三面鏡の少女 38
ゆったりとしたソファに座り、静かに湯飲みを傾ける和服の女
逢瀬万華(おうせ・ばんか)という名の女は、『合わせ鏡に自分の死に顔が見える』という都市伝説の契約者
その正面に相対する黒服は、そんな彼女を警戒心たっぷりの顔で見据える黒服の幹部
「どういう風の吹き回しだね? 今まで我々が幾度となく『組織』へと勧誘し続けていたというのに、全く靡かなかった君が」
「あらあらうふふ、益体も無い冗談ぶっこいていやがりましたら死ぬまでぶっ殺し続けますわよ?」
これ以上ないほど上品な笑顔に鈴を転がすような可愛らしい声で、ドブの底に沈めたような言葉を吐く和服の女
「あなた方『組織』では首を縦に振らない人間に刺客を送り続ける事を『勧誘』と言うのですか? 冗談はその貧相で辛気臭いツラだけにしてくださいな」
「それは勧誘の後の事だ。我々『組織』と相容れないのであれば、それは敵対するという事だからな」
幹部の男は警戒心ありありの顔に怒りを混ぜた顔で和服少女を睨み付ける
「端的に言おうか……何が目的だ、貴様」
「別に何もありませんわ。あなた方の送りつけてくる刺客を返り討ちにするのが面倒になってきただけ。決して鮫島……いえ何でもないですわよ?」
幹部の男は内心で思い切り歯軋りをする
この女は彼の派閥が抱える『鮫島事件』という都市伝説の能力を知っている
更には、実在の空間に分身を生み出さずとも無限に増える事ができる能力を持つ彼女を邪魔者として認識し、排除しようとしている事も
その上で我々にそれを知らしめた上で自分を高く買わせた上に、内側にいる事で監視の目を強め、更にはそう簡単には排除できないようにしようとしているのだ
穏健派の誰かが入れ知恵したかもしれないが、それ以上に彼女自身が悪巧み行動した可能性が非常に高い
そんな彼女は湯飲みを置き、袖で口元を隠しながらころころと笑う
「ご心配なさらずとも、あなた方の派閥争いには興味は全くありませんわよ? ただ……私の存命のうちは、この町で面倒な事を引き起こして欲しくないだけ」
可憐なキョウチクトウの花のような笑顔を浮かべ、和服の女はそう告げる
「無限に増える私で襲撃を仕掛けて『組織』を丸ごと叩き潰そうだなんて考えないだけ、私も考えが丸くなったと思いません?」
無論、たかだか都市伝説能力者が一人、戦うとなればいくらでも対処できる
だが派閥争いの火種が燻る現状では、それが得策ではない事を誰もが理解している
倒せはするだろうが一筋縄ではいかないのは目に見えており、その隙に派閥の力を殺がれる策を打たれるのは明らかである
「それで……『組織』に所属する上で、何か条件や希望のようなものはあるのかね?」
「あらあら、私はそんなに欲張りに見えます? でも折角そのような言葉を提示してくれるのですもの、お受けしないと折角の好意に泥をぶちまける事になりますわね」
この女狐が、という言葉を飲み込んで辛うじて真顔を保つ幹部
「それでしたら……そうね、担当してもらう子は私が選んでもいいかしら? 折角ですもの、仲良くできる子を選びたいじゃない」
その言葉に、幹部の男は考え込む
自らの派閥の黒服を担当に付けた場合、内側で何をされるか判ったものではない
かといって対立派閥に押し付けたとなると、『鮫島事件』に対する切り札をみすみすくれてやる事になる
上手く飼い殺せる者はいただろうかと思案を巡らせていたところで
「それではお散歩がてら、担当になってもらう子を見繕いに行かせてもらいますわね」
「ま、待て! 勝手に施設の中を歩き回られては!」
「見られて困るようなものがありますの? これから仲良くご一緒に働く仲間になりますのに」
「担当選びにしても、手の空いてない者を気に入られても困る! というか少しは大人しくだな!?」
こうして彼女が『組織』に所属し、そしていなくなるまでの数年間、強硬派は暴走は封じられる事となるのであった
