「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 悪意が嘲う-19

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だれでも歓迎! 編集
 過ぎた時間は戻らない
 時を巻き戻す事などできない

 それは、人間に許された領域ではない
 それは、神の領域

 そこまで踏み込む覚悟は出来ていたはずだった
 救えなかった彼女を、救う為に


 ………だが
 今の家族を捨ててまで、その領域に踏み込むつもりは
 今は、もう、ない




「…へぇ、さっきの子。あんたの隠し子かい」
「………そう言う事らしい」

 しゃりしゃ……り、しゃり、じゃり
 林檎の皮をむきつつ、若干、不機嫌そうに言ってきたマドカ
 秀雄は、そんな不機嫌そうな声にも、淡々と応じる

 恵と入れ替わりで、秀雄の見舞いに来たマドカ
 病室に入る時、すれ違った恵の事が気になったらしく
 いらない誤解を抱かれても困るので、秀雄は正直に真実を話したのだ
 ……まぁ、それでも、ある程度彼女が不機嫌になる事を阻止する事はできなかったようだが

「ちゃんと、その子に関しても責任取るんだよ?」
「………出来る限りの事はする」

 しゃ………っり、じゃりじゃり
 先ほどから、ちっとも一定のリズムを刻めていない、皮をむく音
 …相変わらずだ、と秀雄はぼんやりと、そんな事を考える

「…他に、あの子みたいな子は、いないだろうね?」
「…………いない」

 …そのような関係になった女性は、恵の母親と、マドカだけだ
 それ以外には、本当に、誰もいない

「…あの陰気な女とは、どうなんだい」
「……鳥井の事か?」
「他に、誰がいるってのさ」

 俯いているマドカ
 リンゴの皮をむく手は、何時の間にか止まっていた

「………彼女とは、そのような間柄には、なっていない」
「本当に?」
「あぁ」

 違う
 本当に、彼女とは、そのような間柄にはなっていなかった
 …確か、6年前にも、そのように説明したはずだったのだが…
 ……恐らく、きちんと聞いていなかったのだろう
 あの時のマドカは、相当激昂していたから

「……それじゃあ。どうして、あの女を傍に置いていたのさ」
「秘書として有能だったからだ。それと…」
「それと?」
「お前と違って、人を殺しかねない料理は作らなかった」
「どう言う意味だいっ!?」

 どう言う意味だ、と聞かれても
 その通りの意味なのだが

「翼も、彼女の料理は喜んで食べていたしな…数回程しか、その機会はなかったが」
「そりゃ、冷凍食品やレトルトよりは喜んで食べるだろうけど……って、あんた、あたしにゃ料理するなって言っておきながら…」
「育ち盛りの子供に、お前の料理は毒だ。冷凍食品やレトルトの方がまだマシだ」
「そこまで言うかいっ!?」

 …マドカの抗議に対して
 秀雄は小さくため息をつき、告げる

「………私はお前の手料理で、三日三晩寝込んだのだが?」
「うっ………」

 …どうやら、思い出したようである
 あの時は、まだ見た目がマシな料理であったはずなのだが……それ以降、練習したと言った彼女の料理は、見た目すらも酷くなる一方だった
 あれは、どう考えても、子供の発育に悪い
 場合によっては、命に関るかもしれない

 ……思えば、マドカは調理の際、味見をしているのだろうか
 いや、それ以前の問題のような気もするのだが

「……と、とにかく……あの陰気女とは、そう言う関係じゃあ……なかったんだね?」
「………あぁ」

 気まずくなったのか、視線をそらしたマドカに、改めて答える
 …そうかい、と短く呟いた声は、酷くほっとしているように見えた

「…結局………あたしが、勝手に勘違いしただけだった、って事かい」
「……私が、誤解を解く努力をしなかった、とも言うがな…………ある程度は、あの頃のお前へのあてつけもなかったわけではない」

