「夢子ちゃんから伝言があったって?」
道路に積もった雪を蹴立てながら少女が言う。
「ああ、地下カジノに言伝してあった。今夜地下カジノに来るそうだ」
12月24日、日も暮れ、雪が薄く積もる南区のウォーターアミューズメントパーク内、外気にさらされるタイプのプールは使えないが施設内はアウトレットや遊園地等のクリスマスイベントでにぎわっている。そこにTさんと契約者の少女の姿があった。
手袋をこすり合わせながら歩く、コートに身を包んだ少女と彼女に歩幅を合わせて歩く青年。と、
「とってもにぎやかなの」
契約者のコートの内側からかわいらしい女の子の声がした。
「今夜あたりまた一気に積もるらしいし、今年はホワイトクリスマスだな」
「ほわいと、くりすます?」
少女にコートの中の声が問いかける。少女はあー、と言いながら笑って、
「リカちゃんはクリスマス知らねえか」
「?」
コートの襟から顔を出した綿が詰まっていそうな人形、リカちゃんと目を合わせて二人で横を歩く青年を見る。青年は二人の視線に気づき、そうだな、と前置きして、
「クリスマスと言うのは――」
言って聞かせる間に少女は懐から一枚のカードを取り出した。青年がリカちゃんに言って聞かせるのが終わるのを見計らい、
「じゃあ、地下カジノに行きますかー」
「一応人目を避けるように」
「あいさー」
青年の言葉に答えて少女は物陰に入ってなんの変哲もない壁にカードをかざした。すると壁にそこにはないはずの扉が現れ、
「≪夢の国の地下カジノ≫へ」
扉が開かれた。
道路に積もった雪を蹴立てながら少女が言う。
「ああ、地下カジノに言伝してあった。今夜地下カジノに来るそうだ」
12月24日、日も暮れ、雪が薄く積もる南区のウォーターアミューズメントパーク内、外気にさらされるタイプのプールは使えないが施設内はアウトレットや遊園地等のクリスマスイベントでにぎわっている。そこにTさんと契約者の少女の姿があった。
手袋をこすり合わせながら歩く、コートに身を包んだ少女と彼女に歩幅を合わせて歩く青年。と、
「とってもにぎやかなの」
契約者のコートの内側からかわいらしい女の子の声がした。
「今夜あたりまた一気に積もるらしいし、今年はホワイトクリスマスだな」
「ほわいと、くりすます?」
少女にコートの中の声が問いかける。少女はあー、と言いながら笑って、
「リカちゃんはクリスマス知らねえか」
「?」
コートの襟から顔を出した綿が詰まっていそうな人形、リカちゃんと目を合わせて二人で横を歩く青年を見る。青年は二人の視線に気づき、そうだな、と前置きして、
「クリスマスと言うのは――」
言って聞かせる間に少女は懐から一枚のカードを取り出した。青年がリカちゃんに言って聞かせるのが終わるのを見計らい、
「じゃあ、地下カジノに行きますかー」
「一応人目を避けるように」
「あいさー」
青年の言葉に答えて少女は物陰に入ってなんの変哲もない壁にカードをかざした。すると壁にそこにはないはずの扉が現れ、
「≪夢の国の地下カジノ≫へ」
扉が開かれた。
●
地下カジノ内は相変わらず賑やかだった。
衣服に付いた雪を払い落しながら≪夢の国≫のお姫様たちがカジノ内をやたらと豪華に飾り付けながら騒いでいるのを見て、その中に、
「夢子ちゃん!」
≪夢の国≫の王様の姿を認めて少女は手を振った。
「あ、皆さん」
呼びかけに気付いて振り返った夢子。腰まである長い髪が動作と共にゆらりと流れ、首にかけられた二つのお守りが追随する。 そんな彼女の衣服はいつもの貫頭衣ではなく、
「珍しく派手だな」
青年の言葉通り、それは派手な赤と白に彩られたサンタ衣装だった。
夢子は困ったように笑み、
「お姫様たちに着替えさせられてしまいました」
「いやいやいや、良い感じだぜ?」
少女は取り出したカメラで夢子を撮影しだす。夢の国のお姫様たちも釣られるように被写体へとなっていく。
「そのカメラは一体どこから出したんだ?」
「常に携帯してるんだよ、いつ何時面白シーンが撮れるか分かんねえしな」
