…うん、大変だったこいつを宥めるの
ようやく、黒服と共に望を宥める事に成功した翼
…やはり羨ましいな、と翼は思う
自分も、あんな風に遊びに夢中になれる時期が欲しかった
ぼんやり、そう考えていると
ようやく、黒服と共に望を宥める事に成功した翼
…やはり羨ましいな、と翼は思う
自分も、あんな風に遊びに夢中になれる時期が欲しかった
ぼんやり、そう考えていると
「…おや、翼」
「ん?……あ、お前か」
「ん?……あ、お前か」
人波から、少し離れた所
ぱちぱち燃える焚き火の傍に、見覚えのある姿を見つけた
ぱちぱち燃える焚き火の傍に、見覚えのある姿を見つけた
「新年、あけましておめでとう」
優雅に一礼してくるそいつ
直接に顔を合わせたのは随分と久しぶりだ
相変わらず、少し痩せている…ちゃんと食べているのだろうか?
直接に顔を合わせたのは随分と久しぶりだ
相変わらず、少し痩せている…ちゃんと食べているのだろうか?
「おや、あなたは…」
「あぁ、黒服さんも。あけましておめでとう」
「あぁ、黒服さんも。あけましておめでとう」
黒服に気づき、再び優雅に一礼してくる
手には、昔と変わらず分厚い本を持っていて…こうやって挨拶している間も、本は開かれたままだ
手には、昔と変わらず分厚い本を持っていて…こうやって挨拶している間も、本は開かれたままだ
「…誰?」
あ、しまった
望は、こいつを知らないのだった
望はやや警戒した様に、黒服の後ろに隠れている
望は、こいつを知らないのだった
望はやや警戒した様に、黒服の後ろに隠れている
「俺の、高校の頃のダチだよ」
「お初にお目にかかる、可愛らしいお嬢さん」
「お初にお目にかかる、可愛らしいお嬢さん」
望に対して、翼の友人は優雅に一礼して見せた
そうしてから、翼に尋ねてくる
そうしてから、翼に尋ねてくる
「随分と可愛らしいお嬢さんだが、君には妹がいなかったと思うが」
「妹じゃねぇよ。家族だけど」
「妹じゃねぇよ。家族だけど」
詳しくは話さない
だが、友人はそれで納得したようで、深くは聞いてこなかった
一方望は、まだ友人を警戒しているようで、黒服の後ろから出てこない
そんな望の様子に、黒服は小さく苦笑した
だが、友人はそれで納得したようで、深くは聞いてこなかった
一方望は、まだ友人を警戒しているようで、黒服の後ろから出てこない
そんな望の様子に、黒服は小さく苦笑した
「大丈夫ですよ。彼はあの子の大事な友人です」
「………」
「………」
だからよ、と望は口には出せなかった
何せ、魔女の一撃の契約者…誠という前例がある
あちらは翼の親友だったが、こちらは友人
…嫌な予感がするのはなぜか
何せ、魔女の一撃の契約者…誠という前例がある
あちらは翼の親友だったが、こちらは友人
…嫌な予感がするのはなぜか
「ふむ?…君の愛しの黒服とも一緒にいるということは。そちらのお嬢さんも都市伝説を認識していると考えていいのかな?」
「前半ともかく、後半はそうだよ」
「前半ともかく、後半はそうだよ」
翼は、友人の言葉にそう答えた
都市伝説、の単語に、望はピクリ反応する
都市伝説、の単語に、望はピクリ反応する
「…あなたも、契約者?」
「あぁ、そうだよ」
「あぁ、そうだよ」
…望は、気づく
友人の持っている本が、誰の手も借りず、風のせいでもなく…勝手に、めくれ続けている事に
友人の持っている本が、誰の手も借りず、風のせいでもなく…勝手に、めくれ続けている事に
「僕は、この「光輝の書(ゾハール)」と契約している。僕なんかの身には余る力だが、幸い、ある程度使いこなさせて頂いている」
ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら
本は、勝手にめくれ続けている
…何かの能力が発動している!?
望は、ますます警戒した
本は、勝手にめくれ続けている
…何かの能力が発動している!?
望は、ますます警戒した
「お前、今、何に能力使ってるんだよ。こいつが警戒してるだろ」
望が警戒しているのを感じて翼がそう言うと
友人は、小さく苦笑してきた
友人は、小さく苦笑してきた
「仕方ないだろう。何分、逸れた連れを探さなければならないのだから」
「何の為に力使ってんだよ!?」
「ザフキエルとザドキエルとハニエルに上空から見てもらっているのだが、なかなか見付からなくてな」
「…できれば、そのような些細な事に、都市伝説能力を使うのは控えていただきたいのですが」
「何の為に力使ってんだよ!?」
「ザフキエルとザドキエルとハニエルに上空から見てもらっているのだが、なかなか見付からなくてな」
「…できれば、そのような些細な事に、都市伝説能力を使うのは控えていただきたいのですが」
友人の言葉に苦笑したのは、黒服
つまり、この友人は初詣ではぐれた連れを探す為に、都市伝説を召喚してそれに空から探させている、ということになる
目撃されたらどうするつもりなのか
つまり、この友人は初詣ではぐれた連れを探す為に、都市伝説を召喚してそれに空から探させている、ということになる
目撃されたらどうするつもりなのか
「あぁ、安心してくれ。三人も出しているの冗談だ。実際出しているのはザフキエル一人だよ」
三人も同時に出したら反動が辛い
淡々と、友人はそう言って来た
どうにも、昔から感情の気迫が薄く、冗談を言っていても冗談に感じられない
淡々と、友人はそう言って来た
どうにも、昔から感情の気迫が薄く、冗談を言っていても冗談に感じられない
「…まぁ、それはともかく。今年もよろしく頼むよ。君ができそうな仕事は、優先して君に任せよう」
…仕事
その単語に、黒服と望が同時に反応した
その単語に、黒服と望が同時に反応した
「…仕事?」
何の事?と望は首をかしげ
「…まさか、まだ、「あのような事」をなさっていたので?」
と、黒服は困ったように友人を見つめた
翼が、しまった、というような表情を浮かべる
翼が、しまった、というような表情を浮かべる
「おい」
「…?……あぁ、すまない。君は、黒服にはその仕事を秘密にしていたのだったか」
「…?……あぁ、すまない。君は、黒服にはその仕事を秘密にしていたのだったか」
申し訳ない、と友人が頭を下げる
大して申し訳なく思っているように見えないが
大して申し訳なく思っているように見えないが
「…どう言う事?」
「この方は、都市伝説組織の存在を知らない方が都市伝説事件に巻き込まれた時…それを助ける、という仕事をなさっているんです。有料で、ですが」
「金持ちからはふんだくるが、生活が苦しい者からはほぼ無料だぞ」
「この方は、都市伝説組織の存在を知らない方が都市伝説事件に巻き込まれた時…それを助ける、という仕事をなさっているんです。有料で、ですが」
「金持ちからはふんだくるが、生活が苦しい者からはほぼ無料だぞ」
悪びれた様子もなく、友人は言い切る
「それに、報酬を要求しなければ、彼のように手伝ってくれる者に、報酬を支払えないからな」
「…黒服、こいつも、困ってる奴を助けたい、ってのは真剣に考えてるからさ。見逃してやってくれないか?」
「…黒服、こいつも、困ってる奴を助けたい、ってのは真剣に考えてるからさ。見逃してやってくれないか?」
翼が、懇願するように黒服を見あげた
どこか、困ったような表情をしながらも…きっと、この黒服は見逃すのだろう
この黒服は契約者に甘いから
どこか、困ったような表情をしながらも…きっと、この黒服は見逃すのだろう
この黒服は契約者に甘いから
…それよりも
望は、この友人がやっていると言う「仕事」が気になった
手伝っているという翼が、報酬を受け取っている?
望は、この友人がやっていると言う「仕事」が気になった
手伝っているという翼が、報酬を受け取っている?
「あなた一人で、困っている人を助けるんじゃないの?」
「そうできればよいのだが、生憎、僕一人では力不足でね。協力してくれる同士に情報を提供する、と言う事もしている…仕事の斡旋のようにね」
「そうできればよいのだが、生憎、僕一人では力不足でね。協力してくれる同士に情報を提供する、と言う事もしている…仕事の斡旋のようにね」
ぱたんっ、と
友人は、本を閉じた
友人は、本を閉じた
「そのせいだろうか、ある筋からはこう呼ばれているよ……「仲介者」、とね」
「…「仲介者」」
「一応、僕はどこの組織にも所属していない。仕事を手伝ってくれるなら、フリーだろうがどこかの組織に所属していようが問わない事にしているよ」
「…「仲介者」」
「一応、僕はどこの組織にも所属していない。仕事を手伝ってくれるなら、フリーだろうがどこかの組織に所属していようが問わない事にしているよ」
悪人でさえなければね、と友人は淡々と言い切った
「…つまり、チャラ男がたまに夜突然出かけたりするのは、その仕事だったのね」
「……まぁ、そう言う事だ」
「……まぁ、そう言う事だ」
親に隠し事がバレた子供のように、翼が肩をすくめてきた
心配させない為なのか、それとも危険に巻き込まない為か…黒服にも望にも、隠したままにするつもりだったようだ
心配させない為なのか、それとも危険に巻き込まない為か…黒服にも望にも、隠したままにするつもりだったようだ
「あぁ、黒服さん、そんな顔をしないでくれ。彼は僕にとっても大切な友人だ。彼にとって危険な仕事は回さないさ」
「……なら、良いのですが」
「……なら、良いのですが」
…探し人が見付かったのだろうか
友人が、焚き火から離れる
人波に向かって、ふらふらと歩き出す
友人が、焚き火から離れる
人波に向かって、ふらふらと歩き出す
「いい家族が出来たじゃないか、翼」
大切にしろよ、と、友人は珍しくはっきりとした笑みを浮かべて
ふらふら、そのまま人波の中へと消えていった
ふらふら、そのまま人波の中へと消えていった
……その直前
「ーー友人と呼ばれる資格を失った僕を友人と認識し続けてくれて、ありがとう」
と、小さく呟いていたのだが
その呟きは、誰にも届く事はなかったのだった
その呟きは、誰にも届く事はなかったのだった
to be … ?