知らなかった
彼女が子をなしていたなどと
あの頃、自分は、行方不明になっていた門条 晴海を探す事に精一杯で
見つけるための手段を手に入れる為、そして、その為ならば、手段も選ばずに行動していて
他人を切り捨てるのも、当たり前のその生き方の中
自分は、より、晴海を見つけ出す手段として有力な、日景家の娘であるマドカを選び、彼女を捨てた
……もっとも、マドカが日景家から勘当された事が原因となり、結局、晴海を見つける手段は手に入れ損ねたのだが…
あの時、既に彼女は身ごもっていたと言うのか
彼女が子をなしていたなどと
あの頃、自分は、行方不明になっていた門条 晴海を探す事に精一杯で
見つけるための手段を手に入れる為、そして、その為ならば、手段も選ばずに行動していて
他人を切り捨てるのも、当たり前のその生き方の中
自分は、より、晴海を見つけ出す手段として有力な、日景家の娘であるマドカを選び、彼女を捨てた
……もっとも、マドカが日景家から勘当された事が原因となり、結局、晴海を見つける手段は手に入れ損ねたのだが…
あの時、既に彼女は身ごもっていたと言うのか
今、自分の目の前に現れた
この、娘を
この、娘を
「……空条 恵、と言ったな?」
「………くけっ」
「………くけっ」
こくり、小さく頷いてくる女
…空条
かつて、自分が捨てた女の姓を名乗ったその女を、朝比奈はじっと見詰めた
…空条
かつて、自分が捨てた女の姓を名乗ったその女を、朝比奈はじっと見詰めた
………あぁ
言われてみれば、似ている
もう少し、明るい顔をしていれば、まさしく、彼女だ
言われてみれば、似ている
もう少し、明るい顔をしていれば、まさしく、彼女だ
「…私を、恨んでいるのか?」
「…………?」
「…………?」
…朝比奈の、その問いかけに
恵は、今度は小さく首を傾げてきた
恵は、今度は小さく首を傾げてきた
もう一度
朝比奈は、ゆっくりと……より、具体的に告げる
朝比奈は、ゆっくりと……より、具体的に告げる
「…お前の母を捨て、死に追いやり…………お前を孤独に追いやった私が憎いか?」
どこか、自嘲するような朝比奈の言葉に
恵は、少し、悲しそうな顔をして
恵は、少し、悲しそうな顔をして
…そして、小さく、首を左右にふった
恵のその反応に、朝比奈は理解しかねるとでも言うような表情を向ける
「私が原因で、お前は母を失い、孤独の中に放りこまれたのだぞ?」
「……母さんが、死んでいた、のは……………悲しい」
「……母さんが、死んでいた、のは……………悲しい」
ぽつり、と
小さく、そう、口に出した恵
その口ぶりからすると、自分の母親の結末についても、つい最近まで、知らなかったようだ
小さく、そう、口に出した恵
その口ぶりからすると、自分の母親の結末についても、つい最近まで、知らなかったようだ
自分に、家族がいる事すら
知らなかったの、かもしれない
知らなかったの、かもしれない
「…………でも、父さんは、生きていた、から………生きていてくれたのが、嬉しい」
自分の家族が、生きていた
ただ、その事実を喜んでいる様子の恵
朝比奈を恨んでいる様子は……………まったく、ない
ただ、その事実を喜んでいる様子の恵
朝比奈を恨んでいる様子は……………まったく、ない
「…私のような男を、父と呼ぶか」
「……?俺は、母さんと、あなたの、子供だから………あなたは、父親、だろう?」
「……?俺は、母さんと、あなたの、子供だから………あなたは、父親、だろう?」
……そう言う問題では、なく
自分の母親を、そして、自分自身をも捨てた相手を
恵は、平気で「父さん」と呼んできている
父親だと、そう、思ってくれているのだ
自分の母親を、そして、自分自身をも捨てた相手を
恵は、平気で「父さん」と呼んできている
父親だと、そう、思ってくれているのだ
…恵から、すれば
いないはずの肉親が存在しただけで、嬉しく
肉親が生きていたという事実だけが嬉しいのだろう
父の顔も母の顔もわからなかった、恵にとっては
死んでしまった母親よりも、生きてくれている父親の方が、身近に感じられたのかもしれない
いないはずの肉親が存在しただけで、嬉しく
肉親が生きていたという事実だけが嬉しいのだろう
父の顔も母の顔もわからなかった、恵にとっては
死んでしまった母親よりも、生きてくれている父親の方が、身近に感じられたのかもしれない
だと、しても
「…………優しすぎる」
「……くけ?」
「……くけ?」
朝比奈の呟きが、聞えなかったのか
聞えたとしても、その意図が理解できなかったのか
恵が、首を傾げてきた
聞えたとしても、その意図が理解できなかったのか
恵が、首を傾げてきた
………そして
じ、と朝比奈を、見つめてきて
じ、と朝比奈を、見つめてきて
「……俺、は………あなたと、父と呼んで………いい、のか……?」
と、どこか、控えめに聞いてきて
何を、言っているのか
それは、こちらのセリフだ
私には、お前に父親と呼ばれる資格などないと言うのに
それでも、父と呼ぶというのか
それは、こちらのセリフだ
私には、お前に父親と呼ばれる資格などないと言うのに
それでも、父と呼ぶというのか
翼から、父親だと認識されているだけでも、己の身に余るほどの奇跡だと言うのに
この、幼く見える娘までもが、私を父親だと認識してくれると言うのか
この、幼く見える娘までもが、私を父親だと認識してくれると言うのか
「………?」
そっと……どこか、恐る恐る、と言った様子で、頭を撫でられて
恵は、また、小さく首を傾げた
恵は、また、小さく首を傾げた
「……呼びたければ、呼べばいい」
恵の問いかけに対し
そう、短く答えた、朝比奈の言葉に
恵は、どこか嬉しそうに笑って
そう、短く答えた、朝比奈の言葉に
恵は、どこか嬉しそうに笑って
その、笑顔に
己は、こんな優しい娘の母親を死に追いやったのだ、と
朝比奈は、己の罪深さを、改めて自覚させられたのだった
己は、こんな優しい娘の母親を死に追いやったのだ、と
朝比奈は、己の罪深さを、改めて自覚させられたのだった
fin