そう言いながら写真を撮り続ける少女の、
「とーぜん」
右腕を、
「あなたも」
左腕を、
「ね?」
襟元から顔を出していたリカちゃんを引っ掴む被写体になり終わったお姫様たち。
「……へ?」
「?」
疑問符を頭上に浮かべる少女とリカちゃんに対して、彼女らはひどく爽やかな笑顔だった。
小人が疲れたように吐息し、「御愁傷様です」と呟いたのが少女の耳に残った。
衣服に付いた雪を払い落しながら≪夢の国≫のお姫様たちがカジノ内をやたらと豪華に飾り付けながら騒いでいるのを見て、その中に、
「夢子ちゃん!」
≪夢の国≫の王様の姿を認めて少女は手を振った。
「あ、皆さん」
呼びかけに気付いて振り返った夢子。腰まである長い髪が動作と共にゆらりと流れ、首にかけられた二つのお守りが追随する。 そんな彼女の衣服はいつもの貫頭衣ではなく、
「珍しく派手だな」
青年の言葉通り、それは派手な赤と白に彩られたサンタ衣装だった。
夢子は困ったように笑み、
「お姫様たちに着替えさせられてしまいました」
「いやいやいや、良い感じだぜ?」
少女は取り出したカメラで夢子を撮影しだす。夢の国のお姫様たちも釣られるように被写体へとなっていく。
「そのカメラは一体どこから出したんだ?」
「常に携帯してるんだよ、いつ何時面白シーンが撮れるか分かんねえしな」
そう言いながら写真を撮り続ける少女の、
「とーぜん」
右腕を、
「あなたも」
左腕を、
「ね?」
襟元から顔を出していたリカちゃんを引っ掴む被写体になり終わったお姫様たち。
「……へ?」
「?」
疑問符を頭上に浮かべる少女とリカちゃんに対して、彼女らはひどく爽やかな笑顔だった。
小人が疲れたように吐息し、「御愁傷様です」と呟いたのが少女の耳に残った。
「ちょっと待て! 俺は似合わねえから――っ!!」
「あらぁ、そんなことないわよー」
「たのしそーなの」
「ええ、とても楽しいわよ~」
ズルズルと引きづられて行く己の契約者とリカちゃんを生温かく見送り、小人と共に一度合掌し、
「――さて」
青年は夢子に向き直った。少し視線を鋭いものへと変え、
「話を聞こうか」
「はい、お願いします」
応えて、夢子は地下カジノの隅の一角を指さした。そこには一人の老紳士の姿があった。
「あらぁ、そんなことないわよー」
「たのしそーなの」
「ええ、とても楽しいわよ~」
ズルズルと引きづられて行く己の契約者とリカちゃんを生温かく見送り、小人と共に一度合掌し、
「――さて」
青年は夢子に向き直った。少し視線を鋭いものへと変え、
「話を聞こうか」
「はい、お願いします」
応えて、夢子は地下カジノの隅の一角を指さした。そこには一人の老紳士の姿があった。
●
「あー、ひっでえ目に遭った」
「たのしかったの」
着替えが、終了した。当然と言うか何というか、二人ともサンタ服を着せられてる。つか冬用の服なのに丈短けぇ……。
夢子ちゃん達が更衣室から這い出てきた俺とリカちゃんを見て。わぁ、と歓声を上げた。
「とってもお似合いですよ!」
笑顔で言ってくれる。
「そ、そうか……」
笑顔で言われると、その、ものすごく照れる。
「そうよねー、私たち的にはもっとキワドイのを着てもらいたかったんだけどね」
「あんなセクハラ衣装着てたまるか! 着せるならともかくな!」
ギャイギャイと騒ぎ合っているとTさんがこっちを向いた。
馬子にも衣装とでも言うつもりかと思っているとTさんは珍しく、ほう……と感嘆して、
「意外と似合うものだな」
言われた。
「っ!」
褒められると顔が熱くなる気がする。
「そ、そうですかい!」
答えながら場の雰囲気が俺に対してあまりよろしくない、他の話題を探さねば! と考え――っと、
「あれ? じーちゃん、誰?」
夢子ちゃんやTさんのいる辺りに初めて見るじいちゃんがいた。
白い髭に白い髪、恰幅がいい体つき、ロングコートに身を包んだ姿を穏和な雰囲気が包んでる。
じいちゃんは、ん? と俺を見てどうしたものかのー、などと言ってTさんに視線を向ける。なんだ? 自己紹介するのになんか問題でもあんのか?
