「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 首塚-72

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だれでも歓迎! 編集
 どろりとそれが這い寄ってくる
 牙を隠し 爪を隠し
 それはゆっくり這い寄ってくる
 気づいた時にはもう遅い
 悪意は もうすぐ傍まで這い寄って来ている




                      Red Cape






 …それは、望と詩織が、ちょうど学校から帰っていた、帰り道で
 ちょうど、アルバイトを終えて「首塚」に向かおうとしていた翼と、たまたま顔を合わせた
 どうせ途中までは道が一緒だし、と三人で歩いていたのだが
 その最中に、「また」、コーク・ロア支配型の被害者たちの集団に遭遇した
 最近、随分と数が増えたような気がする
 とは言え、相手は身体能力などが強化されていると言っても、三人の敵ではない
 あっと言う間に、叩きのめした訳で

「く、くそっ……!」

 被害者達を操っていたコーク・ロアの契約者が、慌てて逃げ出す
 口封じを恐れてだろう
 何とか、逃げ切るつもりなのだ

「逃がすかっ!」
「あ……ちょっと、翼っ!」

 その契約者を追い、翼も走り出す
 今は、少しでも情報が欲しい状態だ
 逃がす訳にはいかない
 もし、口封じにかかってくる相手が現れたら、そちらも叩きのめせばいい
 翼はシンプルに、そう考えていた


 この、決断が
 さらに、己を追い詰める事になるなどと、予想もする事なく


「ちょっと、翼!」
「…っと、お前らも、付いて来たのかよ」

 追いかけていたコーク・ロア契約者を見失ってしまい
 辺りを見回すと、望と詩織が、翼の後を追いかけてきていた
 …何かあった時巻き込みたくないから、置いていこうとしたのだが

「一人で突っ走っても、ロクな事ないわよ。ただでさえ、あなた頭悪いんだから。相手の罠にでもはまったらどうする気よ」
「そうね。わりと重度の馬鹿だし」
「容赦ないなお前らっ!?」

 年下に容赦なく馬鹿といわれて、若干落ち込んでいる様子の翼
 しかし、落ち込んでいる暇などないのだ
 逃げた契約者を探し、辺りを見回す

「…向こうね」

 都市伝説の気配を感じ取った望が、路地の脇道を指差した
 そちらに向かって駆け出せば、見付かった事を悟ったのだろう
 隠れていたその契約者が、がたがたとまた逃げ出そうとしている音が聞こえてきた
 だが、今度こそ追い込む!
 そう考え、路地に飛び込むと


「ぁ……ま、待って、くれ……!」

 聞こえて来たのは、命乞いをしているコーク・ロア支配型契約者の、声と
 無数の、犬の唸り声

 見れば、コーク・ロア支配型の契約者が、無数の犬に囲まれていて
 その、向こう側に
 灰色のコートを着た4,50代程の男が、尾のない犬を従えて、コーク・ロア支配型の契約者を見下ろしていた

「……役立たずが」

 男は、小さく、見下すようにそう言って
 次の瞬間、犬達がコーク・ロア支配型の契約者に、襲い掛かった
 今から助けようにも、間に合わない

「っひ、ぎゃ……!?や、やめてくれ、朝比奈………っうあああああああああああああああああああああ!!??」

 絶叫の中、コーク・ロア支配型の契約者は、犬達に体を食い散らかされ、命を落としていった


「…翼?」

 立ち尽くしている翼に、望は小さく首を傾げた
 どうしたと言うのか
 まさか、この程度のスプラッタな状況に怖気づいた訳でもあるまい
 翼は、これくらいは平気なはずだ

 ……なら、どうして?

「………ぁ、あ」

 翼の、視線は
 犬達の向こう側…灰色のコートを着た男に、真っ直ぐ、向けられていて

「…………して」

 ぐ、と拳を握り緊めて
 翼は、その男を睨み付けた

「…どうして……っ、てめぇが、ここにいやがる……!」

 その声には、たっぷりの憎悪と
 恐怖と、困惑とが、混ぜこぜになっていた

 灰色のコートを着た男が、ゆっくりと、翼に視線を向ける
 男の仕草にシンクロするように、尾なしの犬も、翼に視線をやった

「…父親に対して、なんだ、その口の聞き方は……翼」

 ……ちち、おや?
 望ははっとして、翼とその男を見比べた
 あまり、似てはいない
 だが、翼の年齢を考えれば、彼の父親となると、あれくらいの年齢でおかしくないだろう


 以前、酒に酔って幼児退行していた時の翼の様子を思い出す
 家に帰りたくないと泣いていた姿
 翼が、両親を嫌っているのであろう事は、あの時にはっきりと感じ取る事ができた


 その、翼の嫌う両親の、その片割れが
 今、すぐそこにいる
 しかも、この状況は…

「あんた、本当に翼の父親なの?」

 詩織が発した、その疑問に
 男は、詩織を見ることすらせず、答える

「第三者が、口を挟むな」

 反論を許さない、そんな声
 その言葉を肯定と受け取り…望が、続く

「…あんたが、コーク・ロア騒動の、親玉なのね?」

 望が、男を睨みつけてそう言ってやれば………じろり、男は望を睨み付けた来た
 冷たい眼差し
 人を見下してくるその眼は、不快感しか感じない

「そうだ、と言ったら、お前たちはどうする?」
「………ってめぇ!」

 翼が、男を睨みつけている
 父親、だと言うその男を
 男は再び、翼に視線をやった
 ……コーク・ロア支配型の契約者の体を食い散らかした犬達が、一斉に翼を
 ………いや、望と詩織に、視線をやる

「無駄話をするつもりはない……来い、翼。お前は、私の下で私の言う事を聞いていればいいんだ」
「何を…!」
「…そうすれば、その子供達は、無事に逃がしてやるぞ」

 男の言葉に、翼はびくり、小さく体を跳ねらせた
 ゆっくり、ゆっくりと
 犬達が、近づいてきている
 ちらりと、詩織が背後に視線をやると…そこにも、いつの間にか犬が集まってきていて
 何時の間にか、囲まれてしまっていた
 強行突破は、できなくもない
 ただ、生傷のひとつや二つを覚悟しなければならない程度だ

「その子供達を傷つけることなく、逃がしてやるぞ」

 誘うような、男の言葉
 それが、翼の心を、揺さぶっている

「お前は、その子供達に傷ついて欲しくないのだろう?」
「------っ」

 …こいつ、こちらの事情を知っている…!
 翼を見下してきているその男は、酷く残酷な笑いを浮かべてきた
 何が目的なのかは、わからない
 ただ、こいつは確実に、翼を自分の下において、何かやらせようとしている
 それは、確実にロクな事じゃない

「…翼、聞くんじゃないわよ」

 硬貨で作った鎖を手に、望はそう翼に告げた
 こちらを囲んできている犬達は、どうやら目の前の男の…恐らくは、都市伝説の気配がする、あの尾なしの犬に操られているのだろう
 だが、ただ操られているだけで、何か能力が付属されているようには感じない
 ならば、「はないちもんめ」の能力で、支配権を奪い取ってしまえばいい

 とにかく、翼をあちらに行かせてはならない 
 望は、そう判断した

 ……だが

「…本当、に……望と詩織を、傷つけない、か?」
「……っ翼!」

 翼が、尋ねた言葉に…男が、笑う

「あぁ、そうだ。父親のいう事が信じられないのか?」
「翼!聞くんじゃないわよ!!」

 駄目だ
 あの男は、信用してはならない
 望の本能が、そう告げてくる

 あれは……絶対に、信用してはならないタイプの男だ
 自分のためならば、平気で他人を利用し、裏切り、見捨てるタイプ

 男の……己の父親と、望の言葉に、板ばさみになって

「………」

 ……一歩
 翼は、男に近づいていった

「翼っ」
「……望、詩織。ちょっと、待ってろよ。すぐ、終らせるから」

 一瞬、振り返って、望と詩織に、そう言って
 翼は、ゆっくり、男に近づいていく
 犬達は、一応、望達に近づくのをやめて、止まっている
 途中、犬に食い散らかされた死体の横を通って……翼は、男の前に、立つ

