「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い師と少女-a13

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uranaishi

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占い師と少女 マッドガッサー決戦編 13


○月×日 22:16

 光の無い、完全に真っ暗な空間。
 美術準備室の天井裏の隙間は狭く、ついでに黴っぽかった。
 もちろん、誰かが掃除をしてくれるはずもなく、それが当然ではあるのだけれど。
 私たち一行は、不良教師さんを先頭に、弟さん、白骨標本さん、人体模型さん、金さん、占い師さん、大将、私の順に、屈みながら先を急いでいた。

 ――――そして、数分後

 カコン、と何かが外れるような音。
 それと共に、微かながら光が入ってきた。
 その光を目印に、私たちはぞろぞろと天井裏から這い出ていく。
 …………途中、鼠の糞のような物を踏んだような気がしたけど……気にしないでおこう、うん。
 天井裏から抜け出すと、視界に薄暗い教室が入ってきた。二階にあった教室と場所が同じだとすれば、結構な距離を歩いてきた事になる。

「あー。ずっと屈んでたせいで腰がいてぇや」

 私の隣で、大将が腰を叩いていた。

「なに、これからしばらくは説得待ちだ。ゆっくりすればいい」
「ちょっと戦う位なら、僕はもう大丈夫だよ」

 凝った体をほぐそうと柔軟体操を始めた弟さんに、占い師さんが声をかけた。

「もし説得が失敗したら、また階段を溶かしてもらう事になるかもしれないからな。今は休んでおいたほうがいい」
「でも、あれ疲れるんだけどなぁ」
「その時は兄貴に労をねぎらってもらえばいいさ。なぁ、弟思いの青年?」

 占い師さんの言葉に、不良教師さんは少し苦い顔をした。

「まぁ、労をねぎるくらいな――――」
「本当っ!? じゃあ、次の連休、2日とも一緒にどこか行こうよ、兄さん」
「……いや、待て。そこまでの約束は――――」
「これだけ働いてるんだ。一日や二日くらいどうって事ないだろう?」

 ああ……占い師さんが黒い……。
 言葉を遮られ、どんどんと逃げ場を失っていく不良教師さんを見て、合掌。

 ――――そんな時だった。

『……ん? 何か聞こえまへんか?』

 唐突に放たれた人体模型さんの言葉。
 一瞬、私たちに緊張が走るも、これと言って何か怪しい音は聞こえてこない。

『私には、何も聞こえませんが……』
「……私も、もともと石像ですから、そんなに耳はいい方じゃありませんね」

 白骨標本さんと金さんも、揃って首をかしげていた。
 しかし、周囲を占い師さんが視て…………その顔が、強張った。

「おい、教師の青年。この学校ではゴ(ピー)が繁殖してるのか?」
「繁殖はしていないだろう。もちろん、一匹や二匹なら時々見かけるが」
「いや、一匹や二匹じゃなく何十……違うな、何百匹のゴ(ピー)の波が、この教室に向かってるんだが……」

 その言葉が終わるか終らないかの時点で、私たちにもその足音が聞こえてきた。

かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ…………

 その音は、占い師さんの言葉通りこちらへ向かっていて、

かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ…………

 非常灯だけに照らされた薄暗い教室で、その足音は余計に強調されて、

かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ…………

 その足音が教室に入ってきた時

ドッシャーーーーーーーーンッ!!!

 唐突に落ちた雷が、「それら」を照らした。
 「それら」は黒い塊で、一匹一匹に触覚が映えていた。
 「それら」は黒い絨毯のように行動を共にし、尽きる事のない波となっていた。
 「それら」はゴ…………じゃない、Gだった。

「ひっ…………」

 人間、恐怖を感じると叫ぶか、押し黙るかの二つに分かれるらしい。
 そして、どうやら私は後者だったようだ。
 かさかさと群れを成す「それら」を見て、私は息をのんだ。
 動けない私たちをよそに、「それら」はどんどんと距離を詰めてくる。
 そして、その距離が数メートルにまで近づいた時

「いやあああああああああああっ!!」

 ……私は、思い切り叫んだ。
 前言撤回。どうやら、私は押し黙った後に叫ぶタイプの人間だったらしい。
 私の叫び声に反応したのか、「それら」が一斉に私へと向かって歩みを進めてくる。

かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ…………

 波が、動けない私を飲み込もうとうねり、

「危険を感じたら動け。そんなんじゃこの後命がいくつあっても足りないぞ」

 ふわり、と。
 波が私を飲み込む直前、占い師さんが私を抱え、右へと退いた。
 黒い波は、ついさっきまで私がいた所へと殺到し

じゅううううううううう…………っっ!!
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ!

