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連載 - 恐怖のサンタ-x09

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uranaishi

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 09


 悪魔の囁き関係の人間が本格的に活動を始めたらしい。
 各地で人が失踪したり、カップルが爆発したり、挙句の果てには空を飛ぶモンスターまで目撃される始末である。
 それは伝聞だけではなく、実感としても山田を捉えていた。

「……ここ最近、ちゃんと寝れた記憶がないんだけど」
「(イインジャネェノ? 金ガ入ルンダカラヨォ)」

 疲労でいつ倒れてもおかしくない身体を引きずりながら、山田は住宅街を歩いていた。
 閑静な住宅街、なんてキャッチコピーが似合いそうな程、辺りは静まり返っている。
 こんな平和な空間にいると忘れてしまいそうになるのだが、この住宅街を少し抜ければそこでは軽犯罪から重犯罪まで、ありとあらゆる形態の犯罪が横行しているらしい。
 全てが悪魔の囁きに取り憑かれているわけではないだろう、と山田は思う。
 犯罪は犯罪を呼ぶ、なんて言うとチープになってしまうが、犯罪は何かしら人の心に焚きつけるものがあるようだ。
 人の倫理観が少しずつ崩れている。
 そんな事を、山田は疲弊した頭でぼんやりと考えていた。

「……で、今から退治に行くのも悪魔の囁きなんだっけ?」
「そうみたい。面倒くさいよねー」

 山田が問いに対して、頭上から返答があった。
 目の前で、細い足がぷらぷらと揺れている。
 もし鏡でも近くにあれば、山田の頭に乗っかる一人の少女を見る事が出来ただろう。
 揺れる度様々な圧力で山田に押しつけられる微妙に柔らかい感触に、少しだけどぎまぎしながら、山田は頭上にいる少女へ言った。

「…………人の頭に乗るなと何度言えば分かる」
「歩くと疲れる。でも座る場所がない。山田の頭は座るのに最適。つまりここは私の特等席―」
「人の頭を座席みたいに言うな。そこは座るための場所じゃないぞ」
「座り心地さえ良ければなんでもいいと思うよ」
「とか言いつつ座り心地のいい場所を探すのは止めろ。頭に色々駄目な部分が押し付けられてちょっと駄目やめて俺に変な性癖植え付けないでぇぇぇぇえええええええっ!?」
「(誘ッテンダロ。ホラ、ヤッチマエヤッチマエ)」

 馬鹿騒ぎをしながら、山田たち三人は住宅街を歩いていく。
 他の誰かが見れば眉を潜めそうな光景ではあるが、少なくとも新たな性癖に目覚めつつある一人を除いて、当人たちにとっては至って平和に遊んでいるつもりである。
 目標の家は、すぐそこまで迫っていた。

*********************************************

「ここか…………」

 住宅街から取り残されるように、そのアパートは建てられていた。
 一体築何年が経過しているのだろうか。
 外壁は長年の風雨で削られ、黄色を通り越して何だか茶色っぽくなっている。
 原因不明の爆発やら電波ジャックが頻繁に起こるこの町で、よくこんな地震一発で潰れそうな建物が未だに残っているのか、果てしなく謎である。

 依頼人はこの二階に住んでいるらしい。
 赤錆びて今にも崩れそうな階段を、山田たちは慎重に登っていく。

「気をてよ、山田。崩したらきっと弁償だと思うの」
「だったら自分で浮け、自分で! お前が頭に乗ってるせいで重量が増えてるんだ。それが原因で階段を踏み抜いたらどうするつもりだ、おい」
「む。仮にもれでぃに体重の話は失礼だよ、山田」
「レディは人の頭に腰かけるような真似をしないだろうが。レディなら恥じらいを持てっての!」
「いいの。私は存在そのものが恥じらいで満ちてるからいいの」
「恥じらい通り越して完全に不遜な態度だろ、これ……」

 降りる気配すら見せない頭上の幽霊と話しながら、山田は何とか階段を登り終えた。
 帰りになったら今度はここを降りるのか、と少し憂鬱になるが、先の事はその時に考えればいい。
 多分降りる方が楽だろうと考えている山田は、登る時よりも降りる時の方が階段に力が加わる事を知らない。

