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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-Hさん報復記-07

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 舞の視線を受けて行動指針を定めようとした矢先、宏也が崩落させた穴から轟音が響いた。
「うわっ」
「っと」
 更に崩れた床の縁から舞を引っ張り遠ざけつつ、目は舞ではなく別のものを見ていた。
 Tさんの視線が追うのは二つの人影、ハンニバルと宏也だった。
「ふん、まだ死なぬか」
「……っあいにく……上等な賢者の石を、埋め込まれたもんでね……!」
 どちらも傷だらけ。しかし、
 どちらも傷がふさがっていくか……。
 ハンニバルは不死身の狂人という看板が示す能力故に、一方で宏也の方は、
 ≪賢者の石≫……。
 それは錬金術師が求めたという霊薬の名称だ。
 傷を塞いでいる所を見るに髪の伸びる黒服さんの≪賢者の石≫は非金属の変化ではなく不老不死に関する伝承……。
 しかし、と心に思い内心で眉根を寄せる。
 そんな代物を埋め込んでいて尚旗色は悪い……。
 視線の先、始めにへし折られた筈の剣は主と同様不死身なのか刀身を復活させ、ハンニバルの手にあり、迫る髪を切っては捨てていた。
 視線を巡らせる。
 一方で髪の伸びる黒服さんの方は……。
 髪による攻撃を続けている彼の体は治癒速度が間に合っていない。
 致命と思われる傷は癒えていく。しかし軽い裂傷の類は治っていないようだ。
 彼の≪賢者の石≫が贋物なのか、元々限界があるのかはTさんには分からない。ただ分かるのは、
 治癒能力が失われれば髪の伸びる黒服さんは負ける。
「ジリ貧か」
 護る対象を複数抱え、Tさんは呻いた。


