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連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-25b

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匿名ユーザー

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クリスマス~深まる誤解


 ちゃぷり。
 身体を洗い、熱めの湯船に浸かる。
 じんわりと、身体の芯にまで温かさが染み渡っていった。


 いろいろあって獄門寺君の家に泊めてもらうことになり、開かれるクリスマスパーティーの前にお母さんのご厚意でお風呂を貸してもらえることになった。
 そっちの道の人の家だけあって(?)所々にドスとかが置いてあるのが、軽くカルチャーショックだったり。
 パーティーにも参加させてもらえるとのことで、獄門寺君からは「濃い人ばかりだ」なんて忠告されたけど、それならたぶん大丈夫だと思う。
 実の孫が三メートル越えの人食いグリズリーに襲われてるのを笑って見てたり、この世で一番好きなことが息子をオモチャにすることだったり、会う度に実の息子に愛の言葉を囁いてきたり、「嫁に来い。婿でもいいけど」と真面目な顔で言ってきたりする人たちの中で育ってきたから、大抵のことは受け入れられる自信がある!
 ………自分で言っててなんだけど、なんて嫌な自信のつき方なんだ。
 ちなみに、順番で言うとじいちゃん、母さん、父さん、親友の順だ。
 一番親しい人が揃いも揃って変じ……じゃなくて変わり者というあたり、よく自分がこうもまともに育ったなあと思う。
 それはともかく、今こっちは、独りでお風呂に入っている。
 獄門寺君に「どうせなんだから、一緒にお風呂入らない?」と誘ったところ、にべもなく断られてしまったからだ。
 ………そのとき通りかかった人が「なんという、大胆な……っ!」と驚愕していたんだけど、いったいなんだったんだろう?
 それはともかくとして、いつもはクイちゃんと一緒にお風呂に入ってるから、少し寂しいような気もする。
 広い湯船の中、なんとなくはしっこで体操座りをしながらとりとめもなく考え事をするこっち。
 そうしているとつい、さっきのことが思い出される。
 獄門寺君に、妹さんがいた。
 それだけじゃない。
 妹さんは確かに「花子さん」と、そう言っていた。
 それはつまり、妹さんも、"そういう"ことに関わっているということで―――。

「―――いや」

 それは、こっちの役割じゃないだろう。
 友人の妹を心配するというのならともかく―――妹を護るのは、兄の役割だ。
 それに、"ぼく"たちとは違う。
 状況も、境遇も、想いも、在り方も―――なにもかも。
 だからきっと、大丈夫だと。
 心の底から、思う―――願う。

「―――妹、か」

 目に浮かぶのは、先程見た妹さんの姿。
 こっちたちよりも少し小さい……たぶん、中学生くらいの年齢だった。
 …………もし妹が生きていたら、どんな感じになっていただろうか?
 顔は………小さいころからよく間違われてたから、こっちとほとんど変わらないはず。
 じゃあ、身体付きはどうなっただろうか。
 中三あたりで一気に背が伸びたから、もしかしたらこっちが勝ってたかもしれないし……妹の方が背は高かったから、まだ負けたままだったかもしれない。
 ………そう、"かもしれない"。全部、ただの仮定に過ぎない。
 その無限にも等しい"かもしれない"はもう、永遠に失われてしまった―――。

「―――あれ、なんで」

 顔を覆うようにした両手のその指の間から、温かな雫が伝っていくのが感じられた。
 振り払うように目を擦り、ぎゅっと自分の身体を抱き締める。
 こんなことを思う資格は、ないかもしれない。
 こんなことを感じる権利も、ないのかもしれないけれど。

「…………羨ましい、なあ―――」

 ポツリと呟かれたその声は、浴室の中に立ち込める湯気に吸い込まれ、消えていった。



 身体の水気を拭き取り、髪を乾かして着替えを手に取る。
 可愛らしい白いデザインの下着にピンクを基調にしたパーカー、ふんわりとしたスカート。
 やっぱりどこからどう見ても、女物の服だ。

「………まあ、いいか」

 諦めて順に身に付けていく。
 なんだか最近女装に慣れてきてしまった気がする。
 そうでなかったとしても、少なくとも女物の服を身に付けるのにあまり違和感を感じなくはなった。
 これは順応性が高いんだと誇るべきか、単純にへこむべきか。
 誇っておいた方が精神的には楽だよなあとへこみつつ、廊下への扉を開く。

「お、あがってきたか」
「あ、ゴメン……待っててくれたの?」

 廊下に出ると、獄門寺君が壁にもたれて待っていてくれた。
 ずっと待っててくれてたんだろうか……だとしたら、なんだか申し訳ない。
 でも、獄門寺君はこっちのそんな気持ちを読み取ったように、

