Tさん 「クリスマスとサンタ上」から
●
●
イベントが終わり、閉園後。
「少し歩こうか。夢子ちゃんがいれば≪パスポート≫で遊園地を経由する必要もないだろう」
Tさんがそう言って施設を出て、今の時期は使われていないプールの方へと足を進めていた。
カップルは大概南区の駅の方に行くし、家族連れは疲れた子供を背負ってそれぞれ家に帰っていく。それらの流れを無視してアミューズメントパークの周りを歩いているとすぐに人通りが目に見えて少なくなった。
Tさんは周囲を軽く見回すと一つ頷き、
「御老体、どうだろう?」
何かを訊ねた。
ニコラのじいちゃんは、ほほ、と申し訳なさそうに笑んで、
「やはり無理だったようじゃのぅ」
少し肩を落として答えた。
「そうか、では次の手でいこう。――出してくれ」
「大丈夫かの?」
「ああ」
二人の間で話が進んでいるみたいだけど俺には全然話が見えん。
「一体何の、――!?」
話をしているんだと訊こうとしてニコラのじいちゃんとTさんを振り向いて驚いた。
ニコラのじいちゃんの白い髭も髪も黒く染まって、着ていたコートがいつの間にか茶色と黒のサンタ衣装に変化していたのだ。
「な!?」
「おじいちゃん!?」
いきなり変身した?
思っているとじいちゃんは地面に膝をついて震え始めた。
「抵抗していると言うことは効果がまるっきり無かったというわけではないようだな」
Tさんがそれを見て冷静に何かを呟き、
「サンタさん! お気を確かに!」
夢子ちゃんが心配そうに声を荒らげる。
「サンタ? ホントに居んの?」
「ああ、御老体は≪サンタ≫だ。ただし、少し変わり種でな」
Tさんは俺の場違い気味な疑問にさらりと答えると、俺をじいちゃんから遠ざけながら説明をしてくれた。
「彼は『サンタは双子であり、一人は紅白の衣装を着て良い子にプレゼントを配るサンタ。もう一人は黒と茶色の衣装を着て悪い子にお仕置きをするサンタ』という話から生まれた存在だ」
引き継ぐように夢子ちゃんが言う。
「でもこちらのサンタさんはその二人を一つの身体に内包しています」
「つまりは二重人格だ」
「それがなんであんな苦しそうなんだよ!」
そう言って地面に手をついているサンタのじいちゃんを指さす。
「バランスが崩れてしまっているんです」
「ばらんす?」
リカちゃんの疑問、Tさんはサンタのじいちゃんを示して、
「元来悪い子に仕置きをするだけだった黒いサンタの能力で子供を襲う類の都市伝説を屠っていたんだそうだ。そんなことをしていれば戦闘に慣れているはずがないサンタクロースだ。当然無理が出る。その結果、赤いサンタと黒いサンタの精神バランスが崩れた」
つまり、
「黒サンタが赤サンタを飲みこもうとしてるってことか?」
「概ねその通りだ。そして黒いサンタは暴走し、血を求め始めた。自身が守ろうとしていた子供たちの血も含めてな」
そこまで言ってTさんは夢子ちゃんを見る。夢子ちゃんは心得たように頷き、
「それで、≪夢の国≫に招いていた子供たちを襲いに来たんです」
いきなりびっくりなことを言ってくれた。
「止めようとしていたら正気を取り戻されたのでお話をお聞きして、Tさんたちならもしかしたらサンタさんを治してくれるのではないか。と思いまして」
「現在は発作的に黒サンタに乗っ取られるだけのようだが、その内完全に黒い殺人サンタになり果てるだろうからな。早急に手を打とうと考えた」
殺人サンタか、ゾッとしないなおい。
「たすけられるの?」
「どうなんだよ?」
矢継ぎ早に訊き出している内にサンタのじいちゃんが立ち上がった。
じいちゃんは顔をこちらに向け、笑顔で、
「メリークリスマス」
どこからともなく取り出した白い巨大な袋から蓑を身に付けた鬼みたいな奴を二体取り出した。
「クランプスか」
Tさんが鬼を見据えて身構え、夢子ちゃんに指示を出す。
「夢子ちゃん、≪夢の国≫を」
「はい」
瞬間、周囲の風景が変化した。辺りにあるのはアトラクションやカラフルな石畳、周囲にあるのは楽しげな無数の気配。
≪夢の国≫の中だった。
「御老体が疲労しているだけだと思っていたが、割と重症かもしれん――なっ!」
Tさんが光弾を放って鬼を牽制。
「理想としてはクリスマスイベントで楽しく過ごしていつの間にか治っているというものだったんだが」
「全然だめじゃねえか!」
突っ込むとTさんは、む、と真面目くさりながら、
「そのようだ。次の手でいく」
「そういやさっきもそんなこと言ってたな」
「こっちが本命だ。契約者、リカちゃん、夢子ちゃん。急いで持ってきて欲しい物がある」
それは――
「んなもん何に使うんだよ?」
言われた品物に俺が抗議の声を上げると、
「いえ、分かりました」
夢子ちゃんが了承した。
「やり方は分かるな? 急いでくれ。あまり老人虐待はしたくない」
「はい」
「説明無しかよっ!」
そう言って手を俺に差し出す夢子ちゃんに疑問はたくさんあるがとりあえず掴まる。
そして、
「行きます」
その場から消えた。
「少し歩こうか。夢子ちゃんがいれば≪パスポート≫で遊園地を経由する必要もないだろう」
Tさんがそう言って施設を出て、今の時期は使われていないプールの方へと足を進めていた。
カップルは大概南区の駅の方に行くし、家族連れは疲れた子供を背負ってそれぞれ家に帰っていく。それらの流れを無視してアミューズメントパークの周りを歩いているとすぐに人通りが目に見えて少なくなった。
Tさんは周囲を軽く見回すと一つ頷き、
「御老体、どうだろう?」
何かを訊ねた。
ニコラのじいちゃんは、ほほ、と申し訳なさそうに笑んで、
「やはり無理だったようじゃのぅ」
少し肩を落として答えた。
「そうか、では次の手でいこう。――出してくれ」
「大丈夫かの?」
「ああ」
二人の間で話が進んでいるみたいだけど俺には全然話が見えん。
「一体何の、――!?」
話をしているんだと訊こうとしてニコラのじいちゃんとTさんを振り向いて驚いた。
ニコラのじいちゃんの白い髭も髪も黒く染まって、着ていたコートがいつの間にか茶色と黒のサンタ衣装に変化していたのだ。
「な!?」
「おじいちゃん!?」
いきなり変身した?
