「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち・決戦以降-18g

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「H-No.9を捕えた?」
『あぁ、これからじっくりとお仕置きするところだが』

 「第三帝国」のドクターに、黒服Hの件などで話があり、連絡を撮っていた辰也
 その際に、ドクター達がH-No.9を捕えたという情報を聞いた


 …H-No.9
 あの白髪の女研究者を、辰也ははっきりと覚えている
 自分達に数々の実験を施してきた、冷酷な研究者の1人
 彼女は特に、投薬実験と言う行為そのものを楽しんでいた女だった
 H-No.9が行った「不要な」投薬実験で死亡したり、暴走して処分された被験者もかなりいた事を、覚えている

 目の前で、死んでいった仲間を覚えている
 自分に、楽しげに投薬してきていたあの顔を覚えている


 湧き上がる憎悪
 それを、辰也は隠そうともしない

「…その女、殺すなよ。そいつは俺達の獲物だ」
『俺達、と言うのは、君とあの黒服の事か』

 そうだ、と低く答える
 H-No.1からH-No.10までの10人
 6人殺して残り4人
 その1人である、H-No.9
 自分達の復讐相手の一人であるそいつを、他の誰かに殺されては困る

『安心したまえ、殺すつもりはない。ただ、「お仕置き」するだけさ』

 …恐らく、ドクターはこの言葉を、いい笑顔で言い切ったことだろう
 その笑顔がはっきりと想像できる

『お仕置きを終えても反省しないようならば、君かあの黒服に引き渡すさ』
「……反省なんざ、する訳ねぇだろ。あの狂人が」

 吐き捨てるように言い切った辰也
 H-No.9は、その程度で反省するような存在ではない
 彼女だけではない
 Hナンバーの研究者たちは、皆そうだ
 死んでも反省する連中ではない

「とりあえず、この事は宏也にも伝えておく」
『わかった。それでは』

 …通話を切った、その時

 がしり、と
 辰也は、何者かに足首を掴まれた

「………」

 特に驚いた様子もなく、辰也は視線を降ろした
 そこでは、辰也の「13階段」に飲み込まれようとしている男が……最後の抵抗と言わんばかりに、階段の14段目に立っていた辰也の足首を掴んでいる
 まるで、道連れにしようとしているかのように

 悪魔の囁きが街中に広がっている中、この相手もまた、悪魔の囁きに感染した相手だ
 もっとも…感染以前より、悪事を働いていた相手である
 この男がばら撒いたカードで、随分と交通事故が多発した
 だから、その退治と言う「仕事」をしていただけのこと
 辰也は、己の足首を掴んでいた手を振り払うと…そのまま、踏み躙った
 男は悲鳴を上げ………そのまま、どぷんっ、と
 「13階段」に、完全に引きずり込まれた

「………ふぅ」

 小さく、ため息をつく辰也
 「13階段」内の血の池に男が落ちたのを……そのまま、亡者達によって、血の池の中に引きずり込まれていっている事実を、しっかりと感じ取る
 物の数分もしないうちに、溺れ死ぬ事だろう
 これで、仕事は終了だ

 やはり、自分にはこのような仕事の方が、向いているのだろうか
 昨年の騒動以降、情報屋としての仕事もしているが……このように、誰かを「殺す」仕事の方が、どうしてもスムーズに進む
 元々、「組織」にいた頃も、暗殺のような汚れ仕事ばかりしてきていたのだ
 自分には、汚れ仕事の方が似合っているという事か

 ……全く
 マッドガッサーやマリ達が、今までとは変わって行こうとしているというのに
 自分は、なんてざまだろうか

「……まぁ、俺らしいか」

 暗く沈みかけた思考を振り切り、帰ろうと階段を上がりきる

 ……っが、ふっ、と
 近づいてきている気配を感じて、立ち止まった
 気配は、階段の下から近づいてきている
 一度発動を切った「13階段」を再び発動させて、辰也は気配を警戒する

 …現れたのは、高校生と思われる少年だった
 じ、と辰也を見上げてくる

「…「13階段」の、契約者さん、ですね?」
「………そうだったら、何だ」

 都市伝説契約者の気配
 他に仲間がいないか探るが、一人だけだ

「そうでしたら…「組織」の人間として、あなたを討伐します」
「…「組織」か」

 隠しもせず、舌打ちする
 辰也は、今でも「組織」からは追われている立場だ
 討伐か、捕縛か………どちらにせよ、「組織」に追われている現状に代わりはない
 「首塚」や「薔薇十字団」と、マッドガッサー達が協定を組んでいることで、おおっぴらに捜索される事こそないものの、見付かれば敵対行動をとられる事破明らかだ
 何せ、元「組織」に所属していた身であるが故に、顔を知られてしまっている運が悪ければ、こうやって見付かる事もある

 …少年は「討伐」と言った
 少年自身か、少年の担当の黒服が、強硬派か過激派なのだろう
 確か、穏健派は「捕縛」と言う方向性になっていたはずだ

 辰也は、少年を見下ろす
 自分と少年の間には、階段がある

「…できるものならやってみろ、ガキ。俺の能力を知っているんだろ?」

 「13階段」の契約者、と少年はこちらをそう呼んできた
 能力を知っている証拠だ
 ならば、この状況でうかつに近づいては来ないだろう
 遠距離攻撃を持っているなら別だが……その時はその時で、こちらは「13階段」を発動したまま、逃走すれば良いだけのことだ

「知っています……けれど」

 っふ、と
 少年の顔つきが………変わった

「---13段目を、踏まなきゃいいって話だろ!!」

 顔つきも、話し方もガラリと変わった少年が、階段を駆け上がりだす
 …13段目だけ、飛び越えてくるつもりか
 なるほど、「組織」には、まだ「13階段」が、13段目を踏まなくとも…その上を飛び越えようとしただけでも発動することは、知られていないようだ

 ならば
 この少年は…そのまま、引きずり込まれるだけだ

 逃げようともせず、「13階段」の発動を止め様ともせず
 辰也は、近づいてくる少年を見下ろして…


「あー、ちょっと待った、少年」


 少年が、13段目を飛び越えようとした、その瞬間

「っ!?」


 しゅるり……と
 どこからか伸びてきた黒い触手……否、髪が、少年を捕えた
 そのまま、少年を階段の下まで引き摺り下ろす

「………宏也?」
「よぉ、辰也」

 しゅるり
 髪を伸ばしているHが、辰也に笑いかけてくる
 Hに捕えられた少年は、やや困惑したように、Hを見上げていた

「Hさん?」
「悪いな、坊や。流石に返り討ちにあいそうなところを見逃す訳にはいかないんでね」

 …いつの間に、あのお人好しのような事を言うようになったのか
 ………いや、違うか
 一瞬浮かんだ疑問を、辰也はすぐに否定した
 あのHの顔は…何やら、楽しんでいる顔だ
 決して、あの少年を本心から心配した顔ではない

「それと、あいつに手を出されては困るんでねぇ?」
「え、でも…あの人は討伐対象なんじゃ…………あれ?」

 辰也とHが、名前で呼び合っていた事に、違和感を感じたのだろうか
 少年が、首を傾げている

 ……その、様子に
 Hがこれまた、楽しそうな表情を浮かべたのを、辰也は見逃さなかった
 これは、また…何か、やらかすつもりか

「お前さんを担当している黒服のナンバーは?」
「え……A-No.218、ですけど…」

 Aナンバー
 なるほど、やはり、強硬派の黒服が担当していたのか
 ナンバー毎に所属する派閥が決まっている訳ではないが、Aナンバーは元々強硬派が多い

「なるほど、Aナンバーか。それじゃあ、知らされてないだろうな」

 …わかる
 辰也には、はっきりとわかる
 今のHの表情は……大嘘をつくときの、顔だ

「知らされていない、って…」
「あいつ、辰也な。本当は、「組織」の討伐対象じゃないんだよ」
「え?」

 嘘をつけ
 喉元まででかかった言葉を飲み込む辰也
 今回は、どんな嘘をつくつもりだ

「で、でも、あの人は「組織」を裏切ったって、そう聞いてますけど…」
「表向きはな。だが、実際は「組織」を裏切ったふりをして、極秘任務に付いてる最中なんだよ」

 大嘘をつくな
 再びでかかった言葉を、飲み込む
 やや呆れたような表情で、辰也はHを見下ろす

「極秘、任務……?」
「あぁ。俺も詳しくは聞かされてないが………そうだよな?辰也」

 突然、Hは辰也を見上げてきて、そう話をふってきた
 えぇい、楽しそうに笑うな、腹が立つ
 話をあわせろ、という事か
 面倒な事をやらせるな

「……答える義務はない」
「ま、極秘任務だしな?」

 ニヤニヤと笑っているH
 少年は……あぁ、あの顔は、信じ始めているな

「任務の性質上、極一部にしか知らされていない情報だからな。お前さんが知らなかったのも無理ないさ。お前の担当の黒服も、多分、聞かされてないだろ」

 少年を拘束していた髪を解きながら、そういうH
 訳ありげにニヤリと笑いながら、続ける

「お前さんの担当に、この事は聞かない方がいいぜ?多分、知らされていないだろうし…ヘタにその事を知ったと上層部に知られたら、お前さんもろともその黒服も消されるかもしれないしな」
「っ!」

 …担当黒服に聞かないよう、予防線まで張ったか
 この極悪人が
 少年は、Hの話を半分以上、信じてしまっている
 「組織」ならば、そう言う事もありうると、考えてしまっているのだろう
 …Hの話を肯定できる材料はない、が、同時に、否定できる材料も存在しないのだから

 そろそろと、まだ、どこか困惑を抱えている表情で、少年は辰也を見上げてきて

「その……すみません。何も知らないで…」

 と、謝ってきた
 いや、嘘なのだから、謝る必要性など存在しないのだが
 むしろ、Hが少年に謝るべきだろう

「別に、いい」

 短く、そう答える
 これ以上、Hの嘘に付き合わされて溜まるか

「そうそう、今、こいつと行動しているマッドガッサー達。あいつらも、極秘任務についている奴らだから。手を出さないようにな?」
「は、はい」

 ……まぁ、いいか
 こちらの身の安全を、作ってくれているようだし
 戦わずにすむのなら、それがいいだろう
 面倒臭くないのだから

「…「組織」は秘密主義だからな。こう言う事はよくあるんだ。気をつけとけよ?」

 ニヤリと、楽しそうに楽しそうに笑っている、Hの姿に
 辰也は呆れたように深くため息をついて、少年に同情したのだった




fin




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