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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い愛好会の日常-04

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uranaishi

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占い愛好会の日常 04


 繁華街の休日。
 特に人通りの多くなるその日は、幸いにも晴天だった。
 最近肌寒い日が続いていたせいか、町には普段よりも多くの人間がいるように見える。
 行き交う人々は、ウィンドウショッピングに興じたり、商店街で食べ歩いたり、行きつけに店が行列に埋もれているのを見て溜息をついたりと様々な行動を取っている。
 その全ての人が、この日を楽しむべく奔走していた。
 しかし、陽気は時に、人をとんでもない行動へと駆り立てる事がある。

「――――ほっほっほ」

 笑い声と共に、一陣の風が繁華街を通り過ぎた。
 そよ風と言うよりは暴風に近いそれに、行き交う人々は思わず足を止める。
 しかし不思議と、その風で転倒する人もいなかった。
 いるのは二種類。天気予報と違うじゃないかと訝しむ人と、いつもの事だと納得している人だけだった。
 誰がこの学校町にどれだけ長く、そして深く関わっているかよく分かる光景である。
 しかし、その中でその風を起こした存在に気付いた人間は少ない。
 ましてや、その目的がスカートを舞いあがらせる事だった、なんて気づく人間は、本当に少ない。

「いいのう。絶景じゃのう」

 3階建の小さなビルの屋上、安全用に設けられた柵の外側に腰をかけながら、足を投げ出している老人がいた。
 140センチにも満たない小柄な体に、白い布を巻き付けただけの服。
 眼下の繁華街を眺めながら笑うその老人は、先ほどの風を起こした張本人であり、その風そのものでもあった。
 スカートめくりのために努力を惜しまないその老人は、中国で「仙人」と呼ばれる存在である。
 男女を問わずその性癖の射程圏内とする彼は、眼下を行き来する人間からめぼしい人を選び出す。
 それは次のスカートをめくられる被害者であり、またその体つきを試される被験者でもあった。

「まことに、穴場じゃな…………」

 老人の口から思わず漏れた一言は、めぼしい人間の数にあった。
 彼の以前住んでいた中国の山の裾に広がる村や都市では、一日に10人でも老人の眼鏡に適う人間が入れば大量であった。
 しかしこの繁華街へと目を付けてから約2時間。
 既に29人にも及ぶ人間が、老人にめくられ、さわられ、時にもまれていた。
 無論、触られる側に自覚はない。
 風が頬を撫でても気にしないのと同じだ。
 風となり、光となる老人の手を知覚するのは、普段から気を張っている人間でも難しいだろう。

「……ふむ、次はあの青年にするかの」

 数いる人間の中から選ばれたのは、一人の金髪の青年。
 親でも探しているのか、小さな少女を連れながらきょろきょろと周囲を見渡している青年の顔は、浅黒いながらもどこか中性的な印象を老人に与えた。
 恐らく、女装でもすれば相当に映える事だろう。
 まさに、老人にとって格好の獲物である。
 今日老人が見てきた人間の中でも、とびきり上玉の青年を目で追いながら、老人は服の中にある小さな小瓶に触れる。
 それは、老人が錬丹術によって作りだした、女体化薬。
 「マッドガッサー」と呼ばれる都市伝説の生み出すそれとはまた原理の違う薬を片手に、老人はほくそ笑んだ。

「…………ほっほ」

 笑い、青年に狙いを定め、再び風を巻き起こそうと十字のように両手を広げる。
 その動きに呼応するかのように、老人の周囲に小さな空気の渦が生まれる。
 それはやがてその範囲を拡大し、その渦は形を変え、眼下の道へと広がっていく。
 もし仮にその渦を視認できる人間がいたならば、恐らくその人間には老人の眼下の道と重なるように形成された、一本の風の流れを見る事ができただろう。
 その風の道は道路を覆い、ゆるいカーブを描いて老人へと繋がっている。

 風はまだ、そよ風のような小ささに過ぎない。
 それが爆発的な力を得るのは、老人がその「道」を通る一瞬だけである。
 その一瞬で老人は青年を触り、試して、もし老人が「合格」と呼べるクラスだったなら、今すぐにでも懐の薬を使用する事になるだろう。
 既に、その準備は整っている。
 後は少し身体をずらすだけで、風の道を通り、眼下の道路を一瞬で通過して元の場所へと戻ってくるだろう。
 再びこの場所へ戻った時には全ての判定が終えられ、青年の運命も決しているはずである。