思っているとじいちゃんは地面に膝をついて震え始めた。
「抵抗していると言うことは効果がまるっきり無かったというわけではないようだな」
Tさんがそれを見て冷静に何かを呟き、
「サンタさん! お気を確かに!」
夢子ちゃんが心配そうに声を荒らげる。
「サンタ? ホントに居んの?」
「ああ、御老体は≪サンタ≫だ。ただし、少し変わり種でな」
Tさんは俺の場違い気味な疑問にさらりと答えると、俺をじいちゃんから遠ざけながら説明をしてくれた。
「彼は『サンタは双子であり、一人は紅白の衣装を着て良い子にプレゼントを配るサンタ。もう一人は黒と茶色の衣装を着て悪い子にお仕置きをするサンタ』という話から生まれた存在だ」
引き継ぐように夢子ちゃんが言う。
「でもこちらのサンタさんはその二人を一つの身体に内包しています」
「つまりは二重人格だ」
「それがなんであんな苦しそうなんだよ!」
そう言って地面に手をついているサンタのじいちゃんを指さす。
「バランスが崩れてしまっているんです」
「ばらんす?」
リカちゃんの疑問、Tさんはサンタのじいちゃんを示して、
「元来悪い子に仕置きをするだけだった黒いサンタの能力で子供を襲う類の都市伝説を屠っていたんだそうだ。そんなことをしていれば戦闘に慣れているはずがないサンタクロースだ。当然無理が出る。その結果、赤いサンタと黒いサンタの精神バランスが崩れた」
つまり、
「黒サンタが赤サンタを飲みこもうとしてるってことか?」
「概ねその通りだ。そして黒いサンタは暴走し、血を求め始めた。自身が守ろうとしていた子供たちの血も含めてな」
そこまで言ってTさんは夢子ちゃんを見る。夢子ちゃんは心得たように頷き、
「それで、≪夢の国≫に招いていた子供たちを襲いに来たんです」
いきなりびっくりなことを言ってくれた。
「止めようとしていたら正気を取り戻されたのでお話をお聞きして、Tさんたちならもしかしたらサンタさんを治してくれるのではないか。と思いまして」
「現在は発作的に黒サンタに乗っ取られるだけのようだが、その内完全に黒い殺人サンタになり果てるだろうからな。早急に手を打とうと考えた」
殺人サンタか、ゾッとしないなおい。
「たすけられるの?」
「どうなんだよ?」
矢継ぎ早に訊き出している内にサンタのじいちゃんが立ち上がった。
じいちゃんは顔をこちらに向け、笑顔で、
「メリークリスマス」
どこからともなく取り出した白い巨大な袋から蓑を身に付けた鬼みたいな奴を二体取り出した。
「クランプスか」
Tさんが鬼を見据えて身構え、夢子ちゃんに指示を出す。
「夢子ちゃん、≪夢の国≫を」
「はい」
瞬間、周囲の風景が変化した。辺りにあるのはアトラクションやカラフルな石畳、周囲にあるのは楽しげな無数の気配。
≪夢の国≫の中だった。
「御老体が疲労しているだけだと思っていたが、割と重症かもしれん――なっ!」
Tさんが光弾を放って鬼を牽制。
「理想としてはクリスマスイベントで楽しく過ごしていつの間にか治っているというものだったんだが」
「全然だめじゃねえか!」
突っ込むとTさんは、む、と真面目くさりながら、
「そのようだ。次の手でいく」
「そういやさっきもそんなこと言ってたな」
「こっちが本命だ。契約者、リカちゃん、夢子ちゃん。急いで持ってきて欲しい物がある」
それは――
「んなもん何に使うんだよ?」
言われた品物に俺が抗議の声を上げると、
「いえ、分かりました」
夢子ちゃんが了承した。
「やり方は分かるな? 急いでくれ。あまり老人虐待はしたくない」
「はい」
「説明無しかよっ!」
そう言って手を俺に差し出す夢子ちゃんに疑問はたくさんあるがとりあえず掴まる。
そして、
「行きます」
その場から消えた。
●
契約者とリカちゃん、夢子が消えたのを確認して青年は一息、黒サンタへと声をかける。
「御老体」
「悪い子はぁ~、いないかのぅ?」
呼びかけに答えずにただその言葉のみ告げ、黒サンタは自らの左右に侍る鬼に指示を出した。
突撃、と。
指示を受け、鬼が二匹迫ってくる。青年はそれを確認しながら光を両の手に現す。
「契約者ならこう答えるだろうな」
左右の手をそれぞれ鬼に向けて、
「あんたが悪い子だよ! ――と」
発射された光弾が鬼に辺り、彼らを弾き飛ばした。
「消し飛ばすわけにもいかんか」
呟きながら視線を向けると、先程まで居た場所に黒サンタが居ない。