思っているとTさんがじいちゃんに頷いて、
「彼はニコラさん。夢子ちゃんの友人だ」
夢子ちゃんは戸惑ったように目を一瞬パチクリさせてから、
「はい、ニコラさん。友人です」
なんかおかしいなと思いつつもじいちゃんへの興味の方が強い。じいちゃんに質問をすることにする。
「へー、じいちゃんどっから来たの?」
「ほっほっほ、そうじゃのー、ヨーロッパの辺りかのう」
「おお、なんか高級な感じがするな!」
「すごいの?」
「たぶんきっとなんとなくすごいんだと思うぜ!」
ヨーロッパとか俺行ったことねえけどな!
リカちゃんはとりあえず何かがすごいと言うことは感じたのか、
「すごいの!」
嬉しそうにはしゃいでいた。
「夢子ちゃんと一緒に来たってことは都市伝説か? それとも、まさか夢子ちゃんの契約者?」
「夢子ちゃんと契約すると≪夢の国≫と契約することになるんだ。瞬時に呑まれるぞ」
Tさんの言葉にそうだよなーと考え、
「っつーことはじーちゃん、都市伝説か?」
訊ねてみると、
「まあ、そんなところかのう」
あっさりと答えてくれた。
へー、何の都市伝説なんだろ?
なんの都市伝説かじいちゃんに訊ねる前にTさんが話を始めた。
「せっかくこんな日に来たんだ」
入ってきたばかりの扉を指さし、
「ここに来るときに入ったアミューズメントパークでクリスマスイベントをやっていた。パレードや歌のような催しものもあるようだ、せっかくだから見て回らないか?」
「え、あ、はい」
「青年がそう言うのなら、行こうかの?」
二人とも一応外出には好意的な返事をしてくれてるけどなんか戸惑い気味の空気を感じる。
……それはそうか、夢子ちゃんは学校町に堂々と入るのは躊躇っちまうだろうし、じいちゃんはクリスマスだぜひゃっほう! って感じの人間にゃあ見えないしな。
「いいぜ行こう!」
だから俺は二人の手を掴んで多少強引に誘う。せっかくの行事なんだし楽しまなきゃ損だろ。
「いくのー!」
そう手を振り上げるリカちゃん。そのサンタカラーな服に着替えさせられているリカちゃんを見て、
「ってかこの恰好じゃ寒くて外行けねえ!」
叫ぶと、
「それならば問題無い」
Tさんがいつの間にか飲んでいた酒瓶をテーブルに置きながら言った。
「へ?」
「温かくなれば幸せだ」
Tさんの声と共に白い光の玉が出てその場の全員にぶつかる。
「なにこれ?」
「簡易結界だ。防御能力は無いがなんの干渉も無ければ内部を一定気温に保てる。おそらく数時間は保つだろう」
暖房要らずだと? 便利能力め、…………ん?
「あー、つまり?」
「その格好で外に出ても寒くない」
しれっと言いやがった。
いやいやいや、
「ぶっちゃけこの恰好で外に出るのは恥ずかしくないか?」
他の人がやるならともかく自分でやるのはちょっと抵抗がある。
「クリスマスイベントならばその格好も不自然ではないだろう」
それに、と苦笑して更衣室の方に指を向ける。
「姫君たちが更衣室の前に陣取っていて、着替えさせてもらえそうもないぞ?」
目を向けるとイイ笑顔のお姫様たちが頷いた。
「……マジか」
俺、外行きたくねえかも。そんなことを思いながら肩を落とした。
「たのしかったの」
着替えが、終了した。当然と言うか何というか、二人ともサンタ服を着せられてる。つか冬用の服なのに丈短けぇ……。
夢子ちゃん達が更衣室から這い出てきた俺とリカちゃんを見て。わぁ、と歓声を上げた。
「とってもお似合いですよ!」
笑顔で言ってくれる。
「そ、そうか……」
笑顔で言われると、その、ものすごく照れる。
「そうよねー、私たち的にはもっとキワドイのを着てもらいたかったんだけどね」
「あんなセクハラ衣装着てたまるか! 着せるならともかくな!」
ギャイギャイと騒ぎ合っているとTさんがこっちを向いた。
馬子にも衣装とでも言うつもりかと思っているとTさんは珍しく、ほう……と感嘆して、
「意外と似合うものだな」
言われた。
「っ!」
褒められると顔が熱くなる気がする。
「そ、そうですかい!」
答えながら場の雰囲気が俺に対してあまりよろしくない、他の話題を探さねば! と考え――っと、
「あれ? じーちゃん、誰?」
夢子ちゃんやTさんのいる辺りに初めて見るじいちゃんがいた。
白い髭に白い髪、恰幅がいい体つき、ロングコートに身を包んだ姿を穏和な雰囲気が包んでる。
じいちゃんは、ん? と俺を見てどうしたものかのー、などと言ってTさんに視線を向ける。なんだ? 自己紹介するのになんか問題でもあんのか?