 にやり、男は笑った

「…私の元に戻る気になったか、翼」
「………あぁ、そうだ」

 翼が、右手を上げて

 その右手で、男の顔を、鷲掴みにした
 じゅううううう……っ、と音をたて、煙があがる

「……そうとでも、言うと思ったか、糞親父が!!!」

 怒気の篭った声で、翼が叫んだ
 「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力が、発動している
 翼の体温が急上昇し、男の顔を鷲掴みにしているその手で触れられれば、火傷は必至だろう

「何の目的かは、知らねぇが……てめぇが、コーク・ロア騒動の親玉だってんなら!望達を傷つけようとするんだったら!!てめぇは、俺の敵だっ!!!」

 己の父親相手に、容赦ない攻撃を加える翼
 すぐにでも、男の傍に居る尾なしの犬が、翼に攻撃を仕掛けるだろうと、そう望は考えた
 己の契約者を、護ろうとするはずだ、と
 だから、そのサポートをしようとした
 だが

(…動かない?)

 尾なしの犬は、動かないどころか………ニヤリ、と笑っていた


「…それが、お前の能力か」


「っ!?」

 翼に、顔を鷲掴みにされて
 その顔を、高温で焼かれているはずの男が、口を開いた

「なるほど。通常ならば、これで勝負はついただろうな」

 男の手が、翼に伸びて

「だが、私には効かん」

 次の瞬間、翼は男に首をつかまれ、壁に叩きつけられた

「------っが」
「翼!?」

 みしり、壁にひびが入る
 かは、と翼が血を吐き出したのにも構わず、男は翼の首を片手で締め上げ、その体を壁に押し付けていた
 翼に鷲掴みにされていたその顔は…火傷ひとつ負っていない
 翼の、「日焼けマシンで人間ステーキ」の能力が…全く、通用していない

 自分の父親相手だから、手加減した?
 まさか
 翼は全力で能力を使っていたように見えた
 手加減などしていなかったはずだ
 ……ならば、何故?

 その答えを見つけるよりも、先に、男が口を開いた

「父親に手を上げるとはな………どうやら、お前の立場をわからせた方が良さそうだ」
「……!」

 望を、囲んでいた犬達が
 一斉に、動き出した

「殺せ」
「-----やめろ!!」

 翼は男の手から逃れようとするが、動けない
 まるで、人間とは思えぬ強力で押さえ込まれ、身動きひとつ取れない
 その間に、尾なしの犬が遠吠えするように吼えて
 望と詩織を囲んでいた犬が、一斉に地を蹴った

「この…っ」

 鎖を、犬達に放とうとした、その時


 ころんっ、と
 望の足元に…石が、転がってきて
 石が光を放った瞬間、望と詩織の体は、光のドームに覆われた
 その結界に弾かれ、犬達は「ぎゃんっ!?」と悲鳴をあげる


「…パワーストーン?」

 ころん、と
 転がって、光を放っているそれは、パワーストーンだ
 黒服が、いつも持ち歩いている…

「動かないでください」

 ぱきり、石が砕けた音がして…直後、黒服の、声が
 男のすぐ傍から、聞こえてきた
 光線銃の先端を、ぴたり、男のこめかみに突きつけた黒服の姿が…いつの間にか、姿を現していた

「…くろ、ふく」
「朝比奈 秀雄……コーク・ロア支配型騒動及び、悪魔の囁き騒動の、主犯として…あなたの身柄を、拘束します」

 銃を突きつけたまま、黒服は男に…朝比奈に、そう告げた
 黒服の言葉に、朝比奈に首を絞められたままの翼が、小さく体を震わせた

「翼から、手を離しなさい」

 黒服が、朝比奈を睨みつけている
 黒服にしては珍しい、はっきりとした敵意を、朝比奈に向けている
 …朝比奈は、黒服に視線を向けようともしない
 視線を翼に固定したまま、ゆっくりと口を開く

