恐怖のサンタ 日常編 10
「…………ふむ」
老人の手が、血まみれの女性の腕へと触れた。
ただそれだけの動作のはずなのに、女性の体全体が淡く輝き始める。
何が起こっているのか、山田には知る術はない。
しかしあの占い師と似たような検分を行っているのだろうという予測はついた。
ただそれだけの動作のはずなのに、女性の体全体が淡く輝き始める。
何が起こっているのか、山田には知る術はない。
しかしあの占い師と似たような検分を行っているのだろうという予測はついた。
光は時折強く淡く、波打つように強弱を繰り返している。
瞑想にふけるかのように目を閉じている老人の顔を、光が照らし出していた。
数秒間それを行い、老人が静かに手を離す。
既にその目は開かれている。
老人は興味深そうに、目の前の女性を凝視していた。
その口から言葉がこぼれおちる。
瞑想にふけるかのように目を閉じている老人の顔を、光が照らし出していた。
数秒間それを行い、老人が静かに手を離す。
既にその目は開かれている。
老人は興味深そうに、目の前の女性を凝視していた。
その口から言葉がこぼれおちる。
「突然変異体、かの」
「……突然変異?」
「……突然変異?」
山田には老人が何を言っているのかがよく分からない。
しかし背後の占い師にはその意味を理解できるのか、小さく頷いて
しかし背後の占い師にはその意味を理解できるのか、小さく頷いて
「『組織』にも狙われていたらしい。マッドガッサーと同じような理由だろうな」
「マッドガッサーっていうと、アレか。去年この町で騒ぎを起こしたとか言う」
「誠様をこの町に連れてきて下さった方ですね。まさに恋のキューピット!」
「マッドガッサーっていうと、アレか。去年この町で騒ぎを起こしたとか言う」
「誠様をこの町に連れてきて下さった方ですね。まさに恋のキューピット!」
パチンと指を鳴らすマゾは、誠の周囲の人間関係をあらかた調べつくしている。
一瞬マッドガッサーが裸に布を巻いて、背に翼を生やした姿を想像してしまった占い師が顔をしかめた。
なまじ顔が美少女なだけに似合ってしまいそうなのが怖い。
その力からしてもそんな役割を担えそうだからなおさらである。
一瞬マッドガッサーが裸に布を巻いて、背に翼を生やした姿を想像してしまった占い師が顔をしかめた。
なまじ顔が美少女なだけに似合ってしまいそうなのが怖い。
その力からしてもそんな役割を担えそうだからなおさらである。
「……あれ? けど突然変異って都市伝説特有の者のはずだろ。何でこの人が」
怪訝そうな顔をした山田に、占い師が呆れたような視線を向ける。
「気付かなかったのか?」
「何を」
「何を」
本当に不思議そうな顔をする山田に、老人が口の中で小さく笑った。
占い師に至っては手で頭を押さえている。
占い師に至っては手で頭を押さえている。
「……その女の口元を見てみろ」
「口元、ねぇ……」
「口元、ねぇ……」
夜とはいえ、蛍光灯の灯った室内は明るい。
わざわざ近寄らずとも、遠目で山田からの位置でも見える。
決して、近寄らないのは恋人に誤解されるのが怖いからではない。
目を細めて、山田は女性の口元へと目をやった。
吐血でもしたのか、口周りにべっとりと血が付き、所々黒ずんでいる以外、特におかしい所はない。
わざわざ近寄らずとも、遠目で山田からの位置でも見える。
決して、近寄らないのは恋人に誤解されるのが怖いからではない。
目を細めて、山田は女性の口元へと目をやった。
吐血でもしたのか、口周りにべっとりと血が付き、所々黒ずんでいる以外、特におかしい所はない。
「特に変わった所なんて……」
変わった所なんてない、そう山田は言おうとして、気付いた。
女性の口元、その唇の端から耳元にかけて、一本の線が延びている。
口が閉じ、さらにその上に血がべっとり付いているせいでよく分からなかったが、それは口の一部のように見えた。
真一文字に裂けた口。
それが、一つの単語を連想させる。
女性の口元、その唇の端から耳元にかけて、一本の線が延びている。
口が閉じ、さらにその上に血がべっとり付いているせいでよく分からなかったが、それは口の一部のように見えた。
真一文字に裂けた口。
それが、一つの単語を連想させる。
「口裂け女……?」
「……気づかんでここまで運んできたとはの」
「……気づかんでここまで運んできたとはの」
驚く山田の顔を見て、老人がくつくつと笑う。
