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喫茶ルーモアからの帰り道、
「なあTさん。俺が来る前とかに黒服さんと話し合ってた事、俺にも教えてくれよ」
「聞きたいの」
「ん、ああ――」
俺とリカちゃんの要望に応えて、Tさんは簡単に黒服さんとやり取りした情報を俺たちに話してくれた。
チャラい兄ちゃんの周囲にはとりあえずもう≪悪魔の囁き≫にとり憑かれた奴はいないっぽい事、でもまた新しく何人か≪悪魔の囁き≫がとり憑いているであろう奴が起こした事件があるらしい事、そいでもってチャラい兄ちゃんの親父さんの三つ目の都市伝説の正体はまだ確証が無いんだそうだ。
「≪ユニコーン≫の兄ちゃん達は黒服さんがつてを伝って調査するんだ?」
≪ユニコーン≫という都市伝説は珍しい存在らしく、調べれば契約者の名前までけっこうな確率で分かるらしい。
「ああ。――っと、そうだ、舞。分かっているとは思うが日景家の≪小瓶の魔人≫については」
「口外厳禁だろ? 分かってるよ」
Tさんの過去も聞いたんだ。無闇にんな願いを叶える系の危険な奴の話なんかしねえよ。
そう言うとTさんは神妙に頷き、
「なまじ本当に願いを叶える事が出来るだけの力を持っている分、また悪い方向に事態を運ぶからな」
そう言って苦笑した。
「そう言えばヘンリエッタ嬢はこの件に対して何か言っていたか?」
訊かれて俺は首を傾げた。
「いや、今聞いた黒服さんの話以上の事は何も言ってなかったと思うぜ? なんだかんだでチャラい兄ちゃんの関係であの人が一番事情に詳しい筈だろ? とりあえず≪悪魔の囁き≫に気を付けるように言われたけど……」
そこまで答えてあ、と声を上げた。
「そういや、H№9……だっけ? そいつはとっとと捕まえるって言ってたっけな」
妙に真剣味を帯びた口調で言われた気がする。そのことを告げると、了解した。とでも言うかのようにTさんは頷いた。
「まあ、嬢ちゃんも大変だよなぁ。契約した都市伝説が制御が難しいもんで暴走する危険性があるからって≪組織≫で軟禁状態だったんだってよ。今年に入ってようやっと外に出られるようになったみたいだぜ?」
そのせいで≪はないちもんめ≫の嬢ちゃん――望くらいしか一緒に遊ぶ友達が居ないって話だった。
あの年頃の子にそれはキツいよな。と言って目を向けると、Tさんは何やら難しそうな顔をしていた。「本人もそう話したか……」とか呟いてる。
「どうしたんだ?」
おかしな感じを受けてTさんに質問してみると「いや、」と小さく答え、
「彼女は少なくとも去年の内には外に出ていたか能力の制御に成功している筈だと、そう思ってな」
へー……ん? 去年には?
「どういうこった?」
「去年あった≪マッドガッサー≫達の騒動、舞もリカちゃんも憶えているな?」
「そりゃ」
「おぼえてるの」
あんな乱痴気騒ぎをしたんだ。覚えていないわけがない。
「あの騒動の時、天使の群れに襲撃されたことがあったな?」
「ああ、学校の中でな」
いきなり銃を乱射されてエライ目に遭ったのを覚えてる。
「たしか髪の伸びる黒服さんが何か手を打ってくれたんだよな」
割とすぐに銃弾をぶっ放してた天使の群れが退散していったのがまた印象的だった。
「あの時に髪の伸びる黒服さんが連絡をとって天使達の契約者を黙らせるよう頼んだのは、おそらくあのお嬢さんだ」
「え? マジか?」
「電話越しに漏れ聞いた声だったが、ほぼ間違いないだろう」
「うわ、俺そんなのに耳を傾けている余裕なんてなかったぜ」
ってか……えー、マジか? ……いや、そりゃおかしいぞ?
「それだとヘンリエッタお姉ちゃんが言ってたこと、おかしいの」
リカちゃんの言う通りだ。俺も同意するとTさんも頷いた。
「ああ、事実と本人の言とに食い違いがあるな」
「なんか事情でもあんのかな?」
「おそらくな。まあ敵意も無いようだし、気にする事でもない。それこそ本人の事情という奴だろう」
そう言いながら空気を変えるようにTさんはルーモアで受け取ったレシートを見て、何やら苦笑いした。
「なんだよ?」
「追加は一品だと言ったはずなんだがな……ヘンリエッタ嬢と舞だけで一体どれだけ食べたんだ?」
黒服さんが帰ってから更にケーキやらなんやらを注文した事を言ってるんだろう。
「そりゃあれだ。ヘンリエッタの嬢ちゃんとそれぞれが頼んだものをあげっこするだろ? そうするとお互いのものがそれぞれ美味く感じるわけだ。――で、それを自分の分注文する、と」
以下そんな流れが数ループしてあの席に小山が築かれることに相成った。
うん、まあ何が言いたいのかというと、
「出すもん出すもんことごとく美味いマスターの腕のせいだな」
マスターが居ない時はあそこで飯が食えなかったせいか最近は通い詰めだ。
「まあ、かまわないが……」
Tさんはそう言うとちらりと俺の腹辺りに視線を向け、
「太るぞ?」
反射的にローキックをかましてやった。
涼しい顔でそれをブロックするTさん。
「いきなり何をする」
「乙女心って奴を身を持って教えてやろうと思ってな」
笑顔で返答。すると頭上から援護射撃が来た。
「お兄ちゃんがわるいの」
ビシリと手でTさんを指すリカちゃん。
俺がおぉ~、と控えめに歓声を上げているとTさんがなんとも言えない微妙な表情をした。
「……変にリカちゃんを感化させるな」
「あ、その発言はアレか?リカちゃんに乙女心は早いって言いたいのか?失礼な、リカちゃんだって立派なレディなんだぞ!」
頭上から掲げ持つようにしてリカちゃんをTさんの顔前にずい、と押し出す。
うん、とリカちゃんは頷き、
「なおきお兄ちゃんがいってたの! 私、リカちゃん。れでぃーなの!」
その微妙に誇らしげな言い様にTさんが目を逸らしながら頷いた。
「ん……それは、まあ……すまないな」
その顔が笑いを堪えているように見えたのはきっと気のせいだな、うん。
ともあれ、これで数の上では俺の勝利、リカちゃんを頭上に戻して盛大に心の中で笑う。
はははどうだざまぁみろっ!
……。
…………。
「…………………なあ、Tさん」
「どうした?」
「太ってる女はやっぱり、嫌……か?」
窺うように訊いてみる。
Tさんは、ん? と顔を俺に向け、
「大して気にはしないが……油断し過ぎなのはあまり好ましくはないな」
堪えていた笑いが噴き出しましたとでもいうように笑った。
「そうかよ」
らしい感じの意見だ。あと笑うな。
「……今日も、晩飯は俺が作る」
「そうか」
それだけ言って頭を撫でられた。
「――っ」
とっさに手を払おうとして、やっぱりやめた。
「う? お姉ちゃんがわるかったの?」
リカちゃんが困惑気味にしている気配がある。それにTさんが笑みの気配を保ったままの声で言う。
「いや、そうじゃない。ただ、舞がいい子だっただけだ」
「んだよその言い方」
不貞腐れて答えながら思う。今日は味付けを薄くして超ローカロリーな飯にしようと。
「なあTさん。俺が来る前とかに黒服さんと話し合ってた事、俺にも教えてくれよ」
「聞きたいの」
「ん、ああ――」
俺とリカちゃんの要望に応えて、Tさんは簡単に黒服さんとやり取りした情報を俺たちに話してくれた。
チャラい兄ちゃんの周囲にはとりあえずもう≪悪魔の囁き≫にとり憑かれた奴はいないっぽい事、でもまた新しく何人か≪悪魔の囁き≫がとり憑いているであろう奴が起こした事件があるらしい事、そいでもってチャラい兄ちゃんの親父さんの三つ目の都市伝説の正体はまだ確証が無いんだそうだ。
「≪ユニコーン≫の兄ちゃん達は黒服さんがつてを伝って調査するんだ?」
≪ユニコーン≫という都市伝説は珍しい存在らしく、調べれば契約者の名前までけっこうな確率で分かるらしい。
「ああ。――っと、そうだ、舞。分かっているとは思うが日景家の≪小瓶の魔人≫については」
「口外厳禁だろ? 分かってるよ」
Tさんの過去も聞いたんだ。無闇にんな願いを叶える系の危険な奴の話なんかしねえよ。
そう言うとTさんは神妙に頷き、
「なまじ本当に願いを叶える事が出来るだけの力を持っている分、また悪い方向に事態を運ぶからな」
そう言って苦笑した。
「そう言えばヘンリエッタ嬢はこの件に対して何か言っていたか?」
訊かれて俺は首を傾げた。
「いや、今聞いた黒服さんの話以上の事は何も言ってなかったと思うぜ? なんだかんだでチャラい兄ちゃんの関係であの人が一番事情に詳しい筈だろ? とりあえず≪悪魔の囁き≫に気を付けるように言われたけど……」
そこまで答えてあ、と声を上げた。
「そういや、H№9……だっけ? そいつはとっとと捕まえるって言ってたっけな」
妙に真剣味を帯びた口調で言われた気がする。そのことを告げると、了解した。とでも言うかのようにTさんは頷いた。
「まあ、嬢ちゃんも大変だよなぁ。契約した都市伝説が制御が難しいもんで暴走する危険性があるからって≪組織≫で軟禁状態だったんだってよ。今年に入ってようやっと外に出られるようになったみたいだぜ?」
そのせいで≪はないちもんめ≫の嬢ちゃん――望くらいしか一緒に遊ぶ友達が居ないって話だった。
あの年頃の子にそれはキツいよな。と言って目を向けると、Tさんは何やら難しそうな顔をしていた。「本人もそう話したか……」とか呟いてる。
「どうしたんだ?」
おかしな感じを受けてTさんに質問してみると「いや、」と小さく答え、
「彼女は少なくとも去年の内には外に出ていたか能力の制御に成功している筈だと、そう思ってな」
へー……ん? 去年には?
「どういうこった?」
「去年あった≪マッドガッサー≫達の騒動、舞もリカちゃんも憶えているな?」
「そりゃ」
「おぼえてるの」
あんな乱痴気騒ぎをしたんだ。覚えていないわけがない。
「あの騒動の時、天使の群れに襲撃されたことがあったな?」
「ああ、学校の中でな」
いきなり銃を乱射されてエライ目に遭ったのを覚えてる。
「たしか髪の伸びる黒服さんが何か手を打ってくれたんだよな」
割とすぐに銃弾をぶっ放してた天使の群れが退散していったのがまた印象的だった。
「あの時に髪の伸びる黒服さんが連絡をとって天使達の契約者を黙らせるよう頼んだのは、おそらくあのお嬢さんだ」
「え? マジか?」
「電話越しに漏れ聞いた声だったが、ほぼ間違いないだろう」
「うわ、俺そんなのに耳を傾けている余裕なんてなかったぜ」
ってか……えー、マジか? ……いや、そりゃおかしいぞ?
「それだとヘンリエッタお姉ちゃんが言ってたこと、おかしいの」
リカちゃんの言う通りだ。俺も同意するとTさんも頷いた。
「ああ、事実と本人の言とに食い違いがあるな」
「なんか事情でもあんのかな?」
「おそらくな。まあ敵意も無いようだし、気にする事でもない。それこそ本人の事情という奴だろう」
そう言いながら空気を変えるようにTさんはルーモアで受け取ったレシートを見て、何やら苦笑いした。
「なんだよ?」
「追加は一品だと言ったはずなんだがな……ヘンリエッタ嬢と舞だけで一体どれだけ食べたんだ?」
黒服さんが帰ってから更にケーキやらなんやらを注文した事を言ってるんだろう。
「そりゃあれだ。ヘンリエッタの嬢ちゃんとそれぞれが頼んだものをあげっこするだろ? そうするとお互いのものがそれぞれ美味く感じるわけだ。――で、それを自分の分注文する、と」
以下そんな流れが数ループしてあの席に小山が築かれることに相成った。
うん、まあ何が言いたいのかというと、
「出すもん出すもんことごとく美味いマスターの腕のせいだな」
マスターが居ない時はあそこで飯が食えなかったせいか最近は通い詰めだ。
「まあ、かまわないが……」
Tさんはそう言うとちらりと俺の腹辺りに視線を向け、
「太るぞ?」
反射的にローキックをかましてやった。
涼しい顔でそれをブロックするTさん。
「いきなり何をする」
「乙女心って奴を身を持って教えてやろうと思ってな」
笑顔で返答。すると頭上から援護射撃が来た。
「お兄ちゃんがわるいの」
ビシリと手でTさんを指すリカちゃん。
俺がおぉ~、と控えめに歓声を上げているとTさんがなんとも言えない微妙な表情をした。
「……変にリカちゃんを感化させるな」
「あ、その発言はアレか?リカちゃんに乙女心は早いって言いたいのか?失礼な、リカちゃんだって立派なレディなんだぞ!」
頭上から掲げ持つようにしてリカちゃんをTさんの顔前にずい、と押し出す。
うん、とリカちゃんは頷き、
「なおきお兄ちゃんがいってたの! 私、リカちゃん。れでぃーなの!」
その微妙に誇らしげな言い様にTさんが目を逸らしながら頷いた。
「ん……それは、まあ……すまないな」
その顔が笑いを堪えているように見えたのはきっと気のせいだな、うん。
ともあれ、これで数の上では俺の勝利、リカちゃんを頭上に戻して盛大に心の中で笑う。
はははどうだざまぁみろっ!
……。
…………。
「…………………なあ、Tさん」
「どうした?」
「太ってる女はやっぱり、嫌……か?」
窺うように訊いてみる。
Tさんは、ん? と顔を俺に向け、
「大して気にはしないが……油断し過ぎなのはあまり好ましくはないな」
堪えていた笑いが噴き出しましたとでもいうように笑った。
「そうかよ」
らしい感じの意見だ。あと笑うな。
「……今日も、晩飯は俺が作る」
「そうか」
それだけ言って頭を撫でられた。
「――っ」
とっさに手を払おうとして、やっぱりやめた。
「う? お姉ちゃんがわるかったの?」
リカちゃんが困惑気味にしている気配がある。それにTさんが笑みの気配を保ったままの声で言う。
「いや、そうじゃない。ただ、舞がいい子だっただけだ」
「んだよその言い方」
不貞腐れて答えながら思う。今日は味付けを薄くして超ローカロリーな飯にしようと。