「つか、これ床も腐ってないか……?」

 一体このアパートの大家は何をしているんだろうか。
 こんなアパートを経営するより、解体して土地を売った方がはるかに設けられそうなものだが。
 そんな事を考えながら、山田は再び慎重に歩みを進めていく。
 目指す部屋は207号室。
 この廊下の一番奥にあるのがその部屋である。

「……ぼろいね、山田」
「そう言う事は言っちゃ駄目なの! まだ人が住んでるんだから」

 だったら誰も住んでなければいいのかという話なのだが、山田はわざわざ無人の廃屋を「ぼろい」と形容した事がない。
 誰も手入れをしていなければ、ぼろいのは当たり前なのだ。
 人が住んでいるのにもかかわらずぼろいからこそ、人はその建物を言葉に出してそう形容するのかもしれない。

 ただ、確かにその部屋の扉はぼろかった。
 扉としての機能を果たしているのか疑問になるほど扉の至る所に亀裂が走り、取っ手は赤錆びて回るのかどうかも疑わしかった。
 その扉の隣には、申し訳程度に白いチャイムが取り付けられている。
 それだけは最近付けたものなのか、新品とまではいかないものの機能しそうな雰囲気である。

「……取りあえず、これを押せばいいんだよな」
「大丈夫? 壊れたりしない?」
「(壊シタラ弁償ダゼェ?)」
「大丈夫だろ、新しいっぽいし」

 軽い気持ちでそう答えて、山田は白い呼び鈴に手を伸ばした。
 一応念のためにあまり力入れずに、そっと触るように白いボタンを押しこむ。
 標準的なチャイムの音が半壊した扉から漏れ出てきたので、取りあえず壊れてはいないらしい。

「――――はい」

 少し遅れて、中から女性の声が聞こえてきた。
 どこか疲れたようなその声は、その主があまり良い体調ではないのだろうと推察させる。
 声から少し遅れて、部屋を横切る様な小刻みの足音が響いてくる。
 訪ねて来る人間自体が少ないのだろう。
 ろくに確認もせずに扉は開かれ、中から一人の女性が現れた。
 何かの病気にかかっているような白い肌に、生気のない目。
 生活に疲れた、なんてレベルではない。
 既に死んだはずの人間が動いているような錯覚を、山田は覚えた。

「……どうぞ」

 山田とその頭に載る佑香を見るなり、女性は身体を半歩横へ動かし、中へ入るよう促してくる。
 山田たちが誰か、という確認すらない。
 このアパートの中で唯一頑丈そうな石でできた玄関を視認して、山田は部屋の中へと踏み入れた。
 女性は山田たちの顔を見ようともせず、廊下とも言えない短い木張りの床を先導し始めた。
 歩きながら、女性が山田にかすれた声で語りかける。

「……あの子は良い子だったんです。親に迷惑もかけず、私がして欲しいことを何でもしてくれました」
「………………」

 対する山田は、無言。
 こう言う時は相手に話させておくべきだと、山田は経験則で知っていた。
 佑香は山田の上に依然として座りながら、無言で家の中を興味深そうに見渡している。
 お嬢様育ちの彼女としては、このような煤けた家が珍しいのかもしれない。

「ですが、最近いきなり私の言う事を聞かなくなって、何かに取り憑かれたように今までやってきた事を全て投げ出して」

 女性の話が始まって間もなく、山田たちは目的の部屋の前に到着した。
 アパート同様、薄汚れた襖。
 この先に、悪魔の囁きに取り憑かれた少年がいるんだという。

「お願いします。あの子を救ってやってください……」

 部屋の前で、女性が頭を垂れて懇願してきた。
 依頼人に直にお願いされることの少ない山田としては、何ともやりにくい限りである。
 煮え切らない生返事をして、山田は襖に手をかけた。
 建てつけが悪いのか、ガタガタと音を立てながら、襖が横へと滑っていく。

 初めに目に入ったのは、粉々になったギターだった。
 恐らく一つではなくいくつものギターの破片が、部屋に散らばっている。
 必要最低限の就寝用のスペースと、木製の机。
 その部屋で「無事」と形容できるのはそれだけだった。
 そんな部屋唯一の家具の前に、その少年は座っていた。

