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連載 - 三面鏡の少女-41

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三面鏡の少女 41


「基本、一人で何でも解決しようとするからねーあたしってば。憑かれたあたしにコロッと騙されたのも、能力を成長させたいからだったし」
二つ目のパフェにスプーンを入れながら、何か悪巧みを思いついた子供のような笑みをじんわりと浮かべる
「火事場の馬鹿力を出させる方法思いついたんだけどさー」
そう言ってHの耳元に口を寄せ
「別に誰も聞いてないだろ」
「気分気分。あのねぇ、目の前で大事なものが無くなりそうになったら、流石にあたしだって本気出すと思わない?」
「大事なもの? 家族とか友達とかに迷惑掛ける手は無しだぞ、後々面倒な事になりそうだしな」
「だいじょぶだいじょぶ、必要なのはあたしとHさんだけ。失敗して実害あっても分身であるあたしぐらいだから」
「いくら分身でも、あいつと同じ姿のお前に実害あるのは困るぞ?」
その言葉に、スプーンを咥えたまま頬を染めてにへらと笑う分身A
「んふー、そうやって心配してくれるHさん大好きー。大事にされてるなーあたしってばもう」
わざわざ向かいの席から隣にやってきて、腕にきゅうっと抱きつく分身A
本人が言うには欲求に素直な子であるらしい
ではその欲求の下地はといえば、本体である佳奈美のはず
それはつまり、彼女もまた表には出さないが彼の事を好きという事なのだろうか
Hは深くは追求せずに、はしゃぐ分身Aを宥めていたのだった

