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去ったマドカが歩いて行った先をのんびりと見つめながら舞はぽつりと呟いた。
「姐ちゃん、本当にあんまり無茶しなけりゃいいんだけど……」
「……そうだな」
マドカの様子を見て分かったが、彼女は大分直情的だ。朝比奈秀雄と接触するようなことがあったらカッとなって無茶をしかねない。
自重してくれるといいのだが。
Tさんがそう考えて彼女の心配をしていると、頭に軽い重さが来た。
リカちゃんが舞の頭からTさんの頭へと飛び移って来たのだ。何事かと問いかけると返答代わりに質問が来た。
「お兄ちゃん、あのお……お姉ちゃんのけーやくしていたとしでんせつってなんだったの?」
なぜ一度「お」で言葉が止まったのかは訊かないのが情けというものだろう。
Tさんと舞はアイコンタクトを取り、無言で頷き合う。
「気になるか?」
頭上に向けて言うと、「うん」と返事があり、舞からも「俺も気になる」と返答があった。
Tさんは分かった。と頷くと、「では一つヒントだ」と指を一本上げた。
「あれは、今までに舞やリカちゃんも見たことがある都市伝説だな」
「え?」
「みたこと……あるの?」
疑問符を浮かべて二人は記憶を辿ったようだが、ものの数秒で音を上げた。
「……もう一つヒント!」
「朝比奈マドカが能力を使った時に起こった現象を思い出してみろ」
「んー?」
「ぱーって光ったの」
リカちゃんがTさんの頭上で手をパーっと広げる。舞は「そういや、光ったな」と頷き、
「いや、光るって事だと割と皆ピカピカ光ってなかったか?」
ほら、浅井のおっちゃんのネックレスとか夢子ちゃんの電飾が付いたパレードとか、と言っている舞にTさんはもう一つヒントを出した。
「光と共に、転移の方にも着目してみたらどうだ?」
転移? と呟いてリカちゃんと舞が顔を見合わせた。
「「――あ!」」
気付いたようだ。その能力者の女性の愛称を連呼しながらしきりにリカちゃんと舞は頷いている。
Tさんが正解。と告げると二人はひとしきり喜び、その後、リカちゃんが覗き込むようにTさんの頭上から顔を出して問いかけてきた。
「お兄ちゃん、あれだけみてわかったの?」
「特徴的だからな」
リカちゃんに答えてやると舞がいやいやと感心した顔で手をパタパタと左右に振った。
「それでもあれだけで分かるんだから寺生まれってやっぱすげえよ」
それに「まあ」と返す。舞とリカちゃんは「いやあスッキリした!」「すっきりしたの!」と言い合いながら部屋へと戻るべく歩き出した。
「元気な事だ」
それを好ましいことだと思い、Tさんは二人にのんびりと付いていきながら、懐から端の方がマドカに握りつぶされてグシャグシャになっている≪セイレーン≫の契約者の似顔絵が描いてある紙を取り出した。
思案する。
玄宗エリカと≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年は知り合いだったから既に≪セイレーン≫の契約者の絵を保持していることだろう。もしこの人物の正体が分かっていないようならば、人相が変わってしまっている事を前提とした上で≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年にこの絵をもう一度よく見てもらうか……。
マドカが≪セイレーン≫の契約者の正体に当たりを付けた時の様子からして、おそらくそれなりの因縁があった相手なのだろう。だとしたら翼が≪セイレーン≫の契約者の正体を知っている可能性もある。言ってみる価値はあるだろう。現状、情報は多いに越したことはない。
それに、
日景の家についてもだ。
昨日電話で黒服は日景の家に翼と共に赴き、日景がどういう家なのか聞いてきたと言っていた。何を聞きに行っていたにせよ、黒服側から現在の日景の家長へと話をしに行ったのならば注意を促すために権力を狙っている朝比奈秀雄の件について少しは言及したことだろう。
それならば当主の側から現在の日景繁栄の元である≪小瓶の魔人≫についても話が及んだだろうか? 都市伝説の存在を確信している当主の側がそこに思い当る可能性は高い。しかしそれを外部の者に話すだろうか?