「悪い子はいないかの?」
彼は横にいた。手に持った袋が開いており、
そこから強い吸引の力が働いた。
青年の体が≪夢の国≫に設置されているベンチごと袋の方へと引きずられる。
「っ」
青年は腰を深く落とし、
強い強い脚力があれば幸せだっ、
祈り、跳んだ。
跳躍は青年の身をアトラクションの屋根の上にまで引き上げる。その身は袋の吸引領域から外れ、しかし、
眼前にクランプスの鬼面があった。
キ、ともヤ、ともつかぬ叫びを大音声で上げながら鬼面が青年に向かい牙を剥く。
対する青年は両の手を鬼面へと向け、
「破ぁ!!」
気合い一声。
絶妙に力加減をされた光弾に飛ばされ二体のクランプスが地面に叩きつけられた。
そのまま青年はアトラクションの一つの屋根に着地。
眼下では黒サンタが袋に手を突っ込み、
「悪い子にはお仕置きが必要だねぇ?」
黒光りする軽機関銃を構えた。
鉛玉のプレゼントか――あんなものが袋の中から出て来るようでは黒サンタが御老体の中で優位を占めるのも道理だな。
思う間に軽機関銃から連続で光が瞬く。
結界を展開してやり過ごしているといきなり声が響いた。
それはこの国を統べる王様の声で、
「御老体」
「悪い子はぁ~、いないかのぅ?」
呼びかけに答えずにただその言葉のみ告げ、黒サンタは自らの左右に侍る鬼に指示を出した。
突撃、と。
指示を受け、鬼が二匹迫ってくる。青年はそれを確認しながら光を両の手に現す。
「契約者ならこう答えるだろうな」
左右の手をそれぞれ鬼に向けて、
「あんたが悪い子だよ! ――と」
発射された光弾が鬼に辺り、彼らを弾き飛ばした。
「消し飛ばすわけにもいかんか」
呟きながら視線を向けると、先程まで居た場所に黒サンタが居ない。
「悪い子はいないかの?」
彼は横にいた。手に持った袋が開いており、
そこから強い吸引の力が働いた。
青年の体が≪夢の国≫に設置されているベンチごと袋の方へと引きずられる。
「っ」
青年は腰を深く落とし、
強い強い脚力があれば幸せだっ、
祈り、跳んだ。
跳躍は青年の身をアトラクションの屋根の上にまで引き上げる。その身は袋の吸引領域から外れ、しかし、
眼前にクランプスの鬼面があった。
キ、ともヤ、ともつかぬ叫びを大音声で上げながら鬼面が青年に向かい牙を剥く。
対する青年は両の手を鬼面へと向け、
「破ぁ!!」
気合い一声。
絶妙に力加減をされた光弾に飛ばされ二体のクランプスが地面に叩きつけられた。
そのまま青年はアトラクションの一つの屋根に着地。
眼下では黒サンタが袋に手を突っ込み、
「悪い子にはお仕置きが必要だねぇ?」
黒光りする軽機関銃を構えた。
鉛玉のプレゼントか――あんなものが袋の中から出て来るようでは黒サンタが御老体の中で優位を占めるのも道理だな。
思う間に軽機関銃から連続で光が瞬く。
結界を展開してやり過ごしているといきなり声が響いた。
それはこの国を統べる王様の声で、
『――ケンタくん9歳からのお手紙です!』
スピーカーもなしに≪夢の国≫中に不思議と響き渡る声。その声に黒サンタの動きが止まった。
その隙に何かを読む声が聞こえ始める。まず一枚目はリカちゃんの声で、
『さんたさん まいとし ありがとうございます からだにきをつけてください なの』
『続いて、ミタライさん46歳からのお手紙です』
次は契約者の少女の声で、
『貴方がたに夢をもらい、今自分が子供にそれをあげる立場になって貴方がたの存在を身近に感じています。これからもがんばってください』
もう一人、更に一人と語られていく。それはサンタクロースという存在に対する感謝と労いの言葉。
アミューズメントパークにあった手紙の入った箱の中身だ。
「聞こえるか? 御老体」
銃撃が止み、銃が取り落とされたのを見て、青年が声をかける。
その隙に何かを読む声が聞こえ始める。まず一枚目はリカちゃんの声で、
『さんたさん まいとし ありがとうございます からだにきをつけてください なの』
『続いて、ミタライさん46歳からのお手紙です』
次は契約者の少女の声で、
『貴方がたに夢をもらい、今自分が子供にそれをあげる立場になって貴方がたの存在を身近に感じています。これからもがんばってください』
もう一人、更に一人と語られていく。それはサンタクロースという存在に対する感謝と労いの言葉。
アミューズメントパークにあった手紙の入った箱の中身だ。