 うぅ、とますます視線をそらしてくるマドカ
 …己の非は、感じているらしい

「………あたし、は。あんたの事が嫌いで、あぁしていたんじゃ、なくて………その……」
「…………」

 口ごもるマドカ
 静かに次の言葉を待つが、なかなか、切り出せずにいて

「…私の気でも、引こうとしたか」
「う、あ、そ、その」

 視線をそらした、その顔が
 かすかに赤みがかる

「~~~っそ、そうだよ!悪かったね!!」
「…何故、そこで怒る。そして、ここは病院だ。あまり大声は出すな」

 逆切れした様子のマドカに、秀雄は呆れたように小さくため息をついた
 マドカは、6年前と全く変わっていなかった
 強気な性格も、直情な面も、考え足らずな所も
 全て、あの頃のままだ


 そして
 あれだけ傷つけても、なお
 まだ、こちらを愛するというのか


「……なぁ」
「何だ」
「あんたは……これから、どうするんだい?」

 …これから
 この病院にも、そう長く入院している訳ではない
 「黄金伝説」のドラゴンを無理矢理引き剥がした反動や、無理な身体強化の反動の影響さえ消えれば、すぐにでも退院する
 そして、その後は………------

「……私がしでかした事の、始末をつける。私に残された時間で、どれだけ出来るかはわからないが…………罪を償う。それだけだ」
「……そうかい」

 ことん、と
 マドカが、リンゴを切っていたナイフを置いた
 かなり、歪な形に切られた…それも、身が大分皮についたままで、相当小さくなった…リンゴを皿に載せ、秀雄に渡しながら
 マドカがぽつり、告げる

「…あたしは、そのあんたの、傍にいても………いいのかい?」
「………お前が、付いて来る必要など、ないぞ」

 これは、自分の犯した罪だ
 マドカは、関係ない

 秀雄はそう考える
 だが

「必要があるとかないとか、そんなのじゃないんだよ……傍にいてもいいのか、って聞いてるのさ」
「…………勝手にすればいい」

 傍にいて欲しい、などと
 言える資格は、自分にはない
 自分が答えられる答えは、それしかない

「…そうかい……それじゃあ、勝手にさせてもらうよ」

 秀雄の答えに、そう言ってマドカは笑った
 彼女の笑顔を見たのは、酷く久しぶりで
 酷く、懐かしく感じて

 己の目的のために、彼女を選んだ
 ただ、それだけのはずだった

 ……それだけの、はずだったと言うのに
 この笑顔に、惹かれなかった訳では、なかったのだ
 思えば、その時点で
 過去にしがみ付く事をやめてさえいれば、彼女や翼を傷つけずにすんだのかもしれない

(…全ては後の祭り、か)

 過ぎ去った時間は戻らない
 己の罪が消えることはない

 ならば
 己に残された時間で、その罪を償う
 己に残された時間で、今度こそ……少しは、家族に対して、家族らしく接する事ができればいい
 秀雄は、表には出さず、そう考える

「………マドカ、お前は、翼とは………」
「…その事、なんだけど、ね」

 歪な形のリンゴに口をつけ始めた秀雄を見つめながら
 マドカは、かすかに表情を暗くする

「…今度、ね。会って、話す事にはなってるんだよ……糞爺と糞婆も一緒なんだけどさ」
「………自分の親をそう呼ぶ事はないだろう」
「い、いいんだよ。あたしの親の事は。とにかく、翼とは、今度、きちんと会って…話すんだけど、さ」

 マドカの顔に浮かぶのは、不安
 彼女らしからぬ、表情

「……あたしは、翼に、許してもらえるのかねぇ……?」
「………」

 しゃり、と
 ほぼ一口サイズのそのリンゴの切れ端を、飲み込んで

 …そっと、秀雄はマドカに手を伸ばした
 ぴくり、マドカの肩が、小さく震える

「…翼は、私でさえも許してきた。私のような、許されるはずもない存在を」
「…………」
「……お前が、向き合ったならば……翼は、それに答えてくれるはずだ。話し合う前から、結果を不安に思うなど、お前らしくもない」
「……そう、か」

 許されれば、いいんだけどね、と
 答える顔は、どこまでも不安そうで
 ……そんな彼女にどう言葉をかけてやればよいのか、秀雄には、わからなかった


to be … ?



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