「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - とある組織の構成員の憂鬱-11

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だれでも歓迎! 編集
  何故諦めてしまうのですか まだ、抗えるでしょう
  何故諦めてしまうのですか まだ、方法はあるでしょう

  そんなに簡単に諦めてしまっているようでは
  私たちの世界になど、踏み込むことはできません





                    Red Cape





 …嫌な天気だ、と思う
 じわり、纏わりつくような暑さ
 空は分厚い雲に覆われ、星明りも月明かりも届かない

「…それで。今回のターゲットは、どんな奴だっけ?」

 コーラのペットボトルを弄びつつ、青年が尋ねてくる
 …いつもの、仕事だ
 あんな事があった後でも、組織の仕事は容赦なく舞い込んでくる
 組織の歯車に過ぎない自分は、その仕事をこなすしかないのだ

「マッド・ガッサーです。どんな都市伝説かご存知ですか?」
「家に無断侵入してガス撒き散らすテロリストだっけ?」
「………大方、間違っていないので良しとしましょう」

 ジェラルミンの鞄から、それを取り出す
 蓋を開けると…独特の、あのにおいが漂い
 青年は、若干嫌そうに距離をとる

「逃げないでください。不意打ちで毒ガスを受けたら大変でしょう」
「そうだけど……それ、正露丸?」
「はい。正露丸と言うか、征露丸ですが」

 先に飲んでおきなさい、と一粒取り出すと
 青年は息を止め、一気に飲み込んだ
 きゅぽ!とコーラの蓋をあけ、飲み込む

「…実際の正露丸はコーラと一緒に飲んではいけませんよ」
「わかっているよ」

 むぅ、と青年は子供のような、少し拗ねたような表情を浮かべた
 ペットボトルのコーラの中身は…減っていない
 既に、能力は発動中なのかもしれない

「さっさと見つけて、片付けちゃおうね」

 一度ペットボトルに蓋をして、青年はまたペットボトルを弄びはじめた
 それは、同感ではある
 次の犠牲者が現れる前に、早く始末するべきだ
 暗い夜道、二人はマッドガッサーの出現ポイントを探り

「………?」

 …ふと
 不快な匂いが漂ってきた
 青年が、微かに眉をひそめる

「…何、この匂い?肉を焼く匂いにしては、嫌な匂いだけど…」
「……確かに、肉を焼く匂いではありますね」

 そう、それは間違っていない
 ただし

「焼かれているのは、食用に適さない、人間に似た者を焼いている匂いと思われますが」

 よろりっ
 前方の十字路から、ぶすぶすと煙をあげながら、人影が姿を現した
 黒い服と、唾のない黒いピッタリとした帽子…を、纏っていたのだろう 
 ただし、どこからが服でどこからが帽子なのかわからないほどに、それは黒くこげていた
 背中には、安っぽい映画の小道具のような小さなタンクを背負っている

 …マッドガッサー
 自分たちのターゲット、そのものだ

 ばたり、マッドガッサーだったものは倒れこみ…そのまま、静かに消えていく
 存在していた証すら残さずに、この世に存在していた事すら、拒絶するように

「…仕事、終わっちゃった?」
「本来の仕事は…ですが」

 …嫌な予感がする
 こんな死体を作り上げられる者が、一人知り合いにいるから

「…おぉ?」

 ……あぁ
 嫌な予感は、何故当たる

「いよぉ、また会ったなぁ」

 マッドガッサーが出てきた道
 そこから現れたのは…つい最近も顔を合わせたばかりの、日焼けマシンの契約者だった

「知り合い?」
「まぁ、知り合いではありますね」

 首を傾げてきた青年に、黒服は頷いた
 こちらの様子に、日焼けマシンの契約者は笑いながら言ってくる

「何だよ、嫌そうな顔して。そんな仲でもねぇだろぉ?」
「どんな仲だと言うのですか。ただの知り合い以外の何者でもないでしょう」
「んっだよ!冷てぇな。俺らは、もっとふか~~~い縁で繋がってるだろ?」