「聞こえるか? 御老体」
銃撃が止み、銃が取り落とされたのを見て、青年が声をかける。
ああ――
黒サンタは青年に返事はせず、宙に手を伸ばしている。それでも構わず青年は言い募る。
「こんなにも貴方を求める声があり、貴方を労う者がいる」
手紙は次々と朗読されていく。黒サンタはそれを一つ一つ噛みしめるように聴いていき、
「そうか、わしらはまだ、望まれておるか……」
独り言のように呟かれた言葉に青年は頷く。するとマスコットの一人がいつの間にか青年の横におり、彼に手紙を渡した。
青年は、ふむ、と面白そうに唸り、
「普段信じてなさそうな人間ですら貴方への感謝と期待は忘れていないようだぞ。『サンタさん、俺はもうあんたを無邪気に信じてるわけじゃねえけどもそれでもあんたには――』」
『てぃっ、Tさん! 俺のを読むんじゃねえっ!! ってかなんでそこにあんだよ!?』
焦ったような声が≪夢の国≫に響いた。その声を聞いて青年は笑み、
「まだまだ御老体にはがんばってもらわないといかんな。多少血に汚れたからといって心まで血を求めてくれるな」
黒サンタは俯き、言う。
「ああ――わかっておるよ」
「そうか」
青年は黒サンタに歩み寄る。
「青年、一度、わしを眠らせてくれんか? 嫌な夢を見ていたみたいじゃよ」
言葉を受けて青年の右腕に光が宿る。
「ああ――少し寝るがいいさ」
瞬間、拳が飛び、サンタの意識がブラックアウトした。
「こんなにも貴方を求める声があり、貴方を労う者がいる」
手紙は次々と朗読されていく。黒サンタはそれを一つ一つ噛みしめるように聴いていき、
「そうか、わしらはまだ、望まれておるか……」
独り言のように呟かれた言葉に青年は頷く。するとマスコットの一人がいつの間にか青年の横におり、彼に手紙を渡した。
青年は、ふむ、と面白そうに唸り、
「普段信じてなさそうな人間ですら貴方への感謝と期待は忘れていないようだぞ。『サンタさん、俺はもうあんたを無邪気に信じてるわけじゃねえけどもそれでもあんたには――』」
『てぃっ、Tさん! 俺のを読むんじゃねえっ!! ってかなんでそこにあんだよ!?』
焦ったような声が≪夢の国≫に響いた。その声を聞いて青年は笑み、
「まだまだ御老体にはがんばってもらわないといかんな。多少血に汚れたからといって心まで血を求めてくれるな」
黒サンタは俯き、言う。
「ああ――わかっておるよ」
「そうか」
青年は黒サンタに歩み寄る。
「青年、一度、わしを眠らせてくれんか? 嫌な夢を見ていたみたいじゃよ」
言葉を受けて青年の右腕に光が宿る。
「ああ――少し寝るがいいさ」
瞬間、拳が飛び、サンタの意識がブラックアウトした。
●
終わったようですよ。と夢子ちゃんが言った。
俺は手紙の朗読をやめてTさんとサンタのじいちゃんの所に走る。
そもそも手紙を読んで黒い方のサンタに聞かせりゃ大丈夫という作戦にひどく大丈夫じゃない物を感じるんだが、
「Tさん、サンタのじいちゃん、両方無事か?」
姿が見えるなり声をかける。Tさんの方はいたって無事っぽい。サンタのじいちゃんの方は、髪も髭も衣装も俺がよく知るサンタクロースになったサンタのじいちゃんが≪夢の国≫の住人の手で運ばれているところだった。
Tさんが俺に気付いて、
「契約者よ、住人たちに地下カジノへサンタの御老体を運んでもらおう」
そう言って夢子ちゃんに頼み、地下カジノへと飛んだ。
地下カジノは相変わらず騒がしかったけど俺たちがサンタのじいちゃんを抱えて戻ってくると途端に気を使ってくれてカジノの一角だけが落ち着いた空間になっていた。
地下カジノのソファで寝ていたじいちゃんは十分くらいで目を覚ました。自分の身体を確認するように触って、
「向こうとこちらのバランスがとれているようじゃ、迷惑をかけたのぅ」
黒とノーマルに何回か体の色を変化させて確認しながら、しみじみと言った。
「あんな手紙なんかでバランスなんてとれるもんなのか?」
ぽんぽん色が変わる様を面白いなと思いつつ、何よりの疑問をぶつけてみる。じいちゃんは目を細めて、
「普段プレゼントを渡しているだけではなかなか他者との交流も無くての、わしらのような人の目にあまりつくべきではない存在は特に、少し寂しかったのかもしれんのぅ」
少し沈んだ声で言った。
「じいちゃん……」
「ほっほ、あまり気にしないでくだされ」