「…お前か。私の手元から、私の最高傑作である翼を、引き離したのは」
「翼は、物ではありません。あなたの所有物ではない」
「私の息子をどうしようが、私の勝手だ」
「……誰、が……てめぇ、の、息子だ」

 首を絞められた状態のまま
 その絞めてくる腕を掴み、翼が朝比奈を睨み付けた
 腕を掴むその手は、相変わらず能力で高温に達しているはずなのだが、朝比奈はその手でつかまれても微動だにしない

「てめぇなんざ、父親じゃねぇ……!」
「…何を言う。お前は私の息子だ」
「……違う!!」

 はっきりと、翼は叫んだ
 朝比奈を睨みつけるその目に、強い憎悪を浮かべて

「てめぇなんざ、父親じゃねぇ!家族じゃねぇ!!俺の家族は、黒服達だけだ!!!」
「…化け物と、家族ゴッコか」

 吐き捨てるように、朝比奈はそう口にした
 じろり、と、ようやく黒服に視線をやる

「化け物が。私の息子を、どうやって誑かした」
「ッ黒服を、化け物と呼ぶな!」
「…聞き捨てならないわね」

 結界が展開された中で、望がぼそりと呟いた
 …黒服を、化け物と呼んだ
 望には、それが許せない
 それは、翼も同じなのだろう
 朝比奈を睨む視線に、憎悪が強くなっていく

「化け物を化け物と呼んで、何が悪い。こいつは、人間ではないのだ」

 化け物、と
 嫌悪した声で、朝比奈はそう口にする
 その言葉に、動揺を見せる様子なく、動じる様子なく、黒服は朝比奈に銃口を突きつけ続けていた

「私のことをどう呼ぼうと、構いません……今すぐ、翼から、手を放しなさい」
「化け物風情が、私に口を出すな…貴様が銃を撃つのと、私が翼の首を折るのと、どっちが早いと思っている」

 …そうだ
 朝比奈は、翼の首を絞め続けている
 人間離れした怪力が身についているらしい朝比奈
 恐らく、もう少し、力を入れれば……翼の首の骨は、あっさりと折られてしまう
 ぎり…と、朝比奈が、その手に力を入れたのか
 ぐ、と翼が苦しみだす

「っ翼!」
「銃を下ろせ。私も、息子を手にかけたくはない」

 苦しむ翼に、黒服が迷いを見せた
 だが

「……っだか、ら……俺は、てめぇなんかの息子で、あるつもりはねぇ……っ!」

 首を絞められながらも、翼は叫んで
 己の首を絞めてきている、その腕から…何時の間にか、翼の手は離れていて
 じゃらり
 腰から下げていたチェーンベルトを、掴んでいた

 っひゅん、と
 放たれたそれが、朝比奈の首に絡んだ

「む……?」
「てめぇは、俺の敵だっ!!」

 絡んだそれを、翼は力一杯、引く
 熱の力は効かなくとも、首を絞められるのは効果があったのだろうか
 朝比奈の力が一瞬緩み…その隙に、翼は己の首を絞めてきている腕を、蹴り上げた
 その拍子に、朝比奈の手から、翼の首が放される

「く……っ」
「翼!」
「………おのれ!」

 おぉおおおん
 尾なしの犬が、再び吼える
 結界に阻まれ、望達に近づけずにいた犬達が、一斉に黒服を睨んだ
 そちらに向かって駆け出そうとした犬の、一匹に…じゃらんっ、と
 硬貨で作られた鎖が絡む