「――――行くかの」

 風の通り道は老人のちょうど目の前にある。
 葉が舞い、塵が舞うその気流に乗ろうと、老人は身体を前に倒そうとして

「…………ふむ?」

 ふと、自分の背後に気配を感じた。
 振り返るまでもない。
 老人は、自分の後ろに立つ存在が何なのかを知っていた。

「……組織の駒が、何か用かの」

 振り返らず、屋上にその身を留めたまま背後の存在へと語りかける。
 そこにいたのは、一人の黒服。
 暴走する都市伝説を抑制し、更生させる組織の構成員である。

 老人は、組織が嫌いだった。
 都市伝説を、契約者を、ただの道具としか見ない組織。
 もちろん、中にはそれを是としない黒服が多数いる事も知っている。
 しかし、目の前の黒服がどんな考えで、どんな行動を取っているのか。
 それを老人が知る手段は、ない。
 そもそも、老人は知ろうとも思わなかった。
 拒絶を隠しもしない老人に対して、黒服は柔和なほほ笑みを浮かべて尋ねる。

「先程から風で色々なさっているのは、お爺さんですか?」
「…………ふむ?」

 てっきり攻撃でも仕掛けられるかと思っていた老人は、肩すかしをくらったかのような顔をした。
 一瞬訝しみ、しかしすぐに、何かに気づいたかのようにポンと手を打つ。

「組織には女好きの黒服がおると聞くが……ほっほ、お前さんも一緒にやるかの? スカートめくり」
「……いえ、遠慮しておきます」
「なんじゃ、つまらん」

 残念そうに肩を落とす老人。
 明らかに思い当たりのある同僚と間違われ、黒服は小さくため息をついた。
 ついでに、もしその黒服なら喜んで乗ったかもしれないと考え、何だか軽い頭痛まで覚える。

「……ならば、何用かの。わしはこれでも忙しいんじゃが」

 気流に乗ろうとする老人を前に、黒服は慌てて老人へと問いかける。

「お爺さんの行為は、人に迷惑をかけるような結果になってしまうかもしれませんが……それでも、行うのですか?」
「…………ふむ」

 わざと挑発してみても、攻撃をしてこない。
 普段なら、とっくに戦いが始まっているはずだった。
 老人は少しつまらなく思いながらも、足を軸に身体を反転させる。
 ちょうど、黒服と向かいあうような格好。
 舐めるように黒服の上から下を眺め、老人は呟いた。

「殺気も何も感じられんか……ふむ、この町にいる穏健派、かの」

 この町に来る前に、老人は聞きかじりながらも、その黒服について少しだけ知っていた。
 曰く、過労死候補ナンバーワンだとか、菩薩のような慈愛の性格だとか。
 聞いた限りでは、そして今までの行動を見る限り、自ら攻撃を仕掛けるような黒服ではないらしい。

「……それで、わしを説得して止めようと?」
「一番良いのは、誰も傷つかない事ですから」

 黒服の返答に対して、甘いな、と老人は思う。
 噂で聞く限り、これがこの黒服の本質なのだろうが、老人はそれでも甘いとしか判断しなかった。
 この町は、この世界は、そんなに甘く出来てはいない。
 例えどんなに人の幸せを願い、行動しても、それが別の誰かの不幸へと繋がる事もある。
 最善の判断の影からこぼれおちた人間など、この世には星の数ほどいるだろう。
 それをこの黒服は救えるのか。

「……ならば、まずお前さんに一つ言いたい事がある」

 そして、老人にとってもっと重要な事柄もあった。
 決してこの黒服とは分かりあえないだろうと老人に信じさせた、一つの事実。

「お前さんには分からんかもしれんが――――」

 ピッと黒服を指差し、老人はそれを指摘した。

「わしからエロスを取り除いたら、何も残らんじゃろうがぁあああああああああああああああああっ!!」

 ……場が、凍った。
 大声で叫び過ぎたのか、ぜぃぜぃと息を吐く老人の目には、妙に殺気と言うか、嫉妬が渦巻いている。
 老人は、知っていた。
 この黒服が二人の女性から愛されている事を。
 そして何より、老人は嫌っていた。
 天然でそれに気付かずに、ただ愛を享受する人間を。
 だから、老人はこの黒服と相いれない。
 性と言う精神を天然と言う性格で玉砕し、しかし男としての幸せを手にしているこの黒服とは決して、相いれない。
 ……結論から言えば、「俺がいくら努力しても手に入れられないものをお前持ってんじゃん! ずりぃよ!」と言う子供の嫉妬である。

「…………しかし、ですね」

 老人の魂の叫びに対して、黒服はなおも説得を続けようとする。
 黒服は、老人の中に渦巻く黒い感情に気づいていない。
 言葉を文面そのままに受け取って、エロス以外の老人の長所を挙げようとすらしていた。
 それに気づいた老人は、酷く落胆する。
 落胆して……少し、悪戯心が生まれた。

「――――少し、もんでやるかの」

 瞬間、老人の身体から煙が立ち上った。
 驚き、警戒する黒服を前に、煙はどんどん広がり、やがて屋上全てを覆うように広がっていく。
 数秒で、無造作に置かれた白い布を残し、老人は消えた。

「これ、は…………」

 煙幕か何かの一種かと黒服は警戒し、周囲を見渡す。
 しかし、それは正確ではない。
 辺りに広がる煙は、霞。
 「仙人は霞を食べて生きる」と言う話を元にした、老人の力の一端である。
 つまり、今屋上に広がる白いもや全てが、老人の身体であり、その一部なのだ。

「――――ほっほっほ」

 屋上に老人が響く。
 まるで全方位から発せられるようなその声に黒服は惑い……そして、気付いた。
 もやの中に混じるように、何か別の気体が存在する事に。
 その匂いを嗅ぎ、黒服は慌てて口をふさいだ。

(――この匂いは…………っ!)

 以前にも嗅いだ事のある、どこか甘い匂い。
 気づいて、しかし、既に手遅れだった。
 一度吸いこんでしまえば、効果を発揮する気化された薬。
 それは黒服の身体を内側から火照らせ、頭を揺さぶった。

「ほっほっほっほ…………」

 霞の中に響く老人の声を遠くに聞いて
 黒服の意識は、そこで途切れた。

*********************************************

 冬の日差しを浴び、少しアスファルトの温まった屋上。
 既に霞の去ったその場所に、一人の青年と少女が駆け込んできた。
 それは、つい先ほど老人が目をつけていた金髪の青年と、彼が連れていた少女。
 町を走る黒服を見つけ、何かあったのでは、と不安になった二人は、黒服の後を追うようにして町を走っていたのだが、途中で見失っていた。
 やっと二人が黒服を見つけたのは、霞が屋上を覆ってから既に10分が経過したときのことである。

「――――黒服っ!?」

 そこにいたのは、一人倒れる黒服。
 それを認め、少女が慌てて黒服へと駆け寄る。
 青年は駆け寄りたい衝動を抑え、周囲を探った。
 ――――まだ、この近くに黒服を気絶させた奴がいるかもしれない。
 そう考えただけで、自然と警戒心が強まる。

「…………ん?」

 そんな彼の目に留まったのは、一枚の紙切れ。
 それが黒服の傍に縫うように、不自然な形でアスファルトに張り付けられている。
 黒服を介抱している少女は、まだそれには気づいていない。
 青年は警戒しつつ、紙切れへと近づいた。
 近づき、アスファルトに張り付けられたそれを、剥がすように拾い上げる。

 そこに書いてあった文面は、たった七文字の短い文面。
 それを見て、しかし身の毛がよだつのを青年は感じた。
 慌てて、黒服の身体……特に、胸部の辺りを確認する。

「…………マジかよ」

 黒服にぴったりだったはずの服を押し上げる用意して天を突く、二つの丘。
 それに気づいたのか、少女も小さく驚きの声を漏らした。
 数ヶ月前、黒服が同じような状態になった事を思い出し、自然と手に力が加わる。
 圧力が加わったことで、紙は簡単に潰れた。
 しかし、潰れてなお、その文字が消える事はなかった。
 何か特殊なインクでも使っているのか、太陽の光を反射して輝くそれに書かているのは、七文字。

「『良い乳じゃった』……じゃねぇよっ、おいっ!?」

 青年の声は、空へと吸い込まれる。
 倒れた黒服の身体は、明らかに女のそれだった……。


【終】










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