思っているとTさんがじいちゃんに頷いて、
「彼はニコラさん。夢子ちゃんの友人だ」
夢子ちゃんは戸惑ったように目を一瞬パチクリさせてから、
「はい、ニコラさん。友人です」
なんかおかしいなと思いつつもじいちゃんへの興味の方が強い。じいちゃんに質問をすることにする。
「へー、じいちゃんどっから来たの?」
「ほっほっほ、そうじゃのー、ヨーロッパの辺りかのう」
「おお、なんか高級な感じがするな!」
「すごいの?」
「たぶんきっとなんとなくすごいんだと思うぜ!」
ヨーロッパとか俺行ったことねえけどな!
リカちゃんはとりあえず何かがすごいと言うことは感じたのか、
「すごいの!」
嬉しそうにはしゃいでいた。
「夢子ちゃんと一緒に来たってことは都市伝説か? それとも、まさか夢子ちゃんの契約者?」
「夢子ちゃんと契約すると≪夢の国≫と契約することになるんだ。瞬時に呑まれるぞ」
Tさんの言葉にそうだよなーと考え、
「っつーことはじーちゃん、都市伝説か?」
訊ねてみると、
「まあ、そんなところかのう」
あっさりと答えてくれた。
へー、何の都市伝説なんだろ?
なんの都市伝説かじいちゃんに訊ねる前にTさんが話を始めた。
「せっかくこんな日に来たんだ」
入ってきたばかりの扉を指さし、
「ここに来るときに入ったアミューズメントパークでクリスマスイベントをやっていた。パレードや歌のような催しものもあるようだ、せっかくだから見て回らないか?」
「え、あ、はい」
「青年がそう言うのなら、行こうかの?」
二人とも一応外出には好意的な返事をしてくれてるけどなんか戸惑い気味の空気を感じる。
……それはそうか、夢子ちゃんは学校町に堂々と入るのは躊躇っちまうだろうし、じいちゃんはクリスマスだぜひゃっほう! って感じの人間にゃあ見えないしな。
「いいぜ行こう!」
だから俺は二人の手を掴んで多少強引に誘う。せっかくの行事なんだし楽しまなきゃ損だろ。
「いくのー!」
そう手を振り上げるリカちゃん。そのサンタカラーな服に着替えさせられているリカちゃんを見て、
「ってかこの恰好じゃ寒くて外行けねえ!」
叫ぶと、
「それならば問題無い」
Tさんがいつの間にか飲んでいた酒瓶をテーブルに置きながら言った。
「へ?」
「温かくなれば幸せだ」
Tさんの声と共に白い光の玉が出てその場の全員にぶつかる。
「なにこれ?」
「簡易結界だ。防御能力は無いがなんの干渉も無ければ内部を一定気温に保てる。おそらく数時間は保つだろう」
暖房要らずだと? 便利能力め、…………ん?
「あー、つまり?」
「その格好で外に出ても寒くない」
しれっと言いやがった。
いやいやいや、
「ぶっちゃけこの恰好で外に出るのは恥ずかしくないか?」
他の人がやるならともかく自分でやるのはちょっと抵抗がある。
「クリスマスイベントならばその格好も不自然ではないだろう」
それに、と苦笑して更衣室の方に指を向ける。
「姫君たちが更衣室の前に陣取っていて、着替えさせてもらえそうもないぞ?」
目を向けるとイイ笑顔のお姫様たちが頷いた。
「……マジか」
俺、外行きたくねえかも。そんなことを思いながら肩を落とした。
●
「これはこれは」
ニコラじいちゃんがクリスマスイベントの様子を見てしきりに感心していた。
「やはりこういうのは珍しいか?」
「そうじゃのう、わしが普段活動するのは夜、人目を憚っておるからな」
「私も、こういうのは初めてです。……たぶん」
夢子ちゃんは記憶が曖昧なんだっけか。ってかニコラじいちゃんの活動って?
「きれいなの」
「でっけえツリーだよな」
室内施設にはいろんなショップが左右に出店していて、それを真っ直ぐ貫く通路の真ん中には巨大なツリーが飾り付けされていた。
「とりあえず願い事を書いて吊るそうぜ!」
「それはまた別の行事だ」
「なんなの?」
「七夕ですね」
「たなばた?」
「ほっほ、七夕とはのぅ――」
そんなことを言い合いながらイベントを見て回る。サンタやトナカイ。子供用アニメのキャラクターとかのきぐるみや仮装が歩き、カップルや家族連れが通りを行き来している。
この恰好も一応この場では売り子やら元気なイベントに乗り気な姉ちゃんたちとかにまぎれてそんなに違和感はない。たまに不特定多数の視線を感じるがまあしょうがないか。今俺たちは恰幅の言いジェントルメンなニコラじいちゃん、視線が珍しげにあっちこっち行きかうサンタ衣装の夢子ちゃん、見たい見たいとせがむので俺の頭の帽子に掴まりながらこっちもあちこち見ているリカちゃんに、俺。そして周囲の光景をなにやら懐かしそうに見ているコート姿のTさんという構成だ。
正直悪目立ちする。
「あ、あのおじさんなに、なの?」
「ん?」
リカちゃんが指さす先にはサンタの格好をした売り子の兄ちゃんがいた。
「お姉ちゃんたちといっしょのかっこうなの」
「あれはサンタという」
「さんた?」
そうそう、と俺はリカちゃんに頷いて、
「クリスマスの夜に家屋に不法侵入しては謎の包装物を子供たちの枕元に置いて回るナイスガイだ!」
「概ね間違ってないがその説明には悪意があるな」
即修正を入れられた。Tさんがリカちゃんに世間一般的に正しいサンタの説明を始める。
「すごいの!」
「ええ、すごいんですよ」
本当に子供のようにはしゃぐリカちゃんに夢子ちゃんが言う。
「最近はなかなかそういうのも信じてもらいづらくなってしまったがの」
しみじみとニコラじいちゃんが言う。
「ニコラじいちゃんはサンタって信じてた?」
「ほっほっほ、在ればいいと思っておるよ、今でものう」
ん? なんか寂しそうに言われたな。
「? さんたさん、いないの?」
リカちゃんが俺に訊ねる。んー、と俺が真実と子供の夢とどっちを優先しようか悩んでいると、
「いるさ」
Tさんが断言した。
「あれ? Tさん珍しくロマンチスト?」
Tさんは俺の言葉にいや、と答え、
「別にそういうつもりでもない――と」
何かを発見したみたいだった。そこへ歩を向けて、
「リカちゃん、これに世界中の子供たちにプレゼントを渡しているサンタさんへの励ましの手紙を書いてみてはどうだ?」
ツリーの正面のテーブルに設置されている箱と、その横に置いてある便箋を示して言った。
「おてがみ?」
ああ、とTさんは言いながら手紙に書いてある説明文を読んで、
「どうやら国際サンタクロース協会に届けてもらえるらしいぞ」
「さんたさん、よんでくれるの?」
「そのようだ。契約者も、今年もプレゼント配送御苦労さまとでも書かないか?」
ん、俺も子供の夢をいたずらに壊すのは気が引けるしな。
「よし、いっちょ書くか!」
「私も書きますね」
夢子ちゃんが笑顔で賛同した。
「御老体もどうだ?」
Tさんが自分とニコラじいちゃんの分の便箋をとってきて勧める。
「わしかの?」
ちょっと困ったような顔でニコラじいちゃん。
「対話のつもりで書いてみてはどうだろう?」
Tさんのその言葉に、フム、と一つ息を吐き、
「――では一筆したためさせてもらおうかの」
ニコラじいちゃんも若干迷いながら手紙を書き始めた。
ニコラじいちゃんがクリスマスイベントの様子を見てしきりに感心していた。
「やはりこういうのは珍しいか?」
「そうじゃのう、わしが普段活動するのは夜、人目を憚っておるからな」
「私も、こういうのは初めてです。……たぶん」
夢子ちゃんは記憶が曖昧なんだっけか。ってかニコラじいちゃんの活動って?
