ドクター56
ペットショップ『ゲルマニア』の裏手に建つ、別棟の一軒家
『総統』一人の頃は使っていなかったのだが、『ウィンチェスター』の少女が住み込んだり『エニグマ暗号機』の姉妹が訪れたりするようになったため、生活空間として開放された建物だ
「人を匿うならここで構わんだろう」
「いつもながらお手数をお掛けします、総統閣下」
「なに、君に任せている研究の成果からすれば、こちらが心苦しい程だとも」
総統とドクターののんびりとした会話の最中、元『悪魔の囁き』である少女・沙々耶は周囲を警戒しながらびくびくとしていた
「いぬ、いぬがいっぱいいる、ほえてるよぅ」
涙目でガクガク震えている沙々耶
「犬達は店の中にいるし施錠もしてある。我が店舗はミサイルの一発や二発ではびくともせん堅牢な造りになっている、君に危害を加える事はできんよ」
「野良犬や散歩中の飼い犬とかもいるでしょう。そちらの防備は大丈夫で?」
「それはこれからだ。話によればこれの原因はかなり被害を拡大しているようだし、各組織や正義感の強い者達、被害者の関係者が黙ってはおるまい」
そう言ってから、総統は玄関口の方に向かい手招きする
「おきゃくさん、ですか? なかま、ですか?」
それまで玄関口の扉の陰から様子を窺っていた『ウィンチェスター』の少女が、とことこと総統の元に駆け寄ってくる
「ふむ、言うなれば……家族、で構わんのではないかな」
「かぞく、です。としうえ、ひと、あね、ですか?」
小首を傾げ、沙々耶をまじまじと見詰める少女
「そういう事になるな。この子はな、今怖い人に追われている。お前の力で守ってやって欲しい」
「わたし、ちから、いえ、まよう、ですか?」
「ああ、しばらくの間この家を使って、この子の元に誰も辿り着けないようにして欲しい。しばらく面倒を見てやってくれるか?」
おどおどと震えている沙々耶を見て、その手をきゅっと握り
「まもる、わかる、です。ごはん、つくる、がんばる、たべる、くれます、か?」
「どうやってでもいいから、はやく、はやくいえのなかにはいろう!? いぬが、いぬが」
たどたどしい言葉遣いの二人が駆け足で家の中に入るのを見送り、総統はくっくと喉を鳴らせて笑う
「いやはや、外見は本当に昔の君にそっくりだ。もっともあれぐらいの年頃では既に今のような性格だったから、ある意味で新鮮な感覚だ」
「自分で言うのも難ですが、あれにはぶっちゃけ欲情します」
「君は少しぶっちゃけないで自重する事を覚えたまえ」
「総統閣下は犬への愛情を自重できますか?」
「君は私に呼吸に等しい行為を自重しろと言うのかね」
「私が女性に欲情するのもそういう事ですので自重は無理です」
「……付けた教師が悪かったな。彼女は医学者として教師として実に優秀だったのだが、女性の生徒を付けた事が無かったせいで人間性を把握し切れていなかった」
「ボクとしては、本来あるべき世界へ導いてもらえたという感謝で一杯なのですが」
真顔で答えるドクターに、総統は額に手を当てて溜息を漏らす
「まあ君の性癖は今更どうこうできるとは思えんので置いておこう。『悪魔の囁き』についての相談が一向に進まん」
「除去薬は提供されたので事後対応は可能ですが。元を断たない事には話になりません。契約者である朝比奈という男をどうするかです」
「話によれば、その男と因縁がある者も多々いるようだ。我々はまだ手は出すべきではないな」
「まだ、ですか」
「マッドガッサー騒動の時もそうだったが、我が組織の人員は攻撃に使える火力が極端だ。最終的にこの町の契約者達で片付けられない場合になった時のみ、本国から人員を呼ぶ事になる」
「では我々は二次被害を食い止める方に動きましょう。ボクは『悪魔の囁き』の除去や負傷者のケアに回ります。総統閣下は奴の手駒を削ぐ方向でお願いします」
「ふむ。では久々に本気でやってみるとするかね」
総統はごほんと咳払いをして、なにやら奇妙な機械を取り出す
「人間に聞こえては困るのでな。この可聴域変換機の出番というわけだ」
『総統』一人の頃は使っていなかったのだが、『ウィンチェスター』の少女が住み込んだり『エニグマ暗号機』の姉妹が訪れたりするようになったため、生活空間として開放された建物だ
「人を匿うならここで構わんだろう」
「いつもながらお手数をお掛けします、総統閣下」
「なに、君に任せている研究の成果からすれば、こちらが心苦しい程だとも」
総統とドクターののんびりとした会話の最中、元『悪魔の囁き』である少女・沙々耶は周囲を警戒しながらびくびくとしていた
「いぬ、いぬがいっぱいいる、ほえてるよぅ」
涙目でガクガク震えている沙々耶
「犬達は店の中にいるし施錠もしてある。我が店舗はミサイルの一発や二発ではびくともせん堅牢な造りになっている、君に危害を加える事はできんよ」
「野良犬や散歩中の飼い犬とかもいるでしょう。そちらの防備は大丈夫で?」
「それはこれからだ。話によればこれの原因はかなり被害を拡大しているようだし、各組織や正義感の強い者達、被害者の関係者が黙ってはおるまい」
そう言ってから、総統は玄関口の方に向かい手招きする
「おきゃくさん、ですか? なかま、ですか?」
それまで玄関口の扉の陰から様子を窺っていた『ウィンチェスター』の少女が、とことこと総統の元に駆け寄ってくる
「ふむ、言うなれば……家族、で構わんのではないかな」
「かぞく、です。としうえ、ひと、あね、ですか?」
小首を傾げ、沙々耶をまじまじと見詰める少女
「そういう事になるな。この子はな、今怖い人に追われている。お前の力で守ってやって欲しい」
「わたし、ちから、いえ、まよう、ですか?」
「ああ、しばらくの間この家を使って、この子の元に誰も辿り着けないようにして欲しい。しばらく面倒を見てやってくれるか?」
おどおどと震えている沙々耶を見て、その手をきゅっと握り
「まもる、わかる、です。ごはん、つくる、がんばる、たべる、くれます、か?」
「どうやってでもいいから、はやく、はやくいえのなかにはいろう!? いぬが、いぬが」
たどたどしい言葉遣いの二人が駆け足で家の中に入るのを見送り、総統はくっくと喉を鳴らせて笑う
「いやはや、外見は本当に昔の君にそっくりだ。もっともあれぐらいの年頃では既に今のような性格だったから、ある意味で新鮮な感覚だ」
「自分で言うのも難ですが、あれにはぶっちゃけ欲情します」
「君は少しぶっちゃけないで自重する事を覚えたまえ」
「総統閣下は犬への愛情を自重できますか?」
「君は私に呼吸に等しい行為を自重しろと言うのかね」
「私が女性に欲情するのもそういう事ですので自重は無理です」
「……付けた教師が悪かったな。彼女は医学者として教師として実に優秀だったのだが、女性の生徒を付けた事が無かったせいで人間性を把握し切れていなかった」
「ボクとしては、本来あるべき世界へ導いてもらえたという感謝で一杯なのですが」
真顔で答えるドクターに、総統は額に手を当てて溜息を漏らす
「まあ君の性癖は今更どうこうできるとは思えんので置いておこう。『悪魔の囁き』についての相談が一向に進まん」
「除去薬は提供されたので事後対応は可能ですが。元を断たない事には話になりません。契約者である朝比奈という男をどうするかです」
「話によれば、その男と因縁がある者も多々いるようだ。我々はまだ手は出すべきではないな」
「まだ、ですか」
「マッドガッサー騒動の時もそうだったが、我が組織の人員は攻撃に使える火力が極端だ。最終的にこの町の契約者達で片付けられない場合になった時のみ、本国から人員を呼ぶ事になる」
「では我々は二次被害を食い止める方に動きましょう。ボクは『悪魔の囁き』の除去や負傷者のケアに回ります。総統閣下は奴の手駒を削ぐ方向でお願いします」
「ふむ。では久々に本気でやってみるとするかね」
総統はごほんと咳払いをして、なにやら奇妙な機械を取り出す
「人間に聞こえては困るのでな。この可聴域変換機の出番というわけだ」
その日から町に異変が起こり始める
犬が一斉に移動を始めたのだ
野良犬が隊列を成し一斉に町を出ていく様を目撃した都市伝説契約者は、ハーメルンの笛吹きのような能力と勘違いした程に
飼い犬もまた一斉に屋外から姿を消す事になる
犬特有の感染症が流行しているので、しばらくの間は屋外に犬を置かないようにという通知が保健所から各家庭に余す事なく送り付けられたのだ
総統の活動開始から数日の間
学校町から、犬が消える事となった
犬が一斉に移動を始めたのだ
野良犬が隊列を成し一斉に町を出ていく様を目撃した都市伝説契約者は、ハーメルンの笛吹きのような能力と勘違いした程に
飼い犬もまた一斉に屋外から姿を消す事になる
犬特有の感染症が流行しているので、しばらくの間は屋外に犬を置かないようにという通知が保健所から各家庭に余す事なく送り付けられたのだ
総統の活動開始から数日の間
学校町から、犬が消える事となった