●
「え? H№9とかいう奴の件はもうケリがついたの?」
リカちゃんと弁当以外恐らく何も入っていないであろう鞄をリズミカルに振り回しながら学校帰りの舞が言う。中からリカちゃんのはしゃいでいるのか本気なのか判別がつかない悲鳴が漏れ聞こえているが、周囲は夕方の喧騒に包まれている。聞き咎められる事は無いだろう。
「ああ、これで≪コーク・ロア≫の契約者が増産される事もない」
Tさんが言うと、「そいつはよかったなあ」としみじみ舞が呟いた。
それに頷き返しながら、Tさんはその情報をもたらした人物について考える。
髪の伸びる黒服さんは、≪13階段≫の契約者――辰也と言ったか。彼と髪の伸びる黒服さん自身をH№の実験体の、二人だけの生き残りだと言っていた。
≪マッドガッサー≫の事件の時に見聞きした彼らのシリアルナンバーを思い出す。髪の伸びる黒服は以前自身を『失敗作だからさ』と言っていた。それはつまり、
やはりヘンリエッタ嬢が言っていたシリアルナンバーは髪の伸びる黒服さんが実験とやらに被験体として関与していた事を示していて、失敗作というのは言葉通りの意味……か?
H№9を殺したと言っていた髪の伸びる黒服はH№9を自分達の復讐対象だと言った。辰也が≪組織≫を裏切る以前、辰也と髪の伸びる黒服に実験体としての関わりがあったのならば、二人が≪マッドガッサー≫の事件の時に妙に親しげに見えたのにも説明がつく。
本人の言質もある。あの男の言葉を額面通りに受け取るのは危険だとは思うが、おそらく予想は大きく外れてはいないだろう。
自身の見聞きした事も斟酌して出た予測にTさんはそう頷く。
そして、
H№9は人体実験を好む性質の悪い人間だったようだが、髪が伸びる黒服によるとH№の研究者は皆似た性質の者達ばかりだという。その者達はもう半数も生きてはいないという話だった。
おそらくは殺されたのだろうとTさんは思う。
……復讐対象はH№9に限った事では無い。ということか……。
詳しくは知らないが彼らの復讐にはそれなりの理があるのだろう。Tさんはそう考え、同時に以前戦った復讐者たちの事を思い出す。
復讐とはそれ自体が生きる意思を保つ支柱にもなるものだ。
「……復讐に全てを捧げて、果てることが無ければいいんだがな」
「ん? なんか言ったか? Tさん」
思わずため息交じりに零した言葉に舞が振り返る。それに、いや、と緩く首を振って答え、Tさんは呆れ顔で舞に言う。
「リカちゃんが目を回してしまう前にそのアクロバティックな鞄捌きを止めるように」
Tさんが言うのに合わせるように鞄が内側から弱々しく叩かれた。リカちゃんはそろそろ限界のようだ。
「――っうわ、リカちゃんごめん!」
「ぐるぐるするの~」
リカちゃんへと謝り倒している舞を見ながら、Tさんは苦笑いでもう一つため息をついた。
リカちゃんと弁当以外恐らく何も入っていないであろう鞄をリズミカルに振り回しながら学校帰りの舞が言う。中からリカちゃんのはしゃいでいるのか本気なのか判別がつかない悲鳴が漏れ聞こえているが、周囲は夕方の喧騒に包まれている。聞き咎められる事は無いだろう。
「ああ、これで≪コーク・ロア≫の契約者が増産される事もない」
Tさんが言うと、「そいつはよかったなあ」としみじみ舞が呟いた。
それに頷き返しながら、Tさんはその情報をもたらした人物について考える。
髪の伸びる黒服さんは、≪13階段≫の契約者――辰也と言ったか。彼と髪の伸びる黒服さん自身をH№の実験体の、二人だけの生き残りだと言っていた。
≪マッドガッサー≫の事件の時に見聞きした彼らのシリアルナンバーを思い出す。髪の伸びる黒服は以前自身を『失敗作だからさ』と言っていた。それはつまり、
やはりヘンリエッタ嬢が言っていたシリアルナンバーは髪の伸びる黒服さんが実験とやらに被験体として関与していた事を示していて、失敗作というのは言葉通りの意味……か?
H№9を殺したと言っていた髪の伸びる黒服はH№9を自分達の復讐対象だと言った。辰也が≪組織≫を裏切る以前、辰也と髪の伸びる黒服に実験体としての関わりがあったのならば、二人が≪マッドガッサー≫の事件の時に妙に親しげに見えたのにも説明がつく。
本人の言質もある。あの男の言葉を額面通りに受け取るのは危険だとは思うが、おそらく予想は大きく外れてはいないだろう。
自身の見聞きした事も斟酌して出た予測にTさんはそう頷く。
そして、
H№9は人体実験を好む性質の悪い人間だったようだが、髪が伸びる黒服によるとH№の研究者は皆似た性質の者達ばかりだという。その者達はもう半数も生きてはいないという話だった。
おそらくは殺されたのだろうとTさんは思う。
……復讐対象はH№9に限った事では無い。ということか……。
詳しくは知らないが彼らの復讐にはそれなりの理があるのだろう。Tさんはそう考え、同時に以前戦った復讐者たちの事を思い出す。
復讐とはそれ自体が生きる意思を保つ支柱にもなるものだ。
「……復讐に全てを捧げて、果てることが無ければいいんだがな」
「ん? なんか言ったか? Tさん」
思わずため息交じりに零した言葉に舞が振り返る。それに、いや、と緩く首を振って答え、Tさんは呆れ顔で舞に言う。
「リカちゃんが目を回してしまう前にそのアクロバティックな鞄捌きを止めるように」
Tさんが言うのに合わせるように鞄が内側から弱々しく叩かれた。リカちゃんはそろそろ限界のようだ。
「――っうわ、リカちゃんごめん!」
「ぐるぐるするの~」
リカちゃんへと謝り倒している舞を見ながら、Tさんは苦笑いでもう一つため息をついた。
●