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連載 - 正義の鉄槌-02

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正義の鉄槌 日常編 02



 ――――深夜の住宅街。
 俺と彼女は、いつものように夜警に当たっていました。

「兄貴になまはげにシンデレラおばさん……この町へ来てからまだ2日しか経ってないのに、遭遇した都市伝説は3人、ですか……」
「…………多い」

 俺の言葉に、隣にいる彼女が頷いてくれます。
 大体10年ほど前から共に行動を始めた彼女……名前はアリスと言います。
 ちらりと横を見れば、まず目に入ってくるのは腰まで伸びる長い金色の髪と、蒼い目。暗い夜でも、彼女が日本人出ない事は一目でわかるでしょう。
 ……と言って、彼女の国籍は日本の、しかも生粋の外人ではなく日本人と英人のハーフだと言うのですから、人間は外見で判断できませんね、全く。
 ちなみに年齢は14歳ですが、童顔の関係で一見すると小学生にも見えます。本当に、人間は外見で判断できないものです。

「…………何?」

 少しの間見つめていたからでしょうか。その視線に気づいたアリスが尋ねてきました。

「ああいえ、ただちょっと見とれていただけですよ」
「…………そう」

 真顔で答えた俺に、アリスの頬が少し朱に染まったのが、この暗さでも分かります。
 ……ああもう、可愛いなぁ、全く!
 ここがもし屋内だったら遠慮なく抱きしめている所ですが……不幸な事に今俺達がいるのは町中で、しかもそろそろ日を越そうかという深夜。
 ただでさえ警官に見つかれば補導される様な時間です。もし今アリスに抱きつく所を見られでもしたら、ロリコンなんて不名誉な称号と共に余生を過ごす事になるでしょう。
 まぁ、アリスは実際俺の彼女なわけですから、そう言われても仕方ないのかもしれませんが……。
 ……いや待って下さい。彼女なら俺が抱きついても問題はないんじゃないんでしょうか?
 ああいやしかしこの国の警察相手となると弁解の一つも聞いてもらえなそうですし……。

「…………あ」

 悶絶する俺をよそに、アリスが小さく声を洩らしました。
 その視線が、とある方角に固定されています。

「どうしました?」

 アリスの視線を辿り、住宅街の一角へと目を移します。
 その視線の先、暗がりから姿を現したのは――――

「……口裂け女?」

 膝まで覆う長いコートに、顔の半分を覆うマスク。
 その姿格好だけ見れば口裂け女のそれですが……。

「…………でも、男」

 ……そう、短髪に広い肩幅。少し優男の部類に入るような体格ですが、そのコートを来ているのは間違いなく男性でした。
 口裂け男なんて聞いた事はありませんが……。
 警戒する俺たちに向かって、男が口を開きました。

「――俺、イケメン?」
「………………」
「………………」

 ……何と言えばいいのやら。
 恐らくこの男性、口裂け男でまず間違いはないでしょう。
 しかしまさか「イケメン」かどうかを問われるとは思いませんでした。
 普通の口裂け女なら「それなりに」と答えれば正解なはずです。
 しかしもしそう答えたとして、「それなりに」イケメンって何でしょう。それは日本語として成立しているんでしょうか。
 しかし口裂け男はずっとこちらを見つめて立っています。ずっと待たせるわけにもいきません。
 制限時間があるのかどうかは知りませんが、試しに聞いてみるのもいいでしょう。

「ええと――――」

 口を開き、言葉を紡ごうとすると

「ああいや言わなくて良いんだ少年。俺がイケメンなのは自分でもわかってるよ。しかし聞かなくては俺の都市伝説としての存在意義にかかわってしまってね。大俺がイケメンなのは分かり切っているのにイケメンかどうかを尋ねるのはどうかと思わないか?そもそもイケメン都市伝説として生まれてきた時点で俺がイケメンなのは明らかなわけで――――」

 ……マシンガンのような言葉が、口裂け男から飛び出してきました。
 何と言っているのかは分かりませんが、数秒に一回「イケメン」と言う単語が出ている所を見ると、どうやら自分の容姿について語っているようです。
 そこから推測するに、恐らくこの男性は自分大好き、つまるところ「ナルシスト」と言う部類の人間なんでしょう。
 ――出来れば関わり合いになりたくない人種の方ですね、はい。
 そんな彼にどう対応していいのか俺には分かりません。むしろ出来れば対応したくありません。
 と言うより、質問をした後に延々と自分語りを始める彼はある意味人畜無害なんじゃないのでしょうか?
 ……ふむ、どこぞの誰がこんなナルシストな口裂け男の話題を流し、作ったのかは知りませんが、これはもしかして退治しなくてもよい都市伝説なのでしょうか。

「……アリスは、どう――――」
「…………不細工」
「――――思いますか……って何を言っているんですか、君は」

 ああほら、言われた口裂け男が固まっているじゃありませんか。
 ギギギギ、と音がしそうな程ぎこちない動作で口を上げる彼。

「君……今何と言ったんだね」
「ああいや何でも無いんですよ何でも。ですから自分語りでも何でも勝手にやっていてくれれば、ね。……ほら、アリスも何か言って」
「…………不細工」
「はうあっ!?」
「そうじゃないーっ?!」

 崩れ落ちる口裂け男。
 その手が懐から何か光る物を取り出してますが……そうですよね、口裂けと名がつくには持っているんでしょうね。

「ふ、ふふふふふふ…………」

 懐から出したそれは、よく研がれた大きな鋏。
 そしてそれが向けられた先は……アリス。

「てめぇも同じ顔にしてやろうかーーっ!!!」

 そう言って、口裂け男がアリスに向かって鋏を振りかぶりました。
 ……これがもし普通の男女なら、俺が身を呈してアリスを守る場面。
 ですが、彼女にはそんな援護は必要ないでしょう。
 殺意を向けられたアリスは、両手を上に上げて、一言呟きました。

「…………カンガルーさん」

 同時に響く、ズン、と言う重い音。
 どこか異空間から現れた「それ」を見て、口裂け男がマスクの裏で口を大きく開けているのが分かります。

「……何だ、これ」

 「それ」は、全長5メートルは超えようかという、カンガルー。
 月明かりが、そのビル数階分にも及ぶ身長を強調しています。
 さもの口裂け男も圧倒されているようでした。
 ……と、言うか

「――住宅地でこんな大きな生物を出したら駄目だと言っているでしょう? アリス」

 今はまだ気付かれていませんが、もしこんなカンガルーがここの住民に目撃されれば、大騒ぎになる事必死です。
 そんな事になれば「組織」が動くでしょうし、俺達にその目が向く可能性もあります。
 まだこの町へ越してきてから2日。出来ればまた引っ越しなんて事態にはしたくありません。
 ですから――――

「もっと小さな動物にしなさい」
「…………分かった」

 不服そうに、それでもアリスは頷いて、手を自分の胸の高さまで降ろしました。
 そしてその手をパンッ!と叩くと

「消えていく…………」

 どこか異空間へと消えていくカンガルー。
 それを見て、口裂け男がポカンと口を開けていました。
 ……というか、あんなに開くんですか、あの口。顔の半分以上覆っちゃってるじゃないですか。

「…………クロオオアリさん」

 呆ける口裂け男を無視して、アリスが再び両手を上に上げ、呟きました。
 それと同時に彼の目の前に出現する、黒い物体。
 次に出現したのは、先程のカンガルーよりは小さい、全長1メートル程の蟻。
 ……まぁ、これなら許容範囲でしょうが……

「……比率、おかしくないですか?」

 確か通常の蟻の全長は、大きいものでも数センチ程度。
 先程のカンガルーが通常の2、3倍の大きさだとすれば、この蟻は恐らく通常の何十倍もの大きさを誇っているはずです。
 しかし、それに対するアリスの答えは

「…………大丈夫」

 と言う、たったの一言。
 一体何が大丈夫なんでしょうか。
 時々彼女の思考がよく分からなくなる事があります。
 ……これが「女心」なのでしょうか。
 なるほど、複雑です。

「はっ、今度は何かと思えば、蟻ちゃんか」

 新たに現れた動物……と言うより、昆虫を見て、おかしそうに笑う口裂け男。
 あぁ、笑っても顔の半分を覆うのですね、あの口は。

「駄目だなぁ、全然イケメンじゃないじゃないか、君。俺を見習い給え。そんなんじゃ俺に勝てるようになるのに後10年……いや、100年はかかるよ?」

 ポンポンと蟻の肩を叩きながら、口裂け男は笑い続けています。
 正直、言っている内容の意味はよくわかりません。
 彼にとっての「強さ」は「イケメン」に比例でもするのでしょうか。
 いや、確かにこの世は「※ただしイケメンに限る」などと言われているご時世。
 もしかしたらその等式も正しいのかもしれません。
 が、どう考えてもこの場でその等式が成り立つわけがない、と言うよりも成り立つはずがないと思うのですが……。

 ――――ガシリ、と。

「…………お?」

 肩に置かれた腕を取る蟻。
 その様子を、口裂け男は不思議そうに見つめていました。
 どこか、呆気にとられたような様子で。

「ふ、ふふ……あ、蟻にしては力強いじゃないか」

 プルプルと、口裂け男は腕を引き抜こうとしています。
 しかし、全く動かない腕。
 と言うよりむしろ、段々とその締りがきつくなっているような、いないような。
 ギリギリと言う音が聞こえるような、聞こえないような。

「あっ、ちょっ、い……痛くはない、痛くはないんだが……は、離してくれると、お兄さん嬉しいなぁ?」

 ギリギリギリギリギリ……

「い、いや? 痛くはないんだよ? でも、出来ればちょーと離してくれるだけでも……」

 ギリギリギリギリギリ……

「い、痛くない! 痛くないぞ! こ、このイケメンの俺にかかれば、これくらい……」

 ギリギリギリギリギリ……

「やっぱり痛いですすいませんごめんなさいちょっと離してくれませんかお願いします」

 うわ、弱ぇ……。

「あ、アリス? ちょーっとやり過ぎなような気がしなくもないんですが……」
「…………やっちゃえ」

 わーお、なんて非情!
 天国のお父さん、お母さん、女の人って怖いとです……。
 ……いや、まだ死んでませんでしたっけ、俺の両親。

「ちょっ、タンマっ! 来ないでっ! 離したのはいいけど何で顎向けてるの、君! 無理! 俺おいしくない! おいしくないよーっ!?」

 一人自分のツッコミを入れていると、どうやら話が進展したのか口裂け男が何やら叫んでいます。
 ……何やら「おいしくない」がどうのこうのとか不穏な単語が聞こえてきたのは気のせいでしょうか。

「何やってるんですか? あれ……」
「…………捕食」

 ……聞かなければよかった。
 その間も、むしゃむしゃとかパクパクとかぼりぼりとか色々な音が聞こえてきます。
 ……何の、どの部位を食べる音かはご想像にお任せしましょう。

「いやっ! 生きたまま食われるなんて嫌ーっ!?」

 その日の夜数時間、町中に響いた絶叫。
 後に「夜道を歩いていると人の叫び声が聞こえてくる」なんて都市伝説が誕生したらしいですが……。
 それはまた、別のお話。

【終】 



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