 ニヤニヤと笑っている日焼けマシンの契約者
 …青年は、黒服と日焼けマシンの契約者の会話を聞いて
 にっこり、黒服に告げる

「もうちょっと、知り合いは選んだ方がいいんじゃないかな?」
「私もそう思います」
「何だよ!!俺なんかより、そっちの優男の方がいいってのか!」

 がっ!と不満そうに怒鳴ってきた日焼けマシンの契約者
 にこりと、青年は日焼けマシンの契約者にも告げる

「え~、僕、兄さん以外どうでもいいんだけど」
「相手にするんじゃありません。若干頭が足りないところが移ります」

 軽い頭痛を覚える
 まったく、どうして自分が関わるこの位の年頃の青年には、性格その他に若干の問題を抱えた者が多いのだ

「それよりも…お尋ねして、よろしいですか?」
「おぉ、何だ?」

 話題を振られ、日焼けマシンの契約者は嬉しそうに笑った
 …あまり、嬉しそうに答えられても困る話題なのだが

「マッドガッサーを倒したのは、あなたですね?」
「おぅよ!!」

 自慢げに、胸を張ってくる日焼けマシンの契約者
 少し、誇らしげですらある

「マッドガッサーで、悪党野郎だろ?女や子供のいる家ばっかり狙う外道だぜ?そんな外道は容赦なく殺していいって、将門様も言ってたからな!」
「…正義感で動いたとでも言うのですか」

 そうだ、と日焼けマシンの契約者は笑う
 一変の迷いもない、清々しい笑顔だ

「そっちの組織みたく、世界のバランスとか、んなこたぁどうでもいいんだよ!悪い奴は退治する!当たり前だろ?」
「君たち組織は、悪人じゃないのかな?」

 小首を傾げる青年
 …何時の間にか、コーラのペットボトルの蓋は空いている
 いつでも、攻撃できる態勢か

「あ~ん?将門様は悪人なんかじゃないぜ?当時の傲慢な貴族野郎ともに反抗した英雄様さ!首塚の呪いとか言うけどよ、無差別に呪ってるわけでもないんだぜ?」

 …それは、一理ないとも言い切れない
 平将門は、当時の権力者たちに反抗し、しかし、部下の裏切りより倒れた悲劇の英雄と言う見かたもある
 呪いの話などは、元々は当時の権力者たちの将門への恐怖から生まれたようなものだ

 しかし、噂され、信じられたために、将門の呪いは生まれた
 その呪いは生き続け、現代では首塚の呪いとなっている
 己の安らかな眠りを乱す者を祟る、かつての英雄の呪い
 すなわち、手を出さなければ無害そのもの
 ……それが、首塚の呪いの本質なのだ

「将門が悪人であるとは、言っていませんよ…その将門の部下。すなわち、あなたの同僚に悪人がいないか、ということです」
「……うん?」

 黒服に、指摘され
 若干、日焼けマシンの契約者は悩んでいるようだ
 …心当たりでもあるのだろうか

「あ~、確かにな。縛り緩いのがいい事に、好き勝手やってんのもいるかもな。将門様の望みは、あくまでも組織をぶっつぶす、って事だけなのに…まぁ、将門様が直接スカウトした中には、そんな野郎いないはずだがな。将門様が、そんな奴を仲間に選ぶはずがねぇ」
「………でしたら」

 鋭く、日焼けマシンの青年を睨みつける
 …彼でなければいい、と思いながら

「ルーモアという喫茶を、あなたは知っていますか?」
「……るーもあ?」

 何だ、それ?と言うように、日焼けマシンの契約者は首をかしげる
 ちらり、青年が、こちらの表情を窺うように視線を向けてくる
 嘘、ではないだろう
 日焼けマシンの契約者は、嘘をつくようなタイプではない
 …嘘をつけるだけの頭がない、とは言わないでおいてやろう、今は