明るく言ったものだ。
「おう、分かった」
深呼吸、それで努めてテンションを入れ替える。
「……よし、じゃあせっかくじいちゃんがサンタだと判明したんだからさっそくプレゼントを!」
「その前に持ってきた手紙を返してこい」
Tさんにずいと箱を押しつけられた。
「はーい」
頷き、走って扉に向かう。扉を開ければすぐそこにクリスマスツリーがあった。
俺は手紙の朗読をやめてTさんとサンタのじいちゃんの所に走る。
そもそも手紙を読んで黒い方のサンタに聞かせりゃ大丈夫という作戦にひどく大丈夫じゃない物を感じるんだが、
「Tさん、サンタのじいちゃん、両方無事か?」
姿が見えるなり声をかける。Tさんの方はいたって無事っぽい。サンタのじいちゃんの方は、髪も髭も衣装も俺がよく知るサンタクロースになったサンタのじいちゃんが≪夢の国≫の住人の手で運ばれているところだった。
Tさんが俺に気付いて、
「契約者よ、住人たちに地下カジノへサンタの御老体を運んでもらおう」
そう言って夢子ちゃんに頼み、地下カジノへと飛んだ。
地下カジノは相変わらず騒がしかったけど俺たちがサンタのじいちゃんを抱えて戻ってくると途端に気を使ってくれてカジノの一角だけが落ち着いた空間になっていた。
地下カジノのソファで寝ていたじいちゃんは十分くらいで目を覚ました。自分の身体を確認するように触って、
「向こうとこちらのバランスがとれているようじゃ、迷惑をかけたのぅ」
黒とノーマルに何回か体の色を変化させて確認しながら、しみじみと言った。
「あんな手紙なんかでバランスなんてとれるもんなのか?」
ぽんぽん色が変わる様を面白いなと思いつつ、何よりの疑問をぶつけてみる。じいちゃんは目を細めて、
「普段プレゼントを渡しているだけではなかなか他者との交流も無くての、わしらのような人の目にあまりつくべきではない存在は特に、少し寂しかったのかもしれんのぅ」
少し沈んだ声で言った。
「じいちゃん……」
「ほっほ、あまり気にしないでくだされ」
明るく言ったものだ。
「おう、分かった」
深呼吸、それで努めてテンションを入れ替える。
「……よし、じゃあせっかくじいちゃんがサンタだと判明したんだからさっそくプレゼントを!」
「その前に持ってきた手紙を返してこい」
Tさんにずいと箱を押しつけられた。
「はーい」
頷き、走って扉に向かう。扉を開ければすぐそこにクリスマスツリーがあった。
箱と便箋をしっかり元の場所に戻して帰ってきたら、夢子ちゃんもサンタのじいちゃんも、なにやら旅立とうとしているようだった。
「なんだ、もう行っちまうのか?」
「はい、私とサンタのおじいさんで今夜回っておくべき所は回って、めいっぱいにプレゼントを届けようと思って。夢を届けて回るのは私たちの存在意義ですから」
あーそういや12月24日、そろそろ25日か、はサンタさんが大活躍する日だよな。
「そっか」
忙しいな、と笑って言うと夢子ちゃんは迷惑をおかけしてそのまま行ってしまうことになって申し訳ありませんと丁寧に頭を下げて、
「それと」
そう言ってサンタ衣装のポケットから小さな包装紙を三つ取り出した。
「プレゼント、です。いろんなことのお礼に、こんなんじゃぜんぜん足りないけど」
おずおずと差し出されるそれを見てなんか嬉しくなる。
「おお、ありがと!」
「いただこう」
「ありがとうなの!」
三人それぞれもらっているとサンタのじいちゃんも、
「わしからもこれを」
と言って俺に何か差し出してきた。
「ありがとー、ってコイツぁ問題集じゃねえか! あ、なに黒サンタになってんだよじいちゃん!?」
いつの間にか黒サンタになっているじいちゃんを見て不満を訴える。
「流石はサンタクロース、契約者に必要なものをよく分かっておられる」
Tさんはしきりに頷いている。
「そこ、変なところで感心しない!!」
「ほっほっほ、冗談じゃよ」
言って、ノーマルサンタに戻ったじいちゃんが袋からまた別のプレゼントをくれた。
「問題集も含めて、わしらからのプレゼントじゃ」
「……なんか素直に礼を言えないのは何故だ?」
じいちゃんはほっほっほ、と上機嫌で笑っていた。
「なんだ、もう行っちまうのか?」
「はい、私とサンタのおじいさんで今夜回っておくべき所は回って、めいっぱいにプレゼントを届けようと思って。夢を届けて回るのは私たちの存在意義ですから」