逢瀬万華(おうせ・ばんか)という名の女は、『合わせ鏡に自分の死に顔が見える』という都市伝説の契約者
その正面に相対する黒服は、そんな彼女を警戒心たっぷりの顔で見据える黒服の幹部
「どういう風の吹き回しだね? 今まで我々が幾度となく『組織』へと勧誘し続けていたというのに、全く靡かなかった君が」
「あらあらうふふ、益体も無い冗談ぶっこいていやがりましたら死ぬまでぶっ殺し続けますわよ?」
これ以上ないほど上品な笑顔に鈴を転がすような可愛らしい声で、ドブの底に沈めたような言葉を吐く和服の女
「あなた方『組織』では首を縦に振らない人間に刺客を送り続ける事を『勧誘』と言うのですか? 冗談はその貧相で辛気臭いツラだけにしてくださいな」
「それは勧誘の後の事だ。我々『組織』と相容れないのであれば、それは敵対するという事だからな」
幹部の男は警戒心ありありの顔に怒りを混ぜた顔で和服少女を睨み付ける
「端的に言おうか……何が目的だ、貴様」
「別に何もありませんわ。あなた方の送りつけてくる刺客を返り討ちにするのが面倒になってきただけ。決して鮫島……いえ何でもないですわよ?」
幹部の男は内心で思い切り歯軋りをする
この女は彼の派閥が抱える『鮫島事件』という都市伝説の能力を知っている
更には、実在の空間に分身を生み出さずとも無限に増える事ができる能力を持つ彼女を邪魔者として認識し、排除しようとしている事も
その上で我々にそれを知らしめた上で自分を高く買わせた上に、内側にいる事で監視の目を強め、更にはそう簡単には排除できないようにしようとしているのだ
穏健派の誰かが入れ知恵したかもしれないが、それ以上に彼女自身が悪巧み行動した可能性が非常に高い
そんな彼女は湯飲みを置き、袖で口元を隠しながらころころと笑う
「ご心配なさらずとも、あなた方の派閥争いには興味は全くありませんわよ? ただ……私の存命のうちは、この町で面倒な事を引き起こして欲しくないだけ」
可憐なキョウチクトウの花のような笑顔を浮かべ、和服の女はそう告げる
「無限に増える私で襲撃を仕掛けて『組織』を丸ごと叩き潰そうだなんて考えないだけ、私も考えが丸くなったと思いません?」
無論、たかだか都市伝説能力者が一人、戦うとなればいくらでも対処できる
だが派閥争いの火種が燻る現状では、それが得策ではない事を誰もが理解している
倒せはするだろうが一筋縄ではいかないのは目に見えており、その隙に派閥の力を殺がれる策を打たれるのは明らかである
「それで……『組織』に所属する上で、何か条件や希望のようなものはあるのかね?」
「あらあら、私はそんなに欲張りに見えます? でも折角そのような言葉を提示してくれるのですもの、お受けしないと折角の好意に泥をぶちまける事になりますわね」
この女狐が、という言葉を飲み込んで辛うじて真顔を保つ幹部
「それでしたら……そうね、担当してもらう子は私が選んでもいいかしら? 折角ですもの、仲良くできる子を選びたいじゃない」
その言葉に、幹部の男は考え込む
自らの派閥の黒服を担当に付けた場合、内側で何をされるか判ったものではない
かといって対立派閥に押し付けたとなると、『鮫島事件』に対する切り札をみすみすくれてやる事になる
上手く飼い殺せる者はいただろうかと思案を巡らせていたところで
「それではお散歩がてら、担当になってもらう子を見繕いに行かせてもらいますわね」
「ま、待て! 勝手に施設の中を歩き回られては!」
「見られて困るようなものがありますの? これから仲良くご一緒に働く仲間になりますのに」
「担当選びにしても、手の空いてない者を気に入られても困る! というか少しは大人しくだな!?」
こうして彼女が『組織』に所属し、そしていなくなるまでの数年間、強硬派は暴走は封じられる事となるのであった