占い師に至っては、呆れを通り越して無表情になっていた。
占い師に至っては、呆れを通り越して無表情になっていた。
「もし害意のある都市伝説だったらどうする。職業の立場上、俺やあんたらは都市伝説から恨みを買いやすい。それを分かっているのか?」
「あ、いや、けど血まみれだったし……」
「血糊という可能性もある。現にこの口裂け女が被っているのは自分の血ではない」
「あ、いや、けど血まみれだったし……」
「血糊という可能性もある。現にこの口裂け女が被っているのは自分の血ではない」
半ば説教のようになってしまった占い師の言葉に、山田はうなだれるしかなかった。
子ライオンがやってしまったと勘違いし、てんぱってしまったのは確かである。
もし口裂け女が山田に殺意を持って近づいた都市伝説だった場合、容易に山田の首をはねる事ができただろう。
契約都市伝説のおかげで不死になっているとはいえ、その気の緩みは後に大きな失敗となって山田自身に返ってくる可能性すらある。
都市伝説を狩る事を職業としている身としては、あってはならない失態だった。
落ち込み、しかしふと、山田は何かに気づいたように顔をあげた。
子ライオンがやってしまったと勘違いし、てんぱってしまったのは確かである。
もし口裂け女が山田に殺意を持って近づいた都市伝説だった場合、容易に山田の首をはねる事ができただろう。
契約都市伝説のおかげで不死になっているとはいえ、その気の緩みは後に大きな失敗となって山田自身に返ってくる可能性すらある。
都市伝説を狩る事を職業としている身としては、あってはならない失態だった。
落ち込み、しかしふと、山田は何かに気づいたように顔をあげた。
「けど、この口裂け女を濡らしてる血が自分の物じゃなかったら、何なんだ……?」
占い師は先程、この口裂け女に外傷はないというような事を言った。
そしてその身体に付着した血は口裂け女の物ではないという。
返り血か、と考えて、山田はすぐに首を振った。
こんな雨でずぶ濡れになったように血を被るには、一体何人を殺せばいいのか。
一人や二人では、頸動脈を切った所でここまでの惨状にはならないだろう。
そしてその身体に付着した血は口裂け女の物ではないという。
返り血か、と考えて、山田はすぐに首を振った。
こんな雨でずぶ濡れになったように血を被るには、一体何人を殺せばいいのか。
一人や二人では、頸動脈を切った所でここまでの惨状にはならないだろう。
「……見た限りでは、13階段の血の池と同質の物のようだが」
「ふむ……そんな所じゃろうな」
「ふむ……そんな所じゃろうな」
既に見分を終えた占い師の言葉に、老人が頷く。
山田にとっては「13階段」がどんな都市伝説なのかもわからない状況ではあるが、とにかくこの目の前の口裂け女はその都市伝説か、あるいは契約者にやられたらしい。
山田にとっては「13階段」がどんな都市伝説なのかもわからない状況ではあるが、とにかくこの目の前の口裂け女はその都市伝説か、あるいは契約者にやられたらしい。
「……ん? じゃあ別に猫は関係ないのか?」
「ついさっきもそう言っただろう」
「じゃあ猫が襲ってスプラッタは?」
「……なんだ、それは」
「え、じゃあ何、猫関係なし?」
「だから、そう言っているだろうが」
「ついさっきもそう言っただろう」
「じゃあ猫が襲ってスプラッタは?」
「……なんだ、それは」
「え、じゃあ何、猫関係なし?」
「だから、そう言っているだろうが」
占い師に呆れられたが、山田には老人出現のインパクトが強すぎて、そんな些事を留めておけるほど脳に余裕はない。
単に馬鹿だと言ってしまえばそれまでだが、何もない空間から老人が現れるわ、その老人が剣で串刺しにされるわ、人間だと思っていた女性が口裂け女だったわで今山田の脳内は完全に混乱していた。
現実の出来事に脳の処理が追い付いていないのである。
単に馬鹿だと言ってしまえばそれまでだが、何もない空間から老人が現れるわ、その老人が剣で串刺しにされるわ、人間だと思っていた女性が口裂け女だったわで今山田の脳内は完全に混乱していた。
現実の出来事に脳の処理が追い付いていないのである。
「……マジか、じゃあ俺の頑張りって一体」
思わぬ現実に、山田が足から崩れ落ちる。
その脳内ではこれまで必死になっていた自分の姿が滑稽なBGMと共にリピートされていた。
