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連載 - ケモノツキ-02

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ケモノツキ_02_黒い卵


 コーク・ロアの契約者と戦った日の夜。橘野悠司は気絶するように眠りに付いた。
 まどろみの中、目を開けると、辺り一面に真っ白な空間が広がっている。
 壁も、天井も、床すらも存在が危ういような空間に、橘野悠司は立っていた。

「主、今日はお疲れ様でした。」

 少年は背後からかけられた声に振り返る。
 そこには20代半ばほどの女性が、背景に溶け込むような真っ白なソファーに座って本を読んでいた。

「タマモもお疲れ様。おかげで僕もあの男も、大怪我せずに済んで助かったよ。」
「どうかお気になさらず。ところであの男の…」
「主様ーーーーーっ!!!」

 突然大きな声が響き、背後から半ばタックルするように抱きつかれる少年。
 よろけつつも後ろを見やると、中学生くらいの女の子が腰に抱きついていた。
 少女は抱きついたままくるりと少年の正面に移動し、心配そうに顔を見上げる。

「主様大丈夫?怪我したとこ、痛くない?」
「うん、大丈夫だよ。ミズキも今日はありがとね。」

 そう言ってぽふぽふと頭を撫でてやる。
 少女は安心したように少年の胸に顔をうずめ、気持ち良さそうにしている。

 そのとき少年の目の前に、ふっと手がかざされた。
 大きく開かれたその手は、丁度目を覆うようにして額に当てられる。
 そして、いわゆるアイアンクローの要領で、少年のこめかみを圧迫する。

「ちょっ、た、タイガ!?痛い痛い痛い痛たたたたた!!!?!?」
「こら馬鹿犬!主様になにしてんのよ!」

 げしげし、と何かを蹴る様な、もしくは殴るような音が聞こえた後、少年はその手から開放される。
 若干涙目になりつつ顔を上げると、少年を見下ろす、というより見下すようにして立つ青年がいた。

「主よぉ、てめーは体が貧弱すぎんだよ。肉食え。体鍛えろ。体力つけろ。」
「まずは主様に謝れー!」
「いいよミズキ。体は…これでも頑張ってるつもりなんだけど…。」

 げしげしと、青年に対して殴ったり蹴ったりを続けている少女。
 青年は効いた様子も見せず、少女を適当にあしらいながら続ける。

「ああん?全然足りねーよ。折角俺が強化してやっても、威力が軽くて仕方ねぇ。」
「…体格のいい男に一発で血を吐かせる蹴りを、軽いとは言わないと思う。」
「体がもっと強けりゃ、あれで背骨と内臓ぶっ壊して終わってんだよ。」
「頼むから、そういう恐ろしいことをさらっと言わないでくれ…。」

 頭に手をやりながら、うなだれる少年。
 それは決して、先ほどのアイアンクローのみによるものではないだろう。

「主様に…謝れっ!!」

 少女は気合の声と共に、青年の肩に手をかけて飛び上がり、青年に見事な延髄斬りを喰らわせた。
 これはさすがに効いたのかよろける青年。フフン、とばかりに胸をそらす少女。

「てめえ…調子に乗ってんじゃねえぞおおお!!!」
「きゃー!馬鹿犬が怒ったー!」

 青年は少女に鋭い回し蹴りを放つが、少女は後ろに宙返りしてそれを避ける。
 そして、青年が少女を追い回すという、はたから見たらアウトな鬼ごっこが、少年の目の前で開始された。

「あれでも一応、うまくやってるんだよね…。」
「喧嘩するほど仲がいい、と言いますから。ところで主、さっきの続きですが。」

 女性はパタン、と本を閉じて、ソファーの陰から何かを取り出す。
 それは、バレーボールより一回り小さいくらいの、真っ黒な丸い塊。
 それを見た少年は、心がざわつくような、不安になるような、そんな不快感を覚えた。

「あの男と戦った後、主の中にこんな物がありました。何か体の不調などはありませんか?」
「…それを見てるだけで、何だかいやな気分になってくるよ…。悪意の詰まった卵みたいな…そんな感じ。」
「悪意の卵…ですか。後で黒服に報告した方が良さそうですね。とりあえず、これは処分しましょう。」

 女性はその真っ黒な塊を軽く放り投げる。それは空中で一瞬静止した後、音も無く燃え上がり、跡形も無く消えた。

「主、体に何か変化は?」
「うーん…別に何もないみたい。」
「何か感じたらおっしゃってください。ミズキも言っていましたが、主一人の体ではないのですから。」
「心配してくれてありがとう、タマモ。無理はしない程度に頑張るよ。」

 がるるる、と獣の唸り声が聞こえ、少年は後ろを振り向く。
 さきほど追いかけっこをしていた、青年と少女の姿は、そこにはない。
 代わりに、赤いスカーフを首に巻いた灰色の犬と、つま先から尻尾まで真っ白な猫が、互いに睨み合っていた。

 先に動いたのは灰色の犬。猫に向かって飛び掛り、その牙が猫に迫る。
 しかし、猫はその頭上を飛び越えるようにして回避する。
 上を取った猫は犬の背にしがみつき、首元に噛み付こうとするが、犬は体を捻ってそれを振り払う。
 空中に放り出された猫に向かって犬が駆けるが、猫は空中で姿勢を立て直し、着地と同時にその場を飛びのく。

 再び距離をとって対峙する二匹の獣。一瞬の間をおいて両者は駆け出し、再び激しい喧嘩が繰り広げられた。

「…いつものことながら、怪我しないかとひやひやするよ。」
「じゃれあいみたいなものです。いざとなったら私が止めますから、心配は要りません。」

 今日、あんなことがあって気持ちが昂ぶっているのか、いつもより激しい喧嘩をしているように見える。
 心配ではあるが、本人たちからすると遊びやトレーニングの一環らしいので、邪魔をするのは気が引ける。
 というか、あそこに割り込んで、自分が無事でいられる自信がない。

「そういえば、タマモはあの二人と喧嘩しないよね。」
「体を動かすのは苦手ですし、彼らの行き過ぎをいさめるのが、私の役目ですから。」

 そう言って女性は一つ伸びをすると、ポフン、と音を立て、白い煙に包まれた。
 白煙が晴れると、金色の綺麗な毛並みをした狐が、九つの尻尾をゆらゆらと揺らしていた。

「彼らの面倒は私が見るので、主はそろそろお休みになってください。」
「そうだね…じゃあ、あの二人をよろしく頼むよ。」

 金色の毛並みを梳くようにして頭をなでると、狐は気持ち良さそうに目を細めた。
 体と同じ金色のふさふさとした九つの尻尾が、ふりふりと左右に揺れる。

 先ほどから喧嘩をしている二匹の獣に目をやると、喧嘩は収まるどころか、さらに激しさを増していた。

「…あの二人を、よろしく頼むよ…。」
「ええ、お任せください。おやすみなさい、主。」
「ありがとう。おやすみ、タマモ。」

 未だに喧嘩を続ける二匹の獣と、それを見守る狐の気苦労を心配しつつ、少年はゆっくりと目を閉じる。
 一面真っ白な世界から視界が暗転し、少年の意識は、真っ暗な深い眠りへと落ちていった。



ケモノツキ_02_黒い卵】    終


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