「買って嬉しいはないちもんめ!」
「…っ貴様も、支配系能力者か!?」

 望の支配権の下に入った犬達が、一斉に朝比奈に襲い掛かる
 朝比奈は襲い掛かってきた犬を蹴り飛ばすと、忌々しそうな表情を浮かべる

「化け物に、薄汚れた餓鬼が!!私の邪魔をするのか!」
「…俺の家族を、馬鹿にするんじゃねぇ!!」

 翼は、朝比奈の首に絡んだままのチェーンを再び引いた
 そのまま首を締め上げようとしたが…そのチェーンは、跳びあがった尾なしの犬に、食いちぎられる
 ぐるる、と唸り声をあげる尾なしの犬
 朝比奈は、自分を囲む者達を、憎悪を込めて睨みつける
 視線は、そのうち、翼に固定された

「…翼。私に逆らって、どうなるかわかっているのか?」
「俺は、もう、てめぇの言いなりになんざ、ならねぇ」

 翼も、朝比奈を睨み返す
 …その体が、かすかに震えている事に、望は気づいてしまった

「…ふん、まぁ、いい……お前を私の元に取り戻す事など、いつでもできる」

 朝比奈も、それに気づいたのだろうか
 翼に見下した視線を向け、続ける

「この化け物が言った通りだ。私は、悪魔の囁きと契約している……お前に縁ある者を堕としめれば、お前の心が揺れると思ったが。思ったより、うまくいかなかったな」
「……ってめぇが、誠と藤崎に……っ」
「コーク・ロアをばら撒いているのも、私だ。兵は多ければ多い方がいい……私の、目的の為に」

 くっく、と朝比奈は笑う
 ゆらり、その片腕を揺らした

「この世界には、馬鹿共が多すぎる。そんな馬鹿共よりも、私が、世界のトップに立てば、全てがうまくいく……私が、世界を支配する」
「…それこそ、バカの妄言に聞こえるわね」