「――――あれか?」
「ダロォナ。気配モ一応シテルゼ」

 いつの間に実体化したのか、デビ田が山田の首に巻きつくようにとぐろを巻いている。
 頭に少女の霊を乗せ、首に蛇を巻き付けた山田の姿は異様というほかないはずなのだが、痩身の女性は頭を垂れたままで気づかない。
 机に座り、何かをの作業を一心不乱に行い続ける少年の背を目で捉えながら、山田は部屋の中へと足を踏み入れた。
 山田の気配に気づいているのかいないのか、ずっと机に向かい続ける少年に、佑香が首を傾げる。

「……何に熱中してるんだろ?」
「げーむカぱそこんラヘンジャネェノ? がきガ部屋デ遊ビ呆ンノハソンナトコダロ」
「まぁ、堕落させんのが悪魔の囁きの仕事だしなぁ」

 襲ってくる気配もない。
 山田は警戒しつつ、少年の元へ歩み寄った。
 窓は全て閉め切られ、机の上に置かれた蝋燭のみが少年の姿を浮かび上がらせている。
 一体悪魔の囁きは少年に何をさせているのか。
 少年の肩越しにその手先を見ようと、山田は身を乗り出して――――

「――――ん?」

 ――――その視線の先にある物を見て、目を丸くして驚いた。
 その間も、少年はがりがりと作業を続けている。
 ……何故か右手に鉛筆を、そして参考書を傍らに。

「……おい、悪魔の囁きに支配されてるんじゃないのか、こいつ」

 悪魔の囁きは人間の隠れた欲求を増幅させる等して、非行や犯罪に走らせる都市伝説のはずである。
 その悪魔の囁きに取り憑かれた人間が何故、がむしゃらに勉強なんてしているのか。

「知ルカ。コイツガ取リ憑カレテンノハ間違イネェヨ」
「え、なに、じゃあ悪魔の囁きのせいで勉強してるわけ?」
「私、勉強なんて嫌い」
「嫌いな物を強制するのは……悪魔の囁きとしてどうなんだ、それ」
「ダカラ知ラネェッテノ。ンナ面倒クセェ事、普通ハシネェヨ」

 ではなぜ、この少年は一心不乱に勉強なんてしているのか。
 前任の頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がった、その時だった。

「――――やめて! 勉強なんてしなくていいのよ、修ちゃん!」

 唐突に後ろから走り寄ってきたあの依頼人が、少年の背に抱きついた。
 突然の行動に、山田が驚いて一歩後ずさる。

「勉強なんてオゾマシイ事! 修ちゃんは一生遊んでればいいのよ!」
「………………」

 すがりつく母親に対して、少年は無表情で鉛筆を走らせていた。
 時折、その口から数式や群動詞の一部が漏れ出している。
 勉強なんてするなという母親と、一寸も動かずただ勉強を続ける息子。
 なんとも異様な光景だった。

「……なに、あれ」
「これはあれか、母親が『遊び』を強制してたから、勉強に対する欲が膨らんでたのか」
「ソコヲ悪魔ノ囁キニ付ケ入ラレタッテ訳カ。ハッ、馬鹿ミテェナ話ダナ」

 悪魔の囁きは、その人間が進んでいた道を踏み外させる。
 ならもしその人間がまっとうな道を進んでいなかった場合、どうなるのか。

「勉強なんかしちゃ駄目よ! 勉強なんかしなくても、修ちゃんは私が養ってあげるから!」
「………………」

 この場合、悪魔の囁きを取り除く事は、果たして少年にとってプラスになるのだろうか。
 悪魔の囁きがもたらした特異な状況を前に、山田はただ、困惑していた。

「…………けど」

 何が少年にとっての不幸で、何が幸福なのか。
 山田にそれは、分からない。
 それでも、少なくともそれは他人に強制されて得る物ではない。
 強制するのが悪魔の囁きであれ、この母親であれ、だ。
 そんな風に山田は思って、一歩、少年へとその足を進めた。

 悪魔の囁きを取り除いたとして、少年がどうなるのか。
 それはちゃんと親子で話し合えばいいと、山田は考えた。
 少年が最もやりたい事。
 それが何であれ、それはちゃんと少年が自分で選び取るべきはずのものなのだから。

【終】



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