「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 正義の鉄槌-01

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uranaishi

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正義の鉄槌 日常編 01



 ――――君たちは、何か都市伝説を知っていますか?
 トイレの花子さんのような怪談でも、角を曲がるとパンを咥えた女の子に出会う、なんて非現実的な物でも構いません。
 ともすれば、恐らく君たちの答えは一つ……「YES」、これだけでしょう。
 ……しかし、君たちはその先の、こんな事まで知っていますか?
 都市伝説は実在し、彼らは単身、または契約者を得て、この世界を跋扈しているという事を……。

「――この町、本当に都市伝説の気配が濃いですね……」

 今、俺がいるのはその世界の中でも特に都市伝説が多いとされる、学校町。
 その一角、西区と言う工場地帯を中心に、俺は歩いていた。

 ……え? 何でそんな所を歩いているのかって?
 それはもちろん、悪い都市伝説を退治する為に決まってるじゃないですか、ねぇ?
 この世の中に存在している都市伝説の中には、殺人、傷害を厭わない者たちが数多く存在するわけでして。
 と言うより、そもそも元となった都市伝説の大半がそう言った殺人や傷害のお話ですから、彼らがそのような行為をするのは何ら不自然ではありません。
 ただまぁ、ほら、そんな風に人が殺され続けるのを黙って見ているわけにもいかないじゃないですか?
 だから、俺のような「正義の味方」が、そういった悪い都市伝説を退治するわけです。

「――っとと、早速どなたかがこちらへやってきますね、はい」

 工場の一角、ある廃工場の横から、都市伝説の気配が気配が近づいてきています。
 この町へ来てから二度目の都市伝説との遭遇に、胸が高鳴りますね、はい!
 ……え? 一度目は誰だったんだって?
 ええ、そうでしょうとも、「二度目」何て言われれば、一度目が気になるのは自然な事でしょうとも。
 …………出来れば訊いて欲しくはありませんでしたが。
 ああいえ、別に話したくないわけじゃないんですよ? ただ出来ればあの記憶は封印しておきたいわけでして……。
 だってそうでしょう? 町へ来て初めて出会った記念すべき都市伝説が全裸の、しかも翼を生やした兄貴だったなんて、一体誰が記憶に留めて置きたいのでしょうか?(反語)

 ……いやいや、そんな思い出したくもない過去を振り返っている場合ではありません。
 今この時も、着々と迫ってきている都市伝説の気配、そうです、それが最重要じゃありませんか。

「ああ、願わくば今度の都市伝説は全裸じゃありませんように……」

 呟く俺の言葉に呼応するかのように、都市伝説が工場の角へと入ってきました。
 同時に、聞こえてくる彼の声。

「悪ぃコは……いねーがーっ……」

 角から現れたのは、赤い鬼の面を被った大柄な男。
 体中を蓑で覆い、その手には巨大な出刃包丁を持っています。
 加えてあの台詞とくれば……もう、皆さんお分かりでしょう?
 そう、この町に来て二度目に出会った都市伝説、姿を現したそれは秋田県出身の都市伝説「なまはげ」
 ただ、確か本家秋田のなまはげは「『泣くコは』いねーがー」と言うはずですから、彼はきっとこの町オリジナルのなまはげさんでしょう。
 どこのどなたかそのような噂が広め、そして彼が生まれたのかは知りませんが、「悪い子はいないか」とはまたいい台詞ですね。
 つまり彼が捜しているのは「悪」。そしてそれを探す彼は「正義」なのでしょう。
 そして俺は自称ながらも「正義の味方」。つまり彼の同士ですね。
 ああ……こんなにも早く目的を同じくする同士と出会えるなんて、これはきっと天から授けられた出会い、まさに運命に違いありません。