 望の言葉にも、朝比奈は笑うばかりだ
 己の考えが正しいと、絶対だと、信じ込んでいて
 それ以外、全ての意見を一切聞きいれない、どこまでも自分勝手な思考

「………翼。私の元に戻れ。お前を一番うまく扱えるのは、私だ」
「…ッ誰が!」
「お前が私の元に戻らぬ限り。この街に、私は悪意を振りまき続ける」

 朝比奈の言葉に、翼の顔に、恐怖が浮かんだ
 自分の事よりも、むしろ、他の者を巻き込む方が、翼を脅迫する事に適していると、この男はわかりきっていた

「そんな事は、させません」
「ここから、逃げられると思っているの?」

 黒服と望の言葉に、朝比奈は笑った

「あぁ、思っているさ!!」

 ぶぅん!と
 朝比奈が腕を振るった
 目にも止まらぬスピードで、一瞬で振るわれた、腕は

「……ぇ」

 すぱぁん、と
 この路地を形成していた、壁を
 この道の左右の、廃墟ビル、二つの壁を
 あっさりと、切り裂いて

「はっはははははははははははははははははははは!!!!」

 朝比奈が高笑いする中、ビルが崩れていく
 その巨大な破片は、この場にいる全員に向かって降り注いできて

「----っ!!」

 黒服は、光線銃を投げ捨て、懐からパワーストーンをいくつも取り出した
 それが作り出す結界が、黒服と翼、望と詩織を包み込んでいく

「クールトー!」

 朝比奈の呼びかけに、尾なしの犬…クールトーが、彼を背中に乗せた
 巨大な尾なしの犬が、降り注ぐ破片を避けて駆け抜けていく

「翼!!貴様が私の元に戻らぬ限り!!貴様のその大切な者が無事でいられると思うな!!!」
「-----てめぇ!!」

 逃げ出していく朝比奈を止める事が、出来ず
 倒壊したビルの崩壊音が、あたりに響き渡った



 数分後

「皆さん、無事ですか!?」
「えぇ」
「平気よ」

 パワーストーンの結界に護られていたお陰で、全員、傷ひとつ負っていない
 辺りでは、支配から解放された犬達が、きょときょとと不思議そうに辺りを見回している

「…翼」
「大丈夫ですか?」

 望達に、声をかけられたが
 翼は俯いたまま…答えない
 その体は、かたかたと、はっきりと震えていた

「……俺の、せい、で……?」

 小さく、小さく、呟かれたその声は
 はっきりとした、恐怖と絶望で彩られていた







 同日
 学校町のあちらこちらで、それは動き出した


 とある路地裏で

「ぁ……い、いや………」

 一人の女性が、無数のタコに囲まれていた
 袋小路に追い詰められ、逃げられない
 怯える女性を前に、藤崎はくすくすと笑っていた

「大丈夫……怖くなんてないわ。気持ちよくなって、私のためのタコを作ってもらうだけだから」
「-----いやぁあああああ!!??」

 タコ達に群がられ、悲鳴をあげる女性
 くすくすと、藤崎は笑い続ける

 その顔に、最早理性は残っていない
 自我の半分以上を、タコ妊娠に飲み込まれつつあった

 ただ、それでも

「あはははは…待っててね、日景君。絶対、私のものにしてあげるから」

 その願いは、ただひとつ
 狂わされた願いをかなえるためだけに、行動し続けていた






 繁華街の、一角で

 車の中で、イチャついているカップルがいた
 それを、少し離れたところから、一人の青年が憎悪を込めて睨みつけていて

『ホラホラァ、気ニ食ワネェダロォ!?殺シチマエ!!』
「……あぁ、そうだな」

 内側から響いた声に、答えて
 青年は、一言、口にする


「……爆ぜろ」


 次の瞬間、バカップルが乗っていた車が、大爆発を起こした
 辺りの人々が、パニックを起こし始める

 その様子を、青年は楽しげに見つめていた

「くっくっく……滅べ、リア充共め」
『ソウサソウサァ!!気ニ食ワネェ奴ァ、ミィンナ殺シチマエェエエエエ!!!!』

 くっくっく、と笑いながら
 青年は、喧騒の中に溶け込むように、消えていった






 人気のない、工業地帯で


 そのホームレスは、使われなくなった工場の隅で、昼寝していた
 彼の行動時間は、どちらかと言うと夜だ
 だから、今のうちに睡眠をとっておくつもりでいて

 しかし、彼は最早、その眠りから目覚める事は叶わなかった
 音もなく近づいてきた、巨大なそれは…ガブリ、眠るホームレスの首筋に、噛み付いて
 一瞬で、ホームレスは命を落とす

 巨大なそのライオンは、ずる、ずる、と
 どこかへと、ホームレスの体を引きずっていってしまった
 …食料として、己の胃袋に、飲み込むために

 この日より、学校町内にて、ホームレス等路上生活者の失踪が多発することになる







 住宅街の、一角で


「な、何、よ………な、何なのよ……!?」

 女性は、パニックを起こしていた
 何、だ?
 目の前にいるこれは、一体何なのだ?

 ぶるるっ、と、それは、女性に角を向けたまま、体を震わせて

「………死ね、ビッチ」

 と、一言そう告げて

「----っひ!?」

 次の、瞬間
 女性の体は、その美しい白馬の額から生えた、太く長い角に付きぬかれ…女性は、一瞬でその命を、奪われた






 とある、ビルの屋上で



「そう言う訳だからぁ~~♪好き勝手に、暴れちゃってねぇ~~~~♪」
「うん、わかったよ」

 ばさりっ
 両腕が翼になっている女性は、少年に主の言葉を告げて飛び去っていった
 古い、旧式のゲームボーイを持った少年は、楽しげに呟く

「ゲームの開始だね、カイザー」

 さぁ、楽しみだ楽しみだ
 どうせ、自分達が勝つに決まっている
 少年、竜宮はそう信じきって、楽しげに楽しげに笑った




 この日より
 学校町内にて、ありとあらゆる都市伝説犯罪が、一斉に増加する事になるのだった


to be … ?

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