「……ふぅ」
ぱたん、とノートパソコンを閉じる男
この暑い中、漆黒のスーツをまとうという、クールビズのご時世に真っ向から反抗しているような服装だ
男はサングラスを外し、軽く鼻の付け根辺りをマッサージする
…特に、新たな都市伝説の情報・なし
本部からの連絡・なし
昼下がりのオープンカフェにて、辺りで仕事している証券マンに混じって、彼は情報を模索していた
いつもの日課である
都市伝説を語り合う胡散臭い掲示板などのチェックやら、メールのチェックやら
意外と、こう言う場所で仕事をしてもバレないものである
かつては、人間であったせいだろうか
こうやって人間に混じり、仕事をする方が彼にとっては気が楽なのだ
この暑い中、漆黒のスーツをまとうという、クールビズのご時世に真っ向から反抗しているような服装だ
男はサングラスを外し、軽く鼻の付け根辺りをマッサージする
…特に、新たな都市伝説の情報・なし
本部からの連絡・なし
昼下がりのオープンカフェにて、辺りで仕事している証券マンに混じって、彼は情報を模索していた
いつもの日課である
都市伝説を語り合う胡散臭い掲示板などのチェックやら、メールのチェックやら
意外と、こう言う場所で仕事をしてもバレないものである
かつては、人間であったせいだろうか
こうやって人間に混じり、仕事をする方が彼にとっては気が楽なのだ
「……さて」
ノートパソコンをしまい、立ち上がる
…仕事を一段落したのは、収穫がなかったから、というだけではなく
…仕事を一段落したのは、収穫がなかったから、というだけではなく
……嫌な、視線を感じたのだ
なんとも、不吉な視線を
なんとも、不吉な視線を
「………」
注文していたアイスコーヒーの代金を支払い、彼は足早にこの場を立ち去る
周囲には、一般人が多数いる
それらを、巻き込んではいけない
自分に向けられている視線は、決して友好的なものではなく
高い確率で、戦闘が起こる可能性があった
派手な事をするべきではないのだ
組織的にも…彼個人の考えとしても、それは避けるべきだ
足早に進み、誘い込むように路地に入る
それらを、巻き込んではいけない
自分に向けられている視線は、決して友好的なものではなく
高い確率で、戦闘が起こる可能性があった
派手な事をするべきではないのだ
組織的にも…彼個人の考えとしても、それは避けるべきだ
足早に進み、誘い込むように路地に入る
「……さて」
誘いに、相手は乗ってきた
振り返り…おや、と彼は声をあげた
振り返り…おや、と彼は声をあげた
「…あなた、でしたか」
「いよぉ、久しぶりだな」
「いよぉ、久しぶりだな」
チャラチャラとした服装をした、金髪の、よく日焼けした若い青年
彼を追いかけていたのは、そんな青年だった
ニヤニヤと、何が面白いのか笑っている
彼を追いかけていたのは、そんな青年だった
ニヤニヤと、何が面白いのか笑っている
「何のご用でしょうか?」
「おいおい、わかってんだろぉ?」
「おいおい、わかってんだろぉ?」
かつかつと、青年は黒服に近づいてくる
やや警戒しつつも…黒服は、逃げようとはしない
…この青年は、顔見知りだった
都市伝説との、契約者
組織にスカウトした事がある相手だ…もっとも、断られたが
やや警戒しつつも…黒服は、逃げようとはしない
…この青年は、顔見知りだった
都市伝説との、契約者
組織にスカウトした事がある相手だ…もっとも、断られたが
「もしや、今度こそ、組織に協力してくださるので?」
そんな事はないだろう
そう思いつつ、問い掛ける
そう思いつつ、問い掛ける
「いいやぁ?」
答えは、予想通り、否定
それはそうだろう
この青年は、どうにも縛られる事を嫌うようだ
それはそうだろう
この青年は、どうにも縛られる事を嫌うようだ
「それでは、何のご用でしょうか?」
「…あの時とは、逆だ」
「…あの時とは、逆だ」
かつかつ
ゆっくり、近づいてくる青年
…黒服は、一歩、背後に下がる
敵意は、微かにある
だが、完全な敵意ではなく
…どう、対応したらいいものやら
万が一の時は、おのれが契約している都市伝説の力で逃亡する事も考慮に入れておく
相手は、決して無差別殺人などをするタイプではないが…いざとなれば、周囲の事など考えず、契約している都市伝説の能力を使うことだろう
ゆっくり、近づいてくる青年
…黒服は、一歩、背後に下がる
敵意は、微かにある
だが、完全な敵意ではなく
…どう、対応したらいいものやら
万が一の時は、おのれが契約している都市伝説の力で逃亡する事も考慮に入れておく
相手は、決して無差別殺人などをするタイプではないが…いざとなれば、周囲の事など考えず、契約している都市伝説の能力を使うことだろう
「逆さぁ、あの時とはな」
「……?…………っ!?」
「……?…………っ!?」
っとん、と
壁際に、追い詰められた
かつかつかつかつかつ
青年は、ゆっくり、ゆっくり、黒服に近づいてきて…
ぐ、と間近で顔を覗き込んでくる
壁際に、追い詰められた
かつかつかつかつかつ
青年は、ゆっくり、ゆっくり、黒服に近づいてきて…
ぐ、と間近で顔を覗き込んでくる
「…お前も、来いよ。将門様の元に」
「………!」
「………!」
将門
まさか
まさか
「…ッ首塚の下に、下ったのですか」
「あぁ。あんたら組織と違って、縛りが緩いしなぁ」
「あぁ。あんたら組織と違って、縛りが緩いしなぁ」
ニヤニヤと、楽しそうに青年は笑っている
…よりによって、首塚の下とは!