「これが運命なのですね、同士よ! 何とエキサイティング、何とエクセレント!」

 もろ手を上げ、なまはげに向かって叫ぶと、彼はこちらに気付いたように顔を俺へと向けました。

「悪ぃコは……いねーがっ……!」

 そのまま出刃包丁を大きく振りかぶり、なまはげが俺の元へと駆け寄ってきます。
 きっと彼も同士に出会えた事に感動し、その感動を表現しようとハグを求めているに違いありません。
 ああ、いいでしょうとも。あの兄貴からのハグには精一杯抵抗しましたが、あなたになら少しは構わないでしょうとも!
 彼女がいる身としてはあまり褒められた行為ではありませんが、きっとアリスなら許してくれるでしょう、多分。

「悪ぃコは……いねーがっ……!」

 出刃包丁を振りまわしながら、駆けてくるなまはげ。
 それを出迎えようと、俺も大きく手を広げて待ち構えます。

「悪ぃコは……いねーがっ……!」

 俺との距離が数メートルになっても、なまはげは出刃包丁を振りまわすのを止めません。
 ……あれ? このままだと彼の包丁が俺の首を刎ねませんか?
 いや、きっと彼なりの愛情表現に違いありません。疑うのはいけませんよね、はい。
 そして、彼との距離が1メートル程に迫り

「悪ぃコは……いねーがぁっ!!」
「さあ、あなたの愛情、受け止めましょう!」

 両手を広げて彼を待ち受ける俺と……出刃包丁を大きく振りかぶるなまはげ。
 これは……そのまま振りおろせば、俺の頭に確実にクリーンヒットする事でしょう。

「……って、え? ちょっ、それ、危ないっ?!」
「悪ぃコはいねーがぁぁーーーっ!!!」

 叫び、なまはげが出刃包丁を振り下ろす。

「きゃーっ! 暴力反対ーっ!!」

 俺はそれを、頭を抱えて慌てて避ける。だって当たったら痛いじゃないですか。
 避ける際ちょっと正義の味方らしからぬ言葉が出たような気もしますが……気にしない事にしましょう。うん、それがいい。
 と言うか、どれだけ力強いのか知りませんが、なまはげの放った一撃で、出刃包丁がアスファルトで舗装された道路に刺さってます。
 もし当たっていたらきっと痛い所の騒ぎではなかった事でしょう。

「うっわ、当たったら死にますから、それ!」
「悪ぃコは……いねーがぁっ……」

 俺の必死の叫びにも応じず、なまはげは道路から出刃包丁を引っこ抜きます。
 あれ? こういう時って普通抜けるのに時間がかかって、主人公の反撃のシーンが始まるんじゃないんですか?
 と言うかどれだけ力持ちなんでしょうか、彼は。

「悪ぃコは……いねーがっ……」

 呟き、ゆらりと俺の目の前に立つ影。
 ちょっと待って下さい。大体彼は私の同士だったのではないんでしょうか?
 今も呟いていますが、彼が捜しているのは「悪」なんじゃないんでしょうか?

「…………まさか」

 ふと思いついた一つの案。
 そう、ここは発想を逆転させればいいんです。
 なまはげの言っているのは「悪」。しかし「正義」の俺を殺そうとしました。
 つまりなまはげの言っている「悪」とはすなわち「正義」の事であり、それを言っているなまはげは「悪」。
 つまるところ実は正義だと思っていたなまはげが悪で、悪とされた俺が正義で……。

「悪ぃコはいねーがぁっ……!」

 思考がまとまりかけた所に入るなまはげの一声と出刃包丁の一撃。
 慌ててそれを避けますが、そのせいでついさっきまでまとまりかけていた思考がまた分散してしまいました。
 ああ……せっかく無い頭を使ったというのに……。

「まぁ……うん、とにかく君を倒せば全て丸く収まる!」

 びしっ、となまはげを指差す俺。
 ……いや、別に考えるのが面倒になったわけじゃありませんよ? ほら、なまはげの衣装って見るからに悪っぽいし、何度も殺されかけましたし。
 と言うかむしろ現在進行形で殺そうとしてますし。
 つまりは正当防衛!

「悪ぃコは…………」

 指差す俺に、再び出刃包丁を振りかぶるなまはげ。
 さてさてちょっと想定外でしたが、ついにここに来て俺の能力初公開!
 短時間しか使えない能力ですから、見逃す事の無いよう、とくとご覧あれ。

「いねーがぁっ!!!!!」

 そう言って振り下ろされた出刃包丁。
 それを正面から見据えて、呟く。

「制限、解除」

 呟くと同時、世界がその様相を変えた。
 周囲の動き全てが緩慢なそれへと変化し、スローモーションで世界が進行しているように見える。
 ……しかし、あくまでそれはそう「見える」だけですから、実際に世界が遅くなっているわけではもちろんないわけで。
 これは、俺の視神経が研ぎ澄まされた事で起きた錯覚。動体視力が上がった事で一時的に世界がスローになったように見えているだけ。
 よく、プロ野球選手が「ボールが止まって見える」と言いいますが、多分あれと同じ原理なんでしょう。
 その関係で、俺の目の前にある出刃包丁も、今やほぼ止まっているように見えます。
 だから、ほら、こうして相手の手首に手を添えるだけで――――

「っ!?」

 がしり、と腕を掴まれ、なまはげが戸惑ったような声を漏らす。
 可哀そうに、起こった事実に頭の理解がついていってないんでしょう。
 ……まぁ、それもそのはず。出刃包丁を振り下ろしたはずの腕を途中で止められたわけですから。しかもさっきまで逃げ回っていた人間に。

「わ、悪ぃ子は……」

 ぐぐっと腕に力を入れて、俺の手から逃れようとするなまはげ。
 アスファルトに突き刺さった出刃包丁すら抜く事の出来る力が、しかし俺の手からは抜け出せません。

「あー、うん、ごめんね。君じゃ多分、無理ですよ」
「わ、悪ぃコは、い、いね…………」

 謝る俺の言葉が聞こえているのかいないのか、手を振りほどこうと力を込め続けるなまはげ。
 ……説得にも応じてもらえないようですし、ここは不本意ながらも実力行使と行きましょう。

「全く、しょうがないですね…………」
「……!?」

 言葉と共に、腕を軽く振る。
 掴まれていたなまはげはそれだけの動作で放られ、浮上して行くのが見えます。
 そして2メートル程の高さまで上り、停止し、落下していく。
 俺の目には、それがコマ送りの映像のように映し出されていました。
 そのまま、俺はそれを目で追い……それが目の前にまで落ちてきた時、

「らぁっ!!」

 気合と共に、なまはげの腹へと拳を叩きこんだ。
 めりめりと、嫌な音を立てて拳はなまはげにめり込む。
 ……ああ、いつやっても慣れませんね、相手の臓器を壊す感覚というのは。
 あまり長い時間繋ぎとめて置きたい物でもありません。
 すぐさまそれを引き抜くと、ぐしゃり、と軟体動物のようになまはげが崩れ落ちました。

「……悪い都市伝説とは言え、やっぱり生物を殺すのはいい感じではありませんね」

 昔からウルトラ○ンや仮面ラ○ダー、戦隊ヒーローものなどで悪人が死ぬ様だけはたくさん見てきました。
 あのカッコいい姿に憧れ、都市伝説と契約した時などは随分喜んだ物ですが……。

「現実は残酷ですよね、本当に」

 自らの手で下した都市伝説を見降ろし、呟く。
 せめての手向けに、後できちんと手厚く葬って上げましょう。

「……おっと、あんまり長い時間能力を使っていられませんし、さっさと彼女に連絡しないと」

 ポケットから携帯電話を取り出し、短縮ダイヤルの一番を押す。
 耳にそれを当てると、ワンコール後すぐに別行動を取っていた彼女と繋がりました。
 都市伝説を殺した事で少し滅入っていた気分を無理やりに上げて、電話の向こうの彼女へと語りかけます。