あーそういや12月24日、そろそろ25日か、はサンタさんが大活躍する日だよな。
「そっか」
忙しいな、と笑って言うと夢子ちゃんは迷惑をおかけしてそのまま行ってしまうことになって申し訳ありませんと丁寧に頭を下げて、
「それと」
そう言ってサンタ衣装のポケットから小さな包装紙を三つ取り出した。
「プレゼント、です。いろんなことのお礼に、こんなんじゃぜんぜん足りないけど」
おずおずと差し出されるそれを見てなんか嬉しくなる。
「おお、ありがと!」
「いただこう」
「ありがとうなの!」
三人それぞれもらっているとサンタのじいちゃんも、
「わしからもこれを」
と言って俺に何か差し出してきた。
「ありがとー、ってコイツぁ問題集じゃねえか! あ、なに黒サンタになってんだよじいちゃん!?」
いつの間にか黒サンタになっているじいちゃんを見て不満を訴える。
「流石はサンタクロース、契約者に必要なものをよく分かっておられる」
Tさんはしきりに頷いている。
「そこ、変なところで感心しない!!」
「ほっほっほ、冗談じゃよ」
言って、ノーマルサンタに戻ったじいちゃんが袋からまた別のプレゼントをくれた。
「問題集も含めて、わしらからのプレゼントじゃ」
「……なんか素直に礼を言えないのは何故だ?」
じいちゃんはほっほっほ、と上機嫌で笑っていた。
「じゃあ行ってきます」
夢子ちゃんが告げる。
「いってらっしゃーい」
「気をつけろよな!」
「サンタの御老体は特に、あまり無茶をしすぎないよう」
「耳が痛いのぅ、でももしなにか危険が迫っている光景を見てしまったら黙って見ていることなどできないじゃろう?」
「む、まあ確かに。……それならば、また何かあったらここに来るといい。ここの姫君たちならばいつでも歓迎してくれるだろう。寂しさなど感じる暇もないほど姦しいがな」
「ほっほっほ、期待しておるよ」
そう言って夢子ちゃんの肩に手を置いたサンタのじいちゃんと夢子ちゃんの二人の姿は忽然と消えた。
夢子ちゃんが告げる。
「いってらっしゃーい」
「気をつけろよな!」
「サンタの御老体は特に、あまり無茶をしすぎないよう」
「耳が痛いのぅ、でももしなにか危険が迫っている光景を見てしまったら黙って見ていることなどできないじゃろう?」
「む、まあ確かに。……それならば、また何かあったらここに来るといい。ここの姫君たちならばいつでも歓迎してくれるだろう。寂しさなど感じる暇もないほど姦しいがな」
「ほっほっほ、期待しておるよ」
そう言って夢子ちゃんの肩に手を置いたサンタのじいちゃんと夢子ちゃんの二人の姿は忽然と消えた。
「本当にサンタさんって居たんだな」
「何をしみじみと言っているんだ?」
「いや、だってびっくりするだろ?」
家への帰り道、のんびりと歩きながら今日初めて知った、サンタは実在するという驚愕の事実についてTさんにいろいろとの話していた。
「お姉ちゃんはサンタのおじいちゃんはいないっておもってたの?」
リカちゃんが訊ねてくる。
「まあ、そうだな」
子供のための作り話だと思ってた。
「サンタクロースも家族とかそこら辺がなってるもんだとばかり思ってたよ」
「世の中、思ってもみないことが本当に起こるものだ」
Tさんが呟く。
「あー、うん、ここ二年位はよく思うな」
都市伝説と関わりを持つようになってから、特にそう思う。
「ところで契約者よ、その格好は気に入ったのか?」
「へ?」
Tさんに言われて自分の格好を見回す。
……サンタ衣装のままだった。
「しまったあああぁ!?」
アミューズメントパークの方へと振り返り、
「今から着替えに」
「行ったらまた姫君の着せ替え人形にされそうだな」
「う」
あそこは今すごいことになっている。地下カジノから出るとき、小人が頭を抱えていたのが印象的だ。
「このままでもいいの」
リカちゃんが言う。
「そうだな、このままでもいいな」
俺も半ば諦めてリカちゃんに賛同する。そして、
「Tさん、ずっと気付いてて言わなかったな?」
恨みがましく言うと、
「契約者がその格好を気に入ったものだと思っていたんだがな」
冷静に返された。
「ほら、早く帰ろう、そろそろ簡易結界も切れる」
「うわ、なんだか話を流された気分だ」
「お姉ちゃん、いそがないとさむくなるの」
「あーもう、分かったよ!」
家まで一気に走ることにした。御近所さんにこの恰好を見られるのは防ぎたいからな!