…よりによって、首塚の下とは!
「…将門とあろう者が、あなたのような不真面目な人間まで部下にするとは…」
「おいおい、あんただって、最初俺をスカウトしてきただろぉ?」
「組織としては、あなたのように強力な都市伝説と契約している人間は、是非にとも管理下におきたいようですから」
「おいおい、あんただって、最初俺をスカウトしてきただろぉ?」
「組織としては、あなたのように強力な都市伝説と契約している人間は、是非にとも管理下におきたいようですから」
ケラケラと青年は笑っている
ばん!と、黒服が背にしている壁に手をついてきた
ばん!と、黒服が背にしている壁に手をついてきた
「強力か。そいつぁ嬉しいねぇ。そんなに強力かい?俺の契約している都市伝説はよぉ」
「…強力ですよ。あなたは、自在に他人を焼き殺せるのですからね」
「…強力ですよ。あなたは、自在に他人を焼き殺せるのですからね」
…日焼けマシンで人間ステーキ
これが、この青年の契約している都市伝説
黒服が、組織より先んじて、この青年が都市伝説と契約している事に気付き、スカウトした
…しかし、断られた
かたっ苦しいことは嫌いだと、断られたのだ
これが、この青年の契約している都市伝説
黒服が、組織より先んじて、この青年が都市伝説と契約している事に気付き、スカウトした
…しかし、断られた
かたっ苦しいことは嫌いだと、断られたのだ
黒服は、無理には青年を組織に引きこまなかった
当時の青年は、まだ未成年だったのだ
未成年に汚い仕事をさせたくない、という個人的感情が動いてしまったのだ
その代わり、ヘタに他人を襲うんじゃないと警告し…組織に、青年の存在もあかさなかった
それが、裏目に出てしまうとは…!
当時の青年は、まだ未成年だったのだ
未成年に汚い仕事をさせたくない、という個人的感情が動いてしまったのだ
その代わり、ヘタに他人を襲うんじゃないと警告し…組織に、青年の存在もあかさなかった
それが、裏目に出てしまうとは…!
「…組織に、恨みでも?」
「いいやぁ?ないさ。でも、あんた、教えてくれただろう? …組織に消されないよう気をつけろ、ってさ。自衛だよ。じえー」
「いいやぁ?ないさ。でも、あんた、教えてくれただろう? …組織に消されないよう気をつけろ、ってさ。自衛だよ。じえー」
…自分がとった行動が、どこまでも裏目に出ていたようだ
黒服は、小さくため息をついた
黒服は、小さくため息をついた
…いや、むしろ
良かった、と思うべきか
彼はこれで…「組織」の脅威から、身を護る手段が増えたのだから
良かった、と思うべきか
彼はこれで…「組織」の脅威から、身を護る手段が増えたのだから
「っ!?」
ぐ、と
青年は、黒服のネクタイに手を伸ばすと、ぐい、と無造作に引っ張ってきた
首を絞められるような感覚に、黒服は眉をひそめる
青年は、黒服のネクタイに手を伸ばすと、ぐい、と無造作に引っ張ってきた
首を絞められるような感覚に、黒服は眉をひそめる
「…やめていただきたいのですが」
「あんたは、俺に警告してくれた。見逃してくれたよなぁ? それを感謝して、こっちの組織にスカウトしてやるよ」
「あんたは、俺に警告してくれた。見逃してくれたよなぁ? それを感謝して、こっちの組織にスカウトしてやるよ」
恩着せがましく言って、青年は笑ってくる
…ふと、不真面目な表情が、一瞬だけ真面目になった
…ふと、不真面目な表情が、一瞬だけ真面目になった
「来いよ。あんただって、組織に不満は持ってんだろ?」
「…………」
「…………」
…黒服は、答えない
サングラスの下から、じっと、青年を見つめ返す
静かに、静かに
永遠とも思えるような時間が、流れる
いい加減、青年が焦れてきた、その時
サングラスの下から、じっと、青年を見つめ返す
静かに、静かに
永遠とも思えるような時間が、流れる
いい加減、青年が焦れてきた、その時
「きゃああああああああ!!!」
…青年の、後方から
悲鳴が、聞こえてきた
何事か
黒服は、それを確認しようとしたが…青年が、それを許さない
答えを出すまでは逃がさない、と言わんばかりに、ネクタイをひっぱり、黒服を真正面から見つめ続け…