……いや、言及していなかった場合は俺が黒服さんに話をすればいいか。
知ってしまった以上、≪悪魔の囁き≫の件に深く関係のある≪小瓶の魔人≫の件は黒服にも知っておいてもらうべきだろうとTさんは思う。
何よりも問題なのは、
≪小瓶の魔人≫の存在を朝比奈秀雄が知っている可能性が高いということか……。
もし朝比奈秀雄が日景家の≪小瓶の魔人≫の存在を知っているとなると、彼は権力だけでなく≪小瓶の魔人≫の力をも欲していることになる。
≪小瓶の魔人≫、アラブのジンが入っていたという話の具現、下手をするとかなり高い位階のジンが封印されている可能性がある。更に彼は≪悪魔の囁き≫という、力を引き出す事が出来る都市伝説とも契約している。それらを持って悪意を振り播かれるのは、
「御免こうむりたいな」
先を歩く舞とリカちゃんを見て思う。
――この子たちに悪意は触れさせはしない、と。
「姐ちゃん、本当にあんまり無茶しなけりゃいいんだけど……」
「……そうだな」
マドカの様子を見て分かったが、彼女は大分直情的だ。朝比奈秀雄と接触するようなことがあったらカッとなって無茶をしかねない。
自重してくれるといいのだが。
Tさんがそう考えて彼女の心配をしていると、頭に軽い重さが来た。
リカちゃんが舞の頭からTさんの頭へと飛び移って来たのだ。何事かと問いかけると返答代わりに質問が来た。
「お兄ちゃん、あのお……お姉ちゃんのけーやくしていたとしでんせつってなんだったの?」
なぜ一度「お」で言葉が止まったのかは訊かないのが情けというものだろう。
Tさんと舞はアイコンタクトを取り、無言で頷き合う。
「気になるか?」
頭上に向けて言うと、「うん」と返事があり、舞からも「俺も気になる」と返答があった。
Tさんは分かった。と頷くと、「では一つヒントだ」と指を一本上げた。
「あれは、今までに舞やリカちゃんも見たことがある都市伝説だな」
「え?」
「みたこと……あるの?」
疑問符を浮かべて二人は記憶を辿ったようだが、ものの数秒で音を上げた。
「……もう一つヒント!」
「朝比奈マドカが能力を使った時に起こった現象を思い出してみろ」
「んー?」
「ぱーって光ったの」
リカちゃんがTさんの頭上で手をパーっと広げる。舞は「そういや、光ったな」と頷き、
「いや、光るって事だと割と皆ピカピカ光ってなかったか?」
ほら、浅井のおっちゃんのネックレスとか夢子ちゃんの電飾が付いたパレードとか、と言っている舞にTさんはもう一つヒントを出した。
「光と共に、転移の方にも着目してみたらどうだ?」
転移? と呟いてリカちゃんと舞が顔を見合わせた。
「「――あ!」」
気付いたようだ。その能力者の女性の愛称を連呼しながらしきりにリカちゃんと舞は頷いている。
Tさんが正解。と告げると二人はひとしきり喜び、その後、リカちゃんが覗き込むようにTさんの頭上から顔を出して問いかけてきた。
「お兄ちゃん、あれだけみてわかったの?」
「特徴的だからな」
リカちゃんに答えてやると舞がいやいやと感心した顔で手をパタパタと左右に振った。
「それでもあれだけで分かるんだから寺生まれってやっぱすげえよ」
それに「まあ」と返す。舞とリカちゃんは「いやあスッキリした!」「すっきりしたの!」と言い合いながら部屋へと戻るべく歩き出した。
「元気な事だ」
それを好ましいことだと思い、Tさんは二人にのんびりと付いていきながら、懐から端の方がマドカに握りつぶされてグシャグシャになっている≪セイレーン≫の契約者の似顔絵が描いてある紙を取り出した。
思案する。
玄宗エリカと≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年は知り合いだったから既に≪セイレーン≫の契約者の絵を保持していることだろう。もしこの人物の正体が分かっていないようならば、人相が変わってしまっている事を前提とした上で≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年にこの絵をもう一度よく見てもらうか……。
マドカが≪セイレーン≫の契約者の正体に当たりを付けた時の様子からして、おそらくそれなりの因縁があった相手なのだろう。だとしたら翼が≪セイレーン≫の契約者の正体を知っている可能性もある。言ってみる価値はあるだろう。現状、情報は多いに越したことはない。
それに、
日景の家についてもだ。
昨日電話で黒服は日景の家に翼と共に赴き、日景がどういう家なのか聞いてきたと言っていた。何を聞きに行っていたにせよ、黒服側から現在の日景の家長へと話をしに行ったのならば注意を促すために権力を狙っている朝比奈秀雄の件について少しは言及したことだろう。
それならば当主の側から現在の日景繁栄の元である≪小瓶の魔人≫についても話が及んだだろうか? 都市伝説の存在を確信している当主の側がそこに思い当る可能性は高い。しかしそれを外部の者に話すだろうか?
……いや、言及していなかった場合は俺が黒服さんに話をすればいいか。
知ってしまった以上、≪悪魔の囁き≫の件に深く関係のある≪小瓶の魔人≫の件は黒服にも知っておいてもらうべきだろうとTさんは思う。
何よりも問題なのは、
≪小瓶の魔人≫の存在を朝比奈秀雄が知っている可能性が高いということか……。
もし朝比奈秀雄が日景家の≪小瓶の魔人≫の存在を知っているとなると、彼は権力だけでなく≪小瓶の魔人≫の力をも欲していることになる。
≪小瓶の魔人≫、アラブのジンが入っていたという話の具現、下手をするとかなり高い位階のジンが封印されている可能性がある。更に彼は≪悪魔の囁き≫という、力を引き出す事が出来る都市伝説とも契約している。それらを持って悪意を振り播かれるのは、
「御免こうむりたいな」
先を歩く舞とリカちゃんを見て思う。
――この子たちに悪意は触れさせはしない、と。