―――

闇色の世界に、すうっと光が射し込む
淡いその光が月明かりだと気付くのに、僅かな時間を要した
「はろー本体さん、元気ー?」
三面鏡の前に立つ分身Aは、鏡の中にいる本体ににやにやとした小憎らしい笑みを向けている
「もう夜!? というかあれからどれぐらい経ってるの! ここから出しなさーい!」
「ふふーん、解ってないわねぇ。あたしが鏡から出れたのも、あなたが鏡の世界に入っちゃったのも、その力はあなた自身のものだから。つまり、あたしにはなーんも出来ないのよ?」
「そんなわけないでしょー!? あたしの力なら何であたしはこっから出れないのよー!」
「あの時は、ちょいと暗示誘導で力を増幅してあげたんだけどね。そうでもしなきゃ、あなたみたいなボンクラ本体があたし達の力を活用できるわけないでしょ?」
「うーん、ボンクラなのは認めざるを得ない」
「増やして話すだけだもんねー」
「自分の分身に騙されてる時点でお察しよねー」
「外野は黙ってなさーい!? あんたはそうやってバカにするために顔を合わせに来たわけ!?」
「んやー? あたしを生み出してくれた本体には、せめてものお礼に良いものを見せてあげようと思ってさー」
そう言うと分身Aは、ポケットから一枚の紙片を取り出すとセロテープで鏡に貼り付けた
「騒がれると困るから、声だけ封じさせて貰ったよ? これでいくら騒いでも鏡の外には声は届かないから」
「ちょっと、何をするつもり!? こーらー! これ剥がしなさーい!」
「あーあーきこえなーい♪ それじゃま、大人しく見ててねー」
そう言うと分身Aはぱたぱたと部屋から出て行き
「この部屋でいいのか?」
縁側の障子戸を開けて部屋に入って来たのは
「H……さん?」
鏡の中で、佳奈美は不安げに呟く
あの分身が何をするつもりなのか解らないまま、ただそれを見ているしか出来ない状況で
「うんうん、あたしの部屋より居間とかから離れてるし、表に声が届きにくいんだこの部屋」
先に部屋に入っているHは、分身に背を向けていてその表情を見てはいない
「お前がわざわざ家に呼んで、更に奥の部屋で話ってのも珍しいな。何か厄介な事でもあったか?」
「現在進行形で厄介な事がー! 気付いて、Hさん気付いてー!」
ばんばんと鏡と現の境目を叩くが、Hは全く気付く様子は無い
「あのね、Hさん……あたし、さ」
背を向けていたHに、後ろから抱きつく分身A
「あたし、Hさんの事……好き……愛してるって意味で」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
声にならない悲鳴を上げ、顔を真っ赤に茹らせ硬直する佳奈美
「ちょ、待ちなさいっ!? そんな事、勝手にっ!?」
そんな悲鳴じみた絶叫も届いていないのか、二人は一度身体を離して向かい合い
分身AがHの肩に手を回して、静かに目を閉じて僅かに顎を上げ
それに応えるように、背中を支えるように手を回して僅かに身を屈め、二人の顔が近付いて
「んっ……」
Hの背中に隠されその姿こそ見えないが、漏れ聞こえた吐息と濡れたものが絡み合う音が嫌でも耳に届く
「下着、ね……クリスマスにくれたの……つけてるんだよ……Hさんにね、見せたくて」
そう言って分身Aの手が、スカートのファスナーをちりちりと下げ
「いっ……」
鏡の中でぷるぷる震えてた佳奈美が、喉から搾り出すような声を漏らし
「いい加減に……しろー!?」
「うなっ!?」
思い切りフライングクロスチョップを食らって、もんどりうって転がる分身A
「ききききききキスだけでもアレなのに何しようとしてるかなこの子は!?」
完全にテンパってる佳奈美の姿と、ひっくり返っている分身Aの姿を交互に見ながら、思わず苦笑するH
「本当に成功するとは思わなかったな」
「うふふー、あたしの事なんてお見通しよ。なにせあたしなんだし」
腰をさすりながら立ち上がり、得意そうに胸を張る分身A
「いやーごめんねー、あたしが『悪魔の囁き』なんかに憑かれちゃってたせいで。あたし本体が頑張らないと鏡から出れないもんだからさー、一芝居打たせてもらったってわけ」
分身Aはにやにやしながら鏡に貼り付けた紙をぺりっと剥がす
「ちなみにコレ、ただのメモ用紙~。あたしもHさんも聞こえないふりしてただけ♪」
「俺と絡んでるところを見せれば危機感を抱いて出てこれるんじゃないかっていうこいつの予想、大当たりだったな。日々のセクハラって大事だなぁ」
「いやいや、危機感ってそっちの意味で受け取っちゃったのかなHさん。あたし的には寝取られ……」
「黙れー!? ていうかHさんもHさんで、いくら分身とはいえ、き、ききき、キスとか」
本体にげしげしと踏まれている分身Aが、にやりと笑って人差し指を口に咥える
「秘技、指チュパ……これ一つでキスの音からフェr」
「あんたって子はー!?」
「ちょ、流石に痛い痛い!? 鏡の中でダイレクトアタックされないのに慣れてたから、つい煽り過ぎたー!?」
「まあ大した被害は出てないんだ、それぐらいで許してやれ。お前を鏡から出すために頑張ってたんだしな」
「わーい、Hさんやっぱり優しーい」
「抱きつくんじゃないあんたはー!?」
「こっち側は空いてるぞー?」
「Hさんも乗らなーい!」
「遠慮するな、ほらほら」
「にゃー!? 髪の毛っ、髪の毛ー!?」
かくして彼女の騒動はいつも通り大きく広がる事は無く、二人の間で完結したのであった

―――

「そういえば分身はどうやって鏡の中に戻すんだ?」
「能力解除するか鏡に映らない場所に本体が移動すれば消えるよ?」
「それじゃ戻すからね? 鏡閉じるよー」
「あ、ちょっと待って」
そう言うと分身Aはなにやらごそごそとスカートの中を探り
「これ借りてたから返すねー」
と渡されたのは、クリスマスプレゼントに貰った下着のうちの一着
「よいしょっと、はいこっちブラね」
ぽんぽんと手の上に下着を上下渡されて、完全に硬直している
「……ホントにつけてたの?」
「もっちろん! 本体が頑張れなかったら、そりゃあいけるところまでイッちゃうつもりだったさ!」
「鏡の中に帰れー!?」
ぱたーんと三面鏡が閉じられるのと同時に、分身Aの姿はスイッチをオフにしたかのように一瞬で消え失せる
「あーもー、騒がしかったー」
「お疲れさん」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれ、つい顔を見上げ
「ん、どうした?」
「……何でもない」
また、ふいと顔を逸らしてしまう
自分は彼の事をどう思っているのだろうか
彼は自分の事をどう思っているのだろうか
そんな事がただひたすら頭の中をぐるぐると回っていた


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