その脳内ではこれまで必死になっていた自分の姿が滑稽なBGMと共にリピートされていた。
「……ふむ、絶望するのは勝手じゃが。この口裂け女はどうするんじゃの? このまま放っておけばその内消えるじゃろうが」
「……え? けどさっき外傷はないって」
「……え? けどさっき外傷はないって」
老人の言葉に、山田が顔をあげる。
「確かに『外傷』はない。じゃが内面的なダメージは相当大きいの。……それこそちょっと下手に衝撃を加えれば崩壊が始まるくらいには」
「あんたも運んできたんだから分かるだろう。この口裂け女は大分弱っている」
「あんたも運んできたんだから分かるだろう。この口裂け女は大分弱っている」
二人の言葉につられるように、山田が横たわる口裂け女を見た。
その胸は説明とは裏腹に規則的に上下している上、顔に苦悶の色はない。
身体を覆う血のせいで誤解をしていたが、それさえ除けば全く問題はないように見える。
その胸は説明とは裏腹に規則的に上下している上、顔に苦悶の色はない。
身体を覆う血のせいで誤解をしていたが、それさえ除けば全く問題はないように見える。
「……そこまで危険な状態には見えないけどな」
「だから言っておるじゃろう。問題なのは外ではなく内、しかもわしでもよく分からん事態になっておる」
「よく分からない事態っていうと……アレか。突然変異がどうたらこうたらって言う」
「だから言っておるじゃろう。問題なのは外ではなく内、しかもわしでもよく分からん事態になっておる」
「よく分からない事態っていうと……アレか。突然変異がどうたらこうたらって言う」
都市伝説に関しての知識が薄い山田にはよく分からないが、目の前の口裂け女は「普通」ではないらしい。
そもそも、あの占い師が匙を投げ、頼られた仙人の老人すらよく分からないという口裂け女の症状。
それは一体、何を意味しているのか。
そもそも、あの占い師が匙を投げ、頼られた仙人の老人すらよく分からないという口裂け女の症状。
それは一体、何を意味しているのか。
「まぁ、原因は分かるんじゃがの」
「……あれ? 原因も分からない奇病とかそういう事じゃないのか?」
「舐めるな。何をどうしたらこうなったのかは分からんが、少なくとも原因とその治療法くらいなら分かるわい」
「……あれ? 原因も分からない奇病とかそういう事じゃないのか?」
「舐めるな。何をどうしたらこうなったのかは分からんが、少なくとも原因とその治療法くらいなら分かるわい」
ちらりと老人が口裂け女を見て、続ける。
「消えるのは単なる存在自体の崩壊じゃな。原理としては都市伝説が語られなくなって消失するのと同じか」
「……よく分からないけど、口裂け女ってポピュラーなんじゃないの? 消えてなくなるようには思えないな」
「だから『原理としては』と前置きしたじゃろうが。人の話を聞かない若造じゃな」
「……よく分からないけど、口裂け女ってポピュラーなんじゃないの? 消えてなくなるようには思えないな」
「だから『原理としては』と前置きしたじゃろうが。人の話を聞かない若造じゃな」
はぁ、と山田は相槌を打つ事しか出来ない。
「何がどうなったのかは知らんが、この口裂け女は他の同じ種を飲み込んで自らの力とする性質があるらしいの。力を掛け合わせる事で自分の存在を強くし、その分能力自体も強くなっていったはずじゃ」
そこまで聞いて、山田は小首を傾げた。
同じ種を飲み込む口裂け女。
どこかで聞いた事のある話である。
あれはどこだったか、と山田が考え込む。
そもそも、山田が都市伝説について聞く機会は少ない。
マゾが己の想い人とその周囲を取り巻く環境についてうっとりと語るか、占い師から仕事の依頼を受ける時の二択である。
前者は論外だとして、残るは仕事の線。
そして最近仕事で口裂け女に関して占い師から聞いたことと言えば――――
同じ種を飲み込む口裂け女。
どこかで聞いた事のある話である。
あれはどこだったか、と山田が考え込む。
そもそも、山田が都市伝説について聞く機会は少ない。
マゾが己の想い人とその周囲を取り巻く環境についてうっとりと語るか、占い師から仕事の依頼を受ける時の二択である。
前者は論外だとして、残るは仕事の線。
そして最近仕事で口裂け女に関して占い師から聞いたことと言えば――――
「――同族殺しの口裂け女、だっけか」
「…………む」
「…………む」
話を中断させられて、老人が少しだけむくれる。
全く最近の若いもんは本当に、とその目が語っていた。
山田としては頭の中を整理していたら出てきた単語なので、出来れば許して欲しい所ではあるが。
二人を傍目に、占い師は口裂け女の顔を数秒間見続け、頷いた。
全く最近の若いもんは本当に、とその目が語っていた。
山田としては頭の中を整理していたら出てきた単語なので、出来れば許して欲しい所ではあるが。
二人を傍目に、占い師は口裂け女の顔を数秒間見続け、頷いた。
「……だろうな。ほとんど力自体は消えているが、間違いなくあの『同族殺し』だ」
占い師の言葉を受けて、山田が再度目の前の口裂け女を見る。
一度だけ対峙した事のある存在。
その時山田はなす術もなく宙へと吹き飛ばされていた。
ただの口裂け女にしては多彩すぎる能力に、剛腕の持ち主。
それが今、目の前にボロボロの状態で横たわっている。
一度だけ対峙した事のある存在。
その時山田はなす術もなく宙へと吹き飛ばされていた。
ただの口裂け女にしては多彩すぎる能力に、剛腕の持ち主。
それが今、目の前にボロボロの状態で横たわっている。
「――とかく、この口裂け女は都市伝説を飲み込む力を持っていたらしいの」
何だか不思議な気分に囚われている山田の注意を引こうと、老人は強引に説明を進め始めた。
「その結果としてこやつは強くなったんじゃろうが、今はその取り込む力自体がこの口裂け女を消し去ろうとしておる」
「どういう事だ?」
「本来、こやつは同じ『口裂け女』と似たような性質を持つ都市伝説しか飲み込んではいけなかったはずじゃ。他の都市伝説とは本質が違うからの」
「どういう事だ?」
「本来、こやつは同じ『口裂け女』と似たような性質を持つ都市伝説しか飲み込んではいけなかったはずじゃ。他の都市伝説とは本質が違うからの」
老人は唯一動く指でぴっと口裂け女を指差して
「しかしこやつは別の都市伝説を飲み込んでしまった。その結果がこれじゃな」
「……その結果が、と言われても俺には何が何だかさっぱりなわけだが」
「……その結果が、と言われても俺には何が何だかさっぱりなわけだが」
思い切り途中経過をはしょったらしい老人の言葉に、山田がかみつく。
複数の都市伝説と契約し、また都市伝説と生活を共にしているものの、山田はごく最近契約を交わした一般人である。
そんな本質がどうのこうのの話をされても意味が分からない。
老人はそんな山田の様子を見て、深いため息をついた。
複数の都市伝説と契約し、また都市伝説と生活を共にしているものの、山田はごく最近契約を交わした一般人である。
そんな本質がどうのこうのの話をされても意味が分からない。
老人はそんな山田の様子を見て、深いため息をついた。
「全く、困った奴じゃの。馬鹿弟子以上に手間がかかる」
「……おい、馬鹿弟子って誰の事だ、じいさん」
「……おい、馬鹿弟子って誰の事だ、じいさん」
睨む占い師の視線に対して、老人はほっほと笑うだけで何も言わない。
と言うよりも、身体が剣で固定されているせいで背後の占い師がどんな視線を送っているのかが分からないのだ。
と言うよりも、身体が剣で固定されているせいで背後の占い師がどんな視線を送っているのかが分からないのだ。
「時間がない。馬鹿でもわかるように簡単に説明しようかの」
「……何だか引っ掛かるが、分かった」
「ほっほ、何事も素直が一番じゃよ」
「……何だか引っ掛かるが、分かった」
「ほっほ、何事も素直が一番じゃよ」
笑い、老人が背を向けたままの姿勢で山田に語りかける。
「この口裂け女の都市伝説の本質を赤とする。その場合、こやつが飲み込めるのは赤い本質を持つ都市伝説だけじゃ」
老人の手が宙に浮き、赤い光球を生み出す。
その周囲には、真っ赤な光の球を中心にしてピンクや赤紫色の光が浮遊していた。
その周囲には、真っ赤な光の球を中心にしてピンクや赤紫色の光が浮遊していた。
「赤しか飲み込まなければ、本質が揺らぐことはない」
中心の赤い玉へと、周囲の赤系統の色が吸収されていく。
時折黒っぽく、白っぽくなる赤い光は、しかし決して別の色へは変化しない。
「赤」という核を中心にした色を配合した所で、その色が変わる事はないのだ。
時折黒っぽく、白っぽくなる赤い光は、しかし決して別の色へは変化しない。
「赤」という核を中心にした色を配合した所で、その色が変わる事はないのだ。
「しかし、ここで青い本質を持った都市伝説が出てくるとするとな」
赤く揺らめく光のすぐ隣に、青い光がぽつんと出現した。
「もしこの青が赤と混じった場合、その反応は顕著に表れる」
青い光に標準を合わせ、老人がその指を振る。
老人の指の動きに合わせて、青い光は赤い光の中へと飲み込まれていった。
何が起こるのか、想像はそう難しくなかった。
赤と青が合わさった色など、山田にだって分かる。
青い光を吸収した途端、赤い光は紫色の光へと変化した。
老人の指の動きに合わせて、青い光は赤い光の中へと飲み込まれていった。
何が起こるのか、想像はそう難しくなかった。
赤と青が合わさった色など、山田にだって分かる。
青い光を吸収した途端、赤い光は紫色の光へと変化した。
「そして、二種類の合わさったこの本質は、全く別の物へと変化してしまう。これが現状のこの口裂け女じゃな」
ゆらゆらと浮かぶ、紫色の光。
「都市伝説とは人の噂を糧にして成り立つ。しかし今のこやつは何の都市伝説でもない、全く新しい本質を持つ都市伝説じゃ。それが誰かに噂される事はない以上、その存在を保っていた力は消え――――」
パチンと老人が指を鳴らすと、光の球は弾けて消滅した。
「――――こういうわけじゃな」
老人の説明は分かりやすかった。
分かりやすいだけに、残酷だった。
つまり、この口裂け女はもう消滅するしかないのか、と山田は漠然と思う。
分かりやすいだけに、残酷だった。
つまり、この口裂け女はもう消滅するしかないのか、と山田は漠然と思う。
「……でも、私は何ともありませんでしたよー?」
しかし、そこにマゾが異議を唱えた。
冬なのに赤いワンピースを揺らし、かわいらしく首を傾げている。
そんな様子を見る度、もしその性癖さえなければ男なんて簡単に釣れただろうに、と山田はいつも惜しい気分になった。
冬なのに赤いワンピースを揺らし、かわいらしく首を傾げている。
そんな様子を見る度、もしその性癖さえなければ男なんて簡単に釣れただろうに、と山田はいつも惜しい気分になった。
「私も別の都市伝説と融合したような状態ですし、他にも同じような境遇にある都市伝説はいくつも存在すると思うんですがね」
「…………ふむ」
「…………ふむ」
マゾも元は大量生産された「恐怖のサンタ」の一個体にすぎなかった。
それが一人の都市伝説として確立したのは、別の「主人公補正」という都市伝説と結びついたからである。
だから、マゾは問う。
もし仮に老人の仮説が本当なら、マゾ自身も消えているはずなのだ。
それが一人の都市伝説として確立したのは、別の「主人公補正」という都市伝説と結びついたからである。
だから、マゾは問う。
もし仮に老人の仮説が本当なら、マゾ自身も消えているはずなのだ。
「……恐らく、『核』の問題じゃろうな」
老人はマゾの言葉に一瞬考え込んで、しかしすぐに答えた。
核? とマゾが聞き返すのより先に、老人は言葉を紡ぐ。
核? とマゾが聞き返すのより先に、老人は言葉を紡ぐ。
「一つの存在としての『核』が確立されていれば本来は何の問題もないんじゃよ、都市伝説を飲み込むのは、の」
飲み込むこと自体例外的な能力じゃが、と老人は付け加える。
「核を確立し、その上で別の都市伝説の力を付加するのは何の問題もない。その結果存在が崩壊する事もなく、ただ力のみを手に入れる事が出来る」
「なら――――」
「じゃが、この口裂け女はそれを持っていなかった。持てなかったのかもしれんし、核となる自分自身の事を嫌悪していたのかもしれん」
「なら――――」
「じゃが、この口裂け女はそれを持っていなかった。持てなかったのかもしれんし、核となる自分自身の事を嫌悪していたのかもしれん」
だから、結果として口裂け女は別の本質と混じりあい、全く別の都市伝説となってしまったのだろう。
そう、老人は繋げた。
そう、老人は繋げた。
「……そんな事が、あるのか」
山田は呆然として、老人の言葉を聞いていた。
そもそも力が欲しいから、そんな突然変異が起きたのではないのか。
しかしそのせいで自身の存在が消えるようでは本末転倒である。
横たわる口裂け女へと、山田は視線を向ける。
眠り続ける彼女はしかし、山田に何も答えはしない。
そもそも力が欲しいから、そんな突然変異が起きたのではないのか。
しかしそのせいで自身の存在が消えるようでは本末転倒である。
横たわる口裂け女へと、山田は視線を向ける。
眠り続ける彼女はしかし、山田に何も答えはしない。
【続】