「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い愛好会の日常-05

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uranaishi

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占い愛好会の日常 05


「――――さて」

 光の入らない闇の中で、女性が口を開く。
 窓のない、小さな小部屋。
 つい五日前にも会談が行われた、とある物置である。

「長老、確かあなたは『移住先の下見に行く』と言って学校町へと行っていましたよね?」
「そうじゃな。良い町じゃった」

 うんうんと頷く老人を前に、女性のこめかみに血管が浮かび上がる。

「では、これは何なんですかね?」

 女性が懐から取り出したのは、一枚の文書。

「……『組織』穏健派代表を名乗るG-No.1と言う方から、『こちらの部下にいかがわしい薬物を摂取させた事と、いかがわしい行為を働いた事について正式に抗議をしたい』と文書が届いたのですが。何をやらかしやがりましたか?」

 それに対して、老人の返答は簡単なものだった。

「む!? いかがわしいとは失礼な。エロくて何が悪い!!」
「そのエロが原因で人様に迷惑をかけてる時点で十分に悪でしょうが」

 声を荒げない女性の言葉には、静かな怒りが込められている。
 成分にして表示するなら、まだ移住してもいないのに何面倒起してるんだ、が10%。これからあの占い師のいる町に行くのに何面倒起してるんだ、が90%だった。
 とっても乙女な内訳である。

「……まぁ、過ぎてしまった事は仕方ないでしょう」
「さすがじゃな。話が分かるのう」
「――――ただし」

 腕を組んで、女性が老人を睨みつける。

「後日、私たちが学校町へ移住するのを待って、穏健派代表が『直接』抗議に来るそうですから、その時は覚悟しておいて下さい」
「面倒くさいの…………」
「サボろうだなんて、考えないで下さいね?」

 今まで何度も他の組織に迷惑をかけ、その度に対談から逃走を図られた苦い経験から、女性は老人に釘をさす。
 その時対応するこちらの身にもなって欲しい、と女性は思う。
 いい加減、ストレスで胃に穴が開きそうだった。

「大体、これ以上敵対する組織を増やしてどうするんですか」
「お前さんの役目はその『敵対関係そのもの』を末梢する事じゃろう?」
「私の役目はあくまでこの愛好会を守る事であって、長老の尻拭いをする事ではありませんが」
「…………ふむ」

 これまで何度も、女性はそのために能力を使っていた。
 老人は、彼女の契約した都市伝説について思考を巡らせる。
 女性の力、それは範囲を拡大さえすれば「敵意」そのものを抹消する、ある意味で最強の能力である。
 しかし反面、そこまでの拡大には時間と労力が必要となり、その間この「愛好会」は無防備となってしまう。
 今回の「組織」程の大きさとなると、どんなに早くとも能力が効果を及ぼすまでに10日程かかる。
 しかも、それは「組織」がこの愛好会を本気で潰す程の「敵意」を持った時に初めて作用するものだ。
 つまり、老人が組織の黒服から説教をされるのを、彼女の力は守ってはくれない。

「…………ふむ」

 もう一度唸って、老人は小さく頷いた。

「……長老?」

 その様子を見て、女性は何だか嫌な予感がする。
 今まで何度も老人の逃走を見てきた女性だからこそ、感じた予感かもしれない。

「ほっほ」

 女性の問いに、老人は笑顔で返して
 その身を、輝く光が包み込んだ。

「ちょっと待ってください、またですかっ!?」

 嫌な予感が、現実となって女性の前に現れる。
 老人が今まさに使おうとしているのは、「光遁術」と言う自身を光の矢にして飛ばす仙術の一つである。
 そして、その効果は基本的に「移動」に現れ、よく老人は「逃走」にそれを使用していた。
 光に追いつけるのは、光だけ。
 まさに逃走にはうってつけの術である。

「後は任せたっ! わしは逃げるっ!!」
「なに格好よく格好悪いセリフを言ってるんですか」
「ほっほっほ」

 都合の悪い事を全て笑って飛ばし、老人は身体をひねった。
 光となった老人の身体が、一本の矢へとまとめられる。

「あでぃおす!」

 瞬間、老人の身体は消えた。
 ……物置の壁に、大きな穴をぶち開けて。

「…………はぁ」

 後に残された女性は、小さくため息をつく。
 これで「守護者」が女性の代になってから218回目の逃走劇になる。
 他の代の人間達もこのような気分だったのか、と女性は穴から空を見上げた。
 青い空は、しかし彼女に何も答えない。

【終】










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