悲鳴が、聞こえてきた
何事か
黒服は、それを確認しようとしたが…青年が、それを許さない
答えを出すまでは逃がさない、と言わんばかりに、ネクタイをひっぱり、黒服を真正面から見つめ続け…
「ねぇ、見てみて!!アレ、何か妖しくない?」
「きゃあ、本当!生BLよ、生BL!!」
「チャラ男と生真面目スーツ!!萌え!!!萌えだわっ!!!」
「写メ!写メとらなきゃ!!」
「きゃあ、本当!生BLよ、生BL!!」
「チャラ男と生真面目スーツ!!萌え!!!萌えだわっ!!!」
「写メ!写メとらなきゃ!!」
………
何とも
何とも、精神衛生上よろしくない会話が、聞こえてきたような
何とも
何とも、精神衛生上よろしくない会話が、聞こえてきたような
「…何だ、あの女共」
「恐らくは、腐女子などと呼ばれる女性たちかと。 個体毎に違いはありますが、非常に旺盛な想像力・妄想力を所持しています。タチの悪さで言いますと、ヘタな都市伝説より上です」
「恐らくは、腐女子などと呼ばれる女性たちかと。 個体毎に違いはありますが、非常に旺盛な想像力・妄想力を所持しています。タチの悪さで言いますと、ヘタな都市伝説より上です」
きゃあきゃあきゃあ
こちらの会話など、距離からして、耳に入っていないだろう
少女たちは、きゃいきゃい、こちらを見て妄想を膨らませているようで
こちらの会話など、距離からして、耳に入っていないだろう
少女たちは、きゃいきゃい、こちらを見て妄想を膨らませているようで
「………っち」
パっ、と
青年は、黒服のネクタイから手を放した
そして、ずんずんずん
少女たちに近づいていっている
青年は、黒服のネクタイから手を放した
そして、ずんずんずん
少女たちに近づいていっている
「おらぁっ!!見せもんじゃねぇぞ!!携帯かせやっ!!その写メ消しやがれっ!!俺はボインの姉ちゃん以外にゃ興味ねぇっ!!」
きゃあ、ツンデレよツンデレ~!などと言いつつ、少女たちはきゃあきゃあと散らばっていっている
黒服は、乱れたスーツを直し…ほっとしたように、息を吐く
ただの…いや、彼女たちを普通の人間と呼んでいいものかどうかは若干悩むのだが…に、救われるとは
すたすたと、黒服は青年の横を通り過ぎ、立ち去ろうとする
黒服は、乱れたスーツを直し…ほっとしたように、息を吐く
ただの…いや、彼女たちを普通の人間と呼んでいいものかどうかは若干悩むのだが…に、救われるとは
すたすたと、黒服は青年の横を通り過ぎ、立ち去ろうとする
「っ待てよ!」
「お気使い、ありがとうございます……しかし、私は組織を離れるつもりはありません」
「お気使い、ありがとうございます……しかし、私は組織を離れるつもりはありません」
小さく、自嘲気味に笑う
…組織を離れる?
そんな事、できるものか
…組織を離れる?
そんな事、できるものか
「私は黒服。黒服と言う都市伝説。所詮は組織の歯車にしかすぎないのです……組織を離れて、私が生き続けられるとでも?」
「………!」
「………!」
黒服の言葉に、ハっとしたような表情を浮かべる青年
ぺこり、黒服は青年に頭を下げた
ぺこり、黒服は青年に頭を下げた
「さようなら。願わくば、あたなと敵対する事がない事を祈りますよ」
そう言って、黒服は青年から離れていく
…気付いていない
青年が、心の底から、悔しそうな表情をしているのを
…気付いていない
青年が、心の底から、悔しそうな表情をしているのを
「……舐めるなよ。俺は、あんたと違ってしつこいんだ………必ず、あんたをこっちのものにしてやる」
その言葉は、黒服には届かずに
黒服は、雑沓の中へと、姿を消していったのだった
黒服は、雑沓の中へと、姿を消していったのだった
「きゃあ、略奪愛の予感よ!」
「素敵だわ!冬の新刊はチャラ男×真面目スーツで決まりだわ!!」
「素敵だわ!冬の新刊はチャラ男×真面目スーツで決まりだわ!!」
きゃいきゃいきゃい
そんな少女たちの無邪気な勘違いの声に
青年は、再び少女たちに怒鳴り込んでいくのだった
そんな少女たちの無邪気な勘違いの声に
青年は、再び少女たちに怒鳴り込んでいくのだった
fin