「我々組織の人間、及び、無関係の都市伝説が多数利用していた喫茶店です…首塚組織に所属していると思わしき何者かが、タチの悪い都市伝説の契約者に場所を教えました………結果として、そこを経営していた人間が、殺害されました」
「な……!?」

 日焼けマシンの契約者の顔色が変わる
 こちらが言わんとしている事が、わかったのだろう

「少なくとも、俺じゃないぜ!?」
「わかっていますよ。先程の反応で」

 ほ、と息を吐く日焼けマシンの契約者
 しかし、その表情に、嫌悪の色が浮かぶ

「ったく、誰だよ、んなタチの悪ぃ契約者に、そんな居心地よさそうな場所を教えたのは…!」
「まったくですね。かなり、タチの悪い契約者ですよ。我々の組織のブラックリストにも名を連ねています。言い表すならば、都市伝説相手の強制わいせつ罪及び殺人罪が存在するならば、確実に有罪です」

 黒服が連ねたその言葉に、日焼けマシンの契約者はますます嫌悪の表情を浮かべる

「…おい、そいつ、まだ生きてんのか?」
「死亡は確認されていません」
「見付かったら、確実にデストローイ、だろうけどね」

 軽い調子で、青年がそう言う
 その通りである
 恐らく、彼は見付かり次第、始末されるだろう
 もっとも…多数方面から恨みを買っていそうな男である
 組織が見つけなくても…他の誰かに、殺されるかもしれないが

「おい、そいつ見つけたら、俺にも教えろ。そんな外道殺すこと、きっと将門様も奨励してくれるだろうよ」

 はっきりとした敵意、嫌悪感
 恐らく、日焼けマシンの契約者がそれを抱いているのは、ルーモアのマスターを殺害した契約者に対してだけではなく……ルーモアを、その契約者に教えた誰かに対しても、抱いている
 自分の所属している組織にそんな者が存在する事が、許せないのかもしれない
 …妙な所で、正義感のある若者である
 むしろ、正義感で言ったら、この青年よりずっと上かもしれない

「どうかしたの?」
「……いえ」

 にこにこ微笑んでくる青年に、頭痛を覚える
 …本当に、やっかいな者のお守を任せられたものだ
 日焼けマシンの契約者に向き直り、黒服は尋ねる

「…信用しても、よろしいので?」
「あぁ、もちろん!水臭い事言うなよ。俺とお前の仲だろ?」
「……ただの知り合い以外の何者でもないのですが。あなたに人を騙す脳がないと信じましょうか」

 一応、日焼けマシンの契約者の正義感を信じるとしようか
 ……相手は、強敵である事は事実
 戦力は多いに越したことはないのだ

「よし!んじゃあ、携帯の番号を」
「あ、教えていただく必要はありません。その場合は、黒服の権限により、あなたの携帯番号を把握させていただきます」

 嬉しそうに携帯電話を取り出してきた日焼けマシンの契約者に、ばっさりと言い切る
 黒服組織に所属する都市伝説黒服には、都市伝説の契約者との接触をスムーズにする為、その携帯番号や現住所を調べ上げる能力が備わっている
 個人差はあれど、この黒服はその能力はそれなりに高いつもりではあった
 …もっとも、その能力をもってしても、夢の国の所在など、把握できない事が多いのも事実だが

