「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち・決戦以降-18f

最終更新:

guest01

- view
だれでも歓迎! 編集
 ーーーー夢を見る
 思い出したくもない、記憶の夢を

 歪んだ視界
 何かの投薬実験を受けている最中の記憶だろう
 どっぷりと薬品で満たされた巨大なビーカーのようなプールの中で、半覚醒状態で沈められている自分
 プールの外で起きている光景は、透明なプールの壁を通して全て見える
 見えるだけで…外で起きている光景を、「理解」する事はできない状態

 自分と違い、点滴での投薬実験を受けている、自分と同じくらいの年齢の餓鬼共がいる
 全員、意識がない状態なのだろう
 皆、実験台に横たわった状態で、微動だにしない
 ………だが
 その内、一人が、大きく体を痙攣させはじめた
 カッ、と両目が開かれ、その目から……開け放たれた、口から
 大量の血が溢れ出す
 その様子を、白衣を着た研究員が、淡々と記録に納めていっている
 ……そいつはやがて、ぴたりと動きを止めた
 研究員が、つまらなそうにそいつを荷台に乗せて運んでいく

 今度は、別の奴の手が、びくりっ、と小さく動いた
 直後……そいつの体が、どろりと溶け出す
 ゆっくり、ゆっくりと
 筋肉の繊維が露出しだし、グロテスクな姿をさらしていく
 その様子も、別の研究員が記録に納めていって……そのうち、そいつは骨だけ残して、完全に溶けてしまった

 -----ごぽ、と
 自分のすぐ傍で、大きな気泡が生まれた
 薬品プールでの投薬実験を受けていたのは、自分だけではなかったらしい
 そいつは、その大きな気泡を吐き出して………ぷかり
 プールに、浮かび上がったようだった
 ざば、と回収されたらしい音が響く
 研究員が、ぐったりとして動かない…どうやら、死んだらしいそいつを研究台の上に乗せて
 メスを手に、その体を切り裂きはじめる
 ぐちゃり、ぐちゃり
 内臓を取り出し、その様子を確認したり、さらに切り刻んだりしていた

 共に育てられてきた、仲間たちが、そうやって命を落とし、物のように扱われていく様子を
 ただ、自分は見ていることしかできず、そして、その様子を理解することすらできず…




「-------------っ!!」

 …そこで、目が覚めた
 心臓の鼓動がやけに早い
 全身に、嫌な汗をかいているのがはっきりとわかった

「……あぁ、くそが」

 ぜぇ、と
 荒れている呼吸を、辰也は何とか落ち着かせようとする

 …何故、今更、あんな夢を
 「組織」にいた頃の、忌々しい記憶
 実験台として育てられ、道具のように扱われた記憶

 自分は、運良く投薬実験を耐え抜き、戦闘訓練を生き延び、任務で命落とす事もなく
 こうやって、今もプロジェクト「Obedient Piece」の、唯一の生き残りだ
 百を超える仲間が、時に投薬実験で拒絶反応を起こして命を落とし、時に戦闘訓練中の事故や「殺し合い」の訓練で命を落とし、任務で命を落とし…
 使い捨ての道具のような、いや、ほとんど使い捨ての道具同然の扱い
 研究者たちは皆、こちらを人間ではなく「実験動物」としてしか見てはこなかった
 だからこそ、名前は与えられず、ただ、ナンバーでだけ呼ばれ続け
 …宏也から「広瀬 辰也」と言う名前を与えられるまで
 自分は、人間ではなかったのだ

 夢の内容が、再び脳裏に浮かぶ
 死んでいく仲間達
 解剖されていく仲間達
 その死に際が、はっきりと

「………」

 その光景を振り払うように、頭を振った
 気持ち、悪い
 寝直そうにも、意識がはっきりと覚醒してしまったし…今、眠ってしまうと、あの夢の続きを見てしまいそうだ
 ふらりと寝台から起き上がり、部屋を出て、真っ直ぐに台所に向かう
 …酒でも飲んで、無理矢理寝てしまおう
 夢を見る余地もないほど、深く、深く

 台所で、普段はマリが飲んでいるような度の強い酒を開けて
 ぐ、と一気に煽る
 早く酔い潰れて、さっさと眠ってしまいたい
 そう、考えていると

「……?…辰也……?」
「ぁ?……恵?」

 きぃ、と
 台所に、恵が入り込んできた
 眠たそうな表情で、こちらを見つめてくる

「…どうした…?……眠れない、か…?」
「あぁ、ちょっとな……恵こそ、どうしたんだよ」
「…………サイトの更新、してたら…この時間だった……」

 …あぁ
 前からやっていた、本業の方か
 一度読ませてもらった事があるが、読んでいて恥ずかしくなるほどの純愛小説だった
 それが受けて書籍化もされて、こいつには結構な印税が入っている訳で…正直、自分達の貴重な収入源の一つだ
 まぁ、だからと言って、こいつは誰かに強制されている訳ではなく、好きで書いているのだが…
 小さく苦笑して、恵の頭を撫でる

「集中するのはわかるけど、夜更かしはやめとけ。お前、そんなに体強くないんだからよ」
「……ん……」

 …全くもって、現金な話だと思う
 恵が男だった頃は、そんな事もまったく心配しなかったと言うのに
 女になった途端、これだ
 男だった頃はろくに心配もしなかった癖に、女になった途端に過剰に心配されるようでは、恵も迷惑だろうに

「ほら、もう寝とけ」
「………辰也、は…?」
「…俺も、すぐ寝るから」

 眠れるかどうかは、わからないが
 無理矢理にでも、寝てしまわないと

 ……じ、と
 恵は、こちらを見つめてきて
 …………ぎゅ、と
 こちらが寝間着代わりに着ていたシャツを、掴んできた

「恵?」
「…辰也……眠れない夢、見た、のか…?」
「…なんで、そう思うんだよ」
「……辛そうな…顔、している……」

 …表に出しているつもりなど、なかったのだが
 いつでも、仲間の様子を気にしている恵は、ちょっとした変化でも敏感に気づいてくるらしい
 心配そうに見あげられては、白状するしかない

「……ちょっと、な。でも、すぐ眠れるから、平気だよ」
「…そう、か…?」

 あぁ、まったく
 そんな目で見るな
 ……勘違いしそうになる

「…眠れない、なら……一緒に、寝る、か…?」
「………は?」
「……一緒、なら、眠れる事もある、と…葵や、留美が、言っていた……」

 ……あぁ
 そりゃ、あの二人は恋人がいる訳で
 辛い記憶を夢で見たとしても…その相手がいれば、それすらも忘れさせてもらえるのだろうが

「…お前な、いいのか?」
「……?辰也は、嫌、か…?」

 いや、そうではなく
 …女の姿になって、どれだけ経っていると思っているのか
 いや、メンタル面がずっと男だから、仕方ないのか…いや、男でも、どうかと思うが

「…じゃあ、一緒に寝るか?」

 と、冗談交じりに言ってやれば

「………くけ」

 と、恵は、小さく、小さく
 こくり、頷いてきた



「…うん、期待はしてなかったよ」

 すぅ、と
 聞こえてくる恵の小さな寝息
 自分と恵の間には、仰向けで熟睡しているジャッカロープがいる訳で
 わかっていたよ
 恵と二人きりで寝るなんざ夢のまた夢だよなど畜生

(……でも、まぁ)

 ………俺にゃあ、これでも勿体無いくらいか

 辰也は小さく苦笑して、静かに目を閉じた
 …再び、あの悪夢を見ないことを祈りながら




fin




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー