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連載 - 同族殺しの口裂け女-07

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uranaishi

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同族殺しの口裂け女 07



 あの口裂け女は言った。
 仲間が出来たのは偶然で、幸運だったと。

 あの口裂け女は問うた。
 あなたは差し伸べられた手を握り返せるかと。

 あの口裂け女は笑った。
 あなたはとても綺麗だと。

 同族殺しは、目の前の口裂け女を半ば呆然とした表情で見る。
 彼女は今も、無防備に同族殺しの前で両手を広げている。
 今口裂け女の言った事は、恐らく真実なのだろう。
 それはただの直感だったが、しかし信じてもいいように思えた。

 しかし同時に、その真実は同族殺しを苦しめる。
 疑問には答えてもらった。
 しかし、その先には何もない。
 同族殺しには、何もなかったのだ。
 幸運も、偶然も、差し伸べられる手も。
 だから、同族殺しはただ困惑した。
 困惑して、同族殺しは一瞬、考えてしまった。

 もしかしたら、自分にも差し伸べられた手があったのではないか。
 それに気づかず、自分は拒絶してしまったのではないか、と。
 それは、同族殺しにとって信じられない、信じてはいけないものだった。
 「同族殺し」となった彼女の本質を揺るがしかねない言葉。
 同族殺しは、ただ少しだけ言って欲しかっただけなのだ。

 ――――お前は私と違う、と。
 ―――――だからお前には仲間がいないんだ、と。

 同族殺しは、ちょっとだけの救いが、そして最後まで自分に言い訳を続ける材料が欲しかった。
 自分ではどうしようもない、だから自分は同族殺しになるしかないんだ、と。
 同族殺しは、そう思えるような答えが欲しかった。

 しかし、口裂け女は優しすぎた。
 それは一面で慈愛に満ち、そして一面で矮小な同族殺しを苦しめる。
 同族殺しは、自分がどうするべきなのか、もう分からなかった。
 今、同族殺しが自分を受け入れて欲しいと、そんな我儘を言っても、目の前の口裂け女はそれを許容するだろう。
 許容して、同族殺しがまた再び真っ当な道を歩けるように尽力してくれるかもしれない。
 それは同族殺しにとって、魅力的すぎる選択肢だった。
 震える手。
 何も分からなくなった同族殺しは、救いを求めるように、それを口裂け女へ向けて伸ばそうとして――――

 ――――ピシリ、と何かが割れるような音が暗い空間へと響き渡った。
 同族殺しは、小さく息をのむ。
 それが何なのかを、同族殺しは知っていた。
 この空間は、脆い。
 不完全な同族殺しが、不完全な状態で作りだしたのだから当然だ。
 そして同族殺しも同時に、脆い。
 蜃気楼のように消える彼女の身体は、既にその速度を速めていた。
 この世界の、そして同族殺しの崩壊が、始まっていた。

 亀裂は広がる。
 しかしその先に見えるのは、外の光ではなかった。
 あるのは、闇。全ての光を飲み込むような真っ黒な闇が、延々と続いていた。
 闇は広がり、やがて二人の口裂け女を分断するような亀裂へと繋がる。
 それは世界を分断する。
 口裂け女のいる場所は、まだ異空間としての存在が残った小さな区画。
 対して同族殺しの背後には、既に闇が大きく口をあけていた。

「――――手をっ!」

 それを見た口裂け女が、同族殺しの元へと手を伸ばす。
 その手を見て、同族殺しはつい先ほどの口裂け女の言葉を思い出した。

 ――――あなたは差し伸べられた手を握り返す事ができますか?

 思い出して、同族殺しは小さく笑う。
 答えは既に、決まっていた。

「…………ッ」

 その手をパシリと払いのける。
 驚いたような顔をする口裂け女を見て、同族殺しはそれでいい、と思った。
 もはや同族殺しに力はほとんど残されていない。
 異空間を消せたとして、元の世界へと送れるのはたった一人。
 それ以上を救うにはもう時間がない。
 だから、それでいいと同族殺しは笑う。
 どこへ続くかもわからない深淵に身を投げるのは自分一人でいい、と。

 ――――そして。
 空間は軋むような音を立てて、閉じた。

*********************************************

 ミツキは一人、元いた二階の居住スペースに立っていた。
 いきなり球が消失した事、そして彼女の出現に、周囲をうろうろしていた人間が驚きの声を上げる。
 無事でよかったと、心配したと、ミツキへ向けていくつもの声がかけられる。
 しかしミツキは、その言葉を呆然としながら聞いていた。
 手は、今も伸ばした形で固定されている。
 その先、一人の都市伝説がいたはずの空間には、何も残されていなかった。

 この日を境に、「同族殺し」の噂はパタリと途絶える事になる。
 その後の彼女の消息を知る人間は、少ない。


【終】









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