ」
その言葉を理解したメアリーは静かに目を閉じ
その行為を理解したドクターは、交われば死しかないエイズ・メアリーに躊躇無く唇を重ねる
「んっ……ふ……」
呆然と立ち尽くす黒服達など、まるでいないかのように
ただ二人きりで愛し合う恋人同士が互いを求め合うように
絡み合う舌が惜しまれながらも解かれ、離れた唇を繋ぐように伝う唾液
都市伝説として己の存在を理解しながらも、それが死を運ぶ行為でしかなかったが故に紡ぐ事を恐れていた信頼の糸
「私の世界へ、ようこそ」
そう言ってドクターに抱き縋るメアリー
「私と契約したあなたは、ウイルス、薬物、その他あらゆるものによる身体疾患……つまり『病気に掛からない』という特性を持つ事になります」
はっと我に返った黒服は、その言葉に改めて銃の狙いを定める
「それがこの状況で、何の役に立つというのかね」
「それは私と共に存在するための契約能力。そして契約により私は私の持つ特性をコントロールできるようになったわ」
そして彼女は宣言する
高らかに、高らかに
「エイズの世界へ、ようこそ」
黒服の視界が、ぐらりと揺らぐ
息が荒くなり身体のあちこちから痛みや痒みが脳に這い上がってくる
「飛沫感染の怖れのある距離ぐらいかしら、効果範囲は?」
崩れ落ち血反吐を撒き散らす黒服達
「なるほど、契約者への特性は、契約者自身を巻き込まないためのものか」
「いざという時に契約者が私を殺せるための特性でもあるわ」
「君が世界の敵になるわけではあるまい?」
「あなたが世界の敵にならないのであれば」
「ふむ、それならば問題は無いな。時にこの感染能力はどれぐらい持続するのかね?」
「発動と持続は一瞬です、その瞬間に効果範囲内にいなければ何の問題もありません」
「だ、そうだ。入ってきても大丈夫だぞ」
その言葉に、廊下で待っていたらしいバイト青年とエニグマの少女が恐る恐るといった感じで部屋に入ってくる
「廊下に残ってた連中はもう『沈め』ました。完全にこの連中の上を敵に回しましたね」
肩を竦めるバイト青年に、ドクターも肩を竦めて首を振る
「まあ仕方ないさ、南米の総統閣下には後で詫びを入れておこう」
「それを伝えるのは小官なのでありますが」
「済まない、この埋め合わせはいずれ必ず」
ドクターに親愛を込めて抱き締められ、わたわたと暴れるエニグマの少女
「そ、総統閣下より入電であります! 日本の総統閣下が医療従事者を求めているそうなので、そちらへの転属を手配するそうであります!」
「日本?」
「強力な都市伝説が集う町があり、日本の総統閣下がそちらへの人材を求めているそうであります! 奴らの干渉も薄い特殊な地区らしくドクターの赴任には最適かと!」
「何から何まで、ありがたい限りだ。同行者が一人増えたのだが問題は無いかね?」
「あまり大規模にならなければ全く問題は無いそうであります! 転属をお受けいただけるでありますか!」
「無論だ。君達も構わないだろう?」
「まあ俺は元々日本の生まれですから」
「あなたが行くところであれば何処へでも」
部屋の死体を異次元のホルマリンプールに沈め片付けながら応えるバイト青年と、ただ微笑みドクターの傍らに寄り添うメアリー
「航空機は手配されておりますので、準備が済み次第出発できるという事であります!」
「ああ、ありがとう。総統閣下に宜しく伝えてくれ」
「了解であります! それではご武運を!」
移動用の航空機に関するメモを残すと、エニグマの少女はびしりと敬礼をして部屋を後にする
それを見送って一息ついたところで、バイト青年が呟く
「こいつら、死体が残らないんですね。プールの連中が首を傾げてましたよ」
「敵ながら、後始末が楽で良いだろう?」
見れば、部屋に残されていたはずの血痕も見る間に黒い塵となって空気に溶けるように消えていた
「こいつらの上って一体何者なんですか。まさか本当にアメリカ政府が雇ってるわけじゃないでしょう」
「ふむ、遠からず近からず。都市伝説の雇い主は都市伝説だよ」
ドクターにしては珍しい、吐き捨てるような嫌悪混じりの声
「ロシアの『スターリン・ジョーク』と双璧を為す都市伝説。『アメリカ政府の陰謀論』とその契約者さ」
そして彼女達は南米を離れ、都市伝説が色濃く渦巻く日本の一都市を訪れる事となる
そこで起こる出来事は、これから記される事となるだろう
そこで起こる出来事は、これから記される事となるだろう