アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-a11

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

恐怖のサンタ 日常編 11


「……それで、どうするんじゃ」

 それほど広く室内に、老人の声が響く。
 横たえられた同族殺しの現状を伝え終えた老人は、まだ剣で縫いとめられたままの姿勢で固定されていた。
 「治療」のため、既に同族殺しの腕に老人自身の手を重ねた状態での質問である。

「どうする、って……」

 その問いに、山田は困惑した。
 どうするも何もない。
 助ける事の出来る命があるのなら、助けるべきじゃないのだろうか。
 山田の頭の中には、当たり前のことが当たり前のように浮かんでいた。
 人間として、倫理に則った当たり前の思考。

「この口裂け女は、元々お前さんたちの『敵』じゃろう?」

 しかし老人は、そこに打算を持ちこんだ。
 山田が驚いたように目を見開く。
 老人は言外に治療以外の選択肢を示しているのだ。
 このまま敵である同族殺しを見捨て、見殺しにする事も出来る、と。

 そんな事を考えもしなかった山田は、目の前に現れた二択に戸惑う。
 今までただの小説だと思っていた本がゲームブックだったようなショックだ、なんて半ば現実逃避のような思考すら湧いて出た。
 山田はその目で老人の背を、そして寝かされた同族殺しに視線を移していく。

「俺、は――――」

 一瞬だけ、山田は迷った。
 敵対し、あまつさえ一度殺されかけた相手。
 もしかしたら、治療が終えた途端に山田に向けて襲いかかって来るかもしれない。
 場合によっては、良子や、マゾも対象になるだろう。

「――――見殺しになんて、出来ない」

 しかし山田は、そう言った。
 何ヶ月も前の出来事を思い出して、山田の胸の内をよく分からない、何だか締め付けるような感情が渦巻く。
 山田はかつて、恋人を救えなかった。
 それは鈍感さと愚鈍さが引き起こした、山田にとって二度と経験したくない過ちである。
 今こそちょっぴりの奇跡のおかげでこうして日々を楽しんでいるが、もし仮にその軌跡が起こらなかった場合の事など、出来れば考えたくもない。

 だから、山田は迷いを断ち切った。
 もう二度と、後悔するような選択はしない。
 そう山田は、この生活が始まる際に決めていた。

「そうかの」

 山田の言葉に、老人は何も言わなかった。
 その内側に存在する感情に気づいたのかもしれないし、他人の事に興味がないだけなのかもしれない。
 どちらにせよ、老人のやるべき事は一つしかなかった。
 同族殺しと繋がった腕に意識を集中させていく。

「仙人とは、幽界と顕界を往還する者」

 誰にともなく、老人は語りかける。

「故にその身体は、人の根幹にすら触れる事が出来る」

 老人の手が赤い光の衣を纏う。
 その光は老人の触れた先から同族殺しへと伝い、やがてその身体を覆って行った。

「根幹とは魂。都市伝説では核となる『本質』そのものじゃ」

 言葉と共に、徐々に赤い輝きが増していく。
 老人の手と、同族殺しの身体。
 波長を合わせるように強弱を繰り返す二つの光を前に、アパートの中にいる人間は無言でそれを見つめていた。

「触れるのには無論時間がかかる。じゃが時間をかければわしには出来る」

 赤い二つの光が同調を始めた。
 それとほぼ同時に、同族殺しの胸から小さな光の球が浮かび上がってくる。
 ちょうど先程老人が見せたものより一回り小さなそれは、混じりけのない黒で染まっていた。
 時折表面が波打つそれは、以前同族殺しが出した巨大な漆黒の球体に酷似している。

「混ざった事が原因ならば、以前の二つへと別てば良い」

 赤い光を纏った手を、同族殺しの腕から離す。
 しかし赤い光が消える事はなく、むしろその波長は安定を始めていた。
 離された手は、宙へと浮かぶ黒い玉へと向かう。

「少々荒療治になるが、仕方ないの」

 その手が、黒い球体を掴んだ、その瞬間

「--------っ!?」

 同族殺しの身体が、大きく飛び跳ねた。
 意識のないはずの身体が、痙攣のように小刻みに震える。
 声にならない悲鳴が、その口からは漏れていた。
 意識がないはずなのにその目は見開かれ、痛々しく顔は歪んでいる。
 思わず目をそむけたくなる様な光景が、そこで展開されていた。
 麻酔なしで手術を行うようなものである。
 痛みを感じないはずがない。