「何をしみじみと言っているんだ?」
「いや、だってびっくりするだろ?」
家への帰り道、のんびりと歩きながら今日初めて知った、サンタは実在するという驚愕の事実についてTさんにいろいろとの話していた。
「お姉ちゃんはサンタのおじいちゃんはいないっておもってたの?」
リカちゃんが訊ねてくる。
「まあ、そうだな」
子供のための作り話だと思ってた。
「サンタクロースも家族とかそこら辺がなってるもんだとばかり思ってたよ」
「世の中、思ってもみないことが本当に起こるものだ」
Tさんが呟く。
「あー、うん、ここ二年位はよく思うな」
都市伝説と関わりを持つようになってから、特にそう思う。
「ところで契約者よ、その格好は気に入ったのか?」
「へ?」
Tさんに言われて自分の格好を見回す。
……サンタ衣装のままだった。
「しまったあああぁ!?」
アミューズメントパークの方へと振り返り、
「今から着替えに」
「行ったらまた姫君の着せ替え人形にされそうだな」
「う」
あそこは今すごいことになっている。地下カジノから出るとき、小人が頭を抱えていたのが印象的だ。
「このままでもいいの」
リカちゃんが言う。
「そうだな、このままでもいいな」
俺も半ば諦めてリカちゃんに賛同する。そして、
「Tさん、ずっと気付いてて言わなかったな?」
恨みがましく言うと、
「契約者がその格好を気に入ったものだと思っていたんだがな」
冷静に返された。
「ほら、早く帰ろう、そろそろ簡易結界も切れる」
「うわ、なんだか話を流された気分だ」
「お姉ちゃん、いそがないとさむくなるの」
「あーもう、分かったよ!」
家まで一気に走ることにした。御近所さんにこの恰好を見られるのは防ぎたいからな!
眼前、走っていく契約者を眺め、次いで頭上を見上げ、青年は一人呟く。
「心遣いに感謝して、今宵一晩くらいはのんびりさせてもらおう、――メリークリスマス」
空から降る雪を見ながら笑みで呟かれる言葉を聞くものは居ない。
「おーい、Tさーん。置いてくぞー」
先行して走っていた契約者が振り返って呼ぶ声がする。青年はそれに答えながら一度胸ポケットを確認するように軽く叩く。 と、紙がなるような音がかさりと聞こえ、
「箱に手紙を返しそびれたな」
しまったしまったと言いながら先を行く人影を追って走りだした。
「心遣いに感謝して、今宵一晩くらいはのんびりさせてもらおう、――メリークリスマス」
空から降る雪を見ながら笑みで呟かれる言葉を聞くものは居ない。
「おーい、Tさーん。置いてくぞー」
先行して走っていた契約者が振り返って呼ぶ声がする。青年はそれに答えながら一度胸ポケットを確認するように軽く叩く。 と、紙がなるような音がかさりと聞こえ、
「箱に手紙を返しそびれたな」
しまったしまったと言いながら先を行く人影を追って走りだした。
『サンタさん、俺はもうあんたを無邪気に信じてるわけじゃねえけどもそれでもあんたには感謝してるぞ。
今は新しい頼りがいのある家族と暮らしてるんだけどさ、
小さい子供みたいのがいるんだ。今年は俺か、もう一人の家族があんたになんのかな?
だからあんたは少し休んでていいぞ。
メリークリスマスだ』
今は新しい頼りがいのある家族と暮らしてるんだけどさ、
小さい子供みたいのがいるんだ。今年は俺か、もう一人の家族があんたになんのかな?
だからあんたは少し休んでていいぞ。
メリークリスマスだ』
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恐怖のサンタ 01 【クリスマス前日】を受けてこぼれ話
幾名かのサンタがいる。ある契約者によって放たれた≪恐怖のサンタ≫だ。男女が共に居る姿を見つけてはその人の一番嫌いな物、見たくない物をプレゼントする彼らは今一組の男女と人形に目を付けていた。
「行こうか」
一人の声、それを合図に彼らはプレゼントをしようと動きだそうとして、――しかしどこかから視線を感じてその動きを止めた。
「――?」
右を向き、左を向き、頭上を振り仰いでもそこには何も居ない。
「?」
気のせいかと思い、再び動き出そうとして、
「!」
周囲に大量の気配を感じた。
先程気のせいだと思った気配だ。それは次第に数を増やし、楽しそうな、愉快げな雰囲気を振りまく。
はっきりとした姿は見えない、暗がりに潜むようにして存在しているそれら、
刻々と数を増していくそれらを感じて、サンタたちは緊張に身を固めた。
不意に、声がした。少女の声だ。
「せっかくの聖夜、あの人たちには迷惑をかけてしまった分、楽しく過ごしてもらいたいんです」
「まったくその通りじゃのぅ」
少女の声に相槌を打つ老人の声も聞こえ、
「だ、誰――」
誰何の声を上げようとしたサンタの正面に、いつの間にか二人の人影があった。
片方は紅白の、所々が短めなサンタ衣装を纏った少女、もう片方は黒と茶のサンタ衣装を纏った黒髪黒髭の老人、
「同族として恥ずかしいのう」
言って、老人、黒サンタはクランプスと呼ばれる鬼を≪恐怖のサンタ≫へと差し向けた。
「逃げ――」
一人のサンタが乗ろうとしたソリ、それを引くべきトナカイが百獣の王に追われていた。
別の一人が煙突を出現させてその場から逃げようとして、中から現れた黄色の熊の子の姿に驚く、
「な!?」
驚愕する≪恐怖のサンタ≫。
そんな彼らに声が聞こえた。
「行こうか」
一人の声、それを合図に彼らはプレゼントをしようと動きだそうとして、――しかしどこかから視線を感じてその動きを止めた。
「――?」
右を向き、左を向き、頭上を振り仰いでもそこには何も居ない。
「?」
気のせいかと思い、再び動き出そうとして、
「!」
周囲に大量の気配を感じた。
先程気のせいだと思った気配だ。それは次第に数を増やし、楽しそうな、愉快げな雰囲気を振りまく。
はっきりとした姿は見えない、暗がりに潜むようにして存在しているそれら、
刻々と数を増していくそれらを感じて、サンタたちは緊張に身を固めた。
不意に、声がした。少女の声だ。
「せっかくの聖夜、あの人たちには迷惑をかけてしまった分、楽しく過ごしてもらいたいんです」
「まったくその通りじゃのぅ」
少女の声に相槌を打つ老人の声も聞こえ、
「だ、誰――」
誰何の声を上げようとしたサンタの正面に、いつの間にか二人の人影があった。
片方は紅白の、所々が短めなサンタ衣装を纏った少女、もう片方は黒と茶のサンタ衣装を纏った黒髪黒髭の老人、
「同族として恥ずかしいのう」
言って、老人、黒サンタはクランプスと呼ばれる鬼を≪恐怖のサンタ≫へと差し向けた。
「逃げ――」
一人のサンタが乗ろうとしたソリ、それを引くべきトナカイが百獣の王に追われていた。
別の一人が煙突を出現させてその場から逃げようとして、中から現れた黄色の熊の子の姿に驚く、
「な!?」
驚愕する≪恐怖のサンタ≫。
そんな彼らに声が聞こえた。
「≪夢の国≫はね? 常にその領土を拡げているんだよ?」
声が聞こえた瞬間、目の前に広がる景色が一変した。そこはどこかの遊園地のような異界。――≪夢の国≫。
「あの方たちにせめて一晩の安寧を」
クランプスに捕まりそうになりながら≪恐怖のサンタ≫は袋から何かをとりだした。
それは、子供の惨殺死体。それに見える偽物だ。≪恐怖のサンタ≫はその人の一番嫌いな物、見たくない物をプレゼントする。つまりこれは相手の最も恐れるものであるはずだ。これを見せれば相手に隙ができるのではないか? そう思い、
「メリー、クリスマース! ……!?」
一人、二人、三人、四人――
次々と袋から漏れ出てくるそれは止まらない。それらを見て≪夢の国≫の王は呟いた。
「もう、こんな光景は見たくないね」
悲しげな声に周囲、≪夢の国≫の住人やマスコットの気配がざわりとざわめいた。
どこからともなく、空間から溶け出すようにパレードが現れる。悲しげな王を慰める様に、王を悲しませた輩を排除するように。
「大丈夫だよ、皆」
王は言って、子供の惨殺死体の偽物に半ば埋もれるようにしながらクランプスに掴まって暴れている≪恐怖のサンタ≫を見る。
横でクランプスに指示を出している黒サンタを窺って、
「サンタのおじいさん、私は彼らを消し去る気はないんですけど」
いいですか? と訊ねる声に頷き、
「お嬢ちゃんの好きなようにするといい」
黒サンタは穏和な笑みで言う。
ありがとうございますと返して夢子はクランプスに言った。
「すみません、そのサンタさんをあの建物の中に入れておいてください」
彼女が指さした先にあるのは999の魂がさまようというマンション。
「クリスマスが終わるまで、彼らには少し反省してもらいます」
≪夢の国≫の住人と二匹の鬼によって迅速に指示は遂行され、その日一日そのマンションから悲鳴が途絶えることはなかったという……
「あの方たちにせめて一晩の安寧を」
クランプスに捕まりそうになりながら≪恐怖のサンタ≫は袋から何かをとりだした。
それは、子供の惨殺死体。それに見える偽物だ。≪恐怖のサンタ≫はその人の一番嫌いな物、見たくない物をプレゼントする。つまりこれは相手の最も恐れるものであるはずだ。これを見せれば相手に隙ができるのではないか? そう思い、
「メリー、クリスマース! ……!?」
一人、二人、三人、四人――
次々と袋から漏れ出てくるそれは止まらない。それらを見て≪夢の国≫の王は呟いた。
「もう、こんな光景は見たくないね」
悲しげな声に周囲、≪夢の国≫の住人やマスコットの気配がざわりとざわめいた。
どこからともなく、空間から溶け出すようにパレードが現れる。悲しげな王を慰める様に、王を悲しませた輩を排除するように。
「大丈夫だよ、皆」
王は言って、子供の惨殺死体の偽物に半ば埋もれるようにしながらクランプスに掴まって暴れている≪恐怖のサンタ≫を見る。
横でクランプスに指示を出している黒サンタを窺って、
「サンタのおじいさん、私は彼らを消し去る気はないんですけど」
いいですか? と訊ねる声に頷き、
「お嬢ちゃんの好きなようにするといい」
黒サンタは穏和な笑みで言う。
ありがとうございますと返して夢子はクランプスに言った。
「すみません、そのサンタさんをあの建物の中に入れておいてください」
彼女が指さした先にあるのは999の魂がさまようというマンション。
「クリスマスが終わるまで、彼らには少し反省してもらいます」
≪夢の国≫の住人と二匹の鬼によって迅速に指示は遂行され、その日一日そのマンションから悲鳴が途絶えることはなかったという……