「きれいなの」
「でっけえツリーだよな」
室内施設にはいろんなショップが左右に出店していて、それを真っ直ぐ貫く通路の真ん中には巨大なツリーが飾り付けされていた。
「とりあえず願い事を書いて吊るそうぜ!」
「それはまた別の行事だ」
「なんなの?」
「七夕ですね」
「たなばた?」
「ほっほ、七夕とはのぅ――」
そんなことを言い合いながらイベントを見て回る。サンタやトナカイ。子供用アニメのキャラクターとかのきぐるみや仮装が歩き、カップルや家族連れが通りを行き来している。
この恰好も一応この場では売り子やら元気なイベントに乗り気な姉ちゃんたちとかにまぎれてそんなに違和感はない。たまに不特定多数の視線を感じるがまあしょうがないか。今俺たちは恰幅の言いジェントルメンなニコラじいちゃん、視線が珍しげにあっちこっち行きかうサンタ衣装の夢子ちゃん、見たい見たいとせがむので俺の頭の帽子に掴まりながらこっちもあちこち見ているリカちゃんに、俺。そして周囲の光景をなにやら懐かしそうに見ているコート姿のTさんという構成だ。
正直悪目立ちする。
「あ、あのおじさんなに、なの?」
「ん?」
リカちゃんが指さす先にはサンタの格好をした売り子の兄ちゃんがいた。
「お姉ちゃんたちといっしょのかっこうなの」
「あれはサンタという」
「さんた?」
そうそう、と俺はリカちゃんに頷いて、
「クリスマスの夜に家屋に不法侵入しては謎の包装物を子供たちの枕元に置いて回るナイスガイだ!」
「概ね間違ってないがその説明には悪意があるな」
即修正を入れられた。Tさんがリカちゃんに世間一般的に正しいサンタの説明を始める。
「すごいの!」
「ええ、すごいんですよ」
本当に子供のようにはしゃぐリカちゃんに夢子ちゃんが言う。
「最近はなかなかそういうのも信じてもらいづらくなってしまったがの」
しみじみとニコラじいちゃんが言う。
「ニコラじいちゃんはサンタって信じてた?」
「ほっほっほ、在ればいいと思っておるよ、今でものう」
ん? なんか寂しそうに言われたな。
「? さんたさん、いないの?」
リカちゃんが俺に訊ねる。んー、と俺が真実と子供の夢とどっちを優先しようか悩んでいると、
「いるさ」
Tさんが断言した。
「あれ? Tさん珍しくロマンチスト?」
Tさんは俺の言葉にいや、と答え、
「別にそういうつもりでもない――と」
何かを発見したみたいだった。そこへ歩を向けて、
「リカちゃん、これに世界中の子供たちにプレゼントを渡しているサンタさんへの励ましの手紙を書いてみてはどうだ?」
ツリーの正面のテーブルに設置されている箱と、その横に置いてある便箋を示して言った。
「おてがみ?」
ああ、とTさんは言いながら手紙に書いてある説明文を読んで、
「どうやら国際サンタクロース協会に届けてもらえるらしいぞ」
「さんたさん、よんでくれるの?」
「そのようだ。契約者も、今年もプレゼント配送御苦労さまとでも書かないか?」
ん、俺も子供の夢をいたずらに壊すのは気が引けるしな。
「よし、いっちょ書くか!」
「私も書きますね」
夢子ちゃんが笑顔で賛同した。
「御老体もどうだ?」
Tさんが自分とニコラじいちゃんの分の便箋をとってきて勧める。
「わしかの?」
ちょっと困ったような顔でニコラじいちゃん。
「対話のつもりで書いてみてはどうだろう?」
Tさんのその言葉に、フム、と一つ息を吐き、
「――では一筆したためさせてもらおうかの」
ニコラじいちゃんも若干迷いながら手紙を書き始めた。
そろそろ夜も更ける。閉園の時刻も近かった。