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連載 - 恐怖のサンタ-x23

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uranaishi

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 23


 ――――それはまだ、デビ田が初めて実体化していない頃の事である。
 ある夜、デビ田は蛇の姿を形取って静かに月を眺めていた。
 都市の明りで星明りがほとんど駆逐された中、月だけは相も変わらず闇の中で一層輝いているように見える。
 月齢的にはまだ「満月」と形容できるほど丸くないが、デビ田の小さな目はそれ球形として捉えていた。
 月見の季節などとうに過ぎたこの時期に、デビ田はわざわざ月を眺めて感傷に浸れるほど風雅の心に富んではいない。
 単なる思索に耽る時間……全く己の支配下に置かれる気配の無い被寄生体の事や、遂行すべき事柄を何一つ全うしてない己の都市伝説としての在り様、そんな物を考える時間としてデビ田はこの時を過ごしていた。
 デビ田の長い尾に触れるか触れないかの所で、彼の宿主たる山田は泥のように眠っている。
 今日も悪魔の囁き関連の仕事で夜遅くまで働いていたのだ。起きて来ることはまず無いだろう。

 デビ田にとって、山田が寝ているこの数時間こそが唯一安心して考えを整理できる時間だった。
 普段、山田の思考がデビ田に筒抜けになっているのと同じく、デビ田の思考もまた、山田に筒抜けになっているのである。
 もちろん普通の人間が他人の頭の中を覗き見れないように、似たような壁を山田との間に作る事も出来るのだが、それはあくまでデビ田の側からのみで、山田の思考はいつもデビ田の方へと流れ込んで来てしまう。
 元々取り憑いた相手の欲求を煽るのが彼ら悪魔の囁きの義務である以上当然の事ではあるのだが、どう囁いても堕ちる気配のない相手の中で孵化してしまったデビ田としては、そんな仕様は単に邪魔でしかなかった。
 何の気兼ねもなしに、自分一人で瞑想に耽る時間。それが必要だった。

 そんな種々の事情を乗り越え、ようやく手に入れたこの時。
 何かと徹夜続きの山田のせいで、中々取れない、至高の時間。
 しかしそれは、やがてそれ自体が悩みの種となってしまっていた。

(今日ハ大丈夫ダロォナァ? 『あれ』ハ一晩中アノ男ノ息子ノ尻ヲ追ッカケ回シテルッテへたれガ言ッテタケドヨォ……)

 デビ田の脳内にあるのは、宿主と同居している一人の赤い少女。
 目下の悩みの種……というよりは、それはまさにデビ田にとって死活問題だった。
 ここ最近、その少女は何かとデビ田に付き纏っている。
 デビ田としては、その行動はどうにも看過し難かった。
 別にその少女がデビ田に恋をしただとか、子蛇の愛くるしい姿が気に入ったとか言うのならそこまでデビ田は気にしない。
 問題なのは、少女が「悪魔の囁き」に対して異様なまでの興味を示している事だった。
 何でも、ある悪魔の囁きに取り憑かれた女性を見て、「悪魔の囁きに憑かれれば翼様が心配して見れるかも! そこから恋が始まるかも!」と何やら勘違いをしたらしい。
 デビ田としては、それは愚の骨頂、それこそわざわざ実体化して嘲ってやってもいい位のものなのだが、その後の少女の行動はデビ田の予想を遥かに超えるものだった。
 少女が、デビ田に取り憑いてくれと頼み込んできたのである。

 全ての生物が種を増やして保存しようとするように、悪魔の囁きの個体数を増やすのは悪魔の囁き全固体に出された命令の一つだった。
 デビ田は少女の頼みに、最初は喜んだ。
 ようやく悪魔の囁きとしてまともな事ができると。ようやく自分の存在意義を見出せたと。

 ――――しかし、それは結果として失敗に終わった。
 他の悪魔の囁きが日常的に行っているように、デビ田は少女に卵を植え付けた。
 各悪魔の囁き同士に能力の差は存在しない。
 後は少女の欲望が一定値に達したとき、それは黒い影となってその心の中に巣食う……はずだった。
 数日が経ってデビ田が少女の心を覗き込んだ時、そこに卵は「無かった」。
 少女の心は、なぜか卵を孵す所か逆にそれを駆逐してしまったのだ。
 初めデビ田は、少女が彼を騙し、卵を使って何か悪魔の囁きに関する調査でも行ったのかと思った。
 「組織」は既に取り憑いた悪魔の囁きそのものを消滅させる薬を開発している。
 それを同じようなものを作るために、少女は自分を利用したのではないか、と。

 それから、再び卵を入れて欲しいと請う少女の言葉に応え、疑心のままに何日もの間少女を観察し続けた。
 少女が一体どういう意図で卵を排除したのか、それを確かめるために。
 卵は外部からの圧力が無ければ壊れる事は無い。つまり、少女が「何か」をしたからこそ、卵は消え去ったのだ。
 しかし、デビ田の観察し得る限り、少女はただ普通に日常を過ごしていた。
 もちろん四六時中少女を観察しているわけにもいかないが、基本的に表に出さえしなければ「暇」であるデビ田は、己の生み出した卵の存在自体を山田の中で追跡し続けた。
 そうしていれば、いつか必ず原因が見つかるだろうと思って、何日も何日も観察を続け……しかし、デビ田には何も分からなかった。

 悪魔の囁きの卵は、いつも突然その姿を消した。
 理由は不明。
 デビ田の生み出した卵たちが消える時間に、規則性は無かった。
 その時誰かに会っているわけでも、黒服に例の薬を投与されたわけでもなかった。
 分からない。
 もしかして自分は本当に「欠陥品」なのかとさえデビ田は思った。
 欲望の塊のような少女に卵を植え付けて、それでも孵す事ができない自分。
 唯一見出した己の存在意義すら否定されたような気がした。

 ――――そして、数日が過ぎ。
 最早謎を解明する事を諦めかけていたその時に、解へのヒントは唐突にやってきた。
 デビ田の目の前で、少女の内から卵が消え去ったのだ。
 今までは、ただ存在の消失のみを感じていた現象。それがデビ田の目の前で起こった。
 すぐに、デビ田はその原因に気づいた。
 分かってみれば簡単だったと思う。今までなぜ一度でも卵の消失を直に見ようとしなかったのかと己を攻めさせした。
 卵の消失。それは単なる「栄養過多」だったのだ。
 悪魔の囁きの卵は、その宿主の感情を養分として吸収し、成長する。
 その感情の落差が激しければ激しいほどその成長は早まるし、特にブレも無く低く平坦であり続ければ成長は遅れる。
 負の感情や欲求はそのまま卵の成長に直結する。
 本来、少女の「欲望」の大きさは卵にとって大きな栄養源となるはずだった。
 しかし、少女から卵に与えられた「栄養」はあまりに巨大過ぎた。
 その量の多すぎる欲望は、孵すべき卵を飲み込んでしまった。
 花を育てるのと同じだ。
 想像してみればいい。コップ一杯の水さえあげれば成長する花に、毎日バケツ一杯分の水を与えたらどうなるのか。

 元来、悪魔の囁きは負の感情や欲求を糧にして成長する都市伝説である。
 その卵が「餌」とすべき欲望に飲まれる事など、普通はあり得ない現象のはずだった。
 その身に宿った悪魔の囁きを意図せず廃絶してしまう少女。
 デビ田が今身を置いている山田といい、どうして自分の周囲にはこんな特異な都市伝説ばかりが集まるのか、とデビ田は頭を抱えられずにはいられない。
 平生のままで居たいのに、いられない現状。
 このままでは悪魔の囁きの大本である「あの男」に消されるんじゃないかと言う恐怖。
 その時はまだあの男を裏切る覚悟を決めていなかったデビ田にとって、その状況ほど神経をすり減らすものは無かった。

 ――――しかし、少なくとも今この時だけ、誰もが寝静まった部屋の中で一人思索に耽るこの時だけ、デビ田は安らぎを感じていた。
 今、この家屋の中にあの少女は居ない。
 最近になって、さらに要求をエスカレートしてきたあの赤い少女は、居ない。
 ……そう、デビ田は思っていたのだが。

(…………アン?)

 ふと、デビ田の耳に小さな物音が入り込んできた。
 誰かが、山田の部屋にそっと進入してくる物音。扉のある部屋の隅は暗く、デビ田の目には誰が入ってきたのか捉える事ができない。
 デビ田は、今の今までその音に気づけなかった自分に歯噛みをした。
 平生と違って、蛇の姿で居る時は極端に耳が悪くなる。
 蛇には基本的に「聴力」と呼べるほどのものが存在しない。
 顎を地面へとつけ、じっと神経を研ぎ澄ませて始めてやっとその振動を感知する事が出来る程度のレベルだ。
 普段この姿で居る時は、主として舌による匂いの感知と、山田の耳を通して外界の「音」を聞く事で目に見えない周囲へと気を配っているのである。
 しかし山田との間に「壁」を張ってしまっている今、その補助は使えない。
 しかも侵入者は何らかの方法で匂いを消しているのか、デビ田の舌には何の反応も無かった。

 ……と、言っても、別にデビ田は侵入者が誰かを突き止めようなどという気はさらさら無かった。
 それは山田がどうなってもいいから、ではない。
 こんな風に気配を消して、匂いを消して、音も最小限にまで絞ってこの部屋にやってくる人間を、デビ田は一人しか知らない。

(アァ……儚カッタナァ、俺様ノ安ラギ)

 畳が小さく軋みをあげ、侵入者はついに月明かりの届く範囲にまでその足を進めた。 淡い光に照らされて、侵入者の姿が浮かび上がる。
 赤いソレをデビ田は視認し……ある種の走馬灯のようなものが、デビ田の脳内を駆け巡った。

 ――――全てが判明した後、赤い少女は、デビ田自身をその内に取り込もうとした。
 卵が孵らないのなら、既に孵った固体を取り込めばいい。
 少女が夢見る乙女の瞳で出した提案を、デビ田は一秒と経たずに却下した。
 考えるまでも無い。
 0から養分を集める卵でさえ「壊れた」のだ。
 既にある程度の安定した供給を受けている自分が少女の欲求を呑まされたらどうなるのか。
 もしかしたら、運良くデビ田の存在が強固に、より強大になるかもしれない。
 しかしそんな確率は1%もないだろう。
 少女の中へと移ったが最後、デビ田はすぐに「弾ける」に違いない。
 そんな分の悪い賭けになんて乗りたくも無かった。

 ただ、少女はデビ田が思っていた以上に諦めが悪いらしい。
 そう、今この時、少女がデビ田の元へとそっと近づいてきているように。
 どうしたらこの少女を納得させられるのか、デビ田は残り少ない時間を使って賢明に考える。
 考えて、考えて、考えて――――

 ――――この日デビ田は、あの男なんかよりよっぽど恐ろしい感情を持つ者がいる事を知った。

*********************************************

「――――そういやお前、何かマゾと合流してから無口になってない?」
「……ナッテネェヨ」
「あ、そう」

 ビルとビルの間を目的地へと駆けながら、山田は襲い掛かってくるコークロアに操られた人間を殴り飛ばしていく。
 一応元が一般人ということで手加減はしているのだが、それでも殴られた人間は何メートルか吹き飛び、受身も取らず地面に激突した。
 山田としては、あまり気持ちのいいものではない。
 都市伝説ではなく「人」を殴る感触に内心恐れ戦きながらも、山田はただ、走り続ける。

 山田の前方、約数メートル先ではマゾが嬉々とした表情で襲い来る人間たちを交わしている。
 いつもならあの人間の群れの中に飛び込んで、そのまま徹底的に「殴られる」のだが、今日はそんな気にはなれなかった。
 この先に、愛しの人の家族が全員揃っている。
 マゾの心境は、まさに交際後初めて相手の両親と対面する時のそれだった。
 ちなみに、既に母親のほうとは面識があるのだが、そんな些事はマゾの脳内には残っていない。
 ようやく自分の「夢」が近づいたような気がして、マゾは何か燃え滾る感情が己の中に芽生えるのを感じた。

 山田の「内」で、デビ田は静かに思考に沈んでいた。
 先のマッドガッサーの事件の際、空間移動を阻害するような都市伝説が存在したとの事で、今回山田たちはその移動能力の使用を自粛している。
 ただ移動を妨害されるだけならまだしも、移動者自体に何か罠を仕掛けられている可能性を考慮しての事だ。
 その関係で、まだ例の廃ビルへの到着にはまだ少し時間がある。
 もし向こうへ着き、あの男と対峙したら、もはや考える時間など全くないだろう。
 それからは否応なしにあの男と戦う事になる。
 そして、その結果が例え勝利であれ、敗北であれ、デビ田にとっての未来は暗い。
 勝てばあの男の中の悪魔の囁きは駆逐され、負ければデビ田はあの男によって消される。
 デビ田は今後自分が何をすべきなのか、その事をただ、山田の内で考え続けた。

 ――――目指すべき廃ビルは、近い。
 三人にとって各々に意味のある戦いが、始まろうとしていた。

【続】


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