「ああ、アリスですか? …………ええ、そうです…………はいはい、では工場の中で……いえ、今回は傷一つありませんよ……」

 もう既に何度も繰り返したようなやり取りを行い、三十秒ほどで電話は切れました。
 これでやり残したことは無いはずですが……。
 ……ああ、そう言えば君たちに俺の契約した都市伝説について話していませんでしたね。
 ここまで引っ張っておいて「また今度」ではあまり後味も良くないでしょう。

 ――――俺の契約したのは「人間にはリミッターがかけられている」と言う都市伝説。
 多分君たちも聞いた事があるでしょう。
 ある一室に閉じ込められ、そこから抜け出すために鉄製の扉を足だけで打ち壊した人や、土砂崩れで塞がった道の土砂を、たった一人素手で取り除いた人。
 そう言った事例から生まれた、普段、人間には身体が壊れてしまわぬよう「制限」が掛っているという噂。
 俺は契約によって、それを自由に解除する事が出来ます。

 どうです、便利でしょう?
 「火事場の馬鹿力」のようにピンチになる必要もありませんし、制限の解除は体中全てが対象になる関係で、先程のように動体視力なども飛躍的に上昇します。
 ……まぁ、もちろん使うと色々と「代償」のようなものがあるわけですが、はい。
 ああいえ、別に寿命が縮まるとか筋肉が急速に衰えるだとか、そんな恐ろしいものではありませんよ。第一そんな代償があるなら俺は契約しません。怖いもん。
 その代償は……いえ、どうせこれからお見せする事になるんですから、言わないでおきましょうか。
 しーいんぐ いず びりーびんぐ……百聞は一見にしかず、と世間でもよく言われていますからね。
 その代償は、俺が能力の使用を止めると共にやってきます。

「――――制限、適用」

 呟くと同時、縛られるような感覚が、身体に走る。
 それはただ、解放されていたリミッターが再び掛けられただけの事ですから、心配する事でもありません。
 問題は、その後

「……っと、来ましたか……」

 視界がぼやけ、意識がはっきりしなくなる。
 身体に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちて行く。
 それに伴い、段々と視界が暗転し……周囲の情景や、倒れている都市伝説の全てが、消える。

「今日は大体2、3分使っていましたから……5分前後、ですか……」

 頭の中で軽く計算をし終えると……俺の意識は、完全に闇へと呑まれて行いきました。

 ……お分かりですかね?
 体中のリミッターを外す事の代償は、稼働時間の約2倍の時間、意識を失う事。
 身体を酷使した分の強制的な休息だと思いますが、融通が利かない分非常に扱いにくい事この上ありません。
 下手に路上で気絶するわけにもいきませんし、かと言って家に帰るまで能力を使っているとその分意識を失う時間が増える。この上なく厄介な代償でした。
 ……まぁ、それも数年前、彼女に出会うまでの事ですが。
 今では彼女が気絶した私を安全な場所まで運んでくれますし、家の鍵も渡してありますから場合によっては家まで送り届けてもらうこともできます。
 彼女に対しては感謝してもしきれませんし、ここで何百文字を使ってでもそれを表現しようと思えばできますが……あまりに冗長が過ぎると、読んでいる君たちが退屈してしまうでしょう。

 そろそろ一旦、この物語に区切りをつけましょうか。
 今回の俺のお話、楽しんで頂けましたか?
 楽しんで頂ければ幸い、もし楽しんで頂けなければ……それは作者の文章力の無さです。俺のせいじゃない。
 君たちからしてみれば今回から始まった俺と、もう一人の物語。
 次回辺りにはそのもう一人である俺の彼女、アリスについても少し語れれば、と思います。

 ではでは皆さん、ぐっど な~いと!



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