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 数合髪と剣の応酬を繰り広げた二人の間に、息継ぎのような間が空いた。
 間合いを測るようにハンニバルから距離をとった宏也はTさんと、その後方に庇われるように居る人影を横目に見て呟く。
「……っ! 畜生、逃げられてなかったかよ」
 彼は軽く血を吐き出し、天地を視界に納めて顔を歪めた。舌打ちが響く。
「これも、お前の計算のうちか? ハンニバル」
「……さてな」
 答えながらハンニバルは一旦剣を鞘に収めた。
「捨てた駒の動きまで読めるほど、私は優秀ではないよ」
 そう言って再度抜き放たれたその剣は、
 新品同様……?
 宏也の髪や体を斬り裂いて傷んでいた刀身が新品同様に直っていた。おそらくは先の折れたはずの刀身も同じ原理で直したのだろうと予想し、
「鞘を奪えば剣は封じる事が可能か」
 髪が作る暴力の津波を剣一本で凌ぎきるだけの力量を持つ剣客から奪い取ることが出来れば、の話だが……。
 思いながら後方で天地が息を呑む音を聞いた。先程のハンニバルの言葉の意味を正しく理解しているのだろう。
「……この腐れ外道が」
「まったくだぜ」
 宏也の応答に舞が同意する。ハンニバルは意に介さず剣の調子を確かめるように取り回すと、
「さて」
 構え、
「…やはり、お前から始末すべきだな、H№360」
「っ!!」
 同時、ハンニバルが軽く床を蹴った。その直後には既に宏也の目前までハンニバルは接近している。
 宏也が伸ばしていた髪を盾代わりにしつつ、残りの髪でハンニバルのその体を押しつぶそうとするが、
「――っちぃ!?」
 髪は切り裂かれ、更に剣から生まれた衝撃が宏也自身を裂いた。
 一方でハンニバルも髪をその身に受け、互いの傷が高速で回復されていく。
 が、
 ハンニバルの方が回復速度が速い。その事を理解しているのか敢えてハンニバルは余裕を見せるように宏也の髪に当たっているようでもあった。
「私にいくら攻撃しようとも、無駄な事だ」
「どう、だろうなぁ!?」
 怒号と共にハンニバルへと髪が巻きつこうと迫った。避けようと身をひねったハンニバルに追いすがり髪は彼の右半身を包み込む。
 ――む。
 次の動作を予想しTさんが舞とリカちゃんの目を覆った次の瞬間、ハンニバルの右半身が髪に裁断され肉片となって散った。
 しかし、
「無駄だといっているのがわからんのかね?」
「……っち」
 ハンニバルの声が変わらず聞こえる。
 あの状態になっても復活するのか……。
 なるほど不死だ。
 思い、しかし、
 先程の動き、違和感があったな……。
 違和感の正体を探ろうとした時、舞が大声を上げた。
「っちょ、Tさん、見えないっ。前見えないっての!」
「おっと、すまん」
 舞の目を塞いでいた手を離す。すぐ後方で辰也も塞いでいた恵の目を解放していた。
「……って、うわ、どちらにせよよく見えねぇ」
「はやいの」
 戦いを見ようとした舞が呆然と呟く。
 舞が追うのは辛いだろうな。
 両者の戦闘速度は訓練も受けていない常人の目で追い切れるものではない。そう思考するTさんの目には戦闘の様子がしっかりと映っていた。
 眼前、ハンニバルを捕らえようとする髪の束が躱され、切断された。宏也の身の癒えていない傷の数が増したように見受けられる。
 やはりジリ貧か。
 加勢せねばと思い、
「――っやば!? 防いでくれ!」
 宏也の叫びが飛ぶ前にTさんの両の手には白光が宿っていた。
 その、飛んでくる斬撃を防ぐ事ができれば幸せだ!!
「破ぁっ!」
 内心の叫びと同時に光壁を生み出し、
「え?」
 驚いた舞の眼前で空気の裂音をもって衝撃波が弾けた。
「な、なんだ?」
「斬撃による衝撃波だ。相当な使い手の証、か」
 加勢には行けそうも無い。嫌な汗が伝うのを意識する。
「……ほぅ? 面白い能力だな」
 ハンニバルの興味を隠さない声が飛んできた。
「……」
 奴の契約都市伝説はなんだ?
 Tさんは無言を返しながら内心で幸せを願い、ハンニバルを見据えるが、
 やはり視えんか。――ん?
 正体を目から隠すような何かが視えた。
 これは、なんらかの加護か?
 それが視線を阻んでいる。
「いいのかね? 君が視ている時、私もまた君を視ているのだよ?」
「――っ」
 視られている感覚、ハンニバルの目が霊視の類の視覚を有しているのかはわからないがその視線は確かに届き、嫌な予感を得る。
「……どの程度、防げるものか」
 呟きと共に、ハンニバルの手元が目に見えないスピードで動く。宏也が防ごうにも防ぎきれず、そして、間に合わない。飛来する斬撃にTさんは確かな悪寒を感じた。
 こちらを狙ってきたかっ、
 再び壁を出して防ごうとするが、
「――しまった!?」
 体の側面を背後に抜けるコースの衝撃波、それを壁に捉えることが出来なかった。衝撃波の射線上には、
「門条天地、避けろ!」
 Tさんの叫びに天地は反応しない。ただ悄然とした顔をしているだけだ。その理由は、
 先程のハンニバルの言葉か!
 追撃は間に合わない。斬撃が届く。
「あ」
 舞の何かに気が付いたような声が聞こえ、同時に衝撃波が弾けた。
「お前は――」
 Tさんが安堵混じりに言う。天地へと向かった衝撃波のコース上、一人の男が立っていた。
 灰色のコートを纏い同色の髪をした男は年輪を重ねた風体で、しかし衝撃に揺れたサングラスを直す時に垣間見えた金色の双眸は燃え盛るような気炎を放っている。
 人手が増えたな……。
 それも有力な増援だ。
Tさんは男の名を呼んだ。
「朝比奈秀雄」