「よって、携帯番号を交換する必要性はありません」
「………っち」

 舌打ちして、携帯をしまう日焼けマシンの契約者
 …どさくさに紛れて、こちらの携帯番号を手に入れるつもりだったな

「やっぱり、知り合いは選んだ方がいいと思うな」
「……まったくです」

 はぁ、とため息をつく
 …青年は、自分自身も、その選んだ方がいいといわれる知り合いの類である自覚がないようである

「あ、そうだ、君」
「んだよ」

 にこにこと、青年が日焼けマシンの契約者に向き直る
 …若干の、嫌な予感が

「あのね、面倒な敵を始末してくれたのは、とっても嬉しいな…でもね。僕、それに対抗する為に、すごく嫌な物を飲まされたんだよね」

 ぼこ、と
 蓋が開けられたままのコーラのペットボトルから、コーラが湧き出す

「つまり、そのすっごく嫌な物を飲まされたのが、無駄になったんだけど。どうしてくれるのかな?」
「へ?」

 ぼこぼこぼこぼこぼこっ!!
 溢れ出すコーラは止まらない!!

「ちょっと、僕の気晴らしになってね」
「んなっ!?」

 ばしゃぁん!!と
 襲い掛かるコーラの渦を、日焼けマシンの青年は慌てて避けた
 …っじゅ!!と、コーラのかかった標識が溶ける!!

「お、おいこらっ!?お前、組織の人間なんだろ!?んな勝手な事していいのかよ!?」
「いいよね?」

 にっこり、と
 青年は、まるで、子供が母親に伺いをたてるように、笑いながら首を傾げてきた
 …これで全てが許されるとでも思っているのだろうか

「構いませんよ。ただし、殺さないように」
「うん、ありがとう」
「っちょ、おま!?」

 ごぽごぽごぽごぽごぽっ!!
 コーラはまるで生き物のように、日焼けマシンの契約者に襲い掛かる
 慌てて避ける日焼けマシンの契約者を追いかけ、くすくすと青年は笑っている
 殺気の篭った攻撃ではない
 本気で殺すつもりはないのだ
 あくまで、相手を怖がらせて楽しんでいるだけ
 だから、許したのだ
 殺したり危害を加えるつもりであったならば、許可はしない

「っちょ、助けてくれよ!?俺、あんたに見捨てられたら生きていけねぇよ!?」
「見捨ててはいません。ただ、手を差し伸べないだけです」
「っちょ!!??」

 深夜の住宅街に、悲鳴があがる
 …どちらにせよ、道路標識やら塀やら道が溶けている後始末は自分がしなければいけないな、と
 黒服は、胃痛と頭痛を同時に覚えたのだった



 ……一時間程後

「…あ~、ちっくしょぉ」

 よれっ
 疲れきってよれよれになりながら、日焼けマシンの契約者は帰路に付いていた
 …何だ、あの溶けるコーラらしきものとの契約者
 何だ、あの鬼畜どSは
 なんであんな野郎があの黒服の傍にいて、自分はいられないのだ

 生まれて初めて、自分を心配してくれたあの黒服 
 どうしても、首塚組織に引き込みたい
 その為に、色々と努力していると言うのに

 …どこのどいつだ!
 喫茶ルーモアとやらの場所を、タチの悪い都市伝説の契約者に教えやがったのは!?

「ちっくしょう。必ず見つけ出してやる…!」

 そんな奴、きっと将門様も許さない
 将門様の現在の目標は、あくまでも組織なのだ 
 組織以外に危害を加えるなど…首塚に危害を、害を与えた者以外に危害を与えるようなことなど許さないだろう
 首塚組織の規律は緩い
 その数少ない規律は……首塚の、平将門の信念は、絶対である
 ならば、その信念に反する事をした奴がどうなろうと、将門様は気にしないだろう
 できれば自分で始末したいと思うかもしれないが、いっそ、組織に始末されても構わないかもしれない

 さぁ、忙しくなるぞ
 チャラチャラと身につけているシルバーアクセサリーを鳴らしながら、日焼けマシンの契約者は深夜の住宅街に消えていったのだった






 貴方の目的は何ですか?
 貴方の信念は何ですか?
 貴方の意味は何ですか?

 目的もなく
 信念もなく
 意味もないのだとしたら

 貴方は、何の為に都市伝説に関わるのですか?





                      Black Suit D







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