「ああ、パーティーの手伝いがちょうど終わったから来てみただけだから」

 そういって、パーティーが開かれる部屋へと案内してくれた。

「……そういえば、何で目元が赤くなってるんだ?」
「え、これ!? こ、これは………そう! ちょっと目を擦りすぎちゃって……」
「………まあ、いいけどな」

 そんなやり取りをかわしつつ、ぺたぺたと足音を立てて獄門寺君についていく。
 ここだ、と一言呟いてその部屋へと入っていく獄門寺君。
 それに続いて、こっちも部屋に入る。
 すると、そこは。

「―――わ、すご……!」
「……まあ、家自体が広いからな」

 獄門寺君、なんで冷静でいられるの―――ってそっか、元々住んでるからか。
 その部屋は、なんというか………お座敷だった。
 お座敷といっても、そんじょそこらのお座敷じゃあない。
 広い。さらに広い。とにかく広い。
 もう、広いとしか言い様のないくらい広かった。
 そして、でっかい。
 クリスマスツリーも机も皿も、片っ端からでっかかった。
 もうパーティーは始まっているようで、でっかい机に乗った数多くの和と洋が混ざりあった料理に、これまた多くの極道なお兄さんたちが舌鼓を打っていた。
 これはどこに座ったものかと悩むこっちの手を、獄門寺君が引っ張る。
 当然逆らう理由があるはずもなく、そのまま連れられていくこっち。
 ………なんだか視線が集まってる気がするんだけど、なんでだろう?
 首を傾げながら到着したその場所は、獄門寺君のご両親のすぐ傍だった。
 妹さんの姿もある。

「あ、えと……お風呂まで貸してくださって、ありがとうございます。その上泊めてももらえるなんて、なんてお礼を言ったらいいのか………」

 なにはともあれ、まずはお礼を言う。
 すると、

「いえいえいいのよ。 ねぇ、あなた?」
「おう。息子が初めて家に連れてきた―――だからな。存分に楽しんでいってくれ」

 ご両親からは暖かい言葉。
 えっと、じゃあ……ありがたく。
 両手を合わせて、いただきますをする。
 手を伸ばし、お刺身を一切れ口に入れる。
 ―――おいしい。



 ―――しばらく、時間が経って。
 クリスマスパーティーだったはずが、今ではなぜか組員さんたちの飲み会となっていた。

「それにしても、息子がこんな別嬪さんを連れてくるとは!」
「あ、あはは……」
「………まあ、もう、何も言うまい」

 いい感じにほろ酔いなお父さんにニコニコ笑っているお母さん、疲れた様子の獄門寺君にちらちらこっちを見てくる妹さん、そして賑やかな組員さんたち。
 こういうのはやっぱり、人数が多ければ多いほど楽しいものだと思う。
 家のものより遥かに豪華な料理の数々に―――でも、味は負けていないはず……というか、そう思いたい―――頬を綻ばせていると、お父さんがこちらを見つめてきた。
 思いがけず真剣な眼差しに、思わず背筋が伸びる。
 そして、お父さんは口を開いた。

「―――息子のことを、どう思っている?」

 ふと気づくと、周りの組員さんたちまでがこっちのことを見つめていた。
 逆に、獄門寺君と妹さんは少し戸惑っているようだ。
 お母さんはといえば、相変わらずニコーとしたまま。
 ………む。これは……試されているのだろうか?
 仁義とかを大切にする分、こうやって友達になるにしろ、それなりのものを示さなきゃいけないのかもしれない。
 そう考え、お父さんの目を正面から見つめ返す。
 試されてるのなら―――認めさせてやろうじゃないか!

「獄門寺君のことは―――好きです」

 これは、偽らざるこっちの本音だ。
 獄門寺君のことは、友達として本気で好きだと思っている。
 答えたあともお父さんからは目を逸らさない―――ここで逸らしてしまったら、きっと"負け"だ。

「……こんな大人数を前に、言い切る、だと………?」
「なんと男前な……若は良い人を見つけなさった」

 周囲から聞こえる呟きをBGMに、しばし見つめ合い―――そして、お父さんはコクリと頷いた。
 真面目なものだった表情も緩んでいる……認めて、もらえたんだろうか?

「……うむ。そんなに真っ直ぐな言葉をぶつけられては、認めるしか―――「私は反対です、組長」

 お父さんが言葉を遮って、組員さんの一人が立ち上がった。
 その顔つきは鋭く、細身な身体もしっかりと鍛えられていることがわかる。

「……犬塚」
「こんな何処の馬の骨とも判らぬ輩が、若の―――などと。そう言うのならば、せめてそれなりのものを見せてもらわなければ、納得は出来かねます」

 鋭い目で、これまた鋭い目線をこっちに向けてくる組員さん―――犬塚さんというらしい。
 ………なるほど、獄門寺君が友達を家に連れてきたくなかった理由にはこういうのもあるのか。
 自分の力を示さなきゃ、友達とも認められないなんて……これが極道の世界なんだろうか。
 未だに向けられ続ける犬塚さんの視線を真っ向から受け止め、すっくと立ち上がる。
 不安そうにこっちを見ている獄門寺君に、大丈夫! という意味で親指を立てるのも忘れない。
 ………その獄門寺君が「いや、そうじゃなくて、確実に二人とも誤解だろ……」みたいなことを呟いている気もするけど、そんなことは気にしない!

「じゃあ、"それなりの力"を見せれば、獄門寺君との仲を認めて頂けるんですね?」
「まあ、そういうことになりますね。組長は納得しているみたいですが……私を納得させるだけのものを、見せて頂きたいのです」
「わかりました。方法は―――やっぱり、"これ"で?」

 ぐっ、と握り拳を突きだしながら言うと、もちろんだとでもいうかのように頷かれた。
 同時に有志の組員さんたちによって机がずらされ、相応のスペースが作られる。
 ………うん、なんか燃えてきた。

「………どう思う?」
「いや、ああ言ったってことは自信はあるんだろうが……相手が犬塚さんだからな」
「あらあら、元気ねぇ」
「……兄貴、本当にどうなってるの?」
「………正直、俺にもよくわからん……というか、長くなりそうだからな………」

 周りを囲む組員さんたちと獄門寺君一家の声を聞きながら、こっちは犬塚さんと相対する。
 こういう試合みたいなのはほぼ一年ぶりだからなあ……思わずミスらなかったらいいけど。
 頭の中でイメージするこっちに、犬塚さんが話しかけてきた。

「では、始めますが……手加減は?」

 ………なんか舐められてる気がするのは、気のせいじゃないと思う。

「もちろん、要りませんよ―――こっちもする気はありませんから」
「………そうですか。ですがこちらは試す者、何らかのハンデは必要です―――」

 犬塚さんはそう言うと両腕を上げ、

「―――そちらから、いつでもどうぞ」

 身体の前面で構え、リズムを刻み始めた。
 構えは、ボクシング。
 今の発言を考慮すれば、相当腕は立つんだろう。
 でも、獄門寺君との友人関係を認めてもらうためだ……やるしか、ない。
 覚悟を決め、こっちも構えをとる。
 その構えは、

「………ほう」

 相手と同じ、ボクシングスタイル。
 ………とはいっても、正直にぶつかる気はないけれど。
 フットワークを使いながら睨み合う。
 周りのだれかの喉がゴクリと鳴り―――その瞬間、こっちは動いた。
 上半身を左右に振り、踏み込んでいく。
 それに答えるように犬塚さんの身体に力が入り……でもその力は発揮されることはない。

「―――っく!?」

 犬塚さんの膝がガクンと落ちた。
 理由はごく単純だ。
 こっちの右足の踵が、犬塚さんの右の腿を打ち抜いたという、ただそれだけ。
 でもたかが腿、されど腿。
 腿を強く打たれると、しばらく上手く足が動かせなくなる……人体の都合上、それは避けられないはずだ。
 蹴りがないボクシングだと見せかけての、不意打ちの前蹴り。
 相手の手の内を知らない状況での手合わせである以上、卑怯だなんて言わせない。
 前蹴りから続いて外回し蹴り―――でも、首を反らして避けられる。
 だけど、それだけでは終わらない。
 腰を入れず振り回すように繰り出すからこそ可能な、高速の連続回し蹴り。
 今の外回し蹴りに繋げ、内回し蹴りを放つ―――が、

「この、程度では……っ!」

 足が落ちるのを堪えた犬塚さんはそれを受け止める。
 元々腰が入っていなくて遠心力だけで打ってるようなものだから、止められるのは当然だ。
 ―――だからこそ、本番はここから。
 こっちの蹴りを受け止めたことで多少余裕の出ていた犬塚さんの顔が、驚愕に歪む。
 蹴りを受け止められたこっち。
 でもその回転は止まることなく、身体を捻り、再び左の足が顔面を狙ったからだ。
 犬塚さんの顔面を薙ぐような軌道で迫っていく踵。
 それを驚愕の余韻を表情に残しながらも、回避しようとする犬塚さん。
 そして、こっちの足に伝わってきたのは―――うっすらとした、人の皮膚をかする感触だった。