            ●


「え……あ、あれ? 朝比奈のおっちゃん?」
 戸惑ったような舞に答えず朝比奈秀雄はハンニバルを睨みつけている。天地を庇いきった仕掛けは破れた衣服から見える体の表面に浮き出た竜の鱗だろう。
「な、なんで、朝比奈のおっちゃんがここに……」
 舞の疑問、しかし彼がハンニバルの居場所を知ったのならばハンニバルへの復讐に彼が現れる事は予想の範疇ではあった。
 ハンニバルは門条晴海を殺した首謀者だからな……。
 ここに来る前にした説明を思い出したのか舞も、あ、という顔をし、その時、恵が辰也に庇われながら朝比奈秀雄を呼んだ。
「……父さん」
「え?」
 舞の困惑が再発した。
 朝比奈秀雄は天地へと視線を向け、彼が無事であると確認するとハンニバルへと視線を向け直した。
「……おや、また君かね。はて、そこまで恨まれる事をしたかな?」
「………お前は、晴海を弄んで、殺した……彼女の最後の言葉を聞いた者として。私には、お前を殺す権利があるだろう」
 殺気を漂わせながら朝比奈秀雄は歩み出て、恵達を庇うように前に立った。
「門条 晴海の仇。とらせてもらうぞ」
 天地が「え?」と疑問を発する。危うげに揺れている体で思考を回そうとしているのか眉根を寄せて、
「やれやれ。ショッキングな事になりかねないのだから、後で話すようにと言っていたのだが」
 以前Tさんも聞いた事のある声がまた一つ階段を下りてきた。天地がその名を呼ぶ。
「……直希?」
「天地、無事か?」
 分厚い本を持った線の細い青年は天地に近づいていき、「話は、聞こえていたぞ。まったく、君は妙なところで遠慮をする」
「なお、き……で、も」
「僕は、そんなに頼りないかね?」
 天地へと手を差し出す。
「君が≪組織≫にいられなくなったならば、僕が養ってやる……それとも、僕では不満か?」
 直希のその言葉に天地は小さく笑った。
「……まさか」


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 門条天地はひとまず大丈夫か。
 精神状態を最悪から多少持ち直したらしい天地を確認してTさんはハンニバルへと険呑な気を発散している朝比奈秀雄へとチラリと目を向け、視た。
 視界には朝比奈秀雄の契約都市伝説が映っていた。
 朝比奈秀雄の中に小柄な竜が一匹……。
 ≪黄金伝説の竜≫をはじめとする複数の都市伝説と契約し、無茶を行った上でそれらとの契約を破棄し、それでもこうして生きているのはその竜のおかげだろう。
 竜に生かされているか。
 都市伝説を化け物と呼び蔑んでいた朝比奈秀雄にしてみればこれは、
「その金色の目、そして竜は……屈辱か?」
「私の業だろう」
 朝比奈秀雄の言葉にただ頷きを返す。不躾に彼を視た事を詫び、
「朝比奈マドカは息災か?」
「ああ」
 ハンニバルへと目を向ける。戦線は増えたこちらの人員を見定めるハンニバルと、回復と隙を窺う事に注力している宏也によってわずかな膠着状態となっていた。
 ハンニバルへと目を向けながらTさんは小声で訊く。
「――朝比奈秀雄、お前を先程父と呼んだあの娘は」
「……私の娘だ」
 後方からうわぁ、と声が来た。
「マドカ姐ちゃん知ってんのかよ?」
 非難するような声音に朝比奈秀雄はハンニバルから目を逸らさず答える。
「マドカも知っている……責任を取ると約束もした」
「んー、ならよし」
 筋を通したからだろうか? 男子じみた考え方にTさんが頬を緩めていると、
「……にしても≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんがねぇ……チャラい兄ちゃんの女装時の破壊力はもしかして日景の家とおっちゃんのハイブリッドだからか? じゃあもしかするとおっちゃんも女装が――」
 無視して朝比奈秀雄に言う。
「髪の伸びる黒服さんが戦っているが見ての通り旗色が悪い」
「そのようだな」
「戦闘は可能か?」
「足手まといになるのならこの場に来るわけがなかろう」
 まったくだ。
 苦笑交じりのTさんの頷きに応えるように朝比奈秀雄が殺気を膨れ上がらせ、言う。
「往くぞ――任せる」
「往け――任せた」
 それぞれこの場の守護と攻撃を、以前戦ったが故の相手の力量に対する信用をもって。


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