「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ドクター-60

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ドクター60


犬メイドは風を切ってバイクで走っていた
その傍らをユニコーンが優雅に走っていた
その後ろから必死の形相で青年が走ってきていた
「お前という奴は! どうしていつも麗しきレディの膝を独り占めしようとするのだ!」
というか何でお前はバイクと馬の速度に追いついてこれるんだ、と疑問に思った瞬間
ユニコーンの後ろ足で蹴飛ばされ、アスファルトの上をもんどりうって転げ視界から消えていった
「……おい、いいのかアレ」
思わず漏れた呟きに、ユニコーンはふひんと鼻で笑うように嘶いた

―――

公園の入り口に停められたバイクを目印に、ユニコーンの契約者であるヘンリーが追いついてきたのはそれから僅か数分後の事だった
「レディの膝枕は貴様には渡さんぞ!」
犬メイドに頭を撫でられているユニコーンに、真剣な顔でびしりと指を突きつけるヘンリー
「落ち着け。お前は相変わらず過ぎだ」
「相変わらず? はて……このような見目麗しいレディと出会った事があれば、忘れるはずは無いのだが」
「覚えてたら凄ぇよ、顔も声も違うっつーのに」
「整形か!? だが俺は心清らかであれば身体を作り変える事にも寛容だ! むしろ美しくなるのであれば推奨して然るべき!」
「その程度なら良かったんだがな……パスカル・ハドソンって名前に心当たりはあるな?」
「ああ、そんな名の友人もいたが。何だね、あの女誑しの知人かね? いかんぞ、あんなのと付き合いがあってはいつ汚されるか判ったものじゃない」
「……本人だ馬鹿野郎」
その言葉に、ヘンリーの表情が凍りつく
「いやいや、そんなはずはあるまい。俺はともかくユニコーンに性別を偽る事など出来るはずも無い」
「とある都市伝説に女になるガスぶっかけられたんだよ。現状ではこの身体は完全に女だ……言っておくが中身は俺のままだからな」
「タイム」
びしりと手のひらを突き出し、ユニコーンと共に犬メイドから距離を取って何やら話し込み始める
何やら真剣な顔で語り合う一人と一頭を見て、犬メイドはややばつが悪い表情で頭を掻く
「流石に元男を口説きかけたのはショックだったか」
かと言って、ユニコーンの角で突き殺されるわけにもいかない
やや警戒態勢を取りつつも、話が終わるのを待ち
やがて十数分の時間を経て戻ってきた
「協議の結果、俺達の間では『あり』って事になった」
満足げに頷く一人と一頭に、犬メイドは思わずひっくり返りそうになる
「待てコラ。元男の知人相手に『あり』って何だ『あり』って」
「気分を害したなら謝罪し、言葉を改めよう。過去がどうであろうと今が清らかな乙女であれば、何ら問題はないと!」
「そういう意味じゃねぇよ!?」
彼が言うには、肉体的に完全な変質を経た時点でその身は清められたという事らしい
「つーか、俺としてはユニコーンには近付きたくないんだが。女の身体になった後、記憶が曖昧な部分があってだな」
「俺とユニコーンの感覚を信じろ。お前は今のところは間違いなく穢れ無き乙女だとも」
「喜んでいいんだか悲しんでいいんだかわからんお墨付きだよ……」
がっくりと項垂れる犬メイドだったが、はっと顔を上げる
「ユニコーンって毒や病気を治せるよな!? 俺の男に戻せって言ったら嫌がるかもしれんが、せめてこの耳と尻尾ぐらいはどうにかできないか!?」
その言葉を聞いて、ヘンリーに耳打ちするように小さく嘶くユニコーン
「全部まとめて治るだろうから嫌だそうだ」
「そうか、やっぱりそうなるか」
犬メイドはこれ以上無い程の深い溜息を吐き、どんよりとした顔でヘンリーに向き直る
「ていうかお前ら、何でこんなとこにいるんだよ。『教会』はこの町に不干渉のはずだぞ」
「そういう『MI6』はどうなのかね? あちらもこの町には不干渉のはずだが」
「干渉はしねぇっての。調査と監視だけ……だったのに何でこんな事になってんだよもう」
近くにあったベンチにぺたんと座り込む犬メイド
ヘンリーはおもむろにその隣に腰掛けると、ごろんと横になって犬メイドの太股に頭を乗せる
「何で膝枕してんだ」
「話をする間ぐらい良いじゃないか、俺とお前の仲だろう」
「膝枕するような仲じゃ無ぇよ!? つーかお前、膝枕するとすぐ寝るだろが!」
「失敬な。寝たふりをして長らく膝枕の感触を楽しんだりはするが、本当に寝てる事はほとんど無いぞ」
「余計タチ悪いだろうがそれ!?」
うっとりとした顔で膝枕を堪能しているヘンリーの側頭部を、ユニコーンが前足を上げて蹄を引っ掛け
「ごふっ!?」
ぐいと押し退けたついでに思い切り踏んだ
更にはしばらくぐりぐりと踏み躙り、ヘンリーが動かなくなったのを確認してベンチの傍らで膝を折り、犬メイドの膝にぽすりと頭を乗せる
「……お前ら、ここまで仲悪かったっけ?」
そんな犬メイドの疑問をユニコーンはスルー、というか通訳であるヘンリーが沈黙している状態ではどうしようもない
「俺でいいなら膝枕ぐらいしてやるから、あいつが起きたらちゃんと話させてくれよな? ほれ、お前さんあっちの芝生の方がいいだろ」
その言葉に、立ち上がったユニコーンは急かすように犬メイドの背中を押す
「そう急かすなよ、ったく……てか膝枕で満足したら、俺の身体治したりしてくんない?」
即座にぷいと顔を逸らすユニコーン
「なんか俺、一生このままな気がしてきたよ……半ばその覚悟はしてたからいいけどさ」

春先の公園で、芝生に座るメイドとその膝に頭を垂れるユニコーン
そして頭部に蹄の跡を残して意識を失い横たわる英国人男性
幻想的なんだか猟奇的なんだかよくわからない光景であった


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