 コーラの波に呑まれ、白い刃で切られていった。

「こんなに沢山見たのは初めてだよ」
「出来れば二度と見たくないもんだ」

 見ると、弟さんがコーラを繰り、黒い波を、ペットボトルから出るコーラで溶かしていた。
 その取りこぼしを、白骨標本さんが切り落としている。

「大丈夫か、未来」
「あ、はい。えっと……ありがとうございました」

 占い師さんに尋ねられ、抱きかかえられた事に多少赤面しながら、私は頭を下げた。

「今度からは気をつけろ。次何かあった時、俺が助けられる位置にいるとは限らないからな」
「はい…………ごめんなさい」
「なに、一回の間違いくらいは誰にでもある。二回も同じ間違いをしたら、その時は本気で怒るけどな」

 軽く私の頭に手を乗せて、占い師さんは黒い波へと目を移した。
 その視線の先、弟さんと白骨標本さんが、襲いかかってくる黒い波を駆除していた。
 どうやら周囲を丸くコーラの輪が囲っている関係か、黒い波は私達や彼らの元にまでは辿り着いていない。

「切られても死なない上、驚異的な繁殖力、か…………都市伝説のゴ(ピー)とはまた、この学校には奇妙な物ばかりがいるな」

 私たちの視線の先で、白骨標本さんに切られた物体は、少し蠢いたた後に体が再生していた。
 再生するG……出来れば、一生のうちで一度も会いたくなかった。
 切られても再生する、という事実にに気付いたのか、白骨標本さんは少し驚いたような顔をして(表情が分からないから推測だけれど)、コーラの輪の中へと退散した。
 その状況を見て、占い師さんが、黒い波を挟んで反対側、弟さんたちと一緒にいる大将へ向かって尋ねる。

「大将、『戦争状態の購買』の能力でこいつらを操る事は?」
「7、80匹くらいならギリギリ何とかなるっちゃあなるが、この量じゃとても無理ってもんだ」

 大将が首を振った。
 …………そっか、鼠の時みたいに大将をあてにはできないのか……。

「……いや、それで十分だろう」

 密かに落胆する私をよそに、不良教師さんが大将の肩を叩いた。
 振りむいた大将の耳に、二言三言、不良教師さんが何かを伝えている。

「…………ん? そんなんでいいのか?」

 数秒後、話を聞き終えた大将が怪訝な顔をしていた。

「恐らくは」
「んー、まぁ、俺には学もねえから、兄ちゃんの言う事を信じる事しかできねえんだけどよ」

 そう言って、軽く腰を落とす。

「……んじゃ、始めるとすっか」

 ずん、と
 大将が言い終えると同時に、部屋に奇妙な圧迫感が生まれた。
 その気配を感じ取ったのか、はたまた大将の能力なのか、波の一部……前線にいた数十匹のGが、その活動を停止していた。

「……よっし、行くぞ」

 言葉と共に、支配された数十匹のGが行動を開始する。
 けれど、支配されたのは前線の数十匹。

かさかさかささかさかさかさかさかさ…………
かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ…………

 その数十匹は、私たちを襲おうとしている他のG達と真っ向から衝突していった。
 泡を食ったように、そのG達の進行を止めようとする後方のG達。
 比率は1:10……いや、それ以上だろう。
 どう考えても多勢に無勢。大将の支配したGだけではどうにもならない状況の、はずだった。
 ………………しかし

「…………え?」

 私は、目の前で起こった事に、思わず眼を疑った。
 ……前線のGを押しとどめようとしていた後方も、競って外へ出ようとしていたのだ。

(…………どうして?)

 大将の能力では、一度に数十匹が限界だと、大将自身が言っていたはずだけれど……。
 私は、その原因であるはずの大将を見る。

「ほー、上手く行くもんだなぁ」

 …………しかし、大将はなぜか感心したような声を上げているだけだった。

「……何をしたんですか? 大将」

 それから数分後、遮断されていた教室が開通され、私は大将に尋ねた。
 既にGの群れは教室から去り、教室にあった椅子や机があらかた壁際まで押されはしていたが、後はもう10匹程が残っているだけとなっている。

「いんや、俺はただ、あの群れを操っただけだぜ?」
「でも、一度にあの数を操るのは無理なんじゃ……」

 首をひねる私に、不良教師さんが解説をしてくれた。

「あの群れ、一見統制が取れてるように見えるが、結局は流れと本能で動いてるだけだ」
「えっと…………?」
「つまり、俺が一度操って後退の流れを作って、後はどんどん操る範囲を後ろに下げていきゃ、支配が終わっても流れのままで進むってわけだ」

 …………なるほど。
 操られていた事に気づくある程度知能がある動物と違って、Gみたいに本能で動いている昆虫は、流れさえ作ればどうとでもなる、という事なのだろう。

「つってもまぁ、白衣の兄ちゃんが教えてくれなきゃ、俺の頭じゃ到底思いつかなかっただろうがなぁ」

 大将が笑いながら、残ったGを操り、外へと追い払っている。
 何となく和やかな雰囲気。
 ……その傍らで、占い師さんが何やら気難しい顔をしていた。

「今の、随分な騒ぎになったが……あちらさんの誰かに気付かれたかもしれないな」

 ――――そして

 パンッと、占い師さんの言葉に呼応するかのように、軽い銃声が教室内に響いた。






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