「すぐに終わる。一時の我慢じゃて」

 老人にしては珍しい優しい言葉が口から出てきた。
 その手は既に黒い球体に食い込むように入り込んでいる。
 指が食い込むたび、球体はその光を変色させていった。
 時には青に、時には赤に、そして再び黒に。
 何が起こっているのか、山田には全く分からない。
 しかし一刻でも早く終わればいいと、そう願わずにはいられなかった。

「…………む」

 やがて、老人の手に力が籠った。
 今まで探るだけだった指が、何かを掴むように握り締められる。
 恐る恐る、その指が引き出されていく。
 安全に、その先にある物を傷つけないように。
 それは少しずつ、姿を現していった。
 その先端を、そして全体が引きずり出されていく。
 それと共に、黒い球体からはその黒色が抜けて行った。

「……こんな所かの」

 引きずり出されたそれは、淡く輝く球体だった。
 宙に浮く小さな球体を、さらに何回りも小さくしたような赤い球体。
 老人の取りだしたその球体は、同族殺しが取りこんでいた13階段としての力そのものである。

「……若造、こっちへ来るのじゃ」

 自分の手の上で波立つその球体を無視して、老人は山田を呼んだ。
 治療の結果がどうなったのかと、慌てて山田がその傍へと寄って来る。
 途中から、同族殺しの姿は赤い光に隠されるように見えなくなっていた。
 それを老人の配慮だと思っていた山田は――――

「…………おい、何だよ、これ」

 ――――治療の終わったはずの同族殺しの身体を見て、愕然とした。
 山田の目の前にいたのは、口裂け女ではなかった。ましてや13階段でも、人間ですらない。
 完全な茶色と化た上に硬化した肌に、骨の浮き上がった身体。
 生気のない瞳が、苦悶に彩られ大きく見開かれていた。
 以前に一度、山田はその姿をネット上で見た事がある。
 気まぐれに検索し、その不気味さに思わず眉を潜めてしまった存在。

「……何で、ミイラみたいになってんだよ」

 その姿は、その時に見たものと大差なかった。
 唯一違う所を挙げるとすれば、ここはピラミッドのような墓ではなく、日本の古いアパートなところくらいか。

「当然じゃろう。既に一つに混合していた力の一部を切り離したんじゃ。わしにも原理はよく分からんが、身体に負荷がかかるのは当たり前の事じゃろうて」
「じゃあ、何のためにさっき俺に確認したんだよ、お前はっ!」

 激昂し、思わず老人に喰ってかかろうとした山田の前に、一本の指が突きたてられた。

「じゃからお前さんを呼んだんじゃろうが。察しろ、馬鹿者が」
「……察しろって、何を」
「今のこやつは身体の半分をむしり取られたようなもの。それには当然、その分の補給が必要じゃ」

 片手で赤い光球を弄びながら、老人が目で同族殺しを差す。
 半ば投げやりな声で、老人は山田に言った。

「ここでの『補給』とは力の補給を差す。……さて、若造。お前さんのような人間が、都市伝説に力を与えるにはどうすればいいか、分かるかの?」

 出来の悪い生徒に向かって、噛んで含めるような説明の言葉。
 わざわざそこまで聞かれなくても、「補給」と聞いた時点である程度山田は察していた。

「契約、だろ。もう二体の都市伝説と契約してるんだ。それくらい知ってるさ」

 同時に、覚悟も決める。
 なぜ老人がこんなタイミングでこんな事を言ったのか、山田には何となく分かっていた。
 人は、土壇場でその意見や態度を変える事がある。
 山田に関して言えば、殺されかけたために守ると決めていた恋人を絞め殺した事や、壊すと決めていたクリスマスの最終日にそれを諦めた事がそれにあたるのだろう。
 だからこそ老人は、この土壇場で山田を試した。
 これ以上の変更は決して許されない、手続きのみを残したこの場で。

「逆に考えれば、二体もの都市伝説との契約をしているお前さんはもうほとんど器に空きがない。口先だけで何とかなる問題ではないがの」
「……それも、分かってる」

 山田は、以前に占い師から聞いていた。
 人には都市伝説と契約できる数は限られているらしい。
 それは人には器というものがあり、そこには契約できる都市伝説の容量が定められているからだそうだ。
 そして、今の山田は既にその容量のほとんどを使っている。
 ITBのHDDに残り1KBを残しているようなものだ。
 容量超えは、その人間の死に直結する。

「けど、俺は契約するぞ」

 しかしもう、迷うつもりはなかった。
 全ては契約を終えてから考えればいい。
 もし同族殺しが牙を剥いたなら、その時は自分で倒せばいい。
 そう、山田は思った。
 責任を、そしてリスクを生命と天秤にかけるのはもう止めたのだ。

「契約の仕方は、分かるかの」
「馬鹿にするな」

 山田は、同族殺しに向かって手を伸ばす。
 容量を超えた契約には、その契約者自身の気力と、契約先との相性が重要になる。
 さらに言えば、相手が受け入れない事には何も始まらない。
 しかし山田は、それを些事だと思っていた。
 伸ばした手は、後少しで同族殺しへと触れる。

***********************************

 あの口裂け女の手を払い、全てを終えてから、幾日が経っただろう。
 彼女には、闇しか見えなかった。
 元より、光が見えるはずもない。
 自ら身を闇の中へと投じたのだから。
 彼女は、このまま永遠に眠りに就くのだと思っていた。
 光を拒絶した以上、残された物は暗闇しかない。

 だから彼女は、目の前に光が灯った時、最初は天国か何かだと思った。
 間違って自分は放り込まれてしまったのだ、と。
 しかしその瞳が捉えたのは、薄汚い天井だった。
 いくらなんでも、天界がこんなに古臭くて汚い天井の部屋を設けるとは思えない。
 そもそも、雲の上にあるはずの天界に天井のある部屋が必要だとは思えない。

 そして彼女は、気付いた。
 自らの身体が、動かない事に。
 目も見開かれた状態で、そこからぴくりとも動かない。
 何が自身の身体に起こっているのか、彼女には分からない。分かるはずがない。

 彼女に目に映ったのは、自らの元へと伸ばされる一本の腕。
 それが何をしようとしているのかも、彼女に残された思考では判断のしようがなかった。
 しかしそれでも、彼女はぼんやりとした頭で悟る。
 この腕から、あの口裂け女と似た何かを、彼女は感じていた。
 別れる前にあの口裂け女から聞いた言葉が、再び脳裏に浮かび上がる。

 ――――あなたは差し伸べられた手を握り返す事ができますか?

 彼女がここへと連れて来られたのは、偶然。
 その先にいた人間が彼女を治療出来たのも、偶然。
 そしてその結果彼女へと一本の手が差し伸ばされたのは、幸運。
 あの口裂け女答えた理由は、一つを残して全て揃っていた。
 残された一つは、その手を握り返す勇気。

 彼女は、迷っていた。
 この腕は、彼女に救いをもたらす物だろう。
 彼女が求めてやまなかった物を与えてくれる、最後のチャンスだろう。
 その手を、取るべきか取らぬべきか。
 彼女の意思一つで、全ては決まる。

 ――――そして

*********************************************

 診療所の代わりに建てられたプレハブ小屋の中で。
 ミツキは一人、箒を片手に掃除を行っていた。
 まだ診療の始まっていない、朝早い時刻。

「…………?」

 ふとミツキは、診療所の玄関の先に二人の影を見つけた。
 傍らに20代半ばほどの男性と、それにつき添うようにして立っている一人の女性。
 ミツキが見ていると、女性の方が腰からぺこりとお辞儀をした。
 そこに言葉はない。
 しかしミツキにはその女性が誰なのか、そして何のためにここへ来たのかが、分かっていた。

 何も言わず、ただお辞儀だけをして、女性は去っていく。
 どこか気恥ずかしそうな女性を、ミツキは追おうとはしなかった。
 まだ慣れていないのか、隣にいる男性との雰囲気はどこかぎこちない。

「――――どうしたのかね? 随分と機嫌がよさそうじゃないか」

 去っていく女性の存在に惹かれてか、白衣を着た銀髪の女性が奥から現れた。
 その声を聞いて、ミツキが彼女の方へと振り返る。

「――ええ、ちょっと」
「…………ふむ」

 振り返ったミツキの顔は、間違いなく笑顔だった。
 ドクターはそれを見て、去っていく二人の後ろ姿を見て
 どこか満足そうに、頷いた。

同族殺しの口裂け女 HAPPY END】




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー