連載 - とある組織の構成員の憂鬱-53j - 「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

　明日　真を家に送り届けた後、黒服は真っ直ぐに家に帰ってきていた
　…本来なら、今日は「組織」の仕事は休みのはず、だったのだが
　何せ、この騒動の最中だ
　朝比奈　秀雄の三つ目の都市伝説の正体に関する分析など、仕事は山のように存在するからと、本部に出向いていて
　…その途中、上司である黒服G-No.1に見付かり、こう言う時だからこそ休め、と帰されたのだ
　それでも、休んでいる暇などないと、休もうとしないのがこの黒服
　ルーモアにてTさんと情報交換をし、その帰りに傷ついた明日を見つけて治療して家に送り届け
　…家に帰ってからも、家で出来る仕事をやるつもりなのである、この男は
　黒服本人が、昨年の「夢の国」の騒動の時と比べればまだ忙しくない、と考えてしまっているのが、そもそもの問題だろう
　これだから、同僚たちから「過労死候補生」などと言う不名誉な二つ名で呼ばれるのである
　もっとも、本人はそう呼ばれている事実など、全く気づいていないのだが…

　…とまれ
　そろそろ空がかすかに赤く染まり始めるその時間帯に、黒服は帰宅した

「ただいま戻りました」
「あぁ、お帰り、大樹」

　家に戻ると、予想通り、翼がもう夕食の準備をしていた
　多分、じっくり煮込む料理なのだろう
　鍋の火加減を調整している

　……さて
　翼に、セイレーンの契約者のことを、改めて尋ねなければ
　彼女の正体が、翼に近しい者でなければいい
　そう祈りつつ、黒服は翼に声をかける

「翼、少し、いいですか？」
「ん？あぁ、ちょっと待ってくれ」

　翼は、鍋にかけていた火を消そうかどうか、一瞬悩んで…望に「こっちは私が見てるから」と言われて、そのままにして黒服の元にかけてくる

「どうしたんだ？」
「エリカさんがお描きになったセイレーン契約者の似顔絵、まだ、持っていますか？」
「？あぁ、持ってるけど」

　ほら、とジーンズのポケットから、折りたたんだ紙を取り出した翼
　以前…騒動の黒幕が、朝比奈　秀雄だと、わかったその日
　翼にあまり聞かせたくない話をすることに鳴った際、玄宗姐弟が翼を引き受けてくれていた訳だが、その際に翼はエリカから、この似顔絵を受け取っていたのだ
　何だか見覚えがあるのだが、しかし、違うような…そんな、曖昧な印象を、その似顔絵から受けたようで
　何か思い出せないか、といつも持ち歩いていたようだ

「その女性ですが、セイレーンと契約したことによって、人相が変わっている可能性がります。その事を考慮したうえで、もう一度、その似顔絵を確認してくださいますか？」
「人相が？……わかった」

　黒服に言われて、翼は似顔絵が描かれた紙を広げて…じっと、見つめる
　記憶を蘇らせながら、考え込んでいるようで
　…やがて、ぁ、と、小さく声をあげた

「…お知り合い、でしたか？」
「あー、思い出した……人相変わりすぎだろ、これ」

　やや、嫌そうな表情を浮かべている翼
　…この表情から察するに、親しい相手ではないようだ
　その事実に、黒服は少しほっとした

「…糞親父の、浮気相手だ。確か、鳥井　静香だかって、名前だったはず」
「鳥井さん…ですか」

　…朝比奈　秀雄の、浮気相手
　つまりは、翼の両親の離婚を、決定付けた存在か
　なるほど、朝比奈　マドカが、この似顔絵に反応を返した訳だ

「そこまで、人相が変わっていましたか？」
「あぁ。ぜんっぜん違う。ちらっとしか見た事ないけど、すっげぇ暗い女だな、って思った覚えあるし」

　…そこまで、人相が変わっているか
　セイレーンとの契約に加えて、悪魔の囁きにとり憑かれているだろう事も、原因なのだろうか？

「…その、朝比奈　マドカは、この鳥井さんのことを」
「すっげぇ嫌ってた。顔合わせたら殴りかかる勢いで」

　………なるほど
　そこまで、嫌っているか
　朝比奈　マドカも、何らかの都市伝説と契約してはいるようだが……顔を合わせて、無理をしなければ良いのだが
　あんな女性ではあるが、一応仮にも時として翼の実の母親なのだし……あの事情も、ある

「ありがとうございます…すみません、不愉快な事を思い出させてしまって」
「いや、大丈夫だよ。大樹の役に立てたなら、それでいい」

　嬉しそうに笑って、そう言った翼
　…そんな様子に、望がやや面白く無さそうな表情を浮かべたことに、黒服も翼も、気づかず
　……こうやって、翼が少しでも笑える余裕があるなら良かった、と
　黒服は少し、ほっとしたのだった

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