三面鏡の少女 39
それは特別な鏡の中の世界
光が射し込み無限に広がるまでは、闇のだけが広がる虚無の空間
主がいなければ存在しない命
主が求めなければ覚めない眠り
映り込む主がいなければ姿すら与えられない無限の存在
ただそれを享受して、主の本性のままに自堕落にその日その日の生を享受し
主の死に顔を告げるという役目も半ば曖昧に過ごす
まるで大海原のように広がる無限の存在に、ほんの一滴の黒インクが落とされる
本来なら薄まり広がり何もなかったかのように消えてなくなるはずだったそれは
何にも侵される事なくただただ色濃く存在してはいたものの
無限の奥底深くに沈んでいた――はずだった
他愛も無い会話を繰り広げるのは表の世界に近い声の届くところにいる者達
光しか届かない無限の奥底に沈んでいた『それ』は
静かに
一歩ずつ
互いに干渉する事の無い無限の存在をじわじわと押し退けながら歩を進め、やがて
「第142回あたし会議ー」
主の声と共に開かれ光が射し込んだ三面鏡の最前面に、無限の虚無から這いずり上がった『それ』は現れていた
光が射し込み無限に広がるまでは、闇のだけが広がる虚無の空間
主がいなければ存在しない命
主が求めなければ覚めない眠り
映り込む主がいなければ姿すら与えられない無限の存在
ただそれを享受して、主の本性のままに自堕落にその日その日の生を享受し
主の死に顔を告げるという役目も半ば曖昧に過ごす
まるで大海原のように広がる無限の存在に、ほんの一滴の黒インクが落とされる
本来なら薄まり広がり何もなかったかのように消えてなくなるはずだったそれは
何にも侵される事なくただただ色濃く存在してはいたものの
無限の奥底深くに沈んでいた――はずだった
他愛も無い会話を繰り広げるのは表の世界に近い声の届くところにいる者達
光しか届かない無限の奥底に沈んでいた『それ』は
静かに
一歩ずつ
互いに干渉する事の無い無限の存在をじわじわと押し退けながら歩を進め、やがて
「第142回あたし会議ー」
主の声と共に開かれ光が射し込んだ三面鏡の最前面に、無限の虚無から這いずり上がった『それ』は現れていた
―――
「ていうかねー、あたしは結局この能力で何をしたいのかなー?」
「何って言われてもなぁ……漠然と、何かの役に立てればなーって思ってはいるけど」
「成長には指針が無いとねー」
いつものように左右の鏡で身体を挟み込むようにして作り上げた、無限に浮かび上がる自分の姿
「昔、同じような能力を使ってた人はねー。鏡の中からいくらでもあたしを外に出せたんだけどなー」
「増えたあたし全員で意識を共有できたしねー」
「嘘、そんな事もできるの? あー、でもあたしが無限に出せてもあんまし役に立たなくない?」
「そもそもあたしが映せるのは今のあたしだけだしねー」
「でも本来なら死期折々のあたしを映す事ができるはずなんだけどね。それこそ揺り籠から墓場までな感じで」
「死期折々って……やな表現だなー」
ぐだぐだとした雰囲気に浸る彼女は、正面に映る自分の目に浮かぶ暗い闇色の光に気付かない
「それじゃ、ちょっと試しにやってみない?」
「意識の共有は難しくない? なにせ無限だからねー」
「あたし達の姿を色々映すのもイメージが出来ないと無理じゃない?」
「んじゃとりあえず鏡の外に出る辺りからかな?」
「そんな簡単にできるのかなぁ……どんな風にすればいいのかわかんないし」
「考えるな、感じろー」
「フォースの力を使うのじゃー」
「余計わかんないわー!?」
叫ぶ少女に、鏡の最前面にいた『それ』が優しく微笑み掛ける
「んー、鏡に手を当ててみ?」
「へ? えーと……こう?」
「そうそう。それで鏡の表面をガラスじゃなくて水みたいにイメージして。目を閉じてやった方がやりやすいかも」
「水……うーん」
言われるままに目を閉じて、イメージをする
と、それまで固く冷たい硬質な感触が揺らぎ、本当に水面に触れているような揺らめきを感じ
「うわ、何これ!?」
『それ』が、まるで自分ではないかのような邪悪な笑みを浮かべた
「ご苦労様」
『それ』は、いとも簡単に鏡面から腕を出し
「そしてさようなら」
頭上を飛び越えるように鏡の中から現れた自分に、背中から突き飛ばされ
「ふぇ!? ちょ、にゃー!?」
少女は『それ』とは逆に鏡の中に転がり込んでしまった
「いやー、長い事チャンスを伺ってたけど。こんな上手くいくとは思わなかったなー」
鏡の前でぐーっと背伸びをし、『それ』はにたりと唇を歪める
「本体が鏡に映ってないと、表に出てるあたし達も強制送還なんだけど。本体がそっちにいれば……本体が鏡に映り続けるから大丈夫ってわけ」
「それは便利かもしんないけど……あたしはどうやって出ればいいの!?」
「さあ?」
「さあって!?」
「あたしがあたしの人生に飽きたら戻してあげるかもね? それじゃバイバイ、一人じゃ何も出来ない本体さん」
「こらー!? 洒落になんないってば! 出してってばー!」
少女の叫び声を遮るように、ぱたんと三面鏡を閉じてしまう『それ』
「さーて……色々と、たっぷり愉しませてもらわないとなぁ」
その外見からは到底想像すらできない妖艶な笑みを浮かべ、ちろりと舌なめずりをする
個としての存在こそあるものの、本来は鏡に映された存在
外見も人生も知識も記憶も鏡に映したように同じものを有しており
彼女を本体だと見極められる存在は、まず存在しないだろう
そして、彼女は外にでて害悪を撒き散らすつもりは毛頭ない
ただ本体に成り代わって、静かに『人生』を愉しみたいだけなのだから
誰にも気付かれず
誰にも悟られず
ただ、ひっそりと
「何って言われてもなぁ……漠然と、何かの役に立てればなーって思ってはいるけど」
「成長には指針が無いとねー」
いつものように左右の鏡で身体を挟み込むようにして作り上げた、無限に浮かび上がる自分の姿
「昔、同じような能力を使ってた人はねー。鏡の中からいくらでもあたしを外に出せたんだけどなー」
「増えたあたし全員で意識を共有できたしねー」
「嘘、そんな事もできるの? あー、でもあたしが無限に出せてもあんまし役に立たなくない?」
「そもそもあたしが映せるのは今のあたしだけだしねー」
「でも本来なら死期折々のあたしを映す事ができるはずなんだけどね。それこそ揺り籠から墓場までな感じで」
「死期折々って……やな表現だなー」
ぐだぐだとした雰囲気に浸る彼女は、正面に映る自分の目に浮かぶ暗い闇色の光に気付かない
「それじゃ、ちょっと試しにやってみない?」
「意識の共有は難しくない? なにせ無限だからねー」
「あたし達の姿を色々映すのもイメージが出来ないと無理じゃない?」
「んじゃとりあえず鏡の外に出る辺りからかな?」
「そんな簡単にできるのかなぁ……どんな風にすればいいのかわかんないし」
「考えるな、感じろー」
「フォースの力を使うのじゃー」
「余計わかんないわー!?」
叫ぶ少女に、鏡の最前面にいた『それ』が優しく微笑み掛ける
「んー、鏡に手を当ててみ?」
「へ? えーと……こう?」
「そうそう。それで鏡の表面をガラスじゃなくて水みたいにイメージして。目を閉じてやった方がやりやすいかも」
「水……うーん」
言われるままに目を閉じて、イメージをする
と、それまで固く冷たい硬質な感触が揺らぎ、本当に水面に触れているような揺らめきを感じ
「うわ、何これ!?」
『それ』が、まるで自分ではないかのような邪悪な笑みを浮かべた
「ご苦労様」
『それ』は、いとも簡単に鏡面から腕を出し
「そしてさようなら」
頭上を飛び越えるように鏡の中から現れた自分に、背中から突き飛ばされ
「ふぇ!? ちょ、にゃー!?」
少女は『それ』とは逆に鏡の中に転がり込んでしまった
「いやー、長い事チャンスを伺ってたけど。こんな上手くいくとは思わなかったなー」
鏡の前でぐーっと背伸びをし、『それ』はにたりと唇を歪める
「本体が鏡に映ってないと、表に出てるあたし達も強制送還なんだけど。本体がそっちにいれば……本体が鏡に映り続けるから大丈夫ってわけ」
「それは便利かもしんないけど……あたしはどうやって出ればいいの!?」
「さあ?」
「さあって!?」
「あたしがあたしの人生に飽きたら戻してあげるかもね? それじゃバイバイ、一人じゃ何も出来ない本体さん」
「こらー!? 洒落になんないってば! 出してってばー!」
少女の叫び声を遮るように、ぱたんと三面鏡を閉じてしまう『それ』
「さーて……色々と、たっぷり愉しませてもらわないとなぁ」
その外見からは到底想像すらできない妖艶な笑みを浮かべ、ちろりと舌なめずりをする
個としての存在こそあるものの、本来は鏡に映された存在
外見も人生も知識も記憶も鏡に映したように同じものを有しており
彼女を本体だと見極められる存在は、まず存在しないだろう
そして、彼女は外にでて害悪を撒き散らすつもりは毛頭ない
ただ本体に成り代わって、静かに『人生』を愉しみたいだけなのだから
誰にも気付かれず
誰にも悟られず
ただ、ひっそりと