 ―――外した。こうなったらもう、落ちていく間に一撃を入れて、終わり―――。

 顔は見えないけれど、犬塚さんはきっとそう思ってるだろう。
 身体が回転しきり、犬塚さんの姿が視界に入った。
 ………思った通り。
 空中に浮いたままのこっちを仕留めるため、右のストレートを放とうとしている。
 ただ蹴りを外しただけだったら、ここで顎を打ち抜かれて終わるしかない。
 でも―――こっちにとっては予測済みの、"そう"誘った一撃だ。
 そして、腰の捻りから一気に繰り出される、拳―――疾い。
 けどどんなに疾くても、わかってさえいれば避けられる。
 首だけでなく腰までを反らし、突き出された拳を回避。
 鼻先を掠めたけど……気にするほどのことでもない。
 ストレートを放ち、伸びきって一瞬動きを止める腕を、両手で握って捕まえた。
 これであとはもう、腕を腕に絡め、足を身体にかけてしまいさえすれば、腕ひしぎの完成になる。
 腕一本で人一人分の体重を支えることなんて普通はできないし、パンチを打った瞬間のバランスが崩れている状態なら尚更だ。
 つまり―――勝った。
 そう確信した、その時。

「―――なっ……!?」

 腕を捕まえ、腕ひしぎをかけるまではほんのゼロコンマ何秒の世界。
 その、一瞬。
 一瞬で犬塚さんは、こっちの手から逃れてみせた。
 腕を掴んだ瞬間、まだ掴みが甘いその隙を突いて腕を回転させ、無理矢理こっちの手を引き剥がして腕を引き抜いた。
 決定的なチャンスを逃した………いや、潰されたこっちが畳へと落ち、身を返して立ち上がるのと、バックステップで距離をとった犬塚さんが構えるのとはほぼ同時。
 ………それにしてもまさか、これでしくじるとは思わなかった。
 相手のパンチに対応して繰り出す、カウンター型のサブミッション(関節技)。
 相手の技を見切って出す以上、ただでさえ抜けるのは難しいし、その上初見では読まれることもないと言っていい。
 一度見せるまでは確実にかけられる技だから、今ここで使おうと思ったわけなんだけど……犬塚さんの腕は、こっちの予想を遥かに越えていたみたいだ。

「………最初、ボクシングの構えをとったかと思えばその実質は空手。それを凌ぎきったかと反撃してみれば今度は関節、そして次は中国拳法ですか」

 これは思ったよりきついということでまた違った構えをとっていたこっちに、犬塚さんは呟いた。
 犬塚さんのストレートはかすっただけのはずなのに、鼻の頭がヒリヒリする。
 まともにもらったら、たぶん痛いくらいじゃ済まないんだろうなあ。
 勝つため、さらに戦いのイメージを組み上げていくこっち。
 それに対する犬塚さんの方はというと、鋭かった目線がかなり柔らかいものとなっていた。

「その歳で複数の技術を使いこなし、動きのキレや読み、目も十分。さらにまだ打てる手があるとは………これは私も脱帽ものですね」

 ……って、脱帽?
 え、ということは………?

「認める……いや、そもそも組長が認めていたのに横から口を出したのは私ですから、こう言うのが正しいでしょう―――若を、頼みます」

 ………認められた。
 その上、けっこうベタ褒め気味だった。
 ……おお、なんだか思いがけず嬉しい感じ……!
 気分が舞い上がるこっちにつられるように、いつのまにかギャラリーのテンションも最高潮に達していて、わっと歓声があがった。
 周囲の酔いが加速する中、犬塚さんがこっちに近づいてきて、握手を求めてくる。
 当然ながらこっちもそれに応え、互いに言葉を交わした。

「一体どう鍛えられたらそうなるのか、興味はありますが……今この場では止めておきましょう。それより……そんなに、若のことを想ってらっしゃるので?」
「当たり前です、獄門寺君のことは好きですから。末永くお付き合いさせてもらいたいです」
「そう、ですか。私にとっても、若は息子のようなもの。ですから―――改めて、若をよろしくお頼みします」
「あっ、はい、こちらこそ。えっと……みなさん。ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 丁寧に、畳に指をついて頭を下げられた。
 慌ててその動作を返す。
 ………なんとか、獄門寺君の友達でいられるようになって、よかった。
 そう思い、肝心の獄門寺君のことを探す。
 机が戻され、飲み会というかむしろ宴会となりつつある中で、獄門寺君はお父さんや組員さんたちに囲まれていた。
 その表情がなんだか頭痛を堪えているような表情で、? とこっちは首を傾げる。
 さらに盛り上がるクリスマスパーティーという名の宴会。
 賑やかながらも少